特許第6544017号(P6544017)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6544017ICカード、および、ICカードの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6544017
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】ICカード、および、ICカードの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G06K 19/077 20060101AFI20190705BHJP
   B42D 25/305 20140101ALI20190705BHJP
   B42D 25/36 20140101ALI20190705BHJP
   B42D 25/369 20140101ALI20190705BHJP
   B42D 25/40 20140101ALI20190705BHJP
   B42D 25/41 20140101ALI20190705BHJP
   B42D 25/455 20140101ALI20190705BHJP
   B42D 25/46 20140101ALI20190705BHJP
【FI】
   G06K19/077 160
   G06K19/077 200
   G06K19/077 144
   B42D25/305 100
   B42D25/36
   B42D25/369
   B42D25/40 100
   B42D25/41
   B42D25/455
   B42D25/46
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-86748(P2015-86748)
(22)【出願日】2015年4月21日
(65)【公開番号】特開2016-206888(P2016-206888A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】村本 浩
(72)【発明者】
【氏名】杉本 道雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 智仁
【審査官】 境 周一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−227176(JP,A)
【文献】 特開2002−273832(JP,A)
【文献】 特開2003−208589(JP,A)
【文献】 特開2009−099014(JP,A)
【文献】 特開2006−327191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 1/00−21/08
B42D 1/00−25/485
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外装基材と、
アンテナを含む通信部を覆うコア基材と、
前記外装基材と前記コア基材とに挟まれ、かつ、レーザー光を受けて不可逆的に着色される中間基材と、
を備え、100℃以上150℃未満の温度で加熱成形されたICカードであって、
前記コア基材の主成分は、非晶性ポリエステル、もしくは、非晶性ポリエステルとポリカーボネートとのポリマーアロイであり、
前記中間基材の主成分は、ポリカーボネート、もしくは、非晶性ポリエステルとポリカーボネートとのポリマーアロイであり、
前記外装基材の主成分は、結晶性ポリエステル、もしくは、結晶性ポリエステルとポリカーボネートとのポリマーアロイであって、前記外装基材における結晶性樹脂の割合は30質量%以上であり、
前記コア基材のガラス転移温度をTg1、前記中間基材のガラス転移温度をTg2、前記中間基材のビカット軟化温度をTs2、前記外装基材のビカット軟化温度をTs3とするとき、Tg2<140℃、20℃<Tg2−Tg1≦50℃、かつ、Ts2≦Ts3−15℃を満たす
ICカード。
【請求項2】
前記非晶性ポリエステルは、テレフタル酸とシクロヘキサンジメタノールおよびエチレングリコールとの共重合体、テレフタル酸とイソフタル酸およびエチレングリコールとの共重合体、ポリエチレンテレフタレート、および、ポリブチレンテレフタレートからなる群から選択される1種以上の材料であり、
前記結晶性ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、および、ポリエチレンナフタレートからなる群から選択される1種以上の材料である
請求項1に記載のICカード。
【請求項3】
前記アンテナは、金属薄膜からなり、
前記通信部は、前記金属薄膜を支持する基材を含む
請求項1または2に記載のICカード。
【請求項4】
前記外装基材の表面における算術平均粗さは、0.4μm未満である
請求項1〜3のいずれか一項に記載のICカード。
【請求項5】
非晶性ポリエステル、もしくは、非晶性ポリエステルとポリカーボネートとのポリマーアロイを主成分とするコア基材でアンテナを含む通信部を覆う工程と、
ポリカーボネート、もしくは、非晶性ポリエステルとポリカーボネートとのポリマーアロイを主成分とし、かつ、レーザー光を受けて不可逆的に着色する中間基材を前記コア基材に積層する工程と、
結晶性ポリエステル、もしくは、結晶性ポリエステルとポリカーボネートとのポリマーアロイを主成分とし、30質量%以上の割合で結晶性樹脂を含む外装基材を前記中間基材に積層する工程と、
前記通信部と、前記コア基材と、前記中間基材と、前記外装基材とを含む積層体を加熱して板状に成形する工程と、
を含み、
前記コア基材のガラス転移温度をTg1、前記中間基材のガラス転移温度をTg2、前記中間基材のビカット軟化温度をTs2、前記外装基材のビカット軟化温度をTs3、前記加熱の温度をTaとするとき、100℃≦Ta<150℃、Tg1+20℃<Ta、Tg1<Tg2<140℃、かつ、Ts2<Ta≦Ts3−10℃を満たす
ICカードの製造方法。
【請求項6】
前記非晶性ポリエステルは、テレフタル酸とシクロヘキサンジメタノールおよびエチレングリコールとの共重合体、テレフタル酸とイソフタル酸およびエチレングリコールとの共重合体、ポリエチレンテレフタレート、および、ポリブチレンテレフタレートからなる群から選択される1種以上の材料であり、
