(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車輪を車軸に締結する車輪締結部に着脱可能に設置されて前記車輪締結部の締結状態によって変化する状態量を検出するセンサユニットと、このセンサユニットに信号の送受が可能に接続された情報処理装置とを備え、
前記情報処理装置は、前記車輪を備える車両の制御系または通信系から車両の走行の状態に係る情報である車両状態データを読み込み、この車両状態データから定められたタイミングで前記センサユニットに測定指示を出力する測定タイミング指示部と、前記測定タイミング指示部が前記センサユニットから受信した測定データを、前記車両状態データの定められた項目につき過去に同一条件で測定して記憶した蓄積データと比較することで、前記車輪締結部の締結状態の異常を判定する情報処理部とを有し、
前記情報処理部は、前記測定データと前記車両状態データとを関連付けて前記蓄積データとして蓄積する、車輪締結状態の判定装置。
請求項1に記載の車輪締結状態の判定装置において、前記センサユニットと前記情報処理装置との双方向の通信を行う無線通信手段を有し、前記情報処理部は、前記センサユニットで測定した測定データを記録するデータ記憶部と、このデータ記憶部に記憶された測定データを用いて前記締結状態の異常の判定のための解析を行う信号解析部と、この信号解析部による解析結果を用いて前記締結状態の異常を判定する状態判定部とを有し、この状態判定部は、画像を表示する表示部に前記締結状態の異常の判定結果を表示する車輪締結状態の判定装置。
請求項1または請求項2に記載の車輪締結状態の判定装置において、前記センサユニットは、前記車輪の全周に渡り設けられて前記車輪のホイールをハブに取付ける各ハブボルトの頭部とホイールナットとの間に介在し前記各ハブボルトとホイールナットとによる締め付け力を受ける変形発生用のリング状のスペーサ状部材、およびこのスペーサ状部材における前記ハブボルトが挿通されるボルト穴の間の位相部位に設けられて前記スペーサ状部材の歪みを検出する歪センサを有するスペーサ状である車輪締結状態の判定装置。
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のホイールナット緩み検出装置において、前記センサユニットは、前記歪センサの他に、温度センサおよび加速度センサを有する車輪締結状態の判定装置。
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の車輪締結状態の判定装置において、前記センサユニットの前記スペーサ状部材は、前記ボルト穴の間の位相部位が薄肉部とされた車輪締結状態の判定装置。
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の車輪締結状態の判定装置において、前記スペーサ状部材に取付けられてこのスペーサ状部材の変形により歪むダイヤフラムと、このダイヤフラムに取付けられてこのダイヤフラムの歪みを検出するセンサ素子とで構成された歪センサを有する車輪締結状態の判定装置。
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の車輪締結状態の判定装置において、前記測定タイミング指示部は、前記センサユニットに測定を指示する頻度および条件を任意に設定が可能である車輪締結状態の判定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
・外観、打音による従来の確認手法では、ナット緩み、ボルト破損等の異常を走行中に検出できない。
・点検者の経験則に基づく判定の場合、検出精度にばらつきがある。
・車両の使用環境(積載量、加減速、旋回、路面状況、タイヤ状況、車両の劣化状況等)によって生じる外乱を加味した異常判定が困難である。
・前述の先行技術の様に、ハブ、ホイール間に連結固定される弾性部材を設ける場合、構造が複雑になり、コストが高く、車両重量、車軸幅の増加、および車両の支持剛性にも影響する。
【0007】
この発明の目的は、走行中の車輪締結状態監視が可能で、かつ測定時の車両走行条件指定により、外乱による影響を低減した異常判定が可能で、メンテナンス精度の向上、判定精度の向上、判定基準の定量化が図れる車輪締結状態の判定装置を提供することである。
