(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項5に記載のナトリウム二次電池用正極と、負極と、前記正極および前記負極の間に介在するセパレータと、ナトリウムイオン伝導性の電解質とを含む、ナトリウム二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[発明の実施形態の説明]
最初に、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
本発明の一実施形態に係るナトリウム二次電池用正極活物質は、層状O3型結晶構造を有する金属酸化物を含み、金属酸化物は、可逆的に吸蔵および放出される第1金属元素と、第2金属元素とを含む。第1金属元素は、Naであり、第2金属元素は、Na以外の金属元素であり、かつ遷移金属元素を含む。遷移金属元素は、Ti、NiおよびMnを含む
。
【0014】
本発明の他の一実施形態に係るナトリウム二次電池用正極は、上記の正極活物質を含む。
また、本発明の別の一実施形態に係るナトリウム二次電池では、上記の正極と、負極と、正極および負極の間に介在するセパレータと、ナトリウムイオン伝導性の電解質とを含む。
【0015】
リチウム二次電池では、600Wh/kg程度の高いエネルギー密度を有する正極活物質も利用されている。しかし、ナトリウム二次電池では、高容量かつ高電圧を両立できる正極活物質が見出されておらず、エネルギー密度が高い正極活物質は極端に少ない。高いエネルギー密度が達成される場合でも、充放電時の構造変化が大きいことにより、十分なサイクル特性を確保することが難しい。
【0016】
本発明の上記の実施形態によれば、上記のような金属酸化物を正極活物質として用いることで、正極活物質自体の容量を高めることができ、かつ電池の平均電圧を高めることができる。また、金属酸化物の構成元素の相溶性を高めることができるため、構成元素をより均一に分散させることができ、金属酸化物の組成を安定化することができる。金属酸化物の組成が安定化することで、充放電時の構造変化を低減できるため、優れたサイクル特性が得られる。
【0017】
上記の金属酸化物は、層状O3型結晶構造を有する。層状O3型結晶構造とは、空間群R3mに属する結晶構造である。なお、層状P2型結晶構造とは、空間群P6
3/mmcに属する結晶構造である。
層状O3型結晶構造を有する金属酸化物は、遷移金属元素(Me)と酸素とで構成されるMeO
2層の積層構造を含み、放電時には、MeO
2層の層間にナトリウムイオンが吸蔵され、充電時には、MeO
2層の層間からナトリウムイオンが放出される。そして、少なくとも放電状態では、MeO
2層間の六配位八面体サイトを、ナトリウムイオンが占有した構造をとり得る。遷移金属元素Meは、上記の第2金属元素に含まれる遷移金属元素に相当する。遷移金属以外の第2金属元素は、上記の結晶構造においては、通常、遷移金属元素Meのサイトに置換される。
【0018】
第2金属元素に占めるMnの原子比dは、
0.27≦d
<0.
40であ
る。原子比dがこのような範囲である場合、高い平均電圧が得られ易く、かつ金属酸化物の抵抗をより低く抑えることができる。また、金属酸化物の組成がさらに安定し易くなるため、サイクル特性を高める上でも有利である。
【0019】
第2金属元素に占めるNiの原子比cは
、0.46≦c≦0.50であ
る。原子比cがこのような範囲である場合、高容量化の点で有利であるとともに、層状O3型結晶構造が形成され易くなるため、サイクル特性を高め易い。
【0020】
第2金属元素に占めるNiの原子比cは、0.40≦c≦0.55であることが好ましく、0.46≦c≦0.50であってもよい。原子比cがこのような範囲である場合、高容量化の点で有利であるとともに、層状O3型結晶構造が形成され易くなるため、サイクル特性を高め易い。
【0021】
第2金属元素に対するNaの原子比aは、0.86<a≦1.05であることが好ましい。原子比aがこのような範囲である場合、金属酸化物自体の容量をさらに高めることができる。
【0022】
好ましい実施形態にかかる金属酸化物は、下記式:
Na
aTi
bNi
cMn
dM
eO
2±α
(式中、aは、第2金属元素に対するNaの原子比であり、bは、第2金属元素に占めるTiの原子比であり、cは、第2金属元素に占めるNiの原子比であり、元素Mは、Ti、Ni、およびMn以外の第2金属元素であり、eは、第2金属元素に占める元素Mの原子比であり、b+c+d+e=1.00であり、αは酸素欠損量または酸素過剰量である)で表される。このような金属酸化物を用いる場合、層状O3型結晶構造がさらに形成され易くなる。よって、容量およびサイクル特性をさらに高めることができる。
【0023】
