特許第6543956号(P6543956)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6543956
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】深孔加工用先端工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20190705BHJP
   B23B 51/06 20060101ALI20190705BHJP
【FI】
   B23B51/00 K
   B23B51/00 L
   B23B51/00 S
   B23B51/06 A
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-36561(P2015-36561)
(22)【出願日】2015年2月26日
(65)【公開番号】特開2016-155209(P2016-155209A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2017年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098615
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 学
(72)【発明者】
【氏名】中川 純一
【審査官】 中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−168911(JP,A)
【文献】 特開2010−155303(JP,A)
【文献】 特開2010−012523(JP,A)
【文献】 特開2013−103288(JP,A)
【文献】 実開平05−053812(JP,U)
【文献】 特開2001−252804(JP,A)
【文献】 特開2006−224197(JP,A)
【文献】 特開2006−334749(JP,A)
【文献】 特開2009−262277(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0237592(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0091296(US,A1)
【文献】 実開昭49−134592(JP,U)
【文献】 実開昭50−132795(JP,U)
【文献】 実開昭54−072791(JP,U)
【文献】 特表2013−525125(JP,A)
【文献】 特開2014−039997(JP,A)
【文献】 特開2014−054678(JP,A)
【文献】 特開2014−133271(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第2317568(DE,A1)
【文献】 国際公開第2005/095034(WO,A1)
【文献】 独国特許出願公開第102004014842(DE,A1)
【文献】 特開2007−044846(JP,A)
【文献】 特開2009−039791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00−29/34
B23B 51/00−51/14
B23D 1/00−13/06
B23D 37/00−43/08
B23D 67/00−81/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボーリングバーの先端に取り付けられ、工具本体と被加工材における加工済みの深孔との隙間から供給した切削油を切削屑と共に前記工具本体およびボーリンクバーの内部を通過して後端側に排出する深孔加工用先端工具であって、
全体が円柱形状を呈する工具本体と、
上記工具本体の先端面に取り付けられた切刃と、
上記工具本体の先端面の周辺と該工具本体の円周面との間にわたって配置された第1〜第4ガイドパッドとを含み、
上記工具本体の先端面の回転中心から上記切刃の刃面を通過する仮想の径線の位置を0度とした際に、該切刃の切削力を受ける向きにおいて、90度±10度回転した位置に上記第1ガイドパッドを、180度±10度回転した位置に上記第2ガイドパッドを、220度±10度回転した位置に上記第3ガイドパッドを、270度±10度回転した位置に上記第4ガイドパッドを配置してなる、
ことを特徴とする深孔加工用先端工具。
【請求項2】
前記第3ガイドパッドは、前記工具本体の先端面の回転中心から前記切刃の位置を0度とした際に、該切刃の切削力を受ける向きにおいて、221〜230度回転した位置に配置されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の深孔加工用先端工具。
