特許第6544135号(P6544135)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6544135
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】音響システム
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/12 20060101AFI20190705BHJP
   G10K 15/02 20060101ALI20190705BHJP
   G10H 1/00 20060101ALI20190705BHJP
   G10H 1/18 20060101ALI20190705BHJP
【FI】
   H04R3/12 A
   G10K15/02
   G10H1/00 Z
   G10H1/18 Z
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-161606(P2015-161606)
(22)【出願日】2015年8月19日
(65)【公開番号】特開2016-82575(P2016-82575A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2018年6月25日
(31)【優先権主張番号】特願2014-213219(P2014-213219)
(32)【優先日】2014年10月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】特許業務法人ネクスト
(72)【発明者】
【氏名】上原 春喜
(72)【発明者】
【氏名】田中 克明
(72)【発明者】
【氏名】須山 明彦
【審査官】 堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−056970(JP,A)
【文献】 特開2007−271802(JP,A)
【文献】 特開2009−060209(JP,A)
【文献】 特開2013−077002(JP,A)
【文献】 特開2014−103483(JP,A)
【文献】 特開2008−166979(JP,A)
【文献】 特開2013−051532(JP,A)
【文献】 特開2009−055451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/12
G10H 1/00
G10H 1/18
G10K 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークに接続され、前記ネットワークに音響信号を供給する供給装置と、
前記供給装置から前記ネットワークを介して供給された前記音響信号に応じた音響を出力する少なくとも1つの出力装置と、
前記少なくとも1つの出力装置に対し、前記音響を出力できる状態であるかを検出する検出部と、
前記少なくとも1つの出力装置のうち、前記音響信号を供給する出力装置を、前記検出部の検出結果に応じて制御する制御装置と、
を備え
前記少なくとも1つの出力装置は、前記音響信号に応じて振動する加振器と、前記加振器の振動に応じて前記音響を出力する被加振体とを有し、
前記検出部は、前記被加振体及び前記加振器を有する出力装置が、前記加振器を動作させて前記音響を出力できる状態であるか否かを検出し、検出結果を前記制御装置に通知することを特徴とする音響システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記検出部の検出結果に応じて、前記音響信号を供給する出力装置を設定することを特徴とする請求項1に記載の音響システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記検出部の検出結果に応じて、前記音響信号の周波数特性を変更することを特徴とする請求項2に記載の音響システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記検出部の検出結果をユーザに報知し、それに応じた前記ユーザの操作指示を受け付けることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の音響システム。
【請求項5】
前記少なくとも1つの出力装置は、前記加振器が設けられ前記被加振体を保持する保持部を備え、
前記制御装置は、前記検出部の検出結果に応じて、前記音響信号が供給されている出力装置の前記保持部から前記被加振体が取りはずされたことを検出することに応じて、前記被加振体が取りはずされた前記出力装置に供給する前記音響信号として、前記加振器により前記保持部を振動させる振動信号を供給することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の音響システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願に開示の技術は、音楽機器等が接続されたネットワークにおいて、音響信号を出力する装置を制御するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、所定の通信規格(例えば、TCP/IP規格)に従って構築されたネットワークにおいて、曲データ(MIDIのような演奏イベントデータ)や音響信号(オーディオ信号)、又は、その制御データ(MIDI制御データ、音響制御データ)などを伝送する音響システムがある(例えば、特許文献1など)。この音響システムでは、ネットワークを介して複数のノード、例えばパーソナルコンピュータなどの制御装置や各種の出力装置(電子ピアノやスピーカ装置など)を接続し、複数の出力装置から音楽等を同期して再生する。
【0003】
また、上記した出力装置の中には、響板に加振器が取り付けられた響板加振装置を備えるものがある(例えば、特許文献2など)。例えば、特許文献2では、加振器が音響信号に応じ響板を振動させることによって、豊かな音を発生させることが可能となっている電気ピアノが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−64880号公報
【特許文献2】特開2013−77002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スピーカ装置の中には、例えば、低音から高音までの音域が出力可能なフルレンジのもの他に、低音を出力するウーハー、中音を出力するミッドレンジ、高音を出力するツイーターなどがある。また、上記した響板加振装置は、響板の形状等が楽器の種類によって異なるため、響板を加振する加振器に供給する音響信号の周波数特性に音質が依存する。例えば、加振器に供給する音響信号の周波数によっては、響板から所望の音が放音されない、あるいは、意図しない音が放音される虞がある。
【0006】
また、響板加振装置を備える出力装置では、響板を加振して音を放音するモードの他に、通常の楽器として使用できる、即ち、響板加振装置の加振器を動作させないで演奏者の演奏に合わせてピアノの電子音や打弦による音を放音するモードを備えるのが一般的である。この種の出力装置は、響板加振装置を動作させないモードでは、音響信号の供給が不要となる。このため、再生する楽曲や出力装置の状態に応じて使用する出力装置がより適切に選択される音響システムが望まれている。
【0007】
