特許第6543914号(P6543914)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543914
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】多糖類製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/36 20060101AFI20190705BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20190705BHJP
   A23L 29/219 20160101ALI20190705BHJP
   A23L 29/238 20160101ALI20190705BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20190705BHJP
【FI】
   A61K47/36
   A61K9/14
   A23L29/219
   A23L29/238
   A61K8/73
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-221573(P2014-221573)
(22)【出願日】2014年10月30日
(65)【公開番号】特開2016-88850(P2016-88850A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】593204214
【氏名又は名称】三菱ケミカルフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 修
(72)【発明者】
【氏名】澤田 博昭
(72)【発明者】
【氏名】稲場 健太
【審査官】 菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−170232(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0074940(US,A1)
【文献】 特開2000−191553(JP,A)
【文献】 特開2004−344165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/36
A23L 29/219
A23L 29/238
A61K 8/73
A61K 9/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タラガム及びキサンタンガムを含む水性媒体の乾燥物であって、
タラガム:キサンタンガムの含有割合(質量比)が、85:15〜75:25である水性媒体の乾燥物。
【請求項2】
請求項1に記載の乾燥物を含有する、多糖類製剤。
【請求項3】
タラガム及びキサンタンガムを水性媒体に溶解して多糖類製剤を製造する方法であって、
タラガム:キサンタンガムの比率(質量比率)を、85:15〜75:25とした水性媒体を得、該水性媒体を乾燥させることを特徴とする、多糖類製剤の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の製造方法で得られた多糖類製剤を用いて多糖類製剤含有組成物を製造する、多糖類製剤含有組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の製造方法で得られた多糖類製剤を用いて食品を製造する、食品の製造方法。
【請求項6】
請求項3に記載の製造方法で得られた多糖類製剤を用いて化粧品を製造する、化粧品の製造方法。
【請求項7】
請求項3に記載の製造方法で得られた多糖類製剤を用いて医薬品を製造する、医薬品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多糖類製剤及びその使用に係り、詳しくはタラガム及びキサンタンガムからなり、常温(本発明において、常温とは、10〜30℃の範囲を指す。)にて、短時間の混合で、水溶液に高い粘性を付与することができると共に、加温条件下においても高い粘性付与効果を示す多糖類製剤とその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
病院または介護設備で用いる嚥下剤として、飲食物にトロミを加えることで嚥下困難者の経口食を可能とするトロミ剤、飲食物をゼリー状に固め嚥下困難者に供する目的で使用するゲル化剤などがある。
