特許第6544765号(P6544765)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6544765
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】網状肢端色素沈着症治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20190705BHJP
   A61K 31/198 20060101ALI20190705BHJP
   A61K 31/4436 20060101ALI20190705BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20190705BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190705BHJP
【FI】
   A61K31/192
   A61K31/198
   A61K31/4436
   A61P17/00
   A61P43/00 111
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-93953(P2015-93953)
(22)【出願日】2015年5月1日
(65)【公開番号】特開2015-227330(P2015-227330A)
(43)【公開日】2015年12月17日
【審査請求日】2018年3月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-95916(P2014-95916)
(32)【優先日】2014年5月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104802
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 尚人
(72)【発明者】
【氏名】河野 通浩
(72)【発明者】
【氏名】秋山 真志
【審査官】 小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】 Human Molecular Genetics,2013年,Vol.22,No.17,p3524−3533
【文献】 Experimental Brain Research,2012年,Vol.217,No.3−4,p331−341
【文献】 FASEB Journal,2009年,Vol.23,No.6,p1643−1654
【文献】 Development,2011年,Vol.138,No.3,p495−505
【文献】 Pigment Cell and Melanoma Research,2012年,Vol.25,No.5,p555−565
【文献】 Hormone and Metabolic Research,2007年,Vol.39,No.2,p71−84
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/192
A61K 31/198
A61K 31/4436
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚細胞におけるADAM10の発現量を上昇させることができる化合物を有効成分として含有することを特徴とする網状肢端色素沈着症治療剤又は予防剤であって、かかる化合物がアダパレン、タミバロテン、又はタザロテンである、当該治療剤又は予防剤
【請求項2】
前記化合物がアダパレン、又はタザロテンである、請求項1に記載の治療剤又は予防剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網状肢端色素沈着症治療剤又はその予防剤、及びその薬剤スクリーニングなどに用いることができる病態モデル動物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
網状肢端色素沈着症(reticulate acropigmentation of Kitamura:RAK)は、手足を中心に点状から網目状に色素沈着する遺伝性色素異常症の一種である。1943年に北村らによって初めて報告された。当初は日本での報告が主であったが、徐々に国内外で報告されるようになった。
RAKは、幼少時から手足、腕、もも、首にかけて網目状の皮膚のシミができ、広がっていく病気である。患者の7割ほどが20歳までに発症し、徐々に肘膝や首にも広がっていく。中年になるまで拡大し、その後ようやく拡大は止まる。そのほか掌蹠の点状の陥凹も見られる。病理組織学的には、色素班部は表皮突起が延長して、その先端に色素沈着が認められる。炎症細胞の浸潤はわずかである。
このRAKの有効な治療法は、残念ながら未だ確立されておらず、該治療法ないし治療薬が望まれている。
【0003】
このRAKは常染色体優性遺伝形式を示すことは以前から分かっていた。最近になって、本発明者らがその遺伝子変異が蛋白分解酵素ADAM10であることを突き止めた(例えば、非特許文献1参照)。
ADAM10は、細胞表面に存在するディスインテグリンとメタロプロテアーゼドメインを有するADAMファミリーに属する蛋白質の一つであり、様々な膜蛋白質の細胞外ドメインの一部を切断することにより、切断を受けた蛋白質の働きを活性化させたり、抑制させたりする働きを持つ。
ADAM10の遺伝子番号は、米国国立生物工学情報センター(NCBI)によれば、NM_001110.2であり、Ensemblによれば、ENST00000260408である。
なお、自然発生したヘテロ接合性ADAM10領域の大規模ゲノムDNAを全身性に欠損したヘアレスマウスは、体幹四肢にRAKの色素斑に類似した小色素斑が散在することが知られている(非特許文献3参照)。
【0004】
レチノイドは、レチノイン酸受容体又はレチノイドX受容体に結合してレチノイン酸活性を有する一群の化合物である。その代表例として、ビタミンAを挙げることができる。レチノイドが結合したレチノイン酸受容体やレチノイドX受容体は、正常細胞及び腫瘍細胞の増殖や分化を制御する転写因子として機能する。
現在、レチノイドは、主に外用剤ないし内服剤として、にきびやしわなどの皮膚科治療薬として広く使用されている。また、急性全骨髄性白血病の治療薬としても使用されている。
このレチノイドの一つであるアシトレチンが神経芽細胞腫細胞においてADAM10の発現を上昇させたとの報告がある(非特許文献2参照)。しかしながら、このようなレチノイドが皮膚細胞においてもADAM10の発現を上昇させるかどうかについては不明である。ましてやレチノイドが、RAKの治療薬として有効かどうかについては全く明らかでない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kono M et al.,“Whole−exome sequencing identifies ADAM10 mutations as a cause of reticulate acropigmentation of Kitamura, a clinical entity distinct from Dowling−Degos disease”,Hum.Mol.Genet.,22(17):3524−3533,2013.