前記結晶性ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、および、ポリエチレンナフタレートからなる群から選択される1種以上の材料である
請求項5に記載のICカードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触通信のためのアンテナを備えるICカード、および、ICカードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外部機器と非接触型の通信を行うICカードは、コイル状のアンテナと、アンテナを通じて外部機器と信号を授受するICチップと、アンテナを挟み込む樹脂製の基材とを備えている。こうしたICカードの製造工程では、シート状の基材によってアンテナが挟まれた後、基材とアンテナとが加熱および冷却されて1つの板状に成形される。
【0003】
ところで、金属からなるアンテナと樹脂からなる基材とでは、上記製造工程における加熱および冷却によって生じる収縮の程度が異なる。そのため、上記製造工程を経ることによって、基材の表面、すなわち、ICカードの表面に、アンテナの形状が浮き出るという問題が生じる。
【0004】
こうした問題に対し、特許文献1には、基材の表面を所定の粗さにマット加工することによって、基材の表面に浮き出たアンテナの形状を視認され難くしたICカードが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5017978号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、上述したICカードの基材には、レーザー照射によって着色する樹脂の採用が望まれている。レーザー照射によって着色される樹脂を含む構成であれば、ICカードの基材に、レーザー照射によって別途情報を記録することが可能となる。
【0007】
一方、レーザー着色性を有した樹脂は、一般に、レーザー光の照射に耐え得る程度の高い耐熱性を有するため、レーザー着色性を有する樹脂を基材として用いる場合には、ICカードの製造工程における加熱温度を高く設定せざるを得ない。その結果、アンテナの熱収縮と、基材の熱収縮との違いによる加工痕が、アンテナの形状として基材の表面に浮き出やすくなる。そして、上記特許文献1に記載の技術がこの構成に適用されるとしても、顕著に浮き出たアンテナの形状を表面の粗さの中に溶け込ませるには限りがあり、依然として、改善の余地は残されている。なお、レーザー着色性を有する樹脂を基材に採用する要望に加え、さらに、ICカードの表面に艶を与える要請も少なくなく、この要請に対しては、基材の表面を所定の粗さに加工することそのものが不可能となる。したがって、レーザー着色性を有する樹脂を基材に含むICカードにおいては、基材の表面にアンテナの形状が浮き出ることそのものを抑える技術が強く望まれている。
【0008】
本発明は、レーザー着色性を有する樹脂を基材に含むICカードにおいて、基材の表面にアンテナの形状が浮き出ることを抑えることのできるICカード、および、ICカードの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するICカードは、外装基材と、アンテナを含む通信部を覆うコア基材と、前記外装基材と前記コア基材とに挟まれ、かつ、レーザー光を受けて不可逆的に着色される中間基材と、を備え、前記コア基材の主成分は、非晶性樹脂であり、前記中間基材の主成分は、非晶性樹脂であり、前記外装基材の主成分は、結晶性樹脂、もしくは、結晶性樹脂と非晶性樹脂とのポリマーアロイであり、前記コア基材のガラス転移温度をTg1、前記中間基材のガラス転移温度をTg2、前記中間基材のビカット軟化温度をTs2、前記外装基材のビカット軟化温度をTs3とするとき、Tg2<140℃、20℃<Tg2−Tg1≦50℃、かつ、Ts2≦Ts3−15℃を満たす。
【0010】
上記構成によれば、レーザー着色性を有する樹脂を含む基材として、ガラス転移温度が140℃以上の中間基材が用いられる場合と比較して、製造工程における加熱温度を低く抑えることができる。その結果、レーザー着色性を有する樹脂を基材に含むICカードにおいて、外装基材の表面にアンテナの形状が浮き出ることが抑えられる。
【0011】
上記ICカードにおいて、前記コア基材の主成分は、非晶性ポリエステル、もしくは、非晶性ポリエステルとポリカーボネートとのポリマーアロイであることが好ましい。
上記構成によれば、上述の条件を満たすコア基材の調整が容易である。
【0012】
上記ICカードにおいて、前記中間基材の主成分は、ポリカーボネート、もしくは、非晶性ポリエステルとポリカーボネートとのポリマーアロイであることが好ましい。
上記構成によれば、上述の条件を満たす中間基材の調整が容易である。
【0013】
上記ICカードにおいて、前記外装基材における前記結晶性樹脂の割合は30質量%以上であり、前記外装基材の主成分は、結晶性ポリエステル、もしくは、結晶性ポリエステルとポリカーボネートとのポリマーアロイであることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、外装基材における結晶性樹脂の割合が30質量%以上であることによって、外装基材に結晶性樹脂の特性が発揮される。また、上記構成によれば、上述の条件を満たす外装基材の調整が容易である。
上記ICカードにおいて、前記アンテナは、金属薄膜からなり、前記通信部は、前記金属薄膜を支持する基材を含むことが好ましい。
【0015】
アンテナが金属薄膜からなる場合、アンテナが被覆銅線からなる場合と比べて、通信部に、金属薄膜の基材が含まれるため通信部が厚くなり、また、アンテナの面積が大きい。そのため、外装基材の表面にアンテナの形状が浮き出やすく、アンテナの形状が浮き出たとき、その形状が視認され易い。したがって、アンテナが金属薄膜からなる場合に上記ICカードの構成が適用されることによって、有用性の高いICカードが得られる。
上記ICカードにおいて、前記外装基材の表面における算術平均粗さは、0.4μm未満であることが好ましい。
【0016】
外装基材の表面における算術平均粗さが0.4μm未満である構成では、外装基材の表面における凹凸が抑えられているため、こうした構成のICカードにて、外装基材の表面にアンテナの形状が浮き出ると、アンテナの形状が視認され易い。したがって、こうした場合に上記ICカードの構成が適用されることによって、有用性の高いICカードが得られる。