この発明の他の目的は、センサ類の車両への着脱が容易であり、車両重量、車軸幅、支持剛性への影響が小さくできるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の車輪締結状態の判定装置は、車輪2Aを車軸に締結する車輪締結部2Aaに着脱可能に設置されて前記車輪締結部2Aaの締結状態によって変化する状態量を検出するセンサユニット3と、このセンサユニット3に信号の送受が可能に接続された情報処理装置4とを備え、
前記情報処理装置4は、前記車輪2Aを備える車両の制御系または通信系5から車両の走行の状態に係る情報である車両状態データを読み込み、この車両状態データから定められたタイミングで前記センサユニット3に
測定指示を出力する測定タイミング指示部23と、
前記測定タイミング指示部23が前記センサユニット3から受信した測定データを、前記車両状態データの定められた項目につき過去に同一条件で測定して記憶した蓄積データと比較することで、前記車輪締結部2Aaの締結状態の異常を判定する情報処理部24とを有
し、前記情報処理部24は、前記測定データと前記車両状態データとを関連付けて前記蓄積データとして蓄積する。
【0009】
この構成によると、車輪締結部2Aaに着脱可能に設置されて前記車輪締結部2Aaの締結状態によって変化する状態量を検出するセンサユニット3を用いる。そのため、走行中の車輪締結状態の監視が可能で、またセンサ類の車両への着脱が容易である。また、車両状態データを読み込み、この車両状態データから定められたタイミングで前記センサユニット3に測定を指示する測定タイミング指示部23とを有しており、また情報処理部24は、前記測定データを、前記車両状態データの定められた項目につき過去に同一条件で測定して記憶した蓄積データと比較することで、前記車輪締結部2Aaの締結状態の異常を判定する。このため、測定時の車両走行条件指定により、外乱による影響を低減した異常判定が可能で、判定精度の向上、判定基準の定量化、メンテナンス精度の向上が図れる。
【0010】
なお、前記「車両状態データ」は、例えば、エンジン回転数、ステア角、タイヤ回転数(車速)、ブレーキ作動の状況、トランスミッションの使用ギア、イグニッションスイッチのオンオフ、アクセサリー系のみオンのいずれの状態であるか等の情報であり、これらエンジン回転数、ステア角、タイヤ回転数(車速)等が前記「項目」である。
また、前記「同一条件で測定」とは、厳密な同一を示すのではなく、例えば、アイドリング時、定常走行時(直進でかつ一定速度)、安定路面走行等の区別について同一であれば足りる。
【0011】
この発明において、前記センサユニット3と前記情報処理装置4との双方向の通信を行う無線通信手段16,22を有し、前記情報処理部24は、前記センサユニット3で測定した測定データを記録するデータ記憶部24aと、このデータ記憶部24aに記憶された測定データを用いて前記締結状態の異常の判定のための解析を行う信号解析部24bと、この信号解析部24bによる解析結果を用いて前記締結状態の異常を判定する状態判定部24cとを有し、この状態判定部24cは、画像を表示する表示部25に前記締結状態の異常の判定結果を表示するようにしても良い。
上記のようにセンサユニット3と情報処理装置4とが無線で通信されるようにした場合、回転する車輪2Aと固定側にある情報処理装置4との間の配線が簡素となる。また、前記情報処理部24が、前記データ記憶部24a、信号解析部24b、および状態判定部24cを有するため、前記判定精度をより一層向上させることができる。
【0012】
この発明において、前記センサユニット3は、前記車輪2Aの全周に渡り設けられて前記車輪2Aのホイールをハブ6に取付ける各ハブボルト7の頭部7aとホイールナット8との間に介在し前記各ハブボルト7とホイールナット8とによる締め付け力を受ける変形発生用のリング状のスペーサ状部材12、およびこのスペーサ状部材12における前記ハブボルト7が挿通されるボルト穴11の間の位相部位に設けられて前記スペーサ状部材12の歪みを検出する歪センサ13を有するスペーサ状であっても良い。
