【文献】
李 建哲、他,“論文 石灰石微粉末および鉱物質混和材を混合使用したコンクリートの特性に関する研究”,コンクリート工学年次論文集,日本,2007年,Vol.29, No.1,p.225-230
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
セメント産業は、温室効果ガスである二酸化炭素を排出する産業である。二酸化炭素排出量の削減は重要な課題である。この二酸化炭素は、セメントの中間製品であるクリンカーを製造する工程で原料を焼成した際に、原料である石灰石の化学反応によって発生する。二酸化炭素は、セメントクリンカーを製造する限り排出するものである。
【0003】
二酸化炭素の排出量の削減が望まれている状況下において、普通ポルトランドセメントは、セメント組成物中にクリンカーを95質量%程度含む。普通ポルトランドセメントに対して、混合セメントは、高炉スラグや石炭灰(フライアッシュ)等の混和材を混合させるため、セメント組成物中に含まれるクリンカーの比率を引き下げることができる。したがって、混合セメントが普通ポルトランドセメントと同等の性能を維持できれば、混合セメントの製造によって二酸化炭素の削減に寄与させることができる。
【0004】
普通ポルトランドセメント等のセメント組成物に求められる性能の1つは、セメント組成物を使用したコンクリート等の硬化体の強度発現性である。硬化体の強度発現性を得るために、粉末度の細かい(ブレーン比表面積の大きい)石灰石又は高炉スラグを使用したセメント組成物が提案されている。例えば、特許文献1には、軟弱地盤改良硬化剤として、普通ポルトランドセメントと、粉末度を細かくした特定のブレーン比表面積を有する高炉スラグ微粉末及び石灰石微粉末とを含む、硬化材組成物が記載されている。また、特許文献2には、特定のブレーン比表面積となるように粉砕されたセメント粉末と、粉末度を細かくした特定のブレーン比表面積を有する石灰石粉末及び/又はスラグ粉末を含む、セメント組成物が記載されている。
【0005】
混合セメントの一種として、特許文献3には、高炉スラグ又はフライアッシュの一種を含むセメントと、特定量の塩素バイパスダストとを含むセメント組成物が記載されている。
【0006】
強度発現性と関連して、セメント組成物の性能の1つとして水和熱が挙げられる。セメント組成物の水和熱は、セメント組成物に含まれる成分と水とが反応して水和物を生成する際の発熱である。一般的に、セメント組成物は、水和物の生成量が多くなるにつれて、モルタル又はコンクリートの強度が上昇するが、それと同時にセメント組成物と水との反応に伴う水和熱も増大する。言い換えれば、モルタル及びコンクリートの強度発現性が向上すると、セメント組成物の水和熱が増加するのが一般的な傾向である。
【0007】
セメント組成物の水和発熱量が増加すると、モルタルやコンクリートを断熱状態で養生した際に測定される断熱温度上昇量も増加する。断熱温度上昇量は、モルタルやコンクリートを断熱状態(外部への熱の逸散がない状態)で養生して測定される。断熱温度上昇量が増加すると、モルタルやコンクリートは内部と外部との温度差が大きくなる。このため、モルタルやコンクリートの断熱温度上昇量の増加は、温度ひび割れを誘因する場合がある。非特許文献1の土木学会のコンクリート標準示方書では、コンクリートの断熱温度上昇特性を、下記式(I)で表すことが提案されている。
Q(t)=Q
∞(1−exp(γ(t−t
0))) (I)
上記式中、Q(t)は断熱温度上昇量(℃)を示し、Q
∞は終局の断熱温度上昇量(℃)を示し、tは材齢(日)を示し、t
0は発熱開始材齢(日)を示し、γは断熱温度上昇速度に関する定数を示す。
【0008】
また、非特許文献2には、モルタルの断熱温度上昇特性を予測する方法が提案されている(非特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1及び2に記載の硬化材組成物又はセメント組成物は、粉末度の細かい(ブレーン比表面積の大きい)石灰石、高炉スラグ又はセメント粉末を使用するため、組成物の製造工程において、粉末度を細かくするための粉砕エネルギーが発生し、エネルギーが増量する。粉砕エネルギーの増加は、二酸化炭素発生量の増加に繋がり、二酸化炭素発生量の削減に反し、環境面において好ましいことではない。
【0012】
