特許第6545872号(P6545872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6545872オーステナイト鋼改質管などの健全性および残りのサービス寿命を決定するための方法および装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6545872
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】オーステナイト鋼改質管などの健全性および残りのサービス寿命を決定するための方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/72 20060101AFI20190705BHJP
【FI】
   G01N27/72
【請求項の数】20
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-132938(P2018-132938)
(22)【出願日】2018年7月13日
(62)【分割の表示】特願2015-545939(P2015-545939)の分割
【原出願日】2013年12月10日
(65)【公開番号】特開2018-189656(P2018-189656A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2018年8月10日
(31)【優先権主張番号】61/735,505
(32)【優先日】2012年12月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510215651
【氏名又は名称】アルセロルミタル・インベステイガシオン・イ・デサロジヨ・エセ・エレ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・マスレイド
(72)【発明者】
【氏名】ゾフィア・ニームキューラ
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ・ツビク
【審査官】 蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−206057(JP,A)
【文献】 米国特許第5180969(US,A)
【文献】 特開平5−26811(JP,A)
【文献】 特開2004−279055(JP,A)
【文献】 米国特許第6239593(US,B1)
【文献】 特開2010−204101(JP,A)
【文献】 特開昭61−201159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72−27/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オーステナイト鋼改質管を試験する方法であって、
試験される試料オーステナイト鋼改質管を提供するステップと、
前記オーステナイト鋼改質管上の1以上の試験位置を選択するステップと、
各々が異なる周波数FおよびFを有する2つの正弦波電磁信号を、前記オーステナイト鋼改質管上の試験位置の中に送信するステップと、
前記試験位置からの応答信号を受信するステップと、
前記試験位置における前記オーステナイト鋼改質管の状態を決定するために、前記受信した応答信号の基本周波数および相互変調周波数を解析するステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記試験位置からの応答信号を受信する前記ステップは、受信器コイルでアナログ応答信号を受信するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試験位置からの応答信号を受信する前記ステップは、アナログデジタル変換器を用いて前記アナログ応答信号をデジタル応答信号に変換するステップをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アナログデジタル変換器は、サンプリング周波数Fを有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
アナログデジタル変換器を用いて前記アナログ応答信号をデジタル応答信号に変換する前記ステップは、複数の標本を単一の代表標本に結合するステップを含み、前記単一の代表標本に結合される標本の数は、標本サイズSと呼ばれる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記標本サイズSは、2の整数乗である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記標本サイズSは、4096、8192および16384個の標本から成るグループから選択される数である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記サンプリング周波数Fは、44100標本/秒である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
2つの正弦波電磁信号を送信する前記ステップは、ベース周波数Fを定義するステップを含み、ここでF=F/Sである、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
2つの正弦波電磁信号を送信する前記ステップは、前記2つの周波数F1およびF2を、
=N×F
=P×F
となるように、選択するステップをさらに含み、
ここでNおよびPは整数であって、NはPに等しくなく、
