特許第6544758号(P6544758)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6544758
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】眼鏡レンズの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20190705BHJP
   G02B 5/23 20060101ALI20190705BHJP
   G02C 7/12 20060101ALI20190705BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20190705BHJP
【FI】
   G02B5/30
   G02B5/23
   G02C7/12
   G02C7/10
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-525313(P2018-525313)
(86)(22)【出願日】2017年6月30日
(86)【国際出願番号】JP2017024245
(87)【国際公開番号】WO2018003996
(87)【国際公開日】20180104
【審査請求日】2018年4月26日
(31)【優先権主張番号】特願2016-131089(P2016-131089)
(32)【優先日】2016年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(74)【代理人】
【識別番号】100149250
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 拓巳
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 剛
【審査官】 植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−178490(JP,A)
【文献】 特許第5938282(JP,B2)
【文献】 登録実用新案第3144374(JP,U)
【文献】 特開2012−226026(JP,A)
【文献】 特許第4586953(JP,B2)
【文献】 特開2014−26191(JP,A)
【文献】 特開2014−26190(JP,A)
【文献】 特開2010−256895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02B 5/23
G02C 1/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラビング処理面上に、二色性色素を0.1〜0.5質量%含有する塗布液を、スピンコート法により、回転数200〜600rpmで塗布して偏光層を形成する、眼鏡レンズの製造方法。
【請求項2】
前記塗布液が、前記二色性色素を含有する水系塗布液である、請求項1に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項3】
前記ラビング処理面がレンズ基材上に、直接又は他の層を介して間接的に、形成されている、請求項1又は2に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項4】
無機酸化物を含む膜の表面をラビング処理して形成されている配列層を有し、
前記ラビング処理面が、前記配列層の表面である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項5】
前記偏光層に対し、前記二色性色素の固定化処理を施す、請求項1〜4のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項6】
前記固定化処理は、シランカップリング剤溶液を前記偏光層上に塗布して行う、請求項5に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項7】
前記固定化処理前に、前記偏光層中の前記二色性色素の非水溶化処理を行う、請求項5又は6に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項8】
前記偏光層の上層又は下層として、フォトクロミック色素を含有するフォトクロミック層を更に形成する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【請求項9】
前記偏光層と、前記フォトクロミック層との間に中間層を形成する、請求項8に記載の眼鏡レンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼鏡レンズの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズに、偏光機能を付与する技術として、レンズ基材上に二色性色素を含有する塗布液を塗布して偏光層を形成する技術(特許文献1)や、インサート成形により、偏光フィルムの表裏面にレンズ基材層を形成する技術(特許文献2)が開示されている。
【0003】
上述した偏光層や偏光フィルムは、何れも、偏光フィルタとしての機能を有し、偏光度が高いほど、雑光がカットされてクリアな視界が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許5555688号公報
【特許文献2】特開2015−69045
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来技術では、偏光度を高くするほど、眼鏡レンズの視感透過率は低くせざるを得ず、レンズ濃度が薄く(すなわち、視感透過率が高い)かつ、ギラツキを低減するのに十分な偏光機能を備えた眼鏡レンズに対する需要に応えられないという課題を有していた。
本開示の一実施形態は、視感透過率が高く、かつ、高い偏光機能を有する眼鏡レンズの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書は、ラビング処理面上に、二色性色素を0.04〜1.5質量%含有する塗布液を、スピンコート法により、回転数200〜600rpmで塗布して偏光層を形成する、眼鏡レンズの製造方法を開示する。
【発明の効果】
【0007】
上述した一実施形態によれば、視感透過率が高く、かつ、高い偏光機能を有する眼鏡レンズの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の好ましい実施形態について詳しく説明する。
【0009】
〔第一の実施形態〕
本実施形態は、ラビング処理面上に、二色性色素を0.04〜1.5質量%含有する塗布液を、スピンコート法によって、回転数200〜600rpmで塗布して偏光層を形成する眼鏡レンズの製造方法に関する。
以下、更に詳細に説明する。
【0010】
<塗布液>
上記の塗布液は、少なくとも二色性色素を含む。二色性色素の偏光性は、通常、主に二色性色素が一軸配向することにより発現される。二色性色素を一軸配向させるために、二色性色素を含む塗布液を塗布する面には、ラビング処理を施すことが好ましい。
【0011】
(二色性色素)
「二色性」とは、媒質が光に対して選択吸収の異方性を有するために、透過光の色が伝播方向によって異なる性質を意味する。二色性色素は、偏光に対して色素分子のある特定の方向で光吸収が強くなり、これと直交する方向では光吸収が小さくなる性質を有する。また、二色性色素の中には、水を溶媒とした時、ある濃度・温度範囲で液晶状態を発現するものが知られている。このような液晶状態のことをリオトロピック液晶という。この二色性色素の液晶状態を利用して特定の一方向に色素分子を配列させることができれば、より強い二色性を発現することが可能となる。ラビング処理面上に二色性色素を含有する塗布液を塗布することにより二色性色素を一軸配向させることができ、これにより良好な偏光性を有する偏光層を形成することができる。二色性色素としては、特に限定されるものではなく、偏光レンズ等の偏光部材に通常使用される各種二色性色素を挙げることができる。具体例としては、アゾ系、アントラキノン系、メロシアニン系、スチリル系、アゾメチン系、キノン系、キノフタロン系、ペリレン系、インジゴ系、テトラジン系、スチルベン系、ベンジジン系色素等が挙げられる。米国特許2400877号明細書、特表2002−527786号公報に記載されているもの等でもよく、例えば、多色性色素分子と、多色性色素分子を所定の方向に配向させて保持し、リオトロピック液晶性を有する分子マトリクスとの組み合わせの材料を用いてもよい。
【0012】
塗布液は、高い偏光度を得るため、二色性色素を含有する水系塗布液とすることが好ましい。塗布液は、溶液又は懸濁液であることができるが、溶液が好ましい。
「水系塗布液」とは、水を主成分とする溶媒を含む液を意味する。水系塗布液を用いることで、二色性色素のリオトロピック液晶状態を形成することができ、塗布後ラビング処理面へ二色性色素が配向しやすくなり、眼鏡レンズの偏光度を向上させることができる。
水の含有量は、塗布液の溶媒中、好ましくは60〜100質量%、より好ましくは75〜100質量%、更に好ましくは90〜100質量%である。
塗布液中の二色性色素の含有量は、0.04〜1.5質量%であり、好ましくは0.1〜0.5質量%、より好ましくは0.2〜0.3質量%である。二色性色素の含有量を、このような範囲とすることで、高い視感透過率を有しながら、高い偏光度を有する眼鏡レンズが得られる。また、スピンコートにより得られる眼鏡レンズの視感透過率及び偏光度のばらつきを少なくすることができる。
【0013】
偏光層形成用の水系塗布液は、二色性色素に加えて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、二色性色素以外の色素を挙げることができ、このような色素を配合することで所望の色相を有する偏光層を形成することができる。更に塗布性等を向上させる観点から、必要に応じてレオロジー改質剤、接着促進剤、可塑剤、レベリング剤等の添加剤を配合してもよい。
