【実施例】
【0049】
以下に本発明の実施例を比較例とともに挙げるが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0050】
[実施例1]
(エッチング工程)
図3は、実施例・比較例で用いた反応装置10の概略図である。チャンバー11内には、ウエハを保持する機能を有しステージとしても機能する下部電極14と、上部電極15と、圧力計12が設置されている。また、チャンバー11上部には、ガス導入口16が接続されている。チャンバー11内は圧力を調整可能であると共に、高周波電源(13.56MHz)13によりドライエッチング剤を励起させることができる。これにより、下部電極14上に設置した試料18に対し励起させたドライエッチング剤を接触させ、試料18をエッチングすることができる。ドライエッチング剤を導入した状態で、高周波電源13から高周波電力を印加すると、プラズマ中のイオンと電子の移動速度の差から、上部電極15と下部電極14の間にバイアス電圧と呼ばれる直流電圧が発生させることができるように構成されている。チャンバー11内のガスはガス排出ライン17を経由して排出される。
【0051】
試料18として、厚さ約1μmのp−Si層を有するシリコンウエハA、厚さ約1μmのSiO
2層を有するシリコンウエハB、および、孔径比の測定用パターンとして直径1μmの円形の開口部を刻んだレジストをマスクとして塗布した厚さ約1μmのp−Si層を有するシリコンウエハCを15℃に冷却したステージ上に設置した。p−Si層やSiO
2層は、CVD法により作製した。
【0052】
ここに、フルオロカーボンとしてC
3HF
5(HFO−1225zc)、添加ガスとしてIF
7および不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、1体積%および89体積%で混合したドライエッチング剤を、100sccm流通させ、チャンバー11内の圧力を1Paとし、高周波電力を400Wで印加してエッチング剤をプラズマ化させることにより、エッチングを行った。なお、印加した高周波電力の密度は1.0W/cm
2であり、バイアス電圧は500Vである。なお、これらのガスの1モルあたりの体積はほぼ同じなので、体積比は物質量の比と読み替えることもできる。
【0053】
(評価1:エッチング速度比)
SiO
xとp−Siを同等のレートでエッチングすることができるかどうかを、以下の方法で求めたエッチング速度比で評価した。
まず、シリコンウエハAのp−Si層、シリコンウエハBのSiO
2層の、エッチング前後の厚さの変化からエッチング速度を求めた。さらに、p−Siエッチング速度をSiO
2エッチング速度で除した値をエッチング速度比として求めた。SiO
xとp−Siのエッチング速度比が67%〜150%の範囲であれば、積層膜の貫通孔の側面に形成されてしまう凹凸の発生を防ぐことができ、好ましい。
【0054】
(評価2:孔径比)
エッチング後のシリコンウエハCの断面を走査型電子顕微鏡で観察し、p−Si層に形成された孔の形状を観察した。サイドエッチの発生による孔径の不均一性を評価するため、以下の式(1)に従い、孔径比を算出した。孔径比は最大でも30%未満であることが好ましい。エッチングが等方的であれば孔径比は大きくなり、エッチングが異方的であれば、孔径比は小さくなる。
【0055】
【数1】
【0056】
その結果、実施例1においてSiO
2に対するp−Siのエッチング速度比は81%、孔径比は最大でも30%未満であった。
【0057】
[実施例2]
フルオロカーボンとしてC
3HF
5(HFO−1225zc)、添加ガスとしてIF
7および不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、2体積%および88体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0058】
[実施例3]
フルオロカーボンとしてC
3H
2F
4(HFO−1234ze(E))、添加ガスとしてIF
7および不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、2体積%および88体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0059】
[実施例4]
フルオロカーボンとしてC
3H
2F
4(HFO−1234ze(E))、添加ガスとしてIF
7および不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、3体積%および87体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0060】
[実施例5]
フルオロカーボンとしてC
3H
2F
4(HFO−1234ze(E))、添加ガスとしてIF
7および不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、4体積%および86体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0061】
[実施例6]
フルオロカーボンとしてC
3H
2F
4(HFO−1234ze(E))、添加ガスとしてIF
7および不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、5体積%および85体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0062】
[実施例7]
フルオロカーボンとしてC
3HF
3(3,3,3−トリフルオロプロピン)、添加ガスとしてIF
7および不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、3体積%および87体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0063】
[実施例8]
フルオロカーボンとしてC
3HF
3、添加ガスとしてIF