また、コンクリート等の断熱温度上昇特性の評価は多大な労力を要し、セメント組成物の各成分と断熱温度上昇特性との関係は十分に解明されていないのが実情である。例えば特許文献1又は3には、セメント組成物を用いた硬化物の断熱温度上昇特性に関しては記載されていない。強度発現性と水和熱の一般的な関係を考慮すると、硬化体の強度が増加又は維持されている場合には、水和熱も増加又は維持されていると考えるのが一般的である。特許文献2には、特定のブレーン比表面積を有する石灰石微粉末及びスラグ粉末と、特定のブレーン比表面積を有するセメント粉末とを含むセメント組成物の終局断熱温度上昇量は記載されている。
【0013】
本発明は、製造工程における二酸化炭素排出量を削減し、強度発現性を維持・向上させつつ、断熱温度上昇量を抑制させ得る、石灰石及び高炉スラグを含み、塩化物イオン量調整のための塩素バイパスダストを含んでいてもよい、セメント組成物及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を達成すべく鋭意検討した結果、モルタル、コンクリートの強度発現性を維持・向上させ、断熱温度上昇量を抑制させるためには、セメント組成物中の混合材(石灰石と高炉スラグの合量)が適正な量であり、混合材(石灰石及び高炉スラグ)に占める石灰石と高炉スラグが適正な質量比であることが有効であり、更に適正量の塩化物イオンを含むことが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
〔1〕セメントクリンカーと、石膏と、石灰石と、高炉スラグとを含むセメント組成物であって、セメント組成物の全質量を基準として、石灰石量が1〜8質量%、高炉スラグ量が12質量%以上39質量%以下、石灰石と高炉スラグの合量が20質量%以上40質量%以下、塩化物イオン量が0.02〜0.1質量%であることを特徴とするセメント組成物に関する。
〔2〕石灰石と高炉スラグの質量比が1:40〜2:3である、〔1〕記載のセメント組成物に関する。
〔3〕セメント組成物の全質量を基準として、SO
3量が1.6〜2.5質量%である、〔1〕又は〔2〕記載のセメント組成物に関する。
〔4〕セメントの全質量を基準として、セメントクリンカー量が55〜80質量%である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のセメント組成物に関する。
〔5〕セメントクリンカーが、ボーグ式換算で、C
3S量が45〜80質量%、C
2S量が5〜25質量%、C
3A量が6〜15質量%、及びC
4AF量が7〜15質量%である、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のセメント組成物に関する。
〔6〕更に塩素バイパスダストを含む、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のセメント組成物に関する。
〔7〕セメント組成物中に含まれる塩素バイパスダストに由来する塩化物イオン量が0.01〜0.09質量%である、〔6〕記載のセメント組成物に関する。
〔8〕セメントの全質量を基準として、塩素バイパスダスト量が0.05〜5質量%である、〔6〕又は〔7〕記載のセメント組成物に関する。
〔9〕セメント組成物のブレーン比表面積が3000〜4500cm
2/gである、〔1〕〜〔8〕にいずれかに記載のセメント組成物に関する。
〔10〕セメント組成物の全質量を基準として、石灰石が1〜8質量%、高炉スラグが12質量%以上39質量%以下、石灰石と高炉スラグの合量が20質量%以上40質量%以下、塩化物イオン量が0.02〜0.1質量%となるように、セメントクリンカー、石膏、石灰石、高炉スラグ及び塩素バイパスダストを混合粉砕する工程を含み、塩素バイパスダスト中の塩化物イオン量が2〜35質量%である、セメント組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、製造工程における二酸化炭素(CO
2)発出量を削減し、モルタル又はコンクリート等の硬化体の強度発現性を維持又は向上させつつ、断熱温度上昇量を抑制させ得るセメント組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0019】
本実施形態に係るセメント組成物は、セメントクリンカーと、石膏と、石灰石と、高炉スラグとを含み、塩化物イオン量調整のための塩素バイパスダストを含んでいてもよいセメント組成物である。本実施形態に係るセメント組成物は、セメント組成物の全質量を基準として、石灰石量が1〜8質量%、高炉スラグ量が12質量%以上39質量%以下、石灰石と高炉スラグの合量が20質量%以上40質量%以下、塩化物イオン量が0.02〜0.1質量%である。