この構成のセンサユニット3の場合、スペーサ状部材12の歪みを検出してホイールナット8の締結状態の異常を検出するため、車両の走行中の締結状態の異常を検出できる。歪みを生じさせるための前記スペーサ状部材12は、ハブボルト7の頭部7aとホイールナット8との間に介在させるリング状の部材であり、このスペーサ状部材12に歪センサ13を取付けた構成であるため、構造が簡単で、ホイール2の支持剛性への影響も小さい。また、センサ類の車両への着脱が容易であり、車両重量、車軸幅への影響が小さくできる。
【0013】
この発明において、前記センサユニット3は、前記歪センサ13の他に、温度センサ14および加速度センサ15を有していても良い。
歪センサ13の歪みの検出値は温度によって変わるため、温度センサ14で温度を検出し、温度補正を行うことが、締結状態の異常判定の精度向上の上で好ましい。また、温度センサ14により、ブレーキ引きずり等による異常発熱の検知も可能になる。前記加速度センサ15を備える場合は、ハブベアリングの損傷や、タイヤパンク等の異常の検出も可能となる。
【0014】
この発明において、前記センサユニット3
の前記スペーサ状部材12は、前記ボルト穴11の間の位相部位に、前記歪センサ13、この歪センサ13の検出信号を通信する通信装置16、並びに前記歪センサ13および前記通信装置16に通電する電源17が設けられていても良い。
前記歪センサ13の検出やその検出信号の通信のためには通信装置16や電源17が必要であるが、スペーサ状部材12のボルト穴11の間の位相部位に前記通信装置16および電源17を配置することで、センサユニット3をコンパクトに構成することができる。前記スペーサ状部材12は、ボルト穴11の存在する位相部位では締め付けのためにある程度の肉厚が必要であるが、ボルト穴11の間の位相部位は薄くても良い。そのため、例えば、この薄くすることで生じる空間内に前記通信装置16や電源17を配置することで、センサユニット3の全体としての肉厚を厚くすることなく、通信装置16および電源17を配置することができる。
【0015】
この発明において、前記センサユニット3の前記スペーサ状部材12は、前記ボルト穴11の間の位相部位が薄肉部12bとされていても良い。
このように薄肉部12bを設けることで、センサ類や、通信装置16、電源17等の実装部位として利用し、その実装したセンサ類等をスペーサ状部材12の全体の肉厚から突出しないようにできる。そのため、前記スペーサ状部材12を支障なく部材間に挟み込むことができる。また、前記薄肉部12bを設けることで歪を集中させることができ、歪みの検出の感度を向上させ、締結状態の異常判定の精度を向上させることができる。
【0016】
このように薄肉部12bを設ける場合に、前記スペーサ状部材12は、前記ボルト穴11の間の前記薄肉部12bとされた位相部位における一部の位相部位に、歪集中部となる最薄部12cを有し、この最薄部12cの歪みを検出する歪センサ13を有していても良い。
このように最薄部12cを設けることで、スペーサ状部材12の歪みがより一層集中し、歪みの検出の感度の向上、締結状態の異常判定の精度をより一層向上させることができる。
【0017】
この発明において、前記スペーサ状部材12に取付けられてこのスペーサ状部材12の変形により歪むダイヤフラム13aと、このダイヤフラム13aに取付けられてこのダイヤフラム13aの歪みを検出するセンサ素子13bとで構成されていても良い。
スペーサ状部材自体12に薄肉部12bを設けるのではなく、上記のようにダイヤフラム13aを設けてもスペーサ状部材12の歪みを感度良く検出することができる。
【0018】
この発明において、前記測定タイミング指示部23は、前記センサユニット3に測定を指示する頻度および条件を任意に設定可能であっても良い。
車両の使用の形態はユーザ等によって大きく変わるため、使用の形態に応じた条件で異常の判定のための測定が行われるようにすることが、使用に便利である。
【発明の効果】
【0019】
この発明の車輪締結状態の判定装置は、車輪を車軸に締結する車輪締結部に着脱可能に設置されて前記車輪締結部の締結状態によって変化する状態量を検出するセンサユニットと、このセンサユニットに信号の送受が可能に接続された情報処理装置とを備え、前記情報処理装置は、前記車輪を備える車両の制御系または通信系から車両の走行の状態に係る情報である車両状態データを読み込み、この車両状態データから定められたタイミングで前記センサユニットに
