(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、前記スプレードライ法以外の方法で調製された、少なくともラクトースを含む第二の模擬粉体が混合されたことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の模擬粉体。
【背景技術】
【0002】
高薬理活性医薬品とは、抗がん剤やホルモン剤に代表される、少量で人体に強い薬効作用を与える医薬品である。例えば、1μg/m
3以下の気中濃度で人体に何らかの生理活性作用をもたらす高薬理活性医薬品もある。このような医薬品の取扱い施設においては、製品の品質管理(コンタミネーション防止)、作業者の健康被害の防止、環境汚染の防止の観点から、製造装置と設備における医薬品粉体の飛散防止(医薬品粉体の封じ込め)対策が重要である。一般には、アイソレータ等の物理的に囲われた封じ込め装置内で作業が行われる。しかしながら、医薬品製造のコストダウンや柔軟な生産体制が求められており、クリーンブースのようなセミオープンな設備(半密閉設備)において医薬品粉体を取り扱うニーズも高い。
【0003】
製造・研究開発の現場では、医薬品粉体の飛散性を把握し、現場環境での封じ込め状態を測定して解析する技術が不可欠である。そして、医薬品粉体が現場環境に飛散した場合の飛散性評価や封じ込め評価(医薬品粉体の飛散状態評価)を行う際に、薬理活性の高い医薬品そのものを使用すると、皮膚への付着や吸引などによって作業者に悪影響が及ぶことが懸念される。このため、医薬品粉体を使用する代わりに、安全性の高い模擬粉体を使用して、その飛散状態を評価することが多い。
【0004】
非特許文献1では、模擬粉体としてラクトース(乳糖)の粉体を用いるSMEPAC法(The Standardized Measurement of Equipment Particulate Airborne Concentration法)が推奨されている。ここで使用されるラクトースは、製薬の賦形剤として用いられる物質であり、人体に無害であり、水に溶けやすく、安定性が良好であるため汎用されている。しかし、測定対象の施設内に飛散させたラクトース粉体を定量分析するためには、高価で大がかりな装置と煩雑な作業が必要である。具体的には、フィルターや拭き取りにより、測定対象施設内に飛散したラクトース粉体のサンプリングを行い、これを分析施設に搬送して、高速液体クロマトグラフやイオンクロマトグラフ等の装置で分析・評価することが行われている。このため、結果を得るまでに数日から1週間程度を要する場合も多く、測定対象の施設内で短時間に評価を行うことが困難である。
【0005】
特許文献1には、粉体の飛散状態評価を行うにあたり、特定粒径のアデノシン5’−三リン酸(ATP)粉体を模擬粉体として利用する発明が開示されている。この発明では、測定対象の施設内にサンプリング用のシートを設置し、ATP粉体を飛散させて、シートに付着したATP粉体を定量分析する。ATP粉体の定量分析には、現場に持ち込み可能な検出装置を用いて行うことができるため、その場で評価結果を得ることができる。簡易な装置で高感度に定量できるATP粉体を模擬粉体として用いることにより、定量測定にかかる手間と時間は改善されつつある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
模擬粉体を使用して、医薬品の生産現場における医薬品粉体の飛散性をシミュレーションし、その模擬粉体の飛散状態から医薬品粉体の飛散状態を推定する評価方法において、模擬粉体と実際の医薬品粉体の飛散性が極力近しいことが求められている。
しかしながら、飛散した模擬粉体を迅速に検出するためのATPや蛍光物質などのトレーサー物質を含む従来の模擬粉体は、飛散性が医薬品粉体とは多少異なるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、必要に応じて高い発塵性を示し、医薬品粉体に近い飛散性を示すことが可能な模擬粉体、及びその模擬粉体を使用した粉体の飛散状態を評価する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[1] 粉体の飛散状態を評価するために前記粉体の替わりに使用する模擬粉体であって、ラクトース及びトレーサー物質を含む原料液体をスプレードライ法により粉体化して得られたことを特徴とする模擬粉体。前記粉体は医薬品粉体であることが好ましい。
