(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6544154
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路
(51)【国際特許分類】
H02M 3/28 20060101AFI20190705BHJP
【FI】
H02M3/28 B
H02M3/28 R
H02M3/28 D
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-173833(P2015-173833)
(22)【出願日】2015年9月3日
(65)【公開番号】特開2017-51021(P2017-51021A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2017年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】小池 靖弘
【審査官】
東 昌秋
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−034549(JP,A)
【文献】
特開2006−191708(JP,A)
【文献】
米国特許第08023295(US,B1)
【文献】
特開2006−191741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスと、
前記トランスの一次側のスイッチング回路と、
前記トランスの二次側の整流回路と、
前記スイッチング回路を制御する制御部と、
を備える絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路であって、
前記スイッチング回路は、
前記トランスの一次側巻線と第一のスイッチ素子とが直列接続され、前記一次側巻線と、コンデンサと第二のスイッチ素子とが直列接続されたリセット回路と、が並列接続され、
前記制御部は、
前記絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路がソフトスタートを開始する前に、前記第二のスイッチ素子を休止させたままで、所定時間、前記第一のスイッチ素子を駆動させた後に前記第一のスイッチ素子を休止させることにより、前記コンデンサを充電して前記コンデンサの電圧を所定電圧にする、
ことを特徴とする絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路。
【請求項2】
請求項1に記載の絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路であって、
前記制御部は、
前記絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路を起動する指示を受信した後で前記コンデンサを充電して所定電圧にする前に、前記第一のスイッチ素子を休止させたままで、所定時間、前記第二のスイッチ素子に駆動と休止を繰り返させ、前記コンデンサを放電させる、
ことを特徴とする絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リセット回路を有する絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスTの一次側に、スイッチ素子Q1(主スイッチ素子)、スイッチ素子Q2(トランスリセットに用いる補助スイッチ素子)、コンデンサCr(トランスリセットに用いるコンデンサ)を備えるスイッチング回路を有し、トランスTの二次側に整流回路を有する、絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路が知られている。例えば、特許文献1に示されている絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2743869号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リセット回路を有する絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路においてコンデンサCrの電圧Vcrがある所定電圧Vt以上である場合、スイッチ素子Q1がオフ(休止)で、スイッチ素子Q2がターンオン(駆動)するまでの期間では、トランスTの漏洩インダクタンスに蓄えられたエネルギーを、スイッチ素子Q2のフリーホイルダイオードD2を通してコンデンサCrに充電し、コンデンサCrの充電が終了するとトランスTの一次巻線に流れる電流iT1が0[A]になる。その後、スイッチ素子Q2の電流の向きが反転し、コンデンサCrからトランスTの励磁インダクタンスへエネルギーが移動する。すなわち電流iT1が0[A]から負方向に流れるので、次にスイッチ素子Q2がオフ(休止)で、スイッチ素子Q1がターンオンするとき(デッドタイムのとき)には、電流iT1は負方向に流れている。
【0005】
しかしながら、絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路のソフトスタートを開始する場合には、コンデンサCrの電圧Vcrが所定電圧Vtより小さいと、電流iT1の減衰が小さいため、電流iT1が0[A]以下になる前にスイッチ素子Q1が駆動されてしまう。しかもスイッチ素子Q2のフリーホイルダイオードD2には正方向に電流が流れているにもかかわらず、スイッチ素子Q1が駆動すると、スイッチ素子Q2の電流の向きが反転して、デッドタイムにおいてスイッチ素子Q2にリカバリー電流が流れ、フリーホイルダイオードD2を破壊してしまう恐れがある。また、スイッチ素子Q1のdV/dT仕様を超えてしまう恐れもある。
【0006】
本発明の一側面に係る目的は、ソフトスタート開始時のリカバリー電流を抑制する絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一つの形態である絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路は、トランスと、トランスの一次側のスイッチング回路と、トランスの二次側の整流回路と、スイッチング回路を制御する制御部と、を備える。
【0008】
スイッチ
ング回路は、トランスの一次側巻線と第一のスイッチ素子とが直列接続され、コンデンサと第二のスイッチ素子とが直列接続されたリセット回路と一次側巻線とが並列接続されている。
【0009】
制御部は、絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路がソフトスタートを開始する前に、第二のスイッチ素子を休止させたままで、所定時間、第一のスイッチ素子を駆動させ
た後に第一のスイッチ素子を休止させることにより、コンデンサを充電して
コンデンサの電圧を所定電圧にする。
【0010】
また、制御部は、絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路を起動する指示を受信した後でコンデンサを充電して所定電圧にする前に、第一のスイッチ素子を休止させたままで、所定時間、第二のスイッチ素子に駆動(オン)と休止(オフ)を交互にさせ、コンデンサを放電させる。
【発明の効果】
【0011】
絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路におけるソフトスタート開始時のリカバリー電流を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路の一実施例を示す図である。