【非特許文献2】Tippmann et al.,“Up−regulation of the α−secretase ADAM10 by retinoic acid receptors and acitretin”,FASEB J.,June 2009 23:1643−1654,2009.
【非特許文献3】Tharmarajah G, Faas L, Reiss K, Saftig P, Young A, Van Raamsdonk CD.,“Adam10 haploinsufficiency causes freckle−like macules in Hairless mice”,Pigment Cell Melanoma Res.2012 Sep;25(5):555−65.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、主として、網状肢端色素沈着症(RAK)の治療又は予防のために用いうる薬剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、網状肢端色素沈着症の原因遺伝子がADAM10遺伝子であることを先に突き止めたが(非特許文献1など)、それを基に鋭意検討を重ねた結果、後述の通り、レチノイドが角化細胞や線維芽細胞、色素細胞といった皮膚を構成する細胞群においていずれもADAM10の発現を上昇させることを初めて見出し、本発明を完成した。そして、実際に、ADAM10の発現量を上昇させるレチノイドが、RAK様色素斑が散在する病態モデルマウスの色素斑を消失させることを、本発明者らは確認した。
【0008】
本発明として、例えば、次のものを挙げることができる。
[1]ADAM10の発現量を上昇されることができる化合物(以下、「ADAM10発現上昇薬」という)を有効成分として含有することを特徴とする、網状肢端色素沈着症治療剤又は予防剤(以下、まとめて「本発明治療剤」という)。
[2]皮膚の細胞全体又はその一部構成細胞内のADAM10遺伝子の全部又は一部が変異を生じる、ないしはそれらを改変することによって作製され、体幹ないし四肢に色素斑が散在していることを特徴とする、病態モデル動物(以下、「本発明モデル動物」という)。
[3]上記[2]に記載の病態モデル動物を用いることを特徴とする、網状肢端色素沈着症の治療剤又は予防剤をスクリーニングする方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明治療剤によれば、網状肢端色素沈着症を治療ないし改善することができる。また、その発症を予防することができる。
本発明モデル動物によれば、網状肢端色素沈着症の治療剤ないし予防剤をスクリーニングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)におけるADAM10遺伝子の相対的発現量を表す。
図2】正常ヒト線維芽細胞(NHDF)におけるADAM10遺伝子の相対的発現量を表す。
図3】正常ヒト色素細胞(NHEM)におけるADAM10遺伝子の相対的発現量を表す。
図4】本発明モデル動物(遺伝子改変ヘアレスマウス)の写真である。左写真は薬物投与前の状態を、右写真は薬物投与後の状態を、それぞれ表す。
図5】本発明モデル動物(遺伝子改変ヘアレスマウス)の写真である。左写真は薬物投与前の状態を、右写真は薬物投与後の状態を、それぞれ表す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1 本発明治療剤について
本発明治療剤は、ADAM10発現上昇薬を有効成分として含有することを特徴とする。
ADAM10発現上昇薬としては、ADAM10の発現量を上昇させることができる化合物であれば特に制限されないが、特に皮膚細胞において、ADAM10の発現量を上昇されることができる化合物が好ましい。
具体的なADAM10発現上昇薬としては、例えば、レチノイドを挙げることができる。レチノイドの具体例としては、トレチノイン、アリトレチノイン、アダパレン、ビタミンA、イソトレチノイン、酢酸レチノール、アシトレチン、タミバロテン、タザロテン、エトレチナート、トコレチナート、ベザロテン、イソトレチノイン アニサチル、プロピオン酸レチノール、パルミチン酸レチノール、モテレチナイド、レチノイン酸p−ヒドロキシアニリド、SR11237、TTNPB、CGP52608、A1120、フェンレチニド、EC23、Ch55、BMS753、AM80、AM580、AC55649、AC261066、CD437、CD1530、BEXAROTENE、LG10506及びCD3254を挙げることができる。この中、トレチノイン、アリトレチノイン、アダパレン、ビタミンA、イソトレチノイン、酢酸レチノール、アシトレチン、タミバロテン、タザロテン、エトレチナート、トコレチナート、ベザロテン、イソトレチノイン アニサチル、プロピオン酸レチノール、パルミチン酸レチノール、モテレチナイド、レチノイン酸p−ヒドロキシアニリドが好ましく、またアダパレン、エトレチナート、タミバロテン、タザロテンが特に好ましい。
