(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1記載の複合樹脂成型体を製造するための方法であって、主剤樹脂と有機繊維状フィラーと分散剤とを溶融混練した後に成型することを特徴とする複合樹脂成型体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の複合樹脂成型体は、主剤樹脂、有機繊維状フィラーおよび分散剤を含有する溶融混練物からなるものであり、複合樹脂ペレット、複合樹脂ペレットから成形される成形体、それを使用した製品の外装部材や内装部材が該当する。複合樹脂成型体中の炭化した有機繊維状フィラーは特定の割合を有する。複合樹脂成型体は、
図1の模式図に示すように、主剤樹脂1中に有機繊維状フィラー2が分散されており、一部の有機繊維状フィラー2は炭化した有機繊維状フィラー3として存在している。
【0010】
本発明において、主剤樹脂1は、良好な成型性を確保するために、熱可塑性樹脂であることが好ましく、熱可塑性樹脂として、オレフィン系樹脂(環状オレフィン系樹脂を含む)、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、有機酸ビニルエステル系樹脂またはその誘導体、ビニルエーテル系樹脂、ハロゲン含有樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリスルホン系樹脂(ポリエーテルスルホン、ポリスルホンなど)、ポリフェニレンエーテル系樹脂(2,6−キシレノールの重合体など)、セルロース誘導体(セルロースエステル類、セルロースカーバメート類、セルロースエーテル類など)、シリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサンなど)、ゴムまたはエラストマー(ポリブタジエン、ポリイソプレンなどのジエン系ゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴムなど)などが挙げられる。上記の樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することができる。
なお、主剤樹脂1は熱可塑性を有していれば上記の材料に限定されるものではない。
【0011】
これらの熱可塑性樹脂のうち、主剤樹脂1は、比較的低融点であるオレフィン系樹脂であることが好ましい。オレフィン系樹脂としては、オレフィン系単量体の単独重合体の他、オレフィン系単量体の共重合体、オレフィン系単量体と他の共重合性単量体との共重合体が含まれる。
オレフィン系単量体としては、例えば、鎖状オレフィン類(エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンなどのα−C2−20オレフィンなど)、環状オレフィン類などが挙げられる。これらのオレフィン系単量体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。上記オレフィン系単量体のうち、エチレン、プロピレンなどの鎖状オレフィン類が好ましい。
他の共重合性単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの脂肪酸ビニルエステル;(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル系単量体;マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸またはその無水物;カルボン酸のビニルエステル(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)など;ノルボルネン、シクロペンタジエンなどの環状オレフィン;およびブタジエン、イソプレンなどのジエン類などが挙げられる。これらの共重合性単量体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
オレフィン系樹脂の具体例としては、ポリエチレン(低密度、中密度、高密度または線状低密度ポリエチレンなど)、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1などの三元共重合体などの鎖状オレフィン類(特にα−C2−4オレフィン)の共重合体などが挙げられる。
