(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のインク受理層形成塗料には、計算Tgが−5〜30℃の範囲のアクリル系樹脂が用いられる。
ここで、計算Tgとは、下記式により求められるガラス転移温度のことである。
Foxの式:1/Tg=a
1/Tg
1+a
2/Tg
2+・・・+a
n/Tg
n
a
1、a
2、・・・、a
n:各々の単量体の質量分率
Tg
1、Tg
2、・・・、Tg
n:各単量体ホモポリマーのTg
計算Tgが−5〜30℃の範囲のアクリル系樹脂を使用することにより、インクジェット条件下(室温であれば通常25℃前後)において、形成されたインク受理層は軟化した状態となる。
インクジェット条件下でインク受理層が軟化されていると、インク受理層の表面抵抗が大きくなり、着弾した紫外線硬化型インクが過剰に濡れ広がるのを抑制することができる。また、軟化した状態のインク受理層に紫外線硬化型インクが着弾すると、紫外線硬化型インクのインク受理層に対する深さ方向への侵食が起こりやすくなり、着弾時のインク滲みを抑制するとともに、インク受理層とインクジェットプリント層との密着性を向上させることができる。
計算Tgが−5℃未満であると、インク滲みは抑制されるものの、解像度によっては付与した画像がスジ感の目立つものとなるおそれがある。また、形成したインク受理層の粘着性が高くなり、インクジェットプリント物の生産工程において基材にインク受理層を形成した状態での一時保管が難しくなる。
一方、計算Tgが30℃を超えると、特に室温でのインクジェット条件下において、インク滲みが生じやすくなり、細線表現が困難となるおそれがある。また、紫外線硬化型インクのインク受理層に対する深さ方向への侵食が少なくなり、インク受理層とインクジェットプリント層との密着性が十分に得られないおそれがある。
また、計算Tgを上記範囲とすることにより、基材温度が高温(例えば60℃など)であった場合であっても、インク受理層は軟化した状態となり、室温と同様の効果を得ることができる。
【0013】
前記アクリル系樹脂としては、アクリル樹脂、アクリル−スチレン樹脂、アクリル−シリコーン樹脂、アクリル−ウレタン樹脂などがあげられる。
【0014】
本発明のインク受理層形成塗料には、微細粒子が含有される。ここで、微細粒子とは、平均粒子径が1〜15μm、BET比表面積が10m
2/g以上、JIS K−5101−13−2に準ずる吸油量が55ml/100g以上のものをさす。前記微細粒子としては、凝集によるもの、合成によるもの、酸処理によるものが含まれる。微細粒子を含有することにより、インク受理層表面に微細粒子による微細な凹凸が形成され、これによって着弾した紫外線硬化型インクを均一に付着させることが可能となる。また、表面に凹凸柄や凸凹した形状を有する基材に対してインクジェットプリントを施す場合には、付与した紫外線硬化型インクが基材凹部に溜まってしまい凸部へのインク付着量が低下することによって起こる画像の白け(画像が白っぽく見える現象)を抑制することが可能となる。
【0015】
前記微細粒子は、塗料中の不揮発成分に対し20〜50質量%含有されている必要がある。ここで、塗料中の不揮発成分とは、インク受理層形成塗料を塗布乾燥させた際に固形物を形成する成分を意味する。
前記微細粒子の含有量を塗料中の不揮発成分に対し20〜50質量%とすることにより、細線表現を保ちつつも、スジ感を軽減した画像を形成することが可能となる。
微細粒子の含有量が20質量%未満であると、解像度によっては画像のスジ感が目立つものとなるおそれがある。
一方、微細粒子の含有量が50質量%を超えると、形成されたインク受理層がもろくなり割れが発生するおそれや、造膜性が十分に得られないおそれがある。
【0016】
前記微細粒子は、多孔質形状であることが好ましい。微細粒子が多孔質形状であることにより、インク受理層表面に着弾したインクを毛細管現象により均一に滲ませることができる。
【0017】
本発明に用いられる微細粒子の具体例として、無機粒子としては、炭酸カルシウム、シリカ、ゼオライトがあげられる。有機粒子としては、アクリルビーズなどがあげられる。
【0018】
本発明のインク受理層形成塗料は、上述のアクリル系樹脂および微細粒子のほかに、顔料、さらに必要に応じて各種添加剤を含有してもよい。
