(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6544373
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】シーラントタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 19/12 20060101AFI20190705BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20190705BHJP
B60C 5/00 20060101ALI20190705BHJP
B29D 30/08 20060101ALI20190705BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20190705BHJP
C08L 23/22 20060101ALI20190705BHJP
【FI】
B60C19/12 Z
B60C1/00 Z
B60C5/00 F
B29D30/08
C08K3/00
C08L23/22
【請求項の数】24
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-51682(P2017-51682)
(22)【出願日】2017年3月16日
(62)【分割の表示】特願2015-559982(P2015-559982)の分割
【原出願日】2015年1月28日
(65)【公開番号】特開2017-119510(P2017-119510A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2017年12月21日
(31)【優先権主張番号】特願2014-15966(P2014-15966)
(32)【優先日】2014年1月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯川 直樹
【審査官】
鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−20479(JP,A)
【文献】
特開2013−43643(JP,A)
【文献】
特開2009−28919(JP,A)
【文献】
特開2010−280340(JP,A)
【文献】
特開2007−99162(JP,A)
【文献】
特開2013−112062(JP,A)
【文献】
特開2002−52911(JP,A)
【文献】
特開2006−299277(JP,A)
【文献】
特開2005−153871(JP,A)
【文献】
特開昭57−158279(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/14082(WO,A1)
【文献】
国際公開第2009/96312(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/12
B29D 30/00−30/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナーライナー内側にシーラント層により固定された多孔質吸音材を含み、多孔質吸音材の幅とシーラント層の幅の差が、1〜60mmであり、かつ、シーラント層の幅−多孔質吸音材の幅=−60〜+40mmであり、シーラント層が架橋されているシーラントタイヤ。
【請求項2】
インナーライナー内側にシーラント層により固定された多孔質吸音材を含み、
シーラント層が架橋剤を含み、
シーラント層の厚さが1〜4mmであり、
多孔質吸音材の比重が0.005〜0.06であり、
多孔質吸音材の幅とシーラント層の幅の差が、1〜60mmであり、かつ、シーラント層の幅−多孔質吸音材の幅=−60〜+40mmであるシーラントタイヤ。
【請求項3】
シーラント層がブチルゴム100重量部に対して無機充填材1〜30重量部を含む請求項1又は2記載のシーラントタイヤ。
【請求項4】
無機充填材が、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、タルク、及びマイカからなる群から選択される1種以上である請求項3記載のシーラントタイヤ。
【請求項5】
無機充填材が、カーボンブラックである請求項3または4記載のシーラントタイヤ。
【請求項6】
