特許第6544215号(P6544215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6544215
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】ドライエッチング方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20190705BHJP
【FI】
   H01L21/302 104Z
   H01L21/302 301Z
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-226219(P2015-226219)
(22)【出願日】2015年11月19日
(65)【公開番号】特開2016-139782(P2016-139782A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2018年8月24日
(31)【優先権主張番号】特願2015-11725(P2015-11725)
(32)【優先日】2015年1月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108671
【弁理士】
【氏名又は名称】西 義之
(72)【発明者】
【氏名】大森 啓之
(72)【発明者】
【氏名】菊池 亜紀応
【審査官】 鈴木 聡一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−038864(JP,A)
【文献】 特開2012−114402(JP,A)
【文献】 特開2009−206444(JP,A)
【文献】 特開2014−150169(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/027653(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/302
H01L 21/3065
H01L 21/3205−21/3213
H01L 21/336
H01L 21/461
H01L 21/768
H01L 21/8229
H01L 21/8239−21/8246
H01L 23/522
H01L 23/532
H01L 27/10−27/11597
H01L 29/788−29/792
H05H 1/00−1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン酸化物層とシリコン層の積層膜を、ドライエッチング剤をプラズマ化し、バイアス電圧を印加してエッチングする方法であって、
前記ドライエッチング剤が、C(x=1〜5の整数、y=1〜5の整数、x+y=4又は6)で表される含フッ素不飽和炭化水素と、七フッ化ヨウ素を含み、
前記ドライエッチング剤に含まれる前記七フッ化ヨウ素の体積が、前記ドライエッチング剤に含まれる前記含フッ素不飽和炭化水素の体積の0.1〜1.0倍の範囲であることを特徴とする、ドライエッチング方法。
【請求項2】
前記含フッ素不飽和炭化水素が、CHF、C、及び、CHFからなる群より選ばれる少なくともひとつであることを特徴とする請求項1に記載のドライエッチング方法。
【請求項3】
前記バイアス電圧が500V以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のドライエッチング方法。
【請求項4】
さらに、前記ドライエッチング剤に不活性ガスを含み、
前記ドライエッチング剤中に占める、前記含フッ素不飽和炭化水素と前記七フッ化ヨウ素の合計の割合が、2体積%以上95体積%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項5】
前記ドライエッチング剤が、実質的に前記含フッ素不飽和炭化水素と、前記七フッ化ヨウ素と、前記不活性ガスのみからなることを特徴とする請求項4に記載のドライエッチング方法。
【請求項6】
前記ドライエッチング剤中の前記含フッ素不飽和炭化水素の濃度が、1体積%以上90体積%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。
【請求項7】
前記ドライエッチング剤中の前記含フッ素不飽和炭化水素の濃度が、10体積%以上50体積%以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のドライエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素不飽和炭化水素を含むドライエッチング剤を用いたドライエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、半導体製造においては、微細化が物理的な限界に近づきつつあり、それを補うため、構造物を高さ方向に積層して集積する方法が開発されている。この傾向はNANDフラッシュメモリにおいて特に顕著に見られ、三次元NANDフラッシュメモリの研究開発が活発化している。