【請求項3】
前記工具本体の先端面には、前記切刃を除いた位置に、前記切削油および切削屑を排出するための貫通孔に連通する単数あるいは複数の開口部が位置している、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の深孔加工用先端工具。
【請求項4】
前記切刃は、前記工具本体の先端面の回転中心を含む中央側チップと、前記先端面の周辺から一部が外側に突出する外周側チップと、該外周側チップとは上記先端面の回転中心を挟んだ反対側の中間位置に配置され且つ上記各チップと前記径線に沿って直線状に配置された中間チップとから構成されている、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の深孔加工用先端工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、石油などの掘削に用いるボーリングバーの先端に取り付けられ、工具本体と被加工材における加工済みの深孔との隙間から供給した切削油を切削屑と共に前記工具本体およびボーリンクバーの内部を通過して後端側に排出する深孔加工用先端工具(ボーリンクヘッド)に関する。
【背景技術】
【0002】
前記のような深孔加工用先端工具を用いる所謂BTA方式による深孔加工を精度良く行うため、かかる工具の先端面において、該先端面に設ける刃部の切削力を受ける向きにおいて、90度置きごとに3個のガイドパットを等間隔に配置した深孔加工工具が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかし、上記特許文献1に記載の深孔加工工具では、深孔加工中に該加工工具やボーリングバーが不安定な振動を生じ、その結果、被加工材の切削量が変動し、且つ刃部やガイドパッドと被加工材との接触力の変動などを来すことにより、形成される深孔の断面が三角形状ないし五角形状になる場合が多々あった。
【0003】
更に、特許文献1に記載の前記深孔加工工具による問題点を解決するため、前記先端工具の先端面側に配置する3個のガイド部の位置を、当該先端工具の先端面の回転中心に対する刃部の切れ刃の位置を0とした際に、係る刃部の切削力を受ける向きに90度±10度回転した位置に第1のガイド部を、180度±10度回転した位置に第2のガイド部を、181度〜220度回転した位置に第3のガイド部を配置するようにした深孔加工用先端工具のガイド部配置構造およびガイド部配置方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
特許文献2に記載の前記深孔加工用先端工具のガイド部配置構造によれば、深孔加工中に該先端工具やボーリングバーによる不安定な振動を若干は低減されるが、形成される深孔の断面が三角形状ないし五角形状になり得る場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−53812号公報(第1〜3頁、図1〜7)
【特許文献2】特許第4951788号公報(第1〜24頁、図1〜13)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、背景技術で説明した問題点を解決し、深孔加工中に本先端工具やボーリングバーによる不安定な振動を格段に低減でき、且つ被加工材に形成される深孔の断面を真円形に確実に近似させられる深孔加工用先端工具を提供する、ことを課題とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、前記先端工具の先端面側に4個のガイドパッドをそれぞれ適正な位置に配置する、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明の深孔加工用先端工具(請求項1)は、ボーリングバーの先端に取り付けられ、工具本体と被加工材における加工済みの深孔との隙間から供給した切削油を切削屑と共に前記工具本体およびボーリンクバーの内部を通過して後端側に排出する深孔加工用先端工具であって、全体が円柱形状を呈する工具本体と、該工具本体の先端面に取り付けられた切刃と、前記工具本体の先端面の周辺と該工具本体の円周面との間にわたって配置された第1〜第4ガイドパッドとを含み、上記工具本体の先端面の回転中心から上記切刃の刃面を通過する仮想の径線の位置を0度とした際に、該切刃の切削力を受ける向きにおいて、90度±10度回転した位置に上記第1ガイドパッドを、180度±10度回転した位置に上記第2ガイドパッドを、220度±10度回転した位置に上記第3ガイドパッドを、270度±10度回転した位置に上記第4ガイドパッドを配置してなる、ことを特徴とする。
【0007】
