特許第6545191号(P6545191)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6545191亜鉛又は亜鉛合金基材用3価クロム化成処理液及び化成皮膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6545191
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】亜鉛又は亜鉛合金基材用3価クロム化成処理液及び化成皮膜
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/34 20060101AFI20190705BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20190705BHJP
【FI】
   C23C22/34
   C23C28/00 C
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-566511(P2016-566511)
(86)(22)【出願日】2015年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2015086229
(87)【国際公開番号】WO2016104703
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2018年2月21日
(31)【優先権主張番号】特願2014-266254(P2014-266254)
(32)【優先日】2014年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109657
【氏名又は名称】ディップソール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 歩美
(72)【発明者】
【氏名】石川 雅俊
(72)【発明者】
【氏名】小池 卓
【審査官】 印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−036469(JP,A)
【文献】 特開2006−328501(JP,A)
【文献】 特開2006−316334(JP,A)
【文献】 特表2012−528251(JP,A)
【文献】 特表2009−525398(JP,A)
【文献】 特表2008−530361(JP,A)
【文献】 特表2008−537975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2〜200mmol/Lの3価クロムイオン、1〜300mmol/Lのジルコニウムイオン、並びにフッ素イオン及び水溶性カルボン酸又はその塩の少なくとも1つを含有し、芳香族スルホン酸及び水溶性Al化合物を含有せず、さらにCoイオン及び6価クロムイオンを含有しない亜鉛又は亜鉛合金基材用化成処理液。
【請求項2】
3価クロムイオンとジルコニウムイオンとのモル比(3価クロムイオン/ジルコニウムイオン)が2.5以下である、請求項1記載の化成処理液。
【請求項3】
ジルコニウムイオンを提供するジルコニウム化合物が無機ジルコニウム化合物又はその塩、若しくは有機ジルコニウム化合物である、請求項1又は2記載の化成処理液。
【請求項4】
ジルコニウムイオンを提供するジルコニウム化合物がジルコニウムフッ化水素酸又はその塩である、請求項1〜3のいずれか1項記載の化成処理液。
【請求項5】
水溶性カルボン酸又はその塩がジカルボン酸又はその塩である、請求項1〜4のいずれか1項記載の化成処理液。
【請求項6】
さらに、i)i、Mo、V、Ce及びWからなる群より選択された金属を含む水溶性金属塩、ii)Si化合物、及びiii)リン化合物からなる群より選ばれる一種以上を含む請求項1〜5のいずれか1項記載の化成処理液。
【請求項7】