【0014】
<ラビング処理>
「ラビング処理」とは、被処理物の表面に配向性を付与する処理である。「ラビング処理面」とは、ラビング処理がされた面である。ラビング処理として、例えば、表面にナイロン繊維が植毛されたロール、又は表面にラビング布を貼り付けたロールによって処理面上で回転させて配向性を付与する物理的手法や、UVのような高エネルギーの光を照射して配向性を付与する化学的手法が挙げられる。
【0015】
ラビング処理は、レンズ基材又はハードコート層の表面に直接施してもよいが、二色性色素の偏光性をより良好に発現させる観点からは、後述する配列層の表面に施すことが好ましい。
【0016】
(レンズ基材)
偏光層が形成されるラビング処理面は、レンズ基材上に、直接又は他の層を介して間接的に、形成されている。
レンズ基材は、プラスチックレンズ基材、ガラスレンズ基材等の、通常眼鏡レンズに使用される各種レンズ基材を、何ら制限なく用いることができる。軽量であること、割れにくいこと等の観点から、レンズ基材は、プラスチックレンズ基材であることが好ましい。具体例としては、これらに限定されるものではないが、(メタ)アクリル樹脂をはじめとするスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR−39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する重合性組成物を硬化して得られる透明樹脂等を、プラスチックレンズ基材を構成する樹脂として挙げることができる。なおレンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.60〜1.75程度である。ただしレンズ基材の屈折率は、これに限定されるものではなく、上記の範囲内でも、上記の範囲から上下に離れてもよい。
【0017】
上記眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズであることができる。レンズの種類は、レンズ基材の両面の面形状により決定される。また、レンズ基材表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常のレンズ基材及び眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、本開示はこれに限定されるものではない。後述する偏光層が設けられる面は、レンズ基材の凸面であることが、偏光層の偏光特性をより良好に発揮する観点からは好ましい。
【0018】
レンズ基材上には、直接又は他の層を介して間接的に、偏光層が形成されている。ここで形成される他の層としては、例えばハードコート層を挙げることができる。ハードコート層を設けることにより、眼鏡レンズに防傷性(耐擦傷性)を付与することができ、また眼鏡レンズの耐久性(強度)を高めることもできる。ハードコート層に使用される材料としては、アクリル系樹脂、メラミン系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、アミノ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、スチレン系樹脂、シリコン系樹脂及びこれらの混合物もしくは共重合体等を挙げることができる。ハードコート層の一例は、シリコン系樹脂である。ハードコート層は、例えば、金属酸化物微粒子、有機ケイ素化合物を含むコーティング組成物を、ディッピング法、スピンナー法、スプレー法、フロー法などによって塗布し、その後、40〜200℃の温度で数時間加熱乾燥して硬化させることにより、形成することができる。このコーティング組成物には、後述する有機ケイ素化合物、及び金属酸化物粒子等の成分が含まれていてもよい。なお、レンズ基材としてはハードコート層付きで市販されているものもあり、本開示に係る製造方法ではそのようなレンズ基材を用いてもよい。また、上記の他の層としては、後述する配列層も例示できる。
【0019】
(配列層)
配列層は二色性色素を配向させるために設けられる。配列層は、通常、レンズ基材表面上に直接又は他の層を介して間接的に設けられる。レンズ基材と配列層との間に形成され得る層の一例としては、先に記載したハードコート層を挙げることができる。配列層の厚さは、通常0.02〜5μm程度であり、好ましくは0.05〜0.5μm程度である。
配列層は、例えば、無機酸化物を含む膜を形成した後に、その表面をラビング処理して形成される。
上記膜は、蒸着、スパッタ等の公知の製膜法によって製膜材料を堆積させることにより形成してもよく、ディップ法、スピンコート法等の公知の塗布法によって形成してもよい。上記膜の材料として好適なものとしては、無機酸化物が挙げられ、より具体的には、金属、半金属、又はこれらの酸化物、複合体もしくは化合物を用いることができる。これらの中で配列層としての機能付与の容易性の観点からはSiO、SiO等のケイ素酸化物が好ましく、中でも後述するシランカップリング剤との反応性の観点からはSiOが好ましい。一方、塗布法によって形成される配列層としては、無機酸化物ゾルを含むゾルーゲル膜を挙げることができる。上記ゾルーゲル膜の形成に好適な塗布液の一例としては、例えば、アルコキシシラン及び/又はヘキサアルコキシジシロキサンを含有する塗布液を挙げることができる。アルコキシシランとしては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトライソプロポキシシラン等のテトラアルコキシシラン;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン等のアルキルトリアルコキシシランなどが挙げられる。ヘキサアルコキシジシロキサンとしては、ヘキサエトキシジシロキサン、キサメトキシジシロキサン等が挙げられる。
膜を形成した後に、ラビング処理が行われる。ラビング処理の方法は上述のとおりである。
【0020】
<偏光層の形成>
(塗布液の塗布)
本開示の一実施形態では、ラビング処理面上に、塗布液を、スピンコート法により塗布する。
スピンコートは、例えば、ラビング処理面を有するレンズ基材をスピンコーターに配置して行うことができる。
回転は、例えば、レンズ基材の幾何中心を回転中心として回転させることができる。
スピンコートにおける、塗布時の回転数は、好ましくは200〜600rpm、より好ましくは250〜500rpm、更に好ましくは285〜450rpmとする。
スピンコートにおける、塗布時の回転数は、好ましくは200rpm以上、より好ましくは250rpm以上、更に好ましくは270rpm以上であり、そして、好ましくは600rpm以下、より好ましくは500rpm以下、更に好ましくは450rpm以下、更に好ましくは400rpm以下、更に好ましくは300rpm以下である。
上記回転数での保持時間は、例えば、40〜50秒程度とする。
【0021】
塗布液は、例えば、回転するレンズ基材の幾何学中心部に供給させてもよい。また、塗布液は、回転するレンズ基材上に対して、レンズ基材の幾何学中心部と周縁部とを結ぶ直線上に水平移動させて、レンズ基材上で塗布液供給点が螺旋軌跡を描くように塗布してもよい。
塗布液供給開始時(液出し時)には、供給する塗布液がレンズ基材上のラビング処理面で弾かれないようにするため、塗布時の回転数よりも低い回転数で8秒程度回転を行う。
上記塗布後は、塗布液を振りきるため、好ましくは回転数を1000rpm程度に上げて12秒程度回転を行う。
【0022】
偏光層の厚さは、通常0.05〜5μm程度であるが、特に限定されるものではない。偏光層の厚さは、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは0.8μm以上であり、そして、好ましくは4μm以下、より好ましくは3μm以下、更に好ましくは2μm以下である。なお後述するシランカップリング剤は、通常、偏光層に浸透し実質的に偏光層に含まれることになる。
【0023】
(非水溶化処理)
二色性色素として水溶性色素を用いる場合には、膜安定性を高めるために塗布液を塗布し乾燥処理を施した後に非水溶化処理を施すことが好ましい。非水溶化処理は、例えば二色性色素の分子の末端水酸基をイオン交換することや二色性色素と金属イオンとの間でキレート状態を作り出すことにより行うことができる。そのためには、形成した偏光層を金属塩水溶液に浸漬する方法を用いることが好ましい。金属塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、AlCl、BaCl、CdCl、ZnCl、FeCl、SnClを挙げることができる。非水溶化処理後、偏光層の表面を更に乾燥させてもよい。
【0024】
(固定化処理)
偏光層に対しては、膜強度及び膜安定性を高めるために二色性色素の固定化処理を施すことが好ましい。二色性色素として水溶性色素を用いる場合には、固定化処理は、上記の非水溶化処理の後に行うことが望ましい。固定化処理により偏光層中で二色性色素の配向状態を固定化することができる。
【0025】
(シランカップリング剤処理)
固定化処理は、好ましくは、偏光層表面をシランカップリング剤処理することによって行うことが好ましい。シランカップリング剤処理は、例えば濃度1〜15質量%程度、好ましくは、1〜10質量%程度のシランカップリング剤溶液を偏光層表面に塗布することにより実施することができる。上記溶液を調製するために用いる溶媒は、水系溶媒であることが好ましく、水又は水とアルコール(メタノール、エタノール等)との混合溶媒であることがより好ましく、水であることが更に好ましい。なお本開示において、水系溶媒とは少なくとも水を含む溶媒をいうものとする。水系溶媒は、水を主成分とする溶媒を含む液が好ましい。水の含有量は、水系媒体中、好ましくは60〜100質量%、より好ましくは75〜100質量%、更に好ましくは90〜100質量%である。
