特許第6544737号(P6544737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6544737バイオマーカーによるうつ病の検査方法及び検査キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6544737
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】バイオマーカーによるうつ病の検査方法及び検査キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20190705BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20190705BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20190705BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20190705BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20190705BHJP
【FI】
   C12Q1/6851 ZZNA
   G01N33/53 D
   G01N37/00 102
   G01N33/543 501A
   !C12N15/09 Z
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-116815(P2015-116815)
(22)【出願日】2015年6月9日
(65)【公開番号】特開2017-63(P2017-63A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年6月4日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度 文部科学省科学技術試験研究委託事業「うつ病の異種性に対応したストレス脆弱性バイオマーカーの同定と分子病態生理の解明」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(72)【発明者】
【氏名】福田 正人
(72)【発明者】
【氏名】三國 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】宮田 茂雄
【審査官】 松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−253258(JP,A)
【文献】 特開2005−312435(JP,A)
【文献】 特開2004−208547(JP,A)
【文献】 特開2010−185831(JP,A)
【文献】 日本生物学的精神医学会誌, 2014, Vol.25, No.2, p.79-84
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/6851
G01N 33/53
G01N 37/00
G01N 33/543
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
UniProt/GeneSeq
GeneCards
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検動物より採取された試料中のIGHA1、THEM4及びTNFRSF25からなる群より選ばれる1種又は2種以上のマーカーの発現量を測定する工程を含み、当該マーカーの発現量を基準値と比較することにより被検動物のうつ病の発症の有無が判定される、該動物におけるうつ病の診断のための検査方法。
【請求項2】
前記マーカーが、IGHA1、THEM4及びTNFRSF25である、請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
さらに、ANKRD35、CLEC3B、FAM26F、NRG1、UTS2、CCDC64、GPR15、GSTM2、IGLV6−57、PDGFB、PRKAR1B、SLC34A1、AIG1、TMX1、ATN1、CD27、CD3E、LZTS2からなる群より選ばれる1種又は2種以上のマーカーの発現量を測定する工程を含む、請求項1又は2に記載の検査方法。
【請求項4】
さらに、ANKRD35、CLEC3B、FAM26F、NRG1、UTS2、CCDC64、GPR15、GSTM2、IGLV6−57、PDGFB、PRKAR1B、SLC34A1、AIG1、TMX1、ATN1、CD27、CD3E、及びLZTS2の発現量を測定する工程を含む、請求項1又は2に記載の検査方法。
【請求項5】
前記試料は、血液である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項6】
前記測定が、マイクロアレイ、リアルタイムPCR、ELISA法、ウエスタンブロット法、FACS解析法、分光光度法、蛍光光度法、質量分析法、及びクロマトグラフィーからなる群より選ばれる1種又は2種以上により行われる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の検査方法。
【請求項7】
IGHA1、THEM4及びTNFRSF25からなる群より選ばれる1種又は2種以上のマーカーの発現量を測定し得る試薬を含んでなる、うつ病の診断のための検査用キット。
【請求項8】
前記マーカーが、IGHA1、THEM4及びTNFRSF25である、請求項7に記載の検査用キット。
【請求項9】
