特許第6544536号(P6544536)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6544536
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】タッチスイッチ
(51)【国際特許分類】
   H01H 36/00 20060101AFI20190705BHJP
【FI】
   H01H36/00 J
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-107832(P2017-107832)
(22)【出願日】2017年5月31日
(65)【公開番号】特開2018-206528(P2018-206528A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2019年2月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509154420
【氏名又は名称】株式会社NSC
(72)【発明者】
【氏名】大平 芳史
(72)【発明者】
【氏名】高木 俊祐
(72)【発明者】
【氏名】谷口 信吾
(72)【発明者】
【氏名】新美 伍郎
【審査官】 太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−145968(JP,A)
【文献】 特表2014−527271(JP,A)
【文献】 特開2014−175301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 36/00
C03C 15/00−23/00
H01H 13/00−13/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者によるタッチ操作を受け付けるタッチスイッチであって、
第1の主面側から使用者のタッチ操作を受け付けるタッチ操作領域に対応する位置に少なくとも1つ設けられた可撓性操作部を有するカバーガラスと、
前記カバーガラスの第2の主面側において、前記可撓性操作部への押圧力に応じた信号を出力するように構成された感圧センサ部と、
を少なくとも備え、
前記可撓性操作部は、第2の主面側に凹部が形成されることによって他の箇所よりも厚みが薄くなるように構成されるとともに、第1の主面および第2の主面に圧縮応力層を有しており、さらに、前記第1の主面側から前記第2の主面側に荷重が加わると変形し、前記荷重が取り除かれると元の形状に自発的に戻り、
前記感圧センサ部は、押圧により前記可撓性操作部が変形したときにのみ前記可撓性操作部から荷重が加わるように、前記可撓性操作部に対して所定の間隙を設けて配置されることを特徴とするタッチスイッチ。
【請求項2】
前記カバーガラスの第2の主面に、少なくとも前記可撓性操作部に対するタッチ操作を検出するためのタッチ電極が形成されることを特徴とする請求項1に記載のタッチスイッチ。
【請求項3】
前記可撓性操作部は、第1の主面側に形成された凸状の湾曲部をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載のタッチスイッチ。
【請求項4】
前記可撓性操作部と前記感圧センサ部との間に押圧伝達部をさらに備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のタッチスイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者からのタッチ操作を受け付けるタッチスイッチに関し、特にタッチ操作領域への押圧力を利用した操作を行うことが可能なタッチスイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タッチパネルは直感的な操作が可能になるという利点により、使用者が機器を操作する際のインターフェースとして幅広い分野に採用されている。タッチパネルは、使用者に露出する側にカバーガラスが配置されており、アイコン等が表示されているタッチ操作領域を使用者が視認しながら行うタッチ操作を受け付けるように構成されている。カバーガラスの平坦性や高い透明度によるデザイン性の向上により、従来から物理的なボタンやキーボードが用いられていた機器にも、タッチパネルへ置き換える動きが広がっている。例えば、自動車等に搭載される空調設備やオーディオ等のコントロールをするためのセンターコンソールや家電製品の搭載されている操作パネルにおいてもタッチパネルによって操作するものが存在し、スマートフォン等の携帯用電子端末では、ほとんどの操作をタッチパネルによって行うことができる。