[発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係るナトリウム二次電池用正極活物質、これを用いた正極およびナトリウム二次電池の具体例を、適宜図面を参照しつつ以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0024】
(正極活物質)
本実施形態に係る正極活物質は、上記の金属酸化物を含む。金属酸化物は、第1金属元素であるNa(具体的には、ナトリウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出(もしくは挿入および脱離)することができるため、正極活物質は、ナトリウム二次電池に用いるのに適している。このような金属酸化物は、ファラデー反応により容量を発現する材料である。
【0025】
金属酸化物は、Naと第2金属元素とを含む。第2金属元素はNa以外の金属元素であり、遷移金属元素(上記の元素Me)を含む。遷移金属元素は、Ti、NiおよびMnを少なくとも含んでおり、これら以外の第2金属元素(元素M)を含んでいてもよい。
【0026】
第2金属元素に対するNaの原子比aは、例えば、0.86<a≦1.05であり、0.90≦a≦1.05または0.92≦a≦1.02であることが好ましく、0.92≦a≦1.02または0.90≦a≦1.00であることがさらに好ましい。原子比aがこのような範囲である場合、金属酸化物自体の容量を高める上で有利である。また、層状O3型結晶構造が形成され易くなる観点からも、高容量が得られ易い。
【0027】
なお、原子比aは、本実施形態に係る正極活物質を、ナトリウム二次電池の正極に用いた場合、充電時に減少し、放電時に増加する値である。上記の原子比aの範囲は、ナトリウム二次電池が満充電状態である場合の値であることが好ましい。
【0028】
第1金属元素の一部は、Li、KなどのNa以外のアルカリ金属元素で置換されていてもよい。このようなアルカリ金属元素を含む金属酸化物を含む正極活物質も本実施形態に包含される。ただし、第1金属元素に占めるNa以外のアルカリ金属元素の原子比は、例えば、0.05以下であることが好ましい。
【0029】
第2金属元素に占めるTiの原子比bは、例えば、0.05≦b≦0.45であり、0.10≦b≦0.40であることが好ましく、0.13≦b≦0.37または0.15≦b≦0.35であることがさらに好ましい。原子比bがこのような範囲である場合、構成金属が金属酸化物中に分散し易くなるため、金属酸化物の組成を安定化し易くなる。また、副生成物などの不純物の混入を抑制することができる。よって、容量をさらに高めることができるとともに、サイクル特性をより向上し易くなる。
【0030】
第2金属元素に占めるNiの原子比cは
、0.46≦c≦0.50であることがさらに好ましい。原子比cがこのような範囲である場合、層状O3型結晶構造をより形成し易く、容量も高くなり、平均電圧を高めることもできる。金属酸化物の組成が安定化することで、充放電を繰り返しても正極活物質の劣化を抑制し易い。
【0031】
第2金属元素に占めるMnの原子比dは、
0.27≦d<0.40である。原子比dが0.
27未満である場合、平均電圧が低くなるとともに、金属酸化物の導電性も低くなり易いため、容量が低下する。また、充放電反応の抵抗が高く電解液分解などの副反応が起こりやすいため、サイクル特性も低下し易い。原子比dが
0.40以上であると、金属酸化物の組成が安定化しにくいことに加え、副生成物などの不純物が混入し易くなるため、容量が低下するとともに、充放電時に金属酸化物が劣化し易くなることでサイクル特性も低下する。
【0032】
第2金属元素のうち、Ti、NiおよびMn以外の元素Mとしては、例えば、遷移金属元素、アルカリ金属以外の典型金属元素が挙げられる。元素Mのうち、遷移金属元素としては、例えば、Sc、Y、ランタノイド、アクチノイド、Zr、V、Cr、W、Fe、Ru、Co、Cuなどが挙げられる。元素Mのうち、典型金属元素としては、例えば、Ca、Mgなどのアルカリ土類金属元素の他、Zn、Al、Sn、Sbなどが挙げられる。金属酸化物は、元素Mを一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。
【0033】
層状O3型結晶構造を形成し易い観点からは、第2金属元素に占める元素Mの原子比eは、0≦e≦0.10であることが好ましく、0≦e≦0.05であってもよい。
【0034】
好ましい金属酸化物は、例えば、下記式:
Na
aTi
bNi
cMn
dM
eO
2±α
(式中、b+c+d+e=1.00であり、αは酸素欠損量または酸素過剰量である。元素M、a、b、c、dおよびeは前記に同じ。)で表すことができる。αは、例えば、0≦α≦0.05である。
【0035】
