特許第6544518号(P6544518)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6544518
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】ネオジム回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 59/00 20060101AFI20190705BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20190705BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20190705BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20190705BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20190705BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20190705BHJP
【FI】
   C22B59/00ZAB
   C22B3/10
   C22B3/22
   C22B3/44 101Z
   C22B7/00 G
   B09B3/00 Z
   B09B3/00 304J
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-160763(P2015-160763)
(22)【出願日】2015年8月18日
(65)【公開番号】特開2017-39960(P2017-39960A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2018年8月6日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年2月23日に福岡工業大学において開催された平成26年度福岡工業大学大学院工学研究科電気工学専攻修士論文公聴会で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】500372717
【氏名又は名称】学校法人福岡工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】514100142
【氏名又は名称】株式会社フィゾニット
(74)【代理人】
【識別番号】100194478
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 文彦
(74)【代理人】
【識別番号】100190517
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 守
(72)【発明者】
【氏名】北川 二郎
(72)【発明者】
【氏名】坪田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】小野 泰輔
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−109039(JP,A)
【文献】 特開2011−184735(JP,A)
【文献】 特開平11−288807(JP,A)
【文献】 米国特許第06494968(US,B1)
【文献】 特開2005−294381(JP,A)
【文献】 特開2013−047387(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/071111(WO,A1)
【文献】 特開2005−179725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 59/00
C22B 3/10
C22B 3/44
C22B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネオジム磁石に再生処理を施してネオジムを回収するネオジム回収方法であって、
前記ネオジム磁石を腐食させ、ネオジム酸化物水和物と鉄酸化物水和物とからなる腐食物を生成させる腐食工程と、
前記腐食物を塩酸に浸漬し、前記ネオジム酸化物水和物内のネオジムをイオン化させるイオン化工程と、
前記イオン化工程において生成された、ネオジムイオンが溶けた塩酸溶液を濾過し不溶物と分離させるとともに、濾過後の前記塩酸溶液にシュウ酸を加えてシュウ酸ネオジムを沈殿させる沈殿工程と、
前記シュウ酸ネオジムを焼成してネオジム酸化物を生成する焼成工程と、を備えることを特徴とするネオジム回収方法。
【請求項2】
前記腐食工程において、食塩水を用いて前記ネオジム磁石を腐食させることを特徴とする請求項1に記載のネオジム回収方法。
【請求項3】
前記腐食工程の前に、前記ネオジム磁石を粉砕する粉砕工程を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のネオジム回収方法。
【請求項4】
前記塩酸の温度は室温であることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載のネオジム回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネオジム磁石に再生処理を施してネオジムを回収するネオジム回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ネオジムは高性能磁石に使われており、このネオジム磁石は、ハードディスク、携帯電話、自動車、洗濯機、磁気センサーなどに極めて幅広く利用されている。
しかし、原料であるネオジムは、中国からの輸入に頼っているのが現状である。そして、生産されたネオジム磁石を含む各種使用済み機器及び生産工場から出る端材は、主に東南アジアで再利用されるか、鉄スクラップとして廃棄されている。
すなわち、ネオジムはほぼ全量が輸入されるにもかかわらず、ネオジムが日本国内にとどまることが基本的にないことを意味している。