【0012】
次に分散剤について説明する。
本発明の複合樹脂成型体は、有機繊維状フィラー2と主剤樹脂1との接着性、あるいは
主剤樹脂1中の有機繊維状フィラー2の分散性を向上させるなどの目的で、分散剤を含有
する。分散剤としては、各種のチタネート系カップリング剤、シランカップリング剤、不
飽和カルボン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、またはその無水物をグラフトした変性ポ
リオレフィン、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステルなどが挙げられる。上記シランカ
ップリング剤は、不飽和炭化水素系やエポキシ系のものが好ましい。分散剤の表面は、熱
硬化性もしくは熱可塑性のポリマー成分で処理され変性処理されても問題ない。
本発明の複合樹脂成型体における分散剤の含有量は、0.01質量%以上20質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上5質量%以下であることがさらに好ましい。分散剤の含有量が、0.01質量%未満であると、分散不良が発生し、一方、分散剤の含有量が20質量%を超えると、複合樹脂成型体の強度が低下する。
【0013】
次に有機繊維状フィラー2について説明する。
本発明の複合樹脂成型体は、機械的特性の向上や、線膨張係数の低下による寸法安定性などの効果を得るために、有機繊維状フィラー2を含有する。
有機繊維状フィラー2は、成型体内部まで均一に熱伝導性を付与することによって、樹脂の溶融混練時の剪断力による熱エネルギーが局所的に発生することを抑制し、有機繊維状フィラーの炭化による濃色化を抑えるために、主剤樹脂1よりも熱伝導率が高いことが好ましい。具体的には、パルプ、セルロース、セルロースナノファイバー、リグノセルロース、リグノセルロースナノファイバー、綿、絹、羊毛あるいは麻等の繊維状フィラー、ジュート繊維、レーヨンあるいはキュプラなどの再生繊維、アセテート、プロミックスなどの半合成繊維、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、アラミド、ポリオレフィンなどの合成繊維、さらにはそれらの表面及び末端に化学修飾した変性繊維などが挙げられる。またさらにこれらの中で、入手性、熱伝導率の高さ、線膨張係数の低さの観点から、パルプ、セルロース、セルロースナノファイバー、リグノセルロース、リグノセルロースナノファイバー、綿、麻、ジュート繊維、レーヨン、キュプラ、アセテートなどのように、組成としてセルロースが含まれているセルロース類が特に好ましく、これらからなる繊維状フィラーが混在していてもよい。
【0014】
有機繊維状フィラー2の一部は、繊維径が短い、繊維長さが短い、または繊維同士の絡み方が少ないなどの理由によって、主剤樹脂1や他の有機繊維状フィラー2に熱エネルギーが移動しにくい3次元構造になる場合があり、局所的に有機繊維状フィラー2の温度が上昇することから、有機繊維状フィラー2の一部は、炭化反応が進行し、僅かに濃色化することがある。
図1中に炭化した有機繊維状フィラー3を示す。
【0015】
本発明の複合樹脂成型体の断面に現れる複数の有機繊維状フィラーにおいて、複合樹脂成型体中に分散している炭化した有機繊維状フィラーの割合(炭化度)Tは、ラマン分光法やフーリエ変換赤外線分光分析(FT−IR)法などの光学分析手法を用いて測定され得る。例えば、有機繊維状フィラーがセルロース類である場合、その炭化度Tは、複合樹脂成型体の任意の箇所におけるFT−IR法により分析したIRスペクトルにおけるカルボニル基由来のピーク高さP
Cと、同IRスペクトルにおけるエーテル基由来のピーク高さP
UCとから、次式(1)で算出され得る。
T=P
C/(P
C+P
UC) (1)
セルロースは、炭化反応が進行することによって分解される。これにより、セルロースを構成するエーテル基(C−O−C)が減少し、IRスペクトルにおけるエーテル基由来のピーク高さ(波数1060cm
−1付近)P
UCが小さくなる。一方で、セルロースの炭化反応が進行するにつれて、カルボニル基が増加するため、IRスペクトルにおけるカルボニル基由来のピーク高さP
Cは大きくなる。従って、上記式(1)により、セルロース類の炭化度Tを算出することができる。
あるいは、炭化した有機繊維状フィラーの面積の合計S
