(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記シート座部の硬さは、JIS K 6400−2 D法に基づき測定した際に、前記樹脂製弾性部材の硬さの±10%以内であることを特徴とする請求項4に記載の鉄道車両用座席。
前記境界部は、積層方向両端部に配置され前記シート座部と同様な材質の不織布により形成された外面層と、当該外面層の間に介装された内面層とを有し、当該内面層は前記外面層を形成する不織布よりも柔らかい不織布にて積層形成されていることを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載の鉄道車両用座席。
前記樹脂製弾性部材は、熱可塑性樹脂からなる複数の線状体を、それぞれループ状に曲がりくねらせ、互いの接触部を融着させた立体網状クッション体であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の鉄道車両用座席。
前記Sバネは、前後方向にのみ配設されていると共に、1区画の着座領域当たり5本配置されていることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の鉄道車両用座席。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1,2に開示された先行技術ではいずれも、平面視でS字状のバネ部材の中央部を隆起させたいわゆるキャンバー付のS字状バネ部材を用いているため、三次元の複雑な形状のバネ部材を取り付ける際の調整や施工が煩雑であるといった問題が生じていた。
【0007】
そこで、本発明は、上述のような従来技術の問題点に鑑みて、環境性等を考慮した部材を用いつつ良好な着座感が得られると共に、調整や施工が容易な鉄道車両用座席を簡易な構成で安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係る鉄道車両用座席は、座席フレームの上面に前後方向に渡って複数張架され、それぞれが平面視でS字状に形成されたSバネと、前記Sバネの上に載置され、直方体形状に形成された樹脂製弾性部材と、その底部に前記樹脂製弾性部材を収容する直方体形状の凹部が形成され、熱可塑性樹脂製の不織布が積層形成されたシート座部とを備え、前記Sバネのそれぞれは、側面視で平坦に形成されていると共に、前記樹脂製弾性部材は、前記Sバネとシート座部との間に、着座者の腿裏から坐骨結節点に対応する着座領域を含むように介装されていることを特徴とするものである。
【0009】
ここで、前後方向とは、着座姿勢に沿った前後方向(着座者の正面側が前、背面側が後ろ)をいうものとする。
【0010】
このように構成した場合には、従来のキャンバー付Sバネを有する座席と同等以上の座り心地を実現しつつ、Sバネを任意に配置(例えば、坐骨結節点の直下)することができ、調整や施工の簡易化による作業性の向上及びコストダウンに寄与することができる。
【0011】
また、本発明に係る鉄道車両用座席は、複数の座席が連接されて形成された鉄道車両用座席であって、前記座席のそれぞれは、フレームの上面に前後方向に渡って複数張架され、それぞれが平面視でS字状に形成されたSバネと、前記Sバネの上に載置され、直方体形状に形成された樹脂製弾性部材と、その底部に前記樹脂製弾性部材を収容する直方体形状の凹部が形成され、熱可塑性樹脂製の不織布が積層形成されたシート座部とを備え、前記Sバネのそれぞれは、側面視で平坦に形成されていると共に、前記樹脂製弾性部材は、前記Sバネとシート座部との間に、着座者の腿裏から坐骨結節点に対応する着座領域を含むように介装されており、かつ、それぞれの前記シート座部の幅方向両端には、前記着座領域を幅方向に画成する境界部が前後方向に形成されていると共に、当該境界部の硬さは着座領域の硬さよりも柔らかくなるように形成されていることを特徴とするものである。
【0012】
ここで、幅方向とは、座席が隣接している(連接されている)方向であり、前後方向と直交する方向をいうものとする。また、着座領域の硬さとは、樹脂製弾性部材とシート座部とを組み合わせた際の硬さをいうものとする。
【0013】
