特許第6545958号(P6545958)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6545958
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】アシネトバクター・バウマニの新規標的
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/07 20060101AFI20190705BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20190705BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20190705BHJP
   C07K 14/22 20060101ALI20190705BHJP
   C07K 16/12 20060101ALI20190705BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20190705BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20190705BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20190705BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20190705BHJP
   C12N 15/00 20060101ALI20190705BHJP
   C12N 15/06 20060101ALI20190705BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20190705BHJP
【FI】
   A61K39/07
   A61K39/395 N
   A61P31/04
   C07K14/22
   C07K16/12
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12N15/00
   C12N15/06
   C12P21/08
【請求項の数】13
【全頁数】50
(21)【出願番号】特願2014-543800(P2014-543800)
(86)(22)【出願日】2012年11月29日
(65)【公表番号】特表2015-501809(P2015-501809A)
(43)【公表日】2015年1月19日
(86)【国際出願番号】EP2012004939
(87)【国際公開番号】WO2013079207
(87)【国際公開日】20130606
【審査請求日】2015年10月14日
【審判番号】不服2017-11672(P2017-11672/J1)
【審判請求日】2017年8月4日
(31)【優先権主張番号】11191320.8
(32)【優先日】2011年11月30日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514135487
【氏名又は名称】アリディス ファーマシューティカルズ インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100164563
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 貴英
(72)【発明者】
【氏名】ジーモン ユルビラー
(72)【発明者】
【氏名】マルクス ハーケ
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ルドルフ
【合議体】
【審判長】 關 政立
【審判官】 冨永 みどり
【審判官】 大久保 元浩
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第6562958(US,A)
【文献】 Biochemical Pharmacology,2007年,Vol.74,p.86−97
【文献】 Vaccine,2011年,Vol.29,p.5705−5710,Available Online:2011.06.14
【文献】 Vaccine,2011年,Vol.29,p.1−5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K39
CAPLUS,MEDLINE, BIOSIS, EMBASE(STN)
UniProt
GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表わされる核酸配列を有するポリヌクレオチドによってコードされる少なくとも1つのポリペプチドを含む、免疫原性組成物であって、
記ポリペプチドがアシネトバクター属に由来
アシネトバクターに対する免疫応答を生じさせるために使用される、
前記免疫原性組成物。
【請求項2】
前記ポリヌクレオチドがゲノムDNAである、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項3】
前記ポリペプチドがアシネトバクター・バウマニ種に由来する、請求項1または2に記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
医薬上許容される担体および/または助剤をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
発現ベクターであって、配列番号2で表わされるアミノ酸配列からなる抗原性ポリペプチドをコードする核酸分子を含む、前記発現ベクター。
【請求項6】
請求項5のベクターおよび/または核酸分子を含む宿主細胞。
【請求項7】
請求項5のポリペプチドに特異的に結合する抗体またはその抗原結合性断片であって、アシネトバクター・バウマニに対するエフェクタ機能を誘導することのできる、前記抗体またはその抗原結合性断片。
【請求項8】
ヒトB細胞から、または前記ヒトB細胞を骨髄腫細胞または異種骨髄腫細胞と融合させることによって得られるハイブリドーマから産生される、請求項7に記載の抗体。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の抗体の軽鎖と重鎖をコードする核酸。
【請求項10】
請求項9の核酸を含むベクター。
【請求項11】
請求項10のベクターおよび/または請求項9の核酸を含む宿主細胞。
【請求項12】
哺乳動物における細菌感染の治療および/または予防における使用のための、請求項7又は8に記載の抗体。
【請求項13】
前記感染がアシネトバクター・バウマニによって起こる、請求項12に記載の抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病原体(例えばアシネトバクター(Acinetobacter))に感染している間に発現する抗原性ポリペプチドと、そのポリペプチドを含む組成物に関する。本発明はさらに、そのポリペプチドを用いた細菌感染の治療または予防または検出、特に抗原性ポリペプチドを用いたワクチン接種にも関する。本発明はさらに、その抗原性ポリペプチドに対する抗体にも関する。
【背景技術】
【0002】
アシネトバクター種は自然界に広く分布している。アシネトバクター属は約20の種に分けられる。アシネトバクターは、グラム陰性、オキシダーゼ陰性、不動性、硝酸塩陰性、非発酵性の細菌である。
【0003】
アシネトバクター・バウマニ (Acinetobacter baumannii)は、この属の中で最も頻繁に単離される種であり、病院環境のさまざまな表面(湿潤な表面と乾燥した表面の両方)で生き延びることができる。A.バウマニは、最近になってようやく院内感染病原体として認識された。侵襲性の技術(例えば手術)と肺換気が免疫無防備状態の患者と組み合わさることにより、院内感染病原体としてのアシネトバクター属の重要性が増している。
【0004】
院内感染と市中感染の両方の頻度が過去何年にもわたって着実に増加している。それに加え、これらの感染の治療は、(多)剤耐性株の出現が原因でより困難になっている。
【0005】
アシネトバクター感染は、通常は、有気細菌感染の症状に、感染した組織に由来する体液の細菌培養物を組み合わせて診断される。培養した細菌はその後、試験管内で同定される。さまざまな遺伝子型判定法が開発されており、この属の多様性または系統を調べるのに利用される。その方法として、AFLPを用いた高解像度フィンガープリンティング、PCRで増幅した配列の消化を伴うPCR-RFLP、さまざまなDNA配列の分析などがある。
【0006】
細菌の医学史における最も重要な開発の1つは、多彩な病原体から予防保護するためのワクチンの開発である。不活性化した病原体または減弱させた病原体によって多くのワクチンが製造されていて、それが個人に注射されている。免疫化された個人は、体液性(抗体)応答と細胞性(細胞溶解性T細胞および/またはヘルパーT細胞および/または調節T細胞など)応答の両方を生じさせて応答する。
【0007】
しかしある種の疾患では、ワクチンで減弱させた病原体の使用は、疾患の原因と減弱の性質に関する知識が欠けているために問題である。不活性化させた病原体または減弱させた病原体の使用に代わる1つの方法は、免疫系が特に敏感な病原体のエピトープの同定である。この点に関し、感染中に病原体によって産生される多くの病原性毒素が、個人を特定の病原体から保護するワクチンの開発において特に有用である。
【0008】
いわゆるサブユニット・ワクチンは、病原性粒子(例えばウイルスの全体または一部)を導入することなく免疫系に抗原を提示する。そのようなサブユニット・ワクチンの大半は、宿主で抗原を組み換え発現させ、宿主から精製し、ワクチン組成物を調製することによって製造される。
【0009】
一般に、アシネトバクター種は、健康な人にとっては非病原性であると考えられている。アシネトバクター種が臨床において重要であることが最近認識されたことで、これら疾患の病因に関与する細菌と宿主のさまざまな要素の理解に興味が持たれるようになっている。相互作用に関する知識が感染制御において重要な役割を果たす。アシネトバクター感染は、通常は、体液の濃度が大きい臓器系(例えば呼吸管、CSF(脳脊髄液)、腹膜液、尿管)に関係していて、院内感染性肺炎、連続携行式腹膜灌流(CAPD)に付随する感染症、カテーテル関連細菌尿症となって現われる。
【0010】
Pantophletらは、アシネトバクター単離体を同定するため、アシネトバクターのリポ多糖(LPS)のO抗原とそれに対応する抗体を記載している(Pantophlet R.他、Clinical and Diagnostic Laboratory Immunology、第9巻、60〜65ページ(2002年))。
【0011】
Tomaraszらは、ポリシストロン性csuAB遺伝子クラスターを同定し、それが、繊毛の産生および組み立てと、例えば病院と医用装置の表面におけるその後のバイオフィルムの形成において重要であることを示した(Tomarasz A.Z.他、Microbiology、第154巻、3398〜3409ページ(2008年))。
【0012】
米国特許第6,562,958号には、A.バウマニに関係する約4000種類の核酸配列とアミノ酸配列が開示されているが、その大半は機能が同定されていない。米国特許第6,713,062号には、ガストリン遺伝子とIL-8遺伝子の発現を促進することのできるOmpAタンパク質とOmpA様タンパク質が開示されている。
【0013】
しかし今日までいかなるワクチンも開発されなかった。アシネトバクター感染に対して表面に曝露・分泌されるタンパク質に基づくワクチンは、実現可能な標的が利用できないためにこれまで開発されていない。
【0014】
したがってアシネトバクター感染、好ましくはA.バウマニ感染の間に発現し、ワクチン開発に適していて、診断用、予防用、治療用の抗体の産生を実現できる抗原性ポリペプチドが、医学で大いに必要とされている。
【0015】
さまざまな病原体から可能性のある抗原性ポリペプチドを同定する多数の方法が開発されてきたが、それらの方法は、そのようなポリペプチドがワクチン組成物で免疫原性標的として適していることを証明するための一般的なツールとはならない。
【0016】
したがって本発明の裏にある技術的問題は、ワクチン組成物で使用される臨床で優勢なA.バウマニの標的を提供すること、および/または診断、予防、治療に有用な抗体を作製することである。
【0017】
この技術的問題は、抗原性ポリペプチドをコードする核酸と、その抗原性ポリペプチドと結合する抗体または抗体結合性断片を用意することによって解決される。
【発明の概要】
【0018】
本発明により、ワクチン組成物として、
a)配列番号1、3、5、7、9、11、13および15のいずれか1つで表わされる核酸配列を有するポリヌクレオチド;
b)(a)のポリヌクレオチドによってコードされたポリペプチドの断片、類似体、機能性誘導体をコードするポリヌクレオチド、ここで前記断片、類似体または機能性誘導体は免疫刺激活性を有する;
c)配列番号2、4、6、8、10、12、14および16のいずれか1つで表わされるアミノ酸配列と少なくとも80%一致するアミノ酸配列を有し、且つ免疫刺激活性を有するポリヌクレオチド;
d)(a)のポリヌクレオチドと少なくとも80%一致し、且つ免疫刺激活性を有するポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド;
e)ストリンジェント条件下で(a)〜(d)のいずれか1つのポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチド;
f)(a)〜(d)のいずれか1つのポリヌクレオチドの全長と相補的なポリヌクレオチド
からなるグループの中から選択したポリヌクレオチドを含む核酸分子によってコードされる少なくとも1つのポリペプチドを含むワクチン組成物が提供される。
【0019】
核酸分子はゲノムDNAであることが好ましい。
【0020】
本発明の一実施態様では、ポリペプチドはアシネトバクター属に由来し、好ましいのは、そのポリペプチドがアシネトバクター・バウマニ種に由来することである。
【0021】
本発明の別の一実施態様では、ワクチン組成物は、医薬上許容される担体および/または助剤をさらに含んでいる。
【0022】
別の一実施態様では、本発明により、配列番号2、4、6、8、10、12、14および16のいずれか1つで表わされるアミノ酸配列からなる抗原性ポリペプチド;または免疫刺激活性を有するその断片、類似体、機能性誘導体が提供される。
【0023】
さらに別の実施態様では、本発明により、本発明の抗原性ポリペプチドをコードする核酸分子と、その核酸分子を含む発現ベクターと、本発明のそのベクターおよび/またはその核酸分子を含む宿主細胞が提供される。
【0024】
さらに別の一実施態様では、本発明により、本発明の抗原性ポリペプチドと特異的に結合してアシネトバクター・バウマニに対するエフェクタ機能を誘導することが可能な抗体またはその抗体結合性断片が提供される。本発明によって提供される抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であり、好ましいのはヒト抗体であることである。この抗体は、N末端および/または内部および/またはC末端が、例えばオリゴマー化や、薬および/または標識への共役によって修飾されていてもよい。
【0025】
本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、アシネトバクター・バウマニに対するエフェクタ機能を誘導できることが好ましい。本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合性断片は、配列番号36に示したエピトープ・コンセンサス・モチーフPVDFTVAIに特異的に結合することが非常に好ましい。