【0017】
上記課題を解決するICカードの製造方法は、非晶性樹脂を主成分とするコア基材でアンテナを含む通信部を覆う工程と、非晶性樹脂を主成分とし、かつ、レーザー光を受けて不可逆的に着色する中間基材を前記コア基材に積層する工程と、結晶性樹脂、もしくは、結晶性樹脂と非晶性樹脂とのポリマーアロイを主成分とする外装基材を前記中間基材に積層する工程と、前記通信部と、前記コア基材と、前記中間基材と、前記外装基材とを含む積層体を加熱して板状に成形する工程と、を含み、前記コア基材のガラス転移温度をTg1、前記中間基材のガラス転移温度をTg2、前記中間基材のビカット軟化温度をTs2、前記外装基材のビカット軟化温度をTs3、前記加熱の温度をTaとするとき、100℃≦Ta<150℃、Tg1+20℃<Ta、Tg1<Tg2<140℃、かつ、Ts2<Ta≦Ts3−10℃を満たす。
【0018】
上記製造方法によれば、加熱温度を低く抑えることができるため、レーザー着色性を有する樹脂を基材に含むICカードにおいて、外装基材の表面にアンテナの形状が浮き出ることが抑えられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、レーザー着色性を有する樹脂を基材に含むICカードにおいて、基材の表面にアンテナの形状が浮き出ることを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ICカードの一実施形態の断面構造を示す断面図である。
図2】ICカードの製造工程を示す図であって、コア基材の配置工程を示す図である。
図3】ICカードの製造工程を示す図であって、中間基材の配置工程を示す図である。
図4】ICカードの製造工程を示す図であって、外装基材の配置工程を示す図である。
図5】ICカードの製造工程を示す図であって、加熱工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1図5を参照して、ICカードの一実施形態について説明する。
[ICカードの構成]
図1が示すように、ICカード10は、通信部11と、コア基材12と、2つの中間基材13と、2つの外装基材14とを備えている。
コア基材12は、通信部11の全体を覆う板状に形成されている。換言すれば、通信部11は、コア基材12の内部に埋め込まれている。
【0022】
2つの中間基材13の各々は、板状を有し、2つの中間基材13は、コア基材12を挟んでいる。すなわち、一方の中間基材13aは、コア基材12の有する面であってコア基材12の広がる方向に沿って広がる2つの面のうちの一方に積層され、他方の中間基材13bは、上記2つの面のうちの他方に積層されている。
【0023】
2つの外装基材14の各々は、板状を有し、2つの外装基材14は、コア基材12と中間基材13との積層体を挟んでいる。すなわち、一方の外装基材14aは、一方の中間基材13aの有する2つの面のうち、コア基材12とは反対側の面に積層され、他方の外装基材14bは、他方の中間基材13bの有する2つの面のうち、コア基材12とは反対側の面に積層されている。換言すれば、中間基材13は、コア基材12と外装基材14とに挟まれている。また、一方の外装基材14aが有する2つの面のうち、中間基材13aとは反対側の面、すなわち、ICカード10の表面を構成する面には、磁気テープ15が配置されている。
【0024】
ICカード10の厚さは、0.68mm以上0.84mm以下であることが好ましい。ICカード10の表面、すなわち、外装基材14の表面は、マット加工されていてもよいし、グロス加工されていてもよい。外装基材14の表面がグロス加工されている場合には、外装基材14の表面の表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)で0.2μm未満であることが好ましい。
なお、外装基材14の表面がグロス加工されている構成、すなわち、算術平均粗さが0.2μm未満である構成や、外装基材14の表面がマット加工されている場合であっても、算術平均粗さが0.4μm未満である構成、すなわち、比較的表面粗さの小さい構成では、外装基材14の表面における凹凸が抑えられているため、外装基材14の表面にアンテナの形状が浮き出ると、アンテナの形状が視認され易い。
【0025】
以下、上述の各部材の詳細な構成について説明する。
<通信部>
通信部11は、非接触型の通信機能を実現する非接触通信部を備えるICチップと、ICチップの非接触通信部が有する通信端子に接続されたアンテナとを含む。
ICチップは、ベアチップであってもよいし、各種のICパッケージやチップサイズパッケージ(CSP)のように封止材で封止されていてもよい。
アンテナとしては、巻線アンテナ方式、もしくは、エッチングアンテナ方式のアンテナが採用可能である。
【0026】
巻線アンテナ方式が用いられる場合、アンテナは、例えばエナメル線のように、被覆を有する銅線から構成される。そして、こうした被覆銅線が巻回されることによって所定の形状に形成されたアンテナと、アンテナが接続されたICチップとが、コア基材12の内部に埋め込まれる。
【0027】
エッチングアンテナ方式が用いられる場合、アンテナはパターニングされた金属薄膜から構成される。金属薄膜としては、例えば、10μm以上50μm以下の厚さのアルミニウムや銅からなる薄膜が用いられる。そして、こうした金属薄膜がポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)からなる基材に貼り付けられた後、エッチングによって所定の形状にパターニングされることによって、アンテナが形成される。この場合、アンテナは上記基材および上記基材に実装されたICチップとともにコア基材12の内部に埋め込まれる。
アンテナの形状や巻き数は、所望の共振周波数等の特性が得られるように、適宜設定される。
【0028】
<コア基材>
