特許第6543913号(P6543913)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543913
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】粉末多糖類の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/14 20060101AFI20190705BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20190705BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20190705BHJP
   A23L 29/238 20160101ALI20190705BHJP
   A23L 29/219 20160101ALI20190705BHJP
   A23L 29/256 20160101ALI20190705BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20190705BHJP
【FI】
   A61K9/14
   A61K47/06
   A61K47/36
   A23L29/238
   A23L29/219
   A23L29/256
   A61K8/73
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-221572(P2014-221572)
(22)【出願日】2014年10月30日
(65)【公開番号】特開2016-88849(P2016-88849A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】593204214
【氏名又は名称】三菱ケミカルフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 修
(72)【発明者】
【氏名】澤田 博昭
(72)【発明者】
【氏名】稲場 健太
【審査官】 菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−124342(JP,A)
【文献】 特開2001−114696(JP,A)
【文献】 特表2013−539979(JP,A)
【文献】 特開2013−170232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/14
A23L 29/219
A23L 29/238
A23L 29/256
A61K 8/73
A61K 47/06
A61K 47/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性媒体に原料粉末を溶解させて得られた溶液から粉末多糖類を得る粉末多糖類の製造方法であって、
キレート剤を添加した水性媒体に、原料粉末として、
タラガム、グアーガム、及びローカストビーンガムからなる群から選ばれる原料粉末Aと、
キサンタンガム、及びカラギーナンからなる群から選ばれる原料粉末B
とを溶解させることを特徴とする、粉末多糖類の製造方法。
【請求項2】
前記キレート剤を添加した水性媒体に、前記原料粉末を分散させた後、50℃以上の温度で加熱溶解させる、請求項1に記載の粉末多糖類の製造方法。
【請求項3】
pHを3.0〜10.0に調整した水性媒体中で、前記原料粉末を溶解させることを特徴とする、請求項1または2に記載の粉末多糖類の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法により得られた粉末多糖類を用いて多糖類製剤を製造する、多糖類製剤の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法で得られた多糖類製剤を用いて食品を製造する、食品の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の製造方法で得られた多糖類製剤を用いて化粧品を製造する、化粧品の製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載の製造方法で得られた多糖類製剤を用いて医薬品を製造する、医薬品の製造方法。
【請求項8】
タラガム、グアーガム、及びローカストビーンガムからなる群から選ばれる原料粉末Aと、キサンタンガム、及びカラギーナンからなる群から選ばれる原料粉末Bとが溶解した、キレート剤を含む水性媒体の乾燥物。
【請求項9】
