(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転部材と、この回転部材に接触させる摩擦部材と、この摩擦部材を前記回転部材に接触させて制動力を発生させる摩擦部材操作手段と、この摩擦部材操作手段を駆動する電動モータと、この電動モータを制御することにより前記回転部材と前記摩擦部材との隙間であるクリアランス量を調整可能な制御装置とを備える電動ブレーキ装置において、
前記制御装置は、
前記電動ブレーキ装置が搭載された車両におけるブレーキ操作手段への操作量を検出するブレーキ操作量検出部と、
このブレーキ操作量検出部で検出された前記操作量から、前記ブレーキ操作手段に対する運転者の最新の操作の履歴を操作履歴フラグとして保存する操作履歴フラグ記憶手段と、
この操作履歴フラグ記憶手段に保存された前記操作履歴フラグを参照して、前記クリアランス量の目標値である目標クリアランスを決定する目標クリアランス決定部と、を備えたことを特徴とする電動ブレーキ装置。
請求項3に記載の電動ブレーキ装置において、前記目標クリアランス決定部は、前記ブレーキ操作手段の無操作時に、前記アクセル操作検出部で前記アクセル操作手段が無操作と検出され、且つ、前記車両停止検出部で前記車両が停止中と検出され、且つ、前記操作履歴フラグにつき、前記摩擦部材を前記回転部材に接触させている接触状態であるオンのとき、前記目標クリアランスを零として、前記回転部材と前記摩擦部材との接触状態を維持する電動ブレーキ装置。
請求項3または請求項4に記載の電動ブレーキ装置において、前記目標クリアランス決定部は、前記ブレーキ操作手段の無操作時に、前記アクセル操作検出部で前記アクセル操作手段の操作有りと検出されたとき、前記操作履歴フラグにつき、前記摩擦部材を前記回転部材に接触させていない非接触状態であるオフにして、前記目標クリアランスを隙間有りの待機位置とする電動ブレーキ装置。
請求項3または請求項4に記載の電動ブレーキ装置において、前記目標クリアランス決定部は、前記ブレーキ操作手段の無操作時に、前記車両停止検出部により前記車両が走行中と検出されたとき、前記操作履歴フラグにつき、前記摩擦部材を前記回転部材に接触させていない非接触状態であるオフにして、前記目標クリアランスを隙間有りの待機位置とする電動ブレーキ装置。
請求項3ないし請求項6のいずれか1項に記載の電動ブレーキ装置において、前記目標クリアランス決定部は、前記ブレーキ操作手段の無操作時に、前記アクセル操作検出部で前記アクセル操作手段も無操作と検出されたとき、前記操作履歴フラグが、前記摩擦部材を前記回転部材に接触させていない非接触状態であるオフのとき、前記目標クリアランスを隙間有りの待機位置とする電動ブレーキ装置。
【背景技術】
【0002】
ブレーキディスクとブレーキパッドの間のクリアランス量を自由に決定できる電動ブレーキを搭載した車両において、目標とするクリアランス量を維持する制御方法や、その制御時の運転者の違和感を低減する方法、クリアランス量を運転者の操作状況や車両状況に応じて決定する方法について、種々の提案がなされてきた(特許文献1〜3)。
【0003】
特許文献1は、ディスクの摩耗のように条件が変化した場合においても、クリアランスを目標に維持する技術を示している。クリアランスを目標に維持する理由は、電動ブレーキが押圧のための動作開始から、制動力が立ち上がるまでの空走時間が、ディスクの摩耗により増大しないようにするためである。この特許文献1は、航空機向けの電動ブレーキに関する提案であるが、自動車向けの電動ブレーキにおいても適応可能な技術である。
【0004】
特許文献2は、押圧発生のためにクリアランス量を減少させ、ディスクとパッドを接触させる(クリアランスを詰める)際の、アクチュエータの動作速度を決定する技術について示している。アクチュエータを動作させる際に騒音が発生し、運転者に違和感を与えることを問題視している。この提案では、走行騒音が大きくなる高速走行時には、応答性を重視してアクチュエータを高速動作させ、アクチュエータの騒音が目立ちやすい低速走行時には、アクチュエータを低速動作させている。