さらに、ANKRD35、CLEC3B、FAM26F、NRG1、UTS2、CCDC64、GPR15、GSTM2、IGLV6−57、PDGFB、PRKAR1B、SLC34A1、AIG1、TMX1、ATN1、CD27、CD3E、LZTS2からなる群より選ばれる1種又は2種以上のマーカーの発現量を測定し得る試薬を含んでなる、請求項7又は8に記載の検査用キット。
【請求項10】
さらに、ANKRD35、CLEC3B、FAM26F、NRG1、UTS2、CCDC64、GPR15、GSTM2、IGLV6−57、PDGFB、PRKAR1B、SLC34A1、AIG1、TMX1、ATN1、CD27、CD3E、及びLZTS2の発現量を測定し得る試薬を含んでなる、請求項7又は8に記載の検査用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、うつ病の診断のための検査方法及びうつ病の診断のための検査用キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
うつ病とは、米国精神医学会の基準であるDSM−Vによれば、ほとんど一日中の抑うつ気分、興味や喜びの著しい減退、易疲労感、気力の減退等の症状が、2週間存在する疾患であるとされている。上記のような抑うつ症状には、日常生活においてストレスを感じる人間であれば、誰でも陥り得る。そして、そのような症状があるときには、自分はうつ病ではないかと不安になるものである。しかし、そのような症状は、ストレスの原因が解消されたり、趣味の時間を楽しんだり、または時間の経過により忘れていったりして解消され、一時的なもので終わることが多い。2週間程度の長期に渡りその症状が継続しなければ、うつ病であるとの診断はなされない。このように、うつ病と抑うつ症状とは混同されがちであるが、抑うつ症状があればうつ病であるというわけではない。
【0003】
実際、抑うつ症状をきたす疾患は、うつ病以外にもいくつか存在する。統合失調症、認知症、摂食障害、脳梗塞等が、その例として挙げられる。そのため、抑うつ症状が重い患者であっても、うつ病ではない可能性があるため、抑うつ症状の原因が何かを的確に診断することは、原因疾患を早期に治療する上で重要である。また、抑うつ症状が比較的軽い患者は、診断が困難である。うつ病の診断は、問診から得られる患者の主観的情報に基づいて行われており、診察時点での抑うつ症状の重症度に左右されやすいためである。そのため、抑うつ症状の重症度に左右されずに、客観的にうつ病発症の有無を検査できる方法が切望されていた。
【0004】
うつ病の客観的指標を求めて、本発明者らはこれまでに、被検者におけるCIDEC等のマーカーの発現を定量することで、抑うつ症状の有無や重症度を客観的に評価できる指標を発見した(特願2014−025568)。
【0005】
また、うつ病の客観的指標として、PETやNIRSなどによる脳画像診断が補助的に使われ始めている。しかし、それらを利用できる医療施設は限られている上、施設間バイアスがあるため、統一的な評価法の確立には至っていない。
【0006】
他にも、うつ病を客観的に評価する方法として、特許文献1には、被験者の末梢血由来のメッセンジャーRNAより、アポトーシス関連遺伝子、ATPase関連遺伝子、細胞周期関連遺伝子、サイトカイン関連遺伝子、熱ショックタンパク質関連遺伝子、ポリメラーゼ関連遺伝子、GTP結合タンパク質関連遺伝子、プロテインキナーゼC関連遺伝子、及びミトコンドリアチトクロームCオキシダーゼ関連遺伝子から選ばれる少なくとも1種類以上の遺伝子の発現量をDNAチップにより解析し、前記解析結果を基に被験者の病状を評価することを特徴とするうつ病の評価方法が、記載されている。また、特許文献2には、FASLG、CX3CR1、TBX21、ID2、SLAMF7、PRSS23、YWHAQ、TARDBP、ADRB2、PPP1R8、MMAA、SQLE、PDHA1、HAVCR2、RACGAP1、AHNAK、EDG8、およびDUSP5の18遺伝子の発現量を測定し、前記測定結果に基づき当該被験者がうつ病に罹患しているか否かを判定することを特徴とするうつ病の検査方法が、記載されている。しかし、これらの中で臨床応用されているものは皆無である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−208547号公報
【特許文献2】特開2008−253258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑み、患者の血液等の試料を用いて、客観的なうつ病診断のための検査方法、及び当該検査に使用する検査用キットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、健常者群と比較して、うつ病患者群およびうつ病寛解群において有意に発現変動した遺伝子を探索し、それら遺伝子が、抑うつ症状の重症度に左右されずにうつ病発症の有無を客観的に判定できる有用なマーカーとなることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
[1]被検動物より採取された試料中のIGHA1、THEM4及びTNFRSF25からなる群より選ばれる1種又は2種以上のマーカーの発現量を測定する工程を含み、当該マーカーの発現量を基準値と比較することにより被検動物のうつ病の発症の有無が判定される、該動物におけるうつ病の診断のための検査方法。
[2]前記マーカーが、IGHA1、THEM4及びTNFRSF25である、[1]に記載の検査方法。
[3]さらに、ANKRD35、CLEC3B、FAM26F、NRG1、UTS2、CCDC64、GPR15、GSTM2、IGLV6−57、PDGFB、PRKAR1B、SLC34A1、AIG1、TMX1、ATN1、CD27、CD3E、LZTS2からなる群より選ばれる1種又は2種以上のマーカーの発現量を測定する工程を含む、[1]又は[2]に記載の検査方法。