【0003】
タッチパネルにおける操作性を向上させるために、タッチ操作以外の操作手段が検討されており、一例としては、タッチパネルを押し込む押圧力を利用したタッチパネルが開発されている。押圧力の検出は、使用者のタッチ操作による静電容量の変化を検出する押圧センサが利用されている(例えば、特許文献1参照。)。このようなセンサを利用することにより、押圧力を利用した操作と従来のタッチ操作を組み合わせることができ、タッチパネルの操作性がさらに向上するとされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6079931号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
タッチ操作と押し込みによる操作を利用することにより、タッチパネルの操作性を向上させることは可能であるが、使用者がタッチパネルを操作する際に、機器がタッチ操作を認識しているのか否かが分からない場合があった。タッチパネルは物理スイッチと比較すると、タッチ操作時に使用者の指に伝わる触感の変化がない。そのため、タッチ操作や画面を押し込む操作を行っても、実際にタッチ操作が機器に認識されているのか否かが分かりづらい。特に視覚障害者が操作する場合や、タッチ操作画面を正確に視認できないシチュエーションで操作する場合は、誤動作が発生するおそれが高かった。
【0006】
本発明の目的は、使用者からのタッチ操作を受け付けるタッチスイッチにおいて、押圧力を利用した操作を実行することが可能なタッチスイッチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るタッチスイッチは、使用者によるタッチ操作を受け付けるタッチスイッチであって、少なくともカバーガラスと感圧センサ部を備えている。カバーガラスは、第1の主面側から使用者のタッチ操作を受け付けるタッチ操作領域に対応する位置に少なくとも1つ設けられた可撓性操作部を有している。可撓性操作部は、第2の主面側に凹部が形成されることによって他の箇所よりも厚みが薄くなるように構成されるとともに、第1の主面および第2の主面に圧縮応力層を有している。さらに、第1の主面側から第2の主面側に荷重が加わると変形し、荷重が取り除かれると元の形状に自発的に戻る。感圧センサ部は、カバーガラスの第2の主面側において、可撓性操作部への押圧力に応じた信号を出力するように構成される。さらに、感圧センサ部は、押圧により可撓性操作部が変形したときにのみ可撓性操作部から荷重が加わるように、可撓性操作部に対して所定の間隙を設けて配置される。
【0008】
可撓性操作部の変形から使用者の指に伝わる感触(クリック感)により、使用者はタッチスイッチが確実にタッチ操作を認識したことを確認することができる。また、タッチスイッチが使用者により押し込まれると可撓性操作部が第2の主面側に向かって変形し、感圧センサ部と接触する。感圧センサ部としては、静電容量方式や抵抗膜式のセンサを使用することができる。感圧センサ部は、使用者からの押圧力が増大するにつれて静電容量や抵抗値が増加するように構成され、変化量から可撓性操作部に加わる押圧力を算出することができる。算出された押圧力に基づいて、あらかじめ設定された操作が実行されることによって、タッチスイッチの操作性を向上させることが可能になる。
【0009】
また、カバーガラスの第2の主面に、少なくとも可撓性操作部に対するタッチ操作を検出するためのタッチ電極が形成されることが好ましい。タッチ電極が形成されることにより、可撓性操作部への押し込み操作だけではなく、タッチ操作も検出することが可能になるので、操作性をさらに向上させることが可能になる。
【0010】
また、可撓性操作部は第1の主面側に形成された凸状の湾曲部をさらに備えることが好ましい。湾曲部を形成することにより、使用者がタッチ操作領域を視覚的または触覚的に認識することができる。湾曲部側から荷重を加えて可撓性操作部を変形させる際は、凹部により形成されたスペースに湾曲部が反転するように撓み変形する。このため、可撓性操作部が感圧センサ部と接触しやすくなり、タッチスイッチの操作性がさらに向上する。湾曲部は、第1の主面と第2の主面の圧縮応力層の形成面積の差によって形成することができる。
【0011】
