(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
様々な装置や機器に電動のモータが使用される。モータは主にブラシ付モータとブラシレスモータに大別され、耐久性,静音声,制御性が要求される場合はブラシレスモータが使用される場合が多い。ブラシレスモータは、円筒形で側面に異なる磁極が交互に配列されるマグネットロータと、マグネットロータの周囲に配置されて複数のコイルから構成されるステータとを備えている。
【0003】
以下、
図17を用いて従来のマグネットロータの構成を説明する。
図17は従来のマグネットロータの構成を示す概略図であり、平面図と断面図とが表されている。
【0004】
図17に示すように、従来のマグネットロータ17は、磁石18と出力軸19とで構成される。磁石18は円筒形であり、側面に極性の異なる磁極が交互に配列される。
図17では、6極の磁極が形成されている。磁石18はフェライト磁石やネオジウム磁石で形成することができるが、通常、コスト面等を考慮してフェライト磁石が用いられる。出力軸19は、円筒形状の磁石18の2つの円形底面を貫通して設けられ、磁石18が回転すると出力軸19も同軸で回転する。ブラシレスモータは、マグネットロータ17の周囲に配置されたステータのコイルに周期的に電流方向を変化させて電流を流すことにより、出力軸19を軸としてマグネットロータ17を回転させることにより回転出力を抽出する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】本発明の側面に磁力調整磁石を備える磁石の構成を説明する図
【
図3】本発明の磁石における磁力調整磁石の構成を例示する要部拡大図
【
図4】本発明の磁石における磁力調整磁石の構成を例示する要部拡大図
【
図5】本発明の磁石における磁力調整磁石の構成を例示する要部拡大図
【
図6】本発明の磁石における磁力調整磁石の構成を例示する要部拡大図
【
図7】本発明の磁石における磁力調整磁石の構成を例示する要部拡大図
【
図8】本発明のマグネットロータの構成を説明する図
【
図10】本発明の磁石における低温減磁が抑制されるシミュレーション結果を示す図
【
図11】本発明の磁石における低温減磁が抑制されるシミュレーション結果を示す図
【
図12】本発明の磁石における低温減磁が抑制されるシミュレーション結果を示す図
【
図13】本発明の磁石における低温減磁が抑制されるシミュレーション結果を示す図
【
図14】本発明の磁石における低温減磁が抑制されるシミュレーション結果を示す図
【
図15】従来のフェライト磁石における低温減磁の実験結果を示す図
【
図16】本発明の磁石における低温減磁が抑制される実験結果を示す図
【
図17】従来のマグネットロータの構成を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0012】
ブラシレスモータはマグネットロータを備える。また、マグネットロータは、互いに異なる極性の磁極が隣り合って交互に配列される磁石と出力軸とから構成される。本発明の磁石はマグネットロータ等に用いることができる。以下、
図1〜
図7を用いて、本発明の磁石について説明する。
【0013】
図1は本発明の磁石の構成を説明する図であり、平面図と平面図のA−A’断面図を示す。
図2は本発明の側面に磁力調整磁石を備える磁石の構成を説明する図であり、平面図と平面図のB−B’断面図を示す。
【0014】
図1に示すように、本発明の磁石1は、外形が円筒形であり、隣接する磁極が異なるように側面5に複数の磁極が形成される。
図1に示す磁石1は、側面5にS極2とN極3とが3極ずつ交互に等間隔に配列される6極構成である。磁石1において、少なくとも形成される磁極部分はフェライト磁石で形成される。本発明の磁石1の特徴は、隣接するS極2とN極3との間の領域である極境界にネオジウム磁石からなる磁力調整磁石4を形成することである。磁石1において、S極2とN極3との間において、磁力調整磁石4上を含めて磁界は連続的に変化し、磁力調整磁石4の中心で磁力は0になる。磁力調整磁石4は、少なくとも磁極間の極境界の側面5を含む領域に形成され、極間方向である幅Wと底面円6の中心方向である深さDを持って形成される。例えば、磁力調整磁石4の側面5における幅Wは、S極2とN極3との間隔の長さの10%〜50%とすることが好ましい。磁力調整磁石4の深さDは、S極2とN極3との間隔の長さの30%〜70%とすることが好ましい。磁力調整磁石4の底面円6における形状は任意であり、矩形形状でも良いし、半円,半楕円形状でも良く、底面円6の中心方向に向かう程に幅が狭くなる形状でも良い。