亜鉛又は亜鉛合金基材の化成処理方法であって、請求項1〜6のいずれか1項記載の化成処理液を亜鉛又は亜鉛合金基材と接触させることを含む化成処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛又は亜鉛合金金属の表面に優れた耐食性を付与するための新規な化成処理液並びにそれから得られる化成皮膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化成処理は、金属表面への耐食性付与のため古くから利用されている技術であり、現在も航空機、建築用材料、自動車部品などの表面処理に使用されている。しかしクロム酸クロメート化成処理に代表される化成処理皮膜は、有害な6価クロムを一部含有する。
6価クロムはWEEE(Waste Electrical and Electronic Equipment(電気電子機器廃棄))指令やRoHS(Restriction of Hazardous Substances(特定有害物質使用制限))指令、ELV(End of Life Vehicles(廃自動車))指令などで規制対象となっており、6価クロムに代わって3価クロムを使用した化成処理液が盛んに研究され工業化されている。
しかしながら亜鉛又は亜鉛合金基材用3価クロム化成処理液では、耐食性を向上させるために、通常、コバルト化合物を添加する。
コバルトはいわゆるレアメタルのひとつで、使用用途の拡大あるいは産出国が限られている等の理由から、必ずしも安定した供給体制にあるとは言えない。また、塩化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、炭酸コバルトはREACH(Registration, Evaluation, Authorization and Restriction of CHemicals(化学品規制))規制のSVHC(Substances of Very High Concern(高懸念物質))にも該当しており、使用を制限する動きがある。
また、亜鉛又は亜鉛合金基材用環境対応の化成処理液としてクロムフリーの化成処理液はいくつか報告されている。例えば、ジルコニウム、チタンから選ばれる化合物、バナジウム、モリブデン、タングステンから選ばれる化合物に更にリン無機化合物を含有する処理剤(特開2010−150626号公報)、及び水溶性チタン化合物、水溶性ジルコニウム化合物から選ばれる化合物、官能基を有する有機化合物を含有しフッ素、クロムフリーの化成処理剤(国際公開第2011/002040号パンフレット)が知られている。
しかしながら、このようなクロムフリーの化成処理剤は、従来のコバルト含有の亜鉛又は亜鉛合金用化成処理剤と比較し、耐食性等においてその化成処理皮膜性能が劣っており、改良が望まれていた。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、上記のような現状を鑑み、実質的にコバルト化合物を含有せず、耐食性に優れるとともに環境への配慮もなされた化成皮膜を形成することが可能な亜鉛又は亜鉛合金基材用化成処理液を提供することを課題とする。
【0004】
本発明者らは、6価クロムイオン、コバルトイオンを含有せずとも耐食性に優れるとともに、環境への配慮もなされた化成皮膜を形成することのできる化成処理液を鋭意研究した結果、ジルコニウムイオンと3価クロムイオンを共に含み、更にフッ素イオン及び水溶性カルボン酸又はその塩の少なくとも1つを含む化成処理液が上記課題を解決することを見出し本発明を完成した。すなわち、本発明は、2〜200mmol/Lの3価クロムイオン、1〜300mmol/Lのジルコニウムイオン、並びにフッ素イオン及び水溶性カルボン酸又はその塩の少なくとも1つを含有し、Coイオン及び6価クロムイオンを含有しない亜鉛又は亜鉛合金基材用化成処理液を提供する。
また、本発明は、亜鉛又は亜鉛合金基材の化成処理方法であって、上記化成処理液を亜鉛又は亜鉛合金基材と接触させることを含む化成処理方法を提供する。
さらに、本発明は、上記化成処理液から形成された、3価クロム及びジルコニウムを含み、6価クロム及びコバルトを含まない化成処理皮膜を提供する。
【0005】
本発明によると、6価クロム、コバルトを含有せずとも、耐食性に優れるとともに環境への配慮もなされた化成皮膜を形成することが可能な亜鉛又は亜鉛合金基材用化成処理液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明で用いる基体としては、鉄、ニッケル、銅などの各種金属、及びこれらの合金、あるいは亜鉛置換処理を施したアルミニウムなどの金属や合金の板状物、直方体、円柱、円筒、球状物など種々の形状のものが挙げられる。