このように構成した場合には、従来のキャンバー付Sバネを有する座席と同等以上の座り心地を実現しつつ、Sバネを任意に配置(例えば、坐骨結節点の直下)することができ、調整や施工の簡易化による作業性の向上及びコストダウンに寄与することができる。加えて、着座領域に隣接する境界部の硬さを相対的に柔らかくすることにより、着座性能を顕著に向上させることができる。
【0014】
また、前記シート座部の厚さは、前記樹脂製弾性部材の厚さと同等であってもよい。
【0015】
このように構成した場合には、座り心地の向上を容易に実現することができる。
【0016】
また、前記シート座部の硬さは、前記樹脂製弾性部材の硬さと同等であってもよい。
【0017】
このように構成した場合には、座り心地の向上を容易に実現することができる。
【0018】
さらに、前記シート座部の硬さは、JIS K 6400−2 D法に基づき測定した際に、前記樹脂製弾性部材の硬さの±10%以内であってもよい。
【0019】
このように構成した場合には、座り心地の向上をより容易に確実に実現することができる。
【0020】
また、前記境界部は、積層方向両端部に配置され前記シート座部と同様な材質の不織布により形成された外面層と、当該外面層の間に介装された内面層とを有し、当該内面層は前記外面層を形成する不織布よりも柔らかい不織布にて積層形成されていてもよい。
【0021】
このように構成した場合には、外部との接触による内面層のダメージを未然に防止することができる。
【0022】
さらに、前記樹脂製弾性部材は、熱可塑性樹脂からなる複数の線状体を、それぞれループ状に曲がりくねらせ、互いの接触部を融着させた立体網状クッション体であってもよい。
【0023】
このように構成した場合には、Sバネの調整等を不要にすると共に、良好な体圧分散性を有し着座領域に十分な弾性力を確保できる樹脂製弾性部材を容易に実現することができる。
【0024】
また、前記樹脂製弾性部材及び前記不織布は、ポリエステルにより形成されていてもよい。
【0025】
このように構成した場合には、リサイクル性、環境性に優れ、コスト的に有利なシート座部及びクッション体を形成することができる。
【0026】
また、前記Sバネは、前後方向にのみ配設されていると共に、1区画の着座領域当たり5本配置されていてもよい。
【0027】
このように構成した場合には、十分な弾力性を確保しつつ、幅方向に横断するSバネを省略して、構成の簡素化による組立性の向上やコストダウンに寄与することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、良好な着座感が得られると共に、調整や施工が容易な鉄道車両用座席を簡易な構成で安価に実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明に係る鉄道車両用座席の一実施形態について、図面を参照して説明する。ここで、
図1〜
図3は、本発明の一実施の形態に係る鉄道車両用座席の構成を示す模式図であり、
図4は、本発明に係るSバネの配置構成を説明するための模式図である。また、
図5は、着座した状態における着座者と座席の構成との関係を説明するための模式図である。
【0031】
図1〜
図5に模式的に示すように、本発明に係る鉄道車両用座席は、S字状に形成した平坦なバネ部材10Sの上に、三次元スプリング構造の樹脂製弾性部材20を載置し、その上に、シート状の不織布を積層して成形加工したシート座部30を配置したものである。なお、本実施の形態において、Sバネ10Sと、樹脂製弾性部材20との間には、板状のSバネ受材15(Sバネ10Sとの直接接触による樹脂製弾性部材20の損傷を保護する部材)が介装されている(
図1(a)参照)。また、シート座部の底部には、直方体形状の樹脂製弾性部材(本実施の形態では、ブレスエアーを使用した)を収容可能な直方体形状の凹部30dが設けられている(
図1(b)参照)。
【0032】
図2に模式的に示すように、本実施の形態に係る鉄道車両用座席は、枠状(断面L字状)の座席フレーム10の上面に、複数のフラットなSバネ10S(平面視でS字状、側面視で直線状の平坦なSバネであり、以下、フラットSバネと称する)が前後方向に渡って取り付けられている。なお、
図1、
図2では、3連の座席フレームを例示しているが、座席数については任意に設定(例えば、7連等)することができる。
【0033】