トロミ剤は、例えば、飲食前に、10〜50℃程度の飲食物に必要量のトロミ剤を加えて、スプーンやハンディミキサーなどで短時間撹拌混合することにより、トロミを飲食物に付与するために使用される。この使用条件、即ち、10〜50℃での短時間の撹拌混合に適した製剤としては、低温で水溶液に粘性を付与しやすく、かつ比較的短時間で水溶液の粘性が発現するものが好ましく、従来はキサンタンガム、またはキサンタンガムを主成分とする製剤が使用されている。
【0003】
しかしながら、キサンタンガムは、例えば2質量%水溶液の粘度(25℃)が1000mPa・s程度であり、トロミ剤に一般的に要求される粘度(3000〜6000mPa・s)に比べて低い。そのためキサンタンガムを主成分とする製剤は1回の使用量が多く、トロミ剤の使用コストが高くつくという問題があった。
また、キサンタンガムは常温で溶解させても水溶液に粘性付与できるが、十分な粘性を発現させるには、ミキサーで10分程度混合する必要があり、作業性も悪かった。
【0004】
従来、キサンタンガムによる粘性付与効果、或いはその他の要求特性を改善するために、キサンタンガムと他の多糖類、例えばローカストビーンガム、タラガム、グァーガムなどのガラクトマンナン、あるいはグルコマンナンなどを併用することが行われている。
【0005】
例えば、特許文献1には、タラガムおよび/またはローカストビーンガムと、キサンタンガムとを併用してなる易嚥下補助組成物が記載されている。特許文献1では、タラガム、ローカストビーンガムから選ばれる少なくとも1種とキサンタンガムの配合比(タラガム、ローカストビーンガム/キサンタンガム)は、これらの混合物全体を100とした重量%で25/75〜85/15、好ましくは、30/70〜75/25、より好ましくは40/60〜60/40であるとされている。
なお、特許文献1には、易嚥下補助組成物の製造方法については、各原料粉末をリボンミキサー、Vブレンダー等で所定量混合すると記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、(a)グァーガム、タラガム及びローカストビーンガムから選ばれる少なくとも2種類の多糖類の共沈物と、(b)キサンタンガム及び/又はκ−カラギナンとを含むゲル化剤組成物が提案されて、(a)成分と(b)成分の配合割合として幅広い範囲が記載されているが、(a)成分は、グァーガムとローカストビーンガムの共沈物が好ましいとされ、タラガムとキサンタンガムとの具体的な併用例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−191553号公報
【特許文献2】特開2004−350679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されるように、タラガムとキサンタンガムとを併用することで、タラガムによる高粘度化の効果と、キサンタンガムによる常温での粘性付与効果とで、効率的な嚥下剤やトロミ剤を得ることができるが、本発明者らの検討の結果、常温にて短時間の混合で水溶液に高い粘性を付与できると共に、加温条件下において更なる高粘性を付与するためには、特許文献1に記載される技術では十分に満足し得る効果が得られず、タラガム/キサンタンガム比率やその混合方法において更なる改良が望まれる。
【0009】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであって、常温にて短時間の混合で水溶液に高い粘性を付与できると共に、加温条件下において更なる高粘性を付与することができる多糖類製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、タラガムとキサンタンガムを所定の配合比率とすること、更には、タラガムとキサンタンガムとの混合を水性媒体中で行うことにより、上記課題を解決することができることを見出した。
【0011】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0012】
[1] タラガム及びキサンタンガムを水性媒体に溶解して製造される多糖類製剤であって、タラガム:キサンタンガムの含有割合(質量比)が、90:10〜75:25であることを特徴とする、多糖類製剤。
【0013】
