【0018】
加えて、
図1,
図2(A),(B)に示すように、前記工具本体2の先端面3において、前記切刃5a〜5cおよび第1〜第4ガイドパッド6a〜6dの挿入用凹部ごとを除いた位置に、2つ(複数)の開口部8,9が開設され、かかる開口部8,9は、工具本体2の後端4側を軸方向の中心に沿って貫通している貫通孔7に連通するように集束している。
即ち、
図3の概略図で示すように、大型の旋盤(図示せず)に両端部を拘束されて高速回転する丸棒の被加工材Wに対し、その一端面から長尺なボーリングヘッド10の先端に前記深孔加工用先端工具1aを取り付け、これらを被加工材Wにおける中心部の軸方向に沿って順次押し込むことで、深孔加工が行われる。
上記ボーリングヘッド10の中心部には、長尺な貫通孔11が位置し、該貫通孔11と上記先端工具1a側の貫通孔7とが連通している。上記先端工具1aの工具本体2およびボーリングヘッド10と被加工材Wに形成される深孔の内周面との隙間には、
図3で右側から切削油が上記先端工具1aの先端面3側に高圧によって供給される。かかる切削油は、前記切刃(チップ)5a〜5cにおいて切削された切削屑と共に、先端面3の前記開口部8,9から貫通孔7,11を経て
図3の右側(外部)に排出される。
尚、排出された上記切削油は、篩いおよび磁気フイルタを通過することによって、切削屑を除去された後、再利用される。
【実施例】
【0019】
以下において、本発明の実施例について、比較例と共に説明する。
予め、オーステナイト系ステンレス鋼(JIS:SUS304相当)からなり、表面を温間鍛造により硬化処理した直径12cmで長さが1000cmの丸棒の被加工材Wを2本用意し、順次これらの両端部を大型旋盤に回転可能に拘束した。
上記の被加工材Wの軸方向において、直径56mmで長さが1000cmのボーリングバー10の先端に、予め、3個のスローアウェイチップからなる前記切刃5a〜5cを配置した、直径67ミリの工具本体2およびを取り付け、第1〜第4ガイドパッド6a〜6dを以下の位置に配置した実施例の深孔加工用先端工具1aを用意した。
実施例の第1ガイドパッド6aの位置θ1は90度、第2ガイドパッド6bの位置θ2は180度、第3ガイドパッド6cの位置θ3は221度、第4ガイドパッド6dの位置θ4は270度とした。
一方、上記と同じボーリングバー10の先端に、前記同様の切刃5a〜5cを含む直径67ミリの工具本体2を取り付け、且つ第1,第2,第4ガイドパッド6a,6b,6dを以下の位置配置した比較例の深孔加工用先端工具を用意した。
比較例の第1ガイドパッド6aの位置θ1は90度、第2ガイドパッド6bの位置θ2は180度、第4ガイドパッド6dの位置θ4は270度である(前記第3ガイドパッド6cを除いた形態で且つ前記特許文献1に記載のものと同じ)。
【0020】
1本の前記被加工材Wを円周方向に240rpmの回転数で回転させると共に、前記ボーリングバー10および実施例の深孔加工用先端工具1aを被加工材Wの軸方向に沿って毎分38mmの送り速度で該被加工材Wの中心軸に沿って進入させることによって、内径が68mmの深孔を得る深孔加工を行った(実施例)。
更に、残りの前記被加工材Wを上記と同じ回転数で回転させると共に、前記ボーリングバー10および比較例の深孔加工用先端工具を被加工材Wの軸方向に沿って上記と同じ送り速度で該被加工材Wの中心軸に沿って進入させることによって、内径が68mmの深孔を得る深孔加工を行った(比較例)。
【0021】
実施例の深孔加工用先端工具1aおよび比較例の深孔加工用先端工具を用いた深孔加工された2本の被加工材Wについて、それぞれ切削が開始された端面から100mmの位置で切断し、かかる切断面ごとに現れる深孔の内周面に対し、接触式センサーを有する真円測定機を用いて、真円度を個別に測定し、それらの結果を、
図4の円グラフ中に示した。
図4に示すように、実線で示す実施例の接触軌跡(真円度)は、一点鎖線で示す架空の真円形に対し、全周においてほぼ近似していた。一方、