このように、クリアランス量は車両挙動を制御するために、最適に調整されるべきであるが、調整する際に発生する騒音は、運転者にとって違和感の原因となることは、これらの特許文献に示されるように明白である。
【0005】
特許文献3は、クリアランスを詰める際の初期応答遅れと、その際の発生騒音について指摘し、初期応答特性を向上させ、ブレーキ操作時の音を低減させるためのクリアランス決定方法を示している。具体的には、運転者が走行中にアクセルペダルを離している場合は、クリアランスは微小隙間位置で待機し、停止状態となればクリアランスゼロ位置を維持するフローを示している。また、ブレーキペダルを操作した場合には、操作に応じた押圧を発生するように制御される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、運転者に違和感が生じやすいのは、運転者の操作に対する実際の車両挙動が、運転者の意図する車両挙動と一致しない場合や、運転者が音の発生を想定していないタイミングで、動作音がする場合である。動作音に関しては、小さな音であっても、想定外のタイミングでの発生は違和感につながりやすい。このような問題意識に立った時、特許文献3のような操作状況と車両状況のみに注目した制御方法では、惰性走行状態のまま停止した場合、停止判断がなされたタイミングに、クリアランスを詰める動作が生じるなど、違和感を生じる可能性を残したものであり、運転者の操作履歴にも注目した制御方法を取る必要があるとの考えに至った。
【0008】
この発明の目的は、この電動ブレーキ装置を搭載した車両において、運転者に違和感を与えることなくクリアランス量を調整することができる電動ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の電動ブレーキ装置は、回転部材8と、この回転部材8に接触させる摩擦部材9と、この摩擦部材9を前記回転部材8に接触させて制動力を発生させる摩擦部材操作手段6と、この摩擦部材操作手段6を駆動する電動モータ4と、この電動モータ4を制御することにより前記回転部材8と前記摩擦部材9との隙間であるクリアランス量を調整可能な制御装置2とを備える電動ブレーキ装置DBにおいて、
前記制御装置2は、
前記電動ブレーキ装置DBが搭載された車両におけるブレーキ操作手段27への操作量を検出するブレーキ操作量検出部24と、
このブレーキ操作量検出部24で検出された前記操作量から、前記ブレーキ操作手段27に対する運転者の最新の操作の履歴を操作履歴フラグとして保存する操作履歴フラグ記憶手段19と、
この操作履歴フラグ記憶手段19に保存された前記操作履歴フラグを参照して、前記クリアランス量の目標値である目標クリアランスを決定する目標クリアランス決定部17と、を備えたことを特徴とする。
運転者によるブレーキ操作手段27の操作状態は時々刻々と変化するか、または一定の操作状態のまま維持されるものである。前記「最新の操作の履歴」は、直近のブレーキ操作手段27の操作履歴である。
【0010】
この構成によると、ブレーキ操作量検出部24は、車両におけるブレーキ操作手段27への操作量を検出する。操作履歴フラグ記憶手段19は、ブレーキ操作量検出部24で検出された前記操作量から、前記ブレーキ操作手段27に対する運転者の最新の操作の履歴を操作履歴フラグとして保存する。この操作履歴フラグは、書き換え可能に操作履歴フラグ記憶手段19に保存される。目標クリアランス決定部17は、前記操作履歴フラグを参照して目標クリアランスを決定する。
【0011】
不要なクリアランス量の変更を抑制し、騒音の発生頻度を低くする観点に立ったとき、ブレーキ操作手段27を操作したまま車両が停止したときは、クリアランス量を詰めたままに保ち、ブレーキ操作手段27を操作することなく車両が停止したときは、クリアランス量を開けたまま保つように制御する必要がある。このような制御を実現するために、ブレーキ操作手段27への操作履歴を保持するフラグである操作履歴フラグを採用した。目標クリアランス決定部17は、目標クリアランスを決定するにあたり、操作履歴フラグを参照することで、運転者がブレーキ操作手段27を操作していないタイミングでクリアランス量が不意に変動することを防止できる。よって、運転者に違和感を与えることを未然に防止できる。
【0012】