測定指示を出力する測定タイミング指示部と、
前記測定タイミング指示部が前記センサユニットから受信した測定データを、前記車両状態データの定められた項目につき過去に同一条件で測定して記憶した蓄積データと比較することで、前記車輪締結部の締結状態の異常を判定する情報処理部とを有
し、前記情報処理部は、前記測定データと前記車両状態データとを関連付けて前記蓄積データとして蓄積するため、走行中の車輪締結状態監視が可能で、かつ測定時の車両走行条件指定により、外乱による影響を低減した異常判定が可能で、メンテナンス精度の向上、判定精度の向上、判定基準の定量化が図れる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の一実施形態を図面と共に説明する。
図1は、この車輪締結状態の判定装置を大型商用車に採用したシステムの全体像を示す。この車輪締結状態の判定装置は、車両1の車輪2Aを車軸に締結する車輪締結部2Aaに搭載されたスペーサ型のセンサユニット3と、情報処理装置4とで構成される。車両1は、同図では大型商用車であるトラックの場合を示している。センサユニット3は、前記車輪締結部2Aaの締結状態によって変化する歪み等の状態量を検出する手段である。情報処理装置4は、車載器4A、または携帯端末などの通信端末4B等で構成され、車両に搭載されたECU、CANから車両情報データの抽出、測定タイミングの指示、各センサユニット3の測定データの保存、締結状態の演算、異常の判定、異常要因の推定等を行う。車載器4Aは、車載型のコンピュータ等である。通信端末4Bは、情報処理機能を備えた所謂スマートフォン等の携帯電話器、または携帯性を持つ車輪締結状態の判定専用、または他のメンテナンス用途を含むメンテナンス専用の端末機である。
【0022】
情報処理装置4は、車両1の制御系または通信系である制御・通信系5に接続されている。ここで言う「制御系または通信系」は、車両1のメインのECU(電気制御ユニット)等の制御系と、CAN(controller area network )等で構成される車載ネットワーク等の通信系とを総称した概念である。情報処理装置4は、速度センサ等の車両状態データを検出する手段に、制御系を介することなく直接に通信系で接続されていても良い。情報処理装置4とセンサユニット3とは、後に説明するように無線で接続されている。
【0023】
図2は、前記車両1が大型商用車である場合に、後軸ダブルホイール部に前記センサユニット3を実装した例を、その回転軸線を通る面にて切断して示す断面図である。この車輪2Aでは、ハブ6のフランジ6aの片面に2つのホイール2,2を互いに反対に向けて重ね、フランジ6aの他の片面にブレーキドラム9を重ねている。これらホイール2,2とブレーキドラム9とを、ハブボルト7の頭部7aとホイールナット8との間で挟み込んで締め付け固定している。このホイール2をハブ6のフランジ6aにハブボルト7の頭部7aとホイールナット8とでとの間で挟み込んで締め付ける箇所により、車輪2Aを車軸(図示せず)に締結する車輪締結部2Aaが構成される。ハブボルト7は、ハブ6の円周方向の複数箇所に設けられ、前記フランジ6a、ホイール2,2、およびブレーキドラム9に設けられたボルト穴に挿通されている。なお、前記ハブ6は、車軸(図示せず)の外周に設置されるが、ハブベアリング(すなわち車輪用軸受)の一部を構成する部品であっても、ハブベアリングとは別に設けられた部品であっても良い。各ホイール2,2の外周にはタイヤ10が設けられ、ホイール2とタイヤ10とで車輪2Aが構成される。
【0024】
センサユニット3は、ホイール2と同心の円形のリング状で板状の部品であり、この例では2つのホイール2,2間に位置して、前記各ハブボルト7の頭部7aとホイールナット8の間に介在し、これらハブボルト7とホイールナット8とで締め付けられている。センサユニット3は、円周方向の複数箇所にボルト穴11(
図1)を有し、これらボルト穴11にハブボルト7が挿通されている。
【0025】
図3(A)は、
図2におけるセンサユニット3のホイールナット8による締め付け部を拡大して示す。
センサユニット3は、同図(A)のように配置する他に、同図(B)のように、ホイール2とホイールナット8との間に配置しても、同図(C)のようにハブ6のフランジ6aとホイールナット8との間に配置しても良い。