Cと、炭化していない有機繊維状フィラーの面積の合計S
UCとから、炭化した有機繊維状フィラーの割合(S
C/(S
C+S
UC))を炭化度Tとして算出することも可能である。
なお、上記分析手法において、視野角はおおよそ200μm四方であることが好ましいが、巨視的に複合樹脂成型体中に分散された炭化した有機繊維状フィラーの割合Tを測定できれば上記の測定手段、視野角に限定されるものではない。
有機繊維状フィラーは、割合Tが1に近づくほど、炭化反応が進行しており、複合樹脂成型体は濃色化し、また割合Tが0に近づくほど、炭化反応が進行しておらず、複合樹脂成型体は濃色化していない。
【0016】
本発明において、炭化した有機繊維状フィラーの割合Tは0.1以下であることが必要であり、0.08以下であることが好ましく、0.06以下であることがより好ましい。炭化した有機繊維状フィラーの割合Tが0.1より大きいと、局所的な有機繊維状フィラーの温度上昇によって生じた有機繊維状フィラーの炭化によって、樹脂ペレットが濃色化する。濃色化した樹脂ペレットの色は、目視では白色(透明)よりも認識されやすいため、白色ペレットとして射出成型の原材料に用いる場合の工業展開先が限定的となる問題がある。一方、炭化した有機繊維状フィラーの割合Tが0.1以下であると、有機繊維状フィラーの炭化がほとんど進行していないので、複合樹脂成型体の濃色化が抑制でき、白色ペレットとして射出成型の原材料に用いて、複合樹脂成型体を得ることが可能となる。
【0017】
有機繊維状フィラーの断面の模式図を
図2に示す。主剤樹脂1中に存在する直径5μm前後の有機繊維状フィラーの半径をr
0、断面中心からの距離をrとした際に、有機繊維状フィラー断面において、断面中心からの距離rが半径r
0の√2/2倍以上である部分を断面の周辺部と定義し、断面中心からの距離rが半径r
0の√2/2倍未満である部分を断面の中心部と定義する。
式(2)で表される、炭化した周辺部の割合T
OUTと、式(3)で表される、炭化した中心部の割合T
INが、次式(4)を満足することが好ましい。
T
OUT=S
OUT−C/(S
OUT−C+S
OUT−UC) (2)
T
IN=S
IN−C/(S
IN−C+S
IN−UC) (3)
T
IN<T
OUT (4)
(S
OUT−Cは、複合樹脂成型体の断面に現れる複数の有機繊維状フィラーの断面において、炭化した周辺部の面積の合計であり、S
OUT−UCは、炭化していない周辺部の面積の合計であり、S
IN−Cは、炭化した中心部の面積の合計であり、S
IN−UCは、炭化していない中心部の面積の合計である。)
この理由について以下に説明する。
すなわち、T
OUTがT
INよりも大きい場合は、有機繊維状フィラーは、表面の炭化が進行しても、中心部の炭化が進行していないので、機械的強度を確保することができる。一方、T
OUTがT
INよりも小さい場合は、有機繊維状フィラーは、中心部の炭化が進むことから、有機繊維状フィラー自体の機械的強度が低下する問題が発生する。よって有機繊維状フィラーの断面においては、炭化した周辺部の割合が、炭化した中心部の割合よりも大きいことが好ましい。
【0018】
主剤樹脂1中に分散した有機繊維状フィラー2は、繊維径分布におけるD
10の繊維径が500nm以下であり、繊維径分布におけるD
90の繊維径が5μm以上であることが好ましい。この理由について以下に説明する。
すなわち、主剤樹脂1の機械的強度を向上させるためには、有機繊維状フィラー2は、繊維径が細い状態で分散されていることが好ましく、D
10の繊維径が500nm以下であれば、主剤樹脂1中に分散される有機繊維状フィラー2の本数を増やすことができ、複合樹脂成型体の機械的強度向上させることができる。一方、D
10の繊維径が500nmよりも大きいと、主剤樹脂1中に分散される有機繊維状フィラー2の本数が減少するために、複合樹脂成型体の機械的強度が低下する問題が発生する。
またD
90の繊維径が5μm以上である有機繊維状フィラー2は、主剤樹脂1中において熱伝導性を確保することできるので、有機繊維状フィラー2の炭化を抑制することができる。一方、D
90の繊維径が5μmよりも小さい有機繊維状フィラー2は、主剤樹脂1中において局所的な発熱が起こる際に熱伝導性が低下するために、有機繊維状フィラー2の炭化が発生するという問題がある。よって、有機繊維状フィラーは、D