[4]さらに、ANKRD35、CLEC3B、FAM26F、NRG1、UTS2、CCDC64、GPR15、GSTM2、IGLV6−57、PDGFB、PRKAR1B、SLC34A1、AIG1、TMX1、ATN1、CD27、CD3E、及びLZTS2の発現量を測定する工程を含む、[1]又は[2]に記載の検査方法。
[5]前記試料は、血液である、[1]〜[4]のいずれか一に記載の検査方法。
[6]前記測定が、マイクロアレイ、リアルタイムPCR、ELISA法、ウエスタンブロット法、FACS解析法、分光光度法、蛍光光度法、質量分析法、及びクロマトグラフィーからなる群より選ばれる1種又は2種以上により行われる、[1]〜[5]のいずれか一に記載の検査方法。
[7]IGHA1、THEM4及びTNFRSF25からなる群より選ばれる1種又は2種以上のマーカーの発現量を測定し得る試薬を含んでなる、うつ病の診断のための検査用キット。
[8]前記マーカーが、IGHA1、THEM4及びTNFRSF25である、[7]に記載の検査用キット。
[9]さらに、ANKRD35、CLEC3B、FAM26F、NRG1、UTS2、CCDC64、GPR15、GSTM2、IGLV6−57、PDGFB、PRKAR1B、SLC34A1、AIG1、TMX1、ATN1、CD27、CD3E、LZTS2からなる群より選ばれる1種又は2種以上のマーカーの発現量を測定し得る試薬を含んでなる、[7]又は[8]に記載の検査用キット。
[10]さらに、ANKRD35、CLEC3B、FAM26F、NRG1、UTS2、CCDC64、GPR15、GSTM2IGLV6−57、PDGFB、PRKAR1B、SLC34A1、AIG1、TMX1、ATN1、CD27、CD3E、及びLZTS2の発現量を測定し得る試薬を含んでなる、[7]又は[8]に記載の検査用キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、IGHA1、THEM4及びTNFRSF25がうつ病検査用バイオマーカーとして提供される。また、本発明の方法により、抑うつ症状の重症度に左右されずに、客観的な指標に基づいて、うつ病の診断をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】モデル動物を含む、Sham+NS、OVX+NS、Sham+CUMS、及び、OVX+CUMSの4群について、強制水泳試験及びオープンフィールド試験を行った結果を示す。
図2】被験者およびマウスから得たRNAによるマイクロアレイ解析結果を示す。
図3】被験者から得たRNAによるリアルタイム定量PCRの定量解析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(1)うつ病の診断のための検査方法
本発明の第1は、被検動物より採取された試料中のIGHA1、THEM4及びTNFRSF25からなる群より選ばれる1種又は2種以上のマーカーの発現量を測定する工程を含み、当該マーカーの発現量を基準値と比較することにより被検動物のうつ病の発症の有無が判定される、該動物におけるうつ病の診断のための検査方法である。
【0014】
本明細書において、「うつ病」とは、WHOのICD-10ないし米国精神医学会の「精神疾患の診断と統計のためのマニュアル、DSM-V)」の診断基準によるうつ病性障害であり、その重症度はSIGH-D(ハミルトンうつ病評価尺度構造化面接法:Structured Interview Guide for the Hamilton Depression Rating Scale)、HAM-D(ハミルトンうつ病評価尺度:Hamilton Rating Scale for Depression)、MADRS(モントゴメリー・アスベルグうつ病評価尺度:Montgomery Asberg Depression Rating Scale)又はBDI(ベックうつ病調査表:Beck Depression Inventory)等の従来の診断方法で判定され得るうつ病であれば、特に限定されない。うつ病と診断されている限り、不安障害、睡眠障害、摂食障害等の他の疾患を併発している場合も含む。
【0015】
本明細書において、IGHA1とは、immunoglobulin heavy constant alpha 1を意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりS55735のアクセッション番号にて入手可能である。
【0016】
本明細書において、THEM4とは、thioesterase superfamily member 4を意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりNM_053055のアクセッション番号にて入手可能である。
【0017】
本明細書において、TNFRSF25とは、tumor necrosis factor receptor superfamily, member 25を意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりNM_001039664のアクセッション番号にて入手可能である。
【0018】
本発明の検査方法においては、被検動物から採取された試料中のマーカーの発現量を測定し、これを指標として、うつ病発症の有無を検査することができる。また、IGHA1、THEM4及びTNFRSF25の発現量を全て測定してもよい。また、他のうつ病検査用マーカーの試料中発現量を組み合わせてもよい。さらに、臨床症候の観察や、PETやNIRSなどによる脳画像診断の結果を関連付けた複合指標を用いることで、より的確に検査することが可能である。
【0019】