上記基体は、常法により亜鉛及び亜鉛合金めっきが施される。基体上に亜鉛めっきを析出させるには、硫酸浴、ホウフッ化浴、塩化カリウム浴、塩化ナトリウム浴、塩化アンモニウム折衷浴等の酸性・中性浴、シアン浴、ジンケート浴、ピロリン酸浴等のアルカリ性浴のいずれでも良く、特に挙げるとすれば、ジンケート浴が好ましい。また、亜鉛合金めっきは、塩化アンモニウム浴、有機キレート浴等のアルカリ浴のいずれでもよい。
また、亜鉛合金めっきとしては、亜鉛−鉄合金めっき、亜鉛−ニッケル合金めっき、亜鉛−コバルト合金めっき、錫−亜鉛合金めっき等が挙げられる。好ましくは、亜鉛−鉄合金めっきである。基体上に析出する亜鉛又は亜鉛合金めっきの厚みは任意とすることができるが、1μm以上、好ましくは5〜25μm厚とするのがよい。
本発明では、このようにして基体上に亜鉛又は亜鉛合金めっきを析出させた後、必要に応じて適宜、前処理、例えば水洗、または水洗後、硝酸活性処理してから、本発明の亜鉛又は亜鉛合金基材用化成処理液を用いて、例えば浸漬処理等の方法で化成処理を行う。
【0007】
本発明の亜鉛又は亜鉛合金基材用化成処理液は、2〜200mmol/Lの3価クロムイオン、1〜300mmol/Lのジルコニウムイオン、並びにフッ素イオン及び水溶性カルボン酸又はその塩の少なくとも1つを含有し、Coイオン及び6価クロムイオンを含有しない。
3価クロムイオンを提供する3価クロム化合物の種類は、特に制限されるものではないが、水溶性であることが好ましい。3価クロム化合物としては、例えばCr(NO33・9H2O、Cr(CH3COO)3、Cr2(SO43・18H2O、CrK(SO42・12H2Oなどが挙げられる。これらの3価クロム化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。3価クロムイオンの含有量は、2〜200mmol/Lであり、好ましくは5〜100mmol/L、より好ましくは10〜80mmol/Lである。3価クロムイオンの含有量をこのような範囲とすることで、優れた耐食性を得ることができる。
ジルコニウムイオンを提供するジルコニウム化合物の種類は、特に制限されるものではないが、水溶性であることが好ましい。ジルコニウム化合物としては、例えば、無機ジルコニウム化合物又はその塩として、硝酸ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウムアンモニウム、塩化ジルコニル、硫酸ジルコニル、炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニルアンモニウム、炭酸ジルコニルカリウム、炭酸ジルコニルナトリウム、炭酸ジルコニルリチウムなどが挙げられ、有機ジルコニウム化合物として、酢酸ジルコニル、乳酸ジルコニウム、酒石酸ジルコニウム、リンゴ酸ジルコニウム、クエン酸ジルコニウムなどが挙げられる。好ましくは、ジルコニウム化合物としては、ジルコニウムフッ化水素酸(H2ZrF6)及びその塩、例えばジルコニウムフッ化水素酸(H2ZrF6)のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩及びアンモニウム塩〔(NH42ZrF6〕などが挙げられる。これらのジルコニウム化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。ジルコニウムイオンの含有量は、1〜300mmol/Lであり、好ましくは5〜150mmol/L、より好ましくは10〜100mmol/Lである。ジルコニウムイオンの含有量をこのような範囲とすることで、優れた耐食性を得ることができる。
【0008】
3価クロムイオンとジルコニウムイオンとのモル比(3価クロムイオン/ジルコニウムイオン)は、好ましくは2.5以下であり、より好ましくは0.1〜2.5であり、さらに好ましくは0.2〜2.1であり、最も好ましくは0.3〜2.0である。3価クロムイオンとジルコニウムイオンとのモル比をこのような範囲とすることで、優れた耐食性を得ることができる。
本発明の亜鉛又は亜鉛合金基材用化成処理液は、さらにフッ素イオン及び水溶性カルボン酸又はその塩の少なくとも1つを含有する。
