(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<1>粘着シート
図1は、本発明の粘着シートを用いて保護板と表示パネルとを貼合したディスプレイの一例を示す断面図である。なお、以下の説明では、図中の上側を「上」または「上方」、下側を「下」または「下方」と言う。
【0020】
本発明の粘着シート(粘着シート11)は、
図1に示すように、保護板21と、表示パネル22とを貼合するのに用いられるものである。
【0021】
本発明の粘着シートは、官能基を有するアクリルポリマーと、熱架橋剤と、水素引き抜き型光開始剤と、を含む粘着剤組成物で形成されてなるものである。
【0022】
また、本発明の粘着シートでは、官能基を有するアクリルポリマーは、ラジカル性不飽和二重結合を実質的に含まない。
【0023】
また、本発明の粘着シートでは、粘着剤組成物は、自己開裂型光開始剤を実質的に含まない。
【0024】
上記のような特徴を有することにより、保護板や表示パネルの貼合面に段差がある場合に、粘着シートがその段差に追従することができるとともに、耐久(高温高湿)条件で保存した後であっても、その段差に追従した状態を維持することができる(以下、「段差追従性」と称する場合がある)。また、水素引き抜き型光開始剤によって、アクリルポリマー同士を直接架橋することで、耐久(高温高湿)条件で保存した後であっても、保護板や表示パネルの貼合面と粘着シートとの間に空隙または気泡が発生するのを防止することができる(以下、「耐発泡性」と称する場合がある)。
【0025】
なお、保護板21は、
図1に示すように、粘着シート11と接する側に段差(印刷段差)3を有するのが好ましい。また、この段差3の高さは、ディスプレイ23の薄型化を考慮しつつ、表示パネルの配線等を隠蔽する観点から、5〜50μmであるのが好ましく、10〜30μmであるのがより好ましい。また、保護板21は、ガラス板、プラスチック板などが好ましく挙げられる。なかでも、粘着シートを貼付して耐久条件に曝した際に発泡しやすいプラスチック板が、本実施形態にかかる粘着シートの耐発泡性をより発揮できることから特に好ましい。プラスチック板としては、例えば、アクリル板、ポリカーボネート板などが挙げられる。なお、保護板21の厚さは、0.1〜3mmであることが好ましく、0.3〜1.5mmであることが特に好ましい。
【0026】
以下、粘着剤組成物を構成する各成分について詳細に説明する。
1.官能基を有するアクリルポリマー
粘着シートを構成する粘着剤組成物は、官能基を有するアクリルポリマーを含んでいる。官能基を有するアクリルポリマーを用いることにより、熱架橋剤によって容易に架橋させることができる。また、水素引き抜き型光開始剤で発生したラジカルが、アクリルポリマー中の主鎖骨格等の炭素に結合した水素を引き抜き、当該アクリルポリマー中にラジカルを発生させ、アクリルポリマー同士を直接架橋することができる。
【0027】
アクリルポリマーは、粘着シート中において、後述する熱架橋剤および水素引き抜き型光開始剤によって架橋されて三次元網目構造を形成している。
【0028】
アクリルポリマーとしては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸エステル共重合体を用いるのが好ましい。なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタクリル酸の両方を意味する。他の類似用語も同様である。
【0029】
アクリルポリマーは、官能基として、カルボキシル基、水酸基からなる群から選択される少なくとも1種を有しているのが好ましい。このような官能基を有することにより、熱架橋剤によってより確実に架橋させることができる。また、水素引き抜き型光開始剤で発生したラジカルによって、アクリルポリマー中の主鎖骨格等の炭素に結合した水素が引き抜きやすくなるものと推定される。
【0030】
アクリルポリマー中のカルボキシル基を有するモノマーの含有量は、8質量%以上であるのが好ましく、10質量%以上であるのがより好ましい。また、アクリルポリマー中のカルボキシル基を有するモノマーの含有量は、20質量%以下であるのが好ましく、15質量%以下であるのがより好ましい。これにより、適切な三次元網目構造が形成されるものと推定され、得られる粘着シートの耐発泡性および段差追従性をより効果的に向上させることができる。これに対して、カルボキシル基を有するモノマーの含有量が前記下限値未満であると、高温高湿の耐久条件で保存した後に、粘着シートの白化による透明性の低下が発生する場合がある。また、カルボキシル基を有するモノマーの含有量が前記上限値を超えると、十分な粘着性が得られない可能性がある。
【0031】
カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸等が挙げられ、これらのうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、熱架橋剤との反応性および他の単量体との共重合性の点からアクリル酸を用いるのが好ましい。
【0032】