また、可撓性操作部と感圧センサ部との間に押圧伝達部をさらに備えることが好ましい。押圧伝達部を介して、感圧センサ部に押圧力を伝達させることにより、可撓性操作部と感圧センサ部の離間距離の調整が容易になる。また、フィルムタイプの感圧センサを使用する場合は、可撓性操作部と接触しにくいが、押圧伝達部を介して接触させることにより、感圧センサ部の形状を限定せずにしようすることが可能になる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、使用者からのタッチ操作を受け付けるタッチスイッチにおいて、押圧力を利用した操作を実行することが可能なタッチスイッチを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るタッチスイッチが配置された携帯用電子端末を示す図である。
図2】可撓性操作部の変形の様子を示す図である。
図3】可撓性操作部への荷重と湾曲部の変位量を示すグラフである。
図4】操作領域上にタッチスイッチが形成された携帯用電子端末を示す図である。
図5】カバーガラスに形成された電極パターンを示す図である。
図6】タッチスイッチの他の実施形態を示す図である。
図7】可撓性操作部の他の実施形態を示す図である。
図8】カバーガラスの製造方法を示す図である。
図9】カバーガラスの他の製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
ここから、図面を用いて本発明の一実施形態について説明する。図1(A)は、携帯用電子端末10の外観を示す図である。携帯用電子端末10は、カバーガラス12、液晶パネル14、感圧センサ16、制御部44を少なくとも備えている。携帯用電子端末10は、操作領域18上に表示される操作画面を視認しながらタッチ操作を行うことによって所望の操作が行われる。
【0015】
カバーガラス12は、携帯用電子端末10の使用者側に露出する表面に配置されたガラス基板である。カバーガラス12は、携帯用電子端末10を衝撃等から保護するように構成された単一のガラス基板であり、使用者が携帯用電子端末10を操作する際は、カバーガラス12をタッチする。本実施形態では、カバーガラス12としてアルミノシリケートガラスを使用しているが、ガラス基板の種類に特に制限はない。また、カバーガラス12の板厚は0.3〜1.5mmが好ましい。
【0016】
携帯用電子端末10の周縁部は、操作領域18を囲むように額縁領域20が形成されている。額縁領域20は、液晶パネル14からの光漏れを防止するためにベゼルや黒色印刷層等の遮光部材が配置される。
【0017】
カバーガラス12は、第1の主面22および第2の主面24を有している。第1の主面22は使用者に対して露出する主面であり、第2の主面24は第1の主面22と対向する主面である。第1の主面22および第2の主面24はともに圧縮応力層26が形成されている。圧縮応力層26は、イオン交換法等の公知の方法によって形成されたカバーガラス12の内部領域よりも圧縮応力の大きい層である。なお、第1の主面22と第2の主面24に形成された圧縮応力層26は同一の条件下で形成されており、圧縮応力の強さや深さに実質的な差はない。
【0018】
液晶パネル14は、カバーガラス12の下部に配置されており、操作領域18上に操作画面を表示するように構成される。なお、本実施形態は、操作画面を表示するために液晶パネルを使用しているが、有機ELパネル等のフラットパネルディスプレイや操作位置を示すためのアイコン等が印刷された印刷パネルが配置されても良い。
【0019】
カバーガラス12は、額縁領域20上に円形状の可撓性操作部30を有している。可撓性操作部30は、使用者からのタッチ操作により指等で押し込まれると撓み変形し、指を離すと再び元の形状に戻るように構成される領域である。可撓性操作部30は、任意の形状を形成することが可能であるが、円形状にすることで、変形時に局所的に応力が集中することを防止することができる。可撓性操作部30は、第1の主面22側において、凸状の曲面形状を呈する湾曲部32を有している。湾曲部32が形成されることにより、使用者は視覚的または触覚的に可撓性操作部30の位置を認識することが可能である。
【0020】
可撓性操作部30の第2の主面24側には、円形状の凹部34が形成されている。凹部34は、第1の主面22側に向かって凹状に窪んだ領域である。凹部34の形状は、所望の形状を形成することが可能である。また、可撓性操作部30にアイコン等を表示する場合は、アイコンに対応する形状に凹部34を形成しても良い。凹部34は、後述するエッチング処理により形成することで、テーパ形状を含むように形成することが可能である。テーパ形状とは、凹部34の側面が所定角度以上に傾斜するように形成された状態を示す。テーパ角度としては、10〜60度が好ましい。