併用する他のうつ病検査用マーカーとしては、ANKRD35、CLEC3B、FAM26F、NRG1、UTS2、CCDC64、GPR15、GSTM2、IGLV6−57、PDGFB、PRKAR1B、SLC34A1、AIG1、TMX1、ATN1、C
D27、CD3E、LZTS2からなる群より選ばれる1種又は2種以上のマーカーを使用することが好ましい。また、それらマーカーを全て測定してもよい。
【0020】
本明細書において、ANKRD35とは、ankyrin repeat domain 35を意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりNM_144698のアクセッション番号にて入手可能である。
【0021】
本明細書において、CLEC3Bとは、C-type lectin domain family 3, member Bを意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりNM_003278のアクセッション番号にて入手可能である。
【0022】
本明細書において、FAM26Fとは、family with sequence similarity 26, member
Fを意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりNM_001010919のアクセッション番号にて入手可能である。
【0023】
本明細書において、NRG1とは、neuregulin 1を意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりNM_004495のアクセッション番号にて入手可能である。
【0024】
本明細書において、UTS2とは、urotensin 2を意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりNM_021995のアクセッション番号にて入手可能である。
【0025】
本明細書において、CCDC64とは、coiled-coil domain containing 64を意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりNM_207311のアクセッション番号にて入手可能である。
【0026】
本明細書において、GPR15とは、G protein-coupled receptor 15を意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりNM_005290のアクセッション番号にて入手可能である。
【0027】
本明細書において、GSTM2とは、glutathione S-transferase mu 2 (muscle)を意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりNM_000848のアクセッション番号にて入手可能である。
【0028】
本明細書において、IGLV6−57とは、immunoglobulin lambda variable 6-57を意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりBC023973のアクセッション番号にて入手可能である。
【0029】
本明細書において、PDGFBとは、platelet-derived growth factor beta polypeptideを意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりNM_002608のアクセッション番号にて入手可能である。
【0030】
本明細書において、PRKAR1Bとは、protein kinase, cAMP-dependent, regulatory, type I, betaを意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりNM_001164761のアクセッション番号にて入手可能である。
【0031】
本明細書において、SLC34A1とは、solute carrier family 34 (sodium phosphate), member 1を意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりNM_003052のアクセッション番号にて入手可能である。
【0032】
本明細書において、AIG1とは、androgen-induced 1を意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりNM_016108のアクセッション番号にて入手可能である。
【0033】
本明細書において、TMX1とは、thioredoxin-related transmembrane protein 1を
意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりNM_030755のアクセッション番号にて入手可能である。
【0034】
本明細書において、ATN1とは、atrophin 1を意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりNM_001007026のアクセッション番号にて入手可能である。
【0035】
本明細書において、CD27とは、CD27 moleculeを意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりNM_001242のアクセッション番号にて入手可能である。
【0036】