上記溶媒の塗布は、ディッピング法、スピンコーティング法、スプレー法等の公知の手段によって行うことができる。固定化処理の途中に、レンズ基材と偏光層を含む部材を加熱炉内等に所定時間放置することにより、固定化効果を更に高めることができる。この炉内雰囲気温度は、使用するシランカップリング剤の種類に応じて決定することができ、通常、室温〜120℃、好ましくは40〜100℃、より好ましくは50〜80℃である。放置時間は、通常、5分〜3時間程度である。
【0026】
シランカップリング剤としては、エポキシシラン(エポキシ基含有シランカップリング剤)及びアミノシラン(アミノ基含有シランカップリング剤)が好ましい。固定化効果の観点からは、少なくともエポキシ基含有シランカップリング剤溶液を偏光層表面に塗布することによりシランカップリング処理(エポキシシラン処理)を行うことが好ましく、アミノ基含有シランカップリング剤の塗布(アミノシラン処理)の後、エポキシシラン処理を行うことが更に好ましい。これは、エポキシシランと比べてアミノシランは、その分子構造に起因して、一軸配向した二色性色素の分子間に入り込みやすいと推察されるからである。
【0027】
シランカップリング剤とは、例えば、式:R−Si(OR’)(式中、複数存在するR’は同一であっても異なっていてもよい)で表される構造を有する。
上記Rは、通常、有機性官能基であり、エポキシシラン(エポキシ基含有シランカップリング剤)とは、上記Rで表される官能基にエポキシ基を含むものである。エポキシ基は、通常、2価の連結基を介してSiに結合している。2価の連結基としては、後述の具体例化合物に含まれる連結基を挙げることができる。
一方、上記R’は、通常アルキル基であり、水系溶媒中で加水分解を受けシラノール(Si−OH)を生成する。上記R’で表されるアルキル基の炭素数は、例えば1〜10であり、好ましくは1〜3である。
【0028】
エポキシシランの具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(γ−GPS)、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のグリシドキシ基含有トリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリブトキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、δ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン等のエポキシアルキルアルコキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシランを挙げることができる。
【0029】
シランカップリング剤は、1種単独でも、又は2種以上組み合わせて用いてもよい。なお、シランカップリング剤の塗布後偏光層表面を純水、脱イオン水等ですすぎ洗いすることにより最表面に過剰に付着したシランカップリング剤を除去することも可能である。シランカップリング剤を塗布した後の偏光層を含む部材を、加熱処理することもできる。加熱処理は、例えば、45〜145℃、好ましくは、50〜90℃の炉内温度の加熱炉に上記部材を配置することによって行うことができる。
【0030】
<機能性層の形成>
本開示の一実施形態により得られる眼鏡レンズは、物体側表面の最表層として上述の偏光層を有していてもよいが、偏光層よりレンズ基材から遠い(即ち物体側に位置する)層の上に更に一層以上の機能性層を有することが好ましい。かかる機能性層は、二層以上設けることも可能である。任意に設けられる機能性層としては、公知のハードコート層、撥水層、反射防止層(多層反射防止膜)等の各種機能性層を挙げることができる。一例として、以下に、ハードコート層について説明する。
【0031】
(ハードコート層)
ハードコート層は、眼鏡レンズの耐久性向上と光学特性を両立する観点からは、厚さが0.5〜10μmの範囲であることが好ましい。ハードコート層としては、眼鏡レンズの耐久性向上の点からは、有機ケイ素化合物及び金属酸化物粒子を含むものが好ましい。
【0032】
また、有機ケイ素化合物の好ましい態様としては、下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物又はその加水分解物を挙げることもできる。
(R(RSi(OR4−(a+b)・・・(I)
【0033】
一般式(I)中、Rは、グリシドキシ基、エポキシ基、ビニル基、メタアクリルオキシ基、アクリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、フェニル基等を有する有機基を表し、Rは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアシル基又は炭素数6〜10のアリール基を表し、Rは炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を表し、a及びbはそれぞれ0又は1を示す。
【0034】
で表される炭素数1〜4のアルキル基は、直鎖又は分岐のアルキル基であって、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
で表される炭素数1〜4のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、オレイル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
で表される炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、キシリル基、トリル基等が挙げられる。
で表される炭素数1〜6のアルキル基は、直鎖又は分岐のアルキル基であって、具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。
一般式(I)で表される化合物の具体例としては、メチルシリケート、エチルシリケート、n−プロピルシリケート、i−プロピルシリケート、n−ブチルシリケート、sec−ブチルシリケート、t−ブチルシリケーテトラアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリブトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリアミロキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、メチルトリベンジルオキシシラン、メチルトリフェネチルオキシシラン、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリフェノキシシラン、α−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、δ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、(3、4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリメトキシシラン、(3、4−エポキシシクロヘキシル)メチルトリエトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリブトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリフェノキシシラン、γ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリメトキシシラン、γ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)プロピルトリエトキシシラン、δ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリメトキシシラン、δ−(3、4−エポキシシクロヘキシル)ブチルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジメトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジエトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、β−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、β−グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジフェノキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルビニルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルフェニルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルフェニルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリアセトキシシラン、3、3、3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、β−シアノエチルトリエトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、ジメチルジアセトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン等が挙げられる。一般式(I)で表される有機ケイ素化合物は硬化性基を有するため、塗布後に硬化処理を施すことにより、硬化層としてハードコート層を形成することができる。