【0003】
例えば、非特許文献1に記載の三次元NANDフラッシュメモリ製造プロセスにおいては、電荷を保持する部位を作製する目的で、予め、図1に示すような多結晶シリコン(以下、poly−Siまたはp−Siと呼ぶ)層1とシリコン酸化物(以下、SiOと呼ぶ)層2が基板上に交互に多数積層された部位を作製する。
【0004】
次に、それぞれ独立したメモリセル間に配線を埋め込むため、この積層膜に貫通孔を形成する。積層膜に貫通孔を形成する方法は、たとえば、p−Si層1とSiO層2が基板上に交互に多数積層された膜の最上部に、マスク3として特定の開口部を設けたレジストを塗布し、ここにフッ素原子を含むガスのプラズマを接触させることにより、p−SiとSiOを除去するように行う。このとき、積層膜の膜に対して垂直方向に異方的にエッチングを行うため、チャンバー内の上部電極と下部電極間にバイアス電圧と呼ばれる直流電圧を発生させてプラズマ中のイオンの衝突方向を制御する。このバイアス電圧とは、プラズマ中のイオンと電子の移動速度の差から、上部電極と下部電極間に自然発生的に生じる電位差であるが、外部からの交流電力の供給により、制御することができる。
【0005】
しかしながら、p−SiとSiOはそれぞれ好ましいエッチング条件が異なるため、p−Si層1とSiO層2の積層膜に貫通孔を形成するためには、非特許文献2に示すように、p−Siエッチング工程とSiOエッチング工程を、それぞれの独立した工程として交互に繰り返して貫通孔を形成する方法が示されている。
【0006】
また、エッチングに使用するフッ素原子を含むガスとして、例えば、特許文献1に示すように、CFやC、Cなど飽和フルオロカーボンが広く用いられているが、これらの飽和フルオロカーボンを使用した場合、図2に示すようなサイドエッチと呼ばれる意図しない方向へのエッチングが進行することが多い。例えば、図2では、基板4の上の、所定の開口パターンを有するマスク6を有するエッチング対象層5に、開口パターンと同じ幅の孔を設けようとするところ、縦方向だけでなく横方向にもエッチングされると、開口パターンよりも広く削られて、サイドエッチ7が発生してしまう。
【0007】
特許文献2には、ヘキサフルオロプロピレン(C)、オクタフルオロプロパン(C)、ヘプタフルオロプロパン(CHF)、ヘキサフルオロプロパン(C)を使用して、酸化物を窒化物より選択的にエッチングするプラズマエッチング法が開示されている。
【0008】
特許文献3には、へキサフルオロブタジエン、ヘキサフルオロシクロブテン、ヘキサフルオロベンゼンを使用して、窒化ケイ素層上の酸化物層を選択的にエッチングするプラズマエッチング方法が開示されている。
【0009】
特許文献4には、シリコン層と酸化シリコン層が積層している積層膜に形成された孔又は溝の内側面に現れているシリコン層に対し、フッ素化ハロゲン化合物のガスとフッ素ガスを含有するガスを用いてエッチングするドライエッチング方法が開示されている。
【0010】
一方、特許文献5、特許文献6、および、特許文献7によれば、CやCHFをはじめとする含フッ素不飽和炭化水素をエッチング剤として使用した場合、サイドエッチを抑制できることが開示されている。
【0011】
特許文献8には、フッ化ヨウ素を含むエッチングガスを用いてシリコン基板に異方性プラズマエッチングを行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2007−537602号公報
【特許文献2】特表2001−517868号公報
【特許文献3】特表2002−530863号公報
【特許文献4】特開2013−70012号公報
【特許文献5】特開2011−176291号公報
【特許文献6】特開2012−114402号公報
【特許文献7】特開2013−30531号公報
【特許文献8】特開2008−177209号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】青地英明、外2名、東芝レビュー、2011年9月、66巻、9号、p16〜19
【非特許文献2】市川尚志、外2名、東芝レビュー、2011年5月、66巻、5号、p29〜33
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述のように、p−SiエッチングとSiOエッチングを独立した工程として交互に繰り返して、積層膜中への貫通孔を形成する方法が非特許文献2に開示されている。しかし、この方法では、p−Siエッチング工程とSiOエッチング工程が独立した工程であるため、エッチング条件の切り替えが必要である。このプロセスには時間がかかり、メモリセルの積層数が増加するに従い、その作製には多大な時間がかかるようになり、問題となっていた。製造コストに直結するスループットを考えると、これらのエッチング工程にかかる時間は短い方がよく、単一のエッチング工程でエッチングを完結し、貫通孔の形成にかかる時間を短縮する方法が望まれていた。