アクリルポリマー中の水酸基を有するモノマーの含有量は、10質量%以上であるのが好ましく、15質量%以上であるのがより好ましい。また、アクリルポリマー中の水酸基を有するモノマーの含有量は、25質量%以下であるのが好ましく、20質量%以下であるのがより好ましい。これにより、適切な三次元網目構造が形成されるものと推定され、得られる粘着シートの耐発泡性および段差追従性をより効果的に向上させることができる。これに対して、水酸基を有するモノマーの含有量が前記下限値未満であると、高温高湿の耐久条件で保存した後に、粘着シートの白化による透明性の低下が発生する場合がある。また、水酸基を有するモノマーの含有量が前記上限値を超えると、十分な粘着性が得られない可能性がある。
【0033】
水酸基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。これらの中でも、熱架橋剤との反応性および他の単量体との共重合性の点から(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルまたは(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルを用いるのが好ましい。
【0034】
また、アクリルポリマーは、上記官能基を有するモノマー以外のモノマーを構成単位として有していてもよい。
【0035】
このようなモノマーとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いるのが好ましく、アルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを用いるのがより好ましい。これにより、粘着シートの粘着性を良好なものとすることができる。
【0036】
アルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸n−ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。中でも、粘着性をより向上させる観点から、アルキル基の炭素数が1〜8の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、(メタ)アクリル酸n−ブチルまたは(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルが特に好ましい。
【0037】
アクリルポリマー中の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量は、50質量%以上であるのが好ましく、70質量%以上であるのがより好ましい。また、アクリルポリマー中の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量の上限は、前記カルボキシル基を有するモノマーまたは水酸基を有するモノマーの配合量との関係で定まる。具体的には、カルボキシル基を有するモノマーを配合する場合、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量の上限は、92質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることが特に好ましい。一方、水酸基を有するモノマーを配合する場合、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量の上限は、90質量%以下であるのが好ましく、80質量%以下であるのがより好ましい。
【0038】
アクリルポリマーの重合態様は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。
【0039】
アクリルポリマーの重量平均分子量は、200,000以上であるのが好ましく、400,000以上であるのがより好ましい。また、アクリルポリマーの重量平均分子量は、900,000以下であるのが好ましく、700,000以下であるのがより好ましい。これにより、段差追従性により優れた粘着シートが得られる。これに対して、アクリルポリマーの重量平均分子量が前記下限値未満であると、粘着剤の凝集力が不足して、耐発泡性が悪化する場合がある。一方、アクリルポリマーの重量平均分子量が前記上限値を超えると、溶剤への溶解性が低下する。その結果、比較的厚い粘着シートを形成するのが困難となる場合がある。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0040】
上述したようなアクリルポリマーは、ラジカル性不飽和二重結合を実質的に含まない。これにより、粘着シートは、応力緩和性に富んだものとなり、段差追従性に特に優れたものとなる。さらに、水素引き抜き型光開始剤で発生したラジカルが、ラジカル性不飽和二重結合で消費されることがなく、アクリルポリマーの主鎖骨格の水素引抜き反応に効率的に寄与し、アクリルポリマー同士の架橋を促進するものと推定され、得られる粘着シートの耐発泡性も優れたものとする。
【0041】
2.熱架橋剤
粘着シートを構成する粘着剤組成物は、熱架橋剤を含んでいる。
【0042】
熱架橋剤は、アクリルポリマーの官能基と反応するものであれば、特に限定されず、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アミン系架橋剤、メラミン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、アルデヒド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、アンモニウム塩系架橋剤等が挙げられる。
【0043】