フッ素イオンを提供するフッ素含有化合物の種類は、特に制限されるものではない。フッ素含有化合物としては、例えばフッ化水素酸、ホウフッ化水素酸、フッ化アンモニウム、6フッ化ジルコン水素酸又はその塩などが挙げられ、6フッ化ジルコン水素酸が好ましい。これらのフッ素含有化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。フッ素イオンの含有量は、好ましくは5〜500mmol/Lであり、より好ましくは60〜300mmol/Lである。フッ素イオンはジルコニウムイオンの対イオンとなり、フッ素イオンの含有量をこのような範囲とすることで、ジルコニウムイオンを安定化させることができる。
水溶性カルボン酸の種類は、特に制限されるものではない。水溶性カルボン酸としては、例えばR1−(COOH)2〔R1=C0〜C8〕で表すことのできるシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸などのジカルボン酸が挙げられ、それぞれR1=C0及びC1であるシュウ酸及びマロン酸が好ましい。水溶性カルボン酸の塩としては、例えばカリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属の塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属の塩、アンモニウム塩などが挙げられる。これらの水溶性カルボン酸又はその塩は、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。水溶性カルボン酸又はその塩の含有量は、好ましくは0.1g/L〜10g/Lであり、より好ましくは0.5g/L〜8g/L、さらに好ましくは1g/L〜5g/Lである。水溶性カルボン酸又はその塩の含有量をこのような範囲とすることで、クロムイオンとの錯体形成によりCr3+を安定化することができる。
本発明の亜鉛又は亜鉛合金基材用化成処理液は、水溶性ジルコニウム化合物及びフッ素含有化合物としてフッ化ジルコン水素酸を含むのが好ましい。
【0009】
本発明の亜鉛又は亜鉛合金基材用化成処理液は、さらに、i)Al、Ti、Mo、V、Ce及びWからなる群より選択された金属を含む水溶性金属塩、ii)Si化合物、及びiii)リン化合物からなる群より選ばれる一種以上を含んでもよい。
水溶性金属塩としては、例えばK2TiF6などが挙げられる。これらの水溶性金属塩は、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。水溶性金属塩の含有量は、好ましくは0.1g/L〜1.5g/Lであり、より好ましくは0.2g/L〜1.0g/Lである。
Si化合物としては、例えばSiO2(コロイダルシリカ)などが挙げられる。これらのSi化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。Si化合物の含有量は、好ましくは0.1g/L〜10g/L、より好ましくは0.5g/L〜5.0g/Lであり、さらに好ましくは1.0g/L〜3.0g/Lである。
リン化合物としては、例えばNaH2PO2(次亜リン酸ナトリウム)などが挙げられる。これらのリン化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。リン化合物の含有量は、好ましくは0.01g/L〜1.0g/Lであり、より好ましくは0.1g/L〜0.5g/Lである。
本発明の亜鉛又は亜鉛合金基材用化成処理液のpHは、好ましくは1〜6の範囲であり、より好ましくは1.5〜4の範囲である。
本発明の亜鉛又は亜鉛合金基材用化成処理液における上記成分の残分は水である。
【0010】
本発明の亜鉛又は亜鉛合金基材用化成処理液を用いて、亜鉛又は亜鉛合金めっき上に3価クロム化成皮膜を形成する方法としては、前記化成処理液に亜鉛又は亜鉛合金めっきした基体を浸漬するのが一般的である。浸漬する際の化成処理液の温度は、好ましくは20〜60℃であり、より好ましくは30〜40℃である。浸漬時間は、好ましくは5〜600秒であり、より好ましくは30〜300秒である。なお、亜鉛又は亜鉛合金めっき表面を活性化するために、3価クロム化成処理前に希硝酸溶液(5%硝酸など)又は希硫酸溶液、希塩酸溶液、希フッ酸溶液などに浸漬させてもよい。上記以外の条件や処理操作は、従来の6価クロメート処理方法に準じて行うことができる。