【0021】
凹部34を形成することにより、可撓性操作部30において、第2の主面24側における圧縮応力層形成領域の面積が第1の主面22側よりも大きくなる。この結果、第2の主面24側の方が第1の主面22側よりも圧縮応力層の総体積が大きくなり、第2の主面24側で発生する圧縮応力が第1の主面22側で発生する圧縮応力よりも大きくなる。出願人の研究によると、このように第1の主面22と第2の主面24の圧縮応力の釣り合いがとれなくなることによって、凹部34の底面が第1の主面側に凸状に湾曲し、湾曲部32が形成される蓋然性が高いことが分かっている。この際、可撓性操作部30における第1の主面22と第2の主面24の圧縮応力の差は、10〜1000MPaであることが好ましく、圧縮応力の差によって湾曲部32の曲率半径を調整することが可能である。また、凹部34側面がテーパ形状を呈するように形成することで、凹部34の表面積がより大きくなるので、第2の主面24の圧縮応力と第1の主面22の圧縮応力の差をつけやすくなる。
【0022】
感圧センサ16は、カバーガラス12と液晶パネル14に挟持されおり、可撓性操作部30に対する押圧を検出し、押圧力に応じた信号を出力するように構成される。感圧センサ16は、押圧検出部36および配線電極38を備えている。押圧検出部36は、凹部34内において、可撓性操作部30に対して所定の間隙を設けて配置されている。押圧検出部36の離間距離は、湾曲部32の頂部から0.3〜1mm程度に設定されることが好ましい。押圧検出部36は、弾性部材からなる静電容量方式の感圧センシング部である。使用者からのタッチ操作により可撓性操作部30が変形すると、押圧検出部36は、可撓性操作部30と接触するように配置される。可撓性操作部30との接触により押圧検出部36が変形すると、押圧検出部36の静電容量が変化し、変化量に応じて信号を出力するように構成される。配線電極38は、押圧検出部36と制御部44を接続する電極であり押圧検出部36から出力された信号を制御部44に送信するように構成される。配線電極38としては、FPC配線等を使用することができる。本実施形態では、感圧センサ16として朝日ラバー社の静電容量式の感圧センサを使用したが、可撓性操作部30への荷重を検出することができれば、使用するセンサに特に制限はない。
【0023】
制御部44は、変換部46およびCPU48を備えている。変換部46は、感圧センサ16から送信された信号をA/D変換するように構成される。CPU48は、変換部46で変換された信号に基づき可撓性操作部30への押圧力を算出するように構成される。また、CPU48は、可撓性操作部30への押圧力に応じて、所定の操作モードを携帯用電子端末10に指示するように構成される。
【0024】
ここから、可撓性操作部30を利用した操作の一例について説明する。可撓性操作部30は、凹部34によって周辺領域よりも板厚が薄くなっているため、使用者のタッチ操作により第1の主面22側から可撓性操作部30に荷重が加わると、図2(A)に示すように、湾曲部32が変形する。この際、湾曲部32が第2の主面22側へ反転するように撓み変形する。可撓性操作部30が好適に変形するためには、可撓性操作部30の板厚が50〜200μmになるように凹部34が形成されることが好ましい。可撓性操作部30の板厚が200μmより大きくなると、カバーガラス12の剛性により可撓性操作部30が変形しにくい。また、可撓性操作部30が50μm未満になると、カバーガラス12の強度が低下するため、タッチ操作時に破損してしまうおそれが高くなる。また、可撓性操作部30は、周辺領域よりも板厚が薄くなってしまうが、圧縮応力層26が形成されているため、変形により破損するおそれは低い。さらに、凹部34は、第2の主面24との境界部や凹部34の側面と底面の接続部が曲面形状を呈することにより、可撓性操作部30の変形時に応力が局所的に集中することが防止される。
【0025】
使用者が可撓性操作部30から指を離すと、可撓性操作部30は変形状態から元の形状に自発的に戻る(図2(B)参照。)。このため、単一のガラス基板で構成されているカバーガラス12においても、使用者は、メンブレンスイッチ等の押ボタンスイッチのようなクリック感を得ることができる。使用者は、可撓性操作部30の形状変形によりタッチ操作が認識されか否かが確認しやすくなり、携帯用電子端末10の誤操作を防止することが可能になる。
【0026】