[2] 前記模擬粉体を構成する微粒子の少なくとも表面が多孔性であることを特徴とする上記[1]に記載の模擬粉体。
[3] 前記模擬粉体を構成する微粒子の粒径が0.5μm〜30μmであることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の模擬粉体。
[4] 前記トレーサー物質として、蛍光物質、ATP及びATP誘導体のうち少なくとも何れか一つを含むことを特徴とする上記[1]〜[3]の何れか一項に記載の模擬粉体。
[5] さらに、前記スプレードライ法以外の方法で調製された、少なくともラクトースを含む第二の模擬粉体が混合されたことを特徴とする上記[1]〜[4]の何れか一項に記載の模擬粉体。
[6] 粉体の替わりに模擬粉体を使用して前記粉体の飛散状態を評価する粉体飛散状態評価方法であって、評価対象の空間中に上記[1]〜[5]の何れか一項に記載の模擬粉体を飛散させるステップと、前記空間の所定位置に飛散した前記模擬粉体を回収するステップと、回収した前記模擬粉体を定量的又は定性的に分析するステップと、を有することを特徴とする粉体飛散状態評価方法。前記粉体は医薬品粉体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の模擬粉体によれば、高薬理活性医薬品等の粉体に替えて評価対象の空間中に飛散させる工程において、ラクトース及びトレーサー物質の微細な粉塵が発生し、実施の医薬品粉体に近しい飛散性を示し得る。その飛散状態を評価することにより、実際の医薬品粉体の飛散性を高精度にシミュレーションすることができる。
【0012】
本発明の模擬粉体はラクトース及びトレーサー物質を含むため、回収(サンプリング)した単一試料中の模擬粉体を二つの方法で分析することができる。第一の分析方法は、模擬粉体に含まれる前記トレーサー物質を高感度に検出して分析する方法であり、第二の定量方法は、従来のSMEPAC法によって模擬粉体を構成するラクトースを分析する方法である。これら二つの方法で分析することによって、信頼性の高い結果を得ることができる。また、第一の分析方法は、現場に持ち込み可能な簡易装置で高感度に実施することができるので、測定現場で迅速に、模擬粉体(粉体)の飛散性及び/又は封じ込め性を評価することができる。
【0013】
本発明の模擬粉体をスプレードライ法によって製造することによって、ラクトース及びトレーサー物質を含む略球状の多孔性微粒子からなる粉体が容易に得られる。このような多孔性の表面を有する微粒子からなる粉体は、発塵性に優れ、医薬品粉体から発生する粉塵を容易に模擬することができる。
【0014】
本発明の粉体飛散状態評価方法によれば、前述の模擬粉体を用いることにより、評価対象の空間中に飛散させた模擬粉体に含まれるトレーサー物質を優れた感度で検出し、定量的又は定性的に分析することができる。この結果、粉体の飛散状態の評価結果を迅速に得ることが可能である。また、模擬粉体に含まれるラクトースをSMEPAC法で分析した結果と、前記トレーサー物質による分析結果を相互に参照することにより、より信頼性の高いデータを得ることができる。
また、粉体取扱い施設が備える空間において、粉体が飛散した場合の飛散状態や封じ込め状態を評価することにより、所定の基準を満たすことを確認し、その粉体取扱い施設が粉体を取り扱うことに適しているか否かを判断することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
《模擬粉体》
本発明の模擬粉体の第一実施形態は、粉体(以下、「対象粉体」という)の飛散状態を評価するために対象粉体の替わりに使用する模擬粉体であって、ラクトースとトレーサー物質とを含む原料液体をスプレードライ法により粉体化して得られた模擬粉体である。
【0017】
模擬粉体は、例えば、医薬品の製造施設や研究開発施設などの高薬理活性を有する対象粉体の取扱い施設において、この対象粉体が飛散した際の飛散性や封じ込め性などの対象粉体の飛散状態を評価する目的で用いられる。また、高薬理活性医薬品の粉体に限らず、あらゆる対象粉体の飛散状態を評価するために適用可能である。
【0018】
模擬粉体を構成する微粒子は多孔性(多孔質)であることが好ましい。微粒子のうち、少なくともその表面が多孔性であることが好ましく、その内部も多孔性であることがより好ましい。ここで、微粒子表面が多孔性である場合は、