コア基材12は、非晶性樹脂を主成分として含む。コア基材12は、例えば、白色である。コア基材12の主成分は、コア基材12を構成する成分のなかで最も高い含有率を有する成分であり、例えば、コア基材12のなかで50質量%以上の含有率を有する成分である。具体的には、コア基材12は、非晶性ポリエステル、もしくは、非晶性ポリエステルとポリカーボネートとのポリマーアロイを主成分として含むことが好ましい。非晶性ポリエステルおよびポリカーボネートは、非晶性樹脂の一例である。非晶性ポリエステルとしては、例えば、テレフタル酸とシクロヘキサンジメタノールおよびエチレングリコールとの共重合体、テレフタル酸とイソフタル酸およびエチレングリコールとの共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。コア基材12を構成するポリマーは、イソシアネート等によって架橋されていてもよい。また、成形時の流動性の調整のために、コア基材12の形成材料には、タルクやシリカが添加されていてもよいし、白色度の向上のために、コア基材12の形成材料に、二酸化チタンが添加されていてもよい。
【0029】
<中間基材>
中間基材13は、非晶性樹脂を主成分として含み、レーザー光の照射を受けて不可逆的に着色するレーザー着色性を有する。中間基材13の主成分は、中間基材13を構成する成分のなかで最も高い含有率を有する成分であり、例えば、中間基材13のなかで50質量%以上の含有率を有する成分である。中間基材13の主成分は、レーザー着色性を有する成分として、例えば炭素を含有する。そして、レーザー光の吸収によって中間基材13が発熱し、その熱によって炭化が生じることによって、中間基材13は黒く着色する。レーザーとしては、例えば、YAGレーザーが用いられる。
【0030】
こうした特性を実現するために、中間基材13は、ポリカーボネート、もしくは、非晶性ポリエステルとポリカーボネートとのポリマーアロイを主成分として含むことが好ましい。非晶性ポリエステルとしては、例えば、テレフタル酸とシクロヘキサンジメタノールおよびエチレングリコールとの共重合体、テレフタル酸とイソフタル酸およびエチレングリコールとの共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等が挙げられる。中間基材13を構成するポリマーは、イソシアネート等によって架橋されていてもよい。
【0031】
中間基材13は、例えば、レーザー光を受ける前において無色透明である。レーザー着色性を適度に確保するために、中間基材13の厚さは、50μm以上200μm以下であることが好ましい。
【0032】
中間基材13とコア基材12とは、ICカード10の機械的な強度が高まる観点から、これらが直接溶着されていることが好ましいが、こうした接合の形態に限らず、例えばホットメルト接着剤等の接着剤を介して互いに貼り合わせられていてもよい。
【0033】
<外装基材>
外装基材14は、結晶性樹脂、もしくは、結晶性樹脂と非晶性樹脂とのポリマーアロイを主成分として含む。外装基材14の主成分は、外装基材14を構成する成分のなかで最も高い含有率を有する成分であり、例えば、外装基材14のなかで50質量%以上の含有率を有する成分である。外装基材14が、ポリマーアロイを主成分として含む場合には、ポリマーアロイ中に結晶性樹脂が30質量%以上含まれていると、結晶性樹脂の特性が発揮されるため好ましい。外装基材14は、例えば、無色透明である。具体的には、外装基材14は、結晶性ポリエステル、もしくは、結晶性ポリエステルとポリカーボネートとのポリマーアロイを主成分として含むことが好ましい。結晶性ポリエステルは、結晶性樹脂の一例である。結晶性ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
【0034】
外装基材14と中間基材13とは、ICカード10の機械的な強度が高まる観点から、これらが直接溶着されていることが好ましいが、接着剤を介して互いに貼り合わせられていてもよい。接着剤の材料は特に限定されないが、接着剤を構成する樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ビニルアルコール、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド等を用いることができる。
【0035】
コア基材12と中間基材13と外装基材14との全体がポリエステルとポリカーボネートを含む場合、コア基材12と中間基材13と外装基材14との全体におけるポリカーボネートの割合は、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。ポリカーボネートの割合が上記範囲であると、ICカード10を構成する基材の特性として、ポリカーボネートの特性よりもポリエステルの特性の方が強く出る。例えば、雄雌金型を用いたパンチングによってICカード10の外形が打ち抜かれる際に、破断部が伸びることが抑えられるため、ICカード10の外形が崩れることが抑えられる。
【0036】
<磁気テープ>
磁気テープ15は、カード用として一般的に使用される磁気テープであれば、その構成において特に制約はない。磁気テープ15の厚さは10μm以上30μm以下であることが好ましく、10μm以上20μm以上であることが特に好ましい。
【0037】
<各基材の耐熱性>
コア基材12、中間基材13、および、外装基材14の耐熱性に関する構成について説明する。コア基材12のガラス転移温度をTg1、中間基材13のガラス転移温度をTg2、中間基材13のビカット軟化温度をTs2、外装基材14のビカット軟化温度をTs3とするとき、Tg1、Tg2、Ts2、および、Ts3は、下記の(a)〜(c)の条件を満たす。なお、上記ビカット軟化温度は、JIS K7206に規定されるA法に準拠して求められる温度である。
(a)Tg2<140℃
(b)20℃<Tg2−Tg1≦50℃
(c)Ts2≦Ts3−15℃
【0038】
一般に、レーザー着色性を有する樹脂は、ガラス転移温度が高く、例えば、ポリカーボネートのガラス転移温度は、通常、140℃以上である。それゆえ、従来は、レーザー着色性を有する樹脂を中間基材13として用いる場合、中間基材13と外装基材14とを溶着するためには、製造工程における基材12,13,14の成形のための加熱温度を、150℃以上の高温にする必要があった。金属からなるアンテナと、樹脂からなる基材12,13,14とでは、熱膨張率が互いに大きく異なり、熱膨張率の違いに起因した加熱冷却時の収縮の程度の差は、加熱温度が高いほど、顕著になる。したがって、加熱温度が高いほど、すなわち、中間基材13のガラス転位温度が高いほど、アンテナの形状が、コア基材12および中間基材13を伝わって、外装基材14の表面にまで浮き出やすくなる。
【0039】