【0020】
セメント組成物を製造する方法は、セメントクリンカーと、石膏と、石灰石と、高炉スラグと、必要に応じて塩素バイパスダストを混合して粉砕する方法が挙げられる。セメント組成物を製造する方法において、「混合粉砕する工程」とは、セメント組成物を構成する各成分を混合した後に粉砕する工程、混合と同時に粉砕する工程、粉砕した後に混合する工程を含む。セメント組成物を製造する方法は、セメントクリンカーと、石膏と、高炉スラグと、必要に応じて塩素バイパスダストを混合して粉砕した後に、あらかじめ粉砕した石灰石微粉末を混合する方法、セメントクリンカーと、石灰石と、石膏と、必要に応じて塩素バイパスダストを混合して粉砕した後に、あらかじめ粉砕した高炉スラグ粉を混合する方法、セメントクリンカーと、石膏と、必要に応じて塩素バイパスダストを混合して粉砕した後に、あらかじめ粉砕した高炉スラグ粉と石灰石微粉末を混合する方法が挙げられる。セメント組成物を製造する工程において、セメント組成物を構成する成分のうち、セメントクリンカーとともに混合して粉砕した後、あらかじめ粉砕した成分を混合することを「後混合」という。
【0021】
セメントクリンカーの製造は、SP方式(多段サイクロン予熱方式)又はNSP方式(仮焼炉を併設した多段サイクロン予熱方式)等の既存のセメント製造設備を用いて製造することができる。
【0022】
セメント組成物の製造方法は、セメント組成物の全質量を基準として、石灰石量が1〜8質量%、高炉スラグが12質量%以上39質量%以下、石灰石と高炉スラグの合量が20質量%以上40質量%以下、塩化物イオン量が0.02〜0.1質量%となるように、セメントクリンカー、石膏、石灰石、高炉スラグ及び塩素バイパスダストを混合粉砕する工程を含み、塩素バイパスダスト中の塩化物イオン量が2〜35質量%である。
【0023】
以下に、セメント組成物の製造方法の一実施形態を記載する。
セメント組成物の製造方法としては、まずセメントクリンカーを直径5mm以下となるようにジョークラッシャーにて粉砕し、粉砕したセメントクリンカー、石膏、石灰石、高炉スラグ及び必要に応じて塩化物イオン量を調整するための塩化物イオン量が2〜35質量%の塩素バイパスダストを、セメント組成物の全質量を基準として、石灰石と高炉スラグの合量が20質量%以上40質量%以下となるように、試験ボールミルに投入し、試験ボールミルによって所望のブレーン比表面積となるように混合粉砕する。粉砕機に投入する順序は、限定されない。また、所望のブレーン比表面積となるように粉砕ができれば、粉砕機の種類は限定されない。
【0024】
セメントクリンカーの鉱物組成は、ボーグ式算定のC
3S量が、好ましくは45〜80質量%であり、より好ましくはC
3S量が47〜75質量%であり、更に好ましくはC
3S量が49〜72質量%であり、特に好ましくはC
3S量が51〜69質量%である。セメントクリンカーの鉱物組成は、ボーグ式算定のC
2S量が、好ましくは5〜25質量%であり、より好ましくはC
2S量が10〜25質量%であり、更に好ましくはC
2S量が11〜23質量%であり、特に好ましくはC
2S量が11〜21質量%である。セメントクリンカー組成物は、ボーグ式算定のC
3A量が、好ましくは6〜15質量%であり、より好ましくはC
3A量が8〜13質量%であり、更に好ましくはC
3A量が9〜12質量%であり、特に好ましくはC
3A量が9〜11質量%である。セメントクリンカーの鉱物組成は、ボーグ式算定のC
4AF量が、好ましくは7〜15質量%であり、より好ましくはC
4AF量が8〜12質量%であり、更に好ましくはC
4AF量が8〜11質量%であり、特に好ましくはC
4AF量が8〜10質量%である。
【0025】
セメントクリンカーの諸率、鉱物組成、少量微量成分はJIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」、または、JIS R 5204:2002「セメントの蛍光X線分析方法」に準じて化学成分を定量し、ボーグ式により求めた。ここでボーグ式算定のC
3S量、C
2S量、C
3A量及びC
4AF量は、下記の式[1]、[2]、[3]、[4]によって算出する値である。
C
3S量(質量%)=4.07×CaO(%)−7.60×SiO
2(%)−6.72×Al
2O
3(%)−1.43×Fe
2O
3(%)−2.85×SO
3(%)・・・[1]
C
2S量(質量%)=2.87×SiO
2(%)−0.754×C
3S(%)・・・[2]