小さいゼロでない整数(正または負)値であるQおよびRについて、前記相互変調周波数F(Q,R)=Q×F+R×FのいずれもFまたはFの整数倍に等しくならないように、NおよびPは選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
2つの正弦波電磁信号を送信する前記ステップは、前記信号の両方を単一の送信器コイルから送信するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
2つの正弦波電磁信号を送信する前記ステップは、前記信号の各々を個々の送信器コイルから送信するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記送信器コイルは、試験される試料改質管の厚さより大きい直径を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
2つの正弦波電磁信号を送信する前記ステップは、少なくとも1つのデジタルアナログ信号発生器を用いて、アナログ正弦波電磁信号を生成するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記2つの正弦波電磁信号は、2つの信号発生器によって生成される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記受信した応答信号の基本周波数および相互変調周波数を解析する前記ステップは、前記受信した応答信号の1次基本周波数および3次相互変調周波数を解析するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記基本周波数はFであり、前記3次相互変調周波数は2F+FおよびF+2Fである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記3次相互変調周波数を解析する前記ステップは、前記3次相互変調周波数の振幅を、前記基本周波数の振幅に対するデシベルdBに変換するステップを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
デシベルdBに変換された前記3次相互変調周波数の強度は、新品のオーステナイト鋼改質管およびサービス寿命終了時のオーステナイト鋼改質管の同じ測定値と比較され、前記比較は、前記オーステナイト鋼改質管の健全性の定性的尺度を提供する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
以下の公式により、前記オーステナイト鋼改質管の現在のサービス寿命の分数として、前記オーステナイト鋼改質管の残りのサービス寿命を推定するさらなるステップを含み、
残りのサービス寿命の分数は、L=|S−S|/|S−S|であり、
推定される残りのサービス寿命は、T=(L/(1−L))×Tであり、
ここで、Lは、推定される残りの寿命の百分率であり、
は、サービス寿命終了時のオーステナイト鋼改質管のデシベルdBに変換された3次相互変調周波数の信号強度であり、
は、現在の試験用試料のデシベルdBに変換された3次相互変調周波数の信号強度であり、
は、プローブの下に管が存在しない場合の3次相互変調周波数の信号強度、または、数時間動作温度まで加熱された新しい管の3次相互変調周波数の信号強度であって、いずれかがより高く、
は、前記試験用試料の推定される残りのサービス寿命であり、
は、前記試験用試料の現在のサービス寿命である、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2012年12月10日に出願された米国仮出願第61/735,505号の米国特許法第119条(e)に基づく利益を主張する。
【0002】
本発明は、一般に、非破壊試験方法およびこのための装置に関する。より具体的には、本発明は、オーステナイト鋼改質管などの非破壊試験(NDT)方法および装置に関する。最も具体的には、本発明は、他の任意の利用可能なNDT方法が検出することができる前に、合金の微細構造の劣化を早期に検出するための電磁的方法および装置に関し、これによって、運用中のオーステナイト鋼改質管の健全性および残りのサービス寿命を推定する。
【背景技術】
【0003】
オーステナイト鋼改質管は、多くの化学工程で用いられる。例としては、アンモニア、メタノール、水素、硝酸、硫酸、および石油の分解を生成するために用いられる管が挙げられる。改質管は、触媒管とも呼ばれるが、資本およびメンテナンスの両方において、このようなプラントで最も高いコストの構成要素の1つである。典型的な設備は、数百の垂直な管から成る。これらの管は、交換には著しいコストがかかり、予期せぬ故障が発生した場合には、プラント不稼働の主要な原因となるおそれがある。
【0004】
このような管は、通常、高温、温度勾配、圧力変化および腐食性物質との接触にさらされる。このような状況の下では、クリープ、金属ダスティングおよび表面不規則性がしばしば発生する。クリープは、徐々に進む拡散に関連する過程である。この徴候は、改質装置のオペレータによって気づかれない。クリープは、融合して最終的にクリープ割れ目(亀裂)を形成する微視的空隙を形成する。未処置のままにしておくと、クリープは亀裂に発達して、運用中に管の破局的故障をもたらす。
【0005】
プラントのオペレータは、管の寿命および管故障のリスクに対して生産ニーズのバランスをとることに直面する。プラントの稼働中には、触媒が満たされた管は、改質反応を可能にするために、外部から加熱される。プラントの稼働における主要な懸念の1つは、改質管が非常に高い温度(1150から1200℃まで)で稼働し、上述した「クリープ」のような故障のメカニズムに影響されやすいということである。この条件は、高温および内部圧力による応力、温度勾配および機械的負荷サイクルにより存在する。初期の段階でこのような損傷を識別し位置を決めることが可能であることは、プラントの稼働を最適化して、管の有効なサービス寿命を延長するために本質的である。