前記水性媒体のpHが3.0〜10.0である請求項8に記載の乾燥物。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の乾燥物を含有する、多糖類製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉末多糖類の製造方法に係り、詳しくは常温(本発明において、常温とは、10〜30℃の範囲を指す。)にて、短時間の混合で、しかも少ない使用量で水溶液に高い粘性を付与することができる粉末多糖類を製造する方法に関する。
本発明はまた、この方法で製造された粉末多糖類と、その使用に関する。
【背景技術】
【0002】
病院または介護設備で用いる嚥下剤として、飲食物にトロミを加えることで嚥下困難者の経口食を可能とするトロミ剤、飲食物をゼリー状に固め嚥下困難者に供する目的で使用するゲル化剤などがある。
トロミ剤は、例えば、飲食前に、10〜50℃程度の飲食物に必要量のトロミ剤を加えて、スプーンやハンディミキサーなどで短時間撹拌混合することにより、トロミを飲食物に付与するために使用される。この使用条件、即ち、10〜50℃での短時間の撹拌混合に適した製剤としては、低温で水溶液に粘性を付与しやすく、かつ比較的短時間で水溶液の粘性が発現するものが好ましく、従来はキサンタンガム、またはキサンタンガムを主成分とする製剤が使用されている。
【0003】
しかしながら、キサンタンガムは、例えば2質量%水溶液の粘度(25℃)が1000mPa・s程度であり、トロミ剤に一般的に要求される粘度(3000〜6000mPa・s)に比べて低い。そのためキサンタンガムを主成分とする製剤は1回の使用量が多く、トロミ剤の使用コストが高くつくという問題があった。
また、キサンタンガムは常温で溶解させても水溶液に粘性付与できるが、十分な粘性を発現させるには、ミキサーで10分程度混合する必要があり、作業性も悪かった。
【0004】
従来、キサンタンガムによる粘性付与効果、或いはその他の要求特性を改善するために、キサンタンガムと他の多糖類、例えばローカストビーンガム、タラガム、グァーガムなどのガラクトマンナン、あるいはグルコマンナンなどを併用することが行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、タラガムおよび/またはローカストビーンガムと、キサンタンガムとを併用してなる易嚥下補助組成物が記載されている。特許文献1には、この易嚥下補助組成物の製造方法については、各原料粉末をリボンミキサー、Vブレンダー等で所定量混合する方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、(a)グァーガム、タラガム及びローカストビーンガムから選ばれる少なくとも2種類の多糖類の共沈物と、(b)キサンタンガム及び/又はκ−カラギナンとを含むゲル化剤組成物が提案されている。特許文献2には、このゲル化剤組成物の製造方法として、(1)リボンミキサーやVブレンダーを用いて粉体で混合する方法、(2)水中で加熱することによって溶解、均一分散させ液状とする方法、(3)別々に溶液を調製し、使用時に混合する方法、(4)溶液化したものをスプレードライ等により分散粉末化する方法、(5)粉体で混合し、プレス機で圧縮することにより打錠し、錠剤状にする方法、及び(6)溶液化したものを造粒機により、顆粒化して使用する方法が挙げられているが、実施例で具体的にどのような方法を採用したかは明らかにされておらず、短時間の混合で水溶液に高い粘性を付与できる剤の製造方法についての検討はなされていない。
【0007】
特許文献3には、(a)ガラクトマンナンと(b)グルコマンナンの共沈物が記載され、この共沈物を、キサンタンガム等のゲル化剤との混合物とすることの記載もあるが、その混合方法についての記載はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−191553号公報
【特許文献2】特開2004−350679号公報
【特許文献3】特表平9−502883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
キサンタンガムに、タラガム等の他の多糖類を併用することにより、粘性付与効果等を改善することができるが、本発明者らの検討により、単にこれらを混合するのみでは、例えば特許文献1に記載されるように、単に原料粉末を乾式で混合するのみでは、常温にて短時間の混合で、しかも少ない使用量で水溶液に高い粘性を付与することができる剤を得ることはできないことが判明した。
即ち、キサンタンガムと併用するタラガム等の多糖類は、10〜50℃での水への溶解性が無い、極めて低い、あるいは低いものである。このため、このような多糖類を単にキサンタンガムと混合したのみでは、混合物をトロミ剤として使用する際に、混合物中の多糖類が十分に水に溶解せず、その結果、多糖類併用の効果が得られず、所望とする粘性を付与するためには、やはり使用量が多くなる、或いは長時間の撹拌を要するものとなる。