【0015】
また、非特許文献2では、p−Siエッチング工程とSiOエッチング工程において、それぞれのエッチング工程を独立した工程として交互に繰り返して貫通孔を形成した場合、p−Siと、SiOのエッチング速度が異なることで、孔の壁に凹凸が形成されるとともに、孔の径が下部に向かうに従って先細りとなる様子が示されている。孔の壁の凹凸や、孔径の不均一さは各層に形成されるメモリセルの性能の悪化を引き起こす原因の一つとなっている。そのため、孔の壁の凹凸を減らすと共に、孔径も上部と下部で均一化されることが望まれていた。
【0016】
これらの凹凸や孔径の不均一性の発生は、p−Siエッチング工程とSiOエッチング工程が独立していることに起因する。例えば、SiOエッチング工程において、p−Siのエッチングを完全に抑制できればよいが、実際には、わずかにエッチングが進行する。また、p−Siエッチング工程とSiOエッチング工程でのエッチング条件が異なるため、例えば、p−Siエッチング工程において形成された、サイドエッチの進行を抑制するための保護膜が、SiOエッチング工程で、除去されてしまう。このようにして、エッチング工程が進行するに従って、表面に近い部分ほど、孔径が大きくなると共に、孔の壁(内面)の凹凸も顕著に現れるようになる。
【0017】
そのため、p−Siに対するエッチングレートおよびSiOに対するエッチングレートを同等とすることにより、SiOとp−Siの積層膜に貫通孔を形成する際に、それぞれ独立していたp−Siエッチング工程とSiOエッチング工程をひとつの工程とすることができ、さらに、エッチング工程において、p−SiおよびSiO上に均一な保護膜を形成させることができ、サイドエッチを減らして前記孔の壁の凹凸を減らすことができる。
【0018】
しかし、特許文献2、3では、窒化ケイ素に対して酸化ケイ素を選択的にエッチングする方法が開示されているが、p−SiおよびSiOの両方をエッチングする方法は開示されていない。また、特許文献4には、積層膜に貫通孔が形成された後に、シリコン層をエッチングする工程が開示されており、貫通孔の形成方法は開示されていない。また、特許文献5、特許文献6、および、特許文献7には、SiNまたはSiOを選択的にエッチングする方法が開示されているが、p−SiとSiOのエッチングレートを同等とする方法は、開示されていない。
【0019】
他に、シリコンのエッチング選択性を高める方法として、Oを添加する方法が開示されているが、この方法では、積層膜表面にマスクとして塗布されているレジストのエッチング量が大きく増加し、実用上マスクとしての十分な効果が得られなかった。
【0020】
一方、特許文献8には、フッ化ヨウ素の例としてIFが挙げられているが、実施例ではIFを用いており、IFは使用されていない。また、p−SiとSiOのエッチングレートを同等とする方法は、開示されていない。
【0021】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、SiOとp−Siを同等のレートでエッチングすることのできるドライエッチング方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、炭素数が3である含フッ素不飽和炭化水素と、七フッ化ヨウ素を含むドライエッチング剤を使用してプラズマエッチングを行うことで、p−Siに対するエッチングレートおよびSiOに対するエッチングレートがほぼ同等となることを見出し、本発明に至った。
【0023】
すなわち、シリコン酸化物層とシリコン層の積層膜を、ドライエッチング剤をプラズマ化し、バイアス電圧を印加してエッチングする方法であって、前記ドライエッチング剤が、C(x=1〜5の整数、y=1〜5の整数、x+y=4又は6)で表される含フッ素不飽和炭化水素と、七フッ化ヨウ素を含み、前記ドライエッチング剤に含まれる前記七フッ化ヨウ素の体積が、前記ドライエッチング剤に含まれる前記含フッ素不飽和炭化水素の体積の0.1〜1.0倍の範囲であることを特徴とする、ドライエッチング方法を提供するものである。
【0024】
また、前記含フッ素不飽和炭化水素が、CHF、C、及び、CHFからなる群より選ばれる少なくともひとつであることが好ましく、前記バイアス電圧が500V以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、SiOとp−Siを同等のレートでエッチングすることのできるドライエッチング方法を提供することができる。本発明を、p−SiとSiOが基板上に交互に多数積層された部位に垂直な貫通孔を形成する工程に適用すると、p−Siに対するエッチングレートがSiOに対するエッチングレートと同等とすることができるため、積層膜に形成された貫通孔の壁の凹凸を減らすと共に、孔径も上部と下部での不均一化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】貫通孔形成前の素子の積層構造の概略図である。