【0019】
顔料としては、有機または無機顔料があげられ、有機顔料としては、例えば、ニトロソ類、染付レーキ類、アゾレーキ類、不溶性アゾ類、モノアゾ類、ジスアゾ類、縮合アゾ類、ベンゾイミダゾロン類、フタロシアニン類、アントラキノン類、ペリレン類、キナクリドン類、ジオキサジン類、イソインドリン類、アゾメチン類およびピロロピロール類などがあげられる。無機顔料としては、例えば、酸化物類、水酸化物類、硫化物類、フェロシアン化物類、クロム酸塩類、炭酸塩類、ケイ酸塩類、リン酸塩類、炭素類(カーボンブラック)および金属粉類などがあげられる。
【0020】
各種添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、防腐剤、消泡剤、浸透剤、還元防止剤、レベリング剤、pH調整剤、顔料誘導体、重合禁止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などがあげられる。また、成膜助剤としてエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、ベンジルアルコールなどの溶剤を適宜添加することも可能である。
【0021】
次いで、本発明のインク受理層形成塗料を用いたインクジェットプリント物の製造方法について説明する。
【0022】
基材としては、特に限定するものではなく、インク受理層が形成できるものであればよい。また、インク受理層が密着しにくい基材に対しては、基材とインク受理層との密着性を向上させるために基材上にあらかじめ下塗り層を設けることも可能である。下塗り層を形成するための塗料としては、水系塗料、溶剤系塗料、紫外線硬化型塗料のいずれでも構わないが、なかでも、作業性、安全性、インク受理層との密着性の点で、水系塗料が望ましい。
【0023】
次に、基材または下塗り層上に、上述のインク受理層形成塗料を塗布することにより、インク受理層を形成する。このとき、インク受理層形成塗料の塗布量は、10〜200g/m
2(乾燥状態)であることが好ましい。
塗布量が10g/m
2未満であると、基材表面を完全に被覆できないおそれがあり、200g/m
2を超えると、インク受理層の厚みが大きくなることにより亀裂が発生するおそれがある。
【0024】
また、形成するインク受理層の厚みは、10〜150μmであることが好ましい。形成するインク受理層の厚みが10μm未満であると、インク受理層が基材表面を完全に被覆できないおそれがあり、150μmを超えると、インク受理層に亀裂が発生するおそれがある。
【0025】
インク受理層形成塗料の塗布は、スプレー、カーテンフローコーター、ロールコーターなどにて行うことができ、特には限定されない。
【0026】
また、インク受理層の乾燥については、熱風乾燥、送風乾燥、ヒーターによる乾燥、ホットプレートによる乾燥などにて行うことができ、特には限定されない。乾燥温度および時間については、適宜決定されうるが、乾燥温度は60〜150℃、乾燥時間は0.5〜30分であることが好ましい。
【0027】
次に、形成したインク受理層上に、紫外線硬化型インクをインクジェット方式により付与し、その後硬化させることにより、インクジェットプリント層を形成する。
【0028】
ここで用いられる紫外線硬化型インクとしては、反応性モノマー、反応性オリゴマー、光重合開始剤、顔料が含有されており、さらに必要に応じて各種添加剤が含まれる。なお、顔料については、インク受理層形成塗料のところで説明したものと同様のものが使用できる。
【0029】
前記紫外線硬化型インクの顔料重量濃度は、紫外線硬化型インク100重量部中に0.5〜20重量部であることが好ましい。顔料重量濃度が0.5重量部未満であると、着色が不十分となり、目的である「画像」が形成できないおそれがある。また、顔料重量濃度が20重量部を超える場合には、紫外線硬化型インクの粘度が高くなりすぎて、インクジェットプリンタのノズルから吐出できないおそれがある。なお、ここでいう顔料重量濃度とは、紫外線硬化型インクの不揮発成分に対する顔料濃度のことである。
【0030】