また、溶液中で混合した場合であっても、単にこれらを水中で混合したのでは、やはり常温にて短時間の混合で、しかも少ない使用量で水溶液に高い粘性を付与することができる剤を製造することはできなかった。
【0010】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであって、常温にて短時間の混合で、しかも少ない使用量で水溶液に高い粘性を付与することができる粉末多糖類を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、原料粉末を、キレート剤を添加した水性媒体に溶解させ、得られた溶液から粉末多糖類を回収することにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0012】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0013】
[1] 水性媒体に原料粉末を溶解させて得られた溶液から粉末多糖類を得る粉末多糖類の製造方法であって、キレート剤を添加した水性媒体に、原料粉末として、タラガム、グアーガム、及びローカストビーンガムからなる群から選ばれる原料粉末Aと、キサンタンガム、及びカラギーナンからなる群から選ばれる原料粉末Bとを溶解させることを特徴とする、粉末多糖類の製造方法。
【0014】
[2] 前記キレート剤を添加した水性媒体に、前記原料粉末を分散させた後、50℃以上の温度で加熱溶解させる、[1]に記載の粉末多糖類の製造方法。
【0015】
[3] pHを3.0〜10.0に調整した水性媒体中で、前記原料粉末を溶解させることを特徴とする、[1]または[2]に記載の粉末多糖類の製造方法。
【0016】
[4] [1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法により得られた、粉末多糖類。
【0017】
[5] [4]に記載の粉末多糖類を含有する、多糖類製剤。
【0018】
[6] [5]に記載の多糖類製剤を含有する、食品。
【0019】
[7] [5]に記載の多糖類製剤を含有する、化粧品。
【0020】
[8] [5]に記載の多糖類製剤を含有する、医薬品。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、常温にて短時間の混合で、しかも少ない使用量で水溶液に高い粘性を付与することができる粉末多糖類を製造することができる。しかも、本発明の粉末多糖類の製造方法により製造された粉末多糖類は、蛋白質、脂質などの不純物量が低いため水溶液とした際の透明度が高く、かつ高い粘度を有するため、多糖類製剤として、食品、化粧品あるいは医薬品添加物等として、増粘・安定化用途に利用することができ、特に、優れた嚥下剤、例えばトロミ剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
[粉末多糖類の製造方法]
本発明の粉末多糖類の製造方法は、水性媒体に原料粉末を溶解させる溶解工程と、該溶解工程で得られた溶液から粉末多糖類を得る回収工程とを含み、溶解工程において、キレート剤を添加した水性媒体に、原料粉末として、タラガム、グアーガム、及びローカストビーンガムからなる群から選ばれる原料粉末Aと、キサンタンガム、及びカラギーナンからなる群から選ばれる原料粉末Bを溶解させることを特徴とする。
【0024】
即ち、本発明者らが、原料粉末を水性媒体に溶解させて混合する方法であっても、従来法では、常温にて短時間の混合で、しかも少ない使用量で水溶液に高い粘性を付与することができる粉末多糖類を製造することができない理由について検討を重ねた結果、この原因は、原料粉末の溶解に用いる水性媒体中の金属イオン成分にあることを知見した。即ち、従来法では、水性媒体に含まれる金属イオン成分を捕捉除去せずに原料粉末を溶解させるため、この金属イオン成分の影響で、得られる粉末多糖類による粘性付与効果が阻害される。本発明では、水性媒体中の金属イオン成分の影響を除去する、例えば金属イオン成分をキレート剤で捕捉することにより金属イオン成分の影響を封止する、ことによって粉末多糖類本来の粘性付与効果を有効に発揮させることができる。
また、水性媒体として蒸留水など予め精製された水を使用した場合も、少ない使用量で水溶液に高い粘性を付与することができる粉末多糖類を製造することはできる。しかしながら、製造時の実用性などを考慮するとキレート剤を添加した水性媒体を用いるほうがより好ましい。
【0025】
<水性媒体>
水性媒体としては、水や水に無機塩を溶解させたものなどが使用できるが、特に本発明の方法は、水道水や工業用水など金属イオン成分を含有する水に好適である。
【0026】