本発明の亜鉛又は亜鉛合金基材用化成処理液を用いて亜鉛又は亜鉛合金めっき上に形成された3価クロム化成皮膜は、3価クロム及びジルコニウムを含み、6価クロム及びコバルトを含まない。3価クロム化成皮膜中の、ジルコニウムの比率(Zr/(Cr+Zr))は、好ましくは60〜90重量%である。
次に、実施例及び比較例により本発明を説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例】
【0011】
試験片には、0.5ミリ×50ミリ×70ミリのSPCC鋼板を用い、その表面にジンケート亜鉛めっきを施した。亜鉛めっきの膜厚は9〜10マイクロメートルであった。
亜鉛めっきが施された試験片を常温の5%硝酸水溶液に10秒浸漬し、次いで水道水の流水で十分に濯ぎ、表面を清浄化した。この他に、試験片の表面状態によっては、アルカリ浸漬や湯洗などを加えてもよい。
化成処理の実施方法は下記実施例及び比較例に記載する。
化成処理を行った試験片は、水道水とイオン交換水にて十分に洗浄したのち、80℃に保った電気乾燥炉にて10分間静置し乾燥させた。
【0012】
化成皮膜の外観は、色調と均一性の観点から評価した。
良好=色調はうすい青〜うすい黄色でムラがなく、光沢のある均一外観、
可=色調はうすい青〜うすい黄色だが多少ムラがあり均一性が低い外観、
不可=色調がうすい青〜うすい黄色の範囲から外れる及び/又は均一性がなく光沢も低い外観。
【0013】
化成処理された試験片はJIS Z―2371に準じて塩水噴霧試験(以下SST)を行い、72時間、120時間、240時間での白錆発生面積で耐食性を評価した。試験結果は4段階に分け、○=白錆発生なし、△=白錆5%未満、▲=白錆5%以上、×=赤錆発生として評価した。
【0014】
1.金属濃度の評価
(実施例1)
下記のとおり化成処理液を調製し、苛性ソーダ溶液を用いてpH=2.0とした後、前記の試験片に対し30℃、40秒浸漬処理を行った。
(A)40%硝酸クロム:12g/L(Crとして20mmol/L)
(B)フッ化ジルコン水素酸:5.2g/L(Zrとして10mmol/L)
(C)蓚酸:1.4g/L(15mmol/L)
マロン酸:1.6g/L(15mmol/L)
残部は水である。
【0015】
(実施例2)
下記のとおり化成処理液を調製し、苛性ソーダ溶液を用いてpH=2.0とした後、前記の試験片に対し30℃、40秒浸漬処理を行った。
(A)40%硝酸クロム:12g/L(Crとして20mmol/L)
(B)フッ化ジルコン水素酸:10.4g/L(Zrとして20mmol/L)
(C)蓚酸:1.4g/L(15mmol/L)
マロン酸:1.6g/L(15mmol/L)
残部は水である。
【0016】
(実施例3)
下記のとおり化成処理液を調製し、苛性ソーダ溶液を用いてpH=2.0とした後、前記の試験片に対し30℃、40秒浸漬処理を行った。
(A)40%硝酸クロム:12g/L(Crとして20mmol/L)
(B)フッ化ジルコン水素酸:15.6g/L(Zrとして30mmol/L)
(C)蓚酸:1.4g/L(15mmol/L)
マロン酸:1.6g/L(15mmol/L)
残部は水である。
【0017】
(実施例4)
下記のとおり化成処理液を調製し、苛性ソーダ溶液を用いてpH=2.0とした後、前記の試験片に対し30℃、40秒浸漬処理を行った。
(A)40%硝酸クロム:12g/L(Crとして20mmol/L)
(B)フッ化ジルコン水素酸:26g/L(Zrとして50mmol/L)
(C)蓚酸:1.4g/L(15mmol/L)
マロン酸:1.6g/L(15mmol/L)
残部は水である。
【0018】
(実施例5)
下記のとおり化成処理液を調製し、62%硝酸を用いてpH=4.0とした後、前記の試験片に対し30℃、40秒浸漬処理を行った。
(A)40%硝酸クロム:3g/L(Crとして5mmol/L)
(B)フッ化ジルコン水素酸:5.2g/L(Zrとして10mmol/L)
残部は水である。
【0019】
(実施例6)
下記のとおり化成処理液を調製し、62%硝酸を用いてpH=2.0とした後、前記の試験片に対し30℃、40秒浸漬処理を行った。
(A)40%硝酸クロム:12g/L(Crとして20mmol/L)