C
3A量(質量%)=2.65×Al
2O
3(%)−1.69×Fe
2O
3(%)・・・[3]
C
4AF量=3.04×Fe
2O
3(%)・・・[4]
【0026】
セメント組成物中に含まれるセメントクリンカー量は、セメント組成物の全質量を基準として、好ましくは55〜80質量%、より好ましくは60〜78質量%、更に好ましくは63〜77質量%である。
セメント組成物中に含まれるセメントクリンカー量が、55〜80質量%であると、セメント組成物中に、セメントクリンカーの他に、石膏、石灰石及び高炉スラグを含み、更に必要に応じて塩化物イオン量調整のための塩素バイパスダストを含む場合であっても、これらの混合材を含まないセメント組成物と同等又はそれ以上の硬化体の強度発現性を発揮することができる。
【0027】
石膏は、JIS R 9151「セメント用天然せっこう」に規定される品質を満足するものを用いることが望ましく、具体的には、二水石膏、半水石膏、不溶性無水石膏が好適に用いられる。
【0028】
セメント組成物は、セメント組成物の全質量を基準として、SO
3量が、好ましくは1.6〜2.5質量%、より好ましくは1.7〜2.3質量%、更に好ましくは1.8〜2.1質量%である。セメント組成物中のSO
3量が、上記範囲内であると、セメント組成物の断熱温度上昇量を増大させることなく、モルタルやコンクリート等の硬化体の強度発現性を維持・向上させることができる。セメント組成物中のSO
3含有量は、セメント組成物の全体質量に対する含有割合(%)であり、この含有割合は、JIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」、または、JIS R 5204:2002「セメントの蛍光X線分析方法」に準じて測定することができる。
【0029】
石灰石及び石灰石微粉末は、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」で規定されるCaCO
3量を90%以上含有している石灰石を使用する。混合粉砕に使用する石灰石は、粒度が、好ましくは50mm以下であり、より好ましくは30mm以下であり、更に好ましくは20mm以下である。後混合する石灰石微粉末は、ブレーン比表面積が好ましくは3000cm
2/g以上、より好ましくは4000cm
2/g以上である。石灰石及び石灰石微粉末の粒度は特に限定されず、特に粒度の小さい、粉末度の細かい石灰石を使用する必要はなく、上記範囲外の粒度の石灰石であっても使用することができる。
【0030】
セメント組成物中の石灰石量は、セメント組成物の全質量を基準として、好ましくは1〜8質量%、より好ましくは2〜6質量%、更に好ましくは4〜6質量%である。セメント組成物の全質量を基準として、セメント組成物中の石灰石量が1〜8質量%であると、一般的に強度発現性(圧縮強度)の増大とともに増大すると推測される断熱温度上昇量を抑制させ、モルタルやコンクリート等の硬化体の強度発現性(圧縮強度)を維持・向上させることができる。
【0031】
高炉スラグは、JIS R 5211:2003「高炉セメント」で規定される高炉スラグを使用する。混合粉砕する高炉スラグは、粒度が、好ましくは5mm以下であり、より好ましくは3mm以下であり、更に好ましくは2mm以下である。後混合する高炉スラグ粉はブレーンが3000cm
2/g以上、より好ましくは4000cm
2/g以上である。高炉スラグ及び高炉スラグ粉の粒度は特に限定されず、特に粒度の小さい、粉末度の細かい高炉スラグを使用する必要はなく、上記範囲外の粒度の高炉スラグであっても使用することができる。
【0032】
セメント組成物中の高炉スラグ量は、セメント組成物の全質量を基準として、好ましくは12質量%以上39質量%以下であり、より好ましくは12質量%を超え39質量%以下であり、更に好ましくは13〜34質量%であり、特に好ましくは14〜29質量%である。セメント組成物の全質量を基準として、セメント組成物中の高炉スラグ量が12質量%以上39質量%以下であると、断熱温度上昇量を抑制させ、モルタルやコンクリート等の硬化体の強度発現性(圧縮強度)を維持・向上させることができる。
【0033】