本明細書において、CD3Eとは、CD3e molecule, epsilon (CD3-TCR complex)を意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりNM_000733のアクセッション番号にて入手可能である。
【0037】
本明細書において、LZTS2とは、leucine zipper, putative tumor suppressor 2を意味する。ヒトの遺伝子配列はGenBankよりNM_032429のアクセッション番号にて入手可能である。
【0038】
上記遺伝子配列情報について、被検動物がヒトと異なる場合には、該動物由来のホモログが測定対象となる。上記マーカーの発現量の測定としては、mRNAを測定しても、タンパク質を測定してもよい。さらに、上記マーカーには、上記マーカーと同様の機能を有する断片、誘導体、および変異体も包含される。
【0039】
上記検査方法において、「被検動物」は、うつ病を起こす可能性のある動物であれば如何なるものでもよく、具体的には、ヒト、サル等の霊長類の他、マウスやラット等のげっ歯類等、イヌ、ネコ、ブタ、フェレット等の哺乳類等が挙げられる。本発明のうつ病の検査方法は、このうち、うつ病の疑いのあるヒトにおいて特に好ましく行われる。
【0040】
また、上記被検動物から採取された「試料」としては、上記マーカーのmRNAまたはタンパク質を含有し、その濃度を測定できるものであれば特に制限はない。具体的には、血液、血漿、血清、尿、唾液等が挙げられる。これらのうち、血液、血漿、血清が、簡便に採取でき、保存が容易で且つ採取量が多いため、好ましく用いられる。上記血液等は、採取後すぐにヘパリン処置をすることが好ましい。また、血液中の有核細胞(主に白血球)から抽出したmRNAまたはタンパク質を用いることが好ましい。
【0041】
上記マーカーの発現量の測定方法としては、それらのmRNA又はタンパク質の含有量が測定できる方法であれば特に制限はないが、例えば、mRNAの測定としては、PCR法、マイクロアレイ法、ノーザンブロット法、分光光度法、蛍光光度法等が挙げられる。特に、PCR法によるリアルタイムPCRは、測定の簡便さと迅速さの点で好ましい。PCRに使用するプライマーは、上記マーカーの遺伝子配列に基づき公知の方法で設計することができ、例えば、表3および表4に記載されたプライマーが利用可能である。
【0042】
上記マーカーのタンパク質の測定方法としては、FACS解析法、分光光度法、蛍光光度法、質量分析法、クロマトグラフィーの他、該タンパク質に対する抗体を用いた既存の免疫測定法や、クロマトグラフィー技術と飛行時間型質量分析(TOF-MS)を組み合わせて、クロマト担体(例:カチオン交換体、アニオン交換体、疎水性クロマト担体、金属イオンなど)に一定条件下で捕捉されるすべての成分の質量を一括して測定する方法、二次元ゲル電気泳動法等が用いられる。
【0043】
免疫測定法としては、ウエスタンブロット法、酵素免疫定量法に従い定量検出する方法、蛍光免疫測定法、化学発光免疫測定法等で測定する方法等が好ましい。酵素免疫定量法
は、標識イムノアッセイ法のうち、酵素を標識物質として用いる検出方法である。中でも、イムノソルベントを用いる、enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA) 法を選択するのが、特に好適である。また、ELISAのうちサンドイッチ法は、操作の簡便性、経済上の利便性、とりわけ臨床検査における汎用性を考慮すると、特に好適な測定態様の一つとして挙げられる。これらの測定方法は、例えば、新生化学実験講座(日本生化学会編;東京化学同人)、Molecular Cloning, A Laboratory Manual (T. Maniatis et al., Cold Spring Harbor Laboratory (2001))、Antibodies - A Laboratory Manual(E.Harlow, et al., Cold Spring Harbor Laboratory(1988))等の一般的実験書に記載の方法又はそれに準じて行うことができる。
【0044】
上記測定を行う際に用いられる抗体等(抗体断片を含む)は、対象マーカーのタンパク質を抗原として公知の方法によって得ることができる。ただし、対象マーカーのタンパク質を抗原として製造されたものである必要はなく、該タンパク質と少なくとも交差反応性を示し、その含有量を測定することができるものであれば何れのものでもよい。
【0045】
本発明の方法で使用する試料は、被検動物から採取直後のものを上記測定に用いることが好ましいが、保存したものを用いてもよい。血液試料の保存方法としては、うつ病検査用のマーカー量が変化しない条件であれば特に制限は無いが、例えばmRNAの場合は、RNA抽出用の試薬を添加して-80℃又は液体窒素で凍結保存することが好ましい。タンパク質の場合は、0〜10℃の凍結しない程度の低温条件、暗所条件および無振動条件下が好ましく、止むをえず凍結する場合には、ディープフリーザーなどのマーカー分子の分解や酸化反応等を避けられる方法が好ましい。
【0046】
得られたマーカーの発現量と基準値とを比較することにより、うつ病の発症の有無が判定される。基準値としては、健常人やうつ病を発症していない対象者におけるマーカーの発現量が例示される。この基準値は、被検動物のマーカー測定時に一緒に測定してもよいし、前もって健常人やうつ病を発症していない対象者等におけるマーカーの発現量を測定しておき、正常範囲を予め設定しておいてもよい。得られたマーカーの発現量と基準値とを比較して、被検動物における発現量が有意に基準値と異なれば、うつ病を発症していると判定される。「有意に基準値と異なる」とは、誤差範囲の差異ではなく、たとえば、統計学的にP値等で示すことができる有意差が例示される。被検動物における発現量が有意に基準値と異なればよく、被検動物における発現量が基準値よりも高い場合と低い場合が含まれる。たとえば、IGHA1、THEM4及びTNFRSF25は、基準値より有意に低い場合を、うつ病の発症があると判定する。