【0026】
なお、センサユニット3は、ハブボルト7の頭部7aとホイールナット8との間であれば、ハブ6のフランジ6aとブレーキドラム9との間や、ブレーキドラム9とハブボルト7の頭部7aとの間など、ハブボルト7の頭部7aとハブ6のフランジ6aとの間に配置しても良いが、一般的にハブボルト7はハブ6のフランジ6aのボルト穴に圧入して固定されるため、ハブ6のフランジ6aよりもホイールナット8に配置する方が好ましい。
また、
図3の各例ではスペーサ型のセンサユニット3は後輪ダブルホイール部に配置されているが、この
車輪締結状態の判定装置が適用される車輪2Aは、前輪のシングルタイヤ仕様であっても良い。
【0027】
図4は、センサユニット3の例を示す。このセンサユニット3は、リング状で板状のスペーサ状部材12と、このスペーサ状部材12に取付けられた歪センサ13とを有する。歪センサ13は、例えば箔ひずみゲージ、線ひずみゲージ、半導体ひずみゲージなどである。スペーサ状部材12には、ホイール2等の部品の状態を検知する状態検知センサ21として、歪センサ13の他に、温度センサ14および加速度センサ15が取付けられる。この他に、ジャイロや回転センサ(いずれも図示せず)を設けても良い。なお、前記状態検知センサ21は、前記各センサの総称である。また、スペーサ状部材12には、通信装置16および電源17が搭載される。この例では、通信装置16と電源17とを纏めて一つの部品とした電源・通信ユニット18が用いられている。
【0028】
スペーサ状部材12は、各部位のハブボルト7とホイールナット8とによる締め付け力の差によって変形を生じさせるための部材であり、前述のように、各ハブボルト7を挿通させるボルト穴11が設けられている。スペーサ状部材12の材質については、鉄合金の様に高強度、かつ高剛性の金属材料で形成されていても、またアルミニウム合金の様に弾性が比較的高い金属材料にて形成されても良い。
【0029】
スペーサ状部材12は、前記ホイールナット8の最外径内の領域では凹みおよび欠如部分のいずれもが存在しない形状であり、この領域は後述のような厚肉部12aとされる。この形状とすることで、ホイールナット8の締付によってホイール2の締結に関係する部材にかかる軸力を損なわず、強固に連結が可能になる。なお、ホイールナット8がワッシャ部(図示せず)を一体に有する場合は、前記最外径は、前記ワッシャ部を含む最外径である。
【0030】
スペーサ状部材12は、ボルト穴11の存在する位相部位、つまりボルト穴11の周囲の部分は厚肉部12aとされ、ボルト穴11間の位相部位は薄肉部12bとされている。薄肉部12bは、スペーサ状部材12の両面が前記厚肉部12aよりも凹む形状であっても、スペーサ状部材12の片面のみが厚肉部12aよりも凹む形状であっても良い。この薄肉部12bとされたボルト穴11間の位相部位は、前記歪センサ13、温度センサ14、加速度センサ15等のセンサ類や、前記通信装置16、電源17、あるいは電源・通信ユニット18を実装する部位とされる。なお、
図4の例では、スペーサ状部材12の片面の内周部は、全周に連続した薄肉部とされ、配線に利用されている。
【0031】
スペーサ状部材12は、さらに、薄肉部12bとされた位相部位における一部の位相部位に、例えば
図5(A)〜(C)に示すように、歪集中部となる最薄部12cを有していても良い。
図5(A)の例では、薄肉部12bはスペーサ状部材12の両面が厚肉部12aに対して凹む部分とされ、かつスペーサ状部材12の表側の面ではボルト穴11間の位相部位の中央に厚肉部12aと同一平面となる中間突条部12dが半径方向に延びて設けられることで、薄肉部12bが円周方向に並ぶ2か所に分割されている。その各分割箇所に半径方向に延びる溝部が形成されて、その溝底部分が前記最薄部12cとされている。
【0032】
図5(B),(C)の例では、いずれも同図(A)の中間突条部12dが存在せず、薄肉部12bはボルト穴11間の位相部位の全体に続く形状とされているが、
図5(B)の例では薄肉部12bにおける円周方向の中央に、半径方向に延びる溝部が形成されて、その溝底部分が前記最薄部12cとされている。
図5(C)の例では
図5(B)の例と同じく溝部によって最薄部12cが形成されているが、最薄部12cはボルト穴11間で円周方向に偏っている。