[2] [1]に記載の多糖類製剤を含有する、多糖類製剤含有組成物。
【0014】
[3] [1]に記載の多糖類製剤を含有する、食品。
【0015】
[4] [1]に記載の多糖類製剤を含有する、化粧品。
【0016】
[5] [1]に記載の多糖類製剤を含有する、医薬品。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、常温にて短時間の混合で水溶液に高い粘性を付与できると共に、加温条件下において更なる高粘性を付与することができる多糖類製剤が提供される。
本発明の多糖類製剤は、常温にて短時間で飲食物等に粘性等を付与することができ、また、加温下においては更なる高粘性を付与することができるため、優れた嚥下剤、例えばトロミ剤やゲル化剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
[多糖類製剤]
本発明の多糖類製剤は、タラガム及びキサンタンガムを水性媒体に溶解して製造される多糖類製剤であって、タラガム:キサンタンガムの含有割合(質量比)が、90:10〜75:25であることを特徴とする。
【0020】
タラガムは、粘度向上に有効に機能し、キサンタンガムは、常温における短時間での粘性付与効果に優れる成分であり、本発明の多糖類製剤においては、タラガム及びキサンタンガムの併用による相乗効果を有効に得るために、タラガム/キサンタンガム比率(質量比率)を90:10〜75:25、好ましくは85/15〜75/25、より好ましくは80/20〜75/25とする。上記範囲であることにより、常温で短時間の混合で水溶液に高い粘性を付与しやすく、加温下での粘性付与効果がより好ましい。
【0021】
このような本発明の多糖類製剤は、好ましくは、タラガム及びキサンタンガムを水性媒体に溶解させる工程を経て製造される。具体的には、タラガム及びキサンタンガムを水性媒体に溶解させる溶解工程と、得られた溶液から多糖類製剤を回収する回収工程を経て製造される。
以下に本発明の多糖類製剤の好適な製造方法を説明するが、本発明の多糖類製剤の製造方法は、何ら以下に記載する方法に限定されるものではない。
【0022】
<水性媒体>
タラガム及びキサンタンガムを溶解させる水性媒体としては、工業用水、水道水、イオン交換水、蒸留水、あるいはそれらに無機塩を溶解させたものなどを用いることができる。
【0023】
水性媒体にキレート剤を添加してもよく、キレート剤を用いる場合、キレート剤としては、クラウンエーテル化合物、エチレンジアミン四酢酸及び/又はその塩(以下、「酸(塩)」と記載する。)、アスコルビン酸(塩)、リンゴ酸(塩)、フマル酸(塩)、クエン酸(塩)、アスパラギン酸(塩)、乳酸(塩)、グルクロン酸などの有機酸化合物等が挙げられる。これらのキレート剤は1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、得られる多糖類製剤の用途や操作性、金属イオンキレート能力を考慮すると、リンゴ酸(塩)、クエン酸(塩)、アスパラギン酸(塩)などの有機酸(塩)が好ましく、一般的にはアスパラギン酸(塩)、クエン酸(塩)が好適に使用される。なお、上記の各種酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0024】
キレート剤の水性媒体中の濃度は、特に限定されないが、0.01mmol/L以上が好ましく、0.1mmol/L以上がより好ましく、50mmol/L以下が好ましく、20mmol/L以下がより好ましい。キレート剤濃度が上記下限以上であることにより、得られる多糖類製剤の常温における短時間での粘性付与能力がより良好で、また、上記上限以下であると、回収した多糖類製剤の中に不純物として混入するリスクがより少なくなり、また製造コストの増加を招きにくい。
【0025】
<溶解工程>
溶解工程では、水性媒体に、タラガムとキサンタンガムとを添加し、好ましくは、これらをまず分散させた後、溶解させる。水性媒体に添加するタラガムとキサンタンガムの量(タラガムとキサンタンガムの合計量)は、特に限定されないが、生産性、その後の回収工程における操作性の面から、水性媒体中濃度として好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。なお、タラガムをキサンタンガムは、前述のタラガム/キサンタンガム比率の多糖類製剤が得られるような割合で用いる。
【0026】