ここで、可撓性操作部30のクリック感について説明する。図3は、可撓性操作部30をクリックしたときに可撓性操作部30に加わる荷重と湾曲部32の頂部の変位量の関係性を示すグラフである。可撓性操作部30が使用者に押し込まれ始めると、可撓性操作部30に加わる荷重に比例して、湾曲部32の変位量も増大する。しかし、変位量が約0.4mmを超えると、湾曲部32の変位量が増加しているのにもかかわらず、荷重が急激に低下する。このときに、図2(A)に示すように、湾曲部32が反転するように弾性変形する。この際、使用者は急激に荷重が低下することによるクリック感が得ることができ、可撓性操作部30がタッチ操作を認識したことを容易に確認することができる。
【0027】
可撓性操作部30が第1の主面22側から押し込まれることによって、反転した湾曲部32の頂部と押圧検出部36が接触し、押圧検出部36が変形する。この変形により、押圧検出部36の静電容量が増加する。図3に示すように、湾曲部32の変形時に一時的に荷重は減少するが、その後は使用者が押し込む荷重に比例して、可撓性操作部30の変位量は増加している。本実施形態では、湾曲部32が反転した後に押圧検出部36と接触するように間隙を設けられているため、湾曲部32の変位量に比例して、押圧検出部36の静電容量が増加する。このため、制御部44は、静電容量の変化量から可撓性操作部30に加わる荷重を容易に算出することができる。
【0028】
押圧検出部36において、静電容量の変化が生じると、配線電極38を介して制御部44に信号が出力される。制御部44は、出力された信号に基づいて可撓性操作部30への押圧力を算出し、所定の操作を実行するように構成される。感圧センサ16は、静電容量の変化に応じた信号を無段階的に出力することができるので、例えば、携帯用電子端末10の音量の調整や液晶パネル14の輝度の調整等において活用することが可能である。
【0029】
なお、上述の実施形態では、可撓性操作部30に凹凸形状が形成されている形状を用いて説明したが、本願発明はこれに限定されない。例えば、可撓性操作部30が撓み変形するためのスペースをカバーガラスの下部に形成することで、可撓性操作部は変形することができる。撓み変形するためのスペースは、例えば可撓性操作部30の周辺にスペーサーを配置することで形成される。この際、圧縮応力層は、カバーガラスが変形可能な程度に両主面に形成されている。この構成では、スペーサーによってカバーガラスの撓み量をコントロールすることができる。さらに、両主面に圧縮応力層が形成されているので、可撓性操作部が変形してもカバーガラスが破損するおそれも少ない。
【0030】
また、可撓性操作部30は、図4(A)に示すように操作領域18上にも配置することができる。本実施形態では、カバーガラス12の下部に液晶パネル14および感圧センサ161がこの順序で配置されている。感圧センサ161は、圧電フィルムの両主面に透明電極が貼り付けられたフィルム状の感圧センサであり、タッチ操作により静電容量が変化した場合に信号を出力するように構成される。感圧センサ161は透光性が高く、操作領域18の視認性を損ねるおそれはない。
【0031】
また、凹部34内に弾性部材52が充填されている。弾性部材52は、可撓性操作部30の弾性変形に応じて変形するように構成される。弾性部材52は透明材料で構成され、ポリエチレン、ポリプロピレンやシリコン系樹脂を使用することができる。また、弾性部材52は、導電性ポリマーや金属ナノ粒子を含有することにより導電性を有している。弾性部材52を配置することにより、可撓性操作部30への荷重を間接的に感圧センサ161に検出させることが可能になる。さらに、弾性部材52を配置することにより、万が一可撓性操作部30が破損した際にも、ガラス基板の飛散を防止することが可能になる。
【0032】
また、本実施形態では、図5に示すように、カバーガラス12の第2の主面24において、操作領域18へのタッチ操作を検知するための電極40およびリング状電極42が形成されている。電極40は操作領域18の平坦部へのタッチ操作を検出し、リング状電極42は、可撓性操作部30へのタッチ操作を検出するように構成される。電極40は、カバーガラス12の平坦領域にマトリクス状に形成される。電極40としては、使用者に視認されにくいITO、金属ナノワイヤ、導電性ポリマー等の透明電極を使用することが好ましい。
【0033】