図4、
図5に模式的に示すように、上記フラットSバネ10Sは、取付状態において、側面視で平坦となるように、座席フレーム10を構成する断面方形状の前方フレーム110の上面110sに設けられた前方取付部材111fと、断面方形状の後方フレーム120の上面120sに設けられた後方取付部材121fとの間に渡って配設されている。すなわち、フラットSバネ10Sの両端部を対応する前方取付部材111f及び後方取付部材121fに取り付けることにより、当該フラットSバネ10Sが前方フレーム110と後方フレーム120とに渡って前後方向に架け渡されている。なお、フラットSバネ10Sの先端と着座者との不測の接触を未然に防止するという観点から、幅方向最外部のフラットSバネ10Seは、当該先端が内側を向くように配置されている。また、本実施の形態では、1区画(1人分の着座領域)当り5本のフラットSバネが配置されている。
【0034】
なお、本実施の形態において、座席フレーム10は、車両床面の構造を簡素化するという観点から、その背面が車両側壁Wに取り付けられる片持ち支持構造となっている(
図3(c)参照)。
【0035】
樹脂製弾性部材20は、繊維材により形成された三次元構造の網状弾性体(以下、立体網状クッション体とも称する)を用いることができる。この立体網状クッション体20は、熱可塑性樹脂からなる繊維径0.1〜1.5mm、好ましくは0.2〜1.0mmの連続線状体を、多数、それぞれループ状に曲がりくねらせ、かつ互いの接触部を融着させた立体スプリング構造を形成している。熱可塑性樹脂としては、例えば熱可塑性ポリオレフィンエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む熱可塑性エラストマー(熱可塑性弾性樹脂)を使用することができる。
【0036】
本実施の形態において、上記立体網状クッション体20は、
図3(c)、
図5等に示すように、直方体形状に形成され、フラットSバネ10Sの上面を覆い、かつ、少なくとも着座者の腿裏から坐骨結節点Pに対応する着座領域までを含むように敷設されている。具体的には、
図5に最も良く示されるように、立体網状クッション体20は、その前部がフラットSバネ10Sの延在領域を前方に超えて、前方フレーム110の上面110s上に載置されていると共に、その後部が少なくとも坐骨結節点Pに対応する着座領域を含むように、フラットSバネ10Sとシート座部30との間に介装されている。
【0037】
なお、上記立体網状クッション体20は、着座面前部の腿裏から坐骨結節点部に渡って配置されていればよいが、背もたれ部に渡って配置されていてもかまわない。
【0038】
このように、着座者の腿裏から坐骨結節点Pに至る対応領域まで、フラットSバネ10Sとシート座部30との間に立体網状クッション体20を敷設(介装)することにより、着座の際の応力集中を防いで座り心地を向上させることができる。
【0039】
また、座り心地に関して、立体網状クッション体20により十分な弾性力を確保することができるので、補助的な役割を担うフラットSバネ10Sを任意の位置に配置(例えば、坐骨結節点Pの直下等)することが可能となり、施工、組立調整等の際の作業性の向上を図ることができる。
【0040】
さらに、前方フレーム110上を横断するSバネを省略することができ、構成のさらなる簡素化による組立性の向上及びコストダウンに寄与することができる。
【0041】
立体網状クッション体の厚みとしては、20mm以上であることが好ましい。充分なクッション性を得るためには厚みは厚い方が好ましいが、鉄道車両用座席としては、100mmを超えると取り扱いが困難になるため、実用上100mm以下であることが好ましい。より好ましくは、現行車両に適合し易い30〜80mmである。
【0042】
立体網状クッション体の見かけ密度としては、20〜200kg/m
3が好ましい。より好ましくは30〜100kg/m
3である。見かけ密度が20kg/m
3を下回ると、立体網状クッション体としての最低限の形態保持が難しく、鉄道車両用座席としての使用が難しくなる。見かけ密度が200kg/m
3を超えると、重量が重くなりすぎるのと同時に硬くなるためにクッション性が悪くなり実用上好ましくない。
【0043】