本実施形態では、条件(a)が示すように、ガラス転移温度Tg2が140℃よりも低い中間基材13が用いられることによって、ガラス転移温度Tg2が140℃以上の中間基材13が用いられる場合と比較して、加熱温度を低く抑えることができる。その結果、外装基材14の表面にアンテナの形状が浮き出ることが抑えられる。なお、ガラス転移温度Tg2が140℃よりも低い中間基材13は、例えば、中間基材13に含まれるポリマーの分子量の調整等によって製造される。
【0040】
そして、本実施形態では、コア基材12のガラス転移温度Tg1よりも中間基材13のガラス転移温度Tg2の方が高く、かつ、中間基材13のビカット軟化温度Ts2よりも外装基材14のビカット軟化温度Ts3の方が高い。すなわち、アンテナに近い位置から、ICカード10の表面に向けて、基材の耐熱性は、段階的に高くなる。そのため、製造工程にて加熱された際に、ICカード10の表面に近い基材ほど、変形し難い。したがって、耐熱性が最も低い基材であるコア基材12は、アンテナによって形成される大きい段差の一部を埋め、次いで耐熱性が低い基材である中間基材13は、コア基材12よって形成される小さい段差を埋め、結果として、外装基材14の表面にアンテナの形状が浮き出にくくなる。本実施形態では、条件(a)が満たされて、ガラス転移温度Tg2が従来よりも低い中間基材13が用いられるため、ICカード10の表面に向けて基材の耐熱性が段階的に高くなる構成を容易に実現することができる。
【0041】
また、条件(b)が示すように、中間基材13のガラス転移温度Tg2とコア基材12のガラス転移温度Tg1との差は、20℃よりも大きく、50℃以下である。コア基材12のガラス転移温度Tg1が中間基材13のガラス転移温度Tg2に比べて低すぎると、中間基材13と外装基材14との接合に要する加熱時に、コア基材12が過剰に流動性を有してしまい、円滑な成形が困難である。一方、コア基材12のガラス転移温度Tg1が高すぎると、加熱時のコア基材12の軟化が不十分となって、アンテナの段差を埋めるようにコア基材12が成形されず、アンテナ部分がその厚みの分だけ浮き上がって外装基材14の表面に現れやすい。また、アンテナの封止性や、アンテナとコア基材12との密着性も得られ難くなる。
【0042】
加熱温度は、上述のように、従来と比較して低く抑えた範囲のなかで、中間基材13と外装基材14とが溶着される場合には、中間基材13のガラス転移温度Tg2よりも高い温度とされる。中間基材13と外装基材14とが接着剤を介して貼り合わされる場合には、加熱温度は、中間基材13のガラス転移温度Tg2以下の温度であってもよいが、こうした場合を考慮しても、通常、加熱温度は、中間基材13のガラス転移温度Tg2の上下30℃程度の範囲内で設定される。したがって、条件(b)が満たされることによって、コア基材12のガラス転移温度Tg1が加熱温度に対して低すぎたり高すぎたりすることが抑えられる。
【0043】
また、条件(c)が示すように、外装基材14のビカット軟化温度Ts3と中間基材13のビカット軟化温度Ts2との差は、15℃以上である。本実施形態のICカード10の製造工程では、上述のように、従来と比較して加熱温度が低く抑えられるため、加熱温度は、外装基材14のビカット軟化温度Ts3と同程度以下の温度となる。外装基材14のビカット軟化温度Ts3と中間基材13のビカット軟化温度Ts2との差が15℃未満のように、中間基材13のビカット軟化温度Ts2が高い構成では、中間基材13の軟化が不十分であることに起因して、中間基材13と外装基材14との剥離が生じやすくなる。したがって、条件(c)が満たされることによって、中間基材13のビカット軟化温度Ts2が加熱温度に対して高すぎることが抑えられる。
【0044】
[ICカードの製造方法]
図2図5を参照して、上述したICカード10の製造方法について説明する。
図2が示すように、まず、通信部11の周囲にコア基材12が配置される。例えば、コア基材12を構成する2つのシート状の基材が通信部11を挟み込むことによって、通信部11がコア基材12によって覆われる。具体的には、アンテナが被覆銅線から構成される場合には、一方の上記シート状の基材上でアンテナが形作られ、アンテナが金属薄膜から構成される場合には、パターニングされた金属薄膜を支持する基材が、一方の上記シート状の基材上に配置される。そして、配置された通信部11を挟むように、一方の上記シート状の基材に他方の上記シート状の基材が重ねられる。
図3が示すように、次に、コア基材12を挟むように、コア基材12に中間基材13が積層される。
【0045】
図4が示すように、次に、磁気テープ15の配置された外装基材14が、コア基材12と中間基材13との積層体を挟むように、中間基材13に積層される。磁気テープ15には、予め接着剤が塗工され、磁気テープ15は、熱転写によって、一方の外装基材14aに貼り付けられる。
【0046】
図5が示すように、コア基材12と中間基材13と外装基材14との積層体が加圧された状態で、加熱され、その後、冷却される。これによって、通信部11がコア基材12に埋め込まれ、基材12,13,14が1つの板状に成形される。なお、図5における矢印は、熱と圧力との印加を示す。
【0047】
上述のように、加熱温度が高いほど、アンテナの形状が、外装基材14の表面に浮き出やすくなる。したがって、加熱温度Taは、下記条件(d)を満たすように、100℃以上150℃未満であることが好ましく、100℃以上140℃以下であることが特に好ましい。加熱温度Taが上記範囲内であれば、外装基材14の表面にアンテナの形状が浮き出ることが抑えられる。また、加熱温度Taは、下記条件(e)および(f)を満たすことが好ましい。
(d)100℃≦Ta<150℃、好ましくは、100℃≦Ta≦140℃
(e)Ts2<Ta≦Ts3−10℃
(f)Tg1+20℃<Ta、好ましくは、Tg1+30℃≦Ta
【0048】
上述のように、中間基材13のビカット軟化温度Ts2が加熱温度Taに対して高すぎると、中間基材13の軟化が中間基材13と外装基材14との接合に要する程度に対し不十分となり、それに起因して、中間基材13と外装基材14との剥離が生じやすくなる。一方で、外装基材14の表面にアンテナの形状が浮き出ることを抑えるためには、加熱温度Taは低い方がよい。加熱温度Taが条件(e)を満たすことによって、中間基材13が十分に軟化されて中間基材13と外装基材14とが良好に接合されるとともに、外装基材14の表面にアンテナの形状が浮き出ることが抑えられる。