多孔質吸音材の断面積が、タイヤのリム組時のタイヤ断面空洞面積に対して0.4〜15%である請求項1〜5のいずれかに記載のシーラントタイヤ。
【請求項7】
多孔質吸音材が、ポリウレタンスポンジである請求項1〜6のいずれかに記載のシーラントタイヤ。
【請求項8】
多孔質吸音材は、略一定幅および略一定断面形状である請求項1〜7のいずれかに記載のシーラントタイヤ。
【請求項9】
多孔質吸音材が継ぎ目を有する請求項1〜8のいずれかに記載のシーラントタイヤ。
【請求項10】
継ぎ目の数が1である請求項9記載のシーラントタイヤ。
【請求項11】
継ぎ目において、多孔質吸音材がオーバーラップしている請求項9または10記載のシーラントタイヤ。
【請求項12】
継ぎ目のギャップ長さが80mm以下である請求項9〜11のいずれかに記載のシーラントタイヤ。
【請求項13】
多孔質吸音材が継ぎ目を2つ有し、多孔質吸音材の周方向の長さの比は、短いものが長いものの3%以下である請求項9記載のシーラントタイヤ。
【請求項14】
多孔質吸音材の周方向端面は、タイヤトレッド内面に対して略垂直である請求項1〜13のいずれかに記載のシーラントタイヤ。
【請求項15】
多孔質吸音材の周方向端面は、タイヤトレッド内面に対して10〜80°である請求項1〜13のいずれかに記載のシーラントタイヤ。
【請求項16】
多孔質吸音材の継ぎ目が、タイヤトレッド内面に対してテーパー角を1または2有する請求項1〜13のいずれかに記載のシーラントタイヤ。
【請求項17】
シーラント層が、架橋剤を含む請求項1、3〜16のいずれかに記載のシーラントタイヤ。
【請求項18】
シーラント層が、ブチルゴム100重量部に対して、ポリブテン100〜400重量部および架橋剤1〜10重量部を含む請求項1〜17のいずれかに記載のシーラントタイヤ。
【請求項19】
ポリブテンの数平均分子量が1000〜4000である請求項18記載のシーラントタイヤ。
【請求項20】
タイヤを加硫する工程、加硫したタイヤのインナーライナー内側にシーラント材を押し出しする工程、シーラント材を加熱して架橋する架橋工程、および、多孔質吸音材を貼り付け加工する工程を含む請求項1〜19のいずれかに記載のシーラントタイヤの製造方法。
【請求項21】
多孔質吸音材を貼り付け加工する工程において、必要寸法の多孔質吸音材をタイヤに貼り付け加工する請求項20記載のシーラントタイヤの製造方法。
【請求項22】
多孔質吸音材を貼り付け加工する工程において、タイヤ2本分以上の加工量のタイヤ周長方向の長さの吸音材をタイヤ内部に装填し、貼り付け時に切断し加工する請求項20または21記載のシーラントタイヤの製造方法。
【請求項23】
多孔質吸音材を貼り付け加工する工程において、多孔質吸音材をタイヤ開口部からタイヤ内部に連続して導入して貼り付け、多孔質吸音材を段替えすることなく連続してタイヤに貼り付け加工する請求項20記載のシーラントタイヤの製造方法。
【請求項24】
多孔質吸音材のタイヤ幅方向の寸法が、予め所定の寸法に裁断加工されている請求項20または21記載のシーラントタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シーラントタイヤに関し、特に消音性能を有するシーラントタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のロードノイズの一種であるタイヤの空洞共鳴音は、タイヤ内部の空気の共鳴音であることから、周波数帯域が狭く、車両によっては非常に耳障りな音である。一方で、タイヤの内部の空気の共鳴音であることから、車体、タイヤでの対策が非常に困難なノイズである。その解決法として、吸音材をタイヤ内部に装着する方法や、ホイールにヘルムホルツタイプの吸音器を加工したり、後付する方法などが実用化されている。また、吸音材をタイヤ内部に装着する方法としても、粘着剤を用いてタイヤのトレッド部に固定したり、樹脂ベルトを用いて固定する方法が実用化されている。
【0003】
一方、近年、スペアタイヤを車両に積まない技術として、従来のランフラットタイヤ、応急パンク修理キットに加えて、あらかじめパンクシール層をタイヤトレッド内部に配置しておくシーラントタイヤが実用化されている。
【0004】
そして、吸音材とシーラントタイヤを組合せ、シーラント層を利用して吸音材をタイヤ内に固定する方法が種々公開されている(特許文献1)。しかしながら、いずれの方法も、性能、加工性などで不十分な点があり、さらに実用化のためには量産性を向上させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−20479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた消音性能と、生産性に優れたシーラントタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、インナーライナー内側にシーラント層により貼り付けられた多孔質吸音材を含み、シーラント層がブチルゴム100重量部に対して無機充填材1〜30重量部を含むことを特徴とするシーラントタイヤに関する。
【0008】
無機充填材が、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、タルク、及びマイカからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
【0009】
多孔質吸音材の断面積が、タイヤのリム組時のタイヤ断面空洞面積に対して0.4〜15%であることが好ましい。
【0010】
多孔質吸音材の比重が、0.005〜0.06であることが好ましい。
【0011】
多孔質吸音材が、ポリウレタンスポンジであることが好ましい。
【0012】
多孔質吸音材は、略一定幅および略一定断面形状であることが好ましい。
【0013】
多孔質吸音材が継ぎ目を有することが好ましい。
【0014】
継ぎ目の数が1であることが好ましい。
【0015】
継ぎ目において、スポンジがオーバーラップしていることが好ましい。
【0016】
継ぎ目のギャップ長さが80mm以下であることが好ましい。
【0017】
多孔質吸音材が継ぎ目を2つ有し、多孔質吸音材の周方向の長さの比が、短いものが長いものの3%以下であることが好ましい。
【0018】
多孔質吸音材の周方向端面は、タイヤトレッド内面に対して略垂直であることが好ましい。
【0019】
多孔質吸音材の周方向端面は、タイヤトレッド内面に対して10〜80°であることが好ましい。
【0020】
多孔質吸音材の継ぎ目が、タイヤトレッド内面に対してテーパー角を1または2有することが好ましい。
【0021】
多孔質吸音材の幅とシーラント層の幅の差が1〜40mmであることが好ましい。
【0022】
シーラント層が、さらに、ブチルゴム100重量部に対して、ポリブテン100〜400重量部および架橋剤1〜10重量部を含むことが好ましい。
【0023】
ポリブテンの数平均分子量が1000〜4000であることが好ましい。
【0024】
シーラント層の厚さが1〜4mmであることが好ましい。
【0025】
また、本発明は、タイヤを加硫する工程、シーラント材をスパイラル押し出しする工程、架橋工程、および、多孔質吸音材を貼り付け加工する工程を含む前記シーラントタイヤの製造方法に関する。
【0026】
多孔質吸音材を貼り付け加工する工程において、必要寸法のスポンジをホルダーに装着して、タイヤに貼り付け加工することが好ましい。
【0027】
多孔質吸音材を貼り付け加工する工程において、タイヤ2本分以上の加工量のタイヤ周長方向の長さの吸音材をタイヤ内部に装填し、貼り付け時に切断し加工することが好ましい。
【0028】
多孔質吸音材を貼り付け加工する工程において、多孔質吸音材をタイヤ開口部からタイヤ内部に連続して導入して貼り付け、多孔質吸音材を段替えすることなく連続してタイヤに貼り付け加工することが好ましい。
【0029】
多孔質吸音材のタイヤ幅方向の寸法が、予め所定の寸法に裁断加工されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、インナーライナー内側にシーラント層により貼り付けられた多孔質吸音材を含み、シーラント層がブチルゴム100重量部に対して無機充填材1〜30重量部を含むため、優れた消音性能と、生産性に優れたシーラントタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】多孔質吸音材の端部に設けたテーパーを示す図である。
【
図2】多孔質吸音材の端部に設けた他の態様のテーパーを示す図である。
【
図3】多孔質吸音材の端部に設け、オーバーラップしたテーパーを示す図である。
【
図4】多孔質吸音材の端部に設けたテーパーの先端を切断した態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明のシーラントタイヤは、インナーライナー内側にシーラント層により貼り付けられた多孔質吸音材を含み、シーラント層がブチルゴム100重量部に対して無機充填材1〜30重量部を含むことを特徴とする。シーラント層は、粘着力、低い空気透過性、耐候性に優れるブチルゴムを必須成分として含有し、また、混練性を改善するために無機充填材を含有する。
【0033】
無機充填材は特に限定されないが、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、タルク、及びマイカからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。なかでも、ゴム成分の充填剤として一般的に使用されているカーボンブラックがより好ましい。
【0034】
無機充填材の配合量は、ブチルゴム100質量部に対して1〜30質量部であるが、2〜10質量部が好ましい。1質量部未満では、シーラント用の配合物を混練することができなくなり、30質量部を超えると、シーラント材料が硬くなり、エアシール性が低下する。
【0035】
シーラント層は、さらにポリブテンを含むことが好ましい。ポリブテンの配合量は、ブチルゴム100質量部に対して100〜400質量部が好ましく、150〜300質量部がより好ましい。100質量部未満では、シーラント層が硬くなってエアシール性能が低下し、400質量部を超えると、シーラント層が柔らかくなって、使用中に流れ、偏振動が発生する可能性がある。ポリブテンの数平均分子量は特に限定されないが、1000〜4000が好ましく、1500〜3500がより好ましい。1000未満では、ブチルゴムとの混練が困難となり、4000を超えると、粘着力が低下してエアシール性が不足する傾向がある。なお、本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)(東ソー(株)製GPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ−M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めたものである。
【0036】
シーラント層は、さらに架橋剤を含むことが好ましい。架橋剤としては、硫黄、過酸化物活性剤(ジアロイル過酸化物、ジアシル過酸化物、パーオキシエステル)、キノンジオキシム化合物などが挙げられる。なかでも、本発明の効果がより良好に得られるという点から、過酸化物活性剤、キノンジオキシム化合物が好ましく、キノンジオキシム化合物がより好ましい。
【0037】
キノンジオキシム化合物としては、p−キノンジオキシム、p−キノンジオキシムジアセテート、p−キノンジオキシムジカプロエート、p−キノンジオキシムジラウレート、p−キノンジオキシムジステアレート、p−キノンジオキシムジクロトネート、p−キノンジオキシムジナフテネート、p−キノンジオキシムスクシネート、p−キノンジオキシムアジペート、p−キノンジオキシムジフロエート(difuroate)、p−キノンジオキシムジベンゾエート、p−キノンジオキシムジ(o−クロロベンゾエート)、p−キノンジオキシムジ(p−クロロベンゾエート)、p−キノンジオキシムジ(p−ビトロベンゾエート)、p−キノンジオキシムジ(m−ビトロベンゾエート)、p−キノンジオキシムジ(3,5−ジニトロベンゾエート)、p−キノンジオキシムジ(p−メトキシベンゾエート)、p−キノンジオキシムジ(n−アミルオキシベンゾエート)、p−キノンジオキシムジ(m−ブロモベンゾエート等が挙げられる。なかでも、粘着性、シール性、流動性の観点から、p−ベンゾキノンジオキシムが好ましい。
【0038】
架橋剤の配合量は、ブチルゴム100質量部に対して1〜10質量部が好ましく、2〜7質量部がより好ましい。1質量部未満では、シーラント層が流動し、多孔質吸音材を固定しずらくなり、10質量部を超えると、シーラント層が硬くなりすぎ、シール性能が低下する傾向がある。
【0039】
シーラント層の厚さは、特に限定されないが、1〜4mmが好ましく、1.5〜3.5mmがより好ましい。1mm未満では、タイヤのパンクを修理することができなくなり、4mmを超えても、シーリング効果は飽和する傾向がある。
【0040】
多孔質吸音材の断面積は、タイヤのリム組時のタイヤ断面空洞面積に対して0.4〜15%であることが好ましく、8〜12%がより好ましい。多孔質吸音材の吸音性能は吸音材の厚さではなく、タイヤ断面空洞面積に対する体積比率が支配する。0.4%未満では、吸音効果が見られず、15%を超えても、吸音性能は向上せず、飽和する傾向がある。
【0041】
多孔質吸音材の比重は、0.005〜0.06が好ましく、0.02〜0.05がより好ましい。0.005未満でも、0.06を超えても、吸音性能が悪化する傾向がある。
【0042】
多孔質吸音材の材質は限定されず、エーテル系ポリウレタンスポンジ、エステル系ポリウレタンスポンジ、ポリエチレンスポンジなどの合成樹脂スポンジ、クロロプレンゴムスポンジ(CRスポンジ)、エチレンプロピレンゴムスポンジ(EPDMスポンジ)、ニトリルゴムスポンジ(NBRスポンジ)などのゴムスポンジを好適に用いることができる。なかでも、エーテル系ポリウレタンスポンジを含むポリウレタン系又はポリエチレン系等のスポンジが、制音性、軽量性、発泡の調節可能性、耐久性などの観点から好ましく、さらには加水分解に強いポリエステル・ポリエーテル共重合ポリオールを原料とするポリウレタンスポンジがより好ましい。
【0043】
多孔質吸音材は、タイヤの振動防止、スポンジの成形性、素材寸法加工、輸送、生産作業性、コスト面から有利であることから、周上で重量が一定である略一定幅および略一定断面形状であることが好ましい。
【0044】
多孔質吸音材が継ぎ目を持たないことがタイヤ周方向に重量が一定となる観点から好ましいが、継ぎ目のない環状の多孔質吸音材の製造コストは非常に高くなる。そこで、略矩形上の多孔質吸音材を継ぎ目が小さくなるように貼り付けることでコストと性能のバランスを取ることができる。タイヤ内部へ入った異物がシーラント材に付着することを防止するため、継ぎ目においては、スポンジがオーバーラップしていることが好ましい。継ぎ目の数は特に限定されないが、1または2が好ましい。継ぎ目のギャップ長さ(スポンジの隙間又はオーバーラップ部分)は、80mm以下が好ましく、20mm以下がより好ましい。80mmを超えると、バランスが悪化する傾向がある。また、継ぎ目のギャップ長さは、製造コストの点から、1mm以上が好ましい。継ぎ目を2つ有する場合、多孔質吸音材の周方向の長さの比は、短いものが長いものの3%以下であることが好ましく、1%以下がより好ましい。3%以下というのは、ギャップを埋めるために小さな小片を設置することに対応する。
【0045】
多孔質吸音材の周方向端面は、加工が容易であるという点で、タイヤトレッド内面に対して略垂直であることが好ましい。
【0046】
多孔質吸音材の継ぎ目が、タイヤトレッド内面に対してテーパー角を1または2有することが好ましい。テーパーを設けることによって、スポンジの隙間を見掛け上狭くすることができ、異物が粘着することを防止できる。テーパーを設けた態様を
図1および2に示す。
図2に示すように反対方向の角度でテーパーを設けることによって、使用時にスポンジの接着面での亀裂発生を防止することができる。
図4には、テーパーの先端を切り落とした態様を示しており、テーパー角を2つ有する。
【0047】
多孔質吸音材の周方向端面(テーパー角)は、タイヤトレッド内面に対して10〜80°であることが好ましく、15〜45°であることが好ましい。10°未満では、加工が困難であり、80°を超えると、長期間の走行によるスポンジの剥離が生じやすくなる傾向があり、また、スポンジをオーバーラップさせる際にスポンジの乗り上げが困難になる傾向がある。
【0048】
多孔質吸音材の幅がシーラント層に比べて狭くても、広くても良い。シーラント層よりも広くなっても、粘着防止の効果に変わりはない。ただし、狭くなりすぎると、多孔質吸音材の無い部分において異物が粘着しやすくなる可能性がある。
【0049】
多孔質吸音材の幅とシーラント層の幅の差(ギャップ)は0〜40mmが好ましく、1〜40mmがより好ましく、1〜5mmがさらに好ましい。1mm未満では、要求精度が高すぎ、製造が困難となり、40mmを超えると、異物がシーラント層に粘着することを防止できなくなる傾向がある。
【0050】
また、本発明のシーラントタイヤの製造方法は、タイヤを加硫する工程、シーラント材をスパイラル押し出しする工程、架橋工程、および、多孔質吸音材を貼り付け加工する工程を含むことを特徴とする。シーラント材の均一性のため、シーラント剤をスパイラル押し出しすることが好ましい。その後、架橋工程を経て耐流動性を付与したのち、前記多孔質吸音材を貼り付け加工する。
【0051】
多孔質吸音材を貼り付け加工する工程において、必要寸法のスポンジをホルダーに装着して、タイヤに貼り付け加工することが好ましい。
【0052】
吸音材の段替えの工数が減り、異なるサイズのタイヤの混合生産の際にも有効である点で、多孔質吸音材を貼り付け加工する工程において、タイヤ2本分以上の加工量のタイヤ周長方向の長さの吸音材をタイヤ内部に装填し、貼り付け時に切断し加工することが好ましい。
【0053】
生産効率の点で、多孔質吸音材を貼り付け加工する工程において、多孔質吸音材をタイヤ開口部からタイヤ内部に連続して導入して貼り付け、多孔質吸音材を段替えすることなく連続してタイヤに貼り付け加工することが好ましい。
【0054】
多孔質吸音材のタイヤ幅方向の寸法が、予め所定の寸法に裁断加工されていることが好ましい。
【実施例】
【0055】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0056】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
ブチルゴム:IIR11065、JSR株式会社製
ポリブテン:HV−1900、JX日鉱日エネルギー株式会社製 数平均分子量2900
カーボンブラック:N330、キャボットジャパン株式会社製
オイル:DOS(セバシン酸ジオクチル)、田岡化学工業株式会社製
架橋剤1:QDO(p−ベンゾキノンジオキシム)、大内新興化学工業株式会社製
ステアリン酸:ビーズステアリン酸つばき、日油株式会社製
酸化亜鉛:酸化亜鉛2種、三井金属鉱業株式会社製
架橋剤2:粉末硫黄、鶴見化学工業株式会社製
促進剤:ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、Curekind ZBEC、Ningbo Actimix Polymer社製
スポンジ:ESH2(幅200mm、厚さ10mm、比重0.039、ポリウレタン製)、株式会社イノアックコーポレーション製
【0057】
実施例1〜3、33および比較例1〜2
表1に示す配合処方に従い、二軸押出機を用いて各材料を110℃の条件下で混練し、混練物を得た。混練性を以下の基準で評価した。その結果を表1に示す。
<混練難易度>
◎:良好
○:可能
△:困難だが混練可能
×:混練不可
【0058】
<エア漏れ量>
タイヤ(235/45R17、94W、リム:17X8J、タイヤリム組時空洞断面積:187cm
2)に、シーラント材を厚さ3mm、幅190mmになるようにスパイラル押出ししてタイヤ内部に塗布した。長さ1900mm、厚さ10mmのスポンジを隙間25mmになるように設置した。タイヤの初期内圧を230kPaにし、雰囲気温度25℃において、JIS N100の丸くぎ(胴径4.2mm)を使用し、釘10本をタイヤの縦溝に頭まで打ち込み、すぐに釘を除去後、丸1日タイヤを放置して、内圧を測定した。減った内圧をエア漏れ量として、実施例1の内圧を20とした指標で評価した。指標が大きい程、エア漏れ量が多いことを示す。
【0059】
<流動性>
タイヤにシーラント材塗布後、170℃のオーブンで10分間架橋した。その後、60℃で24hタイヤ単体で縦において放置して、シーラント材が重力で下に流れるかを目視で確認し、以下の基準で評価した。
○:流れ発生なし
△:流れやや発生
×:流動
【0060】
【表1】
【0061】
実施例4〜12
表2に示すように、実施例1のシーラント材を厚さ3mm、幅190mmになるようにスパイラル押出ししてタイヤ内部に塗布した。140℃で10分間温風により加熱して、架橋させた。表2に示す形状のスポンジを多孔質吸音材として使用し、シーラント材上に設置した。以下に示す評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0062】
<紙片張り付き個数>
タイヤをリム組せずに、20mm四方のコピー用紙片160枚をタイヤの中にばらまき、タイヤを横向けに紙片を取り出した後、タイヤに残ったコピー紙片の枚数を数えた。枚数が多いほど、異物が入りやすい。
【0063】
<製造指数>
手作業でスポンジを貼るのにかかった時間を、実施例5の場合を100として製造指数とした。製造指数が大きいほど悪いことを示す。なお、ギャップに関しては±3mmが許容範囲である。
【0064】
【表2】
【0065】
実施例1、13〜18
表3に示す配合処方に従い、二軸押出機を用いて各材料を110℃の条件下で混練し、混練物を得た。混練難易度、エア漏れ量、流動性を前述の方法で評価した。評価結果を表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
実施例1、19〜23
表4に示す配合処方に従い、二軸押出機を用いて各材料を110℃の条件下で混練し、混練物を得た。混練難易度、エア漏れ量、流動性を前述の方法で評価した。評価結果を表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
実施例1、24、25
表5に示す配合処方に従い、二軸押出機を用いて各材料を110℃の条件下で3分間混練りし、混練り物を得た。混練難易度、エア漏れ量、流動性を前述の方法で評価した。評価結果を表5に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
実施例4、26〜29
表6に示すように、実施例1のシーラント材を厚さを変動させて、幅190mmになるようにスパイラル押出ししてタイヤ内部に塗布した。140℃で10分間温風により加熱して、架橋させた。表6に示す形状のスポンジを多孔質吸音材として使用し、シーラント材上に設置した。エア漏れ量、流動性を前述の方法で評価し、シーラント材のコストも算出した。評価結果を表6に示す。
【0072】
【表6】
【0073】
実施例30〜32
表7に示すシーラント材とスポンジとを使用し、以下の製法でシーラントタイヤを作製した。各製法における張り付け時間を計測した。評価結果を表7に示す。
製法1:タイヤ幅方向の寸法が予め所定の寸法に裁断加工されている多孔質吸音材を使用した。
製法2:タイヤ2本分以上の加工量のタイヤ周長方向の長さの吸音材をタイヤ内部に装填し、貼り付け時に切断し加工した。
製法3:多孔質吸音材をタイヤ開口部からタイヤ内部に連続して導入して貼り付け、多孔質吸音材を段替えすることなく連続してタイヤに貼り付け加工した。
【0074】
【表7】
【0075】
実施例5、34〜36
表8に示すように、タイヤ(235/45R17、94W、リム:17X8J)に実施例1のシーラント材を厚さ3mm、幅190mmになるようにスパイラル押出ししてタイヤ内部に塗布した。140℃で10分間温風により加熱して、架橋させた。表8に示す形状のスポンジを多孔質吸音材として使用し、シーラント材上に設置した。前述の方法で紙片張り付き個数、製造指数の評価を行ったことに加え、以下に示す評価を行った。評価結果を表8に示す。
なお、表8において、正の継ぎ目のギャップ長さは、オーバーラップ部分の長さを表し、負の継ぎ目のギャップ長さは、スポンジの隙間の長さを表す。
また、表8の各実施例において、継ぎ目の数は1である。
【0076】
<タイヤのユニフォミティ指数>
JASO C607:2000のユニフォミティ試験条件に準拠して、RFVが下記の条件で測定された。評価は、実施例34のRFVを100とする指数で評価した。数値が大きいほど、タイヤのバランスが悪いことを表す。
リム:17×8J
内圧:200kPa
荷重:4.6kN
速度:120km/h
【0077】
【表8】
【0078】
実施例5、37〜39
表9に示すように、タイヤ(235/45R17、94W、リム:17X8J)に実施例1のシーラント材を厚さ3mm、幅190mmになるようにスパイラル押出ししてタイヤ内部に塗布した。140℃で10分間温風により加熱して、架橋させた。表9に示す形状のスポンジを多孔質吸音材として使用し、シーラント材上に設置した。以下に示す評価を行った。評価結果を表9に示す。
なお、表9において、正の継ぎ目のギャップ長さは、オーバーラップ部分の長さを表し、負の継ぎ目のギャップ長さは、スポンジの隙間の長さを表す。
また、表9の各実施例においては、
図2に示すように反対方向の角度でテーパーを設けている。
【0079】
<走行後剥離>
上記タイヤを実車に装着し、速度80km/h、荷重5.0kNで4万km走行させたのちに、スポンジ長さ方向端部が剥離しているかを検証した。
【0080】
【表9】