【0035】
ハードコート層に含まれる金属酸化物粒子は、ハードコート層の屈折率の調整及び硬度向上に寄与し得る。具体例としては、酸化タングステン(WO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタニウム(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化スズ(SnO)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化アンチモン(Sb)等の粒子が挙げられ、単独又は2種以上の金属酸化物粒子を併用することができる。金属酸化物粒子の粒径は、耐擦傷性と光学とを両立する観点から、5〜30nmの範囲であることが好ましい。同様の理由から、ハードコート層における金属酸化物粒子の含有量は、屈折率及び硬度を考慮して適宜設定可能であるが、通常、ハードコート組成物の固形分あたり5〜80質量%程度である。また、上記金属酸化物粒子は、ハードコート層中での分散性の点から、コロイド粒子であることが好ましい。
【0036】
ハードコート層は、上記成分及び必要に応じて有機溶媒、界面活性剤(レベリング剤)等の任意成分を混合して調製したハードコート組成物を被塗布面上に塗布し、硬化性基に応じた硬化処理(光照射、加熱等)を施すことにより形成することができる。ハードコート組成物を加熱により硬化させる態様においては、加熱温度(加熱処理を行う雰囲気温度)は100℃未満とすることが好ましく、95℃以下とすることが好ましい。加熱温度は、例えば80℃以上であるが、硬化性化合物の種類に応じて設定すればよく、80℃未満であってもよい。ハードコート組成物の塗布手段としては、ディッピング法、スピンコーティング法、スプレー法等の通常行われる方法を適用することができる。
【0037】
[眼鏡レンズ]
<積層順序>
以上、本開示の一実施形態に係る製造方法により得られる眼鏡レンズは、各層の積層順序は特に限定されるものではない。本実施形態の一態様では、レンズ基材により近い層として偏光層が含まれている。
本開示の一実施形態に係る眼鏡レンズは、好ましくは、レンズ基材、偏光層、ハードコート層が、この順に積層されており、より好ましくはレンズ基材、ハードコート層、配列層、偏光層、ハードコート層が、この順に積層されている。なお、レンズ基材の少なくとも一方の面側に上記の層が存在すれば、十分な機能を発揮することができる。
【0038】
本開示の一実施形態に係る眼鏡レンズの視感透過率は、好ましくは40%超、より好ましくは50%超、更に好ましくは60%超、更に好ましくは70%超である。視感透過率の上限は特に限定されないが、例えば、99%以下、好ましくは98%以下、より好ましくは95%以下、更に好ましくは90%以下である。
視感透過率の測定方法は実施例に記載の方法による。
【0039】
本開示の一実施形態に係る眼鏡レンズの偏光度は、10〜60%、好ましくは10〜50%、より好ましくは10〜40%、更に好ましくは10〜30%、更に好ましくは15〜20%である。偏光度を10%以上とすることで、この眼鏡レンズを用いた眼鏡を装着したユーザーが、偏光性能をより顕著に認識できる。偏光度の上限は特に限定されないが、従来、眼鏡レンズの視感透過率と偏光度はトレードオフの関係にあるとされており、視感透過率を高くするには、偏光度を低くせざるを得ないと考えられてきたが、本開示の一実施形態に係る製造方法によれば、偏光度を所定レベルに維持しつつ、視感透過率を高めた眼鏡レンズを実現することができる。
偏光度の測定方法は実施例に記載の方法による。
【0040】
〔第二の実施形態〕
上記した第一の実施形態では、眼鏡レンズのうち、レンズ基材の表面に偏光層を積層して形成した所謂「偏光レンズ」の製造方法について説明したが、本実施形態では、機能性層がフォトクロミック層である実施形態、即ち、レンズ基材の表面に偏光層と、フォトクロミック層の双方を積層して形成した所謂「偏光調光レンズ」の製造方法について説明する。
【0041】
<塗布液>、<ラビング処理>、<偏光層の形成>、<機能性層の形成>に関しては、上記した実施形態と同様であるため記載を省略する。
【0042】
<積層順序>
本開示の一実施形態に係る眼鏡レンズは、積層順序は特に限定されるものではない。本実施形態では、偏光層とフォトクロミック層とを、中間層を介して積層している。本実施形態の一態様では、レンズ基材により近い層として偏光層が含まれている、即ち、レンズ基材、偏光層、中間層、フォトクロミック層が、この順に積層されている。また、他の一態様では、レンズ基材により近い層としてフォトクロミック層が含まれている、即ち、レンズ基材、フォトクロミック層、中間層、偏光層が、この順に積層されている。フォトクロミック層の発色・退色の応答速度の観点からは、物体側(光の入射側)に近い層としてフォトクロミック層が含まれていることが好ましい。この観点から、前者の態様(レンズ基材、偏光層、中間層、フォトクロミック層の積層順)が好ましい。なお、レンズ基材の少なくとも一方の面側に上記の層が存在すれば、十分な機能を発揮することができる。
【0043】
<フォトクロミック層の形成>
本開示の一実施形態においては、偏光層の上層又は下層としてフォトクロミック色素を含有するフォトクロミック層を更に形成する。下層とは、レンズ基材により近い層を意味し、上層とはレンズ基材により遠い層を意味する。
フォトクロミック層は、好ましくは、後述の中間層を介して偏光層上に積層される。
(フォトクロミック色素)
フォトクロミック層は、少なくともフォトクロミック色素を含む。フォトクロミック色素としては、例えば、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物等のフォトクロミック化合物を何ら制限なく用いることができる。これらフォトクロミック化合物の中でも、クロメン化合物は、フォトクロミック特性の耐久性が他のフォトクロミック化合物に比べ高く更にフォトクロミック特性の発色濃度及び退色速度の向上が他のフォトクロミック化合物に比べて特に大きいため特に好適に使用することができる。更に、これらクロメン化合物中でもその分子量が540以上の化合物は、フォトクロミック特性の発色濃度及び退色速度の向上が他のクロメン化合物に比べて特に大きいため好適に使用することができる。フォトクロミック化合物は適切な発色色調を発現させるため、複数の種類のものを適宜混合して使用することができる。
クロメン化合物の中でも、以下の構造のクロメン化合物が好ましい。
【化1】

フォトクロミック層は、好ましくは、フォトクロミック色素を含むフォトクロミック色素を含む硬化性組成物(フォトクロミック層形成用硬化性組成物)を中間層上に塗布し、この組成物に硬化処理を施すことにより形成することができる。硬化性組成物とは、少なくとも硬化性化合物を含む組成物をいう。フォトクロミック層形成用硬化性組成物は、硬化性化合物100質量部に対して、好ましくは0.01〜20質量部、より好ましくは0.1〜10質量部のフォトクロミック色素を含むことができる。
【0044】
(硬化性化合物)
硬化性化合物は、光照射、加熱等の硬化処理によって硬化する(重合する)性質を有する化合物であればよい。入手のし易さ、硬化性の良さ等からは、アクリル系化合物が好ましく、(メタ)アクリロイル基及び(メタ)アクリロイルオキシ基からなる群から選ばれるラジカル重合性基を有する化合物がより好ましい。なお、(メタ)アクリロイルは、アクリロイルとメタクリロイルの両方を示し、(メタ)アクリロイルオキシとは、アクリロイルオキシとメタクリロイルオキシの両方を示す。
硬度調整の容易さ、膜形成後の耐溶剤性や硬度、耐熱性等の硬化体特性、又は発色濃度や退色速度等のフォトクロミック特性を良好なものとするため、硬化性化合物としては、単独重合体のLスケールロックウェル硬度が60以上を示すもの(以下、高硬度モノマーと称す場合がある)と、同じく単独重合体のLスケールロックウェル硬度が40以下を示すもの(以下、低硬度モノマーと称す場合がある)を併用することがより好ましい。Lスケールロックウェル硬度とは、JIS−B7726に従って測定される硬度を意味する。各モノマーの単独重合体についてこの測定を行うことにより、硬度条件を満足するかどうかを簡単に判断することができる。具体的には、モノマーを重合させて厚さ2mmの硬化体を得、これを25°Cの室内で1日保持した後にロックウェル硬度計を用いて、Lスケールロックウェル硬度を測定することにより容易に確認することができる。Lスケールロックウェル硬度の測定に供する重合体は、仕込んだ単量体の有する重合性基の90%以上が重合する条件で注型重合して得たものである。このような条件で重合された硬化体のLスケールロックウェル硬度は、ほぼ一定の値として測定される。高硬度モノマーは、硬化後の硬化体の耐溶剤性、硬度、耐熱性等を向上させる効果を有する。これらの効果をより効果的なものとするためには、単独重合体のLスケールロックウェル硬度が65〜130を示す硬化性化合物が好ましい。このような高硬度モノマーは、通常2〜15個、好ましくは2〜6個のラジカル重合性基を有する化合物である。
【0045】
高硬度モノマーの具体例として、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールへキサアクリレート、ウレタンオリゴマーテトラアクリレート、ウレタンオリゴマーへキサメタクリレート、ウレタンオリゴマーへキサアクリレート、ポリエステルオリゴマーへキサアクリレート、カプロラタトン変性ジペンタエリスリトールへキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等が挙げられる。