図1の電子顕微鏡写真に示す様に、表面が鱗状である場合を含む。
模擬粉体を構成する多孔性の微粒子同士が擦れ合うことにより、微粒子表面から微細な薄片が剥がれ、微細な粉塵を発生し易くなり、発塵性が高まる。また、模擬粉体の内部が多孔性であり、粒子内部に微細な空隙が多数存在すると、模擬粉体が軽く、空間中に舞い上がり易くなるため、さらに発塵性が高まる。
【0019】
模擬粉体を構成する微粒子が多孔質である場合、その空隙率によって飛散性が影響されるため、模擬粉体と実際の対象粉体との空隙率を近くすることが好ましい。
【0020】
模擬粉体の全質量に対するラクトースの含有量は特に制限されないが、模擬粉体を一般的な医薬品粉体(対象粉体)の飛散性に類似させることが容易である観点から、その含有量は、50〜99.9質量%であることが好ましい。
【0021】
模擬粉体を構成するトレーサー物質は、飛散した模擬粉体の検出に有用な物質であり、例えば、蛍光物質、アデノシン5’−三リン酸(ATP)、ATP誘導体等が挙げられる。
模擬粉体に含まれるトレーサー物質は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0022】
前記トレーサー物質としてのATPの誘導体としては、例えばアデノシン5’−二リン酸(ADP)、アデノシン5’−一リン酸(AMP)、環状アデノシン一リン酸(cAMP)、等が挙げられる。これらのATP誘導体は、生物発光法によってATPと同様に高感度で検出することができる。
【0023】
前記トレーサー物質として含まれる蛍光物質の種類は特に限定されず、例えば、微粒子中に均一に分散し易い観点から、水溶性の蛍光物質が好ましい。水溶性の蛍光物質としては、人体に無害なリボフラビンが好ましい。
【0024】
模擬粉体の全質量に対するトレーサー物質の含有量は特に限定されず、模擬粉体を一般的な医薬品粉体(対象粉体)の飛散性に類似させることが容易である観点から、模擬粉体の全質量に対して、その含有量は、0.001〜50質量%であることが好ましく、0.01〜25質量%であることがより好ましく、0.1〜10質量%であることがさらに好ましい。
【0025】
模擬粉体を構成するラクトースとトレーサー物質の含有割合は、ラクトース又はトレーサー物質の定量を阻害しない範囲であれば特に限定されず、例えば、ラクトース100質量部に対して、トレーサー物質の含有量は0.001〜1重量部であることが好ましい。この範囲であると、ラクトースとトレーサー物質とが互いに干渉することなく、高精度に定量分析することができる。
【0026】
模擬粉体を構成する単一の微粒子において、
図2に示す様にラクトースとトレーサー物質とが均一に分散していてもよいし、ある程度の偏りをもって分散していてもよい。
【0027】
模擬粉体には、ラクトース及びトレーサー物質以外の任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、例えば、デンプン、デキストリン、サッカロース、グルコース等のラクトース以外の糖類が挙げられる。
また、任意成分としてバインダーを含んでいても良い。バインダーを含有すると、模擬粉体を構成する微粒子の構造的強度を高めることができる。バインダーの具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン糊、等が挙げられる。
【0028】
模擬粉体を構成する微粒子の粒径は特に限定されず、例えば0.01μm〜500μmが好ましく、0.1μm〜100μmがより好ましく、0.5μm〜30μmがさらに好ましい。模擬粉体の粒径が上記範囲であると、一般的な医薬品製造施設等で使用される対象粉体の粒径を模して、当該対象粉体の飛散状態をより精度良く評価することができる。ここで示す粒径は、一次粒径であってもよいし、二次粒径であってもよい。
【0029】
模擬粉体を構成する微粒子の粒径は、レーザー散乱式粒度分布測定装置により求めた体積基準平均径として求められる。
【0030】
模擬粉体の粒度分布は特に限定されず、実際の対象粉体の粒度分布に合わせて適宜調整すればよい。例えば、分級によって模擬粉体の粒度分布を調整することができる。粒度分布幅の広い模擬粉体を分級することによって、その粒度分布幅を狭くしてもよい。逆に、粒度分布幅の狭い模擬粉体を複数混合し、粒度分布幅の広い模擬粉体を調製してもよい。
【0031】