前記紫外線硬化型インクに用いられる反応性モノマーとしては、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートやそれらの変性体などの6官能アクリレート;ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタアクリレートなどの5官能アクリレート;ペンタジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの4官能アクリレート;トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレート、グリセリルトリアクリレートなどの3官能アクリレート;ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンアクリル酸安息香酸エステル、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレート、ビスフェノールAジアクリレートなどの2官能アクリレート;および、カプロラクトンアクリレート、トリデシルアクリレート、イソデシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコールジアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ネオペンチルフリコールアクリル酸安息香酸エステル、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、エトキシ−ジエチレングリコールアクリレート、メトキシ−トリエチレングリコールアクリレート、メトキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、ノニルフェノールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−アクリロイロキシエチル−コハク酸、2−アクリロイロキシエチル−フタル酸、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチル−フタル酸などの単官能アクリレートがあげられる。なかでも、強じん性、柔軟性に優れる点で、2官能モノマーが好ましい。2官能モノマーのなかでは、難黄変性である点で、炭化水素からなる脂肪族反応性モノマー、具体的には1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレートなどが好ましい。
反応性モノマーとしてはさらに、前記反応性モノマーにリンやフッ素、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドの官能基を付与した反応性モノマーがあげられる。また、これらの反応性モノマーを単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
前記反応性モノマーは、前記紫外線硬化型インク100重量部中に50〜85重量部含まれることが好ましい。含有量が50重量部未満であると、紫外線硬化型インクの粘度が高くなり、インクジェットプリントを行う際に吐出不良となるおそれがある。また、85重量部を超えると、インク硬化に必要な他の成分が不足し、硬化不良となるおそれがある。
【0032】
前記紫外線硬化型インクに用いられる反応性オリゴマーとしては、例えば、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、シリコンアクリレート、ポリブタジエンアクリレートがあげられ、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、強じん性、柔軟性および付着性に優れる点で、ウレタンアクリレートが好ましい。ウレタンアクリレートのなかでは、難黄変性である点で、炭化水素からなる脂肪族ウレタンアクリレートがさらに好ましい。
また、反応性オリゴマーにあらかじめ反応性モノマーを混合して使用することも可能である。混合する反応性モノマーとしては2官能および/または3官能であることが好ましい。反応性オリゴマーと反応性モノマーとの混合は、反応性オリゴマーの性能を損なわない程度に反応性モノマーを適宜添加することができる。
【0033】