【0012】
本発明治療剤は、常法により製造することができる。例えば、レチノイドなどのADAM10発現上昇薬を、そのまま又は医薬上許容される無毒性かつ不活性な担体中に、0.01〜99.5重量%の範囲内で、好ましくは0.5〜90重量%の範囲内で常法により配合することによって製造することができる。
上記担体として、固形、半固形又は液状の希釈剤、充填剤、その他の処方用の助剤を挙げることができる。これらを一種又は二種以上用いることができる。
【0013】
本発明治療剤は、固形又は液状の用量単位で、皮膚に適用する外用剤や内服剤等の経口投与製剤、注射剤、点滴製剤、坐剤等の外用剤以外の非経口投与製剤などの形態をとることができる。中でも、外用剤が好ましい。
【0014】
本発明治療剤が外用剤の形態である場合、かかる外用剤としては、皮膚の局所表面に有効成分を直接投与できる剤形であれば特に限定されず、例えば、軟膏剤、液剤(懸濁剤、乳剤、ローション剤等)、パップ剤、テープ剤、エアゾール剤、及び外用散剤を挙げることができる。
【0015】
これらの製剤を調製するに際して、有効成分であるADAM10発現上昇薬以外に、通常の外用剤を調製するのに使用される各種配合成分を適宜選択して使用することができる。そのような成分として、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、ないしローション剤の場合には、白色ワセリン、黄色ワセリン、ラノリン、サラシミツロウ、セタノール、ステアリルアルコール、ステアリン酸、硬化油、ゲル化炭化水素、ポリエチレングリコール、流動パラフィン、スクワラン等の基剤;オレイン酸、ミリスチン酸イソプロピル、トリイソオクタン酸グリセリン、クロタミトン、セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族アルコール、植物油等の溶剤および溶解補助剤;トコフェロール誘導体、L−アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等の酸化防止剤;パラヒドロキシ安息香酸エステル等の防腐剤;グリセリン、プロピレングリコール、ヒアルロン酸ナトリウム等の保湿剤;ポリオキ シエチレン誘導体、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等の界面活性剤;カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩類、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の増粘剤等を挙げることができる。更に、所望により安定剤、保存剤、吸収促進剤、pH調整剤、その他の適当な添加剤を配合することができる。
【0016】
また、パップ剤については、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸共重合体等の粘着付与剤;硫酸アルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、塩化アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ジヒドロキシアルミニウムアセテート等の架橋剤;ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩類、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の増粘剤;グリセリン、ポリエチレングリコール(マクロゴール)、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール等の多価アルコール類;ポリオキシエチレン誘導体等の界面活性剤;L−メントール等の香料;パラヒドロキシ安息香酸エステル等の防腐剤;精製水等を挙げることができる。更に、所望により安定剤、保存剤、吸収促進剤、pH調整剤、その他の適当な添加剤を配合することができる。