模擬粉体の粒径、形状、密度等の物性は、医薬品粉体等の実際の粉体に近いことが好ましい。また、模擬粉体の物性は、従来のSMEPAC法に使用されるラクトース粉体を構成する粒子の物性と同等であることが好ましい。
【0032】
模擬粉体を構成する微粒子の形状は特に限定されず、例えば、種々の多面体、球体又は楕円回転体に近似可能な形状が挙げられる。
模擬粉体を構成する微粒子の密度は特に限定されず、実際の対象粉体の密度と同程度になるように適宜調整すればよい。
【0033】
模擬粉体の密度によってその飛散性が影響されるため、模擬粉体と実際の対象粉体との密度を近くすることが好ましい。
【0034】
本実施形態の模擬粉体には、スプレードライ法以外の方法で調製された、少なくともラクトースを含む第二の模擬粉体が混合されていてもよい。通常、第二の模擬粉体は、スプレードライ法で調製された前述の模擬粉体(第一の模擬粉体)とは異なる発塵性を示し得る。異なる発塵性を示す第二の模擬粉体を第一の模擬粉体に混合することによって、混合された模擬粉体の発塵性を所望に調整することができる。例えば、第一の模擬粉体を単独で使用するとその発塵性が所望よりも高くなる場合、より低い発塵性を示す第二の模擬粉体を混合して使用することにより、混合された模擬粉体全体としての発塵性を適度に低くなる様に調整することができる。
【0035】
第一の模擬粉体と第二の模擬粉体とを混合する混合比は特に限定されず、例えば体積基準で(第一の模擬粉体/第二の模擬粉体)=0.1〜10の範囲で適宜調整することができる。
第一の模擬粉体と第二の模擬粉体を混合する場合、第一の模擬粉体は1種類又は2種類以上が混合されてもよく、第二の模擬粉体は1種類又は2種類以上が混合されてもよい。
【0036】
《第一の模擬粉体の製造方法》
ラクトースとトレーサー物質とを含む原料液体をスプレードライ法で粉体化することにより、ラクトース及びトレーサー物質を含み、表面及び内部が多孔性の微粒子からなる第一実施形態の模擬粉体を得ることができる。
【0037】
スプレードライ法に供する原料液体は、ラクトース及びトレーサー物質に加えて、溶媒を含むことが好ましい。溶媒の種類は特に限定されず、ラクトース及びトレーサー物質を溶解又は均一に分散する溶媒であることが好ましく、水系溶媒、有機系溶媒の何れであってもよい。水系溶媒としては精製水が好ましい。
【0038】
原料液体の全質量に対するラクトースの含有量は、1〜30質量%が好ましく、3〜20質量%がより好ましい。
原料液体の全質量に対するトレーサー物質の含有量は、0.01〜1質量%が好ましい。
原料液体の全質量に対する任意成分の含有量は、0〜20質量%が好ましく、0〜10質量%がより好ましい。
【0039】
スプレードライ法による粉体の製造は、公知のスプレードライヤーを使用して実施することができる。スプレードライヤー(噴霧乾燥機)は微粒化した液滴に熱風を接触させ、瞬時に乾燥し、粉体を得る装置である。乾燥後の微粒子の大きさは例えば1μmから数十μmに調節することが可能である。スプレードライ法によって得られる粉体を構成する微粒子は、小さな一次粒子(微細片)が凝集した球状となり易く、スプレードライ法以外の方法によって得られる微粒子と比較して、表面の隙間が多く、空隙率が40%程度になることもある。
【0040】
スプレードライ法の方式は特に限定されず、公知のロータリーアトマイザー方式、ディスク方式、ノズル方式が適用可能であり、これらのうち、より小径の粒子が容易に得られるノズル方式が好ましい。ノズル方式で粉体化して得られた模擬粉体を構成する微粒子の電子顕微鏡写真の一例を
図1に示す。
【0041】
《第二の模擬粉体の製造方法》
第一の模擬粉体に混合して使用することが可能な第二の模擬粉体は、スプレードライ法以外の方法で調製された粉体であれば特に限定されず、例えば、以下の複合化方法で製造された複合化粒子からなる粉体が挙げられる。これらの複合化方法によって、第一の模擬粉体よりも低い発塵性を示す第二の模擬粉体を製造することができる。
【0042】
<第一の複合化方法>
第一の複合化方法は、トレーサー物質が、ラクトースからなる核粒子の表面に層(コーティング層)を形成してなる、又はトレーサー物質が、ラクトースからなる核粒子の内部に含浸されてなる、複合化粒子の製造方法である。ここで、ラクトースからなる核粒子の製造方法は特に限定されず、公知の粉体製造方法が適用可能であり、スプレードライ法であってもよいし、スプレードライ法以外の方法であってもよい。
【0043】