図2】エッチングを行った際に発生する、サイドエッチの概略図である。
図3】実施例・比較例で使用した反応装置の概略図である。
図4】実施例1〜10・比較例1〜2の実験結果をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施方法について以下に説明する。なお、本発明の範囲は、これらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し、実施することができる。
【0028】
本発明によるドライエッチング方法では、C(x=1〜5の整数、y=1〜5の整数、x+y=4又は6)で表される含フッ素不飽和炭化水素に、七フッ化ヨウ素を添加したドライエッチング剤を使用し、バイアス電圧を印加してプラズマエッチングを行うことで、シリコン酸化物層(SiO層)と多結晶シリコン層(p−Si層)の積層膜をエッチングする。
【0029】
(x=1〜5の整数、y=1〜5の整数、x+y=4又は6)で表される、炭素数が3である含フッ素不飽和炭化水素としては、CHF、C、C、C、CF、CHF、C、CFからなる群より選ばれる化合物とそれらの混合物が挙げられる。F原子の量が多いほうが、エッチング速度が速くなることから、C(x=1〜5の整数、y=1〜5の整数、x+y=4又は6、x≦y)で表される含フッ素不飽和炭化水素である、CHF、C、C、CHF、Cが好ましい。さらに、CF基が単結合で不飽和結合につながっており、エッチング効率の高いCFイオンを高頻度で発生できる、CHF、C、CHFが特に好ましい。
【0030】
なお、炭素数が3である含フッ素不飽和炭化水素には、立体異性体、すなわちトランス体(E体)とシス体(Z体)が存在することがある。本発明においては、いずれかの異性体又は両者の混合物として用いることができる。
【0031】
なお、CHFとしては、トランス−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(E))、シス−1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225ye(Z))、1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロペン(HFO−1225zc)のいずれを用いてもよく、Cとしては、2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)、トランス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(E))、シス−1,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234ze(Z))のいずれを用いてもよい。
【0032】
炭素数が3である含フッ素不飽和炭化水素は、炭素数4以上の含フッ素不飽和炭化水素に比べて、沸点が低く、常温においても高い蒸気圧を有する。そのため、炭素数4以上の含フッ素不飽和炭化水素の使用時に、蒸発潜熱によりボンベ内の液化ガスの温度が低下した際に、急激にプロセス圧力が低下する可能性があるが、炭素数3の含フッ素不飽和炭化水素を用いると、その恐れが少ない。また、不飽和結合を分子中に有するため、プラズマ中で重合して高分子化し、貫通孔の側壁に堆積して保護膜を形成するため、サイドエッチを防ぐことができる。また、本発明においては、一つの工程でp−Si層とSiO層をエッチングするため、形成された保護膜がプロセス中に残存しているため、p−Si層とSiO層の両方に対するサイドエッチの進行を抑制することができる。
【0033】
また、炭素数が3である含フッ素不飽和炭化水素は、分子内に不飽和結合と水素を含んでいるため、プラズマエッチング時にC以上の不飽和炭化水素イオンを多量に含むフラグメントに分解し、p−Si層上に吸着しやすく、p−Si層を保護する膜が形成され、IFによる過剰なp−Si層のエッチングを抑制できる。また、同時にCFイオン(n=1、2又は3)などのSiOに対するエッチング性の高いフラグメントも生成するため、IFのみではほとんどエッチングの進行しない、SiO層をもエッチングすることができる。一方で、分子内に水素を含まないパーフルオロカーボンを用いると、保護膜が形成され難いことからIFを添加しない条件においてもp−Si層のエッチング速度が速くなりすぎ、p−Si層とSiO層のエッチング速度を同等にすることが困難となる。
【0034】