上述した中でも、官能基としてカルボキシル基を有するアクリルポリマーを用いる場合、エポキシ系架橋剤を用いるのが好ましい。これにより、アクリルポリマーによる三次元網目構造をより効率よく形成することができる。
【0044】
エポキシ系架橋剤としては、例えば、1,3−ビス(N,N’−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルアミン等が挙げられ、これらのうち、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0045】
また、上述した中でも、官能基として水酸基を有するアクリルポリマーを用いる場合、イソシアネート系架橋剤を用いるのが好ましい。これにより、アクリルポリマーによる三次元網目構造をより効率よく形成することができる。
【0046】
イソシアネート系架橋剤は、少なくともポリイソシアネート化合物を含むものである。
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートなど、およびそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体等が挙げられる。
【0047】
粘着シートを構成する粘着剤組成物中における熱架橋剤の含有量は、アクリルポリマー100質量部に対して、0.01質量部以上であるのが好ましく、0.03質量部以上であるのがより好ましい。また、粘着剤組成物中における熱架橋剤の含有量は、アクリルポリマー100質量部に対して、2.0質量部以下であるのが好ましく、1.0質量部以下であるのがより好ましい。これにより、アクリルポリマーをより効率よく架橋させることができる。
【0048】
3.水素引き抜き型光開始剤
粘着シートを構成する粘着剤組成物は、水素引き抜き型光開始剤を含んでいる。
【0049】
水素引き抜き型光開始剤は、ラジカルを発生させる機能を有している。そして、この発生したラジカルがアクリルポリマー中の主鎖骨格等の炭素に結合した水素を引き抜くことによって、アクリルポリマー中にラジカルを発生させ、アクリルポリマー同士を直接架橋させる。
【0050】
水素引き抜き型光開始剤としては、例えば、アセトフェノン、ベンゾフェノン、P,P’−ジメトキシベンゾフェノン、P,P’−ジクロルベンゾフェノン、P,P’−ジメチルベンゾフェノン、アセトナフトン等の芳香族ケトン類が挙げられる。その他にも、テレフタルアルデヒド等の芳香族アルデヒド、メチルアントラキノン等のキノン系芳香族化合物などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記水素引き抜き型光開始剤の中でも、ラジカル発生の容易さの観点から、特にベンゾフェノンを含有する化合物を使用することが好ましい。
【0051】
アクリルポリマー100質量部に対する水素引き抜き型光開始剤の添加量は、0.1質量部以上であるのが好ましく、0.5質量部以上であるのがより好ましい。また、アクリルポリマー100質量部に対する水素引き抜き型光開始剤の添加量は、5.0質量部以下であるのが好ましく、2.0質量部以下であるのがより好ましい。これにより、アクリルポリマー同士をより効率よく直接架橋させることができる。これに対して、水素引き抜き型光開始剤の添加量が前記下限値未満であると、アクリルポリマーの種類によっては、十分に架橋が進行しない場合がある。また、水素引き抜き型光開始剤の添加量が前記上限値を超えると、反応に寄与しない水素引き抜き型光開始剤が増加し、粘着性が十分に得られない場合がある。
【0052】
なお、粘着シートを構成する粘着剤組成物は、自己開裂型光開始剤を実質的に含まない。これにより、水素引き抜き型光開始剤で発生したラジカルが、自己開裂型光開始剤で発生したラジカルと反応して消失することを防止でき、より確実にアクリルポリマー同士を直接架橋させることができる。
【0053】
4.その他の成分
粘着シートを構成する粘着剤組成物には、必要に応じて、アクリル系粘着剤に通常使用されている各種添加剤、例えば、シランカップリング剤、帯電防止剤、粘着付与剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、屈折率調整剤などを添加することができる。なお、前記粘着剤組成物は、水素引き抜き型光開始剤の前記目的外のラジカル消失を防止する観点から、多官能アクリレートなどラジカル性不飽和二重結合を含有する化合物を実質的に含まないことが好ましい。ここで、実質的に含まないとは、粘着剤組成物全体に対して、1質量%未満であることが好ましく、0.1質量%未満であることが特に好ましい。なお、後述の重合溶媒や希釈溶剤は、前記粘着剤組成物等を希釈する成分であって、粘着剤組成物自体を構成する成分には該当しない。
【0054】
<2>粘着剤組成物の製造
粘着シートを形成する粘着剤組成物は、アクリルポリマーを製造し、得られたアクリルポリマーと、熱架橋剤と、水素引き抜き型光開始剤とを混合するとともに、所望により添加剤を加えることで製造することができる。
【0055】
アクリルポリマーは、ポリマーを構成するモノマーの混合物を通常のラジカル重合法で重合することにより製造することができる。
【0056】
アクリルポリマーを構成するモノマーの重合は、所望により重合開始剤を使用して、溶液重合法等により行うことができる。重合溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。