本例においては、前記歪センサ13(
図4)は、最薄部12cの裏側、すなわち最薄部12cを構成する溝とは反対側の面に取付けられているが、最薄部12cの溝底部に取付けても良い。前記歪センサ13は、この最薄部12cに集中した歪みを検出する。
なお、
図5(A)〜(C)の各図は、図示した位相部分を反転させて示しており、そのため表を示す図と裏を示す図とで、最薄部12cの位置が反転されて表れている。
【0033】
なお、スペーサ状部材12は、
図10に示すように、歪みを検出するダイヤフラム型の歪センサ13を実装しても良い。このダイヤフラム型の歪セン13は、ダイヤフラム13aと、このダイヤフラム13aの歪みを検出するセンサ素子13bとで構成される。また、
図11(A)(B)に各例を示すようにスペーサ状部材12自体に最薄部12cを設け、さらに前記のダイヤフラム13aとセンサ素子13aとでなる歪センサ13を設けてもよい。
【0034】
また、スペーサ状部材12は、上記の各例では1枚で構成したが、複数枚のスペーサ状部材構成材(図示せず)を組み合わせて一つのスペーサ状部材としても良い。
【0035】
図6は、この車輪締結状態の判定装置のシステム構成をブロック図で示す。センサユニット3は、各車輪2A毎に設けられ、状態検知センサ21として歪センサ13、温度センサ14、加速度センサ15等が設けられていて、これらの状態検知センサ21の検出データの通信を行う通信装置1
6を備えている。なお、ダブルホイールの場合は、
図2,
図3(A)に示したように、そのダブルホイールを構成する2つのホイール2,2に対して一つのセンサユニット3が設けられる。
情報処理装置4は、前記各センサユニット3の通信装置1
6と通信を行う通信装置22を備える。
【0036】
図7に示すように、車載器4Aまたは通信端末4B等の情報処理装置4は、複数のセンサユニット3に対して、例えば1台の車両が有する全てのセンサユニット3に対して1台設けられる。なお、同図において、車輪2Aおよびセンサユニット3のブロック内に示した「A〜Z」の符号は、個々の車輪2Aおよびセンサユニット3を識別する符号であり、車輪2Aとその車輪2Aに設けられたセンサユニット3には、同一の符号「A〜Z」を付してある。
【0037】
情報処理装置4は、前記のように前記通信装置22により複数のセンサユニット3に接続される他に、同じ通信装置22を介して、前記ECUやCAN等の制御・通信系5に、その通信装置26で接続されている。センサユニット3、情報処理装置4、および制御・通信系5が有する前記各通信装置1
6(
図6),22,26は、近距離無線通信の規格(例えばブルートゥ−ス(登録商標))に応じた無線通信を行う装置である。
【0038】
情報処理装置4は、コンピュータとプログラムとで主に構成され、前記通信装置22の他に、測定タイミング指示部2
3、情報処理部2
4、および表示部2
5を有する。表示部2
5は、液晶表示装置等の画面に画像を表示する手段であり、前記情報処理部24で判定された結果や異常要因等を画面に表示する。
【0039】
測定タイミング指示部2
3は、前記ECU,CAN等の制御・通信系5から、OBD2(On Board Diagnosis second generation)等を介して、または直接に、車両の走行の状態に係る情報である車両状態データを読み込み、この車両状態データから、状態判定に適した走行条件時等の定められたタイミングで前記センサユニット3に測定を指示し、かつその測定データを受信する。
測定タイミング指示部23に設定される前記「定められたタイミング」は、例えば、アイドリング時、定常走行時(直進でかつ一定速度)、安定路面走行時等である。常時測定ではなく、測定に適した時のみの測定とすることにより、センサユニット3側の消費電力削減にもなる。
測定タイミング指示部23は、前記定められたタイミング、例えば測定する時間の間隔や、測定する車両走行条件は、任意に設定および更新可能とされている。この設定や更新は、例えば車載器4A,通信端末4B等が有する手入力を受け付ける入力手段(図示せず)からの操作によって行えるようにされる。前記入力手段は、例えばキースイッチや、前記表示部25の画面上に設けられるタッチパネル等である。
【0040】