本実施の形態では、上記熱可塑性樹脂製の弾性部材(立体網状クッション体)として、ポリエステルから形成された東洋紡績株式会社製のブレスエアー(登録商標)を用いている。
【0044】
シート座部30は、積層構造の繊維材料から形成されており、所定の種類、線径の繊維材料を薄いシート状に加工した不織布シートを重ねて成形型に入れて加熱圧縮し、所望の厚さ、密度、形状の座部に形成されている。また、本実施の形態では、シート座部30の表面(上面)の着座領域に予め臀部形状の凹部を形成したバケット構造のシート座部を採用していると共に、当該シート座部30の底面(下面)には直方体形状の立体網状クッション体20と嵌め合うように形成され、当該樹脂製弾性部材20を収容する直方体形状の凹部30dが設けられている。(
図1(b)参照)。
【0045】
また、本実施の形態において、それぞれのシート座部30の着座領域を幅方向に画成(規定)する境界部35が、シート座部30の幅方向両端部に前後方向に渡って形成されている(
図1参照)。
【0046】
なお、本実施の形態において、上記境界部35は、シート座部30と同様に、完全焼却が可能なポリエステル繊維材料からなる不織布を積層して形成されている。
【0047】
次に、本発明に係る鉄道車両用座席の構成について検証評価した結果を、実施例及び比較例として以下に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0048】
<シート座部支持体の構成特定>
【0049】
本発明に係る鉄道車両用座席の性能について検証評価するに当たっては、まず、シート座部の支持体(Sバネ及び立体樹脂製弾性部材)の構成について検証評価した。具体的には、キャンバー付Sバネの上にシート座部が載置された従来構成の座席を基準例とし、フラットSバネの上に立体網状クッション体20を介してシート座部30を載置した座席構成、及び立体網状クッション体20とこの上に載置されるシート座部30との厚さ比率を変化させた座席構成等について基準例との比較検証を行った。
◎基準例
【0050】
不織布シートを積層形成したシート座部を、キャンバー付Sバネ上に設置した構成。具体的には、Sバネ線径:φ4.0mm、張架距離:360mm、キャンバー高さ:15mm、シート座部厚さ:60mmとした。
[体圧分布評価]
【0051】
さらに、4種類の厚さ(0mm、30mm、40mm、50mm)の立体網状クッション体(ブレスエアー、密度:50kg/m
3)と、4種類のSバネ(キャンバーなしSバネφ3.5mm−SWC、キャンバー付Sバネφ4.0mm−SWB、キャンバー付Sバネφ3.5mm−SWB、キャンバー付Sバネφ2.9mm−SWB)とを組み合わせて計16種類の座席を作成し、被験者3名(人体計測データに基づき、日本人の5パーセンタイル、50パーセンタイル、95パーセンタイルに相当)にて、基準例との座り心地の差異を大まかに官能評価すると共に、各座席の体圧分布を測定した。その結果、基準例と概ね同等以上の座り心地を有し、かつ、基準例の体圧分布と比較して、体圧集中部が少なく体圧分散性の良い以下の座席構成を抽出した。なお、キャンバー付Sバネを有する座席構成はいずれも、フラットSバネにて支持する構成に比し、着座の際に、当該Sバネと着座者の臀部との接触感が不快であり、かつ、体圧集中部が発生した。比較検証した各座席の構成を以下に示す。
◎実施例1
【0052】
積層構造の繊維材料から形成されたシート座部30を、立体網状クッション体20を介してキャンバーなしSバネ(フラットSバネ)10S上に載置した構成。具体的には、Sバネ線径:φ3.5mm、張架距離:315mm、キャンバー高さ:0mm、シート座部厚さ:30mm、立体網状クッション体厚さ:30mm(シート座部に対する厚さ比=1:1)とした。
◎比較例1−1
【0053】
立体網状クッション体20を介さずに、実施例1と同様な積層構造の繊維材料から形成されたシート座部30を、フラットSバネ10S上に直接載置した構成。具体的には、Sバネ線径:φ3.5mm、張架距離:315mm、キャンバー高さ:0mmとした。シート座部厚さ:60mmとした。
◎比較例1−2
【0054】
積層構造の繊維材料から形成されたシート座部30を、立体網状クッション体20を介してフラットSバネ10S上に載置した構成。具体的には、Sバネ線径:φ3.5mm、張架距離:315mm、キャンバー高さ:0mm、シート座部厚さ:20mm、立体網状クッション体厚さ:40mm(シート座部に対する厚さ比=1:2)とした。