本願に開示される技術は、上記の課題に鑑み提案されたものである。ネットワークに接続された出力装置に対し、音響信号を供給する出力装置を変更可能な音響システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願に開示される技術に係る音響システムは、ネットワークに接続され、ネットワークに音響信号を供給する供給装置と、供給装置からネットワークを介して供給された音響信号に応じた音響を出力する少なくとも1つの出力装置と、少なくとも1つの出力装置に対し、音響を出力できる状態であるかを検出する検出部と、少なくとも1つの出力装置のうち、音響信号を供給する出力装置を、検出部の検出結果に応じて制御する制御装置と、を備え、少なくとも1つの出力装置は、音響信号に応じて振動する加振器と、加振器の振動に応じて音響を出力する被加振体とを有し、検出部は、被加振体及び加振器を有する出力装置が、加振器を動作させて音響を出力できる状態であるか否かを検出し、検出結果を制御装置に通知することを特徴とする。なお、ここでいう音響信号とは、例えば、オーディオ信号や演奏データ(MIDIのような演奏イベントデータを音響信号に変換したもの)などである。
【0009】
当該音響システムでは、検出部は、出力装置が音響を出力できる状態であるかを検出する。検出部は、例えば、供給された音響信号を出力できないモード、あるいは出力装置の電源がOFFされた状態などを検出し、当該出力装置が音響を出力できない状態にあるとして制御装置に通知する。制御装置は、検出部の検出結果に応じて、音響信号を供給する出力装置を制御する。これにより、当該音響システムでは、出力装置の状態に応じて、出力装置への音響信号の供給を停止することが可能となる。
また、当該音響システムでは、検出部は、例えば、響板(被加振体)及び加振器を有する楽器(出力装置)が、通常の楽器として使用されるモードか、加振器を動作させて音を放音するモードかを検出する。検出部は、例えば、通常の楽器として使用されるモードを検出した場合に、当該出力装置が音響を出力できない(音響信号の供給が不要)状態にあるとして制御装置に通知する。これにより、当該音響システムでは、加振器等を備える出力装置の状態に応じて、供給先の出力装置を変更することが可能となる。
【0010】
また、本願に開示される技術に係る音響システムにおいて、制御装置は、検出部の検出結果に応じて、音響信号を供給する出力装置を設定する構成としてもよい。
【0011】
当該音響システムでは、制御装置は、例えば、状態が変化し音響を出力できない状態となった出力装置へ供給している音響信号の供給先を、他の出力装置に切り替えることが可能となる。
【0012】
また、本願に開示される技術に係る音響システムにおいて、制御装置は、検出部の検出結果に応じて、音響信号の周波数特性を変更する構成としてもよい。
【0013】
当該音響システムでは、検出部は、例えば、被加振体(ピアノの響板やトランペットのベルなど)と当該被加振体を振動させる加振器を備える出力装置において、響板やベルの振動特性などを検出する。この場合、制御装置は、被加振体の振動特性等に基づいて、検出部により状態を検出した出力装置へ供給する音響信号の周波数特性を適切なものに設定することが可能となる。
【0014】
また、本願に開示される技術に係る音響システムにおいて、制御装置は、検出部の検出結果をユーザに報知し、それに応じたユーザの操作指示を受け付ける構成としてもよい。
【0015】
当該音響システムでは、ユーザは、例えば、制御装置に対する操作を行うことで、出力装置の状態に応じて、音響信号を供給する出力装置を変更等することが可能となる。
【0018】
また、本願に開示される技術に係る音響システムにおいて、少なくとも1つの出力装置は、加振器が設けられ被加振体を保持する保持部を備え、制御装置は、検出部の検出結果に応じて、音響信号が供給されている出力装置の保持部から被加振体が取りはずされたことを検出することに応じて、被加振体が取りはずされた出力装置に供給する音響信号として、加振器により保持部を振動させる振動信号を供給する構成としてもよい。
【0019】
当該音響システムでは、制御装置は、保持部から被加振体が取りはずされると、振動信号を供給し、加振器により保持部を振動させることで音を発生させることが可能となる。ここでいう振動信号とは、音響信号とは別に用意した信号でもよく、供給中の音響信号の周波数特性を変更した信号でもよい。これにより、当該音響システムでは、例えば、加振器が設けられたスタンドからギターが取りはずされた場合に、再生中の音楽とは無関係の音をスタンドから発生させることが可能となる。ユーザは、この音を聞くことで、加振器が動作中にギターを取り外したことに気付くことができ、ギターをスタンドに戻したり、加振器の動作を停止させたりするなどの適切な対応を行うことが可能となる。また、加振器によりスタンドを振動させて音を発生させるため、異常を知らせるためのブザーやランプ等を別途設ける必要がなくなる。
【発明の効果】
【0020】
本願に開示される技術によれば、ネットワークに接続された出力装置に対し、音響信号を供給する出力装置を変更可能な音響システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態の音響システムの構成を示すブロック図である。
図2】TAピアノの構成を示すブロック図である。
図3】TAギターシステムの構成を示すブロック図である。
図4】曲データの再生動作の処理内容を示すフローチャートである。
図5】曲データの再生動作の処理内容を示すフローチャートである。
図6】別の実施形態の音響システムの構成を示すブロック図である。
図7】別の実施形態の音響システムの構成を示すブロック図である。
図8】別の実施形態の音響システムの構成を示すブロック図である。
図9】トランペット用のスタンドの斜視図である。
図10】トランペット用のスタンドの内部構造を示す模式図である。
図11】スタンドにトランペットが載置された状態を示す斜視図である。
図12】状態変化を検出した場合のスマートフォンの表示画面である。
図13】音源の変更を行うスマートフォンの表示画面である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を具体化した一実施形態について添付図面を参照しながら説明する。図1は、本願発明の一実施形態である音響システム10が図示されている。音響システム10は、曲データ供給装置11と、スマートフォン13と、スピーカ装置17と、自動演奏ピアノ19と、TAピアノ21と、TAギターシステム23とを備え、各装置がローカルエリアネットワーク(LAN:Local Area Network)を介して接続されている。
【0023】
曲データ供給装置11は、例えば、NAS(Network Attached Storage)などのLANに接続可能な外部記憶装置(ストレージ)である。曲データ供給装置11には、例えば、アナログ信号の楽曲をサンプリングした曲データMDや、MIDIのような演奏イベントが設定された制御データCDなどの信号が保存されている。なお、曲データ供給装置11は、NASに限らず、例えば、上記した信号(曲データMD(オーディオ信号)や演奏データ(MIDIのような演奏イベントデータを音響信号に変換したもの))をネットワークに供給可能な他の記憶装置(サーバなど)でもよい。また、曲データMDのファイル形式は、特に限定されず、例えば、MP3、WAVE、WMA、AAC、M4A、FLAC等のファイル形式でもよい。
【0024】