ドライエッチング剤中の炭素数が3である含フッ素不飽和炭化水素の濃度は、十分なエッチングレートを得るうえで、1体積%以上90体積%以下であることが好ましい。一方で、ドライエッチング剤中の含フッ素不飽和炭化水素の濃度が90体積%を超えると、七フッ化ヨウ素の濃度が十分でなくなり、高価な含フッ素不飽和炭化水素を多量に含む割には、エッチングレートが上がらず、費用対効果の点で好ましくない。また、費用対効果の面で現実的な範囲としては、含フッ素不飽和炭化水素の濃度は10体積%以上、50体積%以下である。
【0035】
また、ドライエッチング剤に含まれる七フッ化ヨウ素の体積は、ドライエッチング剤に含まれる炭素数が3である含フッ素不飽和炭化水素の体積の0.1〜1.0倍である。すなわち、炭素数が3である含フッ素不飽和炭化水素と七フッ化ヨウ素の混合比は、体積比で1:0.1〜1である。混合比は、1:0.2〜0.6がより好ましく、1:0.3〜0.5が特に好ましい。これにより、SiOとp−Siを同等のレートでエッチングすることができる。本発明では、SiOとp−Siのエッチング速度の差を5割以内、すなわち、SiOのエッチング速度とp−Siのエッチング速度の比を、67%〜150%の範囲とすることができる。特に、SiOのエッチング速度とp−Siのエッチング速度の比を、80%〜120%の範囲とすることがより好ましい。
【0036】
七フッ化ヨウ素はp−Siのエッチングを担うと共に、含フッ素不飽和炭化水素の酸化剤として使用されることから、多すぎるとp−Siのエッチング速度がSiOのエッチング速度に比べて高くなりすぎ、少なすぎると、含フッ素不飽和炭化水素の酸化分解が進まず、p−Si、SiOともに十分なエッチング速度が得られない。
【0037】
七フッ化ヨウ素は、ヨウ素を分子内に含有しており、このヨウ素は、エッチング時に過剰なF分の吸着剤として働き、フォトレジストへのダメージを軽減できる。また、マスク上に堆積する保護膜中にヨウ素が含まれることで、保護膜の強度を増し、耐エッチング性を向上させる効果もある。したがって、七フッ化ヨウ素を含むことで、マスクと、エッチング対象であるシリコンとの選択比を向上させることができる。また、本発明で使用する七フッ化ヨウ素は沸点が約5℃であるため、気体で供給することが容易である。
【0038】
なお、フッ素とヨウ素のハロゲン間化合物として五フッ化ヨウ素も知られているが、五フッ化ヨウ素は、沸点が約98℃であり、気体で供給することに手間がかかる。また、五フッ化ヨウ素に比べて七フッ化ヨウ素のほうが、マスクとエッチング対象であるシリコンとの選択比が高い点、含フッ素不飽和炭化水素の酸化分解を十分に進めることができる点でも、七フッ化ヨウ素を使用することが好ましい。
【0039】
本発明においては、p−SiとSiOのエッチング速度が同等であるため、一つの工程でp−Si層とSiO層の積層膜をエッチングすることができる。さらに、エッチング速度が同等であるため、積層膜に形成された孔の壁(内面)の凹凸が少なく、かつ上部と下部で孔径の均一な孔を積層膜に形成することができる。
【0040】
また、ドライエッチング剤は、含フッ素不飽和炭化水素と七フッ化ヨウ素のみからなってもよいが、ドライエッチング剤には、コストを下げつつ取り扱いの安全性を増すため、不活性ガスを含むことが好ましい。不活性ガスとしては、アルゴンガス、ヘリウムガス、ネオンガス、クリプトンガス、キセノンガスの希ガス類や、窒素ガスを用いることができる。不活性ガスとして、特にArを用いる場合は、含フッ素不飽和炭化水素、七フッ化ヨウ素との相乗効果によって、より高いエッチングレートが得られる。ドライエッチング剤中に占める、含フッ素不飽和炭化水素と七フッ化ヨウ素の合計の割合は、2〜95体積%であることが好ましく、10〜80体積%であることがより好ましく、20〜60体積%であることがさらに好ましい。また、ドライエッチング剤が、実質的に含フッ素不飽和炭化水素と七フッ化ヨウ素と不活性ガスとからなることが好ましい。
【0041】
さらに、ドライエッチング剤には、p−SiとSiOのエッチング速度を向上させるため、O、O、CO、CO、COCl、COF、F、NF、Cl、Br及びIからなる群より選ばれる酸化性ガスを添加することができる。また、ドライエッチング剤には、Fラジカルの量を低減し、等方的なエッチングを抑制するため、CH、C、C、C、C、C、C、HF、HI、HBr、HCl、NO、NH及びHからなる群より選ばれる還元性ガスを添加することができる。
【0042】
SiOとp−Siの積層膜に対して、本発明に係るドライエッチング剤をプラズマ化し、バイアス電圧を印加してエッチングを行うことで、積層膜に対して垂直方向にエッチングでき、高アスペクト比の貫通孔を形成することができる。すなわち、異方性をもたせてエッチングすることができる。発生させるバイアス電圧は、等方性エッチング性の高いIFを酸化剤として使用する場合に、サイドエッチを減少させる上で特に重要であり、500V以上であることが好ましく、1000V以上であることが、特に好ましい。バイアス電圧が高ければ高いほどサイドエッチを減少させることが可能であるが、一方、バイアス電圧が10000Vを超えると、ウエハへのダメージが大きくなり、好ましくない。