【0017】
テープ剤については、天然ゴム、イソプレンゴム、ポリイソブチレン、ポリブテン、液状ポリイソプレン、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SISブロック共重合体)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体や、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(共)重合体、ポリアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等のアクリル樹脂等の粘着剤;脂環族飽和炭化水素系樹脂、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂等の粘着付与樹脂;液状ゴム、流動パラフィン等の軟化剤;ジブチルヒドロキシトルエン等の酸化防止剤;プロピレングリコール等の多価アルコール;オレイン酸等の吸収促進剤;ポリオキシエチレン誘導体等の界面活性剤、その他の適当な添加剤を配合することができる。また、ポリアクリル酸ナトリウムやポリビニルアルコールのような含水可能な高分子と少量の精製水を加えて含水テープ剤とすることもできる。この場合にあっても、更に、所望により安定剤、保存剤、吸収促進剤、pH調整剤、その他の適当な添加剤を配合することができる。
【0018】
エアゾール剤については、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、懸濁剤、乳剤、液剤及びローション剤等の調製に用いられる白色ワセリン、黄色ワセリン、ラノリン、サラシミツロウ、セタノール、ステアリルアルコール、ステアリン酸、硬化油、ゲル化炭化水素、ポリエチレングリコール、流動パラフィン、スクワラン等の基剤;オレイン酸、ミリスチン酸イソプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、セバシン酸イソプロピル、トリイソオクタン酸グリセリン、クロタミトン、セバシン酸ジエチル、ラウリン酸ヘキシル、脂肪酸、脂肪酸エステル、脂肪族アルコール、植物油等の溶剤及び溶解補助剤;トコフェロール誘導体、L−アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等の酸化防止剤;パラヒドロキシ安息香酸エステル等の防腐剤;グリセリン、プロピレングリコール、ヒアルロン酸ナトリウム等の保湿剤;ポリオキシエチレン誘導体、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン等の界面活性剤;カルボキシビニルポリマー、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩類、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の増粘剤;さらに、各種安定剤、緩衝剤、矯味剤、 懸濁化剤、乳化剤、芳香剤、保存剤、溶解補助剤、その他の適当な添加剤を配合することができる。
【0019】
外用散剤については、バレンショデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、タルク、酸化亜鉛等の賦形剤又はその他の適当な添加剤を配合することができる。この場合にあっても、更に、所望により各種安定剤、保存剤、吸収促進剤、その他の適当な添加剤を配合することができる。
【0020】
上記外用剤を調製する方法としては特に限定されず、所望の剤形に応じて、各成分及び必要に応じた基剤成分をよく混練する等の常法により製造することができる。また、パップ剤やテープ剤の調製においては、混練した混合物を剥離紙上に展延、乾燥し、さらに柔軟な支持体と貼り合わせ、所望の大きさに裁断することにより調製することができる。
【0021】
上記外用剤は、例えば、軟膏剤、液剤(懸濁剤、乳剤、ローション剤等)、エアゾール剤及び外用散剤の場合には、皮膚患部に塗布等により直接適用したり、あるいは、布等の支持体に塗布又は含浸させて適用したりするなど、常法により使用することができる。また、パップ剤やテープ剤の場合には、これらの製剤を皮膚患部に直接貼付することにより使用することができる。
【0022】
本発明治療剤に係る外用剤の使用量は、含有有効成分の種類や配合量、患者の症状や年齢等により異なるが、一般的には、成人に対して数日に1回〜1日数回適用することができる。好ましくは、1日1〜3回適用するが、症状によっては投与回数を減らしたり増やしたりすることもできる。