本実施形態の音響システム10では、所定の通信規格、例えば、TCP/IP規格に準拠した通信規格でLANを介してパケットPが伝送される。曲データ供給装置11は、曲データMDや制御データCDをパケットPに変換して各装置に送信する。音響システム10は、このようなパケット方式のデータ授受を実現するために、アイソクロナス伝送方式を用いた通信規格(ネットワークプロトコル)が採用できる。そして、音響システム10は、曲データ供給装置11に保存された曲データMDを供給する各装置を、曲データMDの内容に応じて制御することが可能となっている。
【0025】
なお、パケットPを伝送する通信規格は適宜変更できる。例えば、DLNA(Digital Living Network Alliance)(登録商標)のような、家電、携帯端末、パーソナルコンピュータなどの複数の電子機器が接続されたホームネットワークを構築するための通信規格でもよい。また、例えば、CobraNet(登録商標)のようなディジタルオーディオネットワークに用いられる通信規格でもよい。従って、音響システム10が備えるネットワークは、音響信号(曲データMDなど)が伝送可能なネットワークであれば、様々な通信形態を採用できる。
【0026】
スマートフォン13は、例えば、IEEE802.11に準拠した無線通信により、LANに接続されたアクセスポイントと通信を行う。スマートフォン13は、例えば、複数のCPU(Central Processing Unit)と、各CPUが実行するプログラムが記憶されたメモリと、各CPUがプログラムの実行時にデータを一時的に記憶するためのRAMと、これらの装置を互いに接続するための内部バスなどを有している(それぞれ不図示)。スマートフォン13には、音響システム10を統括制御するためのアプリケーションがインストールされている。スマートフォン13は、このアプリケーションの様々なプログラムがCPUで実行されることにより、各種機能が実現される。スマートフォン13は、各種機能として、例えば、曲データ供給装置11に保存された曲データMDの曲名を取得し、プレイリストを作成してタッチパネル13Aに表示する。
【0027】
スピーカ装置17は、スマートフォン13のアプリケーションによって制御可能な制御ユニット17Aを備える。制御ユニット17Aは、曲データ供給装置11からLANを介して曲データMDのパケットPを受信して、アナログオーディオ信号に変換する。スピーカ装置17は、アナログオーディオ信号を内蔵するアンプにより増幅して放音する。制御ユニット17Aは、曲データ供給装置11から曲データMDを取得するか否かが、スマートフォン13によって制御可能となっている。従って、スピーカ装置17は、スマートフォン13が制御ユニット17Aを制御することによって、曲データMDを再生するか否かが制御される。なお、制御ユニット17Aは、スピーカ装置17に内蔵される装置に限らず、別途設けられ着脱可能な装置でもよい。例えば、制御ユニット17Aは、LANケーブルが接続されるコネクタの他に、スピーカ装置17と接続する音響ケーブルが接続されるコネクタを備え、スピーカ装置17に対して外付け可能な装置でもよい。
【0028】
自動演奏ピアノ19は、曲データ供給装置11から供給された制御データCD(演奏データ等)に基づき鍵盤やペダルを動作させて自動演奏を行う装置である。また、自動演奏ピアノ19は、自動演奏を行う機能の他に、曲データ供給装置11から供給された曲データMDを制御ユニット19Aで受信し、内蔵するアンプにより増幅してスピーカユニット(不図示)から放音する。自動演奏ピアノ19は、スピーカ装置17と同様に、スマートフォン13が制御ユニット19Aを制御することによって、曲データMDを再生するか否かが制御可能となっている。
【0029】
TAピアノ21は、トランスアコースティック(登録商標)技術を用いて曲データMDを再生する装置である。TAピアノ21は、外観的には通常のグランドピアノ、又はアップライトピアノのような形状をしており、相応の場所に配置されている。TAピアノ21は、図2に示すように、一般的な電子ピアノと同様に、演奏操作子(キー・ハンマー・ペダルなど)の動作を検知する操作子センサ27、操作子センサ27の検出信号を解析して電子音の信号を生成する電子音源29に加え、制御ユニット21Aの他に、加振器31と、響板33と、操作部35と、処理部37とを有する。なお、図2は、TAピアノ21の構成の一部を示している。制御ユニット21Aは、曲データ供給装置11から曲データMDのパケットPを受信して、加振器31の駆動信号に変換する。処理部37は、CPU等の処理回路を備え、制御ユニット21Aが曲データMDの変換を行うか否かと、駆動信号を加振器31に供給するか否かの両方を制御する。加振器31は、響板33に取り付けられており、供給された駆動信号の波形の振幅や周波数に応じて振動し、響板33を加振して放音させる。なお、制御ユニット21Aが変換出力する加振器31の駆動信号は、スピーカ装置17の制御ユニット17Aが変換出力するアナログオーディオ信号と同じであってもよい。
【0030】
操作部35は、TAピアノ21の入出力機能を有するデバイスであり、表示部や操作スイッチ等を有する。処理部37は、例えば、ユーザの操作部35への操作内容に応じて、TAピアノ21を3つのモードに切り替える。第1モードは、一般的なグランドピアノと同様に、演奏者が鍵盤を演奏するのに応じてハンマを動作させ、ハンマによる打弦のみで発音させる通常モードである。第2モードは、ハンマによる打弦を阻止し、曲データ供給装置11から供給された曲データMD、又はTAピアノ21自身を演奏者が演奏することによって電子音源29が生成した電子音信号に基づいて、加振器31により響板33を加振させるTAモードである。TAピアノ21は、TAモードでは、例えば、曲データMD又は演奏による電子音信号のいずれに基づいた駆動信号を、加振器31に供給するのかを、切り替えることが可能となっている。第3モードは、通常モードと同様に打弦で発音させるとともに、加振器31により響板33を加振させる併用モードである。
【0031】
処理部37の検出モジュール39は、TAピアノ21が曲データMDにより加振器31を動作させて響板33から放音できる状態であるか否かを検出する。この検出モジュール39による処理は、例えば、処理部37のCPUなどにより対応するプログラムが実行されることで実現される。例えば、上記した3つのモードでは、第2モードと第3モードにおいて、加振器31が動作する。換言すれば、第1モードでは、加振器31を動作させるための曲データMDが不要となる。検出モジュール39は、モードの設定や変更に応じて、曲データMDが必要であるか否かを判定し、LANを介してスマートフォン13に通知する。スマートフォン13は、検出モジュール39からの通知に応じて制御ユニット21Aを制御し、制御ユニット21Aが曲データ供給装置11から曲データMDを取得すべきか否かを変更する。例えば、スマートフォン13は、TAピアノ21が第1モードの場合に、制御ユニット21Aの曲データMDに対応するパケットPを取得する処理を停止させる。
【0032】
なお、検出モジュール39による検出方法は、モードによる判定に限らない。例えば、検出モジュール39は、操作部35の操作スイッチが操作されTAピアノ21の電源がOFFされた場合に、曲データMDが不要であると判定し、その旨をスマートフォン13に通知してもよい。また、スピーカ装置17及び自動演奏ピアノ19は、TAピアノ21と同様に、曲データMDを受信して再生できる状態(電源ON状態など)であるか否かを検出する検出モジュールを備えてもよい。