本発明では、水性媒体にキレート剤を含有させるが、キレート剤としては、クラウンエーテル化合物、エチレンジアミン四酢酸及び/又はその塩(以下、「酸(塩)」と記載する。)、アスコルビン酸(塩)、リンゴ酸(塩)、フマル酸(塩)、クエン酸(塩)、アスパラギン酸(塩)、乳酸(塩)、グルクロン酸などの有機酸化合物等が挙げられる。これらのキレート剤は1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、得られる粉末多糖類の用途や操作性、金属イオンキレート能力を考慮すると、リンゴ酸(塩)、クエン酸(塩)、アスパラギン酸(塩)などの有機酸(塩)が好ましく、一般的にはアスパラギン酸(塩)、クエン酸(塩)が好適に使用される。なお、上記の各種酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0027】
キレート剤の水性媒体中の濃度は、水性媒体中の金属イオンを十分捕捉できる量であれば特に限定されないが、0.01mol/L以上が好ましく、0.1mol/L以上がより好ましく、50mmol/L以下が好ましく、20mmol/L以下がより好ましい。キレート剤濃度が上記下限より高いことにより、得られる粉末多糖類の常温における短時間での粘性付与能力がより向上し、また、上記上限より低いと、回収した粉末多糖類の中に不純物として混入するリスクや製造コストの増加をより抑えやすくなる傾向がある。
【0028】
<原料粉末>
原料粉末としては、タラガム、グアーガム、及びローカストビーンガムからなる群から選ばれる原料粉末Aと、キサンタンガム、及びカラギーナンからなる群から選ばれる原料粉末Bとを用いる。
原料粉末Aは、粘度向上に機能する成分であり、原料粉末Bは、常温において短時間で粘性付与効果を発揮する成分である。
原料粉末Aは、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよいが、原料粉末Bと相互作用して水溶液に高い粘度を付与することができることから、少なくともタラガムを用いることが好ましい。
一方、原料粉末Bとしても、キサンタンガム及びカラギーナンの一方のみを用いてもよく、双方を併用してもよいが、常温における水への溶解性の点から、少なくともキサンタンガムを用いることが好ましい。
【0029】
原料粉末Aと原料粉末Bの使用割合は、原料粉末Aによる粘度向上効果と、原料粉末Bによる常温における短時間での粘性付与効果とを共に良好に得る上で、原料粉末A/原料粉末Bの質量比率が、原料粉末A/原料粉末B=95/5〜60/40、さらには90/10〜70/30、特に90/10〜75/25となるように用いることが好ましい。即ち、本発明において、溶解工程でキレート剤を添加した水性媒体に添加する原料粉末としての原料粉末A及び原料粉末Bは、このような原料粉末A/原料粉末Bの粉末多糖類を得ることができるように用いることが好ましい。
【0030】
<溶解工程>
溶解工程では、キレート剤を添加した水性媒体に、原料粉末として原料粉末Aと原料粉末Bとを添加して分散させた後、溶解させる。水性媒体に添加する原料粉末の量(原料粉末Aと原料粉末Bの合計量)は、特に限定されないが、生産性、その後の回収工程における操作性の面から、水性媒体(キレート剤を添加した水性媒体)中の濃度として0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、10質量%以下が好ましく、5質量%以下とすることがより好ましい。
【0031】
キレート剤を添加した水性媒体への原料粉末A及び原料粉末Bの添加順序については特に制限はなく、いずれか一方を先に添加し、他方を後に添加するようにしてもよく、これらを同時に添加してもよく、予めこれらを軽く混合した混合粉末として添加してもよいが、例えば、水性媒体の撹拌下に、比較的水溶性の低い原料粉末Aを先に添加して分散させた後、原料粉末Bを添加して分散させることが、分散性、溶解性の面で好ましい。また、逆に、原料粉末Bを先に添加した後、原料粉末Aを添加することにより、製造された多糖類粉末の粘度が高くなる傾向があり、好ましい。
【0032】
水性媒体に原料粉末を分散させる際の操作条件については特に限定するものではないが、分散性を上げるために、水性媒体の撹拌下に行うことが好ましく、また、分散時の水性媒体の液温は0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、70℃以下が好ましく、50℃以下とすることがより好ましい。この液温が0℃より低いと分散時に水性媒体中の粘度が上昇し、原料粉末の分散性が低下する場合がある。一方、70℃より高いと、発生する水蒸気により、製造装置、特に粉末投入部に原料粉末が付着しやすくなるため、製品汚染の危険性が増加する場合がある。分散時間は、原料粉末が水性媒体中へ分散されればよく、特に限定しないが、分散性、生産性の面から通常1〜100分程度である。