【0006】
非導電性基板に含まれる非線形導電性材料を見いだすために、相互変調測定に基づく既知の非破壊試験(NDT)方法が用いられる。導電性基板に含まれる非線形磁性材料を取扱うためには、異なる方法が必要である。オーステナイト鋼のための既存のNDT方法は、レーザー形状測定、表面亀裂のための渦電流試験および表面下の亀裂のための超音波試験に基づく。これらの方法は有益であるが、材料の寿命の初期における変化についてはほとんど何も語らない。さらに、既存の方法は、材料の初期条件についての知識を必要とし、表面条件の変化による誤差が生じやすい。
【0007】
現在改質管に適用されている従来のNDT検査技術は、内部亀裂の形でクリープ破損を見いだすように適合されている。しかし、管の直径がより大きくなり、ターンアラウンド間の間隔がより長くなる傾向に伴って、このような欠陥の検出は、管の交換の将来計画ための十分な時間を可能にすることができない。また、このような「寿命末期」技術は、「良好な」管と「不良な」管との間のいかなる区別もすることができない。活用されていない管の寿命の早期発見は、これらを過度に冷却することによる実現されていない生産と良好な管が早期に放棄される場合の管寿命「放棄」の両方についての機会が失われることを防止することができる。
【0008】
通常は、残っている絶対寿命を決定するために、改質装置から取り外した少数の管について、破壊試験が用いられる。どのような方法が用いられても、結果は統計学的に有効でない標本サイズに用いられる。全ての管を、NDT技術を用いて検査し、これらの相対的な条件を特性評価することが好ましい。
【0009】
改質管は、これらが焼かれる最初の日から、縦方向および/または直径方向の成長の形で、クリープ歪みを受ける。このような管のクリープ伸びを測定することは、今日の日常的な使用で最も普及している劣化検出方法であるが、しかし、この方法はサービス管劣化のモニタリングのためには非常に不正確である。これは、局所的な縦方向の成長、管の全長にわたって平均される全体の成長を測定するための既知の方法がないからである。
【0010】
直径方向の成長を測定することは、より正確であるが、スケール効果によって、管のサービス寿命の初期では不正確な測定をまねくおそれがある。即ち、周囲の成長の正確な測定は、直径の拡張を模倣する管の表面上の腐食層(スケール)の成長および崩れによって、難しくなる。直径方向の成長を測定することは、管を登る機器を必要とする。
【0011】
管の劣化を正確に測定し記録する能力は、管の条件が初日にモニターすることができることを意味する。従って、適切な時に個々の管の運用をやめることができるだけでなく、改質装置全体として、性能を評価することができる。
【0012】
解決するべき問題の範囲について着想を得るためには、現在、ArcelorMittalが約2,500本の改質管を用いる8つの改質装置を有している点に留意すべきである。管は非常に高価であって、それぞれ30,000ドル以上し、加えて触媒コストが設備費と共に管のコストの2倍になる。改質装置は、冷温停止に挟まれた期間に、2年から5年まで連続的に動作する。
【0013】
予定された冷温停止の間に管の現在の状態を評価し、2から5年の動作期間の間に任意の管の壊損を防止するために不良な管を除去するための方法が必要である。このような故障は、結果として改質装置の早期停止、ならびに多くの時間の損失および多額の損金をまねくおそれがある。
【0014】
さらに、改質装置の運転条件が改質装置領域ごとに一貫していない場合があるので、改質装置の性能を全体として評価するためのツールが必要である。特定の改質装置領域において管の劣化の増加がより急速である場合には、これは、改質装置の運転条件のバランスが良好に保たれていないことを示している。より良好なバランスを保つための改質装置の微調整は、生産性を向上させ、さもなければこの領域においてより急速に劣化するであろう管を保存する。運転条件によって管の微細構造で生じる変化は不可逆的なので、目的は、管のより速い劣化を防止するくらい早期に改質装置の動作異常を検出することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、改質管の検査のための自動化された方法および装置に対するニーズがある。管を保存する時間がまだある時に改質装置の調整を可能にするために、この方法は、非破壊で、管合金のきわめて初期の変化を検出することが可能でなければならない。さらに、この方法および装置は、管を交換する決定を助けるために、推定された「管の寿命のリマインダー」を提供することが可能でなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、オーステナイト鋼改質管の劣化の程度を測定/試験するための方法および装置を含む。本方法は、常磁性の管合金が劣化するにつれて、初期の段階では、極めて小さく、他のいかなる利用可能な方法によっても検出不可能である強磁性領域が生じるという、冶金学的現象を利用する。本発明の発明者は、合金の磁気的特性と耐熱性Cr−Ni合金管の寿命との間に良好な相関を見いだした。本方法および装置の設計は、合金の磁気特性、構造変態および耐熱性Cr−Ni合金管のサービス寿命の間に見いだされた相関を利用する。本方法および装置は、高温サービス環境によって生じる管の熱損傷を測定するために、この相関を利用する。