前記反応性オリゴマーは、前記紫外線硬化型インク100重量部中に1〜40重量部含まれることが好ましく、5〜40重量部であることがより好ましく、10〜30重量部であることがさらに好ましい。反応性オリゴマーの含有量を上記範囲とすることにより、紫外線硬化型インクの硬化膜を、強靭性、柔軟性、密着性に優れたものにすることができる。
【0034】
前記紫外線硬化型インクに用いられる光重合開始剤としては、ベンゾイン類、ベンジルケタール類、アミノケトン類、チタノセン類、ビスイミダゾール類、ヒドロキシケトン類およびアシルホスフィンオキサイド類があげられ、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、高反応性であり、難黄変性である点で、ヒドロキシケトン類およびアシルホスフィンオキサイド類が好ましい。
【0035】
光重合開始剤の添加量は、前記紫外線硬化型インク100重量部中に1〜15重量部であることが好ましく、3〜10重量部であることがより好ましい。含有量が1重量部未満であると、重合が十分に進まず未硬化となるおそれがある。また、15重量部を超えて添加しても、それ以上の硬化率や硬化速度の向上が期待できず、コスト高となる。
【0036】
また、前記紫外線硬化型インクには、必要に応じて、顔料を分散させる目的で分散剤を添加してもよい。分散剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性イオン界面活性剤および高分子系分散剤などがあげられ、単独もしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
さらに必要に応じて、前記紫外線硬化型インクには、光重合開始剤の開始反応を促進させるための増感剤、熱安定剤、酸化防止剤、防腐剤、消泡剤、浸透剤、樹脂バインダー、樹脂エマルジョン、還元防止剤、レベリング剤、pH調整剤、顔料誘導体、重合禁止剤、紫外線吸収剤および光安定剤などの各種添加剤を加えることもできる。
【0038】
前記紫外線硬化型インクは、使用する上記原材料を混合し、さらにその混合物をロールミル、ボールミル、コロイドミル、ジェットミルまたはビーズミルなどの分散機を使用して分散し、その後、濾過を行うことにより得ることができる。なかでも、短時間かつ大量に分散できる点で、ビーズミルが好ましい。
【0039】
前記紫外線硬化型インクの粘度については、50℃において1〜20mPa・sであることが好ましく、2〜15mPa・sであることがより好ましい。粘度が1mPa・s未満であると、吐出量の調整が難しく、インクの吐出が不安定になるおそれがある。また、20mPa・sを超えるとインクの吐出ができないおそれがある。
【0040】
また、前記紫外線硬化型インクの表面張力は、25℃条件下で20〜30dyne/cmであることがより好ましい。前記紫外線硬化型インクの25℃条件下における表面張力が20dyne/cm未満であると、紫外線硬化型インク自体の濡れ性が良くなりすぎて画像が滲むおそれがあり、また、プリンタヘッドへのインクの供給が困難になる。一方、25℃条件下における表面張力が30dyne/cmを超えると、基材上でインクがはじいてしまい、画像が不鮮明になるおそれがある。
【0041】
なお、上述した表面張力を得るために、前記紫外線硬化型インクに濡れ剤を添加してもよい。使用される濡れ剤としては、シリコーン型、アクリル型、フッ素型があげられ、なかでも表面張力を下げる効果に優れる点でシリコーン型、フッ素型が好ましい。
【0042】
前記紫外線硬化型インクの付与量は、1〜100g/m
2であることが好ましく、1〜50g/m
2であることがより好ましい。付与量が1g/m
2未満であると、十分な画像表現が困難となり、さらに、得られるインクジェットプリント物の耐水性が悪くなるおそれがある。また、付与量が100g/m
2を超えると、付与した紫外線硬化型インクが硬化不良となるおそれがある。
【0043】
さらに、付与した紫外線硬化型インクを後述する方法によって硬化させることにより得られるインクジェットプリント層の厚みは、1〜150μmであることが好ましい。インクジェットプリント層の厚みが1μm未満であると、十分な画像表現を得ることが困難となり、さらに、得られるインクジェットプリント物の耐水性が悪くなるおそれがある。また、厚みが150μmを超えると、インクジェットプリント層に割れや剥がれが発生するおそれがある。
【0044】