【0033】
水性媒体に原料粉末を分散させた後、水性媒体を好ましくは50℃以上に加熱して原料粉末を溶解させる。このときの水性媒体の液温の上限は粉末多糖類の生産性、品質に影響が無ければ特に限定されないが、95℃以下とすることが好ましい。水性媒体の液温が50℃以上であることにより原料粉末、特に原料粉末Aの溶解性がより良好であり、95℃以下であることにより回収された粉末多糖類の品質低下及び操作上のリスクがより低減される傾向にある。
【0034】
溶解時の水性媒体のpH(原料粉末が分散した水性媒体中のpH)は目的とする性能を有する粉末多糖類を得ることができれば特に限定されないが、3.0以上が好ましく、4.0以上がより好ましく、10.0以下が好ましく、9.0以下とすることがより好ましい。pHが前記範囲であることにより、加温を行った場合の化学的加水分解がより起こりにくく、回収された粉末多糖類の粘度をより高く維持できる。
【0035】
水性媒体のpH調整は原料粉末を溶解させるどの段階で行ってもかまわないが、一般的には操作性、得られる粉末多糖類の品質を考慮して、水性媒体の加温を行う前までに行われる。pH調整は、原料粉末の分散前に行ってもよい。
【0036】
水性媒体のpH調整に使用する酸性化合物、塩基性化合物は特に限定されないが、一般的には無機酸性化合物、具体的には塩酸等、あるいは有機酸化合物、具体的にクエン酸、酢酸、グルクロン酸、フマル酸等(環化物を形成するものはそれも含む、例えばグルコノラクトン、無水フマル酸等)、または無機塩基化合物、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。これらは、pHが好ましい範囲に調整できれば添加濃度や形態は特に限定されない。
キレート剤としてクエン酸(塩)などの有機酸(塩)を用いる場合は、当該有機酸(塩)でpH調整することも可能である。例えば、pH緩衝能を有するクエン酸(塩)によりpH調整を行うこともできる。
【0037】
原料粉末の溶解時間は、原料粉末が水性媒体中へ溶解されればよく特に限定しないが、溶解性、生産性の面から通常5分〜3時間程度である。
【0038】
<回収工程>
溶解工程で得られた溶液から粉末多糖類を回収する方法には特に制限はなく、公知の加工プロセス、例えば濾過、遠心分離、及び水溶性有機溶剤による沈殿析出などにより固液分離し、その後、必要に応じて乾燥、粉砕などの工程を行うことにより、実質的に品質低下を来たすことなく本発明の粉末多糖類を効率的に得ることができる。
【0039】
具体的には、まず、溶解工程で得られた原料粉末の溶液から、濾過や遠心分離などにより水不溶性の不純物・夾雑物を除去する。不純物等の除去方法は特に限定されないが、生産性や操作性の面で濾過操作が好ましく、生産性から加圧濾過がより好ましい。その際の圧力は、濾過速度、設備耐久性等から好ましくは0.001MPa以上、さらに好ましくは0.05MPa以上、好ましくは3MPa以下、さらに好ましくは2MPa以下である。この際、濾過性を改善するために濾過助剤を添加してもよい。濾過助剤としてはパーライト、珪藻土など公知のものを使用すればよく、その使用濃度は濾過速度、廃棄濾残量等から、濾過処理前の溶液に対し好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0040】
続いて不純物等を除去した溶液から目的とする粉末多糖類を回収する。その回収方法としては、回収量、品質等を考慮すると、水溶性有機溶剤を用いた沈殿析出が好ましい。水溶性有機溶剤としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコールのような水溶性アルコール、アセトンなどの1種又は2種以上を用いることができ、沈殿の形状や回収量、品質等からエタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。
【0041】
沈殿析出は、原料粉末の溶液と水溶性有機溶剤を混合することにより行う。その混合方法には特に制限はなく、原料粉末の溶液に水溶性有機溶剤を加えてもよく、水溶性有機溶剤に原料粉末の溶液を加えてもよい。
原料粉末の溶液に対する水溶性有機溶剤の量は、粉末多糖類の沈殿が形成される量であればよく、特に限定されないが、通常は原料粉末の溶液に対して、容量で好ましくは0.1倍以上、より好ましくは0.5倍以上、好ましくは20倍以下、より好ましくは10倍以下である。また、沈殿析出時の溶液の温度は10〜70℃程度が好ましい。
【0042】