【0049】
また、上述のように、コア基材12のガラス転移温度Tg1が加熱温度Taに対して高すぎると、加熱時のコア基材12の軟化が段差を埋めることに対し不十分となり、それによって、コア基材12がアンテナに沿う形状に成形されず、コア基材12の内部へのアンテナの埋め込みが不十分となる。その結果、アンテナの厚みが外装基材14の表面に浮き出やすくなる。条件(f)が満たされることによって、加熱温度Taでの加熱時に、コア基材12のガラス転移温度Tg1が十分に軟化する。なお、コア基材12のガラス転移温度Tg1は、例えば、70度以上であり、加熱時にコア基材12が過剰に流動性を有して成形が行い難くなることを抑えるためには、コア基材12のガラス転移温度Tg1は、「加熱温度Ta−70℃」よりも高いことが好ましい。
【0050】
また、中間基材13と外装基材14とを溶着するためには、加熱温度Taは、中間基材13のガラス転移温度Tg2よりも高い温度である必要がある。さらに、中間基材13と外装基材14との接合を強固にするためには、加熱温度Taは、中間基材13のガラス転移温度Tg2よりも10℃以上高い温度であることが好ましい。
【0051】
なお、通信部11を覆うようにコア基材12のみが配置された状態で、加熱および冷却が行われ、その後、コア基材12に中間基材13と外装基材14とが積層されて、これらの積層体が加熱および冷却されてもよい。すなわち、加熱による成形が2回行われてもよい。こうした製法によれば、アンテナとコア基材12との収縮の程度の違いによってコア基材12の表面にアンテナの形状が浮き出たとしても、この浮き出た形状が、外装基材14の表面まで伝わりにくいため、外装基材14の表面にアンテナの形状が浮き出ることが抑えられる。
【0052】
ただし、生産効率の向上のためには、加熱による成形は1回であることが好ましい。本実施形態のICカード10の構成によれば、1回の加熱のみによって成形を行う場合であっても、外装基材14の表面にアンテナの形状が浮き出ることが抑えられるため、ICカード10の外観を良くすることと、生産効率の向上との両立が可能である。
なお、レーザー光の照射によって、中間基材13には、文字や図形等の情報が記録される。
【0053】
また、コア基材12、中間基材13、および、外装基材14の各基材の表面には、文字や絵柄等の印刷が施されてもよい。印刷方法としては、オフセット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷等が挙げられる。印刷後の乾燥方法としては、熱風乾燥、赤外線や紫外線照射による乾燥等が挙げられる。
【0054】
印刷に用いられるインキの着色には、染料や顔料が用いられる。また、顔料として、アルミニウム、酸化チタン、真鍮等の金属顔料やパール顔料を用いてもよい。インキに含まれる樹脂としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ABSやそれらの共重合体、ポリマーアロイ等が挙げられる。なお、インキが溶剤型インキあるいは水系インキである場合には、上記乾燥方法のうち、熱風乾燥が行われ、インキが紫外線硬化型インキである場合には、上記乾燥方法のうち、紫外線照射による硬化が行われればよい。
【0055】
上述の製造方法における各工程は、大面積の基材12,13,14が用いられて、1つの基材に各別のICカード10となる複数の領域が割り付けられた状態で行われることが好ましい。この場合、上記各工程を経た後に、上記複数の領域の各々が打ち抜かれて、ICカード10が個片化される。ICカード10の打ち抜きは、例えば、雄雌金型とプレス機とを用いたパンチングによって行われる。
【0056】
ICカードの基材がポリカーボネートからなる場合、雄雌金型を用いたパンチングを行うと、破断部が伸びてしまって平滑な破断面が得られないため、ICカードの個片化には刃物による切断が必要である。これに対し、本実施形態のICカード10は、上述のように、基材におけるポリカーボネートの割合が抑えられているため、パンチングによる打ち抜きが可能である。したがって、ICカードの生産効率が高められる。
以上説明したように、本実施形態のICカード、および、ICカードの製造方法によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
【0057】
(1)条件(a),(b),(c)を満たすICカードは、条件(a)によって、ガラス転移温度Tg2が140℃以上の中間基材13が用いられる場合と比較して、製造工程における加熱温度を低く抑えることができる。その結果、レーザー着色性を有する樹脂を基材に含むICカードにおいて、外装基材14の表面にアンテナの形状が浮き出ることが抑えられる。また、条件(b)によって、コア基材12のガラス転移温度Tg1が低すぎて加熱時にコア基材12が過剰に流動性を有することや、コア基材12のガラス転移温度Tg1が高すぎて加熱時のコア基材12の軟化が不十分となり、アンテナの厚みが外装基材14の表面に浮き出やすくなることが抑えられる。また、条件(c)によって、中間基材13のビカット軟化温度Ts2が高すぎて中間基材13の軟化が不十分となることに起因して、中間基材13と外装基材14との剥離が生じることが抑えられる。
【0058】
(2)コア基材12の主成分が、非晶性ポリエステル、もしくは、非晶性ポリエステルとポリカーボネートとのポリマーアロイであることによって、上記条件(a),(b),(c)を満たすコア基材12の調整が容易である。
【0059】
(3)中間基材13の主成分が、ポリカーボネート、もしくは、非晶性ポリエステルとポリカーボネートとのポリマーアロイであることによって、上記条件(a),(b),(c)を満たす中間基材13の調整が容易である。
(4)外装基材14における結晶性樹脂の割合が30質量%以上であることによって、外装基材14に結晶性樹脂の特性が発揮される。
【0060】
(5)外装基材14の主成分が、結晶性ポリエステル、もしくは、結晶性ポリエステルとポリカーボネートとのポリマーアロイであることによって、上記条件(a),(b),(c)を満たす外装基材14の調整が容易である。
【0061】
(6)コア基材12と中間基材13とが溶着されている構成では、これらの基材が接着剤によって接着されている構成と比較して、接着剤の経時劣化に起因して基材同士の接合が弱くなることが抑えられる。したがって、基材同士の接合についての信頼性が高められる。同様に、中間基材13と外装基材14とが溶着されている構成では、これらの基材が接着剤によって接着されている構成と比較して、基材同士の接合についての信頼性が高められる。