【0026】
本発明のモノクローナル抗体は、ヒトB細胞から、またはそのヒトB細胞を骨髄腫細胞または異種骨髄腫細胞と融合させることによって得たハイブリドーマから産生されることが好ましい。したがって本発明により、本発明のモノクローナル抗体を産生させることのできるハイブリドーマが提供される。本発明によりさらに、本発明の抗体の軽鎖と重鎖をコードする核酸と、その核酸を含むベクターと、そのベクターおよび/または核酸を含む宿主細胞が提供される。
【0027】
さらに別の一実施態様では、本発明により、本発明のモノクローナル抗体を産生させる方法として、本明細書に記載したハイブリドーマを、抗体を分泌させることが可能な条件下で培養し、必要に応じて培養物の上清から抗体を精製する操作を含む方法が提供される。
【0028】
さらに別の一実施態様では、本発明により、本発明の抗原性ポリペプチドまたは抗体と、医薬上許容される担体とを含む医薬組成物が提供される。さらに別の一実施態様では、本発明により、患者の細菌感染を検出するため、本発明の抗原性ポリペプチドまたは抗体を含む診断用組成物が提供される。本発明の抗体は、哺乳動物、好ましくはヒトにおける細菌感染の治療および/または予防および/または検出に使用される。
【0029】
さらに別の一実施態様では、本発明により、哺乳動物における細菌感染の治療および/または予防に使用するポリペプチドとして、
a)配列番号1、3、5、7、9、11、13および15のいずれか1つで表わされる核酸配列を有するポリヌクレオチド;
b)(a)のポリヌクレオチドによってコードされたポリペプチドの断片、類似体または機能性誘導体をコードするポリヌクレオチド、ここで前記断片、類似体または機能性誘導体は免疫刺激活性を有する;
c)配列番号2、4、6、8、10、12、14および16のいずれか1つで表わされるアミノ酸配列と少なくとも80%一致するアミノ酸配列を有し、且つ免疫刺激活性を有するポリヌクレオチド;
d)(a)のポリヌクレオチドと少なくとも80%一致し、且つ免疫刺激活性を有するポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド;
e)ストリンジェント条件下で(a)〜(d)のいずれか1つのポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチド;
f)(a)〜(d)のいずれか1つのポリヌクレオチドの全長と相補的なポリヌクレオチド
からなるグループの中から選択したポリヌクレオチドを含む核酸分子によってコードされるポリペプチドが提供される。
【0030】
哺乳動物はヒトであることが好ましい。本発明のさらに別の一実施態様では、治療および/または予防および/または検出すべき細菌感染は、アシネトバクター・バウマニによって起こり、その細菌感染は院内感染の可能性がある。本発明で使用するための抗原性ポリペプチド組成物は、送達用ビヒクルをさらに含むことができ、それはウイロソームであることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】回復期のA.バウマニ患者(左)と、ランダムに選択した正常な血液ドナーからの血清中のIgG力価を示す。 回復期のA.バウマニ患者(左)と、ランダムに選択した正常な血液ドナーからのさまざまな濃度の血清を用いて本発明の抗原性ポリペプチドを組み換え発現させ、精製し、ELISAによって試験した。チャート内の数字は、試験した血清で、凡例に異なる色で示した希釈度の抗原性ポリペプチド(A〜H)と反応したものの数を表わしている。 力価は、抗原特異的ELISA信号を対応するブランクの信号の2倍の強さで発生させる最大血清希釈度と定義される。試験した患者の血清の大半は、本発明によって同定された標的に対する抗体を含んでいる。すべての抗原について、個々の患者の血清を極めて大きな抗体力価(≧1/6400)で同定することができた。これは、これらの抗原がヒトにおいて免疫原性であり、感染の間に発現することを示している。このことは、新たに同定されたこれら標的をワクチンの開発と予防用/治療用抗体の生成に利用できることを強く示唆している。 A:配列番号2に対応するHis-AB023;B:配列番号4に対応するHis-AB024;C:配列番号6に対応するHis-AB025;D:配列番号8に対応するHis-AB030;E:配列番号10に対応するHis-AB031L1;F:配列番号12に対応するHis-FimA;G:配列番号14に対応するHis-CsuAB;H:配列番号16に対応するHis-OmpA。
図2】ウサギ血清からのELISAを示している。 組み換えヒスチジン・タグ付き抗原性ポリペプチドを用いてウサギを免疫化した。異なる抗原性ポリペプチドで個別に覆ったELISAプレート上で、最終出血と免疫前血清をELISAによって試験した。それに加え、対照試薬で覆ったプレート上で、最終出血をELISAによって試験した。A〜Gではヒスチジン・タグ付きOmpAが対照として機能し、HではHis-CsuABが対照として機能した。各グラフは、主な免疫応答が標的によって起こり、対照にも存在するヒスチジン・タグによっては起こらないことを示している。同等な結果が、免疫化したウサギのデュープリケートのセットで得られた。使用した免疫血清と免疫前血清の希釈度は以下の通りであった:A:α-His-AB023(1:6400);B:α-His-AB024(1:6400);C:α-His-AB025(1:6400);D:α-His-AB030(1:25600);E:α-His-AB031L1(1:12800);F:α-His-FimA(1:400);G:α-His-CsuAB(1:3200);H:α-His-OmpA(1:6400)。
図3】イムノブロット分析を示している。 ウサギ抗血清の特異性を試験した。さまざまなA.バウマニ(AB)株からの細胞ライセートと、陰性対照としての緑膿菌(PA)株からの細胞ライセートをそれぞれ調製し、SDS-PAGEでタンパク質を分離し、ニトロセルロースにブロットした。さまざまなポリペプチド(免疫血清)と免疫前血清に対するウサギ血清を1:1000の希釈度で使用した(実験の詳細は実施例6に示す)。 細菌ライセート:1:AB:ATCC19606野生型;2:AB:ATCC19606 OmpA K.O;3:AB:ATCC19606;CsuE K.O;4:PA O11;5:AB:AB-N;6:AB:Luh8168;7:AB:Ruh134;8:AB:SAN; 免疫血清:A:α-His-AB023;B:α-His-AB024;C:α-His-AB025;D:α-His-CsuAB;E:α-His-OmpA;F:α-His-AB030;G:α-His-FimA;H:α-His-AB031L1。
図4】別のイムノブロット分析を示している。 培養物の上清の中でポリペプチドFimAに対して特異的なウサギ抗血清の特異性を試験した。図4は、A.バウマニ(AB非ムコイド)株、緑膿菌(PA O11)株、大腸菌(DH5α)株の代表的なイムノブロットを示している。 一晩経過した細菌培養物を遠心分離し、上清に含まれるタンパク質を沈殿させた。α-His-FimAウサギ抗血清を用い、培養物の体積を同じにした細胞ペレット(P)と沈殿した上清(SN)で、FimAの存在をイムノブロット分析によって調べた。合計で29個のA.バウマニ株について上清内と細菌ペレット内のFimAの存在をイムノブロットで分析した。細胞ペレットでは45%が検出可能な量を含んでいたのに対し、SNでは55%が検出可能な量を含んでいた。 AB:A.バウマニ株AB-NM(非ムコイド);PA:緑膿菌O11;EC:大腸菌DH5α。
図5】別のイムノブロット分析を示している。 選択したヒト血清の特異性をイムノブロット分析によって調べた。組み換えタンパク質をSDS-PAGEで分離し、ニトロセルロースにブロットした。さまざまな患者の血清(A〜F)を、1:500に希釈したさまざまなポリペプチド(1〜7)に対して使用した(実験の詳細は実施例6に記載)。ヒスチジン-タグに向かう抗体のアーチファクトを除外するため、対応する患者の血清によって認識されない陰性対照としてのヒスチジン-タグ付きタンパク質が各イムノブロットに含まれるようにした組み換え抗原の組み合わせを選択した。 組み換えタンパク質:1 - His-AB023;2 - His-AB024;3 - His-AB025;4 - His-AB030;5 - His-FimA;6 - His-CsuAB;7 - His-OmpA;8 - AB031-L1(AB031 L1に関してはイムノブロット上でヒト血清がまだ同定されていない)。
図6】FACS分析を示している。 図Aは、1:200に希釈した患者の血清を用いたA.バウマニ株ATCC19606野生型、OmpA KO(OmpA-)、CsuE KO(CsuE-)のFACS分析を示している。前方散乱と側方散乱を利用して細菌集団をゲートし、20,000個の細菌を測定した; 図Bは、患者の血清と装置の設定を図Aと同じにして実施したA.バウマニ株ATCC19606野生型(wt)のFACS分析を示している。患者の血清は、阻害剤としての組み換えOmpAなし(S)で、またはあり(S+rOmpA)で使用した; 図Cは、A.バウマニ株ATCC19606野生型(1)と、陰性対照としてのOmpA KO(2)と、CsuE KO(3)のイムノブロット分析を示している。ブロットのポンソー染色によって細胞ライセートの装填量が同じであることを確認する。ATCC19606野生型とCsuE KOの細胞ライセートに含まれるOmpAのタンパク質バンドが、ポンソー染色によって同様に明らかである。
図7】別のFACS分析に関する。 図Aは、αCsuABウサギ免疫血清(IS)または対応する免疫前血清(PIS)を用いて間接的に蛍光標識したA.バウマニ株ATCC19606株(wt)とCsuE-KO(CsuE-)のFACS分析を示している。二次抗体として、FITCで標識したヤギ抗ウサギIgGを使用した。ゲートした細菌から、蛍光信号の強度をイベント数に対してプロットしたヒストグラムを作成した。前方散乱と側方散乱を利用して細菌の集団をゲートし、50,000個の細菌を測定した。 図Bは、さまざまなA.バウマニ株(ATCC19606、CsuE KO、Luh9415、Ruh134、Ruh875)のFACS分析を示している。グラフは、αCsuABウサギ免疫血清(IS)または対応する免疫前血清(PIS)を用いて間接的に蛍光標識した細菌の割合を示している。FL1-H信号の強度が20よりも大きい場合に細菌を陽性であると見なした。
図8】凝集アッセイと免疫蛍光分析の結果を示している。 図Aは、αCsuABウサギ免疫血清またはナイーブ・ウサギ血清から精製した合計で1.5mg/mlのウサギIgGを用いたときに生きているA.バウマニ(ATCC19606株)の凝集を示している。 図Bは、A.バウマニ(ATCC19606株とCsuE KO株)の免疫蛍光分析を示している。10%のFCSを含む細胞培地(IMDM)内のガラス・スライド上で細菌を24時間増殖させた。細菌にDAPIで標識して細菌DNAの位置を特定し(上の写真)、αCsuABウサギ免疫血清(IS)または対応する免疫前血清(PIS)を用い、FITCで標識した二次抗体で間接的に蛍光標識した(下の写真)。
図9】殺菌アッセイとイムノブロット分析を示している。 図A図Bは、殺菌アッセイを示している。グラフは、ウサギCsuAB免疫血清(灰色の棒)またはナイーブ・ウサギ血清(黒い棒)から精製したIgGとともにインキュベートした後のコロニー形成単位(cfu)の数を示している。 Aは、抗体(0.5μg/ウエル)とともに37℃で20分間インキュベートした対数増殖しているA.バウマニATCC19606とCsuE KO(CsuE-)に関する。補体供給源として子ウサギ血清(BRS)を添加し、2時間インキュベートした。最終的にLBA上でプレーティングすることによってcfuを定量化した。 Bは、抗体(5μg/ウエル)とともに37℃で20分間インキュベートした対数増殖しているA.バウマニRuh134に関する。補体供給源として子ウサギ血清(BRS)を、または対照として熱で不活性化したBRS(HBRS)を添加し、以前に好中球に変換させたHL-60細胞(+HL60)を補足した、または補足しなかった。この混合物をさらに2時間インキュベートした。最終的にLBA上でプレーティングすることによってcfuを定量化した。 AとB:誤差棒は、3つの独立したウエルの標準偏差を示している;スチューデントのT検定(等分散、両側)は、統計的有意差が以下のもので0.05未満であることを示している: CsuE-/αCsuABと比較したATCC19606/αCsuAB;ATCC19606/ナイーブIgGと比較したATCC19606/αCsuAB;Ruh134+HBRS+HL60/αCsuABと比較したRuh134+BRS+HL60/αCsuAB;Ruh134+BRS+HL60/ナイーブIgGと比較したRuh134+BRS+HL60/αCsuAB;Ruh134+HBRS/αCsuABと比較したRuh134+BRS/αCsuAB;Ruh134+BRS/ナイーブIgGと比較したRuh134+BRS/αCsuAB。 図Cは、A.バウマニATCC19606株の野生型とCsuE KOのイムノブロット分析を示している。
図10】FimAプルダウン・アッセイの結果を示している。FimAウサギ免疫血清(1)からの全IgG(10μg)でプロテインAビーズ(床の体積が20μl)を覆い、その全IgGを使用して、FimAをSNの中に分泌することが知られているLuh9415株のA.バウマニ培養物の上清(0.4ml)からナイーブFimAを捕獲した。ナイーブ・ウサギ血清(2)からの同量の全IgGを陰性対照として使用した。10分間沸騰させることにより、捕獲された全タンパク質をSDS-PAGEサンプル緩衝液の中に放出させると、7%がSDS-PAGEによって分離された。1:1000の希釈度にしたαFimA免疫血清を用いたイムノブロット分析によりナイーブFimAを可視化した。
図11】CsuABウサギ免疫血清を用いた受動免疫化を示している。 好中球が減少したマウスに、0.15mlの免疫血清(実線)、またはナイーブな動物からの同体積の血清(点線)を腹腔内注射した後、A.バウマニを感染させた。マウスの生存状況を4〜5日間記録した。A.バウマニ株のビルレンスは、株と実施日ごとに異なっていた。実験BとCは並行して実施したのに対し、Aに示す実験は別の日に実施した。 図AはAB-M株を示している(1群に10匹);図BはAB-M株を示している(1群に14匹);図CはAYE株を示している(1群に14〜15匹)。
図12-1】能動免疫化実験を示している。免疫化の後にA.バウマニで誘導した肺炎モデルに関するモデルでの死亡率。マウスに抗原(実線A〜F:A:AB025 - 9匹、B:AB030 - 10匹、C:AB031L1 - 9匹、D:FimA - 9匹、E:CsuAB - 10匹、F:OmpA - 9匹)を接種した後、気道内にA.バウマニ(AB-M株)を接種することによって肺炎を誘発させた。対照として、一群のマウスに助剤だけを接種した(点線A〜G:10匹)。第2の対照群では、ワクチンまたは助剤の代わりにPBSを用いた(実線G;9匹)。試験したすべての抗原(A〜F)について、助剤対照群と比べてワクチン群で有利な効果が観察された。統計的に有意な効果がAB030で観察されたのに対し、他の抗原は統計的有意さの5%という閾値にわずかに届かなかった。この効果には2つの理由が寄与している可能性がある。第1に、動物の数が少ないこと、第2に、以前の実験と比べて対照群(G)で死亡率が低いことが挙げられる。能動的免疫化実験の動物は、受動免疫化実験で用いた動物よりもはるかに老いていたため、死亡率はより低くなる可能性が大きかった。これは、数週間という活性免疫化実験のプロトコルの期間が原因である。