【0043】
エッチングガスに含有されるガス成分についてはそれぞれ独立してチャンバー内に導入してもよく、または予め混合ガスとして調整した上で、チャンバー内に導入しても構わない。チャンバーに導入するドライエッチング剤の総流量は、反応チャンバーの容積、及び排気部の排気能力により、チャンバー内の濃度条件と圧力条件を考慮して適宜選択できる。
【0044】
エッチングを行う際の圧力は、安定したプラズマを得るため、およびイオンの直進性を高めてサイドエッチを抑制するため、5Pa以下が好ましく、1Pa以下が特に好ましい。一方で、チャンバー内の圧力が低すぎると、電離イオンが少なくなり十分なプラズマ密度が得られなくなることから、0.05Pa以上であることが好ましい。
【0045】
また、エッチングを行う際の基板温度は50℃以下が好ましく、特に異方性エッチングを行うためには20℃以下とすることが望ましい。50℃を超える高温では、側壁へのフルオロカーボンラジカルを主成分とする保護膜の生成量が減少し、等方的にエッチングが進行する傾向が強まり、必要とする加工精度が得られない。また、レジスト等のマスク材が著しくエッチングされることがある。
【0046】
エッチング時間は素子製造プロセスの効率を考慮すると、30分以内であることが好ましい。ここで、エッチング時間とは、チャンバー内にプラズマを発生させ、ドライエッチング剤と試料とを反応させている時間である。
【0047】
積層膜の構成は、p−Si層とSiO層が積層している限り特に限定されないが、p−Si層とSiO層が交互に複数積層されることが好ましい。積層膜中の層数や形成する貫通孔の深さは特に限定されないが、積層による集積効果を得る上で、p−Si層とSiO層の合計層数は6層以上、貫通孔の深さは0.2μm以上であることが好ましい。
【0048】
また、本発明のドライエッチング剤を用いたエッチング方法は、容量結合型プラズマ(CCP)エッチング、反応性イオンエッチング(RIE)、誘導結合型プラズマ(ICP)エッチング、電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマエッチング及びマイクロ波エッチング等の各種エッチング方法に限定されず、行うことができる。
【実施例】
【0049】
以下に本発明の実施例を比較例とともに挙げるが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0050】
[実施例1]
(エッチング工程)
図3は、実施例・比較例で用いた反応装置10の概略図である。チャンバー11内には、ウエハを保持する機能を有しステージとしても機能する下部電極14と、上部電極15と、圧力計12が設置されている。また、チャンバー11上部には、ガス導入口16が接続されている。チャンバー11内は圧力を調整可能であると共に、高周波電源(13.56MHz)13によりドライエッチング剤を励起させることができる。これにより、下部電極14上に設置した試料18に対し励起させたドライエッチング剤を接触させ、試料18をエッチングすることができる。ドライエッチング剤を導入した状態で、高周波電源13から高周波電力を印加すると、プラズマ中のイオンと電子の移動速度の差から、上部電極15と下部電極14の間にバイアス電圧と呼ばれる直流電圧が発生させることができるように構成されている。チャンバー11内のガスはガス排出ライン17を経由して排出される。
【0051】
試料18として、厚さ約1μmのp−Si層を有するシリコンウエハA、厚さ約1μmのSiO層を有するシリコンウエハB、および、孔径比の測定用パターンとして直径1μmの円形の開口部を刻んだレジストをマスクとして塗布した厚さ約1μmのp−Si層を有するシリコンウエハCを15℃に冷却したステージ上に設置した。p−Si層やSiO層は、CVD法により作製した。
【0052】
ここに、フルオロカーボンとしてCHF(HFO−1225zc)、添加ガスとしてIFおよび不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、1体積%および89体積%で混合したドライエッチング剤を、100sccm流通させ、チャンバー11内の圧力を1Paとし、高周波電力を400Wで印加してエッチング剤をプラズマ化させることにより、エッチングを行った。なお、印加した高周波電力の密度は1.0W/cmであり、バイアス電圧は500Vである。なお、これらのガスの1モルあたりの体積はほぼ同じなので、体積比は物質量の比と読み替えることもできる。
【0053】
(評価1:エッチング速度比)
SiOとp−Siを同等のレートでエッチングすることができるかどうかを、以下の方法で求めたエッチング速度比で評価した。
まず、シリコンウエハAのp−Si層、シリコンウエハBのSiO層の、エッチング前後の厚さの変化からエッチング速度を求めた。さらに、p−Siエッチング速度をSiOエッチング速度で除した値をエッチング速度比として求めた。SiOとp−Siのエッチング速度比が67%〜150%の範囲であれば、積層膜の貫通孔の側面に形成されてしまう凹凸の発生を防ぐことができ、好ましい。