また、高硬度モノマーの具体例として、分子量2500〜3500の4官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー株式会社、EB80等)、分子量6000〜8000の4官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー株式会社、EB450等)、分子量45000〜55000の6官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユーシービー株式会社、EB1830等)、分子量10000の4官能ポリエステルオリゴマー(第一工業製薬株式会社、GX8488B等)等も挙げられる。
【0046】
また、高硬度モノマーの具体例として、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン等も挙げられる。
また、高硬度モノマーの具体例として、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,9−ノニレングリコールジメタクリレート、ネオペンチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチレングリコールジアクリレート等も挙げられる。
【0047】
また、高硬度モノマーの具体例として、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、テトラプロピレングリコールジメタクリレート等も挙げられる。
高硬度モノマーの具体例として、ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート、エチレングリコールビスグリシジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等も挙げられる。なお、上述の各化合物でも、置換基の組み合わせによっては単独重合体のLスケールロックウェル硬度が60未満のものがあるが、その場合には、これらの化合物は後述する低硬度モノマー又は中硬度モノマーに分類される。
【0048】
硬化体を強靭なものとし、またフォトクロミック化合物の退色速度を向上させるため、硬化性化合物として、低硬度モノマーを含有する。低硬度モノマーの具体例として、トリアルキレングリコールジアクリレート、テトラアルキレングリコールジアクリレート、ノナアルキレングリコールジアクリレート、ノナアルキレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。
また、低硬度モノマーの具体例として、平均分子量776の2,2−ビス(4−アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン等も挙げられる。また、低硬度モノマーの具体例として、平均分子量526のポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量360のポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量475のメチルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量1000のメチルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量375のポリプロピレングリコールメタクリレート、平均分子量430のポリプロピレンメタクリレート、平均分子量622のポリプロピレンメタクリレート、平均分子量620のメチルエーテルポリプロピレングリコールメタクリレート、平均分子量566のポリテトラメチレングリコールメタクリレート、平均分子量2034のオクチルフェニルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量610のノニルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量640のメチルエーテルポリエチレンチオグリコールメタクリレート、平均分子量498のパーフルオロへプチルエチレングリコールメタクリート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等も挙げられる。低硬度モノマーの具体例として、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、エチルへキシルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ラウリルアクリレート等も挙げられる。これらの低硬度モノマーの中でも、平均分子量475のメチルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量1000のメチルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、トリアルキレングリコールジアクリレート、テトラアルキレングリコールジアクリレート、ノナアルキレングリコールジアクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ラウリルアクリレートが特に好ましい。
【0049】
これらの化合物でも、置換基の組み合わせによっては単独重合体のLスケールロックウェル硬度が40以上を示すものがあるが、その場合には、これらの化合物は前述した高硬度モノマー又は後述する中硬度モノマーに分類される。高硬度モノマーでも低硬度モノマーでもないモノマー、すなわち、単独硬化体のLスケールロックウェル硬度が40を超え60未満を示すモノマー(以下、中硬度モノマーと称す場合がある)として、例えば、平均分子量650のポリテトラメチレングリコールジメタクリレート、平均分子量1400のポリテトラメチレングリコールジメタクリレート、ビス(2−メタクリロイルオキシエチルチオエチル)スルフイド等の2官能(メタ)アクリレート;ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、酒石酸ジアリル、エポキシこはく酸ジアリル、ジアリルフマレート、クロレンド酸ジアリル、へキサフタル酸ジアリル、アリルジグリコールカーボネート等の多価アリル化合物;1,2−ビス(メタクリロイルチオ)エタン、ビス(2−アクリロイルチオエチル)エーテル、1,4−ビス(メタクリロイルチオメチル)ベンゼン等の多価チオアクリル酸及び多価チオメタクリル酸エステル化合物;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸;メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、メタクリル酸ビフェニル等のアクリル酸及びメタクリル酸エステル化合物;フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;メチルチオアクリレート、ベンジルチオアクリレート、ベンジルチオメタクリレート等のチオアクリル酸及びチオメタクリル酸エステル化合物;スチレン、クロロスチレン、メチルスチレン、ビニルナフタレン、α-メチルスチレンダイマー、ブロモスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルピロリドン等のビニル化合物;オレイルメタクリレート、ネロールメタクリレート、ゲラニオールメタクリレート、リナロールメタクリレート、ファルネソールメタクリレート等の分子中に不飽和結合を有する炭化水素鎖の炭素数が6〜25の(メタ)アクリレートなどのラジカル重合性単官能単量体等が挙げられる。これらの中硬度モノマーを使用することも可能であり、高硬度モノマー、低硬度モノマー及び中硬度モノマーは適宜混合して使用できる。フォトクロミック層形成用硬化性組成物の硬化体の耐溶剤性や硬度、耐熱性等の硬化体特性、あるいは発色濃度や退色速度等のフォトクロミック特性のバランスを良好なものとするため、硬化性化合物中、低硬度モノマーは5〜70質量%、高硬度モノマーは5〜95質量%であることが好ましい。更に、配合される高硬度モノマーとして、ラジカル重合性基を3つ以上有する単量体が、その他の硬化性化合物中少なくとも5質量%以上配合されていることが特に好ましい。
【0050】
(重合開始剤)
フォトクロミック層形成用硬化性組成物は、通常、重合開始剤を含む。重合開始剤は、重合方法に応じて、公知の光重合開始剤及び熱重合開始剤から適宜選択することができる。
光重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾフェノール、アセトフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、2−イソプロピルチオオキサントン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチル)ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1等が挙げられ、1−ヒドロキシシクロへキシルフェニルケトン、2−イソプロピルチオオキサントン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドが好ましい。これら光重合開始剤は、複数の種類のものを適宜混合して使用することができる。光重合開始剤のフォトクロミック層形成用硬化性組成物全量に対する配合量としては、硬化性化合物100質量部に対して、通常0.001〜5質量部であり、0.1〜1質量部であると好ましい。
【0051】