【0023】
有効成分の配合量は、外用剤としての剤型等によって異なり、一概に限定できないが、目的とする治療ないし予防効果が発揮できるのに十分な量であればよい。具体的な配合量としては、 製剤全重量に対して0.01〜60重量%であり、好ましくは0.1〜40重量%、より好ましくは1〜30重量%である。配合量が60重量%より多くなると、外用剤としての物性の保持が困難なものとなり、それ以上配合しても効果の増大は望めない。また配合量が0.1重量%未満であると、目的とする治療ないし予防効果を十分に発揮することができないおそれがある。なお、上記の製剤全重量とは、外用剤がパップ剤の場合には膏体全重量であり、テープ剤の場合には粘着剤全重量を意味する。
【0024】
本発明治療剤が内服剤等の経口投与製剤の形態である場合、かかる経口投与製剤としては特に限定されず、例えば、末剤、カプセル剤、錠剤、糖衣剤、顆粒剤、散剤、懸濁剤、液剤、シロップ剤、エリキシル剤、トローチ剤を挙げることができる。
【0025】
末剤については、ADAM10発現上昇薬を適当な細かさにすることにより製造することができる。
【0026】
散剤については、ADAM10発現上昇薬を適当な細かさにし、次いで同様に細かくした医薬用担体、例えば、澱粉、マンニトールのような可食性炭水化物と混合することにより製造することができる。任意に風味剤、保存剤、分散剤、着色剤、香料等を添加することができる。
【0027】
カプセル剤については、まず上述のようにして粉末状となった末剤や散剤あるいは錠剤の項で述べるように顆粒化したものを、例えば、ゼラチンカプセルのようなカプセル外皮の中へ充填することにより製造することができる。滑沢剤や流動化剤、例えば、コロイド状のシリカ、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、固形のポリエチレングリコールを粉末状のものに混合し、その後充填操作を行うことにより製造することもできる。崩壊剤や可溶化剤、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウムを添加すれば、カプセル剤が摂取されたときの医薬の有効性を改善することができる。また、ADAM10発現上昇薬の微粉末を植物油、ポリエチレングリコール、グリセリン、界面活性剤中に懸濁分散し、これをゼラチンシートで包んで軟カプセル剤とすることもできる。
【0028】
錠剤については、賦形剤を加えて粉末混合物を作り、顆粒化もしくはスラグ化し、次いで崩壊剤又は滑沢剤を加えた後、打錠することにより製造することができる。また、上述のように顆粒化やスラグ化の工程を経ることなく、ADAM10発現上昇薬を流動性の不活性担体と混合した後に直接打錠することによっても製造することができる。
こうして製造される錠剤にフィルムコーティングや糖衣を施すことができる。シェラックの密閉被膜からなる透明又は半透明の保護被覆、糖や高分子材料の被覆及びワックスよりなる磨上被覆をも用いることができる。
【0029】
上記粉末混合物は、適当に粉末化された物質を上述の希釈剤やベースと混合することにより製造することができる。必要に応じて、結合剤(例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール)、溶解遅延化剤(例えば、パラフィン)、再吸収剤(例えば、四級塩)、吸着剤(例えばベントナイト、カオリン)等を添加することができる。具体的には、まず結合剤、例えば、シロップ、澱粉糊、アラビアゴム、セルロース溶液又は高分子物質溶液で湿らせ、攪拌混合し、これを乾燥、粉砕して顆粒とすることができる。このように粉末を顆粒化する代わりに、まず打錠機にかけた後、得られる不完全な形態のスラグを破砕して顆粒にすることも可能である。このようにして作られる顆粒に、滑沢剤としてステアリン酸、ステアリン酸塩、タルク、ミネラルオイル等を添加することにより、互いに付着することを防ぐことができる。
【0030】
他の経口投与製剤、例えば、液剤、シロップ剤、トローチ剤、エリキシル剤についてもまた、その一定量がADAM10発現上昇薬の一定量を含有するように用量単位形態にすることができる。
【0031】
シロップ剤については、ADAM10発現上昇薬等を適当な香味水溶液に溶解して製造することができる。エリキシル剤については、非毒性のアルコール性担体を用いることにより製造することができる。
【0032】