【0054】
(評価2:孔径比)
エッチング後のシリコンウエハCの断面を走査型電子顕微鏡で観察し、p−Si層に形成された孔の形状を観察した。サイドエッチの発生による孔径の不均一性を評価するため、以下の式(1)に従い、孔径比を算出した。孔径比は最大でも30%未満であることが好ましい。エッチングが等方的であれば孔径比は大きくなり、エッチングが異方的であれば、孔径比は小さくなる。
【0055】
【数1】
【0056】
その結果、実施例1においてSiOに対するp−Siのエッチング速度比は81%、孔径比は最大でも30%未満であった。
【0057】
[実施例2]
フルオロカーボンとしてCHF(HFO−1225zc)、添加ガスとしてIFおよび不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、2体積%および88体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0058】
[実施例3]
フルオロカーボンとしてC(HFO−1234ze(E))、添加ガスとしてIFおよび不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、2体積%および88体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0059】
[実施例4]
フルオロカーボンとしてC(HFO−1234ze(E))、添加ガスとしてIFおよび不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、3体積%および87体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0060】
[実施例5]
フルオロカーボンとしてC(HFO−1234ze(E))、添加ガスとしてIFおよび不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、4体積%および86体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0061】
[実施例6]
フルオロカーボンとしてC(HFO−1234ze(E))、添加ガスとしてIFおよび不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、5体積%および85体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0062】
[実施例7]
フルオロカーボンとしてCHF(3,3,3−トリフルオロプロピン)、添加ガスとしてIFおよび不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、3体積%および87体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0063】
[実施例8]
フルオロカーボンとしてCHF、添加ガスとしてIFおよびArをそれぞれ、10体積%、4体積%および不活性ガスとして86体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0064】
[実施例9]
フルオロカーボンとしてCHF、添加ガスとしてIFおよびArをそれぞれ、10体積%、5体積%および不活性ガスとして85体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0065】
[実施例10]
フルオロカーボンとしてCHF、添加ガスとしてIFおよびArをそれぞれ、10体積%、8体積%および不活性ガスとして82体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0066】
[比較例1]
フルオロカーボンとしてC(HFO−1234ze(E))、添加ガスとしてIFおよび不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、0.5体積%および89.5体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0067】
[比較例2]
フルオロカーボンとしてC(HFO−1234ze(E))、添加ガスとしてIFおよび不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、11体積%および79体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0068】
[比較例3]