【0033】
また、TAギターシステム23は、トランスアコースティック(登録商標)技術を用いて曲データMDを再生する装置であり、図3に示すように、外観形状的にはアコースティックギターの形をしたギター43と、そのギター43を設置するスタンド41とを有し、相応の場所に設置されている。スタンド41には、制御ユニット23Aの他に、加振器45と、検出センサ47とが設けられている。制御ユニット23Aは、曲データ供給装置11から受信した曲データMDに対応したパケットPを加振器45に供給する駆動信号に変換する。加振器45は、スタンド41に置かれた状態のギター43の響板49を加振する。加振器45は、制御ユニット23Aが変換した曲データMDの進行に応じた駆動信号が供給され、響板49を加振して放音する。なお、制御ユニット23Aが変換出力する加振器45の駆動信号は、スピーカ装置17の制御ユニット17Aが変換出力するアナログオーディオ信号と同じであってもよい。
【0034】
また、検出センサ47は、ギター43がスタンド41に置かれているか否かを検出可能なセンサである。検出センサ47は、例えば、ギター43がスタンド41の所定位置に置かれた場合に作動するリレースイッチと、リレースイッチの信号を処理する処理回路を備える。検出センサ47は、ギター43がスタンド41に置かれている状態であるか、あるいはスタンド41からはずされている状態(ユーザが使用中など)であるかを検出し、スマートフォン13に通知する。スマートフォン13は、検出センサ47からの通知に応じて、制御ユニット23Aが曲データ供給装置11から曲データMDを取得すべきか否かを制御する。なお、検出センサ47は、ギター43の状態が検出可能な他のセンサ(赤外線センサなど)でもよい。
【0035】
そして、本実施形態の音響システム10では、上記した構成により、曲データ供給装置11に保存された曲データMDを供給する出力装置(スピーカ装置17やTAピアノ21など)を、曲データMDの内容に応じて切り替える。例えば、音響システム10は、ピアノの曲であれば、TAピアノ21や自動演奏ピアノ19を使用し、ギター曲であればTAギターシステム23を使用して曲データMDの再生を実現する。なお、ピアノ曲、ギター曲等の検出は、曲データMD自体の時間解析を行い、周波数特性から決定してもよいし、曲に付随した識別子から決定するものでもよい。また、例えば、周波数特性の分析は、特開2011−221157号公報に開示されている、音響信号に対し所定の時間間隔ごとの特徴点を抽出し比較等する方法を用いることができる。具体的には、単位時間における単位帯域毎の成分値を時間軸方向及び周波数軸方向に配列した成分行列と、当該成分行列を時間軸方向に移相した移相行列との各成分値の差異を算出したものから特徴となる値を抽出等することで曲データMDの周波数特性を分析してもよい。
【0036】
次に、音響システム10による曲データMDの再生動作の処理について、図4を参照しつつ説明する。まず、図4に示すステップ(以下、単に「S」と表記)S11において、ユーザは、曲データ供給装置11に保存された楽曲の中から好みの楽曲を音響システム10で再生するために、スマートフォン13を操作する。スマートフォン13のアプリケーションは、ユーザがプレイリストから楽曲(曲データMD)を選択すると(S11)、選択された楽曲名に対して過去に設定されたパッチがあるか否かを検索する(S13)。ここでいうパッチとは、LANを介して接続された複数のノード(スピーカ装置17やTAピアノ21など)間の任意の接続を論理的に設定するためのバーチャルパッチである。音響システム10は、このパッチによって設定された出力側ノード(曲データ供給装置11)から入力側ノード(スピーカ装置17等)へ曲データMDや制御データCDが送信されることとなる。
【0037】
スマートフォン13は、適用したパッチを保存するための記憶装置として、例えば、不揮発性のメモリ(フラッシュメモリなど)を備えている。スマートフォン13は、後述するS35(図5参照)において、再生が終了した曲データMDに関わる情報と、その曲データMDを再生した際に使用したパッチの設定とを関連付けてフラッシュメモリに保存する。このため、S13において、スマートフォン13は、フラッシュメモリに保存されている過去に設定されたパッチを検索し、ユーザがプレイリストから選択した曲データMDに対応するものがあるか否かを判定する(S15)。なお、曲データ供給装置11に保存された曲データMDに、予めパッチを設定してもよい。例えば、ピアノ曲の曲データMDに対し、自動演奏ピアノ19やTAピアノ21を出力装置として選択したパッチを予め設定してもよい。この場合、スマートフォン13によるパッチの判定処理を省略することが可能となる。
【0038】
次に、スマートフォン13は、該当するパッチがあった場合には(S15:YES)、過去のパッチを再適用して、ユーザが選択した曲データMDの再生を開始する(S23)。一方で、スマートフォン13は、該当するパッチがなかった場合には(S15:NO)、選択された楽曲を分析する(S19)。楽曲の分析方法には多様な方法(例えば、上記した特開2011−221157号公報に開示される方法など)が考えられるが、ここでは楽曲の周波数特性の分析を念頭において説明する。なお、他の楽曲の分析方法として、ユーザが楽曲ごとにプリセットした情報を読み込む処理や、楽曲に予め設定されたデフォルト値を読み込む処理などが考えられる。ここで、TAピアノ21のようなトランスアコースティック技術が用いられている音楽機器の音質、即ち、加振器31が響板33を加振して発音させる音の音質は、加振器31に供給する曲データMDの周波数特性によるところが大きい。これは、響板33,49は、楽器の種類(TAピアノ21やTAギターシステム23)によって形状や材質等が異なり、共鳴する周波数帯域等が異なるためである。このため、トランスアコースティック技術が用いられている音楽機器では、供給する曲データMDが同一であったとしても、響板33,49がどういった態様で振動し、どのような音を発音するのかは、響板33,49の振動に対する特性によって異なる。
【0039】
例えば、TAピアノ21に対して、ピアノの音源、あるいはピアノに類似した音色の音源以外の曲データMDを供給した場合には、響板33の振動特性に応じた振動が加振器31によって付与されないため、響板33から所望の音が放音されない虞がある。このため、スマートフォン13は、ユーザが選択した曲データMDの周波数特性を分析し、再生する出力装置(スピーカ装置17、自動演奏ピアノ19、TAピアノ21、TAギターシステム23)を選択しパッチとして設定する(S21)。なお、スマートフォン13は、例えば、S11の処理を開始する前(アプリケーションの起動時など)に、予めネットワーク上の出力装置に対する問い合わせ処理を実施し、各出力装置に供給する曲データMDとして最適な周波数特性の情報を取得しておくことが望ましい。
【0040】
スマートフォン13は、ユーザが選択した曲データMDを分析した結果、例えば、ピアノの音源に近い周波数特性を検出した場合には、曲データ供給装置11から曲データMDを供給する出力装置として、自動演奏ピアノ19やTAピアノ21を選択する(S21)。選択された自動演奏ピアノ19及びTAピアノ21の制御ユニット19A,21Aは、曲データ供給装置11から曲データMDを取得する処理を実施し、自動演奏ピアノ19及びTAピアノ21による同期した曲データMDの再生を実現する(S23)。