(B)炭酸ジルコニウムアンモニウム溶液(ZrO220%:6.2g/L(Zrとして10mmol/L)
(C)50%乳酸:3.6g/L(乳酸として20mmoL/L)
残部は水である。
【0020】
(比較例1)
下記のとおり化成処理液を調製し、苛性ソーダ溶液を用いてpH=2.0とした後、前記の試験片に対し30℃、40秒浸漬処理を行った。
(A)40%硝酸クロム:48g/L(Crとして80mmol/L)
(B)硝酸コバルト:Coとして1.0g/L
(C)蓚酸:1.4g/L(15mmol/L)
マロン酸:1.6g/L(15mmol/L)
残部は水である。
【0021】
(比較例2)
下記のとおり化成処理液を調製し、苛性ソーダ溶液を用いてpH=2.0とした後、前記の試験片に対し30℃、40秒浸漬処理を行った。
(A)40%硝酸クロム:24g/L(Crとして40mmol/L)
(B)硝酸コバルト:Coとして1.0g/L
(C)蓚酸:1.4g/L(15mmol/L)
マロン酸:1.6g/L(15mmol/L)
残部は水である。
【0022】
実施例1〜6並びに比較例1及び2の各処理液の組成を表1にまとめ、評価結果を表2に、皮膜中の3価クロム及びジルコニウムの含有量を表3に示す。
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
【表3】
【0025】
表2の結果から、実施例1〜6において、コバルトを含有する比較例1及び2と同等の性能を有する皮膜を得ることができている。
【0026】
2.ジカルボン酸の評価
(実施例7)
下記のとおり化成処理液を調製し、苛性ソーダ水溶液を用いてpH=2.0とした後、前記の試験片に対し30℃、40秒浸漬処理を行った。
(A)40%硝酸クロム:12g/L(Crとして20mmol/L)
(B)フッ化ジルコン水素酸:10.4g/L(Zrとして20mmol/L)
(C)蓚酸:1.8g/L(20mmol/L)
残部は水である。
【0027】
(実施例8)
下記のとおり化成処理液を調製し、苛性ソーダ水溶液を用いてpH=2.0とした後、前記の試験片に対し30℃、40秒浸漬処理を行った。
(A)40%硝酸クロム:12g/L(Crとして20mmol/L)
(B)フッ化ジルコン水素酸:10.4g/L(Zrとして20mmol/L)
(C)マロン酸:2.0g/L(20mmol/L)
残部は水である。
【0028】
(実施例9)
下記のとおり化成処理液を調製し、苛性ソーダ水溶液を用いてpH=2.0とした後、前記の試験片に対し30℃、40秒浸漬処理を行った。
(A)40%硝酸クロム:12g/L(Crとして20mmol/L)
(B)フッ化ジルコン水素酸:10.4g/L(Zrとして20mmol/L)
(C)コハク酸:2.4g/L(20mmol/L)
残部は水である。
【0029】
(実施例10)
下記のとおり化成処理液を調製し、苛性ソーダ水溶液を用いてpH=2.0とした後、前記の試験片に対し30℃、40秒浸漬処理を行った。
(A)40%硝酸クロム:12g/L(Crとして20mmol/L)
(B)フッ化ジルコン水素酸:10.4g/L(Zrとして20mmol/L)
(C)グルタル酸:2.7g/L(20mmol/L)
残部は水である。
【0030】
(実施例11)
下記のとおり化成処理液を調製し、苛性ソーダ水溶液を用いてpH=2.0とした後、前記の試験片に対し30℃、40秒浸漬処理を行った。
(A)40%硝酸クロム:12g/L(Crとして20mmol/L)
(B)フッ化ジルコン水素酸:10.4g/L(Zrとして20mmol/L)
(C)アジピン酸:3.0g/L(20mmol/L)
残部は水である。
【0031】
(実施例12)
下記のとおり化成処理液を調製し、苛性ソーダ水溶液を用いてpH=2.0とした後、前記の試験片に対し30℃、40秒浸漬処理を行った。
(A)40%硝酸クロム:12g/L(Crとして20mmol/L)
(B)フッ化ジルコン水素酸:10.4g/L(Zrとして20mmol/L)
(C)スベリン酸:3.5g/L(20mmol/L)
残部は水である。
【0032】
実施例7〜12の各処理液の組成を表4にまとめ、評価結果を表5に示す。
【表4】
【0033】
【表5】
【0034】
上記より、CO−(COOH)2である蓚酸と、C1−(COOH)2であるマロン酸を使用した時の耐食性が特に良好であることが示された。