正極活物質は、上記の金属酸化物を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。また、上記の金属酸化物に加え、ナトリウムイオンを可逆的に吸蔵および放出する公知の材料を含んでいてもよい。ただし、高容量および/または優れたサイクル特性を確保し易い観点からは、正極活物質中に占める上記の金属酸化物の割合は、例えば、90質量%〜100質量%であることが好ましく、正極活物質を上記の金属酸化物のみで構成してもよい。
【0036】
高容量および/または優れたサイクル特性を確保し易い観点からは、正極活物質中に占める層状P2型結晶構造を有する金属酸化物の割合が小さいことが好ましい。正極活物質中に占める層状P2型結晶構造を有する金属酸化物の割合は、例えば、5質量%以下であり、1質量%以下または0.1質量%以下であることがより好ましい。
【0037】
正極活物質は、例えば、例えば、Na化合物と第2金属元素を含む金属化合物との混合物を焼成する方法などにより得ることができる。Na化合物および金属化合物としては、それぞれ、酸化物、水酸化物、および/または炭酸塩などを使用することができる。金属化合物としては、Ti化合物、Ni化合物、Mn化合物および必要により元素Mを含む化合物を用いてもよい。また、Ti、Ni、Mnおよび必要により元素Mのうち、複数の元素を含む複合化合物(例えば、複合酸化物)と、残りの元素を含む化合物とを用いてもよい。層状O3型結晶構造を有する金属酸化物において、構成元素の比率が所望の範囲となるように、原料の混合比(より具体的には、原料の混合物における各元素の比率)を調節することが好ましい。
【0038】
焼成は、不活性ガス雰囲気下で行ってもよいが、酸素中や大気中で行うこともできる。なお、不活性ガスとしては、ヘリウムガス、窒素ガス、および/またはアルゴンガスなどが例示できる。焼成は、例えば、700℃〜1200℃の温度で行うことができる。
【0039】
(正極)
正極は、少なくとも上記の正極活物質を含んでいればよく、正極活物質とこれを担持する正極集電体とを含んでもよい。
正極集電体は、金属箔でもよく、金属多孔体(金属繊維の不織布、および/または金属多孔体シートなど)であってもよい。金属多孔体としては、三次元網目状の骨格(特に、中空の骨格)を有する金属多孔体も使用できる。容量および強度のバランスの観点から、金属箔の厚みは、例えば10μm〜50μmであり、金属多孔体の厚みは、例えば100μm〜2000μmである。
正極集電体の材質としては、特に限定されないが、正極電位での安定性の観点から、アルミニウム、および/またはアルミニウム合金などが好ましい。
【0040】
正極は、例えば、正極集電体に正極合剤を塗布または充填し、必要に応じて、厚み方向に圧縮(または圧延)することにより形成できる。適当な段階で乾燥処理を行ってもよい。
正極合剤は、必要に応じて、導電助剤および/またはバインダを含んでいてもよい。正極合剤は、通常、分散媒を含むスラリー(またはペースト)の形態で使用される。分散媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP:N−methyl−2−pyrrolidone)などの有機溶媒、および/または水などが用いられる。
【0041】
導電助剤としては、特に制限されないが、例えば、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維(気相法炭素繊維など)、および/またはカーボンナノチューブなどが挙げられる。導電性を高める観点から、導電助剤は、正極活物質粒子の表面に被覆されていてもよい。
導電性と容量とのバランスの観点から、導電助剤の量は、正極活物質100質量部当たり、例えば、1質量部〜25質量部の範囲から適宜選択でき、5質量部〜20質量部であってもよい。
【0042】
バインダとしては、特に制限されないが、例えば、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレンブタジエンゴムなどのゴム状重合体、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミドなどのポリイミド樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、および/またはセルロースエーテル(カルボキシメチルセルロースおよびその塩など)などが挙げられる。
【0043】
バインダの量は、特に制限されないが、高い結着性および容量を確保し易い観点から、正極活物質100質量部当たり、例えば、0.5質量部〜15質量部程度の範囲から選択でき、好ましくは1質量部〜12質量部であってもよい。
【0044】
(ナトリウム二次電池)
本実施形態に係るナトリウム二次電池は、上記の正極と、負極と、これらの間に介在するセパレータと、ナトリウムイオン伝導性の電解質とを含む。
以下、正極以外のナトリウム二次電池の構成要素についてより詳細に説明する。
【0045】
(負極)