【0015】
なお、磁石1は任意の方法で製造することができるが、例えば、フェライト磁石で円筒形の磁石を製造し、極境界を切り欠き、切り欠いた領域にネオジウム磁石を埋め込むことにより製造できる。また、フェライト磁石およびネオジウム磁石として、それぞれ、またはいずれか一方を樹脂磁石とすることもできる。樹脂磁石の場合、極境界とその近傍に切り欠きを設けた樹脂フェライト磁石を製造した後、切り欠きに樹脂ネオジウム磁石が埋め込まれる。
【0016】
このように、極境界をネオジウム磁石からなる磁力調整磁石4で形成することにより、磁極部分にフェライト磁石を用いても、磁石1は低温減磁が抑制される。また、ネオジウム磁石はフェライト磁石に比べて低温減磁が生じにくい。そのため、磁石全体をネオジウム磁石のみで形成することにより低温減磁を抑制することができる。しかし、ネオジウム磁石はフェライト磁石に比べて高価である。そのため、磁石を安価に製造できない。本発明の磁石1は、少なくとも磁極部分がフェライト磁石で形成され、極境界領域にネオジウム磁石からなる磁力調整磁石4が形成されることにより、安価な構成で低温減磁が抑制される。
【0017】
さらに、
図2に示すように、磁石10は、磁石1の側面5上全面にネオジウム磁石からなる磁力調整磁石7が形成されても良い。磁石10の磁極は磁石1と同様に、磁石10の側面である磁力調整磁石7の表面上に、S極2とN極3とが交互に等間隔に配列される。磁力調整磁石7の厚みは、例えばS極2とN極3との間隔の長さの5%〜30%とすることが好ましい。また、磁力調整磁石7は磁力調整磁石4と全く同一の材質でも良く、一体形成されていても良く、異なる組成,磁力を有していても良い。
【0018】
このように、側面5に磁力調整磁石7をさらに備えることにより、磁石10はより低温減磁を抑制することができる。
上述のように、磁石1,磁石10において、磁力調整磁石4は様々な形状にすることができる。以下、
図3〜
図7を用いて磁力調整磁石4の構成例を示す。
【0019】
図3〜
図7は本発明の磁石における磁力調整磁石の構成を例示する要部拡大図である。
磁力調整磁石4は、底面円6(
図1参照)上の形状として、
図3に示すように、底面円6(
図1参照)の中心に向かう程幅が細くなる曲線状の外形を持つ形状や、
図4に示すように、底面円6(
図1参照)の中心に向かう程幅が細くなる直線状の外形を持つ形状や、
図5に示すように、一定の幅で深さ方向に形成される形状とすることができ、さらに、これらを部分的に組み合わせた形状とすることもできる。また、磁力調整磁石4は断面形状として、
図6に示すように、底面円6(
図1参照)側よりその中間部の深さが深い形状や、
図7に示すように、底面円6(
図1参照)側よりその中間部の深さが浅い形状とすることができる。また、一方の底面円6(
図1参照)側から他方の底面円6(
図1参照)側に向かって徐々に深さが浅くなるように形成しても良い。そして、
図1,
図3〜
図5に示す平面形状と
図1,
図6,
図7に示す断面形状等を任意に組み合わせることもできる。
【0020】
図8は本発明のマグネットロータの構成を説明する図である。
ブラシレスモータに用いるマグネットロータ8の磁石として、上述の磁石1,磁石10を用いることができる。例えば、
図8に示すように、マグネットロータ8は、磁石1と出力軸9とから構成される。出力軸9は、底面円6の中心を通る磁石1の中心軸と、中心軸が一致するように磁石1にはめ込まれる。これにより、磁石1の回転に応じて出力軸9が回転する。ここでは、磁石1を用いた場合を例に説明したが、磁石10を用いることもできる。
【0021】
図9はブラシレスモータの構成を示す図であり、本発明のマグネットロータが組み込まれた構成を例示している。
図9に示すように、本発明のマグネットロータ8が組み込まれたブラシレスモータ11は、電流を流す向きを変更可能な複数のコイル12を備えるステータ13と、複数のコイル12に囲まれるようにステータ13に設置されるマグネットロータ8とから構成される。ブラシレスモータ11は、コイル12に流れる電流を周期的に反転させることにより、コイルに発生する磁界と磁石1の磁界との吸引/反発によりマグネットロータ8を回転させ、出力軸9を回転させる。