前記制御装置2は、前記制動力を発生させる押圧の指令値を決定する押圧指令部18を有し、
前記押圧指令部18は、
前記ブレーキ操作手段27の操作時に、前記ブレーキ操作量検出部24で検出された操作量に応じた押圧の指令値を生成する押圧発生部29と、
前記ブレーキ操作手段27の無操作時に、前記操作履歴フラグ記憶手段19に保存された前記操作履歴フラグを参照して前記目標クリアランスに一致するように実際のクリアランス量を調整するクリアランス調整部30と、を有するものとしても良い。
【0013】
この構成によると、押圧発生部29は、運転者によるブレーキ操作手段27の操作時に、前記ブレーキ操作量検出部24で検出された操作量に応じた押圧の指令値を生成する。これにより電動モータ4が摩擦部材操作手段6を駆動することで、この摩擦部材操作手段6は、摩擦部材9を回転部材8に接触させて制動力を発生させる。このように車両に制動力を与えることができる。
クリアランス調整部30は、運転者によるブレーキ操作手段27の無操作時には、前記操作履歴フラグを参照して前記目標クリアランスに一致するように実際のクリアランス量を調整する。この場合、ブレーキ操作手段27が操作されない限りクリアランス量が待機位置等から零に詰められることはない。クリアランス量が無駄に調整されることがないことにより、不要な引きずりトルクを低減でき、電費が悪化することを抑制することが可能となる。また押圧指令部18と目標クリアランス決定部17を独立して設けることで、条件判断の分岐や優先度の判断を簡略化することができる。
【0014】
前記制御装置2は、
前記車両が停止しているか否かを検出する車両停止検出部23と、
前記車両におけるアクセル操作手段28の操作の有無を検出するアクセル操作検出部21と、を備え、
前記目標クリアランス決定部17は、前記車両停止検出部23により前記車両が停止しているか否かの情報と、前記アクセル操作検出部21で検出された前記アクセル操作手段28の操作の有無の情報と、前記操作履歴フラグ記憶手段19に保存され参照した前記操作履歴フラグとから、前記目標クリアランスを決定しても良い。
【0015】
この構成によると、車両停止検出部23は、車両が停止しているか否かを検出する。アクセル操作検出部21は、アクセル操作手段28の操作の有無を検出する。これらの情報は、目標クリアランス決定部17に入力される。さらに目標クリアランス決定部17には、操作履歴フラグが入力され、目標クリアランスが決定される。このように操作履歴フラグだけでなく、車両が停止しているか否かの情報と、アクセル操作手段28の操作情報とを加味して目標クリアランスを決定しているため、不要なクリアランス量の変更を抑制し、騒音の発生頻度を確実に低減することができる。
【0016】
前記目標クリアランス決定部17は、前記ブレーキ操作手段27の無操作時に、前記アクセル操作検出部21で前記アクセル操作手段28が無操作と検出され、且つ、前記車両停止検出部23で前記車両が停止中と検出され、且つ、前記操作履歴フラグにつき、前記摩擦部材9を前記回転部材8に接触させている接触状態であるオンのとき、前記目標クリアランスを零として、前記回転部材8と前記摩擦部材9との接触状態を維持しても良い。前記のように操作履歴フラグがオンであれば、ブレーキ操作手段27を少なくとも一度操作して車両が停止した、もしくは、車両停止後にブレーキ操作手段27を操作したこととなる。この状態で不要なクリアランス量の調整を回避するために、目標クリアランスを零として、回転部材8と摩擦部材9との接触状態を維持する。
【0017】
前記目標クリアランス決定部17は、前記ブレーキ操作手段27の無操作時に、前記アクセル操作検出部21で前記アクセル操作手段28の操作有りと検出されたとき、前記操作履歴フラグにつき、前記摩擦部材9を前記回転部材8に接触させていない非接触状態であるオフにして、前記目標クリアランスを隙間有りの待機位置としても良い。
【0018】
この構成によると、アクセル操作手段28の操作有りの場合は、操作履歴フラグをオフにする。これは、操作履歴フラグが車両停止直前のブレーキ操作手段27の操作の履歴を保持するためのものであるため、再加速の意図を示すアクセル操作手段28の操作が有ると検出されたとき、ブレーキ操作手段27への操作の履歴をリセットする目的がある。このとき、操作履歴フラグをオフにして、再加速の意図があるとして、目標クリアランスを隙間有りの待機位置とする。