負極は、負極活物質を含む。負極は、負極集電体と、負極集電体に担持された負極活物質(または負極合剤)とを含んでもよい。
負極集電体は、正極集電体について記載したような金属箔または金属多孔体であってもよい。負極集電体の材質としては、特に制限されないが、ナトリウムと合金化せず、負極電位で安定であることから、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、および/またはステンレス鋼などが好ましい。負極集電体の厚みは、正極集電体の場合について記載した範囲から適宜選択できる。
【0046】
負極活物質としては、例えば、ナトリウムイオンを可逆的に吸蔵および放出(もしくは挿入および脱離)する材料、ナトリウムと合金化する材料などが挙げられる。いずれの材料も、ファラデー反応により容量を発現する材料である。
【0047】
このような負極活物質としては、ナトリウム、チタン、亜鉛、インジウム、スズ、ケイ素などの金属またはその合金、もしくはその化合物;および炭素質材料などが例示できる。なお、合金は、上記の金属以外に、さらに他のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属などを含んでもよい。
【0048】
金属化合物としては、チタン酸リチウム(Li
2Ti
3O
7および/またはLi
4Ti
5O
12など)などのリチウム含有チタン酸化物、およびチタン酸ナトリウム(Na
2Ti
3O
7および/またはNa
4Ti
5O
12など)などのナトリウム含有チタン酸化物が例示できる。リチウム含有チタン酸化物(またはナトリウム含有チタン酸化物)において、チタンの一部、および/またはリチウム(またはナトリウム)の一部を他元素で置換してもよい。
【0049】
炭素質材料としては、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)、および/または難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)などが例示できる。
負極活物質は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。
これらの材料のうち、上記化合物(ナトリウム含有チタン酸化物など)、および/または炭素質材料(ハードカーボンなど)などが好ましい。
【0050】
負極は、正極の場合に準じて、例えば、負極集電体に、負極活物質を含む負極合剤を塗布または充填し、必要に応じて、厚み方向に圧縮(または圧延)することにより形成できる。適当な段階で乾燥処理を行ってもよい。また、負極としては、負極集電体の表面に、蒸着、またはスパッタリングなどの気相法で負極活物質の堆積膜を形成することにより得られるものを用いてもよい。また、シート状の金属または合金を、そのまま負極として用いてもよく、集電体に圧着したものを負極として用いてもよい。負極活物質には、必要に応じて、ナトリウムイオンをプレドープしてもよい。
【0051】
負極合剤は、負極活物質に加え、さらに導電助剤および/またはバインダを含むことができる。結着剤および導電助剤としては、それぞれ、正極について例示したものから適宜選択できる。負極活物質に対する結着剤および導電助剤の量も、正極について例示した範囲から適宜選択できる。負極合剤は、通常、分散媒を含むスラリー(またはペースト)の形態で使用される。分散媒としては、正極について例示したものから適宜選択できる。
【0052】
(セパレータ)
セパレータは、正極と負極との間に介在させる。セパレータとしては、例えば、樹脂製の微多孔膜、および/または不織布などが使用できる。セパレータの材質は、電池の使用温度を考慮して選択できる。微多孔膜または不織布を形成する繊維に含まれる樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂、および/またはポリイミド樹脂などが例示できる。不織布を形成する繊維は、ガラス繊維などの無機繊維であってもよい。セパレータは、セラミックス粒子などの無機フィラーを含んでもよい。無機フィラーは、セパレータにコーティングされた状態であってもよい。
セパレータの厚みは、特に限定されないが、例えば、10μm〜300μm程度の範囲から選択できる。
【0053】
(電解質)
電解質としては、ナトリウムイオンを含む非水電解質が使用される。非水電解質としては、例えば、非水溶媒(または有機溶媒)にナトリウムイオンとアニオンとの塩(ナトリウム塩)を溶解させた電解質(有機電解質)、およびナトリウムイオンとアニオンとを含むイオン液体(溶融塩電解質)などが用いられる。
【0054】
低温特性などの観点からは、非水溶媒(有機溶媒)を含む電解質を用いることが好ましい。電解質の分解をできるだけ抑制する観点からは、イオン液体を含む電解質を用いることが好ましく、イオン液体および非水溶媒を含む電解質を用いてもよい。