【0017】
本方法は、試験される試料オーステナイト鋼改質管を提供するステップと、オーステナイト鋼改質管上の1以上の試験位置を選択するステップと、各々が異なる周波数FおよびFを有する2つの正弦波電磁信号を、オーステナイト鋼改質管上の試験位置の中に送信するステップと、試験位置からの応答信号を受信するステップと、試験位置におけるオーステナイト鋼改質管の状態を決定するために、受信した応答信号の基本周波数および相互変調周波数の振幅を解析するステップと、を含む。
【0018】
試験位置からの応答信号を受信するステップは、受信器コイルでアナログ応答信号を受信するステップを含んでもよい。試験位置からの応答信号を受信するステップは、アナログデジタル変換器を用いてアナログ応答信号をデジタル応答信号に変換するステップをさらに含んでもよい。アナログデジタル変換器は、サンプリング周波数Fを有してもよい。アナログデジタル変換器を用いてアナログ応答信号をデジタル応答信号に変換するステップは、複数の標本を単一の代表標本に結合するステップを含んでもよく、単一の代表標本に結合される標本の数は、標本サイズSと呼ばれてもよい。標本サイズSsは、2の整数乗であってもよい。標本サイズSは、4096、8192および16384個の標本から成るグループから選択される数であってもよい。サンプリング周波数Fは、44100標本/秒であってもよい。
【0019】
2つの正弦波電磁信号を送信するステップは、ベース周波数Fを定義するステップを含んでもよく、ここでF=F/Sである。2つの正弦波電磁信号を送信するステップは、2つの周波数F1およびF2を、F=N×F、F=P×F、となるように、選択するステップをさらに含んでもよく、ここでNおよびPは整数であって、NはPに等しくなく、小さいゼロでない整数(正または負)値であるQおよびRについて、相互変調周波数F(Q,R)=Q×F+R×FのいずれもFまたはFの整数倍に等しくならないように、NおよびPは選択される。
【0020】
2つの正弦波電磁信号を送信するステップは、両方の信号を単一の送信器コイルから送信するステップを含んでもよく、または、信号の各々を個々の送信器コイルから送信するステップを含んでもよい。送信器コイルは、試験される試料改質管の厚さより大きい直径を有してもよい。2つの正弦波電磁信号を送信するステップは、少なくとも1つのデジタルアナログ信号発生器を用いて、アナログ正弦波電磁信号を生成するステップを含んでもよい。また2つの正弦波電磁信号は、2つの信号発生器によって生成されてもよい。
【0021】
受信した応答信号の基本周波数および相互変調周波数を解析するステップは、受信した応答信号の1次基本周波数および3次相互変調周波数を解析するステップを含んでもよい。基本周波数は、Fであってもよい。3次相互変調周波数は2F+FおよびF+2Fであってもよい。3次相互変調周波数を解析するステップは、基本周波数の振幅に対する3次相互変調周波数の振幅の比をデシベルdBに変換するステップを含んでもよい。
【0022】
デシベルdBに変換された3次相互変調周波数の強度は、新品のオーステナイト鋼改質管およびサービス寿命が終了したオーステナイト鋼改質管の同じ測定値と比較されてもよく、この比較は、オーステナイト鋼改質管の健全性の定性的尺度を提供してもよい。本方法は、以下の公式により、オーステナイト鋼改質管の現在のサービス寿命の分数として、オーステナイト鋼改質管の残りのサービス寿命を推定するさらなるステップを含んでもよく、
残りのサービス寿命の分数は、L=|S−S|/|S−S|であり、
推定される残りのサービス寿命は、T=(L/(1−L))×Tであり、
ここで、Lは、推定される残りの寿命の百分率であり、
は、サービス寿命終了時のオーステナイト鋼改質管のデシベルdBに変換された3次相互変調周波数の信号強度であり、
は、現在の試験用試料のデシベルdBに変換された3次相互変調周波数の信号強度であり、
は、プローブの下に管が存在しない場合の3次相互変調周波数の信号強度、または、数時間動作温度まで加熱された新しい管の3次相互変調周波数の信号強度であって、いずれかがより高く、
は、試験用試料の推定される残りのサービス寿命であり、
は、試験用試料の現在のサービス寿命である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の方法で用いることができる本発明のプローブ測定システムの模式的な図である。
図2a】新品の改質管について、管に沿った距離に対する相互変調周波数信号(dBに変換)の2次元(2D)プロット図である。
図2b】5年間使用した管について、管に沿った距離に対する相互変調周波数信号(dBに変換)の2次元(2D)プロット図である。
図3】改質装置内で異なる期間使用された後の同じ組成の様々な改質管の長さに沿った、dBcに変換された相互変調周波数信号のプロット図である。
図4a】改質装置の冷却器部分で5年間使用されていた使用済改質管試料(タイプ28%Cr、48%Ni)の断面光学顕微鏡写真である。
図4b】改質装置の冷却器部分で5年間使用されていた使用済改質管試料(タイプ28%Cr、48%Ni)の断面光学顕微鏡写真である。
図5a】同様に5年間使用されていたが、炉のより熱い領域にさらされていた使用済改質管試料(タイプ28%Cr、48%Ni)の断面光学顕微鏡写真である。
図5b】同様に5年間使用されていたが、炉のより熱い領域にさらされていた使用済改質管試料(タイプ28%Cr、48%Ni)の断面光学顕微鏡写真である。
図6a】同様に5年間使用されていたが、炉の最も熱い領域にさらされていた使用済改質管試料(タイプ28%Cr、48%Ni)の断面光学顕微鏡写真である。