【0019】
前記目標クリアランス決定部17は、前記ブレーキ操作手段27の無操作時に、前記車両停止検出部23により前記車両が走行中と検出されたとき、前記操作履歴フラグにつき、前記摩擦部材9を前記回転部材8に接触させていない非接触状態であるオフにして、前記目標クリアランスを隙間有りの待機位置としても良い。
【0020】
この構成によると、車両停止検出部23により前記車両が走行中と検出されたとき、操作履歴フラグをオフにする。これは、操作履歴フラグが車両停止直前のブレーキ操作手段27の操作の履歴を保持するためのものであるため、アクセル操作手段28の操作は無くても車両の走行状態(いわゆる慣性走行)を許して、走行状態の維持の意思を示す走行中の状態が確認されれば、ブレーキ操作手段27への操作の履歴をリセットする目的がある。このとき、操作履歴フラグをオフにして、走行維持の意思があるとして、目標クリアランスを隙間有りの待機位置とする。
【0021】
前記目標クリアランス決定部17は、前記ブレーキ操作手段27の無操作時に、前記アクセル操作検出部21で前記アクセル操作手段28も無操作と検出されたとき、前記操作履歴フラグが、前記摩擦部材9を前記回転部材8に接触させていない非接触状態であるオフのとき、前記目標クリアランスを隙間有りの待機位置としても良い。この場合、車両が慣性走行からブレーキ操作手段27の操作無しで停止しているかまたは走行中である。この場合に目標クリアランスを隙間有りの待機位置とすることで、不要なクリアランス量の調整を回避し得る。
【発明の効果】
【0022】
この発明の電動ブレーキ装置は、回転部材と、この回転部材に接触させる摩擦部材と、この摩擦部材を前記回転部材に接触させて制動力を発生させる摩擦部材操作手段と、この摩擦部材操作手段を駆動する電動モータと、この電動モータを制御することにより前記回転部材と前記摩擦部材との隙間であるクリアランス量を調整可能な制御装置とを備える電動ブレーキ装置において、前記制御装置は、前記電動ブレーキ装置が搭載された車両におけるブレーキ操作手段への操作量を検出するブレーキ操作量検出部と、このブレーキ操作量検出部で検出された前記操作量から、前記ブレーキ操作手段に対する運転者の最新の操作の履歴を操作履歴フラグとして保存する操作履歴フラグ記憶手段と、この操作履歴フラグ記憶手段に保存された前記操作履歴フラグを参照して、前記クリアランス量の目標値である目標クリアランスを決定する目標クリアランス決定部とを備えた。このため、この電動ブレーキ装置を搭載した車両において、運転者に違和感を与えることなくクリアランス量を調整することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
この発明の実施形態に係る電動ブレーキ装置を
図1ないし
図4と共に説明する。
図1に示すように、電動ブレーキ装置DBは、電動ブレーキアクチュエータ1と、制御装置2とを有する。先ず、電動ブレーキアクチュエータ1について説明する。
電動ブレーキアクチュエータ1は、電動モータ4と、この電動モータ4の回転を減速する減速機構5と、摩擦部材操作手段である直動機構6と、駐車ブレーキであるパーキングブレーキ機構7と、回転部材であるブレーキロータ8と、摩擦部材9とを有する。電動モータ4、減速機構5、および直動機構6は、例えば、図示外のハウジング等に組込まれる。なおブレーキロータ8は、ディスク型であっても、ドラム型であっても良い。摩擦部材9は、ブレーキパッドまたはブレーキシュー等からなる。直動機構6は、ボールねじ機構や遊星ローラねじ機構などの送りねじ機構からなる。
【0025】
電動モータ4は、例えば、励磁コイル(これら電動モータ4の構成部品についてはいずれも図示せず)、モータ角度センサ、および、永久磁石を有するロータを備えた、トルク密度の高いブラシレスDCモータを用いることが好ましい。減速機構5は、電動モータ4の回転を、回転軸10に固定された三次歯車11に減速して伝える機構であり、一次歯車12、中間歯車13、および三次歯車11を含む。この例では、減速機構5は、電動モータ4のロータ軸4aに取り付けられた一次歯車12の回転を、中間歯車13により減速して、回転軸10の端部に固定された三次歯車11に伝達可能としている。