図4中で破線で示す比較例の接触軌跡(真円度)は、ほぼ三角形状で且つ一点鎖線の真円形に対し、大きく逸脱していた。かかる結果よれば、実施例による深孔加工は、比較例による深孔加工よりも真円性において優れていることが判明した。
【0022】
また、前記深孔加工中において、実施例の深孔加工用先端工具1aおよび比較例の深孔加工用先端工具を用いた深孔加工している2本の被加工材Wの周面における垂直方向および水平方向の振動による径方向の変位を、被加工材Wごとの軸方向のほぼ全長に沿って測定し、上記2方向の変位と被加工材Wにおける軸方向の距離(長さ)とからなる2つの基グラフを得た。
上記2つの基グラフを公知のFFT解析(フーリエ解析)することで、振動の周波数別(周波数スペクトル)の変位を示すグラフ(周波数−変位)を、実施例と比較例とについて得た。それらの結果を
図5のグラフに示した。尚、
図5のグラフ中で、破線の比較例は、低い変位量では実線の実施例とほぼ重なっていた。
図5に示すように、実線で示す実施例では、振動が約16Hzの周波数において変位のピーク7.76μmが現れたのに対し、破線で示す比較例では、振動が約35Hzの周波数において変位のピーク11.92μmが現れた。従って、
図5中の白抜き矢印で示すように、実施例による深孔加工は、振動の周波数および変位量の双方において、比較例による深孔加工よりも優れていることが判明した。
【0023】
更に、実施例の深孔加工用先端工具1aおよび比較例の深孔加工用先端工具を用いた深孔加工した2本の前記被加工材Wを、それぞれ切削が開始された端面から50cmごとに順次切断し、加工長さ別における変位量を測定した。それらの結果を、
図6のグラフに示した。
図6に示すように、実施例による深孔加工では、加工長さが700cmに達した際に約4.5mmの変位量であったの対し、比較例による深孔加工では、加工長さが250cmに達した際に既に約4.2mmの変位量となっていた。かかる結果から、実施例による深孔加工によれば、直進性に優れていることが判明した。
前記
図4〜
図6に示した実施例の深孔加工によって、前記深孔加工用先端工具1aによる前記効果(1)〜(4)が裏付けられたことが容易に理解されよう。
【0024】
図7は、異なる形態の深孔加工用先端工具1bを示す平面図、
図8(A),(B)は、
図7中の矢印A方向または矢印B方向に沿った側面図である。
上記深孔加工用先端工具1bは、
図7,
図8(A),(B)に示すように、前記同様の先端面3を含む工具本体2と、前記同様の位置θ1〜θ4に個別に配置された第1〜第4ガイドパッド6a〜6dとを備え、先端面3の回転中心Cから半径方向に沿って単一の切刃5が取り付けられている。かかる切刃5を除いた上記先端面3には、単一の開口部8が開口し、該開口部8は、後端4側の貫通孔7に連通している。かかる深孔加工用先端工具1bは、工具本体2の直径が、例えば、40〜30cm以下の比較的小径のものに好適である。
以上のような深孔加工用先端工具1bによっても、前記効果(1)〜(4)と同様の効果を奏することが可能である。
【0025】
本発明は、以上において説明した各形態や実施例に限定されるものではない。
例えば、前記切刃は、5個のチップからなるものとし、前記先端面3の中心C付近の中央側チップ、周辺側の外周側チップ、およびこれらの間に位置する中間チップと、前記外周側チップの径方向の反対側に位置し且つ半径方向で上記3つのチップ間ごとにほぼ位置する2つの中間チップとからなる形態としても良い。
また、前記切刃5,5a〜5cと第1〜第4ガイドパッド6a〜6dは、前記超硬に限らず、サーメットからなるものや、部分安定化ジルコニアのようなファインセラミックからなるものとしても良い
更に、第1〜第4ガイドパッド6a〜6dの底部側を受け入れる前記工具本体2の凹部は、底面の幅が開口部の幅よりも広い底広凹溝としても良い。
加えて、前記工具本体2の先端面3に開口し且つ前記貫通孔7に連通する開口部は、3箇所以上としても良い。