電解質におけるナトリウム塩またはナトリウムイオンの濃度は、例えば、0.3〜10mol/Lの範囲から適宜選択できる。
【0055】
(有機電解質)
有機電解質は、非水溶媒(有機溶媒)およびナトリウム塩に加え、イオン液体および/または添加剤などを含むことができるが、高い低温特性を確保し易い観点からは、電解質中の非水溶媒およびナトリウム塩の含有量の合計は、例えば、60質量%〜100質量%であってもよい。
【0056】
ナトリウム塩を構成するアニオン(第1アニオン)の種類は特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロリン酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、過塩素酸イオン、ビス(オキサラト)ボレートイオン(B(C
2O
4)
2−)、トリス(オキサラト)ホスフェートイオン(P(C
2O
4)
3−)、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CF
3SO
3−)、およびビススルホニルアミドアニオンなどが挙げられる。ナトリウム塩は、一種を単独で用いてもよく、第1アニオンの種類が異なるナトリウム塩を二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0057】
上記のビススルホニルアミドアニオンとしては、例えば、ビス(フルオロスルホニル)アミドアニオン(FSA:bis(fluorosulfonyl)amide anion))、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミドアニオン(TFSA:bis(trifluoromethylsulfonyl)amide anion)、(フルオロスルホニル)(パーフルオロアルキルスルホニル)アミドアニオン[(FSO
2)(CF
3SO
2)N
−など]、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)アミドアニオン[N(SO
2CF
3)
2−、N(SO
2C
2F
5)
2−など]などが挙げられる。これらのうち、特に、FSAおよび/またはTFSAが好ましい。
【0058】
非水溶媒は、特に限定されず、ナトリウム二次電池に使用される公知の非水溶媒が使用できる。非水溶媒は、イオン伝導度の観点から、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、およびブチレンカーボネートなどの環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、およびエチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート;ならびに、γ−ブチロラクトンなどの環状炭酸エステルなどを好ましく用いることができる。非水溶媒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
(溶融塩電解質)
電解質としてイオン液体を用いる場合、電解質は、カチオンとアニオンとを含むイオン液体に加え、非水溶媒および/または添加剤などを含むことができる。ただし、電解質の分解を抑制し易い観点からは、電解質中のイオン液体の含有量は、70質量%〜100質量%であることが好ましく、90質量%〜100質量%であってもよい。
【0060】
イオン液体は、ナトリウムイオン(第2カチオン)に加え、ナトリウムイオン以外のカチオン(第3カチオン)を含むことができる。第3カチオンとしては、有機カチオン、およびナトリウムイオン以外の無機カチオンなどが例示できる。イオン液体は、第3カチオンを、一種含んでもよく、二種以上組合せて含んでもよい。
【0061】
無機カチオンとしては、例えば、ナトリウムイオン以外のアルカリ金属イオン(カリウムイオンなど)、および/またはアルカリ土類金属イオン(マグネシウムイオン、カルシウムイオンなど)、アンモニウムイオンなどが挙げられる。
【0062】
有機カチオンとしては、脂肪族アミン、脂環族アミンまたは芳香族アミンに由来するカチオン(例えば、第4級アンモニウムカチオンなど)の他、窒素含有へテロ環を有するカチオン(つまり、環状アミンに由来するカチオン)などの窒素含有オニウムカチオン、イオウ含有オニウムカチオン、リン含有オニウムカチオンなどが例示できる。
有機カチオンのうち、特に、第4級アンモニウムカチオンの他、窒素含有ヘテロ環骨格として、ピロリジン、ピリジン、またはイミダゾール骨格を有するカチオンが好ましい。
【0063】
有機カチオンの具体例としては、テトラエチルアンモニウムカチオン(TEA
+:tetraethylammonium cation)、メチルトリエチルアンモニウムカチオン(TEMA