◎比較例1−3
【0055】
積層構造の繊維材料から形成されたシート座部30を、立体網状クッション体20を介してフラットSバネ10S上に載置した構成。具体的には、Sバネ線径:φ3.5mm、張架距離:315mm、キャンバー高さ:0mm、シート座部厚さ:10mm、立体網状クッション体厚さ:50mm(シート座部に対する厚さ比=1:5)とした。
【0056】
各座席における支持体の構成(Sバネの種類、シート座部厚さ、ブレスエアー厚さ)及びシート座部とブレスエアーの厚さ比一覧を表1に示す。
【表1】
[座り心地評価]
【0057】
次に、基準例、実施例1、比較例1−1、比較例1−2、比較例1−3の各座席(計5種類)について、JIS E 7104に準拠した負荷荷重に基づいて座り心地評価を行った。具体的には、旅客一人当り0N〜980Nを連続的に負荷し、その後、980N〜0Nを連続的に除荷し、荷重とたわみ量との関係を測定評価した。
【0058】
評価方法としては、980N負荷時のたわみ量が、基準例と同等(57.0mm)以上であるものを座り心地が良いものとした。加えて、490N負荷時のたわみ量が20〜40mm以内であって、たわみ量が基準例と同等(33.0mm)以上であるものを座り心地が良いものとして評価した。
【0059】
上記測定の結果得られた負荷と除荷の相関を閉ループ曲線で描画した荷重−たわみ曲線を
図6及び
図7に示す。
【0060】
図6から理解されるように、実施例1(立体網状クッション体20とシート座部30との厚さ比が1:1の構成)では、980N負荷時のたわみ量(56.5mm)が基準例のたわみ量(57.0mm)と同等であり、加えて、490N負荷時のたわみ量(47.1mm)が、基準例のたわみ量(33.0mm)よりも大きく、従来と同等以上の座り心地が得られることが分かった。
【0061】
一方、比較例1−1(立体網状クッション体20を有しない構成)では、980N負荷時のたわみ量(47.1mm)が、基準例の座席構成のたわみ量(57.0mm)よりも小さく、かつ、490N負荷時のたわみ量(31.0mm)が、基準例のたわみ量(33.0mm)よりも小さく、相対的に座り心地が不十分であることが分かった。
【0062】
同様に、
図7から理解されるように、比較例1−2(立体網状クッション体20とシート座部30との厚さ比が1:2の構成)では、980N負荷時のたわみ量(48.5mm)が、基準例のたわみ量(57.0mm)よりも小さく、かつ、490N負荷時のたわみ量(32.3mm)が、基準例のたわみ量(33.0mm)よりも小さく、相対的に座り心地が不十分であることが分かった。
【0063】
さらに、比較例1−3(立体網状クッション体20とシート座部30との厚さ比が1:5の構成)では、980N負荷時のたわみ量(41.0mm)が、基準例のたわみ量(57.0mm)よりもかなり小さく、同様に、490N負荷時のたわみ量(24.5mm)が、基準例のたわみ量(33.0mm)よりもかなり小さく、最も座り心地が悪いことが分かった。
[耐久性評価]
【0064】
さらに、従来構成と同等以上の座り心地が得られた実施例1の耐久性について、基準例(従来構成)との比較評価を行った。
【0065】
具体的には、JIS E 7104に準拠し、旅客一人当り980Nの荷重を、周期1Hz以上、上下変位±1mmで20万回繰り返し負荷し、2万回毎にフラットSバネ上に載置された基準例のシート座部30と、実施例1のシート座部30と立体網状クッション体20とを組み合わせた着座領域におけるたわみ量を測定した。測定結果を
図8に示す。
【0066】
図8から理解されるように、実施例1では基準例と同等の耐久性(20万回以上)を有することが分かった。
【0067】
以上より、シート座部30の支持体として、フラットSバネ10S上に立体網状クッション体20を設置して構成することにより、リサイクル性、対環境性といった利点を損なうことなく、従来構成の座席と比較して良好な体圧分散性を有し、かつ同等以上の座り心地及び耐久性を得られることが確認できた。
【0068】