セメント組成物中の石灰石と高炉スラグの合量は、セメント組成物の全質量を基準として、20質量%以上40質量%以下であり、好ましくは20質量%を超え40質量%以下であり、より好ましくは23〜38質量%であり、更に好ましくは25〜35質量%であり、特に好ましくは28〜33質量%である。セメント組成物中の石灰石と高炉スラグの合量が20質量%以上40質量%以下であり、好ましくは20質量%を超え40質量%以下であると、一般的に強度発現性(圧縮強度)の増大とともに増大すると推測される断熱温度上昇量を抑制させ、モルタルやコンクリート等の硬化体の強度発現性(圧縮強度)を維持・向上させることができる。本明細書において、石灰石と高炉スラグとを混合材と称する場合がある。
【0034】
石灰石と高炉スラグの質量比(石灰石:高炉スラグ)は、好ましくは1:40〜2:3、より好ましくは1:30〜4:7、更に好ましくは1:14〜1:2である。セメント組成物中の石灰石と高炉スラグの合量のうち、石灰石と高炉スラグの質量比が1:40〜2:3の範囲であると、一般的に強度発現性(圧縮強度)の増大とともに増大すると推測される断熱温度上昇量を抑制させ、モルタルやコンクリート等の硬化体の強度発現性(圧縮強度)を維持・向上させることができる。
【0035】
セメント組成物中の塩化物イオン量は、セメント組成物の全質量を基準として、好ましくは0.02〜0.1質量%であり、より好ましくは0.025〜0.09質量%であり、更に好ましくは0.03〜0.08質量%であり、特に好ましくは0.03〜0.07質量%である。セメント組成物中の塩化物イオン量が、0.02〜0.1質量%の範囲であると、モルタル・コンクリート等の硬化体の強度発現性を維持・増大することができる。
【0036】
本発明のセメント組成物は、更に塩素バイパスダストを含んでいてもよい。塩素バイパスダストはセメントキルンのNSPタワーより抽気される塩素バイパスより発生するダストであり、塩素バイパスダストの塩化物イオン量(塩化物イオン(Cl)の含有量)は2〜35質量%、好ましくは4〜33質量%、より好ましくは6〜31質量%、更に好ましくは7〜30質量%である。セメント組成物中の塩化物イオン量の調整のために、塩素バイパスダストを用いる。
【0037】
セメント組成物中の塩素バイパスダスト量は、セメント組成物の全質量を基準として、好ましくは0.05〜5質量%であり、より好ましくは0.1〜3質量%であり、更に好ましくは0.1〜2質量%であり、特に好ましくは0.1〜1質量%である。セメント組成物の全質量を基準として、セメント組成物中の塩素バイパスダスト量が0.05〜5質量%であると、モルタル、コンクリート等の硬化体の強度発現性を維持・増大させることができる。セメント組成物中に塩素バイパスダストを加えることによって、石灰石及び高炉スラグを含むセメント組成物を用いた硬化体の強度発現性は増大する傾向がある。このような傾向が生じる機構は明らかではないが、石灰石及び高炉スラグを含むセメント組成物を用いた硬化体の強度発現性が増大するのは、セメント組成物中に含まれる塩化物イオン(Cl)、あるいはフリーライム(f.CaO)がセメント(セメントクリンカーの粉砕物)又は高炉スラグの刺激剤となって、徐々に水和反応が進行し、強度発現性が増大することが考えられる。
【0038】
普通ポルトランドセメントの他に、高炉スラグ5質量%を超えて含むセメントは、高炉セメントと規定されている(JIS R5211:2003)。高炉セメントの強度特性は、一般に、普通ポルトランドセメントに比べて材齢3日、7日程度の初期の強度が低い。本発明のセメントクリンカーと、石膏と、石灰石と、高炉スラグと、必要に応じて塩素バイパスダストを含み、セメント組成物の全質量を基準として、石灰石と高炉スラグの合量が20質量%以上40質量%以下であるセメント組成物は、高炉スラグを5質量%超えて含む場合においても、材齢3日、7日程度の初期強度も増大する傾向がある。このような傾向が生じる機構は明らかではないが、石灰石及び高炉スラグを含むセメント組成物を用いた硬化体の初期の強度発現性が増大するのも、セメント組成物中に含まれる塩化物イオン(Cl)の作用により強度発現性が向上した、あるいは、フリーライム(f.CaO)がセメント又は高炉スラグの刺激剤となって材齢3日程度の初期においても水和反応が進行したことで、強度発現性が増大することが考えられる。
【0039】
セメント組成物中の塩素バイパスダストに由来する塩化物イオン量は、セメント組成物の全質量を基準として、好ましくは0.01〜0.09質量%であり、より好ましくは0.02〜0.08質量%であり、更に好ましくは0.02〜0.07質量%であり、特に好ましくは0.02〜0.06質量%である。塩素バイパスダストに由来するセメント組成物中に含まれる塩化物イオン量が、0.01〜0.09質量%の範囲であると、モルタル・コンクリート等の硬化体の強度発現性を維持・増大することができる。