【0057】
重合開始剤としては、アゾ系化合物、有機過酸化物等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。アゾ系化合物としては、例えば、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン1−カルボニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4'−アゾビス(4−シアノバレリック酸)、2,2'−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]等が挙げられる。
【0058】
有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等が挙げられる。
【0059】
なお、上記重合工程において、2−メルカプトエタノール等の連鎖移動剤を配合することにより、得られる重合体の重量平均分子量を調節することができる。
【0060】
<3>粘着シートの製造
粘着シート11は、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0061】
まず、剥離シートを用意する。
次に、剥離シートの剥離面に、上記粘着剤組成物の塗布液を塗布する。なお、前記塗布液は、上記粘着剤組成物が塗布するのに適切な粘度になるように、希釈溶剤で希釈することにより調製される。なお、粘着剤組成物が既に塗布するのに適切な粘度である場合には、希釈溶剤の添加は省略してもよい。ここで、希釈溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。なお、希釈溶剤は、前述の重合溶媒で兼ねることもできる。
【0062】
そして、前記塗布、および、乾燥処理(加熱処理)を経ることにより塗布層を得る。得られた塗布層は、必要に応じて追加の加熱処理を行って粘着剤組成物の熱架橋をさらに促進させ、その後、活性エネルギー線を照射することにより、アクリルポリマー同士が直接架橋(光架橋)して、粘着シートが得られる。
【0063】
ここで、活性エネルギー線とは、電磁波または荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するものをいい、具体的には、紫外線や電子線などが挙げられる。活性エネルギー線の中でも、取扱いが容易な紫外線が特に好ましい。
【0064】
なお、必要に応じて、粘着シートの露出した粘着面に他の剥離シートの剥離面を重ね合わせてもよい。
【0065】
上記粘着剤組成物の塗布液を塗布する方法としては、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等を利用することができる。
【0066】
また、粘着剤組成物の熱架橋は、加熱処理(乾燥処理を含む)によって行うことができる。この加熱処理は、粘着剤組成物の塗布後の乾燥処理で兼ねることもできる。加熱処理の加熱温度は、50℃以上であるのが好ましく、70℃以上であるのがより好ましい。また、加熱処理の加熱温度は、150℃以下であるのが好ましく、120℃以下であるのがより好ましい。また、加熱時間は、10秒以上であるのが好ましく、50秒以上であるのがより好ましい。また、加熱時間は、10分以下であることが好ましく、2分以下であることがより好ましい。なお、加熱処理後、または、活性エネルギー線照射後、必要に応じて養生期間(例えば、常温、1〜2週間程度)を設けることができる。
【0067】
また、粘着シートは、以下のようにしても製造することができる。
まず、2枚の剥離シートを用意する。
【0068】
用意した一方の剥離シートの剥離面に、上記粘着剤組成物の塗布液を塗布し、乾燥(加熱)させることによって塗布層を得る。なお、前記乾燥により熱架橋が促進されることとなる。次に、得られた塗布層に対して、必要に応じて追加の加熱処理を行うことによって熱架橋をさらに促進させ、その後、活性エネルギー線照射を行って粘着剤組成物を光架橋させ、第1の粘着剤層を形成する。また、他方の剥離シートの剥離面に、上記粘着剤組成物の塗布液を塗布し、乾燥させることにより塗布層を得て、得られた塗布層に対して、必要に応じて加熱処理を行い、その後、活性エネルギー線照射を行って粘着剤組成物を光架橋させ、第2の粘着剤層を形成する。そして、第1の粘着剤層付きの剥離シートと第2の粘着剤層付きの剥離シートとを、両粘着剤層が互いに接触するように貼り合わせ、これを粘着シートとする。なお、この後、必要に応じて養生期間(例えば、常温、1〜2週間程度)を設けることができる。
【0069】
また、第1の粘着剤層および第2の粘着剤層を個別に形成してから粘着シートを得るのではなく、それぞれの塗布層を、互いに接触させ、その後、まとめて活性エネルギー線を照射することにより粘着シートを得てもよい。
【0070】
上記粘着剤組成物の塗布液を塗布する方法としては、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等を利用することができる。塗布した粘着剤組成物に対する加熱処理の条件は、前述した通りである。
【0071】