リング状電極42は、凹部34の輪郭部に沿って形成される。なお、凹部34の輪郭部とは、第2の主面24から凹部34への湾曲開始点よりも外側の領域を意味する。輪郭部は、可撓性操作部30を撓み変形した際も、形状変形しないため、安定して電極を形成することができる。リング状電極42は、電極40と同じ材質の導電材料を使用することが好ましい。また、リング状電極42は、電極40よりも厚みを厚くしたり、電極の幅が広くしたりするように形成されることが好ましい。リング状電極42を厚く形成したり、電極幅を広く形成したりすることによって、可撓性操作部30におけるタッチ操作の検出精度が向上する。なお、リング状電極42は、湾曲部32により屈折率が変化するため、使用者に視認されやすくなってしまうといったデメリットもない。
【0034】
電極40およびリング状電極42は、引出配線400によってタッチ制御部441に接続されている。タッチ制御部441は、リング状電極42または電極40における静電容量の変化からタッチ位置を検出したり静電容量の変化量を計算したりすることによって、所定のプログラムを起動するように構成される。
【0035】
また本実施形態では、カバーガラスにタッチ電極を形成したが、タッチ操作用の電極を別途設けても良い。その場合は、図6(A)および図6(B)に示すように、カバーガラス12、タッチパネル60、液晶パネル14、感圧センサ161をこの順序で配置すれば良い。タッチパネル60は、操作領域18のタッチ操作を検知する電極40および可撓性操作部30のタッチ操作を検出するリング状電極42を備えている。
【0036】
リング状電極42を形成することにより、可撓性操作部30へのタッチ操作を検知することが可能になる。可撓性操作部30は、押圧センサ161による押圧操作も検出することができるので、可撓性操作部30を利用した多様な操作を実行することができる。例えば、タッチ操作を検知した後に、押し込みによる本動作を検出するといった操作モードを設定することで、誤動作を防止することが可能になる。
【0037】
ここから、図7(A)および図7(B)を用いてタッチスイッチに用いられるカバーガラスの他の実施形態について説明する。カバーガラス121は、使用者がタッチ操作を行うタッチ操作領域に可撓性操作部30を備えている。可撓性操作部30は、第1の主面22側に形成された操作用凹部50と、第2の主面24側に形成された凹部34を有している。
【0038】
操作用凹部50は、第2の主面24側に凹状に窪んだ領域であり、その底部に湾曲部32が形成されている。湾曲部32の構成は、上記実施形態と実質的に同じであるため、詳細な説明は省略する。操作用凹部50は曲面形状を含んでいることが好ましく、その側面がテーパ形状であることがさらに好ましい。また、操作用凹部50の表面積は、凹部34の表面積よりも小さくなるように形成される。操作用凹部50と凹部34が異なる表面積になるように形成されることで、第1の主面22および第2の主面24の圧縮応力の釣り合いがとれなくなる。このため、操作用凹部50の底面が凸状に湾曲し、湾曲部32が形成される。なお、本実施形態では、操作用凹部50の深さを凹部34の深さよりも浅くすることで圧縮応力の釣り合いを崩しているが、凹部34を操作用凹部50より浅く形成したり、操作用凹部50と凹部34を異なる形状に形成したりしても良い。
【0039】
カバーガラス121は、使用者がタッチ操作を行う第1の主面22に操作用凹部50が形成されているため、触覚的にタッチ操作領域がより分かりやすくなる。また、操作用凹部50は、第1の主面22との交点が曲面形状であり、さらに側面部がテーパ形状であるため、使用者がタッチ操作を行った際にも指が傷つくおそれはない。また、感圧センサ161と使用者の指との距離が近くなるため、特に抵抗膜式の感圧センサのセンシング感度を向上させることが可能になる。
【0040】
ここから、図8(A)〜図8(D)を用いてカバーガラス12の製造方法を説明する。本実施形態におけるカバーガラス12の製造方法は、保護部材形成工程、パターニング工程、エッチング工程および化学強化処理工程を含んでいる。
【0041】
保護部材形成工程では、図8(A)に示すように、ガラス基板70の主面に耐酸性を有する保護フィルム72を被覆する。ガラス基板70はアルミノシリケートガラスであり、板厚は0.3〜1.5mmであることが好ましい。保護フィルム72は、後述のエッチング処理において、ガラス基板70の主表面を保護するように構成されており、少なくともフッ酸に対する耐性を有している。また、保護フィルム以外にも感光性レジスト材等の保護材料を使用することも可能である。
【0042】