10の繊維径が500nm以下であり、D
90の繊維径が5μm以上であることが好ましい。
【0019】
本発明の複合樹脂成型体における有機繊維状フィラーの含有量は、5質量%以上70質量%以下であることが必要であり、7.5質量%以上60質量%以下であることが好ましく、10質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。有機繊維状フィラーの含有量が5質量%未満であると、複合樹脂成型体は、機械的強度を確保することができず、また有機繊維状フィラーの含有量が70質量%を超えると、溶融混練時の粘度が上がるために、主剤樹脂中の有機繊維状フィラーの分散性が低下し、また得られた複合樹脂成型体は、外見不良が発生するなどの問題がある。
【0020】
本発明の複合樹脂成型体は、繊維状フィラーとして、上記有機繊維状フィラーを含有するが、有機繊維状フィラーの炭化による濃色化を抑えるため、成型体内部まで均一に熱伝導性を付与することができる、有機繊維状フィラー以外の繊維状フィラーを含有してもよい。有機繊維状フィラー以外の繊維状フィラーとしては、たとえば、カーボンファイバー(炭素繊維)、カーボンナノチューブ、塩基性硫酸マグネシウム繊維(マグネシウムオキシサルフェート繊維)、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、炭酸カルシウム繊維、ガラス繊維、炭化ケイ素繊維、ワラストナイト、ゾノトライト、各種金属繊維などが挙げられ、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、ガラス繊維が好ましい。
【0021】
主剤樹脂1中に分散した有機繊維状フィラーの炭化を制御することより、複合樹脂成型体の明度(L値)を調整することができる。明度(L値)とは、Lab表色系におけるL値により示される値であり、明度(L値)が高いほど淡色であり、L値が小さいほど濃色である。明度(L値)は色彩色差計などの測定器を用いて測定することができる。なお、本発明において、明度(L値)は、以下の方法に従って測定を行った。すなわち、主剤樹脂1と有機繊維状フィラーと分散剤とを溶融混練して作製した複合樹脂成型体の上に、色差計を当て、明度(L値)の測定を行った。主剤樹脂1の明度を(L
*)1とし、主剤樹脂1と有機繊維状フィラーと分散剤によって構成された複合樹脂成型体の上記測定法における明度を(L
*)2とした際に、(L
*)1と(L
*)2の差の絶対値ΔL(以下、色差と記述する)が10以下であることが好ましい。色差がこの範囲内にあるとき、主剤樹脂1に対して複合樹脂成型体の色みがほとんど変化しないため、様々な部材に複合樹脂成型体を用いることが可能となる。色差が10より大きい場合は、複合樹脂成型体が濃色化しているために、複合樹脂成型体の工業展開先が限定的となる問題がある。
【0022】
次に、
図3を用いて複合樹脂成型体の製造方法について説明する。
図3は本発明の複合樹脂成型体の製造プロセスを例示するフロー図である。
溶融混練処理装置内に、主剤樹脂、有機繊維状フィラーおよび分散剤が投入され、装置内で溶融混練されることで、主剤樹脂が溶融し、溶融された主剤樹脂に、有機繊維状フィラーと分散剤が分散される。また同時に装置の剪断作用により、有機繊維状フィラーの凝集塊の解繊が促進され、有機繊維状フィラーを主剤樹脂中にさらに細かく分散させることができる。
【0023】
従来、有機繊維状フィラーとして、湿式分散などの前処理により事前に繊維を解繊したものが使用されている。しかし、有機繊維状フィラーは、前処理によりダメージが加わるために、繊維長が短くなる、または繊維中に部分的な欠損が生じることがある。よって、湿式分散などの前処理を行なった有機繊維状フィラーを含有する溶融樹脂は、有機繊維状フィラーによる熱伝導性が低下するので、加熱された有機繊維状フィラーは、局所的にその熱分解温度を超えるために、炭化が生じ、得られる複合樹脂成型体は濃色化する。
【0024】
これに対して本発明の複合樹脂成型体の製造プロセスでは、有機繊維状フィラーの解繊処理、変性処理を目的とした湿式分散による前処理を行わずに、主剤樹脂や分散剤などと一緒に溶融混練処理(全乾式工法)を行う。この工法では、有機繊維状フィラーの湿式分散処理を行わないことにより有機繊維状フィラーへのダメージが軽減し、繊維径の太い有機繊維状フィラーが溶融樹脂中に存在して熱伝導率が低下しにくいために、溶融樹脂の温度上昇を抑制しやすくなる。よって有機繊維状フィラーの炭化が進行しにくくなるので、複合樹脂成型体ペレットの濃色化を抑制することができる。