図6b】同様に5年間使用されていたが、炉の最も熱い領域にさらされていた使用済改質管試料(タイプ28%Cr、48%Ni)の断面光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、改質装置で使用される鋼管ならびに他の高温用途で使用される他の管およびパイプの健全性を試験するための測定/試験方法および装置に関する。発明者は、使用期間中に常磁性合金に生じる強磁性を測定するために、電磁相互変調技術を用いる。強磁性信号は、最初は小さいが、使用期間および熱環境の過酷さと共に増加する。従来の渦電流NDT方法は、この非常に低いレベルの劣化を検出することができない。強磁性は、劣化の初期の段階において、カーバイドの周りおよび粒界に沿って、管壁のサブスケールCr−空乏領域に発生し、常磁性材料の全体にわたって強磁性チャネルの離散的ネットワークを生成すると考えられている。
【0025】
伝導性媒体(即ち鋼改質管)に信号相互変調技術を適用するために、基板全体にわたって素早く浸透するために特別な低周波信号を用いることが必要である。表面効果を無視して、基板全体にわたって合理的に均一な感度を提供するように、磁界の構成を選択しなければならない。十分な感度を達成するために、信号処理技術が用いられる。さらに、これらの材料の劣化および故障は局所的現象なので、好ましくはできるだけ速やかに、全ての基板をスキャンできることが必要である。
【0026】
一般的に、本方法は、異なる周波数の一対の電磁信号を試験される材料の中に送信するために本発明のプローブを用いることから成る。更に、プローブは一対の信号に対する材料の応答を記録し、この応答は材料の物理的状態を決定するために用いられる。
【0027】
本発明をより完全に理解するために、プローブおよび試験基準/技術について説明する。この後で、高温環境にさらされた鋼管の健全性および予測される有効寿命予想を決定するプローブおよび技術の使用の詳細について説明する。
【0028】
プローブ
図1は、本発明のプローブ測定システムの模式的な図である。図1には、試験される材料1も示す。ここではD/A1およびD/A2として示す2つの正弦波電流発生器2は、2つの送信器コイル3を通して試料1に複合的な変化する磁界を駆動するために用いられる。この例示的な実施形態は、回路設計を単純化するために2つの送信器回路を示しているが、プローブは1つだけの送信器回路を用いて設計することができる。送信器コイル3の中心の下の磁界が事実上均一になるように、送信器コイル3は試料1の厚さより大きい直径を有することが望ましい。送信器コイル3は、同軸に配置される。受信器コイル4は、2つの送信器コイル3内の事実上均一な磁界のこの領域に配置される。受信器コイル4に誘起される電圧は、検出されて、試験されている試料1に関する情報を決定するために用いられる。望ましくは、受信器コイル4に誘起された電圧をマイクロプロセッサ7に送信されるデジタルサンプルに変換するために、アナログデジタル(A/D)変換器5が用いられる。プローブの電子回路の全ては、共通クロック6を用いる。
【0029】
プローブについての上記の説明は、2つの送信器コイル3および2つの正弦波電流発生器2を含んでいるが、これは所望の測定を達成するように動作する唯一の構成ではない。例えば、2つの信号を生成するために、単一の送信器コイル3および単一の発生器2を用いてもよい。これは、構築するのに最も安価なプローブである。発生器2は、非常に低いIMD(相互変調歪み)値を有しなければならないので、ずっと高価である。別の構成では、プローブは、単一のコイル3および2つの発生器2を有してもよい。この実施形態は、2つの発生器2があるので、おそらく単一コイル/発生器の実施形態を構築するより高価であるし、終段増幅器は信号を結合することが可能でなければならない。
【0030】
さらに別の実施形態では、プローブは、2つのコイル3および単一の発生器2を有してもよい。この実施形態は、単一コイル/発生器より高価であるが、2つのコイル3は柔軟性を付加する。2つのコイル3が「プッシュプル」モードで用いられる場合には、終段増幅器は構築するのにより容易であろう。2つのコイル3および2つの発生器2を含む上記の実施形態は、低いIMD成分を用いないで構築することができる唯一の高感度構成である。この実施形態の変形例では、コイルは、浮遊磁界を相殺または強化することができる並置DC電流成分を運ぶ。
【0031】
最後に、4つのコイル3および2つの発生器2を含む実施形態がある。コイルは構築するのが非常に困難であろうが、2つの発生器および増幅器は、両方ともプッシュプルモードで動作することができるので、より簡素である。第2のプローブが用いられる場合は、2つのプローブのコイルは直列に接続され、第2の信号の検知は第2のプローブでは反転する。これは相互インダクタンス効果を相殺して、送信信号をかなり改善する。これは、利用可能な技術による最も高い可能性のある感度を提供する。
【0032】
プローブの一般的使用