これによれば、前記第1,第2,第4ガイドパッドが先端面の回転中心から上記切刃の刃面を通過する仮想の径線の位置を0度とした際に、該切刃の切削力を受ける向きに約90度ずつ順次離れた位置に配置し、且つ第3ガイドパッドが約220度離れた位置に配置することで、以下の効果(1)〜(4)を奏することが可能となる。
(1)深孔加工中において、第1〜第3ガイドパッドが加工済みの深孔の内壁面に接触して外側向きの力を受けても、第4ガイドパッドが回転中心向きの力を受けるため、全体としてバランスが取れ、被加工材に形成される深孔の断面が三角形状になりにくく、真円形状に近くなる。
(2)深孔加工中において、第1,第2ガイドパッドが加工済みの深孔の内壁面に接触して外側向きの力を受けても、第3,第4ガイドパッドが回転中心向きの力を受けるため、全体としてバランスが取れ、被加工材に形成される深孔の断面が五角形状になりにくく、真円形状に近くなる。
(3)上記(1)および(2)が相まって、深孔加工中における不安定な振動を格段に低減することができる。
(4)上記(1)乃至(3)によって、被加工材に断面が真円形に近似した断面となり、且つ軸方向に沿って直線状の深孔を確実に形成することが可能となる。
【0008】
尚、前記工具本体は、例えば、機械構造用鋼(SC鋼種)などからなり、前記先端面と後端面との間に切削油および切削屑を排出するための貫通孔が軸方向に沿って貫通している。
また、前記切刃は、例えば、超硬(WC)からなる単一の細長いチップからなる形態の他、前記先端面の直径および加工すべき深孔の内径が比較的大径である場合には、後述するように、上記先端面の径方向に沿った当該先端面の中心および周辺を含む位置に3個以上のチップを直線状に配置した形態としても良い。
また、前記切刃の位置は、被加工材を切削する刃面の径方向に沿った辺である。
更に、前記ガイドパッドは、例えば、超硬(WC)からなり、前記工具本体の先端面の周辺と該工具本体の円周面との間にわたり且つ軸方向に沿って形成された凹溝内に板形状の基部が挿入され、且つ円周方向の両側に隣接する上記工具本体の円周面と相似形状の湾曲面を当該円周面よりも外側に突出するように、例えば、複数のボルトなどによって固定される。
加えて、前記ボーリングバーおよび深孔加工用先端工具によって、深孔が形成される被加工材は、例えば、石油などの掘削に用いられる長尺なパイプを得るため、円周面(表面)側を温間鍛造などにより硬化処理されたオーステナイト系のステンレス鋼からなる長尺(例えば、約1000cm)な丸棒が挙げられる。
【0009】
また、本発明には、前記第3ガイドパッドは、前記工具本体の先端面の回転中心から前記切刃の位置を0度とした際に、該切刃の切削力を受ける向きにおいて、221〜230度回転した位置に配置されている、深孔加工用先端工具(請求項2)も含まれる。
これによれば、前述した第1〜第4ガイドパッドが受ける力全体のバランスが一層取り易くなるので、前記効果(1)〜(4)を確実に得ることが可能となる。
【0010】
更に、本発明には、前記工具本体の先端面には、前記切刃を除いた位置に、前記切削油および切削屑を排出するための貫通孔に連通する単数あるいは複数の開口部が位置している、深孔加工用先端工具(請求項3)も含まれる。
これによれば、被加工材に形成された深孔と前記工具本体の外周面との隙間から強制的に圧送された切削油を切削屑と共に、該工具本体の先端面に開口した単数または複数の開口部から連通する前記貫通孔に送給して、前記ボーリングバーの内部からその基部側に確実に排出できる。従って、前記効果(4)における深孔の真円度を損なう事態を防止することが可能となる。
【0011】
加えて、本発明には、前記切刃は、前記工具本体の先端面の回転中心を含む中央側チップと、前記先端面の周辺から一部が外側に突出する外周側チップと、該外周側チップとは上記先端面の回転中心を挟んだ反対側の中間位置に配置され且つ上記各チップと前記径線に沿って直線状に配置された中間チップとから構成されている、深孔加工用先端工具(請求項4)も含まれる。
これによれば、前記工具本体の直径が比較的大径(例えば、約60mm)の場合であっても、該本体の先端面における回転中心から周辺に沿った半径方向において、被加工材を該先端面全体の回転により確実に深孔加工することができる。
しかも、単一のチップからなる切刃に比べて、切削抵抗を低減できると共に、前記切削油を切削屑と共に前記工具本体の後端側に通過させる貫通孔の開口部を複数(2箇所以上)の位置に開設できるので、上記切削油および切削屑の回収もスムーズに行わせることも可能となる(効果(5))。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明による一形態の深孔加工用先端工具を示す平面図。