+:methyltriethylammonium cation)などのテトラアルキルアンモニウムカチオン;1−メチル−1−プロピルピロリジニウムカチオン(MPPY
+:1−methyl−1−propylpyrrolidinium cation)、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムカチオン(MBPY
+:1−butyl−1−methylpyrrolidinium cation);1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン(EMI
+: 1−ethyl−3−methylimidazolium cation)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン(BMI
+:1−buthyl−3−methylimidazolium cation)などが挙げられる。
【0064】
アニオンとしては、ビススルホニルアミドアニオンを用いることが好ましい。ビススルホニルアミドアニオンとしては、有機電解質について例示したものから適宜選択できる。ビススルホニルアミドアニオンのうち、特に、FSAおよび/またはTFSAが好ましい。
【0065】
ナトリウム二次電池は、例えば、(a)正極と、負極と、正極および負極の間に介在するセパレータとで電極群を形成する工程、ならびに(b)電極群および電解質を電池ケース内に収容する工程を経ることにより製造できる。
【0066】
図1は、本発明の一実施形態に係るナトリウム二次電池を概略的に示す縦断面図である。ナトリウム二次電池は、積層型の電極群、電解質(図示せず)およびこれらを収容する角型のアルミニウム製の電池ケース10を具備する。電池ケース10は、上部が開口した有底の容器本体12と、上部開口を塞ぐ蓋体13とで構成されている。
【0067】
蓋体13の中央には、電池ケース10の内圧が上昇したときに内部で発生したガスを放出するための安全弁16が設けられている。安全弁16を中央にして、蓋体13の一方側寄りには、蓋体13を貫通する外部正極端子が設けられ、蓋体13の他方側寄りの位置には、蓋体13を貫通する外部負極端子14が設けられる。
【0068】
積層型の電極群は、いずれも矩形のシート状である、複数の正極2と複数の負極3およびこれらの間に介在する複数のセパレータ1により構成されている。
図1では、セパレータ1は、正極2を包囲するように袋状に形成されているが、セパレータの形態は特に限定されない。複数の正極2と複数の負極3は、電極群内で積層方向に交互に配置される。
【0069】
各正極2の一端部には、正極リード片2aを形成してもよい。複数の正極2の正極リード片2aを束ねるとともに、電池ケース10の蓋体13に設けられた外部正極端子に接続することにより、複数の正極2が並列に接続される。同様に、各負極3の一端部には、負極リード片3aを形成してもよい。複数の負極3の負極リード片3aを束ねるとともに、電池ケース10の蓋体13に設けられた外部負極端子14に接続することにより、複数の負極3が並列に接続される。正極リード片2aの束と負極リード片3aの束は、互いの接触を避けるように、電極群の一端面の左右に、間隔を空けて配置することが望ましい。
【0070】
外部正極端子および外部負極端子14は、いずれも柱状であり、少なくとも外部に露出する部分が螺子溝を有する。各端子の螺子溝にはナット7が嵌められ、ナット7を回転することにより蓋体13に対してナット7が固定される。各端子の電池ケース10内部に収容される部分には、鍔部8が設けられており、ナット7の回転により、鍔部8が、蓋体13の内面に、O−リング状のガスケット9を介して固定される。
【0071】
電極群は、積層タイプに限らず、正極と負極とをセパレータを介して捲回することにより形成したものであってもよい。負極に金属ナトリウムが析出するのを防止する観点から、正極よりも負極の寸法を大きくしてもよい。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
実施例1
(1)金属酸化物:Na
1.00Ti
0.20Ni
0.50Mn
0.30O
2の合成
Na
2CO
3、TiO
2、Ni(OH)
2、およびMnCO
3を、NaとTiとNiとMnとの原子比が1.00:0.20:0.50:0.30となるような割合で混合した。混合物を、大気中、900℃で12時間焼成することにより、上記の金属酸化物を合成した。焼成物の組成をXRDスペクトルにより確認した。また、XRDスペクトルの強度積分値から、生成物中に占める層状O3型結晶構造と、層状P2型結晶構造と、Na
2CO
3との質量比率を求めた。
【0074】
図2に、上記の金属酸化物のXRDスペクトルを示す。
図2に示すように、層状O3型結晶構造に特徴的なピークパターンが見られ、層状P2型結晶構造に特徴的なピークパターンおよびNa
2CO
3に特徴的なピークパターンは確認されなかった。