プローブの特定の構成に関係なく、2つの正弦波信号が生成されて、試験される試料の中に送信される。2つの信号を用いる理由について、ここで説明する。送信信号によって受信器コイルに電圧が誘起され、試験されている試料によって誘起されるいかなる小さい変化も、送信信号の電力と比較して、区別がつかない。従って、送信信号には存在しない幾つかの他の周波数の電力を測定することが必要になる。試験用試料はおそらく送信信号の高調波も生成し(即ち、xが送信信号の周波数である場合に、高調波は2x、3x、4xなどである。)、これは受信器コイルによって受信される。このように、試料によって生成された高調波信号を読み取ることによって、試験されている試料についての有益な情報を提供することができる。残念なことに、信号発生器はおそらく送信信号の高調波も生成し、さらに、試料によって生成された信号はおそらく送信された高調波と比較して小さい(即ちノイズ)。最後に、2つの信号が試料の中に送信されると、試験されている試料の何らかの非線形の電気的または磁気的特性によって、2つの送信信号の相互変調積が生じ、これもまた受信器コイルによって受信される。相互変調積周波数は、2つ以上の周波数の加算および減算の組み合わせである。例えば、2つの周波数FおよびFでは、幾つかの相互変調積周波数は、F+F、F−F、2F+F、2F−F、2F+2Fなどである。
【0033】
実世界の使用では、送信器の周波数FおよびF、A/D変換器のサンプリング周波数F、ならびに標本サイズSは、以下の要件を満たすように選択される。標本サイズSは、2の整数乗である(例えば、4096または8192または16384など)。Fは、標本/秒を単位とするA/D変換器のサンプリング周波数である。ベース周波数は、F=F/Sで定義される。F=N×F、F=P×Fであって、ここでNおよびPは整数であって、NはPに等しくない。また、小さいゼロでない整数(正または負)値であるQおよびRについて、相互変調周波数F(Q,R)=Q×F+R×FのいずれもFまたはFの整数倍に等しくならないように、NおよびPは選択される。
【0034】
試料の何らかの非線形の電気的または磁気的特性は、周波数F(Q,R)において相互変調積を生成する。送信器装置はこれらの周波数F(Q,R)を生成しないので、F(Q,R)成分の振幅は非線形材料の特性の絶対的な測定である。F(Q,R)=(Q×N+R×P)×F=M×F(Mは整数)とすると、F(Q,R)成分の振幅は、A/D変換器によって得られた試料測定値の集合について、高速フーリエ変換または有限インパルスフィルタ応答を用いて容易に取得される。
【0035】
プローブおよび試験方法の特定の使用例
本発明者は、本発明のプローブおよび試験方法が、水素改質装置で用いられるオーステナイト合金改質管の劣化の状態を決定するのに非常に役立つことを見いだした。これらのオーステナイト合金の劣化が強磁性特性の出現と関係する点に注目し、このことから、本発明者は、劣化の量を測定することができれば、残りのサービス寿命を予測できるかもしれないと判断した。
【0036】
測定
説明したプローブおよび方法は、水素改質装置の改質管に用いられるタイプの耐クリープ性オーステナイト合金の健全性を測定するために用いられる。これらの合金の耐クリープ性の発生および劣化と相関し得る特定の強磁性微小ゾーンの全磁気モーメントおよび密度を、プローブが測定すると考えられる。上で開示したように、本方法は、わずかに異なる周波数の2つの正弦波励磁磁界を合金に印加する。これらの励磁磁界により生じる磁束、ならびに合金内の誘起された磁気モーメントによる磁束がサンプリングされ、処理され、解析される。測定は、管の長さおよび外周に沿って間隔を置いて行われる。これは、管の健全性の2dおよび3dのマッピングを可能にする。
【0037】
解析
個々の試験場所で受信器コイルによって受信された総磁束から、この基本周波数信号および相互変調周波数信号が分離される。これらの相互変調周波数信号は、特定の試験位置における管のオーステナイト合金の健全性を解析するための有益な情報を提供する。特に興味があるのは、3次相互変調周波数である。相互変調周波数の電力レベルは、基本周波数電力に対するデシベル(dB)に変換され、管の長さおよび/または外周に沿った位置に対して2Dまたは3Dグラフにプロットされる。百分率と同様に、デシベルは、この場合には20×LOG(V測定/V基準)であり、常に2つの数の比でなければならない。この比は受信器の特性から独立しており、送信器の特性にあまりに影響されないので、基本周波数の振幅との比較は最も有益である。
【0038】
図2aおよび図2bは、それぞれ、新品の改質管(残留デルタフェライト含有物がない。)および5年間使用した管について、管に沿った距離に対する相互変調周波数信号(dBに変換)の2次元(2D)プロット図である。図2aから分かるように、残留のない「新しい」改質管は、既存のプローブではノイズフロアより低い3次相互変調周波数応答を有し、従って、プローブ自体からの相関のない電気的雑音しか見ることができない。プローブシステムの電気的雑音しか記録されないので、信号強度(dBに変換)は−95dBから−115dBの間で任意の値へ急激に跳ぶ。全体として、新しい管は、平均して100dB未満の非常に低い相互変調応答信号を有し、これが損傷を受けていない管の品質保証になることが分かる。
【0039】
図2aとは対照的に、図2bは、図2aの管と全く同じ材料から形成されているが、水素改質装置で5年間使用された管の相互変調応答信号を示す。見て分かるように、水素改質装置炉の極端な環境における使用は、相互変調周波数の信号応答を変化させた。信号は、未使用の管に対して著しく増加している。管のまさしく最上部が炉のシーリングに埋め込まれて、フランジに取り付けられている点に留意する必要がある。これは連続冷却効果を提供し、これによって、最上部の端部が炉の完全な熱影響にさらされる管部分と同程度に急速に劣化するのを防止する。見て分かるように、炉環境にさらされる管の上部の応答信号は実質的に増加し、約−40dBでピークに達する。これは、管がこの領域において著しく劣化しており、改質装置のホットスポット(おそらく隣接する管の水素漏れ)を指し示すことができることを示している。管の下半分は、上半分と異なる合金で形成されている。改質管は、実際に、互いに溶接された2つの管で形成される。上部管は28Cr/48Ni/Feタイプの耐熱鋳造合金で形成されているが、下部管は25Cr/35Ni/Feタイプの耐熱鋳造合金で形成されている。下半分は、熱環境に対して上半分と異なる反応を有する。管の下半分は比較的均一に劣化し、この応答信号は管のこの部分は少なくとも合理的な長さの寿命が残っていることを示す。最後に、管の最上部と同様に、管の底部は炉のフロアに埋め込まれており、従って炉の熱影響から著しく保護されている。