【0003】
さらに、資源国の立場では国益確保として、原料の輸出規制および製品としての輸出に切り替える可能性も将来的に十分あり得、このような外的要因によって家電製品等の国内生産が不安定になるのは好ましくない。
一方、最近の日本近海における希土類海底鉱床の発見により、将来的には海外からの原料輸入に頼る必要性がなくなる可能性が出てきた。
しかし、資源採掘は環境破壊につながるので、出来る限りこれを避け、循環型社会を目指す方が好ましい。従って、希土類リサイクルの促進と技術開発が、資源対策の重要課題の一つとして取り組みが強化されつつある。
【0004】
その使用済み機器からネオジムを抽出するには、まず使用済み機器を回収し、機器を解体してネオジム磁石を取り出す。そして、そのネオジム磁石からネオジムを抽出する。
このようなネオジム回収方法は、様々な大学や企業において研究開発が進んでおり、開示されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0005】
特許文献1に記載の発明では、希土類磁石を焙焼後、酸処理を施し希土類元素を浸出させるときに、500〜1000℃の焙焼温度まで10℃/min以下の速度で昇温し、焙焼温度にて0.5時間以上焙焼することで、希土類磁石中の鉄をFe主体の鉄酸化物とし、酸浸出による鉄の抽出率を10%以下に抑え、希土類元素を80%以上の抽出率で浸出させることができる。
塩酸を用い、浸出温度180℃、浸出時間2時間のとき、希土類元素の抽出率は100%に達した。
【0006】
また、特許文献2に記載の発明では、粗粉砕したネオジム磁石を塩酸、硝酸または硫酸と、ジカルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸)との混合溶液に加え、室温で湿式ボールミルにて処理し、ネオジムをジカルボン酸化合物として沈殿分離することでネオジムを回収する。塩酸とシュウ酸の組み合わせが特に好ましい。湿式ボールミルの処理時間が数時間の場合はネオジムの回収率は80%程度であるが、24時間以上の処理時間でネオジムの回収率が95%に達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−184735号公報
【特許文献2】特開2014−46295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、希土類元素の抽出率を100%にするためには、酸処理時に180℃に熱する必要がある。また、焙焼温度までの昇温速度を10℃/min以下にする制約がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の発明では、ボールミル装置という特殊な装置が必要で、かつ95%のネオジム回収率を得るには、24時間以上の処理時間が必要である。
【0010】
そこで、本発明の目的とするところは、簡易にネオジムを回収でき、しかも回収率の高いネオジム回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に記載のネオジム回収方法は、ネオジム磁石に再生処理を施してネオジムを回収するネオジム回収方法であって、
前記ネオジム磁石を腐食させ、ネオジム酸化物水和物と鉄酸化物水和物とからなる腐食物を生成させる腐食工程(100)と、
前記腐食物を塩酸に浸漬し、前記ネオジム酸化物水和物内のネオジムをイオン化させるイオン化工程(200)と、
前記イオン化工程(200)において生成された、ネオジムイオンが溶けた塩酸溶液を濾過し不溶物と分離させるとともに、濾過後の前記塩酸溶液にシュウ酸を加えてシュウ酸ネオジムを沈殿させる沈殿工程(300)と、
前記シュウ酸ネオジムを焼成してネオジム酸化物を生成する焼成工程(400)と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載のネオジム回収方法は、前記腐食工程(100)において、食塩水を用いて前記ネオジム磁石を腐食させることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載のネオジム回収方法は、前記腐食工程(100)の前に、前記ネオジム磁石を粉砕する粉砕工程を備えることを特徴とする。
【0014】
また、請求項4に記載のネオジム回収方法は、前記塩酸の温度は室温であることを特徴とする。
【0015】
ここで、上記括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための形態に掲載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、腐食工程においてネオジム酸化物水和物と鉄酸化物水和物とからなる腐食物を生成させたので、その次工程であるイオン化工程を室温で行うことができる。
すなわち、塩酸に対して、ネオジム酸化物水和物はネオジム酸化物よりも易溶で、鉄酸化物水和物は鉄酸化物Feよりも浸出速度が遅いので、イオン化工程において温度を上げなくても、室温にて選択比を向上することができる。
また、ネオジム酸化物水和物は塩酸に易溶なので、イオン化工程に掛かる時間が短くて済む。
このように、室温において再生処理を施すことができるとともに、時間も短時間で済み、しかもこの方法では特殊な装置を必要としないので、簡易にネオジムを回収可能である。
【0017】
また、本発明によれば、腐食工程において、食塩水を用いてネオジム磁石を腐食させるので、腐食が促進され、腐食工程に掛かる時間が短くて済む。
【0018】
また、本発明によれば、腐食工程の前に、ネオジム磁石を粉砕する粉砕工程を備えるので、ネオジム磁石の粒径が小さくなり、ネオジム磁石の総表面積が大きくなる。それに伴い、次工程である腐食工程でのネオジム磁石の腐食が促進される。よって、腐食工程に掛かる時間がさらに少なくて済む。
【0019】