情報処理部24は、前記測定データである歪センサ13の検出データから所定の基準に従い前記ホイールナット8の締結状態の異常を判定する手段であり、個々のセンサユニット3毎に、ホイールナット8の締結状態の異常を判定する。
情報処理部24は、データ記憶部24a、信号解析部24b、および状態判定部24cを有し、データ記憶部24aに、センサユニット3から送信された歪センサ13等の状態検知センサ21の検出信号、およびその他の定められた情報を記憶する。このデータ記憶部24aは、測定した過去のデータも、その測定したときの車両状態データと関連付けて蓄積する。データ記憶部24aは、例えばSDカード等の可搬の記憶媒体で構成されていても良い。
【0041】
信号解析部24bは、締結状態の異常の判定のために必要な前処理となる信号の解析を行う。状態判定部24cは、信号解析部24bで解析された情報を用い、ホイールナット8の締結状態の異常を判定を行う。状態判定部24cは、この他に、前記信号解析部24bで解析された情報を用いて異常要因を求める。異常要因は、前記信号解析部24bで求めるようにしても良い。
【0042】
信号解析部24bは、この実施形態では、ホイールナット8の締結状態の異常の判定の他に、温度センサ14の検出温度を用いて歪みの温度ドリフト補正を行う機能、および温度センサ14の検出温度から、ブレーキ引きずり等によるホイール2の異常発熱の検出が可能とされ、また加速度センサ15の検出データからハブベアリング(図示せず)の損傷やタイヤ10のパンク等の異常を検出する機能を備える。
【0043】
情報処理部24は、より詳しくは、前記測定データを、前記車両状態データの定められた項目につき過去に同一条件で測定してデータ記憶部24aに記憶した蓄積データと比較することで、前記車輪締結部2Aaの締結状態の異常を判定を行う。
具体的には、前記信号解析部24bで、ホイール2の回転における各位相の測定データ変動量を各車輪2Aの過去データと比較し、状態判定部24cで異常判定と共に要因を推定する。
例えば、(1) 一輪の限定位相のみ異常傾向を示した場合は、ホイールナット8の緩みやハブボルト7の破損等の締結異常と推定する。
(2) 限られた車輪のみが異常傾向を示した場合は、パンクや、軸受もしくはブレーキの異常、例えば異常発熱等と推定する。
(3) 全ての車輪が異常傾向を示した場合は、過積載、もしくは外乱(路面状況等)の影響と推定する。
【0044】
上記構成の車輪締結状態の判定装置によると、スペーサ型のセンサユニット3を車輪締結部2Aaに挟み込む様に設置し、締結状態等を演算する為のデータを測定する。車載器4Aもしくは通信端末4B等の情報処理装置4は、ECUやCANから車両走行情報(スタートキー等の電源のオンオフ、エンジン回転数、ステア角、タイヤ回転数、ブレーキ作動の状況、トランスミッションの使用ギア等…)を読み込み、定められたタイミングである判定に適した走行状態(定常走行時等)にて、センサユニット3の測定データを記憶する。停止時、走行時(回転時)等における各位相の測定データを、各車輪2Aの過去データ等と比較し、また、各測定時に全車輪2Aの測定データの相互関係を確認することで、外乱を加味した異常判定と、異常要因を推定する。
【0045】
このように測定および判定を行うため、走行中の車輪締結部2Aaの車輪締結状態、および車輪締結部2Aaの周辺構成部品の状態監視が可能である。また、センサユニット3は車両への着脱が容易で、車両重量、車軸幅、支持剛性への影響が小さい。情報処理部24は、測定タイミング指示部23による指示に従って測定を行うため、測定時の車両走行条件指定により、外乱による影響を低減した異常判定が可能である。また、メンテナンス精度の向上、判定精度の向上、判定基準の定量化が得られる。
【0046】
図8は、上記構成の車輪締結状態の判定装置の事前準備(セットアップ)における使用方法および動作を示すフローチャートである。同図を用いて、動作、および構成の補足説明を行う。
まず、同図の上段に示すように、車輪2Aに対してセンサユニット3をハブ6〜ホイールナット8(
図3)間に組付け、正規締付トルクでホイールナット8を組付ける。
センサユニット3では、内蔵の各状態検知センサ21(
図4、
図6)でホイール2等の部品の状態を測定し、その測定データを通信端末4B,車載器4A等に送信する。