図2】(A)は図1中の矢印A方向に沿った側面図、(B)は図1中の矢印B方向に沿った側面図。
図3】上記深孔加工用先端工具の使用状態を示す概略図。
図4】実施例および比較例の先端工具により形成される深孔の真円度を示すグラフ。
図5】実施例および比較例の先端工具における振動数に対する変位量を示すグラフ。
図6】実施例および比較例の先端工具による加工長さに伴う変心量を示すグラフ。
図7】異なる形態の深孔加工用先端工具を示す平面図。
図8】(A)は図7中の矢印A方向に沿った側面図、(B)は図7中の矢印B方向に沿った側面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本発明による一形態の深孔加工用先端工具1aを示す平面図、図2(A)は、図1中の矢印A方向に沿った側面図、図2(B)は、図1中の矢印B方向に沿った側面図である。
深孔加工用先端工具1aは、図1図2(A),(B)に示すように、全体が円柱形状を呈する工具本体2と、該工具本体2の先端面3に取り付けられた3個の切刃5a〜5cと、前記先端面3の周辺と工具本体2の円周面(側面)とにわたって配置された第1〜第4ガイドパッド6a〜6dとを備えている。
上記工具本体2は、例えば、機械構造用鋼などからなり、上記先端面3は、その回転中心(中心)Cを頂点として緩くカーブする円弧面である。
【0014】
また、前記切刃5a〜5cは、例えば、超硬(WC)からなり、前記先端面3の回転中心Cを刃面に含む中央側チップ5bと、先端面3の周辺から一部が外側に突出する外周側チップ5aと、該外周側チップ5aとは先端面3の回転中心Cを挟んだ反対側の中間位置に配置され且つ上記チップ5a,5bと直線状に配置された中間チップ5cとから構成されている。即ち、かかるチップ5a〜5cは、前記先端面3において、その回転中心Cを通過する共通の直線上に被加工材を切削するそれぞれの刃面が配置され、且つこれら3個の合計で上記先端面3の半径よりも若干長くなる切刃を構成している。そのため、中間チップ5cの刃面は、外周側チップ5aおよび中央側チップ5bの刃面とは逆向きに配置されている。
以上のような3個のチップ5a〜5cからなる切刃5a〜5cを用いることで、前記工具本体2の直径および被加工材に穿設する深孔の内径が、例えば、50〜60mm以上の大径であっても、切削抵抗を効果的に低減できると共に、前記先端面3のほぼ全体で均一な切削が容易に行える。
尚、前記チップ5a〜5cには、取り替えが容易なスローアウェイチップが好適に用いられる。
【0015】
更に、前記第1〜第4ガイドパッド6a〜6dは、前記同様の超硬からなり、全体が扁平な直方体形状を呈し、且つ外周面が前記工具本体2の円周面と同様に外向きに凸となる湾曲面を有している。かかる第1〜第4ガイドパッド6a〜6dは、工具本体2の円周面にその軸方向に沿って形成された凹溝内に、上記湾曲面側を除いた大半の部分が嵌め込まれ、図示しない複数のボルトで固定される。
図1に示すように、前記工具本体2の先端面3において、回転中心Cから前記切刃5a〜5cの刃面を通過する仮想の径線の位置を0度とした際に、該切刃5a〜5cの切削力を受ける向き(方向)において、90度±10度回転した位置(角度θ1)に第1ガイドパッド6aを、180度±10度回転した位置(角度θ2)に第2ガイドパッド6bを、220度±10度回転した位置(角度θ3)に第3ガイドパッド6cを、270度±10度回転した位置(角度θ4)に第4ガイドパッド6dを配置している。
因みに、図1では、第1ガイドパッド6aの位置θ1は90度、第2ガイドパッド6bの位置θ2は180度、第3ガイドパッド6cの位置θ3は225度、第4ガイドパッド6dの位置θ4は270度であるが、これらに限られない。
【0016】
本発明の深孔加工用先端工具1aにおいて、前記第1〜第4ガイドパッド6a〜6dを前記のような各位置ごとに配置したのは、次のような理由による。
従来から周知(前記特許文献1)であった前記θ1,θ2,θ4の位置ごとに3個のガイドパッドを配置した深孔加工用先端工具では、被加工材に深孔加工した際に、径方向に沿って振動し且つ軸方向に沿って変位するため、形成される深孔の断面がほぼ三角形状ないしほぼ五角形状になる場合が多々あった。
また、前記特許文献2のように、3個のガイドパッドを配置する際に、第1,第2ガイドパッドを前記θ1,θ2ごとに配置すると共に、第3ガイドパッドを181度〜220度の範囲内位置に配置することにより、真円性の向上を図った先端工具を提案されているが、3個であることよる限界が残っていた。
【0017】
発明者は、被加工材に深孔加工した際に、径方向に沿った振動および軸方向に沿った変位を確実に低減するため、4個のガイドパッドを用い、且つ第1〜第4ガイドパッド6a〜6dの配置すべき位置を前記θ1〜θ4に個別に規定した。