懸濁剤については、ADAM10発現上昇薬等を非毒性担体中に分散させることにより製造することができる。必要に応じて、可溶化剤や乳化剤(例えば、エトキシ化されたイソステアリルアルコール類、ポリオキシエチレンソルビトールエステル類)、保存剤、風味付与剤(例えば、ペパーミント油、サッカリン)等を添加することができる。
【0033】
必要であれば、経口投与のための用量単位処方をマイクロカプセル化することができる。当該処方はまた、被覆をしたり、高分子・ワックス等中に埋め込んだりすることにより作用時間の延長や持続放出をもたらすこともできる。
【0034】
本発明治療剤が注射剤や点滴製剤の形態である場合、かかる注射剤等は、用時調製の注射用キットないし点滴用キットであってもよい。
【0035】
外用剤以外の非経口投与製剤は、皮下・筋肉又は静脈内注射用とした液状用量単位形態、例えば、溶液や懸濁液の形態をとることができる。当該非経口投与製剤は、ADAM10発現上昇薬の一定量を、注射の目的に適合する非毒性の液状担体、例えば、水性や油性の媒体に懸濁し又は溶解し、次いで当該懸濁液又は溶液を滅菌することにより製造することができる。注射液を等張にするために非毒性の塩や塩溶液を添加することができる。また、安定剤、保存剤、乳化剤等を添加することもできる。同様に点滴製剤とすることもできる。
【0036】
坐剤については、ADAM10発現上昇薬を低融点の水に可溶又は不溶の固体、例えば、ポリエチレングリコール、カカオ脂、半合成の油脂[例えば、ウイテプゾール(登録商標)]、高級エステル類(例えば、パルミチン酸ミリスチルエステル)又はそれらの混合物に溶解又は懸濁させて製造することができる。
【0037】
本発明治療剤が外用剤以外の形態である場合の投与量は、体重、年齢等の患者の状態、剤形、投与方法、投与経路、症状の程度等によって異なるが、一般的には成人に対して、レチノイドなどのADAM10発現上昇薬の用量として、経口剤の場合、1回当たり約0.005mg/kg〜約10mg/kgの範囲内が適当であり、約0.01mg/kg〜約5mg/kgの範囲内が好ましく、約0.02mg/kg〜約2mg/kgの範囲内がより好ましく、非経口剤の場合、1回当たり約0.0005mg/kg〜約1mg/kgの範囲内が適当であり、約0.001mg/kg〜約0.5mg/kgの範囲内が好ましく、約0.002mg/kg〜約0.2mg/kgの範囲内がより好ましい。場合によっては、これ以下でも足りるし、また逆にこれ以上の用量を必要とするときもある。
【0038】
本発明治療剤が外用剤以外の形態である場合の投与回数は、ADAM10発現上昇薬の種類や用量、剤形、患者の状態等によって異なるが、例えば、1日1回〜数回又は1日〜数日間に1回の間隔で投与することができる。
【0039】
2 本発明モデル動物について
本発明モデル動物は、皮膚の細胞全体又はその一部構成細胞内のADAM10遺伝子の全部又は一部が変異を生じる、ないしはそれらを改変することによって作製され、体幹ないし四肢に色素斑が散在していることを特徴とする。
本発明における「皮膚の細胞」としては、表皮の角化細胞や色素細胞、また真皮の線維芽細胞を挙げることができ、好ましくは角化細胞、色素細胞であり、より好ましくは角化細胞である。また、ADAM10遺伝子の変異を生じる、ないしはそれらを改変すること等は、皮膚細胞特異的であることが好ましい。
【0040】
本発明モデル動物は、皮膚の細胞全体又はその一部構成細胞内のADAM10遺伝子を変異・改変等することにより作製されればよく、皮膚の細胞全体又はその一部構成細胞以外の他の部位のADAM10遺伝子は正常であってもよい。好ましい本発明モデル動物としては、表皮の一部を成す角化細胞内特異的にADAM10遺伝子の全部又は一部が変異を生じる、ないしはそれらを改変することによって作製され、体幹ないし四肢に色素斑が散在しているものを挙げることができる。
【0041】
ここで「変異」には、(大規模)欠損や遺伝子組換えが含まれ、かかる欠損としては、ヘテロ接合性欠損とホモ接合性欠損を挙げることができ、そのいずれであってもよいが、ヘテロ接合性欠損が好ましい。また、ADAM10タンパク質が正常に生成されなければよいので、ADAM10遺伝子全体を欠損する必要は特になく、正常に生成されなければADAM10遺伝子の一部塩基配列を欠損するのみであってもよい。また変異ないし改変は、ADAM10タンパク質が正常に生成されないのような遺伝子操作であり、具体的な変異ないし改変としては、ADAM10遺伝子の全部又は一部の塩基配列を置換、欠失、又は挿入することを挙げることができる。
【0042】