図12-2】能動免疫化実験を示している。免疫化の後にA.バウマニで誘導した肺炎モデルに関するモデルでの死亡率。マウスに抗原(実線A〜F:A:AB025 - 9匹、B:AB030 - 10匹、C:AB031L1 - 9匹、D:FimA - 9匹、E:CsuAB - 10匹、F:OmpA - 9匹)を接種した後、気道内にA.バウマニ(AB-M株)を接種することによって肺炎を誘発させた。対照として、一群のマウスに助剤だけを接種した(点線A〜G:10匹)。第2の対照群では、ワクチンまたは助剤の代わりにPBSを用いた(実線G;9匹)。試験したすべての抗原(A〜F)について、助剤対照群と比べてワクチン群で有利な効果が観察された。統計的に有意な効果がAB030で観察されたのに対し、他の抗原は統計的有意さの5%という閾値にわずかに届かなかった。この効果には2つの理由が寄与している可能性がある。第1に、動物の数が少ないこと、第2に、以前の実験と比べて対照群(G)で死亡率が低いことが挙げられる。能動的免疫化実験の動物は、受動免疫化実験で用いた動物よりもはるかに老いていたため、死亡率はより低くなる可能性が大きかった。これは、数週間という活性免疫化実験のプロトコルの期間が原因である。
図13】受動免疫化実験を示している。マウスにシクロホスホアミドを腹腔内注射して一次的に好中球が減少した状態にした3〜4日後にA.バウマニを接種した。0日目、A.バウマニを接種する3時間前にマウスの腹腔内に0.15mlのウサギ抗血清、またはナイーブ・ウサギ血清、またはPBSを受動的に接種した。能動的免疫化プロトコルと同様にして肺炎を誘発させた。生存率、臨床スコア、体重をモニタした。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明の詳細な説明
本発明により、ワクチン組成物として、
a)配列番号1、3、5、7、9、11、13および15のいずれか1つで表わされる核酸配列を有するポリヌクレオチド;
b)(a)のポリヌクレオチドによってコードされたポリペプチドの断片、類似体または機能性誘導体をコードするポリヌクレオチド、ここで前記断片、類似体または機能性誘導体は免疫刺激活性を有する;
c)配列番号2、4、6、8、10、12、14および16のいずれか1つで表わされるアミノ酸配列と少なくとも80%一致するアミノ酸配列を有し、且つ免疫刺激活性を有するポリヌクレオチド;
d)(a)のポリヌクレオチドと少なくとも80%一致し、且つ免疫刺激活性を有するポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド;
e)ストリンジェント条件下で(a)〜(d)のいずれか1つのポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチド;
f)(a)〜(d)のいずれか1つのポリヌクレオチドの全長と相補的なポリヌクレオチド
からなるグループの中から選択したポリヌクレオチドを含む核酸分子によってコードされる少なくとも1つのポリペプチドを含むワクチン組成物が提供される。
【0033】
本明細書で言及される本発明のポリペプチドを以下の表1にまとめる。
【0034】
【表1】
【0035】
本明細書では、“断片 (fragment)”という用語は、本明細書に記載したポリペプチドの断片のうちで免疫刺激活性を有するあらゆるものを意味する。断片は、最小長が少なくともアミノ酸4個、8個、15個、20個、30個、50個、100個である。断片は、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16のいずれか1つで表わされるタンパク質の全長に対して長さがアミノ酸6〜8個(最小長はアミノ酸4〜5個、最大長はアミノ酸15個)のエピトープを含むことが好ましい。
【0036】
“ポリペプチドの類似体 (analog of a polypeptide)”は、分子全体またはその断片と実質的に機能が同じ分子を意味する。
【0037】
ポリペプチドの“機能性誘導体 (functional derivative)”という用語は、構造が似ていて生物学的機能が同じポリペプチドを意味する。
【0038】
本明細書では、“免疫刺激活性 (immunostimulatory activity)”という用語は、抗原に対して初期免疫応答を誘導することを意味する。本明細書で定義した免疫刺激活性を有するポリペプチドは、アシネトバクターの感染に対する免疫応答を誘導できることが好ましく、最も好ましいのは、本発明のポリペプチドが、アシネトバクター・バウマニに対する免疫応答を誘導できることである。本明細書では、“免疫応答 (immune response)”という用語は、そのポリペプチドと反応する任意の体液に含まれる抗体の変化と、そのポリペプチドに対する細胞性応答(T細胞、先天免疫系の細胞)の変化と、炎症マーカー(例えばサイトカイン、ケモカインや、正常な免疫機能の変化を示す他の免疫マーカー)の変化を意味する。これら病原体に対する免疫応答は、ELISAやイムノブロットなどを用いてモニタした。
【0039】
本明細書では、関連するポリペプチドとポリヌクレオチドの“配列同一性(sequence identities)”は、公知の手続きによって求めることができる。関連するポリペプチドと、配列番号2、4、6、8、10、12、14、16のいずれか1つで表わされる抗原性ポリペプチドの配列同一性として、少なくとも75%、好ましくは80%または85%、最も好ましくは90%または95%の配列同一性が考えられる。原則として、特別な条件を考慮したアルゴリズムを備えるコンピュータ・プログラムが使用される。本発明の目的では、2つの配列の間の一致を求めるのに用いるコンピュータ・プログラムは、例えばAltschul S.らがNucl. Acid Res.、第25巻、3389〜3402ページ(1997年)に記載しているBLASTP(アミノ酸配列比較用)とBLASTN(ヌクレオチド配列比較用)である。BLASTプログラムは、国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI)や、その他の提供源(例えば『BLASTハンドブック』、Altschul S.他、NCB NLM NIH ベセスダ、メリーランド州 20894;Altschul S.他、J. Mol.、第215巻:403〜410ページ(1990年))から入手できる。本発明の目的では、デフォルトとして以下の設定にしたBLASTNアルゴリズムとBLASTPアルゴリズムを用いる。
【0040】
BLASTN:スコアリング・パラメータ:一致/不一致スコア1、-3;ギャップ・コスト:存在:5、延長:2;フィルタとマスキング:複雑性が低い領域を選択;選択された検索表だけマスクする;選択されなかった小文字をマスクする。
【0041】
BLASTP:スコアリング・パラメータ:マトリックス:BLOSUM62;ギャップ・コスト:存在:11、延長:1;構成調整:構成に基づく統計2;フィルタとマスキング:何も選択されない;プログラムのさらなるオプション;-G オープン・ギャップをあけるコスト[整数];デフォルト=ヌクレオチドでは5、タンパク質では11;-E ギャップを延長するコスト[整数];デフォルト=ヌクレオチドでは2、タンパク質では1;-q ヌクレオチド不一致に対する罰[整数];デフォルト=-3;-r ヌクレオチド一致に対する報酬[整数];デフォルト=1;-e 期待値[実数];デフォルト=10;-W ワードサイズ[整数];デフォルト=ヌクレオチドでは11、タンパク質では3;-y BLAST延長のためのビット単位のドロップオフ(X)(ゼロの場合にデフォルト);デフォルト=BLASTでは20、他のプログラムでは7;-X ギャップのあるアラインメントのためのXドロップオフ値(単位はビット);デフォルト=適用されないBLASTN 以外の全プログラムでは15;-Zギャップのあるアラインメントのための最終Xドロップオフ値(単位はビット);BLASTNでは50、他のプログラムでは25。
【0042】
配列を比較するため、完全なポリペプチド配列(それぞれ配列番号2または4、6、8、10、12、14および16)を、関連する配列を比較するための配列として用いる。具体的には、相同性が未知のあるポリペプチドと例えば本発明の配列番号2のポリペプチドの一致を求めるには、その第1のポリペプチドのアミノ酸配列を、配列番号2に示したポリペプチドのアミノ酸配列と、その配列番号2の全長にわたって比較する。同様に、相同性が未知のあるポリヌクレオチドと例えば本発明の配列番号1のポリヌクレオチドの一致を求めるには、その第1のポリヌクレオチドの核酸配列を、配列番号1に示したポリヌクレオチドの核酸配列と、その配列番号1の全長にわたって比較する。
【0043】
ハイブリダイゼーションのための標準的な“ストリンジェント条件”は、Ausubel他(編)『分子生物学の最新プロトコル』、John Wiley & Sons社(2000年)に開示されている。厳しいハイブリダイゼーション条件の例として、0.1×SSC/0.1%SDSを用いて68℃で15分間洗浄する操作がある。
【0044】
本発明により、ポリペプチドをコードする核酸分子がゲノムDNAである上記のワクチン組成物が提供される。
【0045】
本発明のポリペプチドをコードする核酸配列は、クローニングのための適切な制限部位を含むプライマを用いたPCRにより、A.バウマニ株のゲノムDNAから増幅することができる。
【0046】
本発明によれば、ワクチン組成物は、アシネトバクター属に由来する少なくとも1つのポリペプチドを含んでいる。
【0047】
ワクチン組成物は、アシネトバクター・バウマニ種に由来する少なくとも1つのポリペプチドを含んでいることがより好ましい。
【0048】
本明細書では、“アシネトバクター・バウマニ”または“A.バウマニ”という用語は、『アシネトバクターの分子生物学』(2008年、Ulrike Gerischer編、Caister Academic Press社)でアシネトバクター・バウマニとして分類されているものを意味する。その実例は、A.バウマニ株のSDF、AYE、ATCC 19606、ACICU、Ruh134、Ruh 875、AB-M、AB-NM、SANであり、その参考文献と供給源は表6に記載してある。分類法と株に関する参考文献と情報は、Pubmedのホームページ:
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomv/Browser/wwwtax.cgi?mode=Undef&id=470&lyl=3&keep=1&srchmode=1&unlock
で入手できる。
【0049】
A.バウマニは、さまざまなタイプの感染を引き起こし、その例として特に、肺炎、菌血症、皮膚と軟組織の感染が挙げられる。最近の数十年間にわたり、A.バウマニは、この生物によって起こる感染症の件数が世界的に増加していることが原因で臨床的に重要な病原体であることがわかってきた。この病原体によって起こる感染症は、機械式換気がなされている患者とやけどの患者で特に問題になっている。A.バウマニは、集中治療室と外傷/やけど室で感染症を急に発生させる可能性がある。それはおそらく、感染した個人またはコロニーを有する個人と汚染された病院設備から未感染の患者にこの生物が移ることによって起こるのであろう。
【0050】
以下の表2に示す結果から、本発明によって同定される標的が、これまでに試験されたあらゆるA.バウマニ臨床単離体を代表するものであることがわかる。SDF株だけが、臨床単離体ではなくてキモノジラミから単離された唯一のA.バウマニ株である。この株は、FimAとCsuABの遺伝子を欠いている。
【0051】
以下の表2は、さまざまなA.バウマニ株によってコードされているタンパク質のアミノ酸一致の割合を示している。A.バウマニのゲノムAB307によってコードされているアミノ酸配列は、本発明によって同定されたポリペプチド(配列番号2、4、6、8、10、12、14、16)に対応しており、そのアミノ酸配列を、配列がわかっている他の13種類のゲノムと比較した。抗原AB031の場合、細胞外ループL1だけを比較に使用した。
【0052】
【表2】
【0053】
さまざまなA.バウマニ株に含まれるタンパク質のアミノ酸がよく一致していることから、抗原性タンパク質の特異性が広いことがわかり、その大きな治療価値が確認される。これら遺伝子が非常に優勢であることは、この細菌のライフ・サイクルにおいてこのタンパク質が重要であり、おそらく不可欠であることを示している。したがってこのタンパク質は感染中に発現する可能性が大きい。保存率が大きいと、免疫応答を誘導する可能性、または臨床的に重要な大半のA.バウマニ株、それどころかおそらくすべてのA.バウマニ株と結合することが可能なポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を同定する可能性が大きくなる。それに加え、アミノ酸の保存率が大きいことは、これら遺伝子の突然変異が稀であることを示している。そのため治療中にレスキュー突然変異体が生じる可能性が小さくなる。
【0054】
本発明により、医薬上許容される担体および/または助剤をさらに含む上記のワクチン組成物が提供される。
【0055】
本明細書では、“助剤 (adjuvant)”という用語は、標的抗原とは異なる物質で、抗原応答を増加させることが可能なものを意味する。助剤の選択は、フロイントの助剤(完全と不完全)、ゲルブ (Gerbu)助剤(GERBU Biotechnik GmbH社、ドイツ国)、マイコバクテリア(例えばBCG、M.バカエ、コリネバクテリウム・パルブム)、コレラ毒素、破傷風トキソイド、大腸菌非耐熱性毒素、quil-サポニン混合物(例えばQS-21(SmithKline Beecham社)、MF59(Chiron社))、さまざまな油/水エマルジョン(例えばIDEC-AF)、MALP-2、ISCOMの中から行なうことができる。使用できる他の助剤として、無機塩または無機ゲル(例えば水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム);界面活性物質(例えばリゾレシチン、プルロニック・ポリオール、ポリアニオン、ペプチド、スカシガイのヘモシアニン、ジニトロフェノール);免疫刺激分子(例えばサポニン、ムラミルのジペプチド誘導体とトリペプチド誘導体);短鎖核酸(例えばCpGジヌクレオチド、CpGオリゴヌクレオチド、モノホスホリル脂質A、ポリホスファゼン);粒子状助剤と微粒子状助剤(例えばエマルジョン、リポソーム、ウイロソーム、ウイルス様粒子、免疫刺激複合助剤)などがあるが、これらに限定されない。サイトカインも、そのリンパ球刺激特性のために有用である。このような目的にとって有用な多くのサイトカインが当業者に知られており、例えばインターロイキン-2(IL-2)、IL-12、GM-CSFや、他の多くのものがある。さらに、ケモカイン・ファミリーからのリガンドである例えばRANTES、リポタンパク質、リポペプチド、酵母細胞壁成分、二本鎖ウイルスRNA、細菌細胞表面リポ多糖(LPS)、フラジェリン、Uリッチ一本鎖ウイルスRNA、サイトカインのシグナル伝達を抑制する小さな干渉RNA(SOCS siRNA)、Pan DRエピトープ(PADRE)と、これらの混合物が適している。
【0056】