また、立体網状クッション体20の厚さとシート座部30の厚さを同等(1:1)にすることにより、座り心地が改善されることが確認できた。なお、立体網状クッション体20を40mmとし、シート座部30の厚さを40mmにした構成(総厚さ80mmで厚さ構成比1:1)についても実施例1と同様な座り心地に関する官能評価が得られた。
【0069】
また、フラットSバネ10Sを採用することにより、当該Sバネの配置調整等が不要となり、施工性、組立性の向上やコストダウンに寄与することが確認できた。
【0070】
また、直方体形状の立体網状クッション体20をフラットSバネ10S上に載置する簡易な構成であるため、立体網状クッション体20の厚さを容易に変更調整することができ、クッション性等に関する多様なニーズに対して柔軟な対応(特性値の変更等)が容易に可能となることが確認できた。
【実施例2】
【0071】
<シート座部の構成特定>
【0072】
次に、先の実施例の検証結果を踏まえ、さらなる着座性能の向上を企図し、シート座部30の硬さについて検証評価した。具体的には、基本構成を実施例1と同様とし、立体網状クッション体(ブレスエアー)20の硬さに対してシート座部30の硬さを変化させた座席構成について比較検証を行った。比較検証した各座席の構成を以下に示す。なお、以降の硬さの測定に当たっては、JIS K 6400−2 D法に基づき、測定対象に対し、φ200mmの加圧板で鉛直下向きに加圧前の測定対象の初期厚みの75%ひずみ量まで押し込んだ後、直ちに荷重を除き、再び直ちに加圧前の測定対象の初期厚みの25%ひずみ量まで押込み、静止後20秒経過した時の荷重値を硬さと規定した。
◎実施例2−1
【0073】
シート座部30の硬さを、立体網状クッション体20の硬さとほぼ同等(±10%以内)であって若干硬め側に調整(+10%以内)した。
◎実施例2−2
【0074】
シート座部30の硬さを、立体網状クッション体20の硬さとほぼ同等(±10%以内)であって若干柔らかめ側に調整(−10%以内)した。
◎比較例2
【0075】
シート座部30の硬さを、立体網状クッション体20の硬さの+10〜+20%以内となるように調整した。
【0076】
各座席構成の硬さの測定結果を表2に示す。なお、表2中、着座領域硬さとは、フラットSバネ10Sを除きブレスエアー20とシート座部30とを組み合わせた状態の硬さをいう。
【表2】
[座り心地評価及び体圧分布評価]
【0077】
次に、先の実施例と同様に、JIS E 7104に準拠した負荷荷重に基づいて、実施例2−1、実施例2−2、比較例2の各座席(計3種類)について座り心地評価を行った。評価方法としては、980N負荷時のたわみ量が、基準例と同等(57.0mm)以上であるものを座り心地が良いものとした。加えて、490N負荷時のたわみ量が20〜40mm以内であって、たわみ量が基準例と同等(33.0mm)以上のものを座り心地が良いものとして評価した。
【0078】
上記測定の結果得られた負荷と除荷の相関を閉ループ曲線で描画した荷重−たわみ曲線を
図9に示す。
【0079】
図9から理解されるように、実施例2−1では、980N負荷時のたわみ量が55.2mmであり、加えて、490N負荷時のたわみ量が37.1mmであり、相対的に十分な座り心地が得られることが分かった。同様に、実施例2−2では、980N負荷時のたわみ量が54.4mmであり、490N負荷時のたわみ量が36.9mmとなり、実施例2−1とほぼ同様な荷重−たわみ曲線が得られた。
【0080】
一方、比較例2では、980N負荷時のたわみ量が51.1mmであり、かつ、490N負荷時のたわみ量が34.1mmとなり、実施例2−1と実施例2−2に比して980N及び490N負荷時のたわみ量が不足していることから、座り心地が不十分であることが分かった。
【0081】
すなわち、シート座部30の硬さとしては、立体網状クッション体20の硬さとほぼ同程度であることが望ましく、より好ましくは、立体網状クッション体20の硬さの±10%以内であることが分かった。
【0082】
なお、ほぼ同等な荷重−たわみ曲線が得られた実施例2−1及び実施例2−2について、先の実施例と同様な体圧分布(人が座った際の圧力分布)を測定したところ、
図10に示すように、実施例2−1の方が実施例2−2よりも体圧集中部が少なく、より座り心地が良いことが分かった。
【実施例3】
【0083】
<境界部の構成特定>
【0084】