セメント組成物中の塩素バイパスダストに由来する塩化物イオン量は、JIS R 5202「セメントの化学分析方法」、又は、JIS R 5204:2002「セメントの蛍光X線分析方法」の方法によって測定することができる。
【0040】
セメント組成物のブレーン比表面積は、好ましくは3000〜4500cm
2/gである。ブレーン比表面積が上記範囲内であると、更に優れた強度発現性を有するモルタルやコンクリートの製造が可能となる。セメント組成物のブレーン比表面積は、より好ましくは3300〜4200cm
2/gであり、更に好ましくは3500〜4000cm
2/gである。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0042】
[セメント組成物の調整]
直径5mm以下に粗砕したセメントクリンカー、排脱二水石膏(排煙脱硫二水石膏)、石灰石、高炉スラグ、塩素バイパスダストを合計で3kg配合した。セメント組成物中の塩化物イオン量の調整のために塩素バイパスダストを用いた。石灰石及び高炉スラグの粒度は直径5mm以下である。
セメントクリンカー、石膏、石灰石、高炉スラグ、塩素バイパスダストを試験ボールミルでブレーン比表面積が3800±150cm
2/g(高炉セメントB種に相当する)になるように粉砕してセメント組成物を得た。使用したクリンカー、排脱二水石膏、石灰石、高炉スラグ、塩素バイパスダストの成分を表1〜5に示す。
【0043】
使用したクリンカーの諸率、鉱物組成、少量微量成分は、JIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて化学成分を定量し、諸率、鉱物組成はボーグ式により求めた。
C
3S量(質量%)=4.07×CaO(%)−7.60×SiO
2(%)−6.72×Al
2O
3(%)−1.43×Fe
2O
3(%)−2.85×SO
3(%)・・・[1]
C
2S量(%)=2.87×SiO
2(%)−0.754×C
3S(%)・・・[2]
C
3A量(質量%)=2.65×Al
2O
3(%)−1.69×Fe
2O
3(%)・・・[3]
C
4AF量(%)=3.04×Fe
2O
3含有量(%) ・・・[4]
【0044】
【表1】
【0045】
使用した排脱二水石膏の化学成分は、JIS R 9101:1995「石膏の分析方法」に準じて測定した。
【0046】
【表2】
【0047】
使用した石灰石の化学成分は、JIS M 8850:「石灰石分析方法」に準じて測定した。
【0048】
【表3】
【0049】
使用した高炉スラグは、JIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて化学成分を定量し、塩基度は計算式により求めた。
塩基度(JIS)=(CaO+MgO+Al
2O
3)/SiO
2
塩基度(TiO
2換算)=(CaO+MgO+Al
2O
3)/SiO
2−(0.13×TiO
2)塩基度(Bm)=(CaO+MgO+Al
2O
3)/SiO
2−(0.13×TiO
2)−MnO活性度指数は、JIS A 6202:1997「コンクリート用高炉スラグ微粉末」に準じて測定した。高炉スラグは、JIS R 5202:1999「ポルトランドセメントの化学分析方法」に準じて、高炉スラグを破砕機によって約5mm以下に破砕したものを用いた。
【0050】
【表4】
【0051】
使用した塩素バイパスダストの塩化物イオン量(Cl)は、JIS R 5202:1999「セメントの化学分析方法」に準じて測定した。f.CaOは、JIS M 8853:1998「セラミック用アルミノけい酸塩質原料」に準じて測定した。
【0052】
【表5】
【0053】
セメント組成物の配合を表6に示す。
【0054】
セメント組成物の製造方法としては、まずセメントクリンカー(普通クリンカー:伊佐セメント工場品)を直径5mm以下となるようにジョークラッシャーにて粉砕し、粉砕したセメントクリンカー、石膏(排脱石膏:中国電力小野田発電所品)、石灰石(伊佐鉱山品)、高炉スラグ(日新製鋼呉品)及び塩素バイパスダストを表6の配合割合で混合し、試験ボールミルに投入し、試験ボールミルによって所定のブレーン比表面積(3,800±150cm
2/g)となるように混合粉砕した。なお、粉砕に当たっては粉砕助剤としてジエチレングリコールを0.03%添加した。粉砕機に投入する順序は、限定されない。また、所望のブレーン比表面積となるように粉砕ができれば、粉砕の種類は限定されない。
【0055】