“医薬上許容される担体 (pharmaceutically acceptable carrier)”の定義は、活性成分の生物活性の有効性を妨げることがなく、しかも投与される宿主に対して毒性がないあらゆる担体である。
【0057】
したがって本発明の1種類以上のポリペプチドまたはその断片、類似体、機能性誘導体を使用して、予防または治療を必要とする個人に投与するための予防用ワクチンまたは治療用ワクチンを調製することができる。主要活性成分として、または活性成分の1つとして本発明の1種類以上のポリペプチドを含むそのようなワクチンは、主要活性成分として、または活性成分の1つとして、局所投与、粘膜(鼻腔、口腔)投与、全身投与、非経口投与のための従来からある賦形剤に含まれたさまざまな治療用/予防用剤形として投与することができる。したがって本発明により、本発明のポリペプチドの溶液を、適切な担体(水性担体が好ましい)に溶かすか懸濁させた適切な助剤および/またはそれと同等な送達用ビヒクルと必要に応じて組み合わせて含む非経口投与用の組成物が提供される。多彩な水性担体(例えば水、緩衝水、0.4%生理食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸など)を使用できる。これらの組成物は従来からある周知の殺菌技術によって殺菌してもよいし、殺菌濾過してもよい。得られる水溶液は、そのまま使用できるように包装するか、凍結乾燥させる。凍結乾燥させた調製物は、投与する前に殺菌溶液と組み合わせる。組成物は、生理的条件に似せるため、必要に応じて医薬上許容される補助物質(例えばpH調節剤、緩衝剤、張性調節剤、湿潤剤など)を含んでいてもよい。それは例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、モノラウリン酸ソルビタン、オレイン酸トリエタノールアミンや、他の多くの物質である。非経口投与用化合物を調製する実際の方法は当業者には既知であるか明らかであり、例えば『レミントン:薬剤学の科学と実践』(“レミントンの医薬科学”)、Gennaro A.R.編、第20版、2000年:Williams & Wilkins社、ペンシルヴェニア州、米国により詳しく記載されている。
【0058】
投与経路と投与計画は、治療する疾患の段階または重症度に応じて異なり、熟練した医師によって決定される。例えば本発明のポリペプチドとそれを含む組成物を用い、皮下用形態、皮内用形態、局所用形態、粘膜用形態、筋肉内用形態で投与することが可能な医薬組成物を調製することができる。これらの形態はすべて、医薬分野の当業者には周知である。
【0059】
本発明の適切な製剤は単一用量で投与されることが好ましく、それを、毎日、または毎週、または毎月繰り返すことができる。
【0060】
この分野の免疫化プロトコル基準に従い、初期用量の後、ブースタ用量を続けることができる。本発明の組成物と方法の免疫刺激効果は、上記のポリペプチドのいずれか(それらの組み合わせも含む)を送達用ビヒクルおよび/または免疫応答強化化合物と組み合わせることによってさらに大きくできる。免疫応答強化化合物は、助剤またはサイトカインに分類される。助剤は、抗原のリザーバ(細胞外またはマクロファージ内)を提供してマクロファージを活性化させ、特定のリンパ球集団を刺激することによって免疫応答を強化することができる。
【0061】
本発明の各ポリペプチドは、タンパク質性または非タンパク質性の送達用ビヒクルと複合化させる(conjugated)ことができる。そのような複合化 (conjugation)の例は、Szaoo R.他(Biochem. Biophys. Acta、2010年12月;1798巻(12):2209〜2216ページ。電子出版、2010年7月24日)と「ハプテンの複合化」(LemusとKarol、Methods Mol. Med.、第138巻:167〜182ページ、2008年)に記載されている。送達用ビヒクルそのものが免疫効果を持つことが好ましい。それは、送達用ビヒクルそのものが免疫原性であることを意味する。
【0062】
送達用ビヒクルは、免疫原性ペプチド、免疫刺激核酸配列(GPCアイランドなど)、スカシガイのヘモシアニン(KLH)、破傷風トキソイド(TT)、コレラ毒素サブユニットB(CTB)、細菌または細菌ゴースト、リポソーム、キトソーム、ウイルソーム、マイクロスフェア、樹状細胞、ウイルス様粒子などからなる群から選択される。
【0063】
別の一実施態様では、本発明により、上記の送達用ビヒクルをさらに含むワクチン組成物が提供される。送達用ビヒクルはウイルソーム (virosome)であることが好ましい。
【0064】
本発明の抗原性ポリペプチド、またはその組成物または製剤は、上記の送達用ビヒクル(ウイルソームが好ましい)を通じて送達することができる。
【0065】
本発明の予防用または治療用の組成物は、医薬上許容される調製物の形態で投与される。このような調製物は、通常、医薬上許容される濃度の塩、緩衝剤、保存剤、適合性のある担体、補助的免疫強化剤(例えば助剤、サイトカイン)や、必要に応じて他の治療剤を含んでいてもよい。本発明の調製物は、有効量が投与される。有効量は、医薬調製物単独で、またはさらに別の用量と合わさって望む応答を促進する量である。一般に、免疫原の用量は、投与形態に応じ、体重1kgにつき0.01μg〜500μgである。好ましい範囲は、体重1kgにつき0.1μg〜10μgであると考えられている。絶対量はさまざまな因子に依存することになろう。それは例えば、投与のために選択する組成物、投与が一回用量でなされるか多数回用量でなされるか、個々の患者のパラメータ(年齢、身体の状態、身長、体重、疾患の段階など)である。これらの因子はこの分野の当業者には周知であり、知るのに定型的実験以上のものを必要としない。
【0066】
本発明の組成物を用いた投与計画は、さまざまな因子に従って選択される。それは例えば、人種、年齢、体重、患者の医学的状態、治療する疾患の段階と重症度、使用する具体的な化合物などである。通常の技能を有する医師は、感染性疾患の進行の阻止、処置、停止に必要なワクチンの有効量を容易に決定して処方することができる。毒性なしに、または許容範囲の毒性で効果をもたらす範囲の薬の濃度を最適な精度で実現するには、標的部位における薬の利用可能性のキネティクスに基づく計画が必要とされる。このプロセスでは、薬の分布、平衡、排泄が考慮されるが、それは熟練した医師の能力範囲である。
【0067】
本発明の利用では、本明細書に詳細に記載した化合物が活性成分を形成することができ、一般に、想定する剤形(すなわち経口錠剤、カプセル、エリキシル、シロップなど)に合わせて適切に選択されて、通常の薬学での実践と一致している適切な医薬用の希釈剤または賦形剤との混合物として投与される。活性ワクチン成分は、例えば錠剤またはカプセルの形態で投与するために、非毒性で医薬上許容される不活性な担体(例えばエタノール、グリセロール、水など)と組み合わせることができる。さらに、望む場合、または必要な場合には、適切な結合剤、潤滑剤、崩壊剤、着色剤も混合物に組み込むことができる。適切な結合剤として、デンプン、ゼラチン、天然糖(例えばグルコース、β-ラクトース)、トウモロコシ甘味剤、天然ゴムと人工ゴム(例えばアラビアゴム、トラガカントゴム、アルギン酸ナトリウム)、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックスなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらの剤形で使用される潤滑剤として、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。崩壊剤として、デンプン、メチルセルロース、寒天、ベントナイト、キサンタンゴムなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
非経口投与では、無菌の懸濁液と溶液が望ましい。静脈内投与が望ましいときには、適切な保存剤を一般に含む等張調製物が使用される。活性な薬成分を含む食道内調製物は、この分野で周知のさまざまな担体材料(例えばアルコール、アロエベラゲル、アラトイン、グリセリン、ビタミンAまたはビタミンEの油、鉱物油、PPG2プロピオン酸ミリスチルなど)と混合されて、粘膜塗布に特に適したクリーム製剤またはゲル製剤に含まれる例えばアルコール溶液、局所クリーナー、クレンジング・クリーム、ゲル、泡、ローションを形成することができる。
【0069】
本発明の抗原性ポリペプチド、またはその組成物または製剤は、薬の制御放出を実現するのに有用なあるクラスの生物分解性ポリマー(例えばポリ酢酸、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリヒドロキシブチル酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリヒドロピラン、ポリシアノアクリレート、ヒドロゲルの架橋したブロックコポリマー、ヒドロゲルの両親媒性ブロックコポリマー)とカップルさせることができる。
【0070】
本発明のポリペプチドを用いて感染性疾患(例えばA.バウマニによって起こる感染)を治療するための医薬組成物を調製する場合、望ましい応答は、系からの感染性ポリペプチドの感染および/またはクリアランスの制御である。予防の場合、望ましい応答は、そのようなポリペプチドに対する保護免疫であり、それは、抗原性ポリペプチドに曝露されたときの免疫応答によって測定される。これらの望ましい応答は、診断法(例えばELISA、イムノブロットなど)によってモニタすることができる(Raem A.M.、『イムノアッセイ』、2007年、P. Rauch(編)、Spektrum Akademischer Verlag, Elsevier Gmbh社)。
【0071】
本発明により、配列番号2、4、6、8、10、12、14および16のいずれか1つで表わされるアミノ酸配列からなる抗原性ポリペプチド、または免疫刺激活性を有するその断片、類似体、機能性誘導体が提供される。この抗原性ポリペプチド、その断片、類似体、機能性誘導体は、上により詳しく規定されている。
【0072】
配列番号2、4、6、8、10、12、14および16のいずれか1つで表わされるアミノ酸配列からなる抗原性ポリペプチド、または免疫刺激活性を有するその断片、類似体、機能性誘導体は、50個、45個、40個、35個、30個、25個、20個、15個、10個まで、好ましくは5個まで、より好ましくは3個までの追加のアミノ酸を含んでいてもよい。
【0073】
本明細書に記載するアミノ酸とアミノ酸残基は、当業者に周知の教科書(例えばStryer、『生化学』、第4版、Freeman and Co.社、ニューヨーク、1995年や、Creighton、『タンパク質』、第2版、Freeman and Co.社、ニューヨーク、1993年)に記載されていて受け入れられている1文字または3文字のコードに従って表記することができる。
【0074】
本明細書では、“ペプチド”と“ポリペプチド”という用語は同義語として使用し、その最も広い意味では、2個以上のアミノ酸残基またはアミノ酸類似体からなる分子を意味する。アミノ酸残基は、ペプチド結合または他の結合(例えばエステル結合、エーテル結合など)によって連結させることができる。本明細書では、“アミノ酸”または“アミノ酸残基”という用語は、天然のアミノ酸、および/または非天然のまたは合成したアミノ酸を意味し、その中にD鏡像異性体とL鏡像異性体の両方と、アミノ酸類似体が含まれる。
【0075】
細菌の表面タンパク質は、細菌壁とその環境の間で相互作用するときに基本的な役割を果たしている。表面タンパク質は宿主細胞への接着と侵入に関与しており、外部環境の化学的・物理的条件を感知し、適切な信号を細胞質に送り、宿主の応答と毒性に対する防御を作り上げる。したがって表面タンパク質は、細菌感染と細菌性疾患を防止するための薬の潜在的な標的である。さらに、表面タンパク質は宿主の免疫系と相互作用する可能性が大きいため、有効なワクチンの成分になる可能性がある。表面に現われているタンパク質と分泌されたタンパク質に基づくワクチンは、さまざまな感染性疾患に関してすでに市販されている。しかしアシネトバクター感染に対するワクチンは、利用できる標的が欠けていることが理由でまだ開発されていない。
【0076】
細菌表面タンパク質は生物学において重要であるにもかかわらず、その特徴はまだ完全にわかっていない。それは主に、タンパク質の組成と細菌表面のトポロジーを決めるのが難しいことによる。
【0077】
新たなワクチン候補と抗体の標的を明らかにするため、異なる3通りの方法を利用した。そのそれぞれは、ワクチン候補と抗体標的候補での具体的な必要性に合わせて選択した。
【0078】
第1の方法、“シェドーム(Shedome)分析”では、細菌の表面にタンパク質分解酵素を“注ぐ(shed)”。生成したペプチドを細胞全体から分離し、質量分析によって同定した後、公開されているデータベースを用いてタンパク質を特定する(Rodriguez-Ortega M.J.他、Nature Biotechnology、第24巻、191〜197ページ、2006年)。
【0079】
汚染物(例えば非常に豊富な細胞内タンパク質であるリボソーム・タンパク質)と仮想的な膜標的を識別するため、Imaiら(Bioinfomation、第2巻(9)、417〜421ページ(2008年))によって発表されて公開されているオンライン・ツール(http://bp.nuap.nagoya-u.ac.jp/sosui/sosuigramn/sosuigramn_submit.html)を用い、同定されたタンパク質の細胞内での位置を分析した。細胞外膜タンパク質または外膜タンパク質として特定されたタンパク質を選択してさらに分析した。それに加え、UniprotKBデータベースによって既知の細胞外膜タンパク質または外膜タンパク質のホモログと注釈付けされたタンパク質も選択した。
【0080】
第2の方法である“比較プロテオミクス”の考え方は、発現することがさまざまなアシネトバクター株において実験的に確認された標的に焦点を絞るというものである。プロテオームの研究であるプロテオミクスは、二次元ゲル電気泳動によるタンパク質の分離を通じて広く実践されてきた。第1の次元では、タンパク質が等電フォーカシングによって分離され、電荷に基づいてタンパク質が分割される。第2の次元では、SDS-PAGEを利用してタンパク質が分子量によって分離される。ゲルをクーマシー・ブリリアント・ブルーまたは銀を用いて染色し、タンパク質を可視化する。ゲル上のスポットが、特定の位置に移動したタンパク質である。
【0081】
質量分析がプロテオミクスをより強力にしてきた。ペプチド質量フィンガープリンティングにより、タンパク質が複数の短いペプチドに分割されて同定された後、それらのペプチドで観察される質量を配列データベースと照合することにより、タンパク質が何であるかが導出される。
【0082】
本発明では、外膜タンパク質を豊富にしたタンパク質調製物の全プロテオームを、異なる5種類のA.バウマニ株の質量分析によって求めた。その5種類のA.バウマニ株ATCC19606、BMBF65、SDF、ACICU、AYEを選択したのは、単離の際の供給源が異なっていたからである。ATCC19606は、1948年の古いA.バウマニ単離体(Hugh R.、Reese R.、Int.J. Syst. Bacteriol.、第17巻:245〜254ページ、1967年)であり、多くの研究室で基準株として使用されてきた。AYEは、フランスで2001年に流行したA.バウマニ株である(Vallenet他、PLoS One、第3巻:E1805〜E1805ページ(2008年))。ACICUは、イタリアのローマで2005年に勃発したときに単離された(Iacono M.他、Antimicrob. Agents Chemother.、第52巻:2616〜2625ページ(2008年))。BMBF65は、シンガポールで2004年にある患者から単離された。SDFは、A.バウマニの唯一の非臨床単離体であり、1997年にフランスのマルセイユで回収されたキモノジラミから単離された(Vallenet他、PLos One、第3巻:E1805〜E1805ページ(2008年))。