なお、本発明モデル動物には、作製方法を問わず、皮膚の細胞全体又はその一部構成細胞に特異的にADAM10遺伝子の異常があり、体幹ないし四肢に色素斑が散在しているものも含まれる。ここで「異常」とは、ADAM10タンパク質が正常に生成されないような、ADAM10遺伝子の塩基配列の全部又は一部に置換、欠失、挿入などの遺伝子変異や改変がある状態をいう。
【0043】
色素斑は、通常、点状色素斑もしくは一部融合した網目状の色素斑などである。かかる色素斑は、ヒトの網状肢端色素沈着症の皮膚症状に類似したものである。
【0044】
本発明モデル動物に係る「動物」としては、例えば、齧歯類を挙げることができ、齧歯類が好ましく、ヘアレスの齧歯類がより好ましい。具体的な当該動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモットを挙げることができる。この中、(ヘアレス)マウス、(ヘアレス)ラットが好ましい。
【0045】
本発明モデル動物は、公知の方法により作製することができる。例えば、コンディショナルノックアウトマウスを作製するために一般的に用いられているCre−loxP部位特異的組換えシステムを利用した遺伝子改変マウスの交配により作製することができる。
【0046】
本発明モデル動物は、ヒトの網状肢端色素沈着症(RAK)の原因遺伝子であるADAM10遺伝子に欠損等の異常があり、RAKの皮膚症状に類似した点状もしくは網目状の色素斑が散在していることなどから、RAKの治療剤又は予防剤をスクリーニングするために用いることができる。
具体的な上記スクリーニング方法は、例えば、被検薬(通常は外用剤の形態)を本発明モデル動物の色素斑の散在する皮膚表面に、通常数日に1回から1日に数回、とくに1日1〜2回の範囲内で適当な期間、例えば1日〜30日の間、適量を塗布し、色素斑の経過状態を肉眼で観察することにより行うことができる。
【実施例】
【0047】
次に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例1 皮膚細胞における各種レチノイドによるADAM10発現量の検討
[材料および実験方法]
(1)材料:ADAM10発現上昇薬(レチノイド)
・all−trans−Retinoic Acid(atRA、Tretinoin:トレチノイン)
・9−cis−Retinoic Acid(Alitretinoin:アリトレチノイン)
上記化合物は和光純薬株式会社から入手した。
・Adapalene(アダパレン)
・Retinyl acetate(Retinol acetate:酢酸レチノール)
・Tamibarotene(タミバロテン)
上記化合物はSigma−Aldrich社から入手した。
・Tazarotene(タザロテン)
上記化合物はSigma−Aldrich社から入手した。
・atRetinol(all−trans−Retinol:ビタミンA)
上記化合物は和光純薬株式会社から入手した。
・Acitretin(アシトレチン)
上記化合物はSanta Cruz Biotechnology社から入手した。
ヒトADAM10遺伝子およびヒトACTB遺伝子のTaqman probeおよびprimerはABI社から入手した。
NHEK,NHDFおよびNHEMはクラボウ社から入手した。
【0049】
(2)細胞および培養法
各レチノイドの効果を確認するため、正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)、正常ヒト線維芽細胞(NHDF)および正常ヒト色素細胞(NHEM)を使用した。
これらの細胞の培養には、それぞれの細胞に対して、Human Melanocyte Growth Supplement(HMGS)を含んだmedium M254(Life technologies社製)、Low Serum Growth Supplement(LSGS)を含んだmedium 106(Life technologies社製)、Human Keratinocyte Growth Supplement(HKGS)を含んだmedium 154(Life technologies社製)を増殖培養液として用い、空気中に5%の割合で炭酸ガスを含む培養器内で37℃にて行った。
【0050】
(3)細胞での薬剤アッセイ
12ウェル細胞培養プレート(商標:Falcon、BD Biosciences社製)に、1×10個の細胞を植え込み、24時間培養後、相対的発現量を確認できる最大濃度の各レチノイドを適当量添加し、72時間培養を行った。