そのため、深孔加工中に第1〜第3ガイドパッド6a〜6cが加工済みの深孔の内壁面に接触して外側向きの力を受けても、第4ガイドパッド6dが回転中心C向きの力を受けるため、全体としてバランスが取れ、被加工材に形成される深孔の断面が三角形状になりにくく、真円形状になる(効果(1))、ものと考えられる。
更に、深孔加工中に第1,第2ガイドパッド6a,6bが加工済みの深孔の内壁面に接触して外側向きの力を受けても、第3,第4ガイドパッド6c,6dが回転中心C向きの力を受けるため、全体としてバランスが取れ、被加工材に形成される深孔の断面が五角形状になりにくく、真円形状になる(効果(2))、ものと考えられる。
以上のような観点の理由は、追って実施例によって具体的に説明する。
【0018】
加えて、図1図2(A),(B)に示すように、前記工具本体2の先端面3において、前記切刃5a〜5cおよび第1〜第4ガイドパッド6a〜6dの挿入用凹部ごとを除いた位置に、2つ(複数)の開口部8,9が開設され、かかる開口部8,9は、工具本体2の後端4側を軸方向の中心に沿って貫通している貫通孔7に連通するように集束している。
即ち、図3の概略図で示すように、大型の旋盤(図示せず)に両端部を拘束されて高速回転する丸棒の被加工材Wに対し、その一端面から長尺なボーリングヘッド10の先端に前記深孔加工用先端工具1aを取り付け、これらを被加工材Wにおける中心部の軸方向に沿って順次押し込むことで、深孔加工が行われる。
上記ボーリングヘッド10の中心部には、長尺な貫通孔11が位置し、該貫通孔11と上記先端工具1a側の貫通孔7とが連通している。上記先端工具1aの工具本体2およびボーリングヘッド10と被加工材Wに形成される深孔の内周面との隙間には、図3で右側から切削油が上記先端工具1aの先端面3側に高圧によって供給される。かかる切削油は、前記切刃(チップ)5a〜5cにおいて切削された切削屑と共に、先端面3の前記開口部8,9から貫通孔7,11を経て図3の右側(外部)に排出される。
尚、排出された上記切削油は、篩いおよび磁気フイルタを通過することによって、切削屑を除去された後、再利用される。
【実施例】
【0019】
以下において、本発明の実施例について、比較例と共に説明する。
予め、オーステナイト系ステンレス鋼(JIS:SUS304相当)からなり、表面を温間鍛造により硬化処理した直径12cmで長さが1000cmの丸棒の被加工材Wを2本用意し、順次これらの両端部を大型旋盤に回転可能に拘束した。
上記の被加工材Wの軸方向において、直径56mmで長さが1000cmのボーリングバー10の先端に、予め、3個のスローアウェイチップからなる前記切刃5a〜5cを配置した、直径67ミリの工具本体2およびを取り付け、第1〜第4ガイドパッド6a〜6dを以下の位置に配置した実施例の深孔加工用先端工具1aを用意した。
実施例の第1ガイドパッド6aの位置θ1は90度、第2ガイドパッド6bの位置θ2は180度、第3ガイドパッド6cの位置θ3は221度、第4ガイドパッド6dの位置θ4は270度とした。
一方、上記と同じボーリングバー10の先端に、前記同様の切刃5a〜5cを含む直径67ミリの工具本体2を取り付け、且つ第1,第2,第4ガイドパッド6a,6b,6dを以下の位置配置した比較例の深孔加工用先端工具を用意した。
比較例の第1ガイドパッド6aの位置θ1は90度、第2ガイドパッド6bの位置θ2は180度、第4ガイドパッド6dの位置θ4は270度である(前記第3ガイドパッド6cを除いた形態で且つ前記特許文献1に記載のものと同じ)。
【0020】
1本の前記被加工材Wを円周方向に240rpmの回転数で回転させると共に、前記ボーリングバー10および実施例の深孔加工用先端工具1aを被加工材Wの軸方向に沿って毎分38mmの送り速度で該被加工材Wの中心軸に沿って進入させることによって、内径が68mmの深孔を得る深孔加工を行った(実施例)。
更に、残りの前記被加工材Wを上記と同じ回転数で回転させると共に、前記ボーリングバー10および比較例の深孔加工用先端工具を被加工材Wの軸方向に沿って上記と同じ送り速度で該被加工材Wの中心軸に沿って進入させることによって、内径が68mmの深孔を得る深孔加工を行った(比較例)。
【0021】
実施例の深孔加工用先端工具1aおよび比較例の深孔加工用先端工具を用いた深孔加工された2本の被加工材Wについて、それぞれ切削が開始された端面から100mmの位置で切断し、かかる切断面ごとに現れる深孔の内周面に対し、接触式センサーを有する真円測定機を用いて、真円度を個別に測定し、それらの結果を、図4の円グラフ中に示した。