【0083】
細胞外表面に存在する仮想的な標的を豊富にするため、タンパク質調製物で外膜タンパク質を豊富にした後、その親水特性と疎水特性に従って質量分析した。質量分析によって同定されたペプチドについて、公開されているデータベースを用いてタンパク質を特定するとともに、IT予測と文献検索に従って選別を行なった。
【0084】
第3の方法は、回復期のA.バウマニ患者の血清中に存在する抗体によって認識される標的の同定に関する。そこで外膜(OM)タンパク質を豊富にしたタンパク質調製物を2次元ゲル電気泳動(2DE)によって分離した。2DEは、等電フォーカシング(IEF)に続くSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)によってOMタンパク質を分割することからなる。患者の血清によって認識されたタンパク質をイムノブロット分析によって明らかにした。異なるさまざまな株が発現させるタンパク質の同定確率を大きくするため、少なくとも2種類のA.バウマニ株のイムノブロットを比較し、分析したすべての株に存在するタンパク質を選択して質量分析でタンパク質を同定した。タンパク質は個別に特徴を明らかにし、IT予測と文献検索に従って選別を行なった。A.バウマニのタンパク質であると同定されて外膜タンパク質であるか外膜タンパク質として注釈されたタンパク質を、仮想的な標的として選択した。そのような標的が、抗生物質耐性A.バウマニ株において下方調節されるか存在していないものと相同であることが先行技術で予想されている場合には、それらの標的を以後の分析から除外した。
【0085】
本発明の1つの側面によれば、本発明の方法によって同定された少なくとも1つのポリペプチドが提供される。
【0086】
本発明の好ましい一実施態様では、そのポリペプチドは、本発明のこれまでの任意の側面または実施態様による生物(A.バウマニが好ましい)の感染性病原性と関係している。
【0087】
そのポリペプチドは、配列番号2、4、6、8、10、12、14および16のアミノ酸配列のうちの少なくとも1つ、またはその断片、類似体、機能性誘導体であることがより好ましい。
【0088】
ワクチン開発のために選択される標的は、以下の3つの条件のうちの少なくとも2つを満たす。
1.標的は、大きな分子に近づくことができる(方法1:シェドーム分析によって同定される表面タンパク質)。
2.標的は、多くのA.バウマニ株(重要な臨床単離体を代表する株が好ましい)で発現する(方法2:比較プロテオミクス)。
3.標的は免疫応答を誘導し、感染中の患者で発現する(方法3:具体的標的の同定)。
【0089】
各選択ステップの条件を満たす可能性のある標的の数を表3に具体的に示してある。この方法によって選択される潜在的な標的を最後の行に示してある。
【0090】
以下の表3は、異なる方法で標的を同定するための選択プロセスを示している。各方法は、上記の特定の1つの条件に焦点を当てている。太字の数字は、対応する選択ステップの条件に合致するタンパク質の数を示す。選択プロセスの詳細は、実施例1.2に与える。
【0091】
【表3】
【0092】
IT予測は以下のようにして実施した。HMMデータベースpdb70_3Sep11と、最大で3回繰り返すMSA生成法としてのHHblitsと、局所アラインメント・モードを利用するオンライン・ソフトウエア・ツールHHpred(http://toolkit.tuebingen.mpg.de/hhpred)、Soding J.、951〜960ページ(2005年)を用いてHMM-HMM比較を実施することにより、タンパク質の相同性検出と構造予測を行なった。
【0093】
表4は、データバンク分析によって求めた配列番号2、4、6、8、10、12、14および16の構造ホモログを示している。
【0094】
【表4】
【0095】
配列番号2、4、6、8、10、12、14、16を持つポリペプチドのどれも、免疫刺激活性を有する。
【0096】
表5は、A.バウマニの臨床単離体における本発明の抗原性ポリペプチドの発現に関するものである。合計で36個の臨床株を病院に収容された患者の血液、尿、脳脊髄液、膿、気道吸引物から単離した。このような臨床単離体(実施例1.1.4)を用いて細菌ライセートまたは沈殿した培養物の上清を単離し、ゲル電気泳動の後、イムノブロット分析によって調べた。それぞれの抗原性ポリペプチドを検出するため、対応するウサギ抗血清を使用した(実施例5)。
【0097】
表5には、A.バウマニの臨床単離体の割合と実際の数を示してある。同定された個々の抗原性ポリペプチドのすべてについて、細菌細胞ペレットからの調製物の中に存在するかしないかがイムノブロット分析によってわかった。
【0098】
【表5】
【0099】
図2は、免疫刺激活性を有する本発明のポリペプチドを示している。そのポリペプチドを用いてウサギを免疫化した。これらウサギの血清は、ポリペプチド特異的抗体に関して陽性であることがわかった。
【0100】
本発明のさらに別の側面によれば、上記の抗原性ポリペプチドをコードする核酸分子が提供される。
【0101】
さらに別の側面によれば、本発明は、本発明の核酸分子を含むベクターに関する。さらに、本発明は、そのベクターを含む宿主細胞に関する。
【0102】
発現ベクターの構成および作製と、組み換え発現ポリペプチドの精製に関しては、発表された多くの文献がある(Sambrook他(1989年)『分子クローニング:実験室マニュアル』、コールド・スプリング・ハーバー研究所、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク州と、その中の参考文献;「DNAクローニング」:F.M. Ausbel他、『分子生物学における最新のプロトコル』、John Wiley & Sons社(1994年))。
【0103】
さらに、本発明により、ベクターおよび/またはそのベクターの発現に適した核酸を含む宿主細胞が提供される。この分野では、多くの原核細胞発現系と真核細胞発現系が知られているが、真核宿主細胞(例えば酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞、哺乳動物細胞(HEK293細胞、PerC6細胞、CHO細胞、COS細胞、HELA細胞など))とその誘導体が好ましい。特に好ましいのは、ヒト産生細胞系である。トランスフェクトされた宿主細胞が、産生される抗体を培地の中に分泌することが好ましい。細胞内発現が実現される場合には、標準的な手続き(例えばBenetti P.H.他、Protein Expr. Purif.、第13巻(3):283〜290ページ(1998年)に記載されている)に従って再生を実施する。
【0104】
本発明の上記の任意の側面または実施態様によるポリペプチドの産生は、(i)本発明のベクターを用いて形質転換した細胞/本発明のベクターをトランスフェクトした細胞を提供すること;(ii)そのポリペプチドを成熟に導く条件でその細胞を増殖させること;(iii)そのポリペプチドをその細胞またはその増殖環境から精製することを含んでいる。
【0105】
本発明の好ましい一実施態様では、細胞は原核細胞である。
【0106】
あるいは細胞は、真菌、酵母、昆虫、藻類、哺乳動物、植物の中から選択した真核細胞である。
【0107】
本発明により、上記のポリペプチドに特異的に結合してアシネトバクター・バウマニを中和することのできる抗体またはその抗原結合性断片が提供される。
【0108】
“抗原結合性断片”という用語は、抗体の断片のうちで、請求項によって規定される任意のポリペプチドと結合できるものを意味する。その断片は、長さが少なくとも10個、好ましくは20個、より好ましくは50個のアミノ酸である。その断片は、抗体の結合領域を含むことが好ましい。その断片は、Fab断片、またはF(ab’)2断片、またはこれらの混合物であることが好ましい。
【0109】
抗体が媒介する“エフェクタ機能”として、標的抗原の特定の機能の抑制(例えば、分泌された細菌毒素の効果の中和)が可能である。そうすることで、毒素がタンパク質相互作用、酵素機能、細胞機能、細胞の完全性、組織構造、その他の生物学的プロセスに及ぼす有害な効果が阻止される。抗体が媒介する別のエフェクタ機能として、特定の細菌タンパク質の機能の不活性化が可能である。そうすることで、細菌の正常なライフ・サイクルに影響が及ぶ。抗体が媒介する別のエフェクタ機能は、免疫プロセスの活性化(例えば補体カスケードの活性化、サイトカインとケモカインの産生誘導、免疫系の細胞成分の活性化、細菌細胞の破壊と除去につながるその他の免疫反応)からなる。
【0110】
本発明の好ましい一実施態様では、抗体は、上記ポリペプチドに特異的なポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体である。
【0111】
宿主(例えばマウスまたはウサギ)の中でポリクローナル抗体を産生させるため、抗原性ポリペプチド、またはその断片、類似体、機能性誘導体を用いて宿主を免疫化する。そのとき必要に応じて助剤を用いる。その後、抗原性ポリペプチドに対する抗体を宿主の血清から回収する。ポリクローナル抗体を抗原に対してアフィニティ精製し、その抗体を特異的にすることができる。このようなポリクローナル抗体調製物は、ヒト・ドナー(ワクチン接種されたドナー、回復期のドナー、通常の健康なドナー)に由来するものでもよく、血漿分画化によってポリクローナル免疫グロブリン分画を生成させ、抗原に対してさらにリッチにしてそれを特異的にする。
【0112】
このようなポリクローナル抗体は、抗原性ポリペプチドAB023、AB024、AB025、AB030、AB031L、ABFimA、ABCsuAB、ABOmpAを用いてウサギを免疫化することによって生じさせた。免疫化の4〜8週間後、血液サンプルを回収し、血清でポリペプチド特異的抗体の存在を調べた;図3図4を参照のこと。
【0113】
ポリクローナル抗体は、多くの異なるエピトープを認識する。それとは異なり、モノクローナル抗体は、単一のエピトープに特異的である。抗体構造とそのさまざまな機能に関するさらに詳しいことは、『抗体の使用:実験室マニュアル』、コールド・スプリング・ハーバー研究所出版、1999年に見いだすことができる。
【0114】
さらに別の好ましい一実施態様では、本発明の抗体は、アシネトバクター・バウマニに対するエフェクタ機能を誘導することのできるモノクローナル抗体、またはその抗原結合性断片である。本発明のモノクローナル抗体、またはその抗原結合性断片は、配列番号36に示されているエピトープ・コンセンサス・モチーフPVDFTVAIと特異的に結合することが最も好ましい。
【0115】
“エピトープ”という用語には、免疫グロブリンに特異的に結合することのできる任意の決定基(ポリペプチド決定基が好ましい)が含まれる。いくつかの実施態様では、エピトープ決定基は、分子の化学的に活性な表面基(例えばアミノ酸、糖側鎖、ホスホリル基、スルホニル基)を含んでおり、いくつかの実施態様では、特定の三次元構造特性および/または特定の電荷特性を有する可能性がある。エピトープは、抗原のうちで抗体と結合する領域である。モノクローナル抗体は、通常は、これらコンセンサス・モチーフ(大半は長さがアミノ酸5個、または6、7、8個)と結合する。好ましい一実施態様では、本発明によって提供される抗体はモノクローナル抗体であり、長さがアミノ酸8個のエピトープ・コンセンサス・モチーフに特異的に結合する。いくつかの実施態様では、抗体は、タンパク質および/または巨大分子の複雑な混合物の中の標的抗原を選択的に認識するとき、特異的に結合すると言われる。好ましい実施態様では、抗体は、解離定数が約10nM以下であるとき、より好ましくは解離定数が約100pM以下または約10pM以下のとき、特異的に結合すると言われる。
【0116】
さらに別の一実施態様では、本発明の抗体はヒト抗体である。本明細書では、“ヒト(human)”という用語は、抗体を入手する供給源とは独立に、ヒト抗体の任意の一部または全体を含んでいる。ハイブリドーマによるヒト・モノクローナル抗体の産生が好ましい。例えばヒトのアミノ酸配列からなるヒト・モノクローナル抗体は、B細胞がヒトB細胞であるハイブリドーマから得ることができる。モノクローナル抗体は、遺伝子工学によって得ることもできる。
【0117】
“ヒト化 (humanized)”抗体も考えられる。それは、ヒト定常および/または可変領域ドメインを有するマウス、ラットや、他の種からのキメラ抗体、二重特異性抗体、組み換え抗体、改変した抗体と、これらの断片である。“ヒト化”技術は、典型的には、組み換えDNA技術を利用して、抗体分子のポリペプチド鎖をコードしているDNA配列を操作することを含んでいる。ヒト化モノクローナル抗体(MAB)のための初期の方法は、1つの抗体の全可変ドメインを含む抗原結合部位を別の抗体に由来する定常ドメインに連結させてキメラ抗体を作る操作を含んでいた。このようなキメラ化手続きを実施する方法は、欧州特許第EP0120694号(Celltech Limited社)、第EP0125023号(Genentech Inc.社とCity of Hope)、欧州特許公開第EP-A-0 171496号(Rev. Dev. Corp社、日本国)、第EP-A-0 173 494号(Stanford大学)、WO 86/01533(Celltech Limited社)に記載されている。一般に、これらの出願には、マウスMabからの可変ドメインとヒト免疫グロブリンからの定常ドメインを有する抗体分子を調製する方法が開示されている。別の方法は、欧州特許公開第EP-A- 023 9400号(Winter)に記載されており、ここでは、マウスMabの相補性決定領域(CDR)が、長いオリゴヌクレオチドを用いた部位特異的突然変異誘発によってヒト免疫グロブリンの可変ドメインのフレームワーク領域にグラフトされている。そのような方法の一例については、米国特許第7,262,050号を参照のこと。
【0118】
ヒト化抗体は、トランスジェニック動物から入手することもできる。免疫化に応答して例えばヒト抗体の全レパートリーを産生することのできるトランスジェニック突然変異マウスが報告されている(例えば、Jakobovits他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第90巻:2551ページ(1993年);Bruggemann他、Year in Immuno.、第7巻:33ページ(1993年)参照)。具体的には、これらキメラ・マウスと生殖系突然変異マウスにおける抗体重鎖結合領域(J(H))遺伝子の同型接合欠失により、内在性抗体産生が完全に阻止され、ヒト生殖系抗体遺伝子アレイがそのような生殖系突然変異マウスにうまく移ることで、抗原でチャレンジしたときにヒト抗体が産生される。
【0119】
ヒト・モノクローナル抗体のヒト・アミノ酸配列は、望ましくない不利な効果(例えば拒絶反応やアナフィラキシー・ショック)の出現を阻止する。
【0120】