前記紫外線硬化型インクの付与に用いられるインクジェットプリンタの方式については、特に限定するものではない。例えば、荷電変調方式、マイクロドット方式、帯電噴射制御方式およびインクミスト方式などの連続方式、ピエゾ方式、パルスジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式および静電吸引方式などのオン・デマンド方式などを用いることができる。さらに具体的なインクジェットプリンタとしては、シリアル型、ライン型などがあげられいずれも使用可能である。
【0045】
シリアル型は、キャリッジの駆動によりシリアル型プリンタを主走査方向(キャリッジの移動方向)に走査させるとともに、基材を主走査方向に直交する搬送方向(副走査方向)に間欠搬送させながらインクを吐出させ画像を形成する。プリンタには、例えばブラック(Bk)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)などのインクのカートリッジが搭載されており、各色のカートリッジには、複数個のインク吐出ノズルが主走査方向および副走査方向の両方向に沿って設けられている。プリンタに紫外線照射装置を設けてもよい。
【0046】
シリアル型のプリンタを用いる場合、インク液滴を基材に付与する工程、および、紫外線を照射する工程を、主走査毎に繰り返して行う。ここで、主走査とは、シリアル型プリンタのヘッドが同一ライン上を移動することをいい、プリンタのヘッドが、副走査方向に移動しないで、左から右へ1回移動する態様、左から右へ複数回移動する態様、右から左へ1回移動する態様、右から左へ複数回移動する態様、1往復する態様、複数回往復する態様等が含まれる。主走査毎とは、シリアル型プリンタのヘッドがひとつのラインから別のラインに移動する毎に(副走査方向の移動が行われる毎に)という意味である。前記のようなヘッドの主走査毎に、インク付与工程の終了後に、あるいは、前記インク付与工程と平行して、紫外線照射によるインクの硬化を行う。
【0047】
ライン型は、インクジェットプリンタの幅方向(印刷基材の搬送方向に直交する方向)にわたって各色のインクの吐出ノズルがライン状に設けられており、例えばブラック(Bk)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)などの吐出ノズルがライン状に設けられている。前記ライン型ヘッドでのインク付与工程の終了後に紫外線照射によるインクの硬化を行うことも可能であるし、またはこのライン型のプリンタに紫外線照射装置を設けてもよい。このようなライン型のプリンタを使用する場合、1ラインの印刷毎に色替えが行われ、色替え毎に紫外線を照射して、基材に付与されたインク液滴の硬化を行う。
【0048】
前記インクジェットプリンタにて前記紫外線硬化型インクを吐出する場合、前記インクジェットプリンタに装備されたヘッドに加熱装置を装備し、インクを加熱することによりインク粘度を低下させて吐出してもよい。インクの加熱温度としては25〜150℃が好ましく、30〜70℃がより好ましい。25℃未満の場合、インクの粘度を低下させることができないおそれがあり、また、150℃を超えると、インクが硬化してしまうおそれがある。インクの加熱温度は、前記紫外線硬化型インクに含まれる反応性モノマーおよび/または反応性オリゴマーの熱に対する硬化性を考慮して定められ、熱により硬化が開始する温度よりも低く設定する。
【0049】
前記紫外線硬化型インクに含まれる反応性モノマーおよび/または反応性オリゴマーを硬化させるための紫外線照射の条件としては、紫外線ランプの出力が、50〜280W/cmであることが好ましく、80〜200W/cmであることがより好ましい。紫外線ランプの出力が50W/cm未満であると、紫外線のピーク強度および積算光量不足によりインクが十分に硬化しないおそれがあり、280W/cmを超えると、基材が紫外線ランプの熱により変形または溶融し、また、インクの硬化膜が劣化するおそれがある。
【0050】
紫外線の照射時間は、0.05〜20秒であることが好ましく、0.1〜10秒であることがより好ましい。紫外線ランプの照射時間が0.05秒未満であると、紫外線の積算光量不足となり紫外線硬化型インクが十分に硬化しないおそれがある。また、20秒を超えると、基材が紫外線ランプの熱により変形または溶融し、また、インクの硬化膜が劣化するおそれがある。