【0025】
溶融混練装置から押し出された溶融複合樹脂は、例えば水冷装置等の冷却工程を施した後に、ペレタイザー等の切断工程を経て、ペレットに作製される。本発明の製造方法により作製した複合樹脂成型体ペレット6の模式図を
図4に示す。円柱状のペレット6の寸法は、射出成型機内における樹脂ペレット材料の投入性、流動性の観点から、高さHは1〜10mmであることが好ましく、2〜5mmであることがより好ましい。同様に理由により、外径Dは10mm以下であることが好ましく、2〜5mmであることがより好ましい。なお、ペレット6の形状は円柱状に限定されるものではなく、曲面形状や球体形状を有した樹脂ペレットであってもよい。
【0026】
複合樹脂成型体ペレットを射出成型することにより、複合樹脂成型体としての射出成型品を作製することができる。複合樹脂成型体ペレットは、上記のように、有機繊維状フィラーへのダメージが軽減され、繊維径の太い有機繊維状フィラーが存在し、射出成型品を作製する際において熱伝導性が低下しにくいため、濃色化が抑制された射出成型品を得ることができる。また複合樹脂成型体ペレットは、繊維径の細い繊維状フィラーも分散されているため、得られる射出成型品は機械的強度も有している。
【実施例】
【0027】
以下、実施例および比較例について説明する。
複合樹脂成型体、有機繊維状フィラーの特性は下記の方法で測定、評価した。
【0028】
(1)繊維径
得られたシートについて断面SEM測定を行い、ポリプロピレン中に分散したパルプの繊維径分布を算出し、繊維径分布におけるD
90の繊維径と、D
10の繊維径を求めた。
【0029】
(2)弾性率、機械強度
得られたパルプ分散ポリプロピレンシートをダンベル形状に打ち抜き、引張試験装置により弾性率を測定した。また機械強度評価として、弾性率が2.0GPaより大きいものを良好と判断して「○」と評価し、そうでないものを「×」と評価した。
【0030】
(3)炭化した有機繊維状フィラーの割合T
炭化した有機繊維状フィラーの炭化度の評価について記載する。フーリエ変換赤外線分光分析(FT−IR)法を用いて評価した(Thermo Fisher Scientific社製 iS10)。そして、前述した式(1)により、成形体の任意の箇所の炭化度Tを測定した。
【0031】
(4)色差(ΔL)
得られたシートについて、色彩色差計を用いてL値(明度)を測定し、色差を算出した。まずシート表面に色彩色差計(株式会社コニカミノルタ製 CM−700d)を設置して明度((L
*)2)を測定し、主剤樹脂であるポリプロピレンのシートの明度((L
*)1)との差の絶対値を算出して、色差(ΔL)を求めた。濃色化抑制の評価として、色差(ΔL)が10以下であるものを良好と判断して「○」と評価し、そうでないものを「×」と評価した。
【0032】
(5)外観性
得られたシートについて外観を観察し、シート表面の凝集体や、樹脂とパルプとの色ムラが無ければ「○」と評価し、あれば「×」と評価した。
【0033】
(実施例1)
以下の製造方法によって、パルプ分散ポリプロピレンペレットを製造した。
ポリプロピレン(株式会社プライムポリマー製 商品名J108M、熱伝導率0.15W/(m・K))と、有機繊維状フィラーとして綿状針葉樹パルプ(三菱製紙株式会社製 商品名NBKP Celgar、平均繊維径1μm、熱伝導率0.6W/(m・K))と、分散剤として無水マレイン酸変性ポリオレフィン(三洋化成工業株式会社製 商品名ユーメックス(登録商標))とを質量比で100:15:5となるよう秤量し、ドライブレンドした。その後、二軸混練機(株式会社クリモト鉄工所製、KRCニーダ)にて溶融混練分散し、パルプ分散ポリプロピレンペレットを作製した。
【0034】
作製したパルプ分散ポリプロピレンペレットをSUS板上へ配置し、ペレットの周りを2mm厚みのシムプレートで長方形型に囲み、その上にもう1枚のSUS板を配置し、温度200℃の平板熱プレス機(株式会社井元製作所製 11FD)に挟み、3tの荷重をかけてシート状の融液とした。
溶融したシート樹脂をSUS板に挟んだまま、鉄板の上に放置し、室温で放冷した。室温まで冷却させた後、樹脂シートを取り出し、2mm厚の樹脂シートを得た。