【0047】
(2)うつ病の診断のための検査用キット
本発明の第2は、IGHA1、THEM4及びTNFRSF25からなる群より選ばれる1種又は2種以上の発現量を測定し得る試薬を含んでなる、うつ病の診断のための検査用キットに関する。IGHA1、THEM4及びTNFRSF25を全て含んでもよい。キットの内容は、機器または試薬の組み合わせにより構成されるが、以下に述べる各構成要素と本質的に同一、またはその一部と本質的に同一な物質が含まれていれば、構成または形態が異なっていても、本発明のキットに包含される。
【0048】
本発明のキットには、さらに、ANKRD35、CLEC3B、FAM26F、NRG1、UTS2、CCDC64、GPR15、GSTM2、IGLV6−57、PDGFB、PRKAR1B、SLC34A1、AIG1、TMX1、ATN1、CD27、CD3E、LZTS2からなる群より選ばれる1種又は2種以上の発現量を測定し得る試薬を含めてもよい。上記のマーカーの発現量を測定し得る試薬を全てキットに含めてもよい。
【0049】
当該試薬としては、例えば、PCR法により上記マーカーの発現量を測定する場合には、
当該マーカーを特異的に増幅することが可能なプライマーを含む。プライマーは、上述したマーカーの遺伝子配列に基づいて、公知の方法により作製することが可能である。また、必要に応じて、逆転写酵素、Taqポリメラーゼ、反応用緩衝液等を含めてもよい。リアルタイムPCRの場合には、蛍光試薬、蛍光光度計、サーマルサイクラー等も含まれる。
【0050】
マイクロアレイによりマーカーの発現量を測定する場合には、マーカー遺伝子断片をスポットしたガラス、プラスチック、シリコン又はメンブレン等の支持体を含む。また、必要に応じて、ラベル化試薬、ハイブリダイゼーション用バッファー、フラグメンテーション用バッファー等を含めてもよい。
【0051】
免疫測定法により上記マーカーの発現量を測定する場合には、当該マーカーに対する抗体を含む。また、必要に応じ、生体試料の希釈液、抗体固定化固相、反応緩衝液、洗浄液、標識された二次抗体またはその抗体断片、標識体の検出用試薬、標準物質なども含まれる。生体試料の希釈液としては、界面活性剤、緩衝剤などにBSAやカゼインなどの蛋白質を含む水溶液などが挙げられる。
【0052】
抗体固定化固相としては、各種高分子素材を用途に合うように整形した素材に、抗マーカー抗体またはそれらの抗体断片を固相化したものが用いられる。形状としてはチューブ、ビーズ、プレート、ラテックスなどの微粒子、スティック等が、素材としてはポリスチレン、ポリカーボネート、ポリビニルトルエン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリメタクリレート、ゼラチン、アガロース、セルロース、ポリエチレンテレフタレート等の高分子素材、ガラス、セラミックスや金属等が挙げられる。抗体の固相化の方法としては物理的方法と化学的方法またはこれらの併用方法等、公知の方法が挙げられる。例えば、ポリスチレン製96ウェルの免疫測定用マイクロタイタープレートに抗体または抗体断片等を疎水固相化したものが挙げられる。
【0053】
反応緩衝液は、抗体固定化固相の抗体と生体試料中の抗原とが結合反応をする際の溶媒環境を提供するものであればいかなるものでもよいが、界面活性剤、緩衝剤、BSAやカゼインなどの蛋白質、防腐剤、安定化剤、反応促進剤等を含む反応緩衝液が挙げられる。
【0054】
標識された二次抗体またはその抗体断片としては、本発明に用いられる抗体または抗体断片に西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、ウシ小腸アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼなどの標識用酵素をラベルしたもの、緩衝剤、BSAやカゼインなどの蛋白質、防腐剤などを混合したものが用いられる。
【0055】
標識体の検出用試薬としては前記の標識用酵素に応じて、例えば西洋ワサビペルオキシダーゼであれば、テトラメチルベンジジンやオルトフェニレンジアミンなどの吸光測定用基質、ヒドロキシフェニルプロピオン酸やヒドロキシフェニル酢酸などの蛍光基質、ルミノールなどの発光基質が、アルカリホスファターゼであれば、4−ニトロフェニルフォスフェートなどの吸光度測定用基質、4−メチルウンベリフェリルフォスフェートなどの蛍光基質等が挙げられる。
【実施例】
【0056】
以下に非限定的な例を参照して、本発明を更に説明する。
【0057】
<被験者のリクルート>
群馬大学病院にて治療中の大うつ病(MDD)患者のうち、初発年齢が50歳以上であり、DSM-IV分類において大うつ病のメランコリー型を呈し、かつ、他の精神疾患の合併を認めない者を対象とした。MDDの重症度はハミルトンうつ病評価尺度構造化面接法(Structured Interview Guide for the Hamilton Depression Rating Scale;SIGH-D)により採点し
、8点未満を寛解とした。
対照として年齢と性別を一致させた健常者をリクルートした。リクルートした健常者に、精神疾患罹患歴や家族歴が無いことを確認した。リクルートした被験者に認知機能検査(Mini Mental State Examination; MMSE)を行い、認知機能が正常であることを確認した。
以下表1に、リクルートした被験者を示す。
【0058】
【表1】

DP:中高年発症うつ病患者(病相期)
RM:中高年発症うつ病患者(寛解期)
HC:健常者