なお、上述したような粘着シートの厚さ(JIS K7130に準じて測定した値。以下同じ)は、段差追従性の観点から、10μm以上であるのが好ましく、30μm以上であるのがより好ましく、50μm以上であるのがさらに好ましい。また、粘着シートの厚さは、加工性の観点から、1000μm以下であることが好ましく、400μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることがさらに好ましい。なお、粘着シートは単層で形成してもよいし、複数層を積層して形成することもできる。
【0072】
また、本実施形態にかかる粘着シートのヘイズ値(JIS K7136:2000に準じて測定した値)は、1.0%以下であることが好ましく、特に0.8%以下であることが好ましく、さらには0.6%以下であることが好ましい。ヘイズ値が1.0%以下であると、透明性が非常に高く、保護板と表示パネルの間に使用する粘着シートとして好適なものとなる。
【0073】
また、本実施形態にかかる粘着シートのゲル分率は、15〜90%であることが好ましく、25〜80%であることがより好ましく、45〜60%であることが特に好ましい。ゲル分率が15%未満であると、耐発泡性が低下する場合がある。一方、ゲル分率が90%を超えると、段差追従性能が低下する場合がある。なお、ゲル分率の測定方法は後述する試験例に示す通りである。
【0074】
また、本実施形態にかかる粘着シートの粘着力は、15N/25mm以上であることが好ましく、20N/25mm以上であることがより好ましい。15N/25mm以上の粘着力を有することにより保護板と表示パネルを強固に接合させ、耐久条件等での安定性に優れた効果を有する。当該粘着力の上限は特に制約されないが、保護する剥離シートの剥離しやすさ等を考慮すれば、50N/25mm以下程度が好ましい。なお、粘着力の測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0075】
以上、本発明の粘着シートの好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0076】
例えば、前述した実施形態では、保護板が印刷段差を有するものとして説明したが、本発明の粘着シートは、印刷段差が無いものにも適用することができる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0078】
1.粘着シートの作製
(実施例1)
(1)アクリルポリマーの調製
アクリル酸n−ブチル90質量部およびアクリル酸10質量部を共重合させて、(メタ)アクリル酸エステル共重合体であるアクリルポリマーを調製した。このアクリルポリマーの分子量を後述する方法で測定したところ、重量平均分子量(Mw)50万であった。
【0079】
(2)粘着剤組成物の調製
上記工程(1)で得られたアクリルポリマー100質量部(固形分換算値;以下同じ)と、エポキシ系架橋剤(日本ポリウレタン社製、製品名「TC−5、固形分濃度:100質量%)0.03質量部と、水素引き抜き型光開始剤としてのベンゾフェノン(関東化学社製)0.5質量部と、シランカップリング剤としての3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製,製品名「KBM−403」)0.25質量部とを混合し、十分に撹拌して、メチルエチルケトンで希釈することにより、固形分濃度36質量%の粘着剤組成物の塗布溶液を得た。
【0080】
(3)粘着シートの製造
得られた粘着剤組成物の塗布溶液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した重剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP−PET752150」)の剥離処理面に、ナイフコーターで塗布し、100℃で2分間乾燥処理することにより、塗布層を形成した。
【0081】
同様に、得られた粘着剤組成物の塗布溶液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した軽剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP−PET382120」)の剥離処理面に、ナイフコーターで塗布し、100℃で2分間乾燥処理することにより、塗布層を形成した。
【0082】
次いで、上記重剥離型剥離シート上の塗布層と、上記軽剥離型剥離シート上の塗布層とを、両塗布層が互いに接触するように貼合し、下記の条件で紫外線を照射することにより、2枚の剥離シートに挟持された粘着シート(粘着シートの厚さ:50μm)を作製した。なお、前記厚さは、JIS K7130に準拠し、定圧厚さ測定器(テクロック社製,製品名「PG−02」)を使用して測定した値である。
【0083】
[紫外線照射条件]
・光源:高圧水銀灯
・光量:500mJ/cm
2
・照度:200mW/cm
2
【0084】
(実施例2〜6、比較例1〜6)
アクリルポリマーを構成する各モノマーの割合、熱架橋剤の種類および配合量、水素引き抜き型光開始剤の種類および配合量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして粘着シートを製造した。なお、比較例1では、紫外線照射は行わなかった。
【0085】
上記各実施例および各比較例の粘着シートの形成に用いた粘着剤組成物の組成等を表1に示した。
【0086】