【0026】
直動機構6は、減速機構5で出力される回転運動を送りねじ機構により直動部14の直線運動に変換して、ブレーキロータ8に対して摩擦部材9を当接離隔させる機構である。直動部14は、回り止めされ且つ軸方向A1に移動自在に支持されている。直動部14のアウトボード側端に摩擦部材9が設けられる。電動モータ4の回転を減速機構5を介して直動機構6に伝達することで、回転運動が直線運動に変換され、それが摩擦部材9の押圧力に変換されることによりブレーキ力を発生させる。なお、アウトボード側とは電動ブレーキ装置DBを車両に搭載した状態で、車両の車幅方向外側をアウトボード側といい、車両の車幅方向中央側をインボード側という。
【0027】
パーキングブレーキ機構7は、ロック部材15とアクチュエータ16とを有する。中間歯車13のアウトボード側端面には、複数の係止孔(図示せず)が円周方向一定間隔おきに形成される。これら係止孔のいずれか一つにロック部材15が係止可能に構成される。アクチュエータ16として例えばソレノイドが適用される。アクチュエータ16によりロック部材(ソレノイドピン)15を進出させて中間歯車13に形成された前記係止孔に嵌まり込ませることで係止し、中間歯車13の回転を禁止することで、パーキングロック状態にする。ロック部材15をアクチュエータ16に退避させて前記係止孔から離脱させることで中間歯車13の回転を許容し、アンロック状態にする。
【0028】
制御装置2等について説明する。
電動モータ4および制御装置2には、図示外の電源装置からそれぞれ電力が供給される。制御装置2は、電動モータ4により制動力を制御すると共に、ブレーキロータ8と摩擦部材9との隙間であるクリアランス量を調整可能である。
【0029】
図2に示すように、制御装置2は、主に、目標クリアランス決定部17と、押圧指令部18と、操作履歴フラグ記憶手段19と、複数の検出部を含む検出部群20とを備える。前記複数の検出部として、アクセルペダル操作検出部21、車速検出部22、車両停止検出部23、およびブレーキ操作量検出部24が挙げられる。目標クリアランス決定部17は、操作履歴フラグオフ部25と、クリアランス決定部26とを有する。操作履歴フラグオフ部25は、操作履歴フラグ記憶手段19、クリアランス決定部26、アクセルペダル操作検出部(アクセル操作検出部)21および車両停止検出部23にそれぞれ電気的に接続されている。
【0030】
操作履歴フラグオフ部25は、操作履歴フラグを「オフ」にする機能を有する。具体的に、操作履歴フラグオフ部25は、ブレーキ操作手段(ブレーキペダル)27の無操作時に、アクセルペダル操作検出部21でアクセル操作手段28の操作有りと検出されたとき、操作履歴フラグをオフにする。アクセル操作手段28の操作の有無は、アクセルペダル操作フラグにより判断される。操作履歴フラグとは、ブレーキ操作手段27に対する運転者の最新の操作の履歴である。操作履歴フラグは、操作履歴フラグ記憶手段19に書き換え可能に保存される。また操作履歴フラグは、目標クリアランス決定部17と押圧指令部18との間で、オンまたはオフの情報を入出力可能に運用している。
【0031】
操作履歴フラグが「オフ」とは、摩擦部材9(
図1)をブレーキロータ8(
図1)に接触させていない非接触状態であることを意味する。この操作履歴フラグの「オフ」の情報は、操作履歴フラグ記憶手段19に保存されると共に、クリアランス決定部26に送られる。ブレーキ操作量検出部24により、ブレーキ操作手段27の無操作時であるか否かを判断する。この判断手法は以下同じである。
【0032】
また操作履歴フラグオフ部25は、ブレーキ操作手段27の無操作時に、車両停止検出部23により車両が走行中と検出されたとき、操作履歴フラグをオフにする。車両が走行中か否かは車両停止フラグにより判断される。操作履歴フラグの「オフ」の情報は、操作履歴フラグ記憶手段19に保存されると共に、クリアランス決定部26に送られる。
【0033】