【0040】
このように、相互変調応答信号の解析は、5年経過した管の下半分は均一に老朽化しているが、一方、上半分は管の最上部を早期に老朽化させている「ホットスポット」を含み得る様々な炉環境にさらされていることを示す。この早期の老朽化は、この領域で管の故障を引き起こす(即ち、水素漏れまたは破裂および落下さえも引き起こす。)おそれがあり、この近傍の他の管に損傷を与える場合がある。このように、全体の長さに沿った管の状態についての知識によって、オペレータは必要に応じて個々の管を交換することができ、さらに、重要なことに、交換を必要とする点まで劣化していない古い管を使い続けることができる。
【0041】
管の予想される残りのサービス寿命を決定するために、異なる年数の複数の管(即ち、新しい管、様々な時間に改質装置で使用された管、および故障した管)から相互変調応答信号の測定値が得られた。図3は、改質装置内で異なる期間使用された後の同じ組成の様々な改質管の長さに沿った、dBcに変換された相互変調周波数信号のプロット図である。見て分かるように、管がより長い期間使用されたほど、管の相互変調周波数の信号強度はより強くなる。一旦このデータが収集されると、現行の年数の分数としての残りのサービス寿命は、サービス寿命中に時間間隔をおいて類似の管で得られた測定値と比較することにより、決定することができる。
【0042】
現在のサービス寿命の分数としての改質管の残りのサービス寿命および実際の残りのサービス寿命は、以下の公式によって推定することができる:
残りの%寿命は、L=|S−S|/|S−S|であり、
推定される残りのサービス寿命は、T=(L/(1−L))×Tである。
【0043】
ここで、Lは、推定される残りの寿命の分数であり、Sは、サービス寿命終了時のオーステナイト鋼改質管のデシベルdBに変換された3次相互変調周波数の信号強度であり、Sは、現在の試験用試料のデシベルdBに変換された3次相互変調周波数の信号強度であり、Sは、プローブの下に改質管が存在しない場合の3次相互変調周波数の信号強度、または、数時間動作温度まで加熱された新しい改質管の3次相互変調周波数の信号強度であって、いずれかがより高く、Tは、試験用試料の推定される残りのサービス寿命であり、Tは、試験用試料の現在のサービス寿命である。
【0044】
の最良の値は、管を試験するために用いるプローブの開放空気較正点、即ち、管が存在しない場合の3次信号強度である。この値は、これまでに試験されたプローブおよび増幅器の組み合わせについては、一般的に−90から−109dBcの範囲である。Sの実際の値が−120から−130dBcであると考えられる理由があるが、試験デバイスの開放空気較正点の下で意味のある測定を行うことができない。次に良い値は、数時間動作温度にもたらされた管から得られる。これは、新しい鋳造したままの管が時には鋳造工程から残されるデルタフェライトの不安定な形を含むことがあり得るからである。この残留物は、加熱によって消滅する。この残留物が管全体の寿命に及ぼす影響は不明であるが、上述した方程式には用いることができない。鋳造したままの管では初期IMDがない場合があったが、しかしこれは例外であって、規則ではない。
【0045】
例として、試験される管のデシベルdBに変換された現在の3次相互変調周波数信号強度が−50dBであり、試験される管と同じタイプ(合金組成、処理など)の新しい管のデシベルdBは−100dBであり、サービス寿命終了時の管のデシベルdBは−40dBであると仮定する。分数の残りのサービス寿命Lは、|−40−(−50)|/|−40−(−100)|=10/60=1/6となる。試験用試料の現在のサービス寿命Tが85ヵ月であるとさらに仮定する。そうすると、試験用試料の推定される残りのサービス寿命は、T=(1/6/(1−1/6))×85ヵ月=17ヵ月となる。
【0046】
現在の試験方法および方程式は重大な損傷のある管には機能しないということを、本発明者が学んだという点に留意する必要がある。この損傷のある管では、IMD値は低下し始めるが、重大な損傷のある管のF1の振幅は・・・、IMD値は低下し始めるが、受信器におけるF2成分の振幅は増加する。この効果は、−40dBcのIMD値で目立つようになり、F2がF2の最大値の半分に達するまでには、IMD値は−35dBcに達する。この点を超えると、F2が最大値へ続くにつれてIMDは低下し始める。この場合には、これから−35dBcを超える合成IMD値を予測することができ、合成IMD値が0に達するまでには、管は全体にわたって亀裂が入る。
【0047】
クローラを介したプローブの展開/使用
プローブが試験される試料の長さおよび幅または外周を横断することを可能にする輸送装置に、1以上のプローブを取り付けることができる。輸送装置は、水平な試料を横断するか、または垂直な試料を登り降りする能力を有するクローラの形をとることができる。また、クローラ上のプローブの数に応じて、クローラは、試料の外周上の異なる点にプローブを再配置するために試料の周りに円周方向に回転する能力を有することができる。望ましくは、測定された相互変調周波数信号を試料の特定の場所と関連付けることができるように、クローラは試料の寸法に対するプローブの位置を測定するための手段を含む。