【
図2】絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路の動作の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
図1は、絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路の一実施例を示す図である。絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路1は、トランスT、スイッチング回路、整流回路、制御部2などを有している。
【0014】
スイッチ回路は、トランスTの一次側巻線とスイッチ素子Q1(第一のスイッチ素子)とが直列接続され、また、コンデンサCrとスイッチ素子Q2(第二のスイッチ素子)とが直列接続されたリセット回路とトランスTの一次側巻線とが並列接続されている。
【0015】
図1におけるスイッチ回路及びその周辺回路について説明する。直流電源Pの正極端子には、コンデンサC1の一方の端子、コンデンサCrの一方の端子、トランスTの一次側巻線の一方の端子が接続されている。直流電源Pの負極端子には、コンデンサC1の他方の端子、スイッチ素子Q1の一方の端子(ソース)が接続されている。コンデンサCrの他方の端子には、スイッチ素子Q2の他方の端子(ドレイン)が接続されている。トランスTの一次側巻線の他方の端子には、スイッチ素子Q2の一方の端子(ソース)、スイッチ素子Q1の他方の端子(ドレイン)が接続されている。スイッチ素子Q1、Q2の制御端子(ゲート)は制御部2に接続される。なお、スイッチ素子Q1、Q2は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)などを用いることが考えられる。また、スイッチ素子Q1、Q2それぞれはフリーホイルダイオードD1、D2を有している。
【0016】
整流回路は例えば
図1に示す構成が考えられる。
図1における整流回路について説明する。トランスTの二次側巻線の一方の端子には、ダイオードD3の一方の端子(アノード)が接続されている。トランスTの二次側巻線の他方の端子には、ダイオードD4の一方の端子(アノード)、グランドが接続されている。ダイオードD3の他方の端子(カソード)には、ダイオードD4の他方の端子(カソード)、コイルLの一方の端子が接続されている。コイルLの他方の端子には、コンデンサC2の一方の端子が接続され、負荷に接続される。コンデンサC2の他方の端子はグランドに接続される。
【0017】
制御部2は、スイッチ素子Q1、Q2の駆動と休止を制御(オン/オフ制御)する。制御部2は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、マルチコアCPU、プログラマブルなデバイス(FPGA(Field Programmable Gate Array)やPLD(Programmable Logic Device)など)などを用いて構成される。
【0018】
ただし、制御部2は、絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路1がソフトスタート(
図2の期間T3を参照)を開始する前に、スイッチ素子Q2を休止させたままで、所定時間(
図2の期間T2を参照)、スイッチ素子Q1を駆動させ
てトランスTの漏洩インダクタンスにエネルギーを蓄えた後、スイッチ素子Q1、Q2を休止させてトランスTの漏洩インダクタンスに蓄えられたエネルギーを、スイッチ素子Q2のフリーホイルダイオードD2を通してコンデンサCr
に充電(プリチャージ)して
コンデンサCrの電圧Vcrを所定電圧Vtにする。
図2は、絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路の動作の一例を示す図である。
【0019】
所定電圧Vtは、トランスTの一次巻線に流れる電流iT1の減衰を早くし、デッドタイムにおいてスイッチ素子Q2のフリーホイルダイオードD2にリカバリー電流が発生しないようにするために必要な電圧である。すなわち、所定電圧Vtは電流iT1が0[A]又は負方向に流れるようにするための電圧である。所定時間(期間T2)は、電圧Vcrを所定電圧Vtまで上昇させるために必要な時間で、コンデンサCrの容量、及び、プリチャージする電圧あるいは電流により決まる。
【0020】
上記したようにコンデンサCrの電圧Vcrを所定電圧Vtにすることで、絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路1におけるソフトスタート開始時のリカバリー電流を抑制することができる。
【0021】
また、制御部2は、上記プリチャージをする前に、スイッチ素子Q1を休止させたままで、所定時間(
図2の期間T1を参照)、スイッチ素子Q2に駆動と休止を交互にさせ(オン/オフ)、コンデンサCrを放電させ、コンデンサCrの電圧Vcrを0[V]にする。プリチャージをする前にコンデンサCrの電圧Vcrを0[V]にする所定時間(期間T1)を設けることで、決められた時間(
図2の時間t1からt6)内に、電圧Vcrを所定電圧Vtにすることができる。なお、絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路1が停止した条件によりコンデンサCrの電圧Vcrは異なるため、所定時間(期間T1)は、それらの条件を加味して実験又はシミュレーションにより決める。
【0022】
制御部の動作について説明する。
図2の時間t1では、絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路1を起動する起動信号(NODD)を制御部2が受信する。例えば、絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路1が車両に搭載されている場合、起動信号はキーオンなどにより制御部2に送信される信号である。
【0023】
時間t2からt3(期間T1)では、スイッチ素子Q1を休止させたままで、スイッチ素子Q2にオン/オフを繰り返させ、コンデンサCrの電圧Vcrを0[V]にする。
時間t4からt5(期間T2)では、制御部2がスイッチ素子Q2を休止させたままで、スイッチ素子Q1をオンさせて
トランスTの漏洩インダクタンスにエネルギーを蓄える。
時間t5からt6では、制御部2がスイッチ素子Q1、Q2を休止させてトランスTの漏洩インダクタンスに蓄えられたエネルギーを、スイッチ素子Q2のフリーホイルダイオードD2を通してコンデンサCrにプリチャージ
してコンデンサCrの電圧Vcrを所定電圧Vtまで上昇させる。
【0024】
時間t6では、ソフトスタート(期間T3)を開始し、ソフトスタートを終了すると通常動作へと移行する
本実施形態によれば、絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路1のソフトスタートを開始する場合、コンデンサCrの電圧Vcrを所定電圧Vtにすることで、電流iT1の減衰を早くし、デッドタイムにおいてスイッチ素子Q2のフリーホイルダイオードD2にリカバリー電流が流れないように抑制することができる。
【0025】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【符号の説明】
【0026】
1 絶縁式フォワード形DC−DCコンバータ回路
2 制御部
C1、C2、Cr コンデンサ
D1、D2 フリーホイルダイオード
D3、D4 ダイオード
L コイル
P 直流電源
T トランス
Q1、Q2 スイッチ素子