【0051】
(4)リアルタイムPCRによる遺伝子発現解析
各細胞におけるADAM10遺伝子の相対発現量を測定するために、それぞれ適量レチノイド添加して培養した細胞をRNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて細胞を回収し、取扱説明書に従ってRNAを抽出した。抽出したRNAをSuperScript(登録商標)VILO Master Mix(Life technologies社製)を用いて取扱説明書に従ってRTした。それらのcDNA内のADAM10のcDNAの相対量をLightCycler(登録商標)480 Probes Master(Roche Diagnosis社製)とTaqMan(R) Gene Expression Assays(Life technologies社製)を用いて、リアルタイムPCR装置であるLightCycler(登録商標)480 System(Roche Diagnosis社製)にて測定し、データはLightCycler(登録商標)480 Softwareで解析を行った。それぞれの細胞のADAM10遺伝子およびACTB遺伝子の発現量を測定し、ACTB遺伝子の発現量でcDNA量の補正を行い、さらに、薬剤添加した細胞の補正ADAM10遺伝子発現量をDMSO添加で培養した細胞(コントロール)のそれと比較して相対増加率を計算した。
【0052】
[結果]
図1〜3に示された結果から、コントロール(DMSO)に対し、各レチノイドは皮膚細胞におけるADAM10遺伝子の発現量を上昇させていることが明らかである。
【0053】
実施例2 本発明モデル動物を用いた、RAKに対するレチノイドの効果の検討
(1)本発明モデル動物の作製
まず、自然発生したヘテロ接合性ADAM10領域の大規模ゲノムDNA欠損へアレスマウスは、体幹四肢に小色素斑が散在することから(非特許文献3参照)、当該マウスを人工的に作製すべく、ADAM10 floxedマウス(B6;129S6−Adam10tm1Zhu/J)(米国ジャクソン研究所から入手、雄15週齢)および全身発現をするためのCAG−Creトランスジェニックマウス(理研バイオリソースセンターから入手、雌12週齢)を交配した全身性ADAM10ヘテロ接合性ノックアウトマウスをHos(登録商標):HR−1をバッククロスして遺伝子背景をB6化したヘアレスマウス(日本SLC社から入手、雄15週齢)と交配して常法によりヘアレス化したマウスの作製を試みた。
【0054】
さらに、上記ADAM10 floxedマウスおよび角化細胞特異的に発現をするためのK14−Creトランスジェニックマウス(STOCK Tg(KRT14−Cre)1Amc/J)(米国ジャクソン研究所販売、雄15週齢)を交配した表皮特異的ADAM10ヘテロ接合性ノックアウトマウスを常法によりヘアレス化したマウスを作製したところ、非特許文献1に記載の自然発生マウスと同様に色素斑が16週齢前後から出現した。
【0055】
上記の表皮特異的ADAM10ヘテロ接合性ノックアウトマウスをヘアレス化したマウスは、網状肢端色素沈着症(RAK)の原因遺伝子であるADAM10が欠損していること、また皮膚表面に散在する色素斑の所見等から、RAKと十分にみなすことができ、このマウス(20週齢、雄)をRAKモデルマウスとして、各種レチノイド外用剤を塗布し皮疹の改善がみられるかどうか検討した。
【0056】
(2)各種レチノイド外用剤の効果検討
使用薬剤は、(a)0.1%アダパレンゲル(ディフェリン(登録商標)ゲル0.1%、ガルデルマ社製)と、(b)0.1%タザロテンクリーム(タズレットクリーム0.1%、グレンマーク社製)の2種類のレチノイドであり、1回0.1〜0.5g、1日1回ずつを、前記(1)で作製した本発明モデル動物(遺伝子改変ヘアレスマウス)の背部全体に塗布した。(a)の薬剤は4週間後に(b)の薬剤は6週間後に皮疹の改善を肉眼で確認した。その結果を図4及び図5に示す。図4は(a)の薬剤についての結果であり、図5は(b)の薬剤についての結果である。
【0057】
図4及び図5から明らかな通り、(a)(b)の薬剤とも、マウス背部に見られた小色素斑がそれぞれの塗布期間後には消失した。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明治療剤は、網状肢端色素沈着症の治療剤又は予防剤として有用である。また、本発明モデル動物は、ヒトの網状肢端色素沈着症の治療剤又は予防剤をスクリーニングするために有用である。
図1
図2
図3
図4
図5