【0041】
あるいは、スマートフォン13は、分析した結果、例えば、ギターの音源に近い周波数特性を検出した場合には、出力装置として、TAギターシステム23を選択する。また、スマートフォン13は、分析した結果、例えば、ピアノの音源やギターの音源に属さない周波数特性を検出した場合には、出力装置としてスピーカ装置17を選択する。このようにして、本実施形態の音響システム10では、曲データMDに合った出力装置を選択して、曲データMDを最適な出力装置から再生することが可能となる。なお、スマートフォン13は、S17やS21でパッチを設定した後に、タッチパネル13Aに決定したパッチを表示してユーザによる最終決定や変更を促してもよい。これにより、ユーザは、曲データMDの内容と決定されたパッチとを比較しながら、好みの出力装置から曲データMDを再生することが可能となる。
【0042】
次に、図5に示すS25において、スマートフォン13は、各出力装置(TAピアノ21など)が備える検出モジュール39や検出センサ47からの通知に応じて、各出力装置が曲データMDを再生できる状態か否かを判定する。スマートフォン13は、曲データMDを供給している全ての出力装置の状態に問題がなければ(S25:YES)、曲データMDの再生が終了したか否かを判定する(S31)。スマートフォン13は、曲データMDの再生が終了していない場合には(S31:NO)、S25からの処理を所定のタイミングごとに繰り返し実行する。従って、スマートフォン13は、曲データMDの再生中において、各出力装置の状態を監視する。
【0043】
また、スマートフォン13は、曲データMDを再生できない状態の出力装置を検出した場合には(S25:NO)、再生出来ない状態の出力装置に対する曲データMDの供給を停止する(S27)。例えば、スマートフォン13は、検出モジュール39の通知によりTAピアノ21のモードが第2モードから第1モードに変更されたことを検出すると、制御ユニット21Aの曲データMDを取得する処理を停止させる。また、スマートフォン13は、検出モジュール39の通知によりTAピアノ21のモードが、再度、第2モードに変更されたことを検出すると(S25:NO)、制御ユニット21Aに対し曲データMDの取得処理を再開させる(S27)。これにより、TAピアノ21は、曲データMDの供給が再開される。
【0044】
あるいは、スマートフォン13は、S27において、曲データMDの供給を停止するだけでなく、供給先の出力装置を他の出力装置に切り替える処理を実施してもよい。例えば、スマートフォン13は、検出センサ47からの通知により、ギター43がスタンド41からはずされたことを検出すると、TAギターシステム23への曲データMDの供給を停止するとともに、他の出力装置(スピーカ装置17など)への曲データMDの供給を開始する処理を行ってもよい。そして、スマートフォン13は、このような再生中の検出処理等を実施し、曲データMDの再生が終了すると(S31:YES)、再生が終了した曲データMDと、適用したパッチとを関連付けてフラッシュメモリ等に設定として保存し(S35)、処理を終了する。なお、パッチをフラッシュメモリ等に保存するタイミングは、曲データMDの再生が終了したときだけではなく、パッチを変更する度(例えば、S27の処理の直後)に保存を行ってもよい。
【0045】
因みに、曲データMD及び制御データCDは、音響信号の一例である。曲データ供給装置11は、供給装置の一例である。スピーカ装置17、自動演奏ピアノ19、TAピアノ21、TAギターシステム23は、出力装置の一例である。スマートフォン13は、制御装置の一例である。響板33,49は、被加振体の一例である。検出モジュール39及び検出センサ47は、検出部の一例である。
【0046】
以上、上記した実施形態によれば、以下の効果を奏する。
TAピアノ21の検出モジュール39は、モードの設定や変更に応じて、曲データMDが必要であるか否かを判定し、スマートフォン13に通知する。また、TAギターシステム23の検出センサ47は、ギター43がスタンド41に置かれている状態であるか、あるいはスタンド41からはずされている状態であるかを検出し、スマートフォン13に通知する。これにより、スマートフォン13は、TAピアノ21やTAギターシステム23の状態に応じて、曲データMDの供給を停止したり、供給先を他の出力装置に切り替えたりすることが可能となっている。
【0047】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内での種々の改良、変更が可能であることは言うまでもない。
例えば、スマートフォン13は、1つの曲データMDにギターソロの部分や、ピアノソロの部分が含まれている場合には、各ソロのタイミングに合わせて出力装置を変更してもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、曲データ供給装置11に保存された1つの曲データMDを出力装置に供給する場合について説明したが、関連する複数のファイルを同時に最適な出力装置に供給する構成でもよい。例えば、曲データ供給装置11には、ギター曲の曲データMDと、この曲データMDと合奏できる制御データCDが保存されているものとする。この場合、スマートフォン13は、ギター曲の曲データMDをTAギターシステム23に供給しつつ、制御データCDを自動演奏ピアノ19に供給し、TAギターシステム23によるギター曲の再生と、自動演奏ピアノ19によるピアノ演奏の合奏を実施してもよい。
【0049】
あるいは、スマートフォン13は、上記実施形態のS11において、ユーザが選択した曲データMDに対し、他の曲データMD(ピアノのパートやギターのパート)が関連付けられている場合には、それぞれの曲データMDについて周波数特性の分析を行って供給先を決定し、同時配信を実施してもよい。
【0050】
また、上記実施形態では、本願におけるネットワークに音響信号を供給する供給装置として曲データ供給装置11を例に説明したが、これに限定されない。例えば、供給装置として、インターネット上の配信サーバを採用してもよい。図6は、別の実施形態の音響システム10Aの構成を示している。なお、上記実施形態と同様の構成については、同一符号を付し、その説明を適宜省略する。音響システム10Aでは、インターネット上の曲データ配信サーバ51に保存された曲データMDを取得して、各出力装置が再生を行う。曲データ配信サーバ51は、例えば、音楽の配信事業を実施しているベンダー等が公開しているサーバであり、所定の通信規格(HTTPプロトコルなど)により、曲データMDを取得することが可能となっている。例えば、音響システム10Aでは、ユーザがスマートフォン13を使用して曲データ配信サーバ51に保存された曲データMDから好みの楽曲を選択すると、スマートフォン13によって供給先の出力装置が選択される。選択された出力装置の制御ユニット(制御ユニット17Aなど)の各々は、ユーザが選択した曲データMDを曲データ配信サーバ51から取得する処理を行う。そして、選択された出力装置は、制御ユニット(制御ユニット17Aなど)によってダウンロードした曲データMDを、同期しながらストリーミング再生を実施する。
【0051】
このような構成の音響システム10Aにおいても、上記した音響システム10と同様の効果を得ることが可能となる。なお、音響システム10Aは、曲データ配信サーバ51からダウンロードした曲データMDをストリーミング再生せずに、一度、曲データ供給装置11等に保存した後に、曲データ供給装置11から各出力装置に供給してもよい。この場合、スマートフォン13が、曲データ配信サーバ51から曲データ供給装置11への曲データMDのダウンロードを実施してもよい。