なお、表1中、アクリル酸n−ブチルを「BA」、アクリル酸2−ヒドロキシエチルを「HEA」、アクリル酸を「AA」、アクリル酸2−エチルヘキシルを「2EHA」、メタクリル酸メチルを「MMA」、エポキシ系架橋剤を「エポキシ系」、イソシアネート系架橋剤(トリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネート、日本ポリウレタン社製、商品名「コロネートL」)を「イソシア系」と示した。
【0087】
【表1】
【0088】
2.評価
[粘着力測定]
各実施例および各比較例で得られた粘着シート上の軽剥離型剥離シートを剥がし、露出した粘着面を、易接着層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製,PET A4300,厚さ:100μm)の易接着層に貼合した。その積層体を、幅25mm、長さ100mmに裁断し、これをサンプルとした。当該サンプルから重剥離型剥離シートを剥がし、露出した粘着面を、ソーダライムガラス(日本板硝子社製)に貼付した。
【0089】
その後、常圧、23℃、50%RHの条件下で24時間放置してから、引張試験機(オリエンテック社製,製品名「テンシロン」)を用い、JIS Z0237:2009に準じて、剥離速度300mm/min、剥離角度180°の条件で粘着力(N/25mm)を測定した。
【0090】
[耐発泡性評価]
各実施例および各比較例で得られた粘着シートの軽剥離型剥離シートを剥がし、露出した粘着面を、片面にスズドープ酸化インジウム(ITO)からなる透明導電膜が設けられたポリエチレンテレフタレートフィルム(尾池工業社製,ITOフィルム,厚さ:125μm)の透明導電膜と貼合した。次に、前記粘着シートの重剥離型剥離シートを剥がし、露出した粘着面を、ポリメチルメタクリレート(PMMA)からなるアクリル板(三菱ガス化学社製,製品名「ユーピロン・シート MR200」,厚さ:1mm)と貼合することにより、積層体を得た。
【0091】
得られた積層体を、50℃、0.5MPaの条件下で30分間オートクレーブ処理した後、常圧、23℃、50%RHにて15時間放置した。次いで、85℃、85%RHの耐久条件下にて72時間保管した。その後、粘着剤層に気泡、浮きまたは剥がれがないか否か、目視により確認し、以下の基準により耐発泡性を評価した。
【0092】
A :気泡、浮きおよび剥がれが全くなかった。
B :直径0.2mm以下の気泡のみが発生した。
C :直径0.2mm超の気泡、浮きまたは剥がれが発生した。
【0093】
[段差追従性評価]
ガラス板(NSGプレシジョン社製,製品名「コーニングガラス イーグルXG」,縦90mm×横50mm×厚み0.5mm)の表面に、紫外線硬化型インク(帝国インキ社製,製品名「POS−911墨」)を塗布厚が30μmとなるように額縁状(外形:縦90mm×横50mm,幅5mm)にスクリーン印刷した。次いで、紫外線を照射(80W/cm
2,メタルハライドランプ2灯,ランプ高さ15cm,ベルトスピード10〜15m/分)して、印刷した上記紫外線硬化型インクを硬化させ、印刷による段差(段差の高さ:30μm)を有する段差付ガラス板を作製した。
【0094】
各実施例および各比較例で得られた粘着シートから軽剥離型剥離シートを剥がし、露出した粘着面を、易接着層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製,製品名「PET A4300」,厚さ:100μm)の易接着層に貼合した。次いで、重剥離型剥離シートを剥がし、粘着面を表出させた。そして、ラミネーター(フジプラ社製,製品名「LPD3214」)を用いて、粘着剤層が額縁状の印刷全面を覆うように上記積層体を各段差付ガラス板にラミネートし、これを評価用サンプルとした。
【0095】
得られた評価用サンプルを、50℃、0.5MPaの条件下で30分間オートクレーブ処理した後、85℃、85%RHの耐久条件下にて72時間保管した。その後、粘着シート(特に印刷による段差の近傍)に気泡が無いか否かを目視により確認し、以下の基準により段差追従性を評価した。
【0096】
A :気泡が全くなかった。
B :気泡がほとんどなかった。
C :気泡が顕著であった。
【0097】
[ゲル分率測定]
各実施例および各比較例で得られた粘着シートを80mm×80mmのサイズに裁断して、軽剥離型剥離シートおよび重剥離型剥離シートを剥がし、両方の粘着面がむき出しとなった粘着シートを得た。当該粘着シートをポリエステル製メッシュ(メッシュサイズ200)に包み、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量を差し引くことにより、粘着シートのみの質量を算出した。このときの質量をM1とする。
【0098】
次に、上記ポリエステル製メッシュに包まれた粘着シートを、室温下(23℃)で酢酸エチルに24時間浸漬させた。その後粘着シートを取り出し、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、24時間風乾させ、さらに80℃のオーブン中にて12時間乾燥させた。乾燥後、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM2とする。ゲル分率(G1(%))は、(M2/M1)×100で表される。
これらの結果を表2に示す。
【0099】
【表2】
【0100】
表2から明らかなように、本発明の粘着シートは、耐発泡性および段差追従性に優れるものであった。これに対して、比較例では十分な結果が得られなかった。