図4に示すように、実線で示す実施例の接触軌跡(真円度)は、一点鎖線で示す架空の真円形に対し、全周においてほぼ近似していた。一方、図4中で破線で示す比較例の接触軌跡(真円度)は、ほぼ三角形状で且つ一点鎖線の真円形に対し、大きく逸脱していた。かかる結果よれば、実施例による深孔加工は、比較例による深孔加工よりも真円性において優れていることが判明した。
【0022】
また、前記深孔加工中において、実施例の深孔加工用先端工具1aおよび比較例の深孔加工用先端工具を用いた深孔加工している2本の被加工材Wの周面における垂直方向および水平方向の振動による径方向の変位を、被加工材Wごとの軸方向のほぼ全長に沿って測定し、上記2方向の変位と被加工材Wにおける軸方向の距離(長さ)とからなる2つの基グラフを得た。
上記2つの基グラフを公知のFFT解析(フーリエ解析)することで、振動の周波数別(周波数スペクトル)の変位を示すグラフ(周波数−変位)を、実施例と比較例とについて得た。それらの結果を図5のグラフに示した。尚、図5のグラフ中で、破線の比較例は、低い変位量では実線の実施例とほぼ重なっていた。
図5に示すように、実線で示す実施例では、振動が約16Hzの周波数において変位のピーク7.76μmが現れたのに対し、破線で示す比較例では、振動が約35Hzの周波数において変位のピーク11.92μmが現れた。従って、図5中の白抜き矢印で示すように、実施例による深孔加工は、振動の周波数および変位量の双方において、比較例による深孔加工よりも優れていることが判明した。
【0023】
更に、実施例の深孔加工用先端工具1aおよび比較例の深孔加工用先端工具を用いた深孔加工した2本の前記被加工材Wを、それぞれ切削が開始された端面から50cmごとに順次切断し、加工長さ別における変位量を測定した。それらの結果を、図6のグラフに示した。
図6に示すように、実施例による深孔加工では、加工長さが700cmに達した際に約4.5mmの変位量であったの対し、比較例による深孔加工では、加工長さが250cmに達した際に既に約4.2mmの変位量となっていた。かかる結果から、実施例による深孔加工によれば、直進性に優れていることが判明した。
前記図4図6に示した実施例の深孔加工によって、前記深孔加工用先端工具1aによる前記効果(1)〜(4)が裏付けられたことが容易に理解されよう。
【0024】
図7は、異なる形態の深孔加工用先端工具1bを示す平面図、図8(A),(B)は、図7中の矢印A方向または矢印B方向に沿った側面図である。
上記深孔加工用先端工具1bは、図7図8(A),(B)に示すように、前記同様の先端面3を含む工具本体2と、前記同様の位置θ1〜θ4に個別に配置された第1〜第4ガイドパッド6a〜6dとを備え、先端面3の回転中心Cから半径方向に沿って単一の切刃5が取り付けられている。かかる切刃5を除いた上記先端面3には、単一の開口部8が開口し、該開口部8は、後端4側の貫通孔7に連通している。かかる深孔加工用先端工具1bは、工具本体2の直径が、例えば、40〜30cm以下の比較的小径のものに好適である。
以上のような深孔加工用先端工具1bによっても、前記効果(1)〜(4)と同様の効果を奏することが可能である。
【0025】
本発明は、以上において説明した各形態や実施例に限定されるものではない。
例えば、前記切刃は、5個のチップからなるものとし、前記先端面3の中心C付近の中央側チップ、周辺側の外周側チップ、およびこれらの間に位置する中間チップと、前記外周側チップの径方向の反対側に位置し且つ半径方向で上記3つのチップ間ごとにほぼ位置する2つの中間チップとからなる形態としても良い。
また、前記切刃5,5a〜5cと第1〜第4ガイドパッド6a〜6dは、前記超硬に限らず、サーメットからなるものや、部分安定化ジルコニアのようなファインセラミックからなるものとしても良い
更に、第1〜第4ガイドパッド6a〜6dの底部側を受け入れる前記工具本体2の凹部は、底面の幅が開口部の幅よりも広い底広凹溝としても良い。
加えて、前記工具本体2の先端面3に開口し且つ前記貫通孔7に連通する開口部は、3箇所以上としても良い。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、深孔加工中に本先端工具やボーリングバーによる不安定な振動を格段に低減でき、且つ被加工材に形成される深孔の断面を真円形に確実に近似させられる深孔加工用先端工具を確実に提供できる。
【符号の説明】
【0027】
1a,1b………深孔加工用先端工具
2…………………工具本体
3…………………先端面
5,5a〜5c…切刃
6a〜6d………ガイドパッド
7…………………貫通孔
8,9……………開口部
10………………ボーリングバー
C…………………回転中心
W…………………被加工材
θ1〜θ4………角度(位置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8