【0052】
また、上記実施形態において、スマートフォン13が供給装置として機能してもよい。例えば、スマートフォン13には、複数の曲データMDが保存されており、ユーザの選択に応じて、各出力装置に曲データMDを供給してもよい。この場合、音響システム10は、曲データ供給装置11を省略することができる。また、スマートフォン13は、各制御ユニット(制御ユニット17Aなど)に対する制御が不要となる。
【0053】
また、上記実施形態において、自動演奏ピアノ19が供給装置として機能してもよい。例えば、ホームネットワークのLANを利用する場合に、子供部屋に配置した自動演奏ピアノ19を出力側とし、リビングに配置されたTAピアノ21を入力側としてもよい。このような構成では、自動演奏ピアノ19で演奏者が演奏した音のオーディオ信号を、LANを介して伝送し、TAピアノ21の響板33から放音することが可能となる。
【0054】
また、上記実施形態において、テレビやラジオなどの一般的なオーディオ機器を供給装置として機能させてもよい。図7は、別の実施形態の音響システム10Bの構成を示している。音響システム10Bは、テレビ61が、制御ユニット63を介してLANに接続されている。制御ユニット63は、例えば、LANコネクタと、音響ケーブルが接続可能なコネクタとを備え、テレビ61に対して外付け可能な装置である。制御ユニット63は、例えば、テレビ61から出力されるアナログのオーディオ信号DTをリアルタイムにエンコードしてデジタルのオーディオ信号に変換し、パケットPとして各出力装置に供給する。供給先の出力装置は、受信したパケットPを変換してオーディオ信号DTを再生する。この場合に、スマートフォン13は、例えば、デジタルテレビ放送の番組表の情報から、番組内でながれる音楽の種類(ピアノ曲やギター曲)を判定し、供給先の出力装置を決定してもよい。
【0055】
また、音響システム10Bは、オーディオ信号DTとして、テレビ61の音声に加えて映像も含めてもよい。図7に示すように、音響システム10Bには、テレビ61の他に、テレビ65が制御ユニット67を介してLANに接続されている。テレビ65は、テレビ61とは別の部屋等に設置されている。制御ユニット67は、制御ユニット63から受信したパケットPから音声や映像を抽出してテレビ65に供給する。このような構成では、音響システム10Bは、例えば、クラシックコンサートのテレビ番組をテレビ61で受信した場合に、映像をテレビ65に映し出しながら、音声をTAピアノ21やTAギターシステム23で同期再生させて、ユーザにより臨場感のある映像と音声を提供することが可能となる。
【0056】
また、上記実施形態では、スマートフォン13は、曲データMDの再生を開始した後に検出モジュール39や検出センサ47による出力装置の状態検出を実施したが、この状態検出を再生前に実施し、出力先を変更する処理を実施してもよい。あるいは、スマートフォン13は、再生前及び再生中の両方で、検出モジュール39等による検出及びパッチの変更を実施してもよい。
【0057】
また、上記実施形態において、曲データMDのファイル形式として、例えば、FLACのようなマルチチャンネル(5.1chなど)の音響信号を1つのファイルに保存可能な可逆圧縮のファイル形式を採用する場合には、スマートフォン13は、チャンネルごとに供給先の出力装置を変更する制御を実施してもよい。また、マルチチャンネルの作り方も4つのスピーカ装置17に出力するチャンネル4つ、TAギターシステム23に出力するチャンネル1つ、TAピアノ21に出力するチャンネル1つ、自動演奏ピアノ19に出力する制御チャンネル1つ、の合計7チャンネルのようなマルチトラックファイルとしてもよい。また、例えば、CobraNet(登録商標)のように1つのパケットPの中をチャンネルに分けて、チャンネルごとに曲データMDや制御データCDが設定可能なデータ形式を採用する場合にも、スマートフォン13は、チャンネルごとに供給先の出力装置を変更してもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、制御装置としてスマートフォン13を例に説明したが、制御装置はスマートフォン13に限らず、他の携帯端末やパーソナルコンピュータでもよい。
また、上記実施形態では、TAギターシステム23は、加振器45をスタンド41に備える構成であったが、これに限定されず、ギター43に加振器45を取り付けた構成でもよい。この場合、スタンド41の制御ユニット23Aからギター43の加振器45にオーディオ信号を無線送信して響板49を加振してもよい。
また、上記実施形態における処理手順(図4及び図5)は、一例であり、適宜順番の変更、ステップの追加、削除、交換等を実施することができる。
【0059】
また、本願における被加振体を備える楽器は、響板33,49を備える楽器(ピアノやギター)に限らず、トランペットやクラリネットなどの管楽器、あるいはドラムなどの打楽器でもよい。図8は、別の実施形態の音響システム10Cの構成を示している。音響システム10Cは、スマートフォン13と、管楽器システム71との2つがLANに接続され、スマートフォン13に格納された曲データMDを管楽器システム71で再生する。従って、当該音響システム10Cでは、出力装置として1台の管楽器システム71のみがネットワークに接続され、制御装置及び供給装置として機能するスマートフォン13と一対一の関係になっている。
【0060】
管楽器システム71は、スタンド73と、当該スタンド73に載置される管楽器として例えばトランペット75を備えている。図9は、スタンド73の斜視図を示している。スタンド73は、ペグ部81の底面に3本の脚82を設けた構造をなしている。ペグ部81は、載置されるトランペット75(図11参照)のベル75Aの形状に合わせて、脚82側の下端部81Aから上端部81Bに向かうに従って小径化する略円錐形状をなしている。ペグ部81の下端部81Aには、LANケーブル77を介してLAN(図1参照)に接続された外部入力端子83が設けられている。
【0061】
また、ペグ部81には、複数の検出部85A,85B,85Cが設けられている。検出部85A〜85Cは、トランペット75等の管楽器がペグ部81に載置されたことを検出するためのセンサである。検出部85A〜85Cは、例えば、ペグ部81に管楽器が載置されることでオン・オフが切り替えられるリレースイッチである。検出部85A〜85Cは、例えば、ペグ部81に管楽器を載置していない状態では、すべての検出部85A〜85Cがオフ状態となっている。
【0062】
ペグ部81は、上下方向における異なる位置に検出部85A〜85Cの各々が設けられており、図9に示す構成では、上から下に向かって検出部85A、検出部85B、検出部85Cの順番に取り付けられている。詳細については後述するが、複数の検出部85A〜85Cは、トランペット75、あるいはベルの内径が異なる他の管楽器(クラリネットなど)がペグ部81に載置されると、異なる検出信号を出力する。
【0063】
図10は、ペグ部81の内部構造図を示している。ペグ部81は、その内部にアンプ87と、加振器89とが取り付けられている。アンプ87は、ペグ部81の下部内に取り付けられており、スマートフォン13から供給された曲データMDを増幅して加振器89に出力する。加振器89は、ペグ部81の上部内に取り付けられ、ペグ部81の筐体に外周面が接触しており、その振動によりペグ部81を振動させることが可能となっている。