【0062】
(7)アンテナが金属薄膜からなる場合、アンテナが被覆銅線からなる場合と比べて、通信部11に、金属薄膜の基材が含まれるため通信部11が厚くなり、また、アンテナの面積が大きい。そのため、外装基材14の表面にアンテナの形状が浮き出やすく、アンテナの形状が浮き出たとき、その形状が視認され易い。したがって、アンテナが金属薄膜からなる場合に本実施形態のICカードの構成が適用されると、有用性が高い。
【0063】
(8)外装基材14の表面における算術平均粗さが0.4μm未満である構成では、外装基材14の表面における凹凸が抑えられているため、こうした構成のICカードにて、外装基材14の表面にアンテナの形状が浮き出ると、アンテナの形状が視認され易い。したがって、こうした場合に本実施形態のICカードの構成が適用されると、有用性が高い。
【0064】
(9)Tg1<Tg2<140℃が満たされ、条件(d),(e),(f)を満たすICカードの製造方法によれば、加熱温度を低く抑えることができるため、レーザー着色性を有する樹脂を基材に含むICカードにおいて、外装基材14の表面にアンテナの形状が浮き出ることが抑えられる。また、条件(f)によって、コア基材12のガラス転移温度Tg1が高すぎて加熱時のコア基材12の軟化が不十分となり、アンテナの厚みが外装基材14の表面に浮き出やすくなることが抑えられる。また、条件(e)によって、中間基材13のビカット軟化温度Ts2が高すぎて中間基材13の軟化が不十分となることに起因して、中間基材13と外装基材14との剥離が生じることが抑えられる。
【0065】
(10)加熱による成形回数が、通信部11、コア基材12、中間基材13、および、外装基材14を含む積層体に対する1回のみである製造方法では、ICカード10の生産効率が高められる。
【0066】
[実施例]
上述したICカード、および、ICカードの製造方法について、具体的な実施例および比較例を用いて説明する。
(実施例1)
[ICカードの構成]
・アンテナ:厚さ38μmのPETシートを基材として、厚さ35μmの銅箔のエッチングによって形成
・コア基材:ポリエステル(PG−WHI:三菱樹脂社製、厚さ260μm)
・中間基材:ポリカーボネート(炭素添加)(ディアフィクス DPI−TR:三菱樹脂社製、厚さ60μm)
・外装基材:ポリブチレンテレフタラートとポリカーボネートとのポリマーアロイ(P−AC:三菱樹脂社製、厚さ60μm)
[ICカードの製造]
アンテナと、コア基材と、中間基材と、外装基材とからなる積層体を形成し、この積層体を、圧力2MPa、温度140℃の条件で加圧および加熱した。積層体の冷却後、雄雌金型を用いてパンチングを行って積層体を1つのカード状に成形し、実施例1のICカードを得た。
【0067】
(実施例2)
[ICカードの構成]
アンテナ、コア基材、中間基材、および、外装基材の各々の構成は、実施例1と同様である。
[ICカードの製造]
アンテナをコア基材で挟んで、圧力2MPa、温度140℃の条件で加圧および加熱した。その後、コア基材に中間基材と外装基材とを積層し、この積層体を、圧力2MPa、温度140℃の条件で加熱および加圧した。積層体の冷却後、雄雌金型を用いてパンチングを行って積層体を1つのカード状に成形し、実施例2のICカードを得た。
【0068】
(実施例3)
[ICカードの構成]
・アンテナ:厚さ38μmのPETシートを基材として、厚さ35μmの銅箔のエッチングによって形成
・コア基材:ポリエステル(PG−WHI:三菱樹脂社製、厚さ220μm)
・中間基材:ポリカーボネート(炭素添加)(ディアフィクス DPI−TR:三菱樹脂社製、厚さ60μm)
・外装基材:ポリエチレンテレフタラート(ルミラー50S10:東レ社製、厚さ50μm)
[ICカードの製造]
アンテナと、コア基材と、中間基材と、外装基材とからなる積層体を形成した。この際、厚さ10μmのポリウレタンからなる接着剤を用いて、中間基材と外装基材とを貼り合わせた。上記積層体を、圧力2MPa、温度120℃の条件で加熱および加圧した。積層体の冷却後、雄雌金型を用いてパンチングを行って積層体を1つのカード状に成形し、実施例3のICカードを得た。
【0069】
(比較例1)
[ICカードの構成]
・アンテナ:厚さ38μmのPETシートを基材として、厚さ35μmの銅箔のエッチングによって形成
・コア基材:ポリカーボネート(LEXAN SD8B24:SABICジャパン社製、厚さ280μm)
・中間基材:ポリカーボネート(炭素添加)(LEXAN SD8B94:SABICジャパン社製、厚さ50μm)
・外装基材:ポリカーボネート(LEXAN SD8B14:SABICジャパン社製、厚さ50μm)
[ICカードの製造]
アンテナをコア基材で挟んで、圧力2MPa、温度185℃の条件で加圧および加熱した。その後、コア基材に中間基材と外装基材とを積層し、この積層体を、圧力2MPa、温度185℃の条件で加熱および加圧した。積層体の冷却後、雄雌金型を用いてパンチングを行って積層体を1つのカード状に成形し、比較例1のICカードを得た。
【0070】
(比較例2)
[ICカードの構成]
・アンテナ:厚さ38μmのPETシートを基材として、厚さ35μmの銅箔のエッチングによって形成
・コア基材:ポリエステル(PG−WHI:三菱樹脂社製、厚さ260μm)
・中間基材:ポリカーボネート(炭素添加)(ディアフィクス DPI−NR:三菱樹脂社製、厚さ60μm)
・外装基材:ポリブチレンテレフタラートとポリカーボネートとのポリマーアロイ(P−AC:三菱樹脂社製、厚さ60μm)
[ICカードの製造]
アンテナと、コア基材と、中間基材と、外装基材とからなる積層体を形成し、この積層体を、圧力2MPa、温度140℃の条件で加熱および加圧した。積層体の冷却後、雄雌金型を用いてパンチングを行って積層体を1つのカード状に成形し、比較例2のICカードを得た。
(比較例3)
加熱温度を150℃とする以外は、比較例2と同様にして、比較例3のICカードを得た。
【0071】
(比較例4)
[ICカードの構成]
・アンテナ:厚さ38μmのPETシートを基材として、厚さ35μmの銅箔のエッチングによって形成
・コア基材:ポリエステル(PG−WHT:三菱樹脂社製、厚さ220μm)