【0022】
このように、ブラシレスモータ11に本発明の磁石1,磁石10を用いることにより、ブラシレスモータ11を自動車等の低温で動作する機器,装置で用いる場合であっても、低温減磁が抑制され、動作精度を向上させることができる。
【0023】
以下、
図10〜
図16を用いて、本発明の磁石における低温減磁が抑制されるシミュレーション結果および実験結果を示す。
図10〜
図14は本発明の磁石における低温減磁が抑制されるシミュレーション結果を示す図であり左側に示す構成の磁石におけるシミュレーション結果を右側に示している。
図15は従来のフェライト磁石における低温減磁の実験結果を示す図、
図16は本発明の磁石における低温減磁が抑制される実験結果を示す図である。
【0024】
図10〜
図14は、底面円の直径が29mm、厚みが11mmの円筒形であり、磁極での磁力が0.3Tである磁石にコイルに10Aの電流を流した場合における−40℃での磁場解析を行ったシミュレーション結果の例である。
【0025】
図10は従来のフェライト磁石のみを用いた磁石における磁場解析結果であり、磁極15間の中点近傍である境界領域に磁力が低下する低温減磁14が認められた。
図11に示すように、フェライト磁石の側面上に厚さ1.0mmのネオジウム磁石からなる磁力調整磁石7を形成すると、
図10に比べて抑制されているが、側面の内側領域の低温減磁14が残留した。
【0026】
図12に示すように、磁極をフェライト磁石で形成した磁石の極境界を中心に幅2.0mm、側面から深さ方向に5.0mmにわたって磁力調整磁石4を形成すると、
図10に比べて抑制されているが、磁力調整磁石4が形成された領域に隣接する側面付近に低温減磁14が残留した。
【0027】
図13に示すように、磁極をフェライト磁石で形成した磁石の極境界を中心に幅2.0mm、側面から深さ方向に5.0mmにわたって磁力調整磁石4を形成し、側面上に厚さ0.5mmのネオジウム磁石からなる磁力調整磁石7を形成すると、
図10に比べて抑制されているが、磁力調整磁石4を形成した領域の近傍に低温減磁14が残留した。
【0028】
図14に示すように、磁極をフェライト磁石で形成した磁石の極境界を中心に幅3.0mm、側面から深さ方向に6.0mmにわたって磁力調整磁石4を形成し、側面上に厚さ1.0mmのネオジウム磁石からなる磁力調整磁石7を形成すると、低温減磁14が発現せず、良好な結果が得られた。
【0029】
シミュレーションの結果、上記の条件では、磁極をフェライト磁石で形成した磁石の極境界を中心に幅2.5mm〜3.5mm、側面から深さ方向に5.5mm〜6.5mmにわたって磁力調整磁石4を形成し、側面上に厚さ0.7〜1.2mmのネオジウム磁石からなる磁力調整磁石7を形成することにより、低温減磁14が抑制されることが分かった。
【0030】
図15,
図16は、底面円の直径がφ30mm、厚みが11mmの円筒形であり、磁極での磁力が0.3Tである磁石にコイルに10Aの電流を流した場合における、室温と−40℃との磁石の側面における磁束密度波形を比較した実験結果の例である。
図15は従来の磁石をフェライト磁石のみで形成した実験結果であり、
図16は本発明の磁極をフェライト磁石で形成した磁石の極境界を中心に幅3.0mm、側面から深さ方向に6.0mmにわたって磁力調整磁石4を形成し、側面上に厚さ1.0mmのネオジウム磁石からなる磁力調整磁石7を形成した場合の実験結果である。
【0031】
図15に示すように、室温では低温減磁が発生しない従来のフェライト磁石であっても、−40℃の環境下では、磁極の切り替わる領域において磁束密度が0mT近傍の領域が広がる低温減磁領域16が確認された。この磁石をモータに用いた場合、このような低温減磁によりコギングが発生し、モータの回転ムラが生じる。
【0032】
これに対して、
図16に示すように、本発明の磁石では、室温および−40℃の環境下での磁束密度波形にほとんど変化が見られず、低温減磁は確認されなかった。そのため、この磁石をモータに用いても回転ムラが発生しない。
【0033】
これらの実験により、上記の条件では、磁極をフェライト磁石で形成した磁石の極境界を中心に幅2.5mm〜3.5mm、側面から深さ方向に5.5mm〜6.5mmにわたって磁力調整磁石4を形成し、側面上に厚さ0.7〜1.2mmのネオジウム磁石からなる磁力調整磁石7を形成することにより、低温減磁14が抑制されることが確認された。