表6に、セメント組成物の配合、粉末特性(ブレーン比表面積)、塩化物イオン量、f.CaO量を記載した。表6に示すセメント組成物のSO
3量、粉末特性、塩化物イオン量、及びフリーライム(f.CaO)は、下記のように、算出又は測定した。
【0056】
<セメント組成物のSO
3量>
セメント組成物のSO
3量は、セメント組成物の全質量を基準として、セメント組成物の二水石膏(質量%)から下記の式により算出した。
SO
3量=(SO
3の分子量/二水石膏の分子量)×(二水石膏の添加率)+(クリンカーのSO
3量)×(クリンカーの添加率)
例えば、下記表6に示される実施例1のセメント組成物のSO
3量は、表6に示す二水石膏の添加率と、表1に示すセメント組成物に用いたセメントクリンカーのSO
3量とから、下記の式により算出できる。
SO
3量=80/172×3.45%+0.005×66.55%=1.93%
【0057】
<セメント組成物の粉末特性>
セメントの粉末特性(ブレーン比表面積)について、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に準じて測定した。
【0058】
<セメント組成物の塩化物イオン量、塩素バイパスダスト由来の塩化物イオン量>
セメント組成物の塩化物イオン(Cl)量及び塩素バイパスダスト由来の塩化物イオン(Cl)量は、JIS R 5202:1999「セメントの化学分析方法」に準じて測定した。
【0059】
<f.CaO(フリーライム)>
f.CaOは、JIS M 8853:1998「セラミック用アルミノけい酸塩質原料」に準じて測定した。
【0060】
【表6】
【0061】
表7に、セメント組成物の物理試験の結果を示す。表7の物理試験は下記のように行った。
【0062】
<標準軟度水量>
標準軟度水量は、セメントペーストの柔らかさ(軟度)を一定にするために必要な水量をいい、標準軟度水量の数値が大きいほど、セメントの流動性が低下する。測定方法は、セメント組成物500gを練り鉢に入れ水を加えて練り混ぜた後、セメントペーストを容器に投入し、表面を平滑にした後、標準棒を降下させて、30秒後に標準棒の先端と底板との間隔を測定し、標準棒の先端と底板の間隔が6±1mm(標準軟度)となる水量を測定し、標準軟度水量とした。
【0063】
<凝結(始発、終結)、モルタル圧縮強さ>
凝結時間(始発時間、終結時間)は、得られたセメント組成物を用いて、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に準じて測定した。結果を表7に示す。表7中、参考例1の結果に示すように「凝結(始発)2:29」は、凝結の始発時間が2時間29分であることを表す。表7中、参考例1の結果に示すように「凝結(終結)3:27」は、凝結の終結時間が3時間27分であることを表す。表7中、参考例以外の実施例、及び比較例についても同様に、凝結の始発時間及び終結時間を表す。
【0064】
<断熱温度上昇試験>
特開2008−241520号公報に記載された断熱熱量計と同様の装置(株式会社東京理工製、商品名:ACM−120HA)を用い、上述の非特許文献1(コンクリート標準示方書[施工編](2002)、土木学会)に記載された方法に基づいて、終局の断熱温度上昇量を測定した。
【0065】
測定は、モルタル試料を試料容器に入れて、予め20℃に保持した断熱容器の内部に当該試料容器を配置して行った。測定時間は、温度上昇がなくなるまでの期間(2日間以上)とし、断熱温度上昇曲線から、下記式(II)における終局の断熱温度上昇量(Q∞)を求めた。ここで求めた終局の断熱温度上昇量(Q∞)を表7に示す。
Q(t)=Q∞(1−exp(−γ(t−t0))) (II)
式(II)中、Q(t)は材齢tにおける断熱温度上昇量(℃)、Q∞は終局の断熱温度上昇量(℃)を、tは材齢(日)を、t0は発熱開始材齢(日)を、γは断熱温度上昇速度に関する定数を、それぞれ示す。
【0066】
【表7】
【0067】
図1は、セメント組成物中の混合材量(石灰石と高炉スラグの合量)を30質量%とした場合のセメント組成物の石灰石添加率とモルタル圧縮強さとの関係を示す。
図1において、石灰石添加率(質量%)は、セメント組成物の全質量を基準とした、石灰石量(質量%)を意味する。