水性媒体へのタラガム及びキサンタンガム(以下「原料粉末」と称す場合がある。)の添加順序については特に制限はなく、いずれか一方を先に添加し、他方を後に添加するようにしてもよく、これらを同時に添加してもよく、予めこれらを軽く混合した混合粉末として添加してもよいが、例えば、水性媒体の撹拌下に、比較的水溶性の低いタラガムを先に添加して分散させた後、キサンタンガムを添加して分散させることが、分散性、溶解性の面で好ましい。また、逆に、キサンタンガムを先に添加した後、タラガムを添加することにより、製造された多糖類粉末の粘度が高くなる傾向があり、好ましい。
【0027】
水性媒体に原料粉末を分散させる際の操作条件については特に限定するものではないが、分散性を上げるために、水性媒体の撹拌下に行うことが好ましく、また、分散時の水性媒体の液温は0℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、70℃以下が好ましく、特に50℃以下とすることが好ましい。この液温が下限以上であると分散時に水性媒体中の粘度が上昇しにくく、原料粉末の分散性がより低下しにくい。一方、下限以下であると、発生する水蒸気により、製造装置、特に粉末投入部に原料粉末が付着しにくい傾向があり、製品汚染の危険性が低い。分散時間は、原料粉末が水性媒体中へ分散されればよく、特に限定しないが、分散性、生産性の面から通常1〜100分程度である。
【0028】
水性媒体に原料粉末を分散させた後、水性媒体を好ましくは50℃以上に加温し原料粉末を溶解させる。このときの水性媒体の液温の上限は多糖類製剤の生産性、品質に影響が無ければ特に限定されないが、95℃以下とすることが好ましい。水性媒体の液温が50℃以上であると原料粉末、特にタラガムの溶解性がより良好で、95℃以下であると回収された多糖類製剤の品質低下及び操作上の危険性の心配が少ない。
【0029】
加温溶解時の水性媒体のpHは目的とする性能を有する多糖類製剤を得ることができれば特に限定されないが、好ましくは3.0以上、より好ましくは4.0以上、好ましくは9.0以下、より好ましくは7.0以下である。pHがこの範囲であることにより、化学的加水分解が起こりにくく回収された多糖類製剤の粘度がより良好である。
【0030】
水性媒体のpH調整は原料粉末を溶解させるどの段階で行ってもかまわないが、一般的には操作性、得られる多糖類製剤の品質を考慮して、水性媒体の加温を行う前までに行われる。pH調整は、原料粉末の分散前に行ってもよい。
【0031】
水性媒体のpH調整に使用する酸性化合物、塩基性化合物は特に限定されないが、一般的には無機酸性化合物、具体的には塩酸等、あるいは有機酸化合物、具体的にクエン酸、酢酸、グルクロン酸、フマル酸等(環化物を形成するものはそれも含む、例えばグルコノラクトン、無水フマル酸等)、または無機塩基化合物、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。これらは、pHが好ましい範囲に調整できれば添加濃度や形態は特に限定されない。
【0032】
キレート剤としてクエン酸(塩)などの有機酸(塩)を用いる場合は、当該有機酸(塩)でpH調整することも可能である。例えば、pH緩衝能を有するクエン酸(塩)によりpH調整を行うこともできる。
【0033】
原料粉末の溶解時間は、原料粉末が水性媒体中へ溶解されればよく特に限定しないが、溶解性、生産性の面から通常5分〜3時間程度である。
【0034】
<回収工程>
溶解工程で得られた溶液から多糖類製剤を回収する方法には特に制限はなく、公知の加工プロセス、例えば濾過、遠心分離、及び水溶性有機溶媒による沈殿析出などにより固液分離し、その後、必要に応じて乾燥、粉砕などの工程を行うことにより、実質的に品質低下を来たすことなく本発明の多糖類製剤を効率的に得ることができる。
【0035】
具体的には、まず、溶解工程で得られた原料粉末の溶液から、濾過や遠心分離などにより水不溶性の不純物・夾雑物を除去する。不純物等の除去方法は特に限定されないが、生産性や操作性の面で濾過操作が好ましく、生産性から加圧濾過がより好ましい。その際の圧力は、濾過速度、設備耐久性等から好ましくは0.001MPa以上、さらに好ましくは0.05MPa以上、好ましくは3MPa以下、さらに好ましくは2MPa以下である。この際、濾過性を改善するために濾過助剤を添加してもよい。濾過助剤としてはパーライト、珪藻土など公知のものを使用すればよく、その使用濃度は濾過速度、廃棄濾残量等から、濾過処理前の溶液に対し0.01質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上、好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0036】