【0064】
図11は、スタンド73にトランペット75を載置した状態を示している。トランペット75をペグ部81に載置すると、検出部85A〜85Cは、ベル75Aが当接することで、当該検出部85A〜85Cのすべてがオフ状態からオン状態となる。アンプ87は、検出部85A〜85Cから入力される検出信号に基づいて、オン状態となった検出部85A〜85Cに係わる情報をスマートフォン13に通知する。スマートフォン13は、アンプ87からの通知に応じた曲データMDを管楽器システム71に供給する。管楽器システム71のアンプ87は、スマートフォン13から供給された曲データMDに応じて加振器89を振動させ、ペグ部81及びトランペット75を振動させて音声を発生させる。
【0065】
トランペット75は、ペグ部81に載置されると、ベル75Aの一部がペグ部81に当接するため、加振器89の振動がトランペット75のベル75Aや管など楽器全体に伝搬し、楽器全体が振動する。また、この振動が管内の空気に伝搬して管内が共鳴する。これにより、楽器を振動体及び共鳴体として利用して音声を放音させることができる。管楽器は、その種類によって共鳴周波数特性が異なる。そのため、ペグ部81に載置される楽器に応じた特徴を有する音声が放音される。
【0066】
さらに、スマートフォン13は、アンプ87からの通知内容に応じた曲データMDを、管楽器システム71に供給する。具体的には、上記したようにトランペット75がペグ部81に載置された場合には、検出部85A〜85Cのすべてがオン状態となる。このため、スマートフォン13は、3つの検出部85A〜85Cがすべてオン状態であることを検出すると、例えば、トランペット75の共鳴周波数特性に応じた曲データMDを管楽器システム71に供給する。
【0067】
また、スマートフォン13は、検出部85A〜85Cのオン状態に応じて異なる曲データMDを供給する。例えば、図10に破線で示すように、トランペット75に比べてベルの内径が小さい管楽器91(例えば、クラリネット)をペグ部81に載置した場合、管楽器91は、ベルがトランペット75のベル75Aに比べて小さいため、トランペット75に比べて上方側の位置でペグ部81に載置されることとなる。そして、検出部85A〜85Cは、3つの検出部85A〜85Cのうち、例えば、ペグ部81における最も上側となる検出部85Aのみがオン状態となる。この場合、スマートフォン13は、管楽器システム71からの通知に基づいて、検出部85Aのみがオン状態となったことを検出すると、例えば、クラリネットの共鳴周波数特性に応じた曲データMDを管楽器システム71に供給する。また、スマートフォン13は、曲データMDの種類を変更せずに、供給中の曲データMDの周波数特性を、管楽器の共鳴周波数特性等に応じて変更してもよい。これにより、スマートフォン13は、管楽器システム71に載置された管楽器の共鳴周波数特性に応じた曲データMDを供給し、管楽器を好適に共鳴させ音声を発生させることが可能となる。
【0068】
なお、検出部85A〜85Cは、リレースイッチに限らず、トランペット75等が載置されたことを検出できるのであれば、他の検出機構でもよい。例えば、光電センサや荷重センサなどでもよい。また、上記した例では、リレースイッチを用いて楽器の特徴(ベル75Aの大きさ、内径など)を検出したが、検出方法はこれに限らない。例えば、ペグ部81に振動ピックアップを設けて、加振器89から付与された振動に対して管楽器がどのように振動しているのかを検出して、ペグ部81に載置された管楽器の共鳴周波数特性等を判定してもよい。また、ペグ部81にスピーカとマイクとを取り付けて、スピーカから発生させる音声の周波数特性を変更しながら、マイクによって集音された音の共鳴を検出して管楽器の共鳴周波数特性等を検出してもよい。また、検出部85A〜85Cを設ける機器は、管楽器のスタンド73に限らず、他の種類の楽器を保持する機器、例えば、上記実施形態におけるギター43用のスタンド41(図3参照)に複数のリレースイッチ、光電センサ、荷重センサなどを設けて載置の有無や、弦楽器の種類(ギター、ベースなど)などを検出可能な構成としてもよい。
【0069】
また、スマートフォン13は、ペグ部81からトランペット75が取り外されたことを検出したことに応じて、曲データMDを変更、あるいは曲データMDの周波数特性を変更して、ペグ部81を加振器89によって振動させて音を発生させてもよい。例えば、音楽の再生中にユーザがトランペット75を取り外した場合には、トランペット75を載置していない状態であるにも係わらず、加振器89による振動動作が継続されることで、不要な電力消費が生じるなどの虞がある。一方で、トランペット75を取り外した状態では、ペグ部81は、トランペット75の共鳴周波数特性に応じて振動しているのみで、何ら音が発生していない状態となる場合がある。そして、ユーザは、アンプ87や加振器89が動作していることに気付かない虞がある。
【0070】
そこで、スマートフォン13は、例えば、曲データMDの再生中に、ペグ部81からトランペット75が取り外され検出部85A〜85Cがすべてオフ状態になったことを検出すると、管楽器システム71に対してペグ部81が共振する周波数特性の曲データMDを供給する。図10に示すペグ部81は、中空の円錐形状となっており、例えば、内蔵された加振器89の振動の振幅を大きくしたり、周期を短くしたりすると、振動によってスタンド73の各部位が衝突するなどして音が発生する。このため、スマートフォン13は、トランペット75が取り外されたことに応じて曲データMDを変更し、ペグ部81から音楽とは無関係の異音を発生させることで、管楽器システム71の動作中にトランペット75を取り外したことをユーザに知らせることが可能となる。ユーザは、異音に気付くことで、トランペット75をペグ部81に戻す、あるいはスマートフォン13を操作して管楽器システム71への曲データMDの供給を停止するなどの適切な対応を行うことが可能となる。
【0071】
また、上記実施形態では、スマートフォン13は、曲データMDを再生できない状態の出力装置(TAピアノ21など)を検出した場合には(図5のS25:NO)、再生出来ない状態の出力装置に対する曲データMDの供給を停止する処理等(S27)を自動で実施したが、状態の検出結果をユーザに報知してユーザからの操作指示を受け付けてもよい。
【0072】
図12は、状態変化を検出した場合のスマートフォン13の表示画面の一例を示している。スマートフォン13は、例えば、上記実施形態のS27において自動で出力装置の変更を実施せずに、図12に示すようにタッチパネル13Aの上部に「TAピアノ21が第1モードに変更された」旨の表示を行い、TAピアノ21の状態変化を検出したことをユーザに通知する。タッチパネル13Aには、中央部に再生ボタン95が表示されている。この再生ボタン95は、ユーザにタッチされることにより変更後の設定で再生を継続するためのボタンである。スマートフォン13は、後述する音源の選択をユーザが実施しない場合、再生ボタン95がタッチされると、検出モジュール39などの検出結果に応じた推奨される設定で再生を継続する。スマートフォン13は、推奨設定として、例えばTAピアノ21が第1モードに変更された場合、TAピアノ21に対する曲データMDの供給を停止し、他の出力装置による音楽再生を継続する設定を行う。
【0073】