好ましいさらに別の一実施態様によれば、本発明の抗体は、N末端、および/または内部、および/またはC末端が修飾されている。修飾は、例えばジシクロヘキシルカルボジイミドを用いた架橋によるモノマー形態の二量体化、オリゴマー化、重合のうちの少なくとも1つの中から選択される。このようにして作製された二量体、オリゴマー、ポリマーは、ゲル濾過によって互いから分離することができる。別の修飾として、側鎖修飾(例えばε-アミノ-リシン残基の修飾)、アミノ末端とカルボキシ末端の修飾がある。さらに別の修飾として、翻訳後修飾(例えばタンパク質のグリコシル化、および/または部分的な、または完全な脱グリコシル化)、ジスルフィド結合の形成がある。抗体は、標識(例えば酵素標識、蛍光標識、放射性標識)と共役させることもできる。
【0121】
本発明の抗体は、ヒトB細胞から、またはそのヒトB細胞を骨髄腫細胞または異種骨髄腫細胞と融合させることによって得られたハイブリドーマから産生される。
【0122】
本発明によりさらに、モノクローナル抗体を産生することのできるハイブリドーマが提供される。ハイブリドーマ細胞を用いたモノクローナル抗体の産生は周知である。モノクローナル抗体の産生に用いる方法は、KohlerとMilstein、Nature、第256巻、495〜497ページ(1975年)に開示されており、Schwartz編の『免疫学概論』(1981年)の中にあるDonillardとHoffman、「ハイブリドーマに関する基本的事実」にも開示されている。
【0123】
ヒト・モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技術の代わりに抗体の軽鎖と重鎖をコードしている核酸の組み換え発現によっても得ることができる。
【0124】
したがって本発明により、抗体の軽鎖と重鎖をコードしている核酸と、そのような抗体を含むベクターと、そのようなベクターおよび/または核酸を含む宿主細胞が提供される。
【0125】
本発明のベクターは、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、SV40ウイルス、レトロウイルス、植物ウイルス、バクテリオファージ(例えば軽鎖をコードしている少なくとも1つの核酸と、重鎖をコードしている少なくとも1つの核酸を含むラムダ誘導体またはM13)の中から選択されることが好ましい。このベクターを用いて形質転換し、コードされた抗体鎖の組み換え発現に適した条件下で培養した宿主細胞は、ヒト・モノクローナル抗体を組み立てて、ヒトB細胞によって産生されるヒト・モノクローナル抗体の3次元構造と同じ3次元構造にすることができる。軽鎖が重鎖とは別に産生される場合には、両方の鎖を精製した後、組み立てて、ヒトB細胞によって産生されるヒト・モノクローナル抗体の3次元構造と実質的に同じヒト・モノクローナル抗体を生じさせることができる。
【0126】
それに加え、上記の抗体を産生させる方法として、抗体の分泌を可能にする条件下でハイブリドーマを培養し、必要に応じて培養物の上清からその抗体を精製する操作を含む方法が提供される。
【0127】
それに加え、上記の抗原性ポリペプチドまたは上記の抗体を含む医薬組成物が提供される。
【0128】
医薬組成物は、この分野で知られている医薬上許容される諸成分をさらに含んでいてもよい。
【0129】
医薬組成物は、主に免疫無防備状態の患者および/または呼吸機能が損なわれた患者における感染症(例えば血流感染、肺炎、慢性気管支炎、局所感染(例えば傷感染、関節の侵襲性感染))においてA.バウマニによって起こる疾患の治療に適用されることが好ましい。医薬組成物はさらに、院内感染の予防および/または治療を目的とするが、それだけに限らない。A.バウマニ感染の主な犠牲者は、挿管措置されている患者、やけどの犠牲者、手術室および/または集中治療室にいる患者、がんとエイズの患者、免疫無防備状態の患者、免疫が抑制されている患者、糖尿病の患者、軍人、戦闘員とそれに付随するサポート要員のほか、静脈内薬の乱用者であるため、医薬組成物は特に、そのような一群の患者でA.バウマニによって起こる疾患の予防および/または治療を目的とする。
【0130】
医薬組成物は、抗生物質をさらに含んでいてもよい。
【0131】
医薬組成物は、抗原性ポリペプチドまたは抗体を体重1kgにつき0.1〜30mgの濃度範囲で含んでいる。
【0132】
医薬組成物は、公知の任意の方法(例えば静脈内投与、筋肉内投与、皮内投与、皮下投与、腹腔内投与、局所投与、鼻腔内投与)で、または吸入スプレーとして投与することができる。
【0133】
本発明のさらに別の側面は、上記の抗原性ポリペプチドまたは抗体を含む、患者における細菌感染を検出するための診断用組成物に関する。本発明による細菌感染の検出、特にA.バウマニによって起こる細菌感染の検出は、単離した細菌DNAを対象として、または臨床サンプル(例えば痰、気管支-肺泡洗浄液、気道吸引物)から、通常は超純H2Oの中に希釈した後に直接実施することができる。好ましいのは、ヒト(例えば肺疾患を持つヒト患者)の肺洗浄液から直接入手したサンプルである。臨床サンプルは、身体の材料(例えば血液、血清、尿、組織など)も含んでいる可能性がある。典型的には、サンプルは、ヒトまたは哺乳動物の傷、やけど、肺、尿管の感染部から採取することができる。本発明の抗原性ポリペプチドを用いて血清中の抗体を調べることができる。抗体は、例えば臨床サンプル中の抗原性ポリペプチド(標的)の検出に適している。抗原性ポリペプチド、またはその抗原性ポリペプチドに特異的な抗体の診断ツールとしての大きな価値は、表1と図3に示されている。
【0134】
本発明により、哺乳動物における細菌感染の治療および/または予防に用いるポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体が提供される。
【0135】
哺乳動物はヒトであることが好ましい。抗体は、治療および/または予防に使用することが好ましい。その場合、細菌感染はA.バウマニによって起こり、最も好ましいのは、この感染が院内感染であることである。
【0136】
抗体に基づく治療を現在特に適用できる疾患領域として、がん、免疫調節障害、感染症がある。疾患と標的の生物学に応じ、治療に用いる抗体(治療用抗体)は異なる作用メカニズムを持つ可能性がある。治療用モノクローナル抗体は標的に結合してその正常な機能を無効にすることができる。例えばがん細胞の生存に必要なタンパク質の活性を阻止するモノクローナル抗体は細胞死を引き起こす。別の治療用モノクローナル抗体は標的に結合してその正常な機能を活性化させることができる。例えばモノクローナル抗体は細胞表面のタンパク質に結合してアポトーシス信号の引き金を引くことができる。最後に、モノクローナル抗体が疾患組織の表面でだけ発現している標的と結合する場合には、化学療法剤や放射性剤などの毒性ペイロード(有効な薬剤)がモノクローナル抗体と共役してその毒性ペイロードを疾患組織に特異的に送達するためのガイド付きミサイルを作り出し、健康な組織に対する害を減らすことができる。
【0137】
予防用抗体は、疾患または感染の拡大または発生から守ったり、疾患または感染の拡大または発生を阻止したりする。
【0138】
構造/配列によって規定される抗体は、投与時期に応じて予防機能と治療機能を持つ可能性がある。
【0139】
さらに、本発明により、哺乳動物における細菌感染の治療および/または予防に使用されるポリペプチドとして、
a)配列番号1、3、5、7、9、11、13および15のいずれか1つで表わされる核酸配列を有するポリヌクレオチド;
b)(a)のポリヌクレオチドによってコードされたポリペプチドの断片、類似体、機能性誘導体をコードするポリヌクレオチド、ここで前記断片、類似体または機能性誘導体は免疫刺激活性を有する;
c)配列番号2、4、6、8、10、12、14および16のいずれか1つで表わされるアミノ酸配列と少なくとも80%一致するアミノ酸配列を有し、且つ免疫刺激活性を有するポリヌクレオチド;
d)(a)のポリヌクレオチドと少なくとも80%一致し、且つ免疫刺激活性を有するポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド;
e)ストリンジェント条件下で(a)〜(d)のいずれか1つのポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチド;
f)(a)〜(d)のいずれか1つのポリヌクレオチドの全長と相補的なポリヌクレオチド
からなるグループの中から選択したポリヌクレオチドを含む核酸分子によってコードされたポリペプチドが提供される。
【0140】
このポリペプチドは、哺乳動物で使用することが好ましい。このポリペプチドは、アシネトバクター・バウマニによって起こる細菌感染の治療および/または予防に使用することがさらに好ましい。最も好ましいのは、本発明の抗原性ポリペプチドを、院内感染する細菌感染の治療および/または予防に用いることである。
【0141】
以下の実施例と図面に記載した具体的な実施態様を参照して本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0142】
実施例1:標的(抗原性ポリペプチド)の同定
【0143】
1.1 材料
【0144】
特に断わらない限り、試薬は分析品質であり、認定された供給者、主にSigma-Aldrich社(ブックス、スイス国)から入手した。
【0145】
1.1.1 細菌培地
【0146】
ルリア-ベルタニ・ブロス(Luria-Bertani broth)(LB)は、1%(w/v)のトリプトン(Fluka/Sigma-Aldrich社、スイス国)と、0.5%(w/v)の酵母抽出物(Fluka社)と、1%(w/v)のNaClで構成した。LBは、調製した直後にオートクレーブし(121℃で20分間)、室温で3ヶ月後まで殺菌状態を維持した。LB-寒天(LBA)プレートに関しては、0.75(w/v)の寒天をLBに添加した後、培地をオートクレーブした。その後、熱いLBAをプラスチック製ペトリ皿(Sterlin社、ケンブリッジ、イギリス国)に分布させた後、培地を50℃未満に冷却した。ペトリ皿の中のLBAが固化すると、そのLBAプレートを3ヶ月後まで4℃に維持した。BHI-寒天プレートは、Becton Dickinson社(ハイデルベルク、ドイツ国)に注文した。
【0147】
1.1.2 細菌株
【0148】
いくつかの細菌株を使用した。データを得るのに使用した最も重要な細菌株と実験手続きを表6に掲載する。それに加え、A.バウマニのいくつかの臨床単離体をSeifert教授(医療微生物衛生研究所、ケルン大学、ドイツ国)、Dijkshoorn教授(ライデン大学医学センター、ライデン、オランダ国)、Nordmann教授(ビセートル大学病院センター、細菌学-ウイルス学部門、ル・クレムラン-ビセートル・セデックス、フランス国)から受け取った。
【0149】
【表6】
【0150】
標的の同定と、同定された標的の特徴づけに用いた公開されているいくつかのゲノムを表7にまとめてある。
【0151】
【表7】
【0152】
1.1.3 患者の血清
【0153】
さまざまな病院で患者の血清を回収した。20人の患者からの血清が以前の研究に記載されており(Pantophlet, R.他、Clin. Diagn. Lab. Immunol.、第7巻(2)、293〜295ページ(2000年))、それをSeifert教授(医療微生物衛生研究所、ケルン大学、ドイツ国)から受け取った。
【0154】
アテネ(ギリシャ国)、セビージャ(スペイン国)、ピッツバーグ(ペンシルヴェニア州、米国)、エルサレム(イスラエル国)の病院からさらに57人の患者の血清を回収した。以下の内部基準を適用した:
1.患者は、A.バウマニ血流感染、肺炎、重傷感染であることが確認されている。
2.患者は、採血できる健康状態である。
3.患者は、85歳未満の成人である。ウイルス感染(例えばA型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、HIV)、貧血、免疫系抑制が確認された患者は除外した。すべての患者がインフォームド・コンセントに署名した。健康なドナーからの血清は、ベルン(スイス国)にあるスイス赤十字献血センターから回収した。
【0155】
1.2 適切な標的を同定する方法
【0156】
1.2.1 “シェドーム (Shedome)”分析
【0157】
この方法の考え方は、ポリペプチドには抗体などの大きい分子がアクセスできるため、アシネトバクター膜の表面にあるポリペプチドを同定するというものである。そこでA.バウマニ細菌に23kDaのプロテアーゼであるトリプシンを注ぎ、質量分析(MS)によって分析した。同定されたペプチドから、公開されているデータベースを用いてタンパク質を特定した。消化産物は、非常に豊富なタンパク質と溶解した細菌という汚染物以外に、細菌膜の細胞外の側に存在するタンパク質に由来するペプチドを含んでいることが予想される。
【0158】
1.2.1.1 細菌培養物の調製
【0159】
A.バウマニ株ATCC19606をLBAプレートの表面に塗布し、37℃で一晩(16時間〜24時間)インキュベートした。細菌コロニーを目視できるそのLBAプレートを1ヶ月後まで4℃に維持した。出発培養物として、LBAプレートからのA.バウマニのコロニーを用いて25mlのLBに接種し、1分間に200回転(rpm)で震盪させながら37℃にて一晩インキュベートした。一晩培養物の600nmでの光学密度(OD600)を測定した。開始時のOD600が0.05の一晩培養物をLB(0.4リットル)に接種し、200rpmで震盪しながら37℃で3.5時間インキュベートすると、OD600が0.68になった。
【0160】
1.2.1.2 生きている細菌のトリプシンによる消化
【0161】
Rodriguez-Ortegaら(Nature Biotechnology、第24巻、191〜197ページ、2006年)が、グラム陽性菌をトリプシンで消化させる方法を以前に記載している。この方法を利用してグラム陰性A.バウマニに関する以下のプロトコルを確立した。この細菌を4℃にて3500gで10分間遠心分離した。ペレットを4℃の40mlのPBS(8%(w/v)のNaCl、2%(w/v)のKCl、1.1%(w/v)のNa2HPO4、0.2%(w/v)のKH2PO4、pH=7.4)の中に再懸濁させることによって3回洗浄し、遠心分離した。ペレットを2mlのスクロース緩衝液(40%(w/v)のスクロース、5mMのDTT(ジチオトレイトール)を含むPBS)の中で1回洗浄し、最後にペレットを、20μgのシークエンシング品質のトリプシン(Promega社、V5113)を含む2mlのスクロース緩衝液に再懸濁させた。この懸濁液を37℃で30分間インキュベートした後、4℃にて3500rcfで10分間遠心分離した。上清を取り出し、4℃にて14000rcfで5分間再び遠心分離した。再び上清を取り出し、注射器用無菌フィルタ(0.2μm、Nalgene社#194-2520)で濾過した。0.75mlの濾液に0.75μlのギ酸を添加して混合し、MSによって分析するまで-70℃で保管した。
【0162】
1.2.1.3 トリプシン消化産物のMS分析
【0163】
ペプチドは、Manfred Heller教授のグループが、ベルン大学の臨床研究部門(スイス国)において、質量分析(データに依存した衝突によって誘導される断片化を伴うナノLC-MS/MS)によって同定した。フィルミクテスと大腸菌からの入力事項がないUniprotKBデータベース(The UniProt Consorcium、Nucleic Acids Res.、第39巻:D214〜D219ページ、2011年)を用いてペプチドからタンパク質を特定した。
【0164】