7およびArをそれぞれ、10体積%、4体積%および不活性ガスとして86体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0064】
[実施例9]
フルオロカーボンとしてC
3HF
3、添加ガスとしてIF
7およびArをそれぞれ、10体積%、5体積%および不活性ガスとして85体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0065】
[実施例10]
フルオロカーボンとしてC
3HF
3、添加ガスとしてIF
7およびArをそれぞれ、10体積%、8体積%および不活性ガスとして82体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0066】
[比較例1]
フルオロカーボンとしてC
3H
2F
4(HFO−1234ze(E))、添加ガスとしてIF
7および不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、0.5体積%および89.5体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0067】
[比較例2]
フルオロカーボンとしてC
3H
2F
4(HFO−1234ze(E))、添加ガスとしてIF
7および不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、11体積%および79体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0068】
[比較例3]
フルオロカーボンとしてCF
4、添加ガスとしてIF
7および不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、3体積%および87体積%で混合したドライエッチング剤を用い、圧力を5Paとした以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。このとき、バイアス電圧は400Vであった。
【0069】
[比較例4]
フルオロカーボンとしてC
3F
8、添加ガスとしてIF
7および不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、4体積%および86体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0070】
[比較例5]
フルオロカーボンとしてC
3H
2F
4(HFO−1234ze(E))、添加ガスとしてClF
3(三フッ化塩素)および不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、3体積%および87体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0071】
[比較例6]
フルオロカーボンとしてC
3H
2F
4(HFO−1234ze(E))、添加ガスとしてIF
5(五フッ化ヨウ素)および不活性ガスとしてArをそれぞれ、10体積%、3体積%および87体積%で混合したドライエッチング剤を用いる以外は実施例1と同じ条件でエッチングを行った。
【0072】
各実施例・比較例の結果を表1に記載した。表1中のエッチング速度比は、SiO
2に対するp−Siのエッチング速度比であり、孔径比が30未満とは、孔径比が最大でも30%未満であったことを指す。
【0073】
【表1】
【0074】
以上のとおり、炭素数が3である含フッ素不飽和炭化水素と七フッ化ヨウ素を含むドライエッチング剤を用いた各実施例では、SiO
2に対するp−Siのエッチング速度比は67〜150%であり、孔径比が30%未満であった。特に、前記七フッ化ヨウ素の体積が、前記ドライエッチング剤に含まれる前記含フッ素不飽和炭化水素の体積の0.1〜0.5倍であった実施例1〜9は、エッチング速度比が80〜120%であり、SiO
2とp−Siのエッチング速度が特に同等であった。よって、実施例1〜9のドライエッチング剤をSiO
x層とp−Si層が交互に多数積層された積層膜に適用すれば、一度のエッチング工程で良好な貫通孔を形成することができる。
【0075】
一方で、比較例1においては、含フッ素不飽和炭化水素と七フッ化ヨウ素の混合比が体積比で1:0.05であるため、p−Siエッチング速度とSiO
2エッチング速度が十分でなかった。また、比較例2においては、含フッ素不飽和炭化水素と七フッ化ヨウ素の混合比が体積比で1:1.1であるため、p−Siエッチング速度が速くなりすぎ、エッチング速度比が高くなりすぎてしまった。
図4に示すとおり、実施例と比較例をプロットすると、七フッ化ヨウ素と含フッ素不飽和炭化水素の比が0.1〜1の間にある場合に、p−Siエッチング速度とSiO
2エッチング速度の比が、67〜150%の間となり、SiO
xとp−Siを同等のレートでエッチングすることができる。
【0076】
比較例3においては、フルオロカーボンとして飽和パーフルオロカーボンであるCF
4を用い、さらにバイアス電圧も低かったため、エッチング速度比が高くなりすぎ、さらにサイドエッチが多くなり孔径比が最大で40%まで広がってしまった。比較例4においては、フルオロカーボンとして飽和パーフルオロカーボンであるC
3F
8を用いたため、p−Siエッチング速度が速くなりすぎ、エッチング速度比が高くなりすぎてしまった。比較例5は、添加ガスとしてClF
3を用いたため、含フッ素不飽和炭化水素の酸化分解が十分に進まず、さらに、ClF
3はp−Siとの反応性が悪いため、SiO
2およびp−Siのいずれのエッチングもほとんど進行しなかった。比較例6は、添加ガスとしてIF
5を用いたため、IF
7を使用した実施例4に比べて含フッ素不飽和炭化水素(C
3F
4H
2)の酸化分解が十分に進まず、SiO
2およびp−Siのいずれのエッチングも進行せず、むしろフルオロカーボンの重合体と思われる堆積膜が生成した。実施例4、比較例5、比較例6を比べると、添加ガスの種類がIF
7とClF
3とIF
5で異なるだけであるが、IF
7を使用した実施例4のみが、SiO
2とp−Siの両方のエッチングが十分に進行するという結果になった。