続いて不純物等を除去した溶液から目的とする多糖類製剤を回収する。その回収方法としては、回収量、品質等を考慮すると、水溶性有機溶剤を用いた沈殿析出が好ましい。水溶性有機溶剤としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコールのような水溶性アルコール、アセトンなどの1種又は2種以上を用いることができ、沈殿の形状や回収量、品質等からエタノール、イソプロピルアルコールが好ましい。
【0037】
沈殿析出は、原料粉末の溶液と水溶性有機溶剤を混合することにより行う。その混合方法には特に制限はなく、原料粉末の溶液に水溶性有機溶剤を加えてもよく、水溶性有機溶剤に原料粉末の溶液を加えてもよい。
原料粉末の溶液に対する水溶性有機溶剤の量は、多糖類製剤の沈殿が形成される量であればよく、特に限定されないが、通常は原料粉末の溶液に対して、容量で好ましくは0.1倍以上、より好ましくは0.5倍以上、好ましくは20倍以下、より好ましくは10倍以下である。また、沈殿析出時の溶液の温度は10〜70℃程度が好ましい。
【0038】
得られた多糖類製剤の沈殿から圧搾、遠心分離、加圧濾過、流動乾燥、静置乾燥、真空乾燥等、あるいはそれらを適宜組み合わせた手段により、沈殿に含まれる有機溶剤と水を除去した後、用途に応じた粉末のサイズに粉砕して多糖類製剤を得、目的とする用途に用いることができる。
【0039】
<用途>
本発明の多糖類製剤、特に上記の溶解工程を経て製造された多糖類製剤は、蛋白質、脂質などの不純物量が低いため水溶液とした際の透明度が高く、かつ高い粘度を有するため、多糖類製剤として、食品、化粧品あるいは医薬品添加物等として、増粘・安定化用途に利用することができる。
【0040】
食品用途としては、例えば清涼飲料水、冷菓、菓子、ゼリー、ドレッシング・ケッチャップなどの調味料、チーズ・クリームなどの乳製品、ハム・ソーセージなどの食肉加工品、水産練り製品などに用いられる。また、化粧品用途としては、化粧水、化粧用クリーム、シャンプーなどの洗髪剤、整髪剤などに用いられる。
また、多糖類製剤の増粘性を利用して、嚥下剤などの特化食品用途への応用も可能である。例えば、嚥下剤の場合、常温での溶解性や、早期の粘度上昇が求められることから、本発明の多糖類製剤よりなる多糖類製剤の利用は非常に有効である。例えば、トロミ剤に利用することにより、少量添加で、常温にて非常に短い時間の撹拌で、飲食物に高い粘性を付与することができる。
【0041】
上記のような各種の用途において、本発明の多糖類製剤は、カラギナン、ローカストビーンガム、グァーガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、グルコマンナン、寒天等の他の多糖類と混合した多糖類製剤含有組成物として用いることもできる。また、本発明の多糖類製剤と、カラギナン、ローカストビーンガム、グァーガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、グルコマンナン、寒天等を配合した多糖類製剤含有組成物として使用に供することもできる。
【実施例】
【0042】
以下に本発明の内容を実施例にて具体的に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0043】
なお、多糖類製剤中のタラガム/キサンタンガム比率(質量比率)は、多糖類製剤の0.2質量%水溶液を蒸発乾固することにより成膜し、得られたフィルムのIRスペクトル(JASCO FT/IR−4100、ATR法(1回反射)測定)の1720cm−1(キサンタンガム由来の吸収)、810cm−1(タラガム由来の吸収)の吸収強度比から求めた。
【0044】
また、多糖類製剤水溶液の粘度のうち、「加温粘度」は、80℃で1時間加温して溶解させた後、液温25℃にてBL型粘度計(東機産業社製)で測定した値である。また、単に「粘度」とあるものは、各々の撹拌条件で撹拌後、液温25℃にてBL型粘度計(東機産業社製)で測定した値である。