【0051】
紫外線照射により前記紫外線硬化型インクを硬化させ、インクジェットプリント層を形成した後で、さらにその上にクリア塗装を施してもよい。クリア塗装は、光沢などの外観調製、耐候性の向上のためにインクジェットプリント層形成後に付与されるものである。クリア塗装に用いられるクリア塗料としては、水系、溶剤系のいずれでも構わないが、作業性や安全性の点で水系塗料であることが好ましい。クリア塗料は、顔料、樹脂、さらに必要に応じて各種添加剤などによって構成される。なお、樹脂および各種添加剤については、前記インク受理層形成塗料のところで説明したものと同様のものが使用できる。なお、クリア塗料に使用される顔料とは艶消剤のことであり、具体的には、シリカ、樹脂ビーズなどがあげられる。光沢のあるクリア塗料層としたい場合には、艶消剤を含まないか、あるいは含んでもごく少量となるようにする。逆に、マット感のあるクリア塗料層としたい場合には、艶消剤を多く含むように設計する。しかしながら、あまり多く入れすぎると、得られるインクジェットプリント物の画像品位や物性が悪化するため、クリア塗料中の顔料重量濃度は、クリア塗料100重量部中に15重量部以下とすることが好ましい。クリア塗料中の顔料重量濃度が15重量部を超えると、その下層に位置するインクジェットプリント層による画像が綺麗に見えなくなってしまうおそれがあり、また、得られるインクジェットプリント物の耐水性が悪くなるおそれもある。
【0052】
前記クリア塗料の塗布量は3〜150g/m
2(乾燥状態)であることが好ましい。塗布量が3g/m
2未満であると、基材表面を完全に被覆できないおそれがあり、150g/m
2を超えると、クリア塗料層に亀裂が発生しやすくなるおそれがある。
【0053】
前記クリア塗料層の厚みは、3〜100μmであることが好ましい。3μm未満であると、基材表面を完全に被覆できないおそれがあり、100μmを超えると、クリア塗料層に亀裂が発生しやすくなるおそれがある。
【0054】
前記クリア塗料の塗布方法や乾燥方法については、前記インク受理層形成塗料のところで説明した方法と同様のものが適用できる。
【0055】
このようにして、本発明にかかるインクジェットプリント物を得ることができる。
【実施例】
【0056】
次に、本発明について、実施例をあげて説明するが、本発明は、必ずしもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
[実施例1]
<インク受理層形成工程>
下記処方に従って混合し、10分間撹拌後、80メッシュで濾過して、インク受理層形成塗料を得た。
・アクリル系樹脂:アクロナールYJ2720D 100重量部
(樹脂分48.0%、アクリル−スチレンエマルジョン、Tg=9℃、BASFジャパン(株)製)
・造膜助剤:キョーワノールM 1重量部
(2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、協和発酵ケミカル(株)製)
・微細粒子:カルライトKT 20重量部
(顔料分100%、炭酸カルシウム、太陽化学(株)製)
水 10重量部
このとき、塗料中の不揮発成分に対する微細粒子の含有量は、29.4質量%であった。
【0058】
次いで、スレート板に、得られたインク受理層形成塗料を、エアースプレーにて、塗布量30g/m
2(乾燥状態)となるように塗布し、その後、80℃で10分間乾燥させ、インク受理層を形成した。
【0059】
<インクジェットプリント工程>
下記処方に従って混合し、ビーズミル分散機を用いて分散した後、濾過を行って不純物除去し、均質な紫外線硬化型のブルーインクを作製した。
・青顔料:HOSTAPERM Blue P−BFS 3重量部
(C.I.Pigment Blue 15:4 銅フタロシアニンブルー、クラリアントジャパン(株)製)
・分散剤:Disperbyk−168 3重量部
(高分子系分散剤、BykChemie製)
・反応性オリゴマー:CN985B88 20重量部
(脂肪族ウレタンアクリレート、2官能、サートマー(株)製)
・反応性モノマー:SR238F 68.3重量部
(1,6−へキサンジオールジアクリレート、2官能、サートマー(株)製)
・光重合開始剤:ダロキュア1173 5重量部