・中間基材:ポリカーボネート(炭素添加)(ディアフィクス DPI−TR:三菱樹脂社製、厚さ60μm)
・外装基材:ポリエチレンテレフタラート(ルミラー50S10:東レ社製、厚さ50μm)
[ICカードの製造]
アンテナと、コア基材と、中間基材と、外装基材とからなる積層体を形成した。この際、厚さ10μmのポリウレタンからなる接着剤を用いて、中間基材と外装基材とを貼り合わせた。上記積層体を、圧力2MPa、温度120℃の条件で加熱および加圧した。積層体の冷却後、雄雌金型を用いてパンチングを行って積層体を1つのカード状に成形し、比較例4のICカードを得た。
【0072】
(評価方法)
[アンテナに起因した外装基材表面の凹凸]
各実施例および各比較例のICカードについて、外装基材の表面における凹凸の高さを、表面粗さ計(サーフテスト SJ500:ミツトヨ社製)を用いて測定した。凹凸の高さは、外装基材の表面に形成された凸部の頂部と凹部の底部との間の距離である。
【0073】
また、目視によって、外装基材の表面にアンテナの形状が浮き出て見えるか否かを判定した。なお、肉眼によって観察できる外装基材の表面の凹凸の高さは、0.1μm〜1.0μm程度である。したがって、凹凸の高さが0.1μmよりも小さいことは、視認できない程度にまで、アンテナの形状が外装基材の表面に浮き出ることが抑えられていることを示す。
【0074】
[基材の接合状態]
各実施例および各比較例のICカードについて、アンテナを挟むコア基材の間、コア基材と中間基材の間、および、中間基材と外装基材の間の各々にて、基材同士の剥離が生じているか否かを観察した。
[パンチングにおけるバリの発生]
各実施例および各比較例のICカードについて、パンチングによる成形によって、バリが発生しているか否かを観察した。
【0075】
(評価結果)
表1に、各実施例および各比較例について、Tg1、Tg2、Ts2、Ts3、Ta、および、加熱による成形の回数を示す。また、表2には、外装基材表面の凹凸の評価結果を示す。表2にて、○は、目視によって、外装基材の表面にアンテナの形状が浮き出ていることが確認されないことを示し、×は、目視によって、外装基材の表面にアンテナの形状が浮き出ていることが確認されることを示す。また、表3には、基材の接合状態の評価結果を示す。表3にて、○は、基材間の剥離が確認されないことを示し、×は、基材間の剥離が確認されることを示す。また、表4にバリの発生の評価結果を示す。表4にて、○は、目視によってバリが確認されないことを示し、×は、目視によってバリが確認されることを示す。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
表1および表2が示すように、条件(a)Tg2<140℃を満たす実施例1,2では、条件(a)を満たさない比較例1,3に対し、加熱温度Taを低くできる。すなわち、実施例1,2では、条件(d)100℃≦Ta<150℃が満たされている。その結果、実施例1,2では、アンテナの形状が外装基材の表面に浮き出ることが抑えられている。表1〜表3にて比較例2が示すように、条件(a)を満たさない構成にて加熱温度Taを低くすると、アンテナの形状が外装基材の表面に浮き出ることは抑えられるものの、中間基材の軟化不足に起因して、中間基材と外装基材との剥離が生じる結果、使用に適さないICカードが形成される。
【0081】
なお、実施例1と実施例2との比較によって、加熱による成形回数が1回の場合であっても、2回の場合と同様に、アンテナの形状が外装基材の表面に浮き出ることが抑えられることが示される。また、実施例3が示すように、中間基材と外装基材とを接着剤を介して貼り合わせる構成では、加熱温度Taをさらに低い温度、例えば、中間基材のガラス転移温度Tg2よりも低い温度に設定することが可能である。
【0082】
また、条件(b)20℃<Tg2−Tg1≦50℃のうち20℃<Tg2−Tg1を満たさない比較例4では、外装基材の表面に凹凸が視認される。これは、コア基材のガラス転移温度Tg1が高すぎて、コア基材の軟化不足によってコア基材へのアンテナの埋め込みが不十分となる結果、アンテナの厚みが外装基材の表面に浮き出るためである。このことは、比較例4が条件(f)Tg1+20℃<Taも満たさないことからも支持される。
【0083】
また、条件(e)Ts2<Ta≦Ts3−10℃を満たす実施例1,2では、比較例1,3よりも低い加熱温度Taによって、中間基材が十分に軟化されるため、接着剤を用いずとも、中間基材と外装基材とが良好に接合されて剥離は生じていない。実施例1,2では、条件(c)Ts2≦Ts3−15℃も満たされている。
【0084】
また、表4が示すように、コア基材、中間基材、および、外装基材のすべてがポリカーボネートからなる比較例1では、パンチングによってバリが発生している。これに対し、ポリカーボネートの割合が抑えられた実施例1〜3、比較例2〜4では、バリの発生が抑えられることが示された。
(変形例)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することが可能である。
【0085】
・コア基材12の有する2つの面のうちの一方側のみに、中間基材13と外装基材14とが配置されていてもよい。この場合、コア基材12の有する2つの面のうちの他方側には中間基材13と外装基材14とのいずれもが配置されていなくてもよいし、中間基材13と外装基材14とのいずれか一方のみが配置されていてもよい。ただし、中間基材13と外装基材14とがコア基材12の両側に配置されている構成では、ICカード10に反りが生じることが抑えられる。
【0086】
・ICカード10は、非接触型の通信に加えて、接触型の通信を行うICカードであってもよい。この場合、非接触通信部と接触通信部とを備えるICチップは、コア基材12に埋め込まれず、ICカードの表面に接触用の端子が露出するように外装基材14に取り付けられ、導体による接続や電磁結合を利用して、アンテナと電気的に接続される。すなわち、通信部11には、ICチップが含まれなくてもよい。あるいは、非接触通信部を備えるICチップがコア基材12に埋め込まれ、接触通信部を備えるICチップが外装基材14に取り付けられてもよい。また、ICカードの用途に応じて、磁気テープ15は割愛されてもよい。
【符号の説明】
【0087】
10…ICカード、11…通信部、12…コア基材、13…中間基材、14…外装基材、15…磁気テープ。
図1
図2
図3
図4
図5