クリアランス決定部26は、アクセルペダル操作検出部21でアクセル操作手段28の操作有りと検出され、操作履歴フラグオフ部25から操作履歴フラグの「オフ」の情報が入力されると、目標クリアランスを隙間有りの待機位置とする。前記待機位置とは、この待機位置からブレーキ操作手段27を操作したときの制動力の立ち上がりの遅れが、許容範囲に収まるようなクリアランス量である。
【0034】
前記許容範囲は、試験やシミュレーション等の結果により定められる。また、引き摺りトルクがあっても、走行時にも違和感が無い程度や引き摺りによるブレーキロータ8(
図1)と摩擦部材9(
図1)の発熱による問題が無い程度が妥当である。クリアランス決定部26は、車両停止検出部23により車両が走行中と検出され、操作履歴フラグオフ部25から操作履歴フラグの「オフ」の情報が入力されると、目標クリアランスを隙間有りの待機位置とする。
【0035】
またクリアランス決定部26は、ブレーキ操作手段27の無操作時に、アクセルペダル操作検出部21でアクセル操作手段28も無操作と検出されたときにおいて、操作履歴フラグオフ部25から操作履歴フラグの「オフ」の情報が入力されると、目標クリアランスを隙間有りの待機位置とする。
【0036】
クリアランス決定部26は、ブレーキ操作手段27の無操作時に、以下の条件(1),(2),(3)を全て充足すると、目標クリアランスを零として、ブレーキロータ8(
図1)と摩擦部材9(
図1)との接触状態を維持する。前記接触状態とは、ブレーキロータ8(
図1)と摩擦部材9(
図1)の接触による引き摺りトルクが、許容できる接触度合とする。この実施形態の電動ブレーキ装置DBを用いれば、ブレーキ操作手段27の無操作での車両走行時に、接触状態を維持することがないため、許容できる引き摺りトルクを大きくすることができる可能性がある。
【0037】
条件(1):アクセルペダル操作検出部21でアクセル操作手段28が無操作と検出される。
条件(2):車両停止検出部23で車両が停止中と検出される。
条件(3):操作履歴フラグ記憶手段19に保存された操作履歴フラグが「オン」であり、その操作履歴フラグ「オン」の情報が操作履歴フラグオフ部25を介してクリアランス決定部26に入力される。
【0038】
押圧指令部18は、制動力を発生させる押圧の指令値を決定する機能を有する。この押圧指令部18は、押圧発生部29と、クリアランス調整部30と、操作履歴フラグオン部31とを備えている。押圧発生部29は、ブレーキ操作手段27の操作時にブレーキ操作量検出部24で検出された操作量に応じた押圧の指令値を生成する。押圧発生部29は、生成した押圧の指令値に対応する電流指令に変換して電動モータ4(
図1)を駆動することで、摩擦部材9(
図1)がブレーキロータ8(
図1)に接触され制動力が発生する。
【0039】
クリアランス調整部30は、クリアランス決定部26が決定した目標クリアランスと一致させるように制御を行う。具体的には、クリアランス調整部30は、決定した目標クリアランスに応じて電圧値による電流指令に変換して最終的に電動モータ4(
図1)に電流を流す。これにより実際のクリアランス量が調整される。
操作履歴フラグオン部31は、ブレーキ操作量検出部24で検出された操作量から、操作履歴フラグを「オン」にする機能を有する。この操作履歴フラグを「オン」の情報は、履歴フラグ記憶手段19に書き換え可能に保存されると共に、操作履歴フラグオフ部25を経由して、クリアランス決定部26に与えられる。
【0040】
クリアランス決定部26が目標クリアランスを隙間有りの待機位置とし、クリアランス調整部30により実際のクリアランス量が調整されると、
図3(a)に示すように、ブレーキロータ8と摩擦部材9との間に、定められた隙間δが開くように直動機構6が駆動される。前記定められた隙間δは、試験やシミュレーション等の結果により定められる。
図2に示すクリアランス決定部26が目標クリアランスを零とし、クリアランス調整部30により実際のクリアランス量が調整されると、
図3(b)に示すように、ブレーキロータ8と摩擦部材9との間の隙間δが詰まるように直動機構6が駆動される。
【0041】
図4は、この電動ブレーキ装置DB(
図1)によりクリアランス量を調整する例を示すフローチャートである。以後、