また、フォトクロミック層を熱重合により形成する場合、使用可能な熱重合開始剤として、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;t−ブチルパーオキシ−2−エチルへキサノエート、t−ブチルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート等のパーオキシエステル;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルへキシルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルオキシカーボネート等のパーカーボネート類;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1,−アゾビス(シクロへキサン−1−カーボニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。熱重合開始剤の使用量は、重合条件や開始剤の種類、硬化性化合物の種類や組成によって異なるが、通常、硬化性化合物100質量部に対して0.01〜10質量部の範囲とすることが好適である。上記熱重合開始剤は単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0052】
(添加剤)
フォトクロミック層形成用硬化性組成物には、フォトクロミック色素の耐久性の向上、発色速度の向上、退色速度の向上や成形性の向上のために、更に、界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤が含まれてもよい。
【0053】
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の何れも使用できるが硬化性化合物への溶解性からノニオン系界面活性剤を用いるのが好ましい。好適に使用できるノニオン系界面活性剤を具体的に挙げると、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール・ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロ一ル・フィトスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン・ラノリンアルコール・ミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン・脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、単一鎖ポリオキシエチレンアルキルエーテル等である。界面活性剤の使用に当たっては、2種以上を混合して使用してもよい。界面活性剤の添加量は、硬化性化合物100質量部に対し、0.1〜20質量部の範囲が好ましい。
【0054】
酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤としては、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤、フェノール系ラジカル補足剤、イオウ系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等を好適に使用できる。これら酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤は、2種以上を混合して使用してもよい。更にこれらの非重合性化合物の使用に当たっては、界面活性剤と酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤を併用して使用してもよい。これら酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤の添加量は、硬化性化合物100質量部に対し、0.001〜20質量部の範囲が好ましい。高分子素材については、酸素存在下において、以下のメカニズムにより紫外線、熱等のエネルギーがきっかけとなり酸化劣化するという問題があることが知られている。まず高分子化合物がUV照射などの高エネルギーに暴露されると、高分子中にラジカルが発生する。するとそれが起点となって、新たなラジカルや過酸化物が発生する。一般に過酸化物は不安定なため、熱や光で容易に分解し、更に新たなラジカルを作り出す。このように、一度酸化が始まると、次々と連鎖的に酸化が起きるため高分子素材が劣化し機能低下をもたらされる。このようなメカニズムによって生じる酸化を防止するためには、(1)発生したラジカルを無効化する方法、(2)発生した過酸化物を無害な物質に分解し、新たなラジカルが発生しないようにする方法、が考えられる。そこで、高分子素材用の酸化防止剤としては、上記方法(1)により酸化を防止するためにラジカル補足能を有するもの(ラジカル補足剤)を用いることが考えられ、上記方法(2)により酸化を防止するために過酸化物分解能を有するもの(過酸化物分解剤)を用いることが考えられる。本実施形態では酸化防止剤としてラジカル補足能を有する、過酸化物分解能を有するもののいずれを用いてもよいが、ラジカル補足能を有する化合物を酸化防止剤として用いることが好ましい。フォトクロミック化合物は太陽光からの紫外線を吸収し、分子構造が変化することで着色し、熱や可視光線を吸収することで元の状態に戻る。この変化の経路において酸素存在下では酸素へのエネルギー移動を生じ、酸化力の強い酸素ラジカルが発生する。そこで、ラジカル補足能を有する化合物によってこの酸素ラジカルを補足することで、フォトクロミック層における酸化を有効に防止することができる。またラジカル補足剤添加によりラジカル重合の進行を抑制できるため、柔軟なフォトクロミック層を形成するためにもラジカル補足剤添加は有効である。以上の観点から好ましい添加剤としては、ヒンダードアミン化合物、ヒンダードフェノール化合物が挙げられる。上記化合物はラジカル補足能を発揮し得るため、柔軟なフォトクロミック層の形成に寄与することができるとともに、得られたフォトクロミック層の酸化を防止し耐久性を向上することができる。更に、ヒンダードアミン化合物又はヒンダードフェノール化合物の添加により、硬化させる際のフォトクロミック色素の劣化を防止することもできる。ヒンダードアミン化合物及びヒンダードフェノール化合物としては、公知の化合物を何ら制限なく用いることができる。ヒンダードアミン化合物の中でも、塗布用に用いる場合、特に、フォトクロミック色素の劣化防止効果を発現する化合物としては、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、旭電化工業株式会社製アデカスタブLA−52、LA−62、LA−77、LA−82等を挙げることができる。また、好ましいヒンダードフェノール化合物としては、例えばジブチルヒドロキシトルエン(BHT)が挙げられる。その添加量は、硬化性化合物100質量部に対し、例えば0.001〜20質量部の範囲であり、0.1〜10質量部の範囲が好ましく、より好適には、1〜5質量部の範囲である。前述のラジカル補足能を有する化合物等の各種添加剤は、フォトクロミック層形成用硬化性組成物に添加することができるが、フォトクロミック層形成後に含浸処理等によって添加することも可能である。この場合、ラジカル補足能を有する化合物については、物体側表面から含浸させることが好ましい。フォトクロミック層形成用硬化性組成物においては、成膜時の均一性を向上させるために、界面活性剤、レベリング剤等を含有させることが好ましく、特にレベリング性を有するシリコーン系・フッ素系レベリング剤を添加することが好ましい。その添加量としては、特に限定されないが、フォトクロミック層形成用硬化性組成物全量に対し、通常0.01〜1.0質量%であり、0.05〜0.5質量%の範囲が好ましい。
【0055】
好ましい添加剤の一例としては、ピリジン環含有化合物を挙げることができる。ピリジン環含有化合物は、フォトクロミック層の酸化を防止することにより、その耐久性を向上することのできる添加剤である。ピリジン環含有化合物、フォトクロミック層の耐久性をより向上する観点からは、ヒンダードアミンを使用することが好ましい。ここでヒンダードアミンとは、分子中に下記構造:
【化2】

を含むものであって、*で表される位置で水素原子等の原子又は他の構造と結合する。ヒンダードアミンは、上記構造を主鎖及び側鎖の一方又は両方に含む重合体であってもよい。また、ヒンダードアミンであるか否かにかかわらず、ピペリジン環含有化合物は、ピペリジン環を主鎖及び側鎖の一方又は両方に含む重合体であってもよい。また、含有されるピペリジン環は、上記構造のようにアルキル基等の置換基によって置換されてもよい。
【0056】
ピペリジン環含有化合物の分子量は、特に限定されるものではないが、例えば、4000以下であることができる。ピペリジン環含有化合物の分子量は、一態様では、1000未満であることができ、一態様では、1000以上であることができる。また、ピペリジン環含有化合物の分子量は、例えば100以上であることができるが、100未満であってもよい。なお、分子量は重合体(多量体)については、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で求められる重量平均分子量をいうか、又は分子量分布が上記範囲内にあることをいうものとする。また、本明細書に記載の平均分子量とは、上記のように求められる重量平均分子量をいうものとする。
【0057】
ピペリジン環含有化合物は、フォトクロミック層形成用硬化性組成物において、硬化性化合物100質量部に対し、例えば0.001〜20質量部含まれ、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは1〜5質量部含まれることができる。なおピペリジン環含有化合物は、フォトクロミック層形成用硬化性組成物のみに添加してもよく、フォトクロミック層形成用硬化性組成物には添加せず、後述する機能性層形成用組成物に添加してもよく、両組成物に添加してもよい。
【0058】