また、タッチパネル13Aの下部には、ユーザにより音源を選択するための音源変更ボタン97が表示されている。スマートフォン13は、ユーザにより音源変更ボタン97がタッチされると、図13に示す画面をタッチパネル13Aに表示する。図13に示すように、タッチパネル13Aには、画面左側に曲データMDの出力装置名(供給先)が縦に並んで表示され、画面右側には各出力装置へ供給する曲データMDの種類(音源)が表示されている。例えば、TAピアノ21に対応する音源には、「停止」の表示の右側に選択ボタン101が表示されている。この選択ボタン101は、TAピアノ21(出力装置)に供給する音源を変更するためのボタンである。スマートフォン13は、ユーザにより選択ボタン101がタッチされると、再生中の曲データMDに応じた各音源(ギター曲、ピアノ曲、トランペット曲、クラリネット曲)をプルダウンメニューにより選択可能に表示する。あるいは、スマートフォン13は、選択ボタン101がタッチされた場合に、例えば、TAピアノ21へ供給する曲データMDのボリュームの変更やイコライジングが可能な画面(フェーダ−など)をタッチパネル13Aに表示してもよい。
【0074】
例えば、図8図11に示す管楽器システム71において、スタンド73にトランペット75の替わりにクラリネットが載置された場合、スマートフォン13は、上記した推奨設定であれば管楽器システム71にクラリネット曲を供給する制御を行う。一方で、ユーザがトランペット曲を管楽器システム71に供給したいと考えた場合には、図13に示す画面において、管楽器システム71に対応する音源の選択ボタン101を選択することにより、管楽器システム71の音源をトランペット曲に変更することが可能となる。ユーザは、音源の変更を行った後、図13のタッチパネル13Aの左下に表示された戻るボタン103をタッチし、図12に示す画面に戻して再生ボタン95をタッチすることで、変更後の設定で再生を継続することが可能となる。このような構成では、ユーザは、スマートフォン13に対する操作を行うことで、出力装置の状態に応じて曲データMDの供給先を変更する、あるいは供給する音源を変更する等が可能となる。
【0075】
また、ユーザは、図12に示すタッチパネル13Aの表示を確認することで管楽器の設置状態を確認することが可能となる。例えば、クラリネットを管楽器システム71のスタンド73に載置したにも拘わらず、音源としてトランペット曲が設定されていた場合には、ユーザは、タッチパネル13Aの表示から管楽器の設置状態が適切でない虞があること(傾いて載置されているなど)を認識することが可能となる。
【0076】
なお、上記した図12及び図13では、再生中の出力装置の状態変化に応じてユーザが音源を選択する場合について説明したが、再生を開始する前に、ユーザにより音源を選択可能に構成してもよい。具体的には、上記実施形態では、図4に示すように、スマートフォン13は、ユーザが選択した曲データMDの周波数特性を分析し(S19)、再生する出力装置を自動で選択したが(S21)、これに限らず、上記した図12及び図13の画面表示をタッチパネル13Aに表示してユーザによる音源の選択が可能な構成であってもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、各制御ユニット(制御ユニット17Aなど)は、スマートフォン13の制御に基づいて、曲データMDの供給の有無が設定されるが、制御ユニット17A等が対応する出力装置の特性に応じて供給の有無を判定する機能を備えてもよい。
【0078】
例えば、スマートフォン13は、ユーザによって曲が選択されると、曲データ供給装置11から選択された曲データMDを、LANに接続された全ての出力装置(スピーカ装置17やTAピアノ21)に供給する制御を実施する。ネットワーク上の各出力装置は、同一のデータを受信することとなる。例えば、制御ユニット21Aは、受信した曲データMDのうち、TAピアノ21の響板33の振動特性に合った周波数特性を有する曲データMDを受信する。あるいは、制御ユニット21Aは、受信した曲データMDの周波数特性を分析し、必要な周波数成分だけを抽出してもよい。制御ユニット21Aは、例えば、響板33の振動特性に合った周波数成分のみを抽出する処理、強調する処理、低減する処理等を実施するためのフィルタやイコライザを備える構成でもよい。この構成では、出力装置側の制御ユニット17A等が、LAN上に供給された曲データMDのパケットPが適切か否かを処理する。これにより、スマートフォン13は、どの出力装置に供給するのかを判定する必要がなく、LAN上の全ての出力装置に対して曲データMDをブロードキャストする制御を実施するだけでよい。また、音響システム10は、曲データ供給装置11に対する操作を行うことで、曲データ供給装置11が同一の曲データMDを全ての出力装置へブロードキャストし、出力装置側で曲データMDに対する必要な抽出処理を実行する構成でもよい。この場合、音響システム10は、スマートフォン13を備えなくともよい。
【0079】
また、各制御ユニット17A等は、対応する出力装置への曲データMDの供給の有無の判定を、例えば、パケットPに含まれる曲データMDの周波数を分析したり、パケットPに設定されたデータ(受信すべき出力装置に関わる情報など)を処理したりして判定してもよい。例えば、曲データMDとして、各トラックに音色や周波数特性を示すフラグ値(ピアノ用、ギター用などを示す識別子)が付されたマルチトラックファイルを用いてもよい。このフラグ値の設定は、例えば、音楽の配信事業を実施しているベンダー等が予め実施してもよい。あるいは、スマートフォン13が、曲データMDの各トラックの周波数特性を分析し、出力装置側で判定できるように各トラックにユニークなフラグ値を設定してもよい。出力装置側では、例えば、TAピアノ21の制御ユニット21Aが、LAN上に供給された曲データMDのパケットPを受信して、曲データMD内にピアノ用のフラグ値が設定されたトラックが含まれている場合には、当該トラックのデータを変換した駆動信号を加振器31に供給してもよい。つまり、出力装置側の各制御ユニットが、周波数特性に応じたフラグ値に基づいて、曲データMDの必要の有無を判定してもよい。このような構成でも、スマートフォン13は、供給先を決定することなく、同一のマルチトラックの曲データMDを、LAN上の全ての出力装置にブロードキャストするだけでよくなる。この場合、音響システム10は、スマートフォン13による制御が不要となり、スマートフォン13を備えない構成にすることが可能となる。
【0080】
あるいは、各制御ユニット17A等は、ユーザの操作指示に応じて、対応する出力装置への曲データMDの供給の有無を制御してもよい。例えば、TAピアノ21は、ユーザが操作部35(図2参照)を操作することで、供給の有無が変更可能な構成でもよい。この場合、ユーザは、例えば、ピアノの曲を音響システム10で再生する場合に、予めTAピアノ21の操作部35等を操作して、TAピアノ21が受信したパケットPの曲データMDを再生するセッティングを行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0081】
10 音響システム、11 曲データ供給装置、13 スマートフォン、17 スピーカ装置、19 自動演奏ピアノ、21 TAピアノ、23 TAギターシステム、17A,19A,21A,23A 制御ユニット。
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