図1、
図2も適宜参照しつつ説明する。このフローチャートは、図示する都合上、「スタート」と「エンド」として処理終了のあるフローとしているが、実際のプログラムでは、電源投入後は常に実施され、例えば、このフローを実行する制御装置2のCPUの計算一周期につき一回のように実行される。
【0042】
先に目標クリアランス決定部26が処理を行う。本処理開始後、アクセルペダル操作検出部21でアクセル操作手段28が無操作つまりアクセルオフで(ステップS1)、且つ、車両停止検出部23で車両が停止中であるか確認する(ステップS2)。ステップS1において、アクセル操作手段28の操作の有無の判断は、アクセルペダル操作検出部21から得たアクセルペダル操作フラグを根拠に行う。
【0043】
ステップS2において、車両が走行中か停止中かの判断は、車速検出部22からの車速情報を基に、車両停止検出部23の出力する車両停止フラグを根拠に行う。ここで、車両停止検出部23を車速検出部22から独立させたのは、車両停止の判断を厳密に行うためには、車両における四輪分の車速を統合し判断するのが望ましく、判断のハンチングを予防するための不感帯の設定の難易度が高いことが理由である。
【0044】
アクセルオン(ステップS1:no)もしくは車両が走行中の場合(ステップS2:no)は、操作履歴フラグをオフにする(ステップS3)。これは、操作履歴フラグが車両の停止直前のブレーキ操作手段27の操作の履歴を保持するためのものであるため、再加速の意図を示すアクセル操作手段28の操作か、アクセル操作手段28の操作は無くても走行状態(惰性走行)を許して、走行状態の維持の意思を示す走行中の状態が確認されれば、ブレーキ操作手段27への操作の履歴をリセットする目的がある。このとき、操作履歴フラグをオフにして(ステップS3)、走行状態の維持の意思があるとして、目標クリアランスは待機位置の値とする(ステップS4)。
【0045】
アクセルオフで(ステップS1:yes)、且つ、車両の停止中であるとき(ステップS2:yes)、前の計算周期における操作履歴フラグを確認する(ステップS5)。この操作履歴フラグがオフであれば(ステップS5:no)、車両は惰性走行からブレーキ操作なしで停止したことになり、目標クリアランスは待機位置とする(ステップS6)。
ステップS5において、操作履歴フラグがオンであれば(ステップS5:yes)、ブレーキ操作手段27を操作して車両が停止した、もしくは、車両停止後にブレーキ操作手段27を操作したこととなり、不要なクリアランス量の調整を回避するために、目標クリアランスは接触とする(ステップS7)。目標クリアランスを決定した後、ステップS8に移行する。
【0046】
次に押圧指令部18が処理を行う。
押圧指令部18は、ブレーキ操作手段(ブレーキペダル)27の操作の有無を確認する(ステップS8)。このステップS8において、ブレーキ操作量検出部24から得たブレーキ操作量を根拠にブレーキ操作手段27の操作の有無を判断する。ここでアクセル操作手段28と違い、フラグではなく操作量を用いているのは、アクセル操作手段28は操作の有無だけが処理に必要であったため、フラグとして管理したが、ブレーキ操作手段27は操作量も制御上必要であるため、ブレーキ操作量が閾値以上であれば、ブレーキ操作を行っているというフラグとして扱うようにしたためである。前記閾値は、試験やシミュレーション等の結果により定められる。
【0047】
ブレーキ操作手段27が操作されていれば(ステップS8:yes)、操作履歴フラグをオンにし(ステップS9)、クリアランスを接触状態として摩擦部材9をブレーキロータ8に接触させる(ステップS10)。同時に、ブレーキ操作手段27の操作量に応じて押圧を発生させる(ステップS11)。ブレーキ操作手段27が操作されていなければ(ステップS8:no)、実際のクリアランス量を、目標クリアランス決定部17が決定した目標クリアランスと一致させるように制御を行う(ステップS12)。その後本処理を終了する。
【0048】
作用効果について
アクセル操作手段28とブレーキ操作手段27の無操作状態で車両が停止する状況は、以下が考えられる。