フォトクロミック層は、以上説明した成分を含むフォトクロミック層形成用硬化性組成物を中間層表面に塗布し、この組成物に硬化処理を施すことによって形成することができる。フォトクロミック層形成用硬化性組成物の調製方法は特に限定されず、所定量の各成分を秤取り混合することにより行うことができる。なお、各成分の添加順序は特に限定されず全ての成分を添加・混合してもよい。フォトクロミック層形成用硬化性組成物は、25℃での粘度が20〜500mPa・Sであることが好ましく、50〜300mPa・Sであることがより好ましく、60〜200mPa・Sであることが特に好ましい。この粘度範囲とすることにより、フォトクロミック層形成用硬化性組成物の塗布が用意となり、所望の厚さのフォトクロミック層を容易に得ることができる。フォトクロミック層形成用硬化性組成物の塗布は、スピンコート法等の公知の塗布方法によって行うことができる。
【0059】
フォトクロミック層形成用硬化性組成物を中間層上に塗布した後、この組成物に含まれる硬化性化合物の種類に応じた硬化処理(光照射、加熱等)を施すことにより、フォトクロミック層を形成して眼鏡レンズに調光機能を付与することができる。硬化処理は、公知の方法で行うことができる。フォトクロミック層の厚さは、フォトクロミック特性を良好に発現させる観点から、10μm以上であることが好ましく、20〜60μmであることがより好ましい。
【0060】
<中間層の形成>
中間層は、フォトクロミック層の耐久性を高めるため、偏光層と、フォトクロミック層との間に形成される。
中間層は、好ましくは少なくとも樹脂を含む層である。樹脂は、好ましくは水系樹脂である。なお、本明細書において、水系樹脂とは、少なくとも、この樹脂及び水系溶媒を含む水系塗布液(水系樹脂組成物)が乾燥すると固化する性質を有する樹脂をいうものとする。そして、水系樹脂組成物が乾燥して固化することによって形成される層が、水系樹脂層である。
【0061】
水系樹脂組成物に含まれる水系溶媒は、例えば水や水と極性溶媒等との混合物であり、好ましくは水である。また、水系樹脂組成物の固形分濃度は、液安定性及び製膜性の観点から、好ましくは1〜62質量%であり、より好ましくは5〜38質量%である。水系樹脂組成物は、水系樹脂の他に、必要に応じて、酸化防止剤、分散剤、可塑剤等の添加剤を含むことも可能である。また、市販されている水系樹脂組成物を、水、アルコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等の溶媒で希釈して使用してもよい。
【0062】
水系樹脂組成物は、水系樹脂を、水系溶媒に溶解した状態又は微粒子(好ましくはコロイド粒子)として分散した状態で含むことができる。水系樹脂組成物は、中でも、水系溶媒中(好ましくは水中)に水系樹脂が微粒子状に分散した分散液であることが望ましく、この場合、水系樹脂の粒子は、組成物の分散安定性の観点から0.3μm以下であることが好ましい。また、水系樹脂組成物のpHは、25℃において、5.5〜9.0程度であることが安定性の点から好ましい。25℃での粘度は、塗布適正の点から、5〜500mPa・Sであることが好ましく、10〜50mPa・Sであることがより好ましい。
【0063】
水系樹脂としては、水系ポリウレタン樹脂、水系アクリル樹脂、水系エポキシ樹脂等が挙げられ、偏光層とフォトクロミック層との間における剥離をより効果的に防止又は低減する観点からは、水系ポリウレタン樹脂が好ましい。即ち、中間層は、水系ポリウレタン樹脂層であることが好ましい。水系ポリウレタン樹脂を含有する水系樹脂組成物は、例えば高分子ポリオール化合物と有機ポリイソシアネート化合物とを、必要に応じて鎖延長剤とともに、反応に不活性で水との親和性の大きい溶媒中でウレタン化反応させてプレポリマーとし、このプレポリマーを中和後、鎖延長剤を含有する水系溶媒に分散させて高分子量化することにより調製することができる。市販されている水性ポリウレタンとしては、例えば、旭電化工業株式会社製の「アデカボンタイター」シリーズ、三井東圧化学株式会社製の「オレスター」シリーズ、大日本インキ化学工業株式会社製の「ボンディック」シリーズ、「ハイドラン」シリーズ、バイエル製の「インプラニール」シリーズ、日本ソフラン株式会社製の「ソフラネート」シリーズ、花王株式会社製の「ポイズ」シリーズ、三洋化成工業株式会社製の「サンプレン」シリーズ、保土谷化学工業株式会社製の「アイゼラックス」シリーズ、第一工業製薬株式会社製の「スーパーフレックス」シリーズ、ゼネカ株式会社製の「ネオレッツ」シリーズ等を用いることができる。
【0064】
水系ポリウレタン樹脂を含む水系樹脂組成物としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等のポリオールを基本骨格に持ち、カルボキシル基、スルホン基等のアニオン性基を持つ末端イソシアネートプレポリマーを水系溶媒に分散させた結果、得られたものが好ましい。
【0065】
以上説明した水系樹脂組成物を、好ましくはシランカップリング剤処理後の偏光層表面に塗布及び乾燥させることにより、偏光層上に中間層として、水系樹脂層を形成することができる。塗布方法としては、ディップ法、スピンコート法等の公知の塗布法を用いることができる。塗布条件は、所望の厚さの中間層を形成できるように適宜設定すればよい。水系樹脂層であるか否かを問わず、中間層の厚さは、偏光層とフォトクロミック層との間での剥離をより効果的に防止又は低減する観点から、5〜20μmの範囲であることが好ましく、7〜10μmの範囲であることがより好ましい。なお中間層は、一層のみであってもよく、組成の異なる二層以上であってもよい。偏光層とフォトクロミック層との間に二層以上の層を設ける場合、中間層の厚さとは、二層以上の層の総厚をいうものとする。なお、水系樹脂組成物の塗布前には、被塗布面である偏光層表面に対し、酸、アルカリ、各種有機溶媒等による化学的処理、プラズマ、紫外線、オゾン等による物理的処理、各種洗剤を用いる洗剤処理等の公知の表面処理の1つ以上を行うこともできる。
【0066】
水系樹脂組成物の塗布後、この組成物を乾燥させることにより、中間層として水系樹脂層を形成することができる。この乾燥は、例えば、室温〜100℃の雰囲気中に5分〜24時間、水系樹脂組成物を塗布した偏光層を含む部材を配置することにより行うことができる。なお室温とは、加熱・冷却等の温度制御なしの雰囲気温度をいうものとし、一般に、15〜25℃程度であるが、天候や季節によって変わり得るため、上記範囲に限定されるものではない。
【0067】
以上、中間層の好ましい態様として水系樹脂層について説明したが、中間層は、例えば、硬化性組成物に硬化処理を施し形成される硬化層であってもよい。
【0068】
[眼鏡]
上述眼鏡レンズは、従来の偏光フィルムのインサート成型により得られた眼鏡レンズと比較して、フレーム選択の幅を広げることができる。
本発明の一実施形態に係る眼鏡は、眼鏡レンズと、この眼鏡レンズを取り付けたフレームとを有する。
フレームとしては、例えば、一対のリムと、当該リム間に設けられたブリッチと、当該リムの片端に設けられた一対のテンプルとを有する。
リムは、ハーフリムであってもよい。本発明の一実施形態に係る眼鏡レンズによれば、ハーフリムを有するフレームであっても、使用することができる。
フレームとしては、いわゆるリムレスフレームであってもよい。この場合、眼鏡は、例えば、一対の眼鏡レンズと、当該眼鏡レンズ間に設けられたブリッチと、当該眼鏡レンズの片端に設けられた一対のテンプルとを有する。
【実施例】
【0069】
以下に、本開示を実施例により更に説明する。但し、本開示は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0070】
[実施例1]
偏光レンズの作成
(1)配列層の形成
レンズ基材として、メニスカス形状のポリチオウレタンレンズ(HOYA株式会社製 商品名EYAS、中心肉厚2.0mm厚、直径75mm、凸面の表面カーブ(平均値)約+0.8)を用いて、下記(6)に記載の方法でハードコート組成物を調製し、上記レンズ基材の凸面上にスピンコート法にて塗布した後、加熱温度90℃で120分間加熱し硬化処理することで、厚さ2μmのハードコート層を形成した。
上記ハードコート層上に、真空蒸着法により、厚さ約0.2μmのSiO膜を形成した。
形成されたSiO膜に、ナイロンを巻いたローラを、一定圧力で押し込みながら一方向に回転させることによって、一方向のラビング処理を施した。こうして、ハードコート層付レンズ基材の凸面に、配列層を形成した。
【0071】
(2)偏光層の形成
(2−1)偏光層形成用水系塗布液の塗布
上記乾燥後、ラビング処理面上に、水溶性の二色性色素(スターリングオプティクスインク社製、商品名 Varilight solution 2S, 有効分約4質量%水溶液)を、水で希釈して、二色性色素濃度を0.28質量%に調製した塗布液をスピンコート法により塗布した。スピンコート法による塗布は、塗布液を回転数285rpmで供給し、40秒間保持することで行った。
(2−2)非水溶化処理
次いで、塩化鉄濃度が0.15M、水酸化カルシウム濃度が0.2MであるpH3.5の水溶液を調製し、この水溶液に上記で得られたレンズをおよそ30秒間浸漬し、その後引き揚げ純水にて充分に洗浄を施した。この工程により、水溶性であった色素は難溶性に変換される。
(2−3)シランカップリング剤処理
上記(2−2)の後、レンズをγ−アミノプロピルトリエトキシシラン10質量%水溶液に15分間浸漬し、その後純水で3回洗浄し、加熱炉内(炉内温度85℃)で30分間加熱処理した後、加熱炉内から取り出し室温まで冷却した。
上記冷却後、レンズをγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2質量%水溶液に30分浸漬した後、加熱炉内(炉内温度60℃)で30分間加熱処理した。加熱処理後、レンズを加熱炉内から取り出し室温まで冷却した。
以上のシランカップリング処理後、形成された偏光層の厚さは、1μmであった。