得られた樹脂シートを、二軸延伸機(株式会社井元製作所製 11A9)にて、150℃で逐次二軸延伸を行った。延伸倍率はそれぞれ3倍とした。上記の方法により、複合樹脂成型体としてパルプ繊維分散ポリプロピレンシートを得た。
【0035】
得られたパルプ分散ポリプロピレンシートは、弾性率は2.6GPaであり、一般的なパルプが分散されていないポリプロピレンシートに比べて、高強度化されていた。また得られたシートの色差(ΔL)は5であり、濃色化の抑制は良好と評価された。
シートに分散したパルプは、D
10の繊維径が3nm、D
90の繊維径が14μmであった。シートに分散した炭化したパルプの割合Tは0.06であった。
得られたシートは、表面に凝集体が見られず、また樹脂とパルプとの色ムラがないものであった。
【0036】
(実施例2〜4、比較例1〜3)
実施例2〜4、比較例1〜3では、パルプの含有量と分散剤の種類を表1に記載の含有量と種類に変更した以外は実施例1と同様にして、パルプ繊維分散ポリプロピレンシートを作製した。なお、実施例4においては、分散剤として不飽和炭化水素系シランカップリング剤(モメンティブ社製 商品名SILQUEST)を用いた。
【0037】
(比較例4)
前処理(摩砕機などの物理的剪断力の付加や水と分散剤を用いた湿式分散による繊維の解繊化、変性化)により繊維の解繊が進んだパルプ繊維を用いた以外は、実施例1と同様にして、パルプ繊維分散ポリプロピレンシートを作製した。
【0038】
(比較例5)
パルプ分散ポリプロピレンペレットを作製せずに、ポリプロピレンのペレットとパルプとをSUS板上へ配置した以外は、実施例1と同様にして、パルプを含浸させたシート状の融液を得た。その後、実施例1と同様の方法で繊維分散ポリプロピレンシートを作成した。
【0039】
実施例1〜4および比較例1〜5の複合樹脂成型体の構成、製造条件、測定結果、評価結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1から明らかなように、パルプの含有量が5質量%以上70質量%以下であって、分散剤が無水マレイン酸変性ポリオレフィンである実施例1〜3の複合樹脂成型体、また分散剤がシランカップリング剤である実施例4の複合樹脂成型体は、弾性率が高く、濃色化されにくく、また表面に凝集体や樹脂とパルプとの色ムラは無く、見た目が均一であり、外観性は良好であった。
【0042】
一方、パルプの含有量が3質量%である比較例1やパルプを含有しない比較例3では、繊維の炭化による樹脂シートの濃色化は認められなかったものの、主剤樹脂中の物理的骨格となるパルプの量が少ないかパルプが存在しないために、機械的強度を十分に上げることができず、その結果、弾性率が不足する問題が生じた。
パルプの含有量が80質量%である比較例2では、樹脂シートの濃色化が認められ、また樹脂シート表面にパルプの凝集体が存在する外観不良が発生した。これは、パルプの添加量が多くなることによって溶融混練時の樹脂粘度が上昇し、剪断力による温度上昇が起こりやすくなることから、パルプ繊維の炭化が進行し、またパルプ含有量に対して樹脂含有量が十分でないために、パルプ繊維の一部が解繊されず、凝集体が樹脂シートに混入したと考えられる。
【0043】
湿式分散によって前処理された解繊パルプを用いた比較例4では、樹脂シートの濃色化が認められた。これは、パルプの前処理によって、パルプは、繊維径が細くなりまたは繊維に物理的ダメージが加わり、熱伝導性が低下したために、溶融混練時に生じた発熱を十分に分散させることができず、パルプ繊維が炭化しやすくなったためと考えられる。なお、樹脂中に分散しているパルプのD
90の繊維径は3μmであり、実施例のそれと比較して小さかった。
含浸方法によってパルプを樹脂と混合した比較例5では、パルプのD
10の繊維径は25nmであり、実施例のそれと比較して大きい値であった。これは、溶融混練によるパルプ繊維への剪断力がかからないため、繊維径の細いパルプ繊維量が少なくなったためと考えられる。よって、比較例5では、主剤樹脂中の物理的骨格となるパルプが少なくなったために、機械的強度を上げることができず、その結果、弾性率が不足する問題が生じた。
【0044】
以上の評価から、主剤樹脂と、含有量が5質量%以上70質量%以下であるパルプ繊維と、分散剤とを溶融混練することにより、濃色化が抑制され、機械強度、外観性に優れた複合樹脂成型体を作製ができることが分かった。