【0045】
[実施例1]
撹拌翼で撹拌しながら、試薬蒸留水10L(和光純薬社製)に、キサンタンガム粉末(ADM社製)8g、続いて粗製タラガム粉末(EXANDAL社製)52gを加え、25℃で5分間分散(キサンタンガム及びタラガムの合計濃度0.6質量%)させた。分散後、水溶液のpHを12質量%塩酸を用いて5.5に調整し、75℃で1時間撹拌して両粉末を溶解させた。
この水溶液に濾過助剤(三井金属工業社製「パーライト」)を対水溶液で1.3重量%添加した後、0.2MPaで加圧濾過を行った。回収した濾液に、35℃で、容量比で2倍のイソプロピルアルコールを添加し、生成した沈殿を圧搾脱水し、常圧乾燥(75℃)後、粉砕して多糖類製剤36gを得た。
【0046】
この多糖類製剤中のタラガム/キサンタンガム比率は約85/15であった。
【0047】
得られた多糖類製剤15.0gとマルトデキストリン(松谷化学工業社製)85.0gを紛体混合した混合品4.0gを蒸留水396.0gに分散させた後、80℃で1時間加温して溶解させることにより、多糖類製剤0.15質量%水溶液を調製し、その加温粘度を測定した。
また、同様の質量で混合品を蒸留水に分散させ、25℃で0.25分、0.5分、1.0分、1.5分又は3.0分間それぞれ撹拌し、撹拌0.5分後の粘度を測定した。
これらの結果を表1に示す。
【0048】
[比較例1]
撹拌翼で撹拌しながら、試薬蒸留水10L(和光純薬社製)に、キサンタンガム粉末(CPケルコ社製)18g、続いて粗製タラガム粉末(EXANDAL社製)52gを加え、25℃で10分間分散させた。分散後、水溶液のpHを12質量%塩酸を用いて6.0に調製し、80℃で1時間撹拌して両粉末を溶解させた。
その後の工程は、実施例1と同様に行い、多糖類製剤50gを得た。
この多糖類製剤中のタラガム/キサンタンガム比率は約70/30であった。
得られた多糖類製剤を用いて、実施例1と同様にしてマルトデキストリンとの混合品を作製した後、加温粘度等を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1より、タラガム/キサンタンガム比率=85/15の本発明の多糖類製剤は、タラガム/キサンタンガム比率=70/30の比較例1の多糖類製剤よりも、加温粘度が高く、また常温で、短時間の混合で水溶液に高い粘性を付与できることが分かる。
【0051】
[実施例3,4、比較例2,3、参考例1
キサンタンガム粉末/粗製タラガム粉末の合計量(60g)は変えず、試薬蒸留水に溶解させるキサンタンガム粉末と粗製タラガム粉末の割合を変化させ、実施例1と同様の操作を行って、表2に示すタラガム/キサンタンガム比率の多糖類製剤を得た。
得られた多糖類製剤30.0gとマルトデキストリン(松谷化学工業社製)70.0gを粉体混合し、得られた混合品4.0gを蒸留水396.0gに分散させて多糖類製剤0.3質量%水溶液を調製し、25℃で0.25分、1.0分、1.5分又は3.0分間それぞれ撹拌し、撹拌0.5分後の粘度を測定した。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2より、本発明の多糖類製剤は、常温で、短時間の混合で水溶液に高い粘性を付与できることが分かる。
これに対して、タラガムの比率が本発明の範囲より多い比較例2,3では、常温での粘度が著しく低い。
【0054】
[比較例4]
キサンタンガム粉末(ADM社製)と粗製タラガム粉末(EXANDAL社製)をそれぞれ別々に試薬蒸留水に分散、溶解させて、それぞれキサンタンガム水溶液とタラガム水溶液を調製し、各々の水溶液から実施例1と同様の操作で加圧濾過、イソプロピルアルコールによる沈殿析出、乾燥、粉砕を行って、各々キサンタンガム粉末とタラガム粉末を得た。このキサンタンガム粉末とタラガム粉末を、タラガム/キサンタンガム比率85/15となるようにミキサーで粉体混合し、混合粉末を得た。
得られた混合粉末15.0gとマルトデキストリン(松谷化学工業社製)85.0gを紛体混合した混合品4.0gを、蒸留水396.0gに分散させて、混合粉末0.15%の水溶液を調製し、実施例1と同様に加温粘度等を測定した。その結果を実施例1の結果と共に表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
表3より、粉体混合では粘性付与効果に優れた多糖類製剤を得ることができないことが分かる。