パターニング工程では、図8(B)に示すように凹部を形成すべき領域に対応する一方の主面から保護フィルム72を除去し、開口部を形成する。パターニング手段は、エッチングすべき領域から耐酸性部材を除去することができれば、どのような手段を用いても構わない。本実施形態では、レーザ装置を利用してパターニングを行っており、ガラス基板70にダメージを与えずに保護フィルム72のみを除去するためにパルスレーザを使用した。耐酸性部材として感光性レジストを使用する場合は、フォトリソグラフィを利用して、パターニングを行うことも可能である。
【0043】
エッチング工程では、ガラス基板70をエッチング液と接触させることによって開口部が形成された領域をエッチングする。ガラス基板70をエッチングする場合は、所望の搬送機構によって搬送されているガラス基板70に対してエッチング液を噴射する枚葉方式のエッチング装置やガラス基板70をエッチング液が収容されたエッチング槽に浸漬するディップ方式のエッチング装置等を使用することができる。エッチング液としては、少なくともフッ酸が含まれたエッチング液を使用することが好ましく、フッ酸の他にも塩酸等の無機酸や界面活性剤を添加しても良い。エッチング処理によって、保護フィルム72で保護されていない領域がエッチングされ、凹部34が形成される。エッチング処理は、凹部34の板厚が200μm以下になるまでエッチングすることが好ましい。
【0044】
エッチング処理によって形成される凹部34は、エッチング処理の特性により凹部34の側面がテーパ形状を呈する。テーパ形状を有する凹部は、前述のように圧縮応力層が形成される表面積が増えるため、湾曲部32が形成されやすい。また、エッチング処理によって、ガラス基板70の主面と凹部34の境界部や凹部34の側面と底面の接続部に曲面形状を形成することができる。凹部34が曲面形状を有することにより、可撓性操作部30の変形時に応力が局所的に集中することが緩和される。
【0045】
エッチングにより凹部34を形成した後に、ガラス基板70から保護フィルム72を除去する。保護フィルム72を除去する際は、物理的な力を保護フィルム72に与えることで剥離することが可能である。また、レジスト材を使用した場合は、剥離液にガラス基板70を浸漬することによって、除去することも可能である。
【0046】
化学強化処理工程は、ガラス基板70に圧縮応力層26を形成する工程である。化学強化処理は、アルカリイオンを含む溶融塩にガラス基板を浸漬することによる公知の方法によって行われる。本実施形態では、400℃に加熱した硝酸カリウム溶液にガラス基板を4時間浸漬することによって化学強化処理を行った。なお、硝酸カリウムの加熱温度は、350〜450℃に調整されることが好ましく、ガラス基板の浸漬時間は、2〜20時間程度が好ましい。圧縮応力層26の深さとしては、5〜50μmに調整されることが好ましい。また、第1の主面22と第2の主面24は同条件で化学強化処理が行われており、圧縮応力層26の深さは実質的に同一である。
【0047】
圧縮応力層26が形成されることによって、両主面における圧縮応力の総体積差によって凹部34と対向する領域が凸状に湾曲し、湾曲部32が形成される。なお、電極40およびリング状電極42は、化学強化処理工程が完了した後の任意のタイミングで形成することができる。また、大判のガラス基板70に複数のカバーガラスを面取りした状態で製造する場合は、電極を形成した後に所望の形状に分断すれば良い。
【0048】
また、第1の主面22に操作用凹部50を形成する際には、第2の主面24に凹部34を形成した後に、ガラス基板70を再び保護フィルム72で保護する(図9(A)参照。)。さらに、図9(B)に示すように、第1の主面22側の保護フィルム72をパターニングすることで操作用凹部50を形成する領域に開口部を形成する。その後、エッチング処理で操作用凹部50を形成した後に化学強化処理を行うことによって、両主面に凹部が形成されたカバーガラスを製造することができる。なお、本実施形態では、操作用凹部50の深さを凹部34の深さよりも浅く形成することで、操作用凹部50の底面に湾曲部32が形成されている。
【0049】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0050】
10‐携帯用電子端末
12‐カバーガラス
14‐液晶パネル
16‐感圧センサ
18‐操作領域
20‐額縁領域
22‐第1の主面
24‐第2の主面
26‐圧縮応力層
30‐可撓性操作部
32‐湾曲部
34‐凹部
36‐感圧検出部
38‐配線電極
40‐電極
42‐リング状電極
50‐操作用凹部
52‐弾性部材
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図9