フルオロカーボンとしてCF、添加ガスとしてIFおよび不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、3体積%および87体積%で混合したドライエッチング剤を用い、圧力を5Paとした以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。このとき、バイアス電圧は400Vであった。
【0069】
[比較例4]
フルオロカーボンとしてC、添加ガスとしてIFおよび不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、4体積%および86体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0070】
[比較例5]
フルオロカーボンとしてC(HFO−1234ze(E))、添加ガスとしてClF(三フッ化塩素)および不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、3体積%および87体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0071】
[比較例6]
フルオロカーボンとしてC(HFO−1234ze(E))、添加ガスとしてIF(五フッ化ヨウ素)および不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、3体積%および87体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0072】
各実施例・比較例の結果を表1に記載した。表1中のエッチング速度比は、SiOに対するp−Siのエッチング速度比であり、孔径比が30未満とは、孔径比が最大でも30%未満であったことを指す。
【0073】
【表1】
【0074】
以上のとおり、炭素数が3である含フッ素不飽和炭化水素と七フッ化ヨウ素を含むドライエッチング剤を用いた各実施例では、SiOに対するp−Siのエッチング速度比は67〜150%であり、孔径比が30%未満であった。特に、前記七フッ化ヨウ素の体積が、前記ドライエッチング剤に含まれる前記含フッ素不飽和炭化水素の体積の0.1〜0.5倍であった実施例1〜9は、エッチング速度比が80〜120%であり、SiOとp−Siのエッチング速度が特に同等であった。よって、実施例1〜9のドライエッチング剤をSiO層とp−Si層が交互に多数積層された積層膜に適用すれば、一度のエッチング工程で良好な貫通孔を形成することができる。
【0075】
一方で、比較例1においては、含フッ素不飽和炭化水素と七フッ化ヨウ素の混合比が体積比で1:0.05であるため、p−Siエッチング速度とSiOエッチング速度が十分でなかった。また、比較例2においては、含フッ素不飽和炭化水素と七フッ化ヨウ素の混合比が体積比で1:1.1であるため、p−Siエッチング速度が速くなりすぎ、エッチング速度比が高くなりすぎてしまった。図4に示すとおり、実施例と比較例をプロットすると、七フッ化ヨウ素と含フッ素不飽和炭化水素の比が0.1〜1の間にある場合に、p−Siエッチング速度とSiOエッチング速度の比が、67〜150%の間となり、SiOとp−Siを同等のレートでエッチングすることができる。
【0076】
比較例3においては、フルオロカーボンとして飽和パーフルオロカーボンであるCFを用い、さらにバイアス電圧も低かったため、エッチング速度比が高くなりすぎ、さらにサイドエッチが多くなり孔径比が最大で40%まで広がってしまった。比較例4においては、フルオロカーボンとして飽和パーフルオロカーボンであるCを用いたため、p−Siエッチング速度が速くなりすぎ、エッチング速度比が高くなりすぎてしまった。比較例5は、添加ガスとしてClFを用いたため、含フッ素不飽和炭化水素の酸化分解が十分に進まず、さらに、ClFはp−Siとの反応性が悪いため、SiOおよびp−Siのいずれのエッチングもほとんど進行しなかった。比較例6は、添加ガスとしてIFを用いたため、IFを使用した実施例4に比べて含フッ素不飽和炭化水素(C)の酸化分解が十分に進まず、SiOおよびp−Siのいずれのエッチングも進行せず、むしろフルオロカーボンの重合体と思われる堆積膜が生成した。実施例4、比較例5、比較例6を比べると、添加ガスの種類がIFとClFとIFで異なるだけであるが、IFを使用した実施例4のみが、SiOとp−Siの両方のエッチングが十分に進行するという結果になった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、半導体製造プロセスにおいて、三次元的に集積された素子への配線形成に有効である。
【符号の説明】
【0078】
1 p−Si層
2 SiO
3 マスク
4 基板
5 エッチング対象層
6 マスク
7 サイドエッチ
10 反応装置
11 チャンバー
12 圧力計
13 高周波電源
14 下部電極
15 上部電極
16 ガス導入口
17 ガス排出ライン
18 試料
図1
図2
図3
図4