SIGH-D:ハミルトンうつ病評価尺度構造化面接法
MMSE: 認知機能検査
【0059】
遅発性うつ病患者の2名は、MMSEを辞退した。データは、平均値±標準誤差(mean ± SE)で表す。表中の米印(*)は、対応する健常者群に対するp値がp<0.05であることを示す(ボンフェローニ試験)。
【0060】
<被験者血液からのRNA抽出>
被験者から10mLの血液を採取し、血液中の有核細胞(主に白血球)から、QIAmp RNA Blood Mini Kit (QIAGEN K.K.)によりRNAを抽出した。抽出操作はキットに添付の説明書の記載に多少の修正を加えて行われた。その操作は、要約すると次のとおりである。採取した10mlの血液を、50mlチューブに半分ずつ分け、各々のチューブに25mlのバッファーELを加えて、よく転倒混和した。各々のチューブを氷中に20分置いた後、4℃、480×gで15分遠心し、上清を捨てた。チューブ中のペレットに10mlのバッファーELを加えてボルテックスし、再懸濁した。再懸濁したサンプルを、4℃、480×gで15分遠心し、上清を捨てた。2-メルカプトエタノールを含むバッファーRLTをペレットに3ml加えて、ボルテックスにより溶解した。前記溶解物はQIAshredder spin columnsで室温にて2分遠心することによりホモジナイズした。ホモジナイズした溶解物に等量の70%エタノールを加えて、ボルテックスによりよく混和した。混和したサンプルをQIAamp spin columnに加えて15秒遠心した。カラムを洗浄後、DNaseI消化した。溶出工程はキットに添付の説明書どおりに行った。溶出したサンプルは標準的なエタノール沈殿法により処理された。RNAペレットはRNaseフリーの水に溶解した。
RNAの量はNanodrop ND-1000 spectrophotometer (Thermo Fisher Scientific Inc.)により測定した。
【0061】
<モデル動物の作製>
メスのC57BL/6Jマウス(8週齢)をCharles River Laboratories Japanより購入し、1週間の馴化後、ペントバルビタール麻酔下にて卵巣の摘除を行った(Ovariectomy; OVX)。同様にペントバルビタール麻酔を行い、卵巣を露出させたものの摘出せずに縫合したものを対照動物とした(Sham-operation; Sham)。
上記処置の2週間後より、慢性変動ストレス(chronic ultra-mild stress; CUMS)の負荷を開始した。CUMSの方法は既報(Uchida et al., Neuron, 69, 359-372, 2011)に準じ、6週に亘って負荷を行った。なお、同期間ストレス負荷を行わなかった群(Nonstress:
NS群)を設けた。すなわち、本試験は、Sham+NS、Sham+CUMS、OVX+NS、及び、OVX+CUMSの4つの群構成で行われた。
【0062】
上記CUMSの負荷を停止後1日目に、強制水泳試験及びオープンフィールド試験を行った。
強制水泳試験は、以下のように行った。本試験のN数は、Sham+NS(n=24)、Sham+CUMS(n=24)、OVX+NS(n=24)、及び、OVX+CUMS(n=24)であった。アクリルシリンダー(高さ22cm、直径11.5cm)に室温の水を高さ15cmまで注ぎ、その中にマウスを置いた。マウスの行動は、パソコンに接続したCCDカメラにより5分間記録され、ImageJ PS1(小原医科産業社製)による解析を行った。記録された無動時間をうつ様行動の指標とした。
【0063】
オープンフィールド試験は、以下のように行った。本試験のN数は、Sham+NS(n=9)、Sham+CUMS(n=8)、OVX+NS(n=8)、及び、OVX+CUMS(n=9)であった。オープンフィールド装置(50×50×40cm)を発光ダイオードで照明し(フィールドの中央で30 lux)、フィールドの中央にマウスを置いて、5分間自由に移動させた。中央領域内(フィールドの36%)で移動した合計距離と、中央領域にて過ごした時間を、指標として採用した。集めたデータは、ImageJ OF4(小原医科産業社製)を使用して解析した。
【0064】
動物の行動解析を行った結果を、図1に示す。OVX+CUMSマウスは、強制水泳試験においてうつ病様行動を呈し、また、オープンフィールド試験において不安様行動を呈した。一方、Sham+CUMSマウスやOVX+NSマウスには、行動変化は認められなかった。これらの行動解析の結果から、OVX+CUMSマウスをうつ病のモデルと定義し、Sham+Nonstressマウスを対照群とした。
【0065】
<マウス血液からのRNA抽出>
ペントバルビタール麻酔下にてマウスの大静脈から300μLの血液を採取後、すぐにヘパリン処置し、1000×gにて2分遠心した。得られたペレットは、2−メルカプトエタノールを含む冷却した溶解バッファーに溶解した。当該溶解物から、GeneJet Whole Blood RNA Purification Mini Kit (Thermo Fisher Scientific Inc.)を使用して、キット添付の説明書に従ってトータルRNAを抽出した。
RNAの量はNanodrop ND-1000 spectrophotometer (Thermo Fisher Scientific Inc.)により測定した。
【0066】
<マイクロアレイ>