簡単に述べると、3μlまたは6μlの体積を約5μl/分の流速にして溶媒A(0.1%のギ酸を含む水/アセトニトリル(98:2))とともにプレ-カラム(Magic C18、5μm、300Å、内径0.15mm×長さ30mm)に装填した。装填後、アセトニトリルの勾配が60分間で5%から40%になる溶媒B(0.1%のギ酸を含む水/アセトニトリル(4.9:95))を流速約400nl/分で使用し、ペプチドをバックフラッシュ・モードで分析用ナノ-カラム(Magic C18、5μm、300Å、内径0.075mm×長さ75mm)に溶離させた。1,700kVで運転しているナノスプレーESI源を通じ、カラムの溶離液をLTQ-orbitrap XL質量分析器(Thermo Fisher Scientific社、マサチューセッツ州、米国)に直接カップルさせた。データ取得は、データ依存モードで前駆イオンを走査して行ない、(m/z=400での)解像度60,000でフーリエ変換検出器(FT)に記録するとともに、線形イオン・トラップで最も強い前駆イオンの5フラグメント・スペクトル(CID)も記録した。CIDモードの設定状態は、広帯域活性化をオン;m/zの範囲が360〜1400での前駆イオン選択;強度閾値が500;15秒間は前駆体を除外するというものであった。UniprotKB 、SwissProt、TrEMBLというデータベースを使用し、Linux(登録商標)を走らせた局所二重クワッド・コア.プロセッサ・サーバ上でPHENYXを用いてCIDスペクトルを解釈した。許容されるさまざまな修飾は、メチオニン酸化(2個まで)、アスパラギン/グルタミン脱アミド化(2)、N末端のグルタミン酸上のピロリドンカルボン酸(1)であった。親とフラグメントの質量の許容範囲は、それぞれ20ppmと0.5Daに設定した。少なくとも2種類の異なるペプチドが同定されてタンパク質スコアが10.0以上になった場合に、タンパク質の同定を真の陽性であると認めた。
【0165】
1.2.1.4 データ分析と標的の選択
【0166】
同定されたいくつかのタンパク質は、非常に豊富なタンパク質である細胞内タンパク質(例えばリボソーム・タンパク質)であった。そのような汚染物と仮想的な膜標的を区別するため、同定されたタンパク質の細菌内での位置を公開されているオンライン・ツール(http://bp.nuap.nagoya-u.ac.jp/sosui/sosuigramn/sosuigramn_submit.html、Imai他、Bioinfomation、第2巻(9)、417〜421ページ(2008年))を用いて分析した。細胞外タンパク質または外膜タンパク質として特定されたタンパク質を選択してさらに分析した。それに加え、UniprotKBデータベースによって既知の細胞外タンパク質または外膜タンパク質のホモログであるという注釈を付けられたタンパク質も選択した。
【0167】
1.2.2 比較プロテオミクス
【0168】
この方法の考え方は、異なるさまざまなアシネトバクター株での発現が実験的に確認されているポリペプチドに焦点を絞るというものである。そこで5種類のA.バウマニ株の全プロテオームを質量分析によって求めた。その5つの株は、異なる供給源から単離されたという理由で選択した。細胞外表面に存在する仮想的標的を豊富にするため、タンパク質調製物の外膜タンパク質を豊富にした後、その親水特性と疎水特性に従って質量分析を行なった。質量分析によって同定されたペプチドについて、公開されているデータベースを用いてタンパク質を特定するとともに、IT予測と文献検索に従って選別を行なった。
【0169】
1.2.2.1 細菌培養物の調製
【0170】
A.バウマニ株ATCC19606、BMBF65、SDF、ACICU、AYE(上記の表6参照)をBHI-寒天プレートに塗布し、37℃で一晩(16時間〜24時間)インキュベートした。目視できる細菌コロニーを含むその寒天プレートを75mlのLBに接種し、培養物を200rpmで震盪しながら37℃で25時間インキュベートした。培養物のOD600を測定し、開始時のOD600が0.02の一晩培養物をLB(0.5リットル)に接種した。この0.5リットルの培養物を200rpmで震盪しながら37℃で一晩インキュベートした。OD600を測定し、各培養物の900 OD/mlを用いてタンパク質を調製した。
【0171】
1.2.2.2 外膜(OM)タンパク質の調製
【0172】
OMタンパク質は、本質的にArnoldとLinke(Curr. Protoc. Protein Sci.;第4章:4.8.1項〜4.8.30項、2008年)が以前に記載しているようにして調製したが、わずかに改変してさらに下流分析を行なうためのOMタンパク質を調製した。900 OD/mlを4℃にて20分間かけて4000gでペレットにした。以下の全ステップは、氷の上で冷やした溶液と装置を用いて0℃〜4℃で実施した。細菌を7mlの再懸濁緩衝液(0.1MのNaCl、10mMのMgCl2、50mMのトリス-HCl、pH=8.0、10mg/lのDNアーゼI(Sigma-Aldrich社))の中に再懸濁させ、0.1mlのプロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma-Aldrich社)を添加した。Sonifier B-12(Branson Sonic Power Company社、コネティカット州、米国)をレベル5にして用い、氷の上でこの懸濁液を10秒間ずつ1分間隔で5回超音波処理した。ライセートを氷の上で30分間インキュベートした後、2000gで15分間遠心分離することによって完全な細菌を除去した。超遠心分離が可能な遠心分離管に上清を移し、再懸濁緩衝液を添加して最終体積を12mlにした。この溶液を4℃にて100,000gで1時間遠心分離した。上清を廃棄し、0.1mlのプロテアーゼ阻害剤カクテルを含む12mlの再懸濁緩衝液にペレットを再懸濁させた。超遠心分離を繰り返し、ペレットを12mlのCM緩衝液(0.1MのNaCl、50mMのトリス-HCl、pH=8.0、1%(w/v)のN-ラウロイルサルコシン酸ナトリウム(Fluka社))に再懸濁させた。0.1mlのプロテアーゼ阻害剤カクテルを懸濁液に添加し、得られた混合物を、角度90°、分速25回転に設定したインテリ-ミキサー(LTF Labortechnik社、ドイツ国)上で管を回転させながら室温で30分間インキュベートした。上記のような再懸濁と超遠心分離により、溶液を超遠心分離した後、ペレットを12mlの冷たいddH2Oの中で3回洗浄した。この段階で、のちの使用のためにペレットを-20℃で凍結させた。OMタンパク質調製物をクロロホルム/メタノールで沈殿させ(Wessel D.とFlugge U.、Anal. Biochem.、第138巻、141〜143ページ、1984年)、そのOMタンパク質調製物を、45%を含む2つのアリコートと、残りの10%を含む1つのアリコートに分割した。ペレットを-20℃で保管した。タンパク質を定量するため、クロロホルム/メタノールで沈殿させた10%のアリコートを0.1mlの水に再懸濁させた。そのうちの50μlを、50μlの1M NaOHを用いて室温で2分間加水分解させ、0.1mlの0.5M HClを用いて中和した。加水分解したサンプルを滴定し、ブラッドフォード・タンパク質試薬(Biorad社、カリフォルニア州;米国)を製造者の指示に従って用いてタンパク質を定量した。滴定したウシ血清アルブミンをサンプルと同様に加水分解し、定量の基準として使用した。
【0173】
1.2.2.3 OMプロテオームの決定 - LC-MSとデータ分析
【0174】
タンパク質を8Mの尿素溶液に溶かし、1mMのDTTを用い、37℃にて30分間にわたって還元し、25℃にて暗所で55mMのヨードアセトアミドを用いて30分間アルキル化した。次に、サンプルを0.1Mの炭酸水素アンモニウム緩衝液で希釈して尿素の最終濃度を1Mにした。タンパク質をシークエンシング品質の改変されたトリプシン(1/100;w/w、Promega社、マディソン、ウィスコンシン州)とともに37℃で一晩インキュベートすることによって消化させた。ペプチドをC18逆相スピン・カラムで製造者(Microspin、Harvard Apparatus社)の指示に従って脱塩し、真空下で乾燥させ、のちの使用のために-80℃で保管した。
【0175】
線形四重極イオン-トラップとOrbitrap(LTQ-Orbitrap XL、Thermo Fisher Scientific社)からなるハイブリッド質量分析器で高分解能ナノLC-MSを利用してペプチド混合物を分析した。線形四重極イオン-トラップとOrbitrap(LTQ-Orbitrap XL、Thermo Fisher Scientific社)からなるハイブリッド質量分析器に接続したEksigentナノLCシステム(Eksigent Technologies社)でペプチドを2回分析した。このハイブリッド質量分析器にはナノエレクトロスプレー・イオン源(Thermo Scientific社)を取り付けた。60分間かけて95%溶媒A(水、0.1%のギ酸、2%のアセトニトリル)+5%溶媒B(水、0.1%のギ酸、98%のアセトニトリル)から72%溶媒A+28%溶媒Bになる線形勾配を流速0.3μl/分で使用し、C18樹脂(Magic C18 AQ 3μm;Michrom Bioresources社)を自社内で詰めたRP-HPLCカラム(内径75μm、長さ10cm)でペプチドを分離した。LTQ-Orbitrapは、Xcaliburソフトウエアを用いてデータ依存取得モードで作動させた。解像度を60,000の値に設定したOrbitraにおいてサーベイ走査MSスペクトルを350〜2000 m/zの範囲で取得した。1回のサーベイ走査ごとに強度が最も大きい5つのイオンを選択して衝突誘導解離(CID)断片化を実施し、得られたフラグメントを線形トラップ(LTQ)において分析した。30秒以内にダイナミックな除外を利用して同じペプチドが繰り返して選択されることを防止した。単一電荷のイオンと、電荷状態が特定されないイオンをMS/MS走査のトリガーから除外した。
【0176】
ReAdWを用いてMS装置からの生データ・ファイルをmzXMLファイルに変換した後、Sorcerer-SEQUEST(Eng他、J. Am. Soc. Mass Spectrom.、1994年;第5巻(11):976〜989ページ)を用い、3453個のタンパク質入力(UniprotKB/Swiss-Protの中の292個+UniprotKB/TrEMBLの中の3161個)を含むUniprotKB/Swiss-Protタンパク質知識ベース(バージョン56.9)からのアシネトバクター.バウマニ・タンパク質データベース(ACIB3)を対象としてそのmzXMLファイルを検索した。PeptideProphet(Keller A.他、Anal. Chem.、2002年;第74巻(20):5383〜5392ページ)とProteinProphet(Nesvizhskii他、Anal. Chem.、2003年;第75巻(17):4646〜4658ページ)を含むTrans-Proteomic Pipeline TPP(Keller他、Mol. Syst. Biol.、2005年;第1巻:2005.0017):バージョン4.0 JETSTREAM rev 2を用い、それぞれのLC-MS分析に関する各検索結果を統計的に分析した。ProteinProphetの確率スコアは0.9に設定した。その結果、タンパク質とペプチドが誤って発見される平均の割合が、ProteinProphetとPeptideProphetによって推定されるすべての検索結果について1%未満になった。
【0177】
データベース検索基準に含まれていたは、前駆イオンについて50ppmの質量許容範囲、メチオニンについて15.994920Daだけ変動する可能性(酸化されたメチオニンを表わす)、システインについて静的修飾としてのカルバミドメチル化の57.021465Da、ペプチドごとに少なくとも1つのトリプシン性末端、2個までの開裂部位の見落としであった。
【0178】
1.2.2.4 データ分析と標的の選択
【0179】
OMプロテオームから仮想的な標的を選択するため、異なる5つの株の同定されたタンパク質(上の表6参照)を公開されているオンライン・ツール(PSORTb バージョン3.0、Yu他、Bioinformatics、第26巻(13):1608〜1615ページ、2010年)で分析して細菌内における位置を求めた。合計で5つの株のOMプロテオームに存在していて細胞外または外膜に位置することが予想されたタンパク質を個別に詳しく分析した。そこには、公開されている14種類の基準ゲノムの中のゲノム保存(遺伝子の存在/不在と、アミノ酸一致の割合)と、公開されているオンライン・ツールHHpred(Soding他、Nucleic Acids Res.、2005年7月1日;第33巻(ウェブ・サーバー号):W244〜248ページ)を用いて外膜内で予想されるタンパク質のトポロジーが含まれていた。アシネトバクターの同定されたタンパク質、または他の種のホモログに関する入手可能な文献も考慮した。
【0180】
(1)アミノ酸保存が90%以上の条件で分析した14種類のゲノムのうちの少なくとも13種類によってコードされていて、(2)タンパク質配列の一部を外膜の細胞外の側に提示することが予想されたタンパク質を仮想的な抗体標的と見なした。そのような仮想的抗体標的のホモログが抗生物質耐性A.バウマニ株では下方調節されるか存在しないことが文献で予想されるケースについては、標的をそれ以上追跡しなかった。例えば外膜タンパク質CarOは、カルバペネム耐性A.バウマニ株において下方調節されることが以前に示されている(Mussi他、Antimicrob. Agents Chemother.、第49巻(4):1432〜1440ページ、2005年4月)。標的が比較プロテオミクスと具体的標的選択によって同定されたにもかかわらず、CarOは臨床的にほとんど重要でない標的と見なされたため、それ以上調べなかった。
【0181】
1.2.3. 具体的標的の同定
【0182】
この方法は、回復期のA.バウマニ患者の血清に存在する抗体によって認識される具体的な標的に焦点を当てている。そこで外膜タンパク質を豊富にしたOMタンパク質調製物を2次元ゲル電気泳動(2DE)によって分離した。2DEは、等電フォーカシング(IEF)の後にSDS-ポリアクリルアミド・ゲル電気泳動(PAGE)工程を実施してOMタンパク質を分離することからなる。患者の血清によって認識されたタンパク質をイムノブロット分析によって明らかにした。さまざまな株が発現するタンパク質を同定できる可能性を大きくするため、少なくとも2つのA.バウマニ株のイムノブロットを比較し、分析したすべての株に存在するタンパク質を選択して質量分析によりタンパク質を同定した。それらタンパク質の特徴を個別に明らかにし、IT予測と文献検索によって選別を行なった。
【0183】
1.2.3.1 細菌培養物とOMタンパク質調製物の調製
【0184】
A.バウマニ株ATCC19606、BMBF-65、Berlin-95(表6参照)を用い、1.2.2.2.に記載されているようにしてOMタンパク質調製物を作った。
【0185】
1.2.3.2 二次元ゲル電気泳動(2DE)
【0186】