第一の複合化方法においては、まず、核粒子と、トレーサー物質が所定の濃度で溶解された溶液とを準備し、その溶液を核粒子の表面に均一に塗布する。塗布方法は特に制限されず、粒子と前記溶液とを混合する公知の方法が適用できる。次に、核粒子に塗布された前記溶液の溶媒を除去して、核粒子の表面に前記溶液の溶質であるトレーサー物質を残留させることによって、目的の複合化粒子を得ることができる。この際、核粒子の内部に前記溶液を含浸させることにより、核粒子の内部にもトレーサー物質を配置することができる。前記溶液の塗布と前記溶媒の除去を行う装置として、例えば、パン・コーティング装置、転動コーティング装置、流動層コーティング装置が挙げられる。これらの装置を用いることにより、核粒子の表面にトレーサー物質を均一に被覆(コーティング)することができる。
【0044】
<第二の複合化方法>
第二の複合化方法は、トレーサー物質からなる粒子(子粒子)が、ラクトースからなる核粒子(母粒子)に付着してなる複合化粒子の製造方法であって、母粒子の表面に子粒子を比較的強く付着させることが可能な乾式粒子複合化技術を適用する方法である。この技術によれば、高速気流中に分散させた母粒子と子粒子とを互いに衝突させて、主にその衝突時の衝撃力により母粒子と子粒子とを乾式で固着(固定)し、母粒子の表面の全部又は少なくとも一部を子粒子で被覆することができる。この方法は母粒子の表面を子粒子によって表面改質して複合化する方法である、と言い換えることができる。ここで、トレーサー物質からなる子粒子の製造方法は特に限定されず、公知の粉体製造方法が適用可能であり、スプレードライ法であってもよいし、スプレードライ法以外の方法であってもよい。
【0045】
乾式粒子複合化技術を用いれば、衝突時の条件を適宜調整することにより、母粒子の表面に子粒子からなる膜を成膜することも可能である。この成膜時には、衝突前の子粒子の形状を維持させることもできるし、衝突エネルギーによって子粒子の形状を変形させることもできる。基本的には、衝突後(複合化後)においても、衝突前の母粒子の形状及び粒子径を維持させることができる。
【0046】
乾式粒子複合化技術による複合化粒子の形成において、母粒子と子粒子を衝突させるチャンバーを冷却し、チャンバー内を窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気にすることにより、子粒子を構成する前記化合物の熱分解や酸化分解を抑制し、複合化粒子の検出感度が損なわれることを防止できる。このような複合化方法は、公知の装置、例えば奈良機械製作所製のハイブリダイザーを使用して行うことができる。
【0047】
《粉体飛散状態評価方法》
本発明の粉体飛散状態評価方法の第一実施形態は、対象粉体の代わりに模擬粉体を用いて、対象粉体の飛散状態を評価する粉体飛散状態評価方法であって、評価対象の空間中に模擬粉体を飛散させるステップ(粉体飛散ステップ)と、空間の所定位置で飛散した模擬粉体を回収するステップ(回収ステップ)と、回収した模擬粉体を定量的又は定性的に分析するステップ(分析ステップ)と、を有する。
本実施形態の粉体飛散状態評価方法は、粉体飛散ステップ、回収ステップ及び分析ステップ以外の他のステップ、例えば、模擬粉体の飛散状態を評価するステップ(評価ステップ)を有していてもよい。この評価ステップは公知の方法が適用可能である。
【0048】
粉体飛散ステップにおいて模擬粉体を飛散させる方法は特に制限されず、例えば模擬粉体をロータリードラムに入れて回転させることによって模擬粉体を飛散させる方法、ホッパーから模擬粉体を放出し、更にエアブローを吹き付ける方法等の公知の方法が適用できる。模擬粉体を飛散させる方法は、評価対象の空間の大きさや形態に応じて適宜選択すればよい。
【0049】
以下に、回収ステップ及び分析ステップについて、具体的に二つの方法を説明する。
【0050】
<模擬粉体を回収し、分析する第一の方法>
評価対象の空間に飛散させた模擬粉体は、通常数分〜数時間の間、評価対象の空間中に浮遊している。空間中の空気(気体)をフィルターが備えられた捕集器に導いて、このフィルターで空間中に浮遊している模擬粉体を捕集することができる。