クリープトルクを発生させている車両においては、クリープトルクと車重による力とが釣り合うような、緩やかな上り坂において発生する。また、勾配がきつく、クリープトルクのみでは車両が後退してしまうような上り坂に、車両が惰性走行で進入した場合、車両が減速し後退する際に、瞬間的に車両速度が零のタイミングがある。また、車両が後退しないようにアクセル操作手段28を踏んだり離したりして前後退を調整する場合、アクセル操作手段28とブレーキ操作手段27の無操作状態で車両速度が零を満たす可能性が高い。
【0049】
一方、クリープトルクを発生させない状態とは、車両のシフトポジションをニュートラルレンジに入れているときや、クラッチを解放した状態、およびドライブポジションにおいてもクリープトルクを発生させない車両が考えられる。これらの場合は、市街地走行において信号待ちや右左折時など多くの場面で、アクセル操作手段28とブレーキ操作手段27の無操作状態で車両速度が零、もしくは車両停止と判断できるほど極低速となる可能性が高い。
【0050】
以上の場合、従来技術では車両速度が零になった瞬間にクリアランス零の接触状態となり、アクセル操作や車両が動き出したことにより待機位置になることで、不要なクリアランス変更が生じる可能性が高い。これらの状況においては、ブレーキ操作手段27が無操作であるためクリアランス量を変更するべきではない。特にプログラム上での停止の判断が、運転者が車両停止したと感じるタイミングと一致しなければ、騒音により大きな違和感を生じる。
【0051】
また、車両が完全に停止していない状況(車両が微小に動いているが、停止判断の閾値以下)で、車両停止の判断がなされた場合には、クリアランスを詰めたことにより生じた制動力によって、運転者は減速度(振動)を感じ、これも違和感の原因となる。
以上に示したような状況は、例えば、車庫入れのような車速が遅く、細かな操作を必要とする状況において見られ、頻発した場合には大きな違和感となる。
【0052】
以上に示した状況においても、本実施形態の電動ブレーキ装置DBを用いれば、不要なクリアランスの変更は行われず、違和感の発生を抑制することができる。またブレーキ操作手段27が操作されない限りクリアランス量が待機位置等から零に詰められることはない。クリアランス量が無駄に調整されることがないことにより、不要な引きずりトルクを低減でき、電費が悪化することを抑制することが可能となる。
【0053】
また押圧指令部18と目標クリアランス決定部17を独立して設けることで、条件判断の分岐や優先度の判断を簡略化することができる。ブレーキ操作手段27を操作した際には、直ちにクリアランス量は詰められ、ブレーキ操作手段27の操作量に応じて押圧を発生する。このときクリアランス量は常に零であり、その他の車両状況が影響を与える余地がない。よって、ブレーキ操作手段27を操作した際の制御は、押圧指令部18として独立させ、処理を単純化させることができる。
【0054】
また目標クリアランスを決定する処理においても、ブレーキ操作手段27の入力を条件判断に加える必要がなく判断を単純化でき、押圧指令の生成よりも、計算周期が遅くてもよい等から、目標クリアランス決定部17を独立させることの効果がある。計算周期が遅くてもよい理由は条件が揃ったときだけ処理をすれば良いことや、人間が遅れを察知できない程度の速度で処理を行えば良く、常に処理を行う必要がある押圧指令部よりも遅くても良いからである。
【0055】
ここまで目標クリアランスにおいて、接触以外の状態として、待機位置と表してきた。しかし、クリアランスを開けているが引き摺りが生じるクリアランス量や、引き摺りを生じないほど大きなクリアランス量など、いくつかの段階が考えられる。
クリアランス量が小さいほど、その状態から接触する位置まで移動するときの騒音は小さく、ブレーキ時の初期応答は良好になる傾向がある。逆にクリアランス量が大きいほど、接触する位置まで移動するときの騒音は大きく、ブレーキ時の初期応答は悪化する傾向がある。そこで、本実施形態の制御装置の外部や、この制御装置に付加する形で、車両状況や操作状況に応じて、待機位置におけるクリアランス量を変更しても良い。
【0056】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。