(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)
・濡れ剤:DOW CORNING TORAY 32 ADDITIVE
0.7重量部
(シリコーン系濡れ剤、東レダウコーニングシリコーン(株)製)
作製したブルーインクの粘度は、50℃において8.5mPas、表面張力は、25℃条件下で25.0dyne/cmであった。
【0060】
次いで、インクジェットプリンタを用いて、下記条件でインク受理層上への前記ブルーインク付与を実施した。なお、インク付与時のスレート板の基材表面温度を棚乾燥機(型式:AD−420 アドバンテック(株))を用いて所定の温度とした。なお、表面温度測定は、非接触型温度計(SK−8900 (株)佐藤計量器製作所製)を用いて測定した。
◎インクジェット塗装条件
ア)ノズル径 : 40(μm)
イ)印加電圧 : 50(V)
ウ)パルス幅 : 15(μs)
エ)駆動周波数 : 5(KHz)
オ)解像度 : 400(dpi)
カ)ヘッド加熱温度 : 60(℃)
キ)インク塗布量 : 7(g/m
2)
ク)基材表面温度 : 25、40、60、80(℃)
【0061】
<紫外線硬化型インク硬化工程>
次いで、下記条件にて、紫外線硬化型インクの硬化を行い、インクジェットプリント物を得た。
◎紫外線照射条件
あ)ランプ種類 : メタルハライドランプ
い)出力 : 100(W/cm)
う)照射時間 : 0.5(秒)
え)照射高さ : 10(cm)
お)プリント〜照射までのタイミング :5(秒)
【0062】
得られたインクジェットプリント物を、下記評価方法にて評価した。その結果を表1に示す。
また、インクジェット時の基材表面温度と線幅との関係を
図1に示す。
【0063】
<評価方法>
(1)画像品位(細線表現)
基材表面温度(25℃、40℃、60℃、80℃)の各条件下で、60μmの細線画像をインクジェットプリントし、得られたインクジェットプリント物に形成された実際の画像の線幅を測定した。次いで、測定結果から、画像品位(細線表現)を下記基準により評価した。
○:線幅が200μm以下
△:線幅が200μmより広く、300μm以下
×:線幅が300μmより広い
次いで、基材表面温度(25℃、40℃、60℃、80℃)の各条件下で得られた細線表現結果を総合評価した。全ての温度条件下で○となったものを合格:○、それ以外を不合格:×とした。
【0064】
(2)画像品位(ベタ表現)
基材表面温度(25℃、40℃、60℃、80℃)の各条件下で、ベタ柄をインクジェットプリントし、得られたインクジェットプリント物に形成された実際の画像を目視にて確認し、画像品位(ベタ表現)を下記基準により評価した。
○:ベタ表現が一様である(画像により、下地がきれいに隠蔽されている)
×:ベタ表現が一様でない(モトリング(※1)が確認される、スジ品位(※2)となっている 等)
(※1)モトリング:着弾したインクが不均一となっている状態
(※2)スジ品位:画像がスジ感の目立つものであり、下地をきれいに覆えていない状態
次いで、基材表面温度(25℃、40℃、60℃、80℃)の各条件下で得られたベタ表現結果を総合評価した。全ての温度条件下で○となったものを合格:○、それ以外を不合格:×とした。
【0065】
(3)インク受理層表面の割れ性
インク受理層の表面を目視観察し、JIS K5600−8−4で規定される割れの等級を用いて、インク受理層表面の割れ性を評価した。
○:等級0〜1である
×:等級2〜5である
◎JIS K5600−8−4規定:割れの等級
等級1:10倍に拡大しても視感できない
等級2:10倍に拡大すれば視感できる
等級3:正常に補正された視力でやっと認識できる
等級4:一般的に幅1mmに達する大きな割れ
等級5:一般的に幅1mmを越える非常に大きな割れ
【0066】
[実施例2] インク受理層形成塗料中の樹脂を、アクリル系樹脂:アクロナールYJ2746DS(樹脂分50.0%、アクリル−スチレンエマルジョン、Tg=−2℃、BASFジャパン(株)製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、インクジェットプリント物を作製した。
得られたインクジェットプリント物の評価結果を表1に示す。
また、インクジェット時の基材表面温度と線幅との関係を