図1に示すように、塩素バイパスダストを含むセメント組成物である実施例1,2(比較例2、4の塩化物イオン量を調整したもの)は、石灰石0〜10質量%で塩化物イオン量を調整していないセメント組成物の比較例1〜5に比べ、圧縮強さは良好な結果を示す。比較例1〜5は、塩化物イオン量が0.02質量%未満のセメント組成物である。また、参考例1は普通ポルトランドセメントの配合(クリンカー95%、混合材の割合が5質量%(石灰石:高炉スラグ=4:1)、参考例2は一般的な高炉セメントB種の配合(クリンカー51.47%、混合材の割合が45質量%(石灰石:高炉スラグ=2:43))であり、これらの参考例1及び参考例2と比較すると、実施例1〜4は、材齢3日、7日、28日のいずれも、圧縮強さは高くなった。圧縮強さの向上は、セメント組成物中の塩化物イオンあるいはf.CaOが、セメント(セメントクリンカーの粉砕物)あるいは高炉スラグの刺激剤になり徐々に水和反応が進行したことにより圧縮強さが向上したと推定される。
【0068】
表7に示すように、比較例1、比較例7のように高炉スラグの添加量が大きいセメント組成物は、参考例1の普通ポルトランドセメントの配合に比べて、材齢3日程度の圧縮強さは低くなり、材齢28日では圧縮強さは高くなった。
本発明のセメント組成物は、実施例4のように、高炉スラグの添加量が大きいセメント組成物であっても、参考例1と比べて、材齢3日の初期の硬化体の圧縮強さが高くなり、材齢28日の圧縮強さも高くなった。また、参考例2と比べると、混合材(石灰石とスラグの合量)の割合が同程度であるにもかかわらず、強度発現性が上昇した。
【0069】
図2は、セメント組成物中の混合材量(石灰石と高炉スラグの合量)を20、30、40質量%とし、混合材中の石灰石量を6質量%(高炉スラグ量は14、24、34質量%)に固定した場合のセメント組成物とモルタル圧縮強さとの関係を示す。
図2中の混合材添加率(質量%)は、セメント組成物の全量を基準とした、石灰石と高炉スラグの合量(質量%)を意味する。塩化物イオン量を調整していない比較例4、6、7の圧縮強さは、混合材中の高炉スラグの増加に伴い材齢3日では、比較例6が最も大きく、比較例4、比較例7の順に小さくなった(比較例6>比較例4>比較例7)。材齢7日では比較例4、6、7の圧縮強さは概ね同等であり、材齢28日では、圧縮強さは、比較例7が最も大きく、比較例4、比較例6の順に小さくなった(比較例7>比較例4>比較例6)。この結果から、混合材中の高炉スラグ量が増加すると、材齢が長くなるほどモルタル圧縮強さが高くなる傾向が確認できた。比較例4、6、7に塩化物イオン量を調整するために塩素バイパスダストを加えた実施例2、3、4の圧縮強さは、いずれの材齢もそれぞれ石灰石及び高炉スラグの合量が対応する比較例4、6、7に比べて同等以上となった。この結果から、石灰石と高炉スラグの質量比が特定の割合の混合材を添加し、更に塩化物イオン量を調整するために塩素バイパスダストを特定量添加したセメント組成物は、普通ポルトランドセメントの配合を有するセメント組成物(参考例1)及び高炉セメントの配合を有するセメント組成物(参考例2)よりもモルタル圧縮強さは向上した。
【0070】
図3は、モルタル圧縮強さとモルタルの断熱温度上昇量との関係を示す。
図3の比較例2、4、6に示すように、断熱温度上昇量は、モルタル圧縮強さの増大と共に増大した。ここで、実施例2は比較例4(石灰石:高炉スラグ=6:24)、実施例3は比較例6(石灰石:高炉スラグ=6:14)と同じ混合材を用い、塩化物イオン量を調整したセメント組成物である。実施例2と比較例4とを比較し、実施例3と比較例6とを比較すると、いずれも実施例のモルタル強さが高くなっているにもかかわらず、断熱温度上昇量は低下した。したがって、混合材(石灰石と高炉スラグ)を含むセメント組成物に塩素バイパスダストを添加し、塩化物イオン量を調整すると、断熱温度上昇量の増大を抑制させ、圧縮強さを向上させる効果があることが分かる。言い換えれば、セメントの断熱温度上昇量はセメントの水和熱に相当するものであり、塩化物イオン量を調整するために添加した塩素バイパスダストはセメントの水和熱を上昇させることなく、圧縮強さを向上させる効果を有することが判明した。
【0071】
以上のことから、セメントクリンカー、石膏、石灰石、高炉スラグ、塩素バイパスダストを含む組成物であって、セメント組成物の全質量を基準として、石灰石と高炉スラグの合量が20質量%以上40質量%以下であり、好ましくは石灰石と高炉スラグの合量が20質量%を超えて40質量%以下であり、石灰石量が1〜8質量%、高炉スラグ量が12質量%以上39質量%以下、塩化物イオン量が0.02〜0.1質量%であるセメント組成物は、モルタル、コンクリートの強度発現性を維持・向上させ断熱温度上昇量を抑制させることができる。