【0072】
(3)水系ポリウレタン樹脂層(中間層)の形成
上記(2)で得られた偏光層表面に、水系樹脂組成物としてポリウレタン骨格にアクリル基を導入したポリウレタンの水分散液(ポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエマルジョン、粘度100mPa・s、固形分濃度38質量%)をスピンコート法により塗布した後、温度25℃、相対湿度50%の雰囲気下で15分間風乾燥処理し、厚さ約7μmの水系ポリウレタン樹脂層を形成した。
【0073】
(4)フォトクロミック層形成用硬化性組成物の調製
プラスチック製容器内で、トリメチロールプロパントリメタクリレート20質量部、BPEオリゴマー(2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン)35質量部、EB6A(ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート)10質量%、平均分子量532のポリエチレングリコールジアクリレート10質量部、グリシジルメタクリレート10質量部からなるラジカル重合性組成物を調製した。このラジカル重合性組成物100質量部に対し、フォトクロミック色素としてクロメン1を3質量部、ピペリジン環含有化合物(ヒンダードアミン(三共株式会社製サノールLS765(ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケード、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケード、平均分子量467)))を5質量部、紫外線重合開始剤としてCGI−1870(BASF社製)0.6質量部を添加して十分に撹拌混合を行った組成物に、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製KBM503)を撹拌しながら6質量部滴下した。その後、自転公転方式撹拌脱泡装置にて2分間脱泡することで、フォトクロミック層形成用硬化性組成物を得た。
【0074】
(5)フォトクロミック層の形成
上記(3)で形成した水系ポリウレタン樹脂層上に、(4)で調製したフォトクロミック層形成用硬化性組成物をスピンコート法で塗布した。その後、このレンズを窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)にて、UVランプ(Dバルブ)で波長405nmの紫外線を積算光量で3240mJ/cm(180mW/cm)3分間照射し、更に、加熱温度80℃で150分間効果処理を行い、厚さ約40μmのフォトクロミック層を形成した。
【0075】
(6)ハードコート組成物の調製
マグネティックスターラーを備えたガラス製の容器にγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン17質量部、メタノール30質量部、及び、水分散コロイダルシリカ(固形分40質量%、平均粒子径15μm)28質量部を加え十分に混合し、流温5℃で24時間撹拌を行った。次に、プロピレングリコールモノメチルエーテル15質量部、シリコーン系界面活性剤0.05質量部、及び、硬化剤としてアルミニウムアセチルアセトネートを1.5質量部加え、十分に撹拌した後、濾過を行ってハードコート組成物を調製した。
【0076】
(7)ハードコート層の形成
上記(5)で形成したフォトクロミック層上に、上記(6)で調製したハードコート組成物を用いて、ディッピング法(引き上げ速度20cm/分)で塗布を行い、加熱温度90℃で120分間加熱し硬化処理することで、厚さ3μmのハードコート層を形成した。
【0077】
以上の工程により、レンズ基材上に、ハードコート層、配列層、偏光層(シランカップリング剤処理済)、水系ポリウレタン樹脂層、フォトクロミック層、及びハードコート層をこの順に有する眼鏡レンズを得た。
【0078】
[実施例2]
塗布液の二色性色素濃度を0.46質量%とした点以外、実施例1と同様の方法により眼鏡レンズを得た。
【0079】
[実施例3]
塗布液の二色性色素濃度を1.04質量%とした点以外、実施例1と同様の方法により眼鏡レンズを得た。
【0080】
[比較例1]
塗布液の二色性色素濃度を1.72質量%とした点以外、実施例1と同様の方法により眼鏡レンズを得た。
【0081】
[比較例2]
塗布液の二色性色素濃度を2.84質量%とした点以外、実施例1と同様の方法により眼鏡レンズを得た。
【0082】
[比較例3]
水溶性の二色性色素(スターリングオプティクスインク社製商品名 Varilight solution 2S, 有効分約4質量%水溶液)を、水で希釈せずそのまま使用して、塗布液の二色性色素濃度を4質量%とした点以外、実施例1と同様の方法により眼鏡レンズを得た。
【0083】
[比較例4]
偏光層形成用水系塗布液を回転数390rpmで供給した点以外、比較例1と同様の方法により眼鏡レンズを得た。
【0084】
[比較例5]
偏光層形成用水系塗布液を回転数420rpmで供給した点以外、比較例1と同様の方法により眼鏡レンズを得た。
【0085】
[比較例6]
偏光層形成用水系塗布液を回転数450rpmで供給した点以外、比較例1と同様の方法により眼鏡レンズを得た。
【0086】
[実施例4]
偏光層形成用水系塗布液を回転数390rpmで供給した点以外、実施例1と同様の方法により眼鏡レンズを得た。
【0087】
[実施例5]
偏光層形成用水系塗布液を回転数450rpmで供給した点以外、実施例1と同様の方法により眼鏡レンズを得た。
【0088】
測定方法
実施例及び比較例で作成した眼鏡レンズに関し、各種測定方法は、以下の方法で行った。
【0089】
(1)視感透過率の測定
視感透過率は、JIS T7333:2005の「6.6偏光レンズの試験方法」に従って測定する。なお、フォトクロミック層を有する場合、「6.5.3.1」に規定された方法に従って、「色が薄い状態」としてから、「6.6偏光レンズの試験方法」に従って測定する。
【0090】
(2)偏光度
偏光度(Peff)は、ISO8980−3に従って、紫外可視近赤外分光光度計「V−660」(日本分光株式会社製)を使用し、直線偏光光に対して偏光素子の透過軸が平行方向のときの視感透過率(T//)及び偏光素子の透過軸が直行方向のときの視感透過率(T)を求め、次式により算出することで評価する。視感透過率(T//)及び視感透過率(T)は、可視分光光度計と偏光子(グラントムソンプリズム)を用いて測定する。測定光は、レンズ凸面側から入射させる。
eff(%)=〔(T//−T)/(T//+T)〕×100
【0091】
以上の結果を、表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
表1の実施例と比較例の対比から、二色性色素を0.04〜1.5質量%含有する塗布液を、スピンコート法により、回転数200〜600rpmで塗布して偏光層を形成することにより、視感透過率が高く、かつ、十分な偏光機能を備えた眼鏡レンズが得られることが確認された。
【0094】
また、表1の比較例3、4、5、6のグループ及び、実施例1、4、5のグループの対比から、二色性色素の濃度が低いほど、回転数の変化が、偏光度及び視感透過率へ与える影響が少ないことが確認された。
【0095】
最後に、本開示の実施の形態を総括する。
【0096】
ラビング処理面上に、二色性色素を0.04〜1.5質量%含有する塗布液を、スピンコート法によって、回転数200〜600rpmで塗布して偏光層を形成することにより、視感透過率が高く、かつ、高い偏光機能を有する眼鏡レンズを実現することができる。
0.04〜1.5質量%という低濃度の塗布液を使用することで、製造ロットごとの偏光度のばらつきを低減することができる。
また、ラビング処理面上に、低濃度の二色性色素の塗布液を塗布することで、高い透過率を実現しつつ、同時に、ギラツキを低減するための偏光度を維持することができる。
眼鏡レンズにおける視感透過率の向上は、材料自体(例えば、二色性色素)の新規開発によって行うことも可能であるが、材料自体の新規開発には、多大なコストと時間がかかる欠点がある。これに対し、本開示の一実施形態によれば、既存の材料を用いつつ、製造条件の変更により、眼鏡レンズにおける視感透過率の向上を実現することができる。
【0097】
なお、特許文献2のように、偏光フィルムの表裏面にレンズ基材層を形成するためには、通常、レンズ基材と同径のリング状のガスケットの内周側に、予め半球面状に加圧成形された偏光フィルムの周縁を保持し、この偏光フィルムの表裏面から所定間隔を開けて一対の凹・凸形のレンズ面形成用のモールドをガスケットと一体に固定し、一対のモールド間のレンズ厚みを設定する空隙(キャビティー)にモノマーを注入し、所用温度に所要時間保持して重合反応させ、更に硬化した樹脂と偏光素子とを一体化して成形する製造法が用いられる。この技術では、樹脂の硬化に時間を要するため、受注から納品までに時間がかかるという欠点や、偏光フィルムへのダメージを避けるため、樹脂硬化後のレンズ加工の際の制限(穴あけ加工は不可、大幅な加工は不可等)が大きく、フレーム選択の自由度が低いという欠点がある。これに対し、二色性色素を含有する塗布液をレンズ基材上に塗布して偏光層を形成する本開示の一実施形態によれば、より短い納期を実現でき、また、フレーム選択の幅を広げることができる。
【0098】
フォトクロミック色素を含有するフォトクロミック層を形成することで、偏光性能と調光性能を兼ね備えた眼鏡レンズが得られる。偏光層による視感透過率の低下を抑えることができるため、調光性能を有していたとしても、高い視感透過率が得られるため、退色時には高い視感透過率を維持しつつ、十分な調光性能が得られる。
【0099】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。