【0075】
(2)正極の作製
上記(1)で得られた金属酸化物(正極活物質)と、アセチレンブラック(導電助剤)と、ポリフッ化ビニリデン(バインダ)のNMP溶液とを混合することにより、正極合剤ペーストを調製した。このとき、正極活物質と、導電助剤と、バインダとの質量比を85:10:5とした。正極合剤ペーストを、厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、十分に乾燥させ、圧縮して、厚さ約52μmの正極を作製した。正極は、直径12mmのコイン型に打ち抜いた。
(3)ハーフセルの作製
金属ナトリウムディスク(アルドリッチ社製、厚さ200μm)をニッケル集電体に圧着して、総厚700μmの負極を作製した。負極は、直径12mmのコイン型に打ち抜いた。
【0076】
浅底の円筒型のAl/SUSクラッド製容器に、コイン型の負極を載置し、その上にコイン型のセパレータを介して(2)で得られたコイン型の正極を載置し、所定量の電解質を容器内に注液した。その後、周縁に絶縁ガスケットを具備する浅底の円筒型のAl/SUSクラッド製封口板で、容器の開口を封口した。こうしてコイン型のハーフセルを作製した。
【0077】
セパレータとしては、ガラスマイクロファイバー(ワットマン社製、グレードGF/A、厚さ260μm)製のセパレータを用いた。電解質としては、Na・FSAとMPPY・FSAとを、20:80のモル比で含むイオン液体(電解質中のイオン液体の含有量:100質量%)を用いた。
【0078】
(4)評価
(a)放電容量、および容量維持率
セルを、60℃になるまで加熱し、(i)および(ii)の条件を充放電の1サイクルとして充放電を行い、1サイクル目の放電容量(初期容量)(mAh)を求めた。そして、正極活物質の単位質量(g)当たりの放電容量(mAh/g)を求めた。
(i)電流0.3mA(0.2C相当の電流値)、上限電圧(充電終止電圧)4.4Vまで充電
(ii)電流0.3mA(0.2C相当の電流値)、下限電圧(放電終止電圧)2.4Vまで放電
また、(i)および(ii)の充放電サイクルを50回繰り返して放電容量を求め、初期容量(100%)に対する容量維持率(%)を求めた。
【0079】
(b)平均電圧
放電曲線の積分値からエネルギー密度(mWh/g)を求め、単位質量当たり放電容量(mAh/g)で除することにより、平均電圧を求めた。
【0080】
実施例2〜
3、参考例1〜4および比較例1〜3
NaとTiとNiとMnとの原子比が表1に示す比率となるような割合で原料を混合する以外は、実施例1
(A1)と同様にして金属酸化物を合成した。得られた金属酸化物を正極活物質として用いる以外は、実施例1
(A1)と同様にして、正極およびハーフセルを作製し、評価を行った。
【0081】
実施例
2(A5)については、ハードカーボン負極を用いてナトリウム二次電池を作製し、下記(iii)および(iv)の条件を充放電の1サイクルとして充放電を500回繰り返して容量維持率を求めた。具体的には、500サイクル目の放電容量を求め、1サイクル目の放電容量(100%)に対する容量維持率(%)を求めたところ、70%であった。
(iii)電流0.3mA(0.2C相当の電流値)、上限電圧(充電終止電圧)4.3Vまで充電
(iv)電流0.3mA(0.2C相当の電流値)、下限電圧(放電終止電圧)1.7Vまで放電
【0082】
ハードカーボン負極は、次のようにして作製した。
まず、ハードカーボン(負極活物質)96質量部およびポリアミドイミド樹脂(バインダ)4質量部を、NMPとともに混合して、負極合剤ペーストを調製した。得られた負極合剤ペーストを、厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に塗布し、十分に乾燥させ、圧縮して、厚さ100μmの負極を作製し、直径12mmのコイン型に打ち抜いた。
なお、
図3に、実施例
2(A5)のハーフセルの充放電曲線を示す。
実施例
、参考例および比較例の結果を表1に示す。なお、実施例の電池は、A1
、A5〜A
6であり、
参考例の電池は、A2、A3、A4およびA7であり、比較例の電池は、B1〜B3である。
【0083】
【表1】
【0084】
表1に示されるように、実施例では、平均電圧および放電容量が高く、充放電後の容量維持率も高くなった。それに対して、遷移金属に占めるMnの原子比が0.5である比較例1では、不純物である層状P2型結晶構造およびNaCO
3の比率が多くなり、放電容量および容量維持率が低くなった。Mnの原子比が0である比較例2では、平均電圧が低くなり、放電容量が低下した。層状O3型結晶構造を含まない比較例3では、放電容量および容量維持率が大きく低下した。
図3から、実施例
3では、平均電圧が約3.3Vであり、約180mAh/gの高い容量が得られ、目だった副反応もなく、充放電反応が可逆的に進行していることが分かる。