Ettan(登録商標)IPGphor(登録商標)3 IEFシステム(GE Healthcare社、イギリス国)を使用し、製造者の指示(GE Healthcare社)に従って等電フォーカシング(IEF)を実施した。簡単に述べると、125μlの再水和溶液(8Mの尿素(Sigma-Aldrich社)、2%のCHAPS(Sigma-Aldrich社)、40mMのDTT(Fluka社)、0.5%のIPG緩衝液(GE Healthcare社)、0.002%のブロモフェノール・ブルー)の中でImmobiline pH3-10 NL 7cm DryStrips(GE Healthcare社)を室温にて一晩再水和させた。OM調製物(20〜30μg)を50〜100μlの再水和溶液に溶かし、30秒間撹拌し、室温で数分間インキュベートした。次にサンプルを14000g超で2分間遠心分離し、上清を用いてIEFを実施した。デュープリケートでは、カップ装填システムを用いてサンプルを再水和されたImmobiline DryStripsに装填し、その上に鉱物油を載せた。300Vで1時間、300Vから1000Vまで線形勾配で30分間、1000Vから5000Vまで線形勾配で1時間30分間、5000Vで36分間という作業条件でタンパク質を分離した。ストリップをただちに-20℃で凍結させた。
【0187】
NuPAGE(登録商標)Novex 4-12% Bis-Tris ZOOM(登録商標)Gel(Invitrogen社、米国)と、10μlのNovex(登録商標)Sharp染色前タンパク質基準(Invitrogen社)を用い、製造者の指示(Invitrogen社)に従い、第2の次元を記載通りに正確に実施した。ゲルの1つのデュープリケートを用い、トリス-グリシン・ゲル(Invitrogen社)に関する製造者の指示に記載されているようにして、30Vで80分間という作業条件でニトロセルロース膜(Invitrogen社)にブロットした。ニトロセルロース膜をポンソーS溶液(Sigma-Aldrich社)で染色し、画像を記録した。この膜をブロッキング緩衝液(5%のスキムミルク(Fluka社)を含むPBS-T(0.05%のトゥイーン20(登録商標)(Sigma-Aldrich社)を含むPBS))の中で室温にて1時間インキュベートした。個々の患者の血清または混合物をブロッキング緩衝液の中で1:500に希釈し、膜とともに4℃で一晩インキュベートした。膜をPBS-Tの中で5分間ずつ3回洗浄し、ブロッキング緩衝液の中で1:1000に希釈したヒトIgG特異的二次抗体(Invitrogen社)とともに室温で1時間インキュベートした。膜を再び3回洗浄し、結合した抗体をTMB基質(Promega社)で検出した。試験したすべてのA.バウマニ株の中で所与の患者の血清によって検出されたタンパク質を選択してタンパク質を同定した。したがって2DEゲルの第2のデュープリケートの中のタンパク質がインスタント・ブルー(登録商標)(Expedeon社、ケンブリッジシャー、イギリス国)を用いて可視化された。ゲルのタンパク質パターンをポンソーSで染色した膜およびイムノブロット信号と比較することにより、イムノブロット中で陽性のタンパク質がゲル・デュープリケートの中でどこに位置するかを明らかにした。タンパク質のスポットを切除し、MS分析によってタンパク質を同定するまで-80℃で保管した。
【0188】
1.2.3.3. トリプシン消化物のMS分析
【0189】
機能ゲノミクス・センター(チューリッヒ、スイス国)のタンパク質分析グループが、標準的な手続きに従い、LC/ESI/MS/MSにより、切除したゲル断片からタンパク質を同定した。簡単に述べると、ゲルの断片を100μlの100mM NH4HCO3/50%アセトニトリルで2回洗浄し、次いで50μlのアセトニトリルで洗浄した。3つの上清をすべて廃棄し、10μlのトリプシン(10mMのトリス/2mMのCaCl2、pH 8.2の中に100ng)と20μlの緩衝液(10mMのトリス/2mMのCaCl2、pH 8.2)を添加し、37℃で一晩インキュベートした。上清を取り出し、ゲルの断片を100μlの0.1%TFA/50%アセトニトリルで2回抽出した。3つの上清を全部1つにまとめ、乾燥させた。サンプルを25μlの0.1%ギ酸に溶かし、オートサンプラー・バイアルに移してLC/MS/MSを実施した。次に5μlを注入してペプチドを同定した。ProteinLynx Global Server(スイスプロット、全種)とMascot(NCBInr、全種)という検索プログラムを用いてデータベース検索を実施した。
【0190】
1.2.3.4. データ分析と標的の選択
【0191】
A.バウマニのタンパク質であると同定され、外膜タンパク質であると予想されるかそう注釈づけられたタンパク質を仮想的な標的として選択した。そのような仮想的抗体標的のホモログが抗生物質耐性A.バウマニ株において下方調節されるか存在しないことが文献から予想される場合には、標的をそれ以上追跡しなかった。
【0192】
実施例2:IT予測
【0193】
タンパク質の構造をITで予測するため、チュービンゲンにある発生生物学のためのマックス-プランク研究所からのバイオインフォマティクス・ツールキットを使用した(Biegert他、Nucleic Acids Res.、第34巻、W335〜339ページ)。HHpredというツール(Soding他、Bioinformatics、2005年、第21巻、951〜960ページ)を用いて三次構造を予測した。このツールはクエリ(問い合わせ)配列の隠れマルコフ・モデル(HMM)を構築し、それを、注釈付きタンパク質ファミリー(例えばPFAM、SMART、CDD、COG、KOG)、または構造が既知のドメイン(PDB、SCOP)を表わすHMMのデータベースと比較する。オンライン予測のための設定として、HMMのデータベースpdb70_3Sep11を使用し、HHblitsをMSA生成法にセットして最大で3回の繰り返しと局所アラインメント・モードにした。真に陽性である確率が大きく(90%超)、クエリ配列の大半をカバーするホモロジーがある場合に、予想される構造を大きな確率で真であると見なした。多数のヒットが条件を満たす場合には、最も確率が大きい2つのヒットとE値およびP値が最も小さいものを三次構造の代表として用いた。配列番号2、4、6、8、10、12、14、16で予想される三次構造の代表例を表4に示してあり、それらはPubmedのオンライン・サーバー(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/(Wang Y.他、Nucleic Acids Res.、2007年1月;第35巻(データベース号):D298〜300ページ))からダウンロードすることができる。
【0194】
N末端リーダー配列の予測:
【0195】
隠れマルコフ・モデルと神経ネットワークを用いたグラム陰性細菌のためのSignalP 3.0サーバー(http://www/cbs.dtu.dk/services/SignalP、Bendtsen J.D.他、J. Mol. Biol.、第340巻:783〜795ページ、2004年)を利用してN末端リーダー配列を求めた。
【0196】
細胞以下タンパク質の位置の予測
【0197】
公開されているオンライン・ツールPsortb バージョン3.0(http://www.psort.org/psortb/、Yu他、2010年、Bioinformatics、第26巻(13):1608〜1615ページ)を用いて細胞以下の位置を予測した。“細菌”と“グラム陰性株”を予測の設定として選択した。タンパク質配列は、1文字アミノ酸コードとして入力した。
【0198】
シェドーム分析のため、公開されているオンライン・ツールSOSUIGramN(http://bp.nuap.nagoya-u.ac.jp/sosui/sosuigramn/sosuigramn_submit.html;Imai他、Bioinfomation、第2巻(9)、417〜421ページ(2008年))を使用した。そのときタンパク質配列は1文字アミノ酸コードとして入力した。
【0199】
アミノ酸保存と遺伝子優勢度の判断:
【0200】
遺伝子優勢度とアミノ酸保存を調べるため、分析するアミノ酸配列をゲノムblastオンライン・ツール“tblastn”(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sutils/genom_table.cgi、Cummings L.他、FEMS Microbiol. Lett.、2002年11月5日;第216巻(2):133〜138ページ;Altschul他、Nucl. Acid Res.、第25巻:3389〜3402ページ(1997年))に入力した。そのときクエリ配列としてアミノ酸1文字コードを用いた。A.バウマニの全ゲノム・データベースを選択した。デフォルトのBlastPパラメータを選択した(BLOSUM62 Matrix、ギャップをあけるコスト=11、ギャップを延長するコスト=1、複雑性の低いフィルタと組成に基づく統計を利用)。許容される期待値をデフォルトの設定である10に維持した。結果から、基準ゲノム(表4)の中での優勢度とアミノ酸一致の割合を標的の選択に使用した。
【0201】
クエリ配列としてDNA配列を用いる場合には、blastnを代わりに使用し、デフォルトの設定(BLOSUM62 Matrix、ギャップをあけるコスト=5、ギャップを延長するコスト=2、一致スコア=2、不一致スコア=-3)にした。プログラムでは、配列の長さに応じて複雑性の低いフィルタまたは複雑性の強いフィルタを使用した。
【0202】
実施例3:組み換え抗原を生成させるための発現ベクターの生成
【0203】
クローニングのための適切な制限部位を含むプライマを用い、A.バウマニ(ATCC19606)のゲノムDNAから、本発明のポリペプチドをコードしている核酸配列をPCRによって増幅した。PCR産物をフレーム内でクローニングし、発現ベクターpET-28a(+)(Novagen社、;ドイツ国)に入れると、N末端にヒスチジン・タグを有する組み換えタンパク質が得られた。すべてのオリゴヌクレオチドをMicrosynth社(バルガッハ、スイス国)で作製した。AB023、AB024、AB025、AB030、FimA、CsuAB、OmpAについては、N末端のシグナル・ペプチドのないコード配列(cds)全体をクローニングした。N末端リーダー配列を明らかにし、クローニングと組み換えタンパク質の発現のために除去した。AB031については、78個のアミノ酸からなる細胞外ループをクローニングした。なぜならそれが、この分子内にあって細胞外の側にあることが予測されているため抗体が近づくことのできる3個以上のアミノ酸からなる唯一の領域だったからである。発現プラスミドをMicrosynth社でシークエンシングし、PCRアーチファクトを除去した。配列番号33と34は、それぞれ、シークエンシング用プライマT7とT7 termのヌクレオチド配列を示している。実施例3.4に記載されているAB030の発現ベクターでは、配列番号35として表わされるヌクレオチド配列からなる別のシークエンシング用プライマを使用した。
【0204】
3.1 AB023のための発現ベクター(配列番号1)
【0205】
SignalP 3.0サーバーは、配列番号2の位置1〜26にN末端シグナル配列を予測した。配列番号1の位置76〜95と1241〜1254にそれぞれ結合するようにオリゴヌクレオチドoAB023wee GGCAGGATCCGCTGCTGCATTTGACCC(配列番号17)とoAB023as CGGAATGTCGACTTAGAATGCAGTTG(配列番号18)を設計した。クローニングのためオリゴヌクレオチドoAB023weeとoAB023asに付加した制限部位に下線を引いてある。Pfxポリメラーゼ(Invitrogen社)とオリゴヌクレオチドのペアoAB023wee/oAB023asを用い、配列番号1の位置76〜1254と相同なcdsをATCC19606のゲノムDNAからPCRによって増幅した。反応物50μlにつき、50ngのゲノムDNA、1UのPfxポリメラーゼ、1mMのMgSO4、2×pfx緩衝液、0.3mMのdNTP(それぞれ)、0.3μMのオリゴヌクレオチド(それぞれ)を使用した。PCR熱サイクル・プログラムは、(94℃、4分間)、35×(94℃、15秒間;55℃、30秒間;65℃、2分間)、(65℃、5分間)であった。QIAquickゲル抽出キット(QIAGEN社、28704)を製造者の指示に従って使用してPCR産物を精製した。精製したPCR産物と100ngのベクターpET-28a(+)を制限酵素BamHIとSalI(Fermentas社、ER0051、ER0641)を用いて消化させた後、QIAquick PCR精製キット(QIAGEN社、28104)を製造者の指示に従って使用してその消化産物を精製した。その後、50ngのベクターをPCR産物と1:2のモル比で室温にて2時間にわたって連結させた。そのとき、2単位のリガーゼ(Fermentas社、カナダ国)を合計で20μlと1×リガーゼ緩衝液(リガーゼを補足)を用いた。連結反応によって形質転換されたケミコンピテント大腸菌(DH5α)を、50μg/mlのカナマイシン(Applicem社)を含むLPA-プレートで標準的な手続き(Maniatis)を利用して選択した。耐性コロニーを選択し、市販されているキット(Promega社、ウィスコンシン州、米国、またはQIAGEN社、ドイツ国)を用いてプラスミドDNAを精製し、精製されたプラスミドをMicrosynth社(バルガッハ、スイス国)でシークエンシングした。そのときPCR産物の正しい組み込みを確認するため、標準的なシークエンシング用プライマT7(TAATACGACTCACTATAGG)とT7 term(TGCTAGTTATTG CTCAGCGG)を用いた。AB023に関する発現ベクターは、ベクターからのヒスチジン-タグで置換されたシグナル・ペプチド(アミノ酸1〜26)を除き、ATCC19606(D0CDE3)のアシネトバクターのゲノム配列から予想されるのと同じアミノ酸配列をコードしていた。
【0206】
3.2 AB024のための発現ベクター(配列番号3)
【0207】
SignalP 3.0サーバーは、配列番号4の位置1〜29にN末端シグナル配列を予測した。配列番号3の位置88〜105と1287〜1305にそれぞれ結合するようにオリゴヌクレオチドoAB024wee GGCAGGATCCGCAACTTCTGATAAAGAG(配列番号19)とoAB024as CAAAGTCGACTTAGAAGCTATATTTAGCC(配列番号20)を設計した。クローニングのためオリゴヌクレオチドoAB024weeとoAB024asに付加した制限部位に下線を引いてある。配列番号3の位置88〜1305と相同なcdsを、AB023の発現ベクターについて記載したのとまったく同様にしてPCRによって増幅し、クローニングしてpET-28a(+)に入れた。
【0208】
AB024のための発現ベクターは、ベクターからのヒスチジン-タグで置換したシグナル・ペプチド(アミノ酸1〜29)を除き、ATCC19606(D0CDN5)のアシネトバクターのゲノム配列から予想されるのと同じアミノ酸配列をコードしていた。
【0209】
3.3 AB025のための発現ベクター(配列番号5)
【0210】
SignalIP 3.0は、配列番号6の位置1〜21にN末端シグナル配列を予測した。配列番号5の位置67〜88と1422〜1446にそれぞれ結合するオリゴヌクレオチドoAB025wss TCGCGGATCCCAAGGTTTAGTGCTTAATAATGATG(配列番号21)とoAB025as CGACAA GCTTAGAAACCAAACATTTTACGCTC(配列番号22)を設計した。クローニングのためoAB025wssとoAB025asに付加した制限部位に下線を引いてある。制限酵素HindIII(Fermentas社、ER0501)をSalIの代わりに用いたという変更以外はAB023の発現ベクターについて説明したのとまったく同様にして配列番号5の位置67〜1446と相同なcdsをPCRによって増幅し、クローニングしてpET-28a(+)に入れた。
【0211】
AB025のための発現ベクターは、ベクターからのヒスチジン-タグで置換したシグナル・ペプチド(アミノ酸