捕集後にフィルターを例えば精製水やアルコール等で洗浄することにより、捕集した模擬粉体を洗浄液中に溶解させることができる。この洗浄液中に含まれる蛍光物質やATP等のトレーサー物質の量又はその有無を公知の方法で定量又は検出することにより、捕集位置に浮遊していた模擬粉体を定量的に又は定性的に分析することができる。さらに、洗浄液中にはトレーサー物質と正の相関を示す量のラクトースが溶解しているので、SMEPAC法又はそれに準じた液体クロマトグラフィー(HPLC)によって洗浄液中のラクトース量を定量すれば、さらに信頼性の高い結果が得られる。
【0051】
この第一の方法で使用する捕集器としては、上述のフィルターを備えた捕集器に替えて、模擬粉体を溶解可能な溶媒が入ったインピンジャーを捕集器として使用してもよい。
【0052】
<模擬粉体を回収し、分析する第二の方法>
評価対象の空間に飛散させた模擬粉体は、通常数分〜数時間の間、評価対象の空間中に浮遊している。この模擬粉体が落下するのを待ち、その後、評価対象の空間を構成する地面や壁又は前記空間に設置された机等に付着した模擬粉体を定量する。この場合、予めサンプリング用のシートを評価対象の空間の壁等に設定しておき、そのシートに落下した模擬粉体を捕集し、この模擬粉体を適当な溶媒に溶解した溶液を調製し、この溶液中のトレーサー物質を公知の方法で定量的に又は定性的に分析することにより、捕集位置に落下した模擬粉体を定量又は定性分析することができる。さらに、前記溶液中にはトレーサー物質の量と正の相関を示す量のラクトースが溶解しているので、SMEPAC法又はそれに準じた液体クロマトグラフィーによって前記溶液中のラクトース量を定量すれば、さらに信頼性の高い結果が得られる。
【0053】
検出した模擬粉体を定量的又は定性的に分析することにより、評価対象の空間における模擬粉体の飛散状態を評価することができる。評価対象の空間で取り扱う実際の対象粉体の飛散性と模擬粉体の飛散性が類似していることを前提として、模擬粉体の飛散状態から実際の対象粉体の飛散状態を知り、その飛散状態を評価することができる。
【0054】
本実施形態の粉体飛散状態評価方法により、評価対象の空間(第一空間)に隣接する空間(第二空間)に、模擬粒子が拡散しているか(漏出しているか)を評価してもよい。第一空間および第二空間に前記捕集器又は前記サンプリング用シートを設置し、第一空間と第二空間における前記模擬粉体の量又は有無をモニターし、第二空間で検出された模擬粉体の量が、想定範囲内であるか否かを評価することができる。第二空間において模擬粉体が検出されない又は検出量が所定値よりも低ければ、第一空間における模擬粉体の封じ込め性が良好であると判断できる。
【0055】
<トレーサー物質の測定方法>
分析試料中のトレーサー物質の定量方法は特に限定されず、公知の方法が適用できる。
トレーサー物質としてATP又はATP誘導体を含有する模擬粉体を定量的又は定性的に測定する方法としては、例えば特許文献1に記載されたルシフェラーゼを使用する方法が挙げられる。ルシフェラーゼは分析試料中のATP又はATP誘導体を利用して、発光物質であるルシフェリンが光を放つ化学反応(発光反応)を触媒する酵素の総称である。一般に、その発光量は分析試料中のトレーサー物質としてのATP又はATP誘導体の量に正の相関を示す。予め検量線を準備しておき、ルシフェラーゼと分析試料を混合して、その発光量を測定することによって、分析試料中のトレーサー物質の量を正確に測定することができる。
トレーサー物質として蛍光物質を含有する模擬粉体を定量的又は定性的に測定する方法としては、例えば、非特許文献(ファームテクジャパン、Vol.30, No.6, pp.93-97 (2014) “高活性医薬品の封じ込め性能をリアルタイム評価_蛍光化薬塵モニタリングシステムの開発”)に記載の様に、公知の蛍光粒子検出装置を使用する方法が挙げられる。
【0056】
本実施形態の粉体飛散状態評価方法は、粉体を取り扱う空間を備えた公知の粉体取扱い施設に適用可能であり、前記空間の大きさは特に限定されない。具体的な粉体取扱い施設としては、例えば、医薬品製造工場における粉体取扱い室、粉体取扱いブース、クリーンブース、グローブボックス、粉体保管室等が挙げられる。
【0057】
薬理活性の特に高い医薬品の許容曝露管理量(OEL:Occupational Exposure Limits)は通例1μg/m
3以下とされている。本実施形態の模擬粉体の飛散状態評価方法は、このような高薬理活性医薬品を対象とした施設(装置、設備)の評価に適用できる。
【0058】
以上で説明した各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。