【0048】
クローラは、信号発生器、A/D変換器およびD/A変換器などのプローブをサポートする電子回路を運ぶこともできる。受信した相互変調周波数信号は、後で読み出せるように、専用記憶媒体などクローラ内に記録することができる。代わりに、分離した記憶装置に信号を送信(有線または無線による転送)することができる。相互変調周波数の信号処理電子回路は、クローラ内にあってもよいが、望ましくはない。
【0049】
冶金学的試験
理論に束縛されることを望まないが、本発明者は、本発明の方法およびプローブを適用する場合に生成される測定/結果の背後にある、以下の冶金学的説明を提示する。
【0050】
本方法およびプローブは、鉄ニッケルクロム炭素合金管の劣化を検出するために誘導磁化を用いる。初期の材料は強磁性ではなく、クロムを喪失しており、カーバイドの増加は微細構造を変化させ、高い透磁率を有する強磁性領域を生じさせる。鉄ニッケルクロム合金が鋳造したままの母材に沈殿するカーバイドから耐クリープ性を得ること、および時間および温度と共に追加のカーバイドが沈殿し拡大することが知られている。クロムおよび鉄がこれらのカーバイド中に移動するにつれて、カーバイドの近くまたはこれを囲んで、ニッケルでは強化され、クロムでは減少するゾーンが生じることが発見された。結果として生じる強磁性構造は、弱い励磁磁界によって容易に飽和される。クリープが生じると、クロムは合金内で生じる亀裂に対しても失われて、亀裂に近い母材内で薄い強磁性シートを形成するようにニッケルおよび鉄を残す。再び、これらの構造は、本発明のプローブの弱い励磁磁界によって容易に飽和される。これらの誘起された磁気モーメントは、構造のサイズおよび密度に関連し得る元の2つの正弦波励磁磁界の高調波および相互変調積を含む。
【0051】
図4aおよび図4bは、改質装置の冷却器部分で5年間使用されていた使用済改質管合金試料(タイプ28%Cr、48%Ni)の断面光学顕微鏡写真である。試料は、管の内径(ID)の表面下の領域から得られた。ID表面は、顕微鏡写真の右下隅にある。試料は、金属組織学的に研磨されているが、エッチングはされていない。図4aでは、試料の研磨面は強磁性流体の薄い層で覆われているが、磁界は印加されていない。強磁性流体は、磁界がある場合には、強く磁化する液体である。強磁性流体は、キャリア流体(通常は有機溶剤または水)内に懸濁されたナノスケールの強磁性またはフェリ磁性粒子で作られるコロイド液体である。各微小粒子は、凝集しないように、界面活性剤で完全に覆われている。
【0052】
図4bは、磁界を印加した後の(図4aと)同じ試料を示す。強磁性流体がカーバイド周辺の磁気領域に、および粒界に移動することが分かる。図4aおよび図4b(即ち磁界を印加する前後)の長円形内の領域を比較すると、一旦粒界が強磁性流体を引きつけると、円内に明らかに見える粒界があることが分かる。
【0053】
この試料では、磁気領域がカーバイドの周囲の狭い領域(表面スケールの下)、および粒界に限定されている点に留意する必要がある。しかし、炉のより熱い領域では、または、管が使用されている時間の長さが増加するにつれて、カーバイドの周囲の(表面スケールの下の)領域および粒界は成長する。図5aおよび図5bは、同様に5年間使用されていたが、炉のより熱い領域にさらされていた使用済改質管試料(タイプ28%Cr、48%Ni)の断面光学顕微鏡写真である。再び、試料は、金属組織学的に研磨されたが、エッチングはされていない。図5aでは、試料の研磨面は前のように強磁性流体の薄い層で覆われているが、磁界は印加されていない。図5bは、磁界を印加した後の(図5aと)同じ試料を示す。強磁性流体が磁気領域に移動することが、再び分かる。しかし、今度は、磁気領域が図4aおよび図4bより厚く(白い矢で示す。)、より豊富に成長していることが分かる。これは、より熱い領域では合金がより急速に劣化するためであると考えられ、この急速な劣化はCrのカーバイドへの移動、カーバイドのCr酸化物への変化、最終的にCr酸化物の幾つかの種の揮発によって、Crの少ない拡張する領域が残ることによって生じると考えられる。このように、相互変調信号は、鋼のサービス寿命を通じて増加する。
【0054】
最後に、図6aおよび図6bは、同様に5年間使用されていたが、炉の最も熱い領域にさらされていた使用済改質管試料(タイプ28%Cr、48%Ni)の断面光学顕微鏡写真である。再び、試料は、金属組織学的に研磨されたが、エッチングはされていない。図6aでは、試料の研磨面は前のように強磁性流体の薄い層で覆われているが、磁界は印加されていない。図6bは、磁界を印加した後の(図6aと)同じ試料を示す。強磁性流体がカーバイドおよび他の含有物から外に移動して、合金母材表面の上に特徴的な迷路のようなパターンを形成することがここで分かる。粒界および表面下の磁性材料は、もはや見ることができず、母材全体が磁気を帯びるようになったことを示している。この点で、励磁磁界は母材を飽和させるほど十分強くないので、相互変調信号は消滅し始める。同時に、磁性母材は送信器コイルと受信器コイルとを互いに結合させるトランスのコアのような働きをするので、この領域を受信器におけるF2信号の振幅の増加として検出することができる。
【0055】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明し、開示した。記載した実施形態に対する変形例および適応例は、当業者にとって明らかであろう。これらの変更およびこの他は、特許請求の範囲における本発明の範囲または要旨から逸脱することなく、行うことができる。
図1
図2a
図2b
図3
図4a
図4b
図5a
図5b
図6a
図6b