次に、前述の実施例の評価結果を踏まえ、着座領域を幅方向に区画形成する境界部35の座り心地に与える影響についてさらに検証評価した。
【0085】
具体的には、境界部35の硬さを着座領域(ブレスエアー20+シート座部30)の硬さと同様に形成した構成と、境界部35の硬さを着座領域(ブレスエアー20+シート座部30)の硬さよりも柔らかく形成した構成とで比較検証した。
【0086】
なお、本実施の形態において、境界部35は、
図11に模式的に示すように、積層方向両端部に配置された外面層30aと、その内側に介装された内面層30bとを有しており、外面層30aの硬さは、内面層30bの硬さよりも硬く積層形成されている。これにより、相対的に柔らかい内面層30bをその外側に配置された外面層30aによりカバー(保護)して、耐久性の向上を図っている。また、着座領域33(ブレスエアー20+シート座部30)の座席構成及びシート座部硬さとしては、実施例2−1の座席構成及びシート座部硬さと同様とした。
【0087】
また、着座領域硬さ及び境界部硬さはいずれも、先の実施例2と同様にJIS K 6400−2 D法に基づき測定した。比較検証した各座席の構成を以下に示す。
◎実施例3
【0088】
境界部35の硬さが着座領域33の硬さよりも柔らかくなるように形成した構成。具体的には、境界部35としては、座布団厚み方向にシート座部30と同様な材質の不織布により形成された外面層30aを配置すると共に、外面層30aを形成する不織布よりも相対的に柔らかい不織布にて形成した内面層30bを上記外面層30a,30a間に介装した構成。
◎比較例3
【0089】
従来と同様に境界部35とシート座部30とを一体に形成し、境界部35の硬さと着座領域33の硬さを同等に形成した構成。
【0090】
各座席構成の硬さの測定結果を表3に示す。
【表3】
[座り心地評価]
【0091】
次に、先の実施例と同様に、JIS E 7104に準拠した負荷荷重に基づいて、実施例3、比較例3の各座席(計2種類)について座り心地評価を行った。評価方法としては、980N負荷時のたわみ量が、基準例と同等(57.0mm)以上であるものを座り心地が良いものとした。加えて、490N負荷時のたわみ量が20〜40mm以内であって、たわみ量が基準例と同等(33.0mm)以上のものを座り心地が良いものとして評価した。
【0092】
上記測定の結果得られた負荷と除荷の相関を閉ループ曲線で描画した荷重−たわみ曲線を
図12に示す。
【0093】
図12から理解されるように、実施例3では、980N負荷時のたわみ量が63.4mmであり、加えて、490N負荷時のたわみ量が37.3mmであり、980N負荷時のたわみ量が基準例(57.0mm)と比較して同等以上、及び490N負荷時のたわみ量が20〜40mmの範囲で基準例(33.0mm)と比較して同等以上であることから、良好な座り心地が得られることが分かった。
【0094】
一方、比較例3では、980N負荷時のたわみ量が55.2mmであり、かつ、490N負荷時のたわみ量が37.1mmとなり、実施例3に比し980N負荷時のたわみ量が不足していることから、座り心地が不十分であることが分かった。
【0095】
すなわち、着座領域33に隣接する境界部35の硬さを、敢えて着座領域33の硬さに対して15%程度柔らかく形成することにより、着座領域33と一体に形成した従来構成の座席に比し、座り心地が顕著に向上されることが分かった。
【0096】
また、従来構成では、シート座部30と境界部35とが一体に形成されているため(境界部35は、シート座部30の一部)、硬さの個別調整が困難であるが、本願発明によれば、シート座部30と境界部35との積層構成を異ならせて構成することにより、硬さの微調整が容易となり、座り心地のさらなる向上に寄与することが確認できた。
【0097】
なお、本発明の技術的範囲は上述した各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨に逸脱しない範囲において多様な変更もしくは改良を加え得るものである。例えば、本発明に係る鉄道車両用座席は、鉄道車両用のみならず、一般車両用座席、船舶用座席、航空機用座席等にも当然に適用可能である。また、各実施例の座席構成はそれぞれ単独で実施しても良いし、当然に各実施例を組み合わせて実施しても良い。