通信端末4Bまたは車載器4Aでは、測定データをセンサユニット3から受信する。また、車種、部位の情報のインプット、および異常判定の基準データとして、前記測定データをデータ記憶部24aに記憶する。車種、部位の情報のインプットは、通信端末4Bまたは車載器4A等が持つ入力機器部から行っても良く、またセンサユニット3に初期設定用のデータとして記憶させておいて、その記憶データを通信端末4Bまたは車載器4A等に送信し、その受信内容をインプットするようにしても良い。
【0047】
図8の下段に示すように、ECU,CAN等の制御・通信系5と、通信端末4B,車載器4A等の情報処理装置4とに関しては、前記通信装置26(
図7)をOBD2等に装着し、アイドリング時や定常走行時等の車両状態データを前記制御・通信系5から出力する。
通信装置26においては、前記車両状態データを、通信端末4B,車載器4A等の情報処理装置4へ送信する。
上記車両状態データは、例えば、エンジン回転数、ステア角、タイヤ回転数(車速)、ブレーキ作動の状況、等である。
通信端末4B,車載器4A等の情報処理装置4では、車種データベース(図示せず)等から車両情報の出力データ形式等を読み込み、前記通信装置26から送られた車両状態ダータの受信を確認して、データ測定タイミングをセットアップする。データ測定タイミングは、例えばアイドリング時や、定常走行時であり、設定間隔毎としても良い。
【0048】
図9は、上記構成の車輪締結状態の判定装置の本運転における使用方法および動作を示すフローチャートである。なお、同図において、通信端末4B,車載器4A等の情報処理装置4が行う処理については、この情報処理装置4を構成するどの手段が行うかが明確になるように、測定タイミング指示部23、データ記憶部24a、信号解析部24b、および状態判別部24cの別に、各ステップを示す矩形枠内にハッチングを施した。
【0049】
通信端末4B,車載器4A等の情報処理装置4では、ECU,CAN等の制御・通信系5から車両状態データを受信し、測定タイミング指示部23は、設定条件時に、すなわち前記定められたタイミングに各センサユニット3へデータ測定指示を出力する。前記設定条件時は、例えばアイドリング時や直進の定常走行時であり、測定間隔の指示についても行う。
このデータ測定指示に応答して各センサユニット3が搭載の状態検知センサ21(歪センサ13、温度センサ14、…等)により、部品の状態を測定する。測定事項は、歪、温度であり、他に加速度等である。
この測定データを、通信端末4B,車載器4A等の情報処理装置4へ送信する。
【0050】
通信端末4B,車載器4A等の情報処理装置4では、前記測定データを受信すると、歪データは温度データによって温度補正され、その補正後の歪データを用いて締結異常の判定処理を行う。
また、温度データによって異常発熱の判定処理を行う。
前述の測定部位のインプットされた固有情報から、その部位についての過去の測定データを抽出し、前記締結異常の判定処理、および異常発熱の判定処理に用いる。
【0051】
センサユニット3が加速度センサ15を有する場合は、受信した加速度データから、周波数解析を行い、ホイール2の周辺部品の異常判定の処理を行う。この処理にも前述の抽出された過去測定データが用いられる。
【0052】
前記各判定の処理では、データに異常があるか否かを判定する。例えば、データが閾値を超えているか、また複数箇所に設けられた他のセンサユニット3の各状態検知センサ21等の検出データと異なる傾向があるか、過去の測定データと異なる傾向があるか否かを判定する。
また、異常要因の推定を行う。
異常なしの場合は、表示部25に「異常なし」と表示し、異常有りの場合は「異常」と表示する。また、各測定データおよび判定結果を保存する。
【0053】
このように、この車輪締結状態の判定装置によると、次の各効果が得られる。
・走行中等の稼働中に車輪締結状態(ホイールナット8の緩み等)、および周辺構成部品の状態監視が可能である。
・車両への着脱が容易で、車両重量、車軸幅、支持剛性への影響が小さい。
・測定時の車両走行条件指定により、外乱による影響を低減した異常判定が可能である。
・メンテナンス精度の向上、判定精度の向上、判定基準の定量化が得られる。
【0054】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。