得られた粉末多糖類の沈殿から圧搾、遠心分離、加圧濾過、流動乾燥、静置乾燥、真空乾燥等、あるいはそれらを適宜組み合わせた手段により、沈殿に含まれる有機溶剤と水を除去した後、用途に応じた粉末のサイズに粉砕して粉末多糖類を得、目的とする用途に用いることができる。
【0043】
[粉末多糖類]
本発明の粉末多糖類の製造方法により製造された粉末多糖類は、蛋白質、脂質などの不純物量が低いため水溶液とした際の透明度が高く、かつ高い粘度を有するため、多糖類製剤として、食品、化粧品あるいは医薬品などの添加物等として、増粘・安定化用途に利用することができる。
【0044】
食品用途としては、例えば清涼飲料水、冷菓、菓子、ゼリー、ドレッシング・ケッチャップなどの調味料、チーズ・クリームなどの乳製品、ハム・ソーセージなどの食肉加工品、水産練り製品などに用いられる。また、化粧品用途としては、化粧水、化粧用クリーム、シャンプーなどの洗髪剤、整髪剤などに用いられる。
また、粉末多糖類の増粘性を利用して、嚥下剤などの特化食品用途への応用も可能である。例えば、嚥下剤の場合、常温での溶解性や、早期の粘度上昇が求められることから、本発明の粉末多糖類よりなる多糖類製剤の利用は非常に有効である。例えば、トロミ剤に利用することにより、少量添加で、常温にて非常に短い時間の撹拌で、飲食物に高い粘性を付与することができる。
【実施例】
【0045】
以下に本発明の内容を実施例にて具体的に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0046】
なお、粉末多糖類中のタラガム/キサンタンガム比率(質量比率)は、粉末多糖類の0.2質量%水溶液を蒸発乾固することにより成膜し、得られたフィルムのIRスペクトル(JASCO FT/IR−4100、ATR法(1回反射)測定)の1720cm−1(キサンタンガム由来の吸収)、810cm−1(タラガム由来の吸収)の吸収強度比から求めた。
【0047】
また、粉末多糖類水溶液の粘度のうち、「加温粘度」は、80℃で1時間加温して溶解させた後、液温25℃にてBL型粘度計(東機産業社製)で測定した値である。また、単に「粘度」とあるものは、各々の撹拌条件で撹拌後、液温25℃にてBL型粘度計(東機産業社製)で測定した値である。
【0048】
[実施例1]
水(工業用水、富山市)に、キレート剤として、0.7mmol/Lになるようクエン酸を添加、溶解させてpH5.5のクエン酸水溶液を調製した。
攪拌翼で攪拌しながら、上記のクエン酸水溶液10Lにキサンタンガム粉末(ADM社製)8g、続いて粗製タラガム粉末(EXANDAL社製)52gを加え、25℃で5分間分散させた(キサンタンガム及びタラガムの合計濃度0.6質量%)。分散後、水溶液のpHを12質量%の塩酸を用いて5.5に調整し、75℃で1時間攪拌して両粉末を溶解させた。
この水溶液に濾過助剤(三井金属工業社製「パーライト」)を対水溶液で1.3重量%添加した後、0.2MPaで加圧濾過を行った。回収した濾液に、35℃で、容量比で2倍のイソプロピルアルコールを添加し、生成した沈殿を圧搾脱水し、常圧乾燥(75℃)後、粉砕して粉末多糖類36gを得た。
【0049】
この粉末多糖類中のタラガム/キサンタンガム比率は約85/15であった。
【0050】
得られた粉末多糖類15.0gとマルトデキストリン(松谷化学工業社製)85.0gを紛体混合した混合品4.0gを、蒸留水396.0gに分散させた後、80℃で1時間加温して溶解させることにより、粉末多糖類0.15質量%水溶液を調製し、その加温粘度を測定した。
また、同様の質量で混合品を蒸留水に分散させ、25℃で0.25分、0.5分、1.0分、1.5分又は3.0分間それぞれ攪拌し、攪拌0.5分後の粘度を測定した。
これらの結果を表1に示す。
【0051】
[比較例1]
水にクエン酸を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして、粉末多糖類を調製し、同様に加温粘度等を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
[実施例2〜4]
クエン酸の代りに、クエン酸及びクエン酸3ナトリウム(クエン酸3Na)を表1に示す濃度となるように添加したこと以外は実施例1と同様にして粉末多糖類を調製し、同様に加温粘度等を測定した。結果を表1に示す。
なお、回収した粉末多糖類中のタラガム/キサンタンガム比率はいずれも約85/15であった。
【0053】
【表1】
【0054】
表1より、水性媒体にキレート剤を添加して原料粉末を溶解させる本発明の製造方法により得られる粉末多糖類は、常温で、短時間の混合で水溶液に高い粘性を付与することができることが分かる。
これに対して、キレート剤を用いずに製造した比較例1の粉末多糖類は、例えば実施例1の粉末多糖類の0.25分撹拌後と同等の粘度とするのに3.0分もの撹拌を要し、加温下でも十分に高い粘度とすることはできない。