図1に示す。
【0067】
[実施例3]
インク受理層形成塗料中の樹脂を、アクリル系樹脂:アクロナールYJ2716D(樹脂分48.0%、アクリル−スチレンエマルジョン、Tg=25℃、BASFジャパン(株)製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、インクジェットプリント物を作製した。
得られたインクジェットプリント物の評価結果を表1に示す。
また、インクジェット時の基材表面温度と線幅との関係を
図1に示す。
【0068】
[比較例1]
インク受理層形成塗料中の樹脂を、アクリル系樹脂:アクロナールYJ2741D(樹脂分56.0%、アクリル−スチレンエマルジョン、Tg=−16℃、BASFジャパン(株)製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、インクジェットプリント物を作製した。
得られたインクジェットプリント物の評価結果を表1に示す。
また、インクジェット時の基材表面温度と線幅との関係を
図2に示す。
【0069】
[比較例2]
インク受理層形成塗料中の樹脂を、アクリル系樹脂:アクロナールYJ2770D(樹脂分48.5%、アクリル−スチレンエマルジョン、Tg=43℃、BASFジャパン(株)製)に変更した以外は、実施例1と同様にして、インクジェットプリント物を作製した。
得られたインクジェットプリント物の評価結果を表1に示す。
また、インクジェット時の基材表面温度と線幅との関係を
図2に示す。
【0070】
[比較例3]
インク受理層形成塗料中の微細粒子含有量を、塗料中の不揮発成分に対し15質量%となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、インクジェットプリント物を作製した。
得られたインクジェットプリント物の評価結果を表1に示す。
また、インクジェット時の基材表面温度と線幅との関係を
図2に示す。
【0071】
[比較例4]
インク受理層形成塗料中の微細粒子含有量を、塗料中の不揮発成分に対し55質量%となるように変更した以外は、実施例1と同様にして、インクジェットプリント物を作製した。
得られたインクジェットプリント物の評価結果を表1に示す。
また、インクジェット時の基材表面温度と線幅との関係を
図2に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1および
図1に示すとおり、実施例1〜3で得られたインクジェットプリント物は、いずれも、高品位の画像を得ることができるものであった。また、広範囲にわたる基材温度条件下で細線表現およびベタ表現に優れ、基材温度の違いによる線幅の変化も小さいことから、画像品位安定性に優れるものであった。また、インク受理層表面の割れ性についても問題ないものであった。
一方、比較例1で得られたインクジェットプリント物は、モトリングやスジ品位が目立ちベタ表現に劣るものであった。
また、比較例2で得られたインクジェットプリント物は、表1および
図2に示すとおり、基材表面温度を60℃や80℃に設定した条件下では細線表現が可能であったものの、基材表面温度を25℃に設定した場合では、線幅が太く細線表現に劣るものであった。すなわち、比較例2で得られたインクジェットプリント物は、画像品位がインクジェット時の基材表面温度に影響されるものであり、生産時の画像品位安定性に劣るものであった。
また、比較例3で得られたインクジェットプリント物は、モトリングが目立ちベタ表現に劣るものであった。なお、比較例3は、細線表現においては実施例2と同程度の細線表現であるにもかかわらず、実施例2と比較してベタ表現に劣る結果となっている。その理由として、実施例2では、形成したインク受理層中の微細粒子の作用(毛細管現象等)によってインクが均一に濡れ広がり、モトリングの発生を抑制できたものと考えられる。一方、比較例3は、微細粒子の含有量が少なく、微細粒子の作用を十分に得られず、インクの濡れ広がりが不十分となり、モトリングが発生したと考えられる。
また、比較例4で得られたインクジェットプリント物は、インク受理層表面に割れが発生したことにより、インク付与時にインクが割れ目に深さ方向へと侵入したため、インクが十分に濡れ広がらず、スジ品位が目立ち、ベタ表現に劣るものであった。