被験者ならびにマウスから得たRNAを、Agilent Low Input Quick Amp Labeling Kit, one-color (Agilent Technologies)を使用して、キットに添付の説明書に従ってCyanine 3でラベルした。ラベル化したRNAを、 RNeasy mini spin column(QIAGEN)により精製した。得られたラベル化RNAをフラグメント化し、Agilent SurePrint G3 Human GE 8×60K v2 Microarray (Design ID: 039494)ならびにAgilent SurePrint G3 Mouse GE 8×60K Microarray (Design ID: 028005)と65℃で17時間ハイブリダイズさせた後、マイクロアレイを洗浄し、Agilent DNA microarray scannerにより測定した。発光強度をAgilent feature extraction software version 10.7.3.1により定量化し、Agilent GeneSpring GX version 11.0.2により標準化した。
【0067】
得られたデータをもとに統計解析を行い、うつ病患者病相期及び寛解期において発現変動する遺伝子の中で、健常者と比べて特に顕著な変動幅を持つ遺伝子1,130種と、うつ病モデルマウスに特異的に発現変化する遺伝子637種を見出した(図2)。この遺伝子リスト同士を照合した結果、一致する遺伝子7種を見出した(表2)。
【0068】
【表2】
【0069】
<被験者におけるリアルタイム定量PCRによる定量解析>
被験者から得たRNAをPrimeScript RT reagent Kit (Takara Bio Inc.)により逆転写してcDNAサンプルを得た後、このcDNAサンプルと、被検者またはマウスのマイクロアレイの結果から得られたバイオマーカー候補に対する特異的なプライマーペアー(表3および表4)と、SYBR Premix Ex Taq II (Takara Bio Inc.)またはPremix Ex Taq (Takara Bio Inc.)とを混合してリアルタイム定量PCRを行った。リアルタイム定量PCRは、StepOnePlusリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)により、95℃3秒及び60℃30秒を50サイクルで行った。なお、内標準物質として、表3のプライマーペアおよびSYBR Premix Ex Taq II を使用した場合にはRPS29を、表4のプライマーペアおよびPremix Ex Taqを使用した場合には、18S-rRNA、GAPDH、GUSB、HPRT1を選択した。ターゲット遺伝子の増幅量はΔΔCt法に従って定量解析を行い、健常者と比較した。
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
マイクロアレイ解析の結果から、病相期及び寛解期のうつ病患者において発現変動しているRNA発現プロファイルの中で、健常者と比べて特に顕著な変動幅を持つものであって、さらにリアルタイム定量PCR解析によって検出できた14種の遺伝子を、下記表5に示す。
【0073】
【表5】
【0074】
上記表2及び5に記載の計21種のマーカー候補遺伝子のリアルタイムPCR解析の結果から、IGHA1、THEM4及びTNFRSF25を最重要の測定項目とし、残りの18遺伝子を補助測定項目にすることとした。IGHA1、THEM4及びTNFRSF25のリアルタイムPCR解析結果を、図3に示す。図3は、IGHA1、THEM4及びTNFRSF25の発現が、健常者と比べて、うつ病の病相期及び寛解期において有意に減少したことを示す。
【0075】
以上の結果から、IGHA1、THEM4及びTNFRSF25はリアルタイム定量PCRにおいて発現変動する、うつ病反映性に優れたマーカーであることが示された。さらにその他の18種のマーカーを組み合わせて用いることにより、高い精度でうつ病の検査を行うことができる。
【0076】
配列番号1:IGHA1の配列。
配列番号2:THEM4の配列。
配列番号3:TNFRSF25の配列。
配列番号4:ANKRD35の配列。
配列番号5:CLEC3Bの配列。
配列番号6:FAM26Fの配列。
配列番号7:NRG1の配列。
配列番号8:UTS2の配列。
配列番号9:CCDC64の配列。
配列番号10:GPR15の配列。
配列番号11:GSTM2の配列。
配列番号12:IGLV6−57の配列。
配列番号13:PDGFBの配列。
配列番号14:PRKAR1Bの配列。
配列番号15:SLC34A1の配列。
配列番号16:AIG1の配列。
配列番号17:TMX1の配列。
配列番号18:ATN1の配列。
配列番号19:CD27の配列。
配列番号20:CD3Eの配列。
配列番号21:LZTS2の配列。
配列番号22:AIGのforwardプライマー。
配列番号23:AIGのreverseプライマー。
配列番号24:ATN1forwardプライマー。
配列番号25:ATN1reverseプライマー。
配列番号26:CD27forwardプライマー。
配列番号27:CD27reverseプライマー。
配列番号28:CD3Eforwardプライマー。
配列番号29:CD3Ereverseプライマー。
配列番号30:LZTS2forwardプライマー。
配列番号31:LZTS2reverseプライマー。
配列番号32:TMX1forwardプライマー。
配列番号33:TMX1reverseプライマー。
配列番号34:TNFRSF25forwardプライマー。
配列番号35:TNFRSF25reverseプライマー。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の方法によれば、抑うつ症状の重症度に左右されずに、客観的な指標に基づいて、うつ病の診断を行うことができ、医療診断の分野で有用である。
図1
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]