なお、本発明のネオジム回収方法のように、ネオジム磁石を腐食させてから塩酸に浸漬する点は、上述した特許文献1及び2には全く記載されていない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態に係るネオジム回収方法を示す工程図である。
図2】本発明の実施形態に係るネオジム回収方法における腐食物と、水素化後に腐食させたときのX線回折パターンを示す図である。
図3】本発明の実施形態に係るネオジム回収方法における第一試料と第二試料のX線回折パターンを示す図である。
図4】ネオジム回収率の塩酸への浸出時間依存性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1乃至図4を参照して、本発明の実施形態に係るネオジム回収方法を説明する。
このネオジム回収方法は、ネオジム磁石に再生処理を施してネオジムを回収する方法であって、図1に示すように腐食工程100と、イオン化工程200と、沈殿工程300と、焼成工程400を備える。
そして、特に腐食工程100を特徴とするものである。
なお、腐食工程100の事前処理として、NdFe14Bを主成分とする脱磁後のNd−Fe−B磁石(ネオジム磁石)を粗粉砕しておく。
【0022】
本実施形態に係るネオジム回収方法の工程図を図1に示す。
まず、腐食工程100では、脱磁・粗粉砕したネオジム磁石を3%食塩水にてエアーポンプで空気を送りながら、1週間かけて腐食させる。
【0023】
次に、イオン化工程200では、腐食工程100において腐食してなる腐食物を0.1mol/L〜0.3mol/Lの塩酸に溶解させる。
【0024】
次に、沈殿工程300では、イオン化工程200において生成された、ネオジムイオンが溶けた塩酸溶液を濾過して不溶物と分離させるとともに、濾過後の塩酸溶液に0.03mol/Lのシュウ酸を加えて沈殿物を生成する。
【0025】
最後に焼成工程400において、沈殿工程300で生成した沈殿物を焼成して焼成物を生成する。
【0026】
ここで、上記の各工程で生成された物質が何であるかを検証する。
まずは腐食工程100で生成された腐食物について検証する。
腐食物のX線回折パターンを図2に示す。これは、Nd−Fe−B磁石をあらかじめ水素化し、NdH2+X,Feに分解した試料を腐食させたときに得られるX線回折パターンに酷似していることから、Nd−Fe−B磁石を腐食させるとNd化合物とFe化合物に分解されることがわかる。また、これにより、ネオジム磁石が完全に分解されていることもわかる。
【0027】
そして、腐食物の回折パターンにはγ−FeOOHの回折パターン(黒△)が含まれていることから、腐食工程100で生成された腐食物はネオジム酸化物水和物(黒○)と鉄酸化物水和物からなると考えられる。
【0028】
次に図3に、イオン化工程200における不溶物を800℃・5時間焼成して得られた第一試料(図3の一段目)と、焼成工程400における焼成物である第二試料(図3の三段目)のX線回折パターンを示す。
これにより、第一試料及び第二試料は、それぞれほぼ単相のFeとNdになっていることがわかる。また、沈殿工程300における沈殿物はシュウ酸ネオジムであることもわかる。
このように、ネオジムをNdの型で分離回収できたことになる。また、鉄もFeの型で回収可能なことも分かった。
【0029】
ここで、図4に塩酸0.1mol/L,0.2moL/L,0.3mol/Lで、浸漬時間を0.5時間から最大3時間まで変化させたときのネオジム回収率の結果を示す。
イオン化工程200における温度はすべて室温である。
塩酸0.2mol/Lや0.3mol/Lでは回収率は100%を越えるが、浸出時間に対して飽和傾向を示す。塩酸0.2mol/L、浸出時間2時間のときに得られたFeとNdの純度を調べたところ、Feにはネオジムが4%(鉄に対するモル比)含まれており、Ndには鉄が3%(ネオジムに対するモル比)含まれていることが分かった。このことから回収率を補正すると、93%となった。また、回収できたNdの純度は85%程度と見積もられる。
また、鉄もFeの形で30%程度回収可能である。
【0030】
以上のように構成されたネオジム回収方法によれば、腐食工程100においてネオジム酸化物水和物と鉄酸化物水和物とからなる腐食物を生成させたので、その次工程であるイオン化工程200を室温で行うことができる。
すなわち、塩酸に対して、ネオジム酸化物水和物はネオジム酸化物よりも易溶で、鉄酸化物水和物は鉄酸化物Feよりも浸出速度が遅いので、イオン化工程200において温度を上げなくても、室温にて選択比を向上することができる。
【0031】
また、ネオジム酸化物水和物は塩酸に易溶なので、イオン化工程200に掛かる時間が短くて済む。
このように、室温において再生処理を施すことができるとともに、時間も短時間で済み、しかもこの方法では特殊な装置を必要としないので、簡易にネオジムを回収可能である。
そして、全工程数も少ないので、低コストリサイクル技術に十分になり得る。
【0032】
また、腐食工程100において、食塩水を用いてネオジム磁石を腐食させるので、腐食が促進され、腐食工程100に掛かる時間が短くて済む。
【0033】
さらに腐食工程100の前に、ネオジム磁石を粉砕する粉砕工程を備えるので、ネオジム磁石の粒径が小さくなり、ネオジム磁石の総表面積が大きくなる。それに伴い、次工程である腐食工程100でのネオジム磁石の腐食が促進される。よって、腐食工程100に掛かる時間がさらに少なくて済む。
また、ネオジムの回収率も93%と高いものとなった。
【0034】
なお、本実施形態において、腐食工程100において3%食塩水を用いてネオジム磁石を腐食させたが、ネオジム磁石を腐食させることができれば食塩水の濃度はこれに限られるものではない。また、既知の腐食させる手法はいずれも採用可能であり、短時間で腐食可能な手法が有利であることは言うまでもない。
また、腐食工程100の前に粉砕工程を備えたが、これに限られるものではない。
また、イオン化工程200の塩酸の温度は室温とし、これは大きな利点であるが、昇温してもよい。
【符号の説明】
【0035】
100 腐食工程
200 イオン化工程
300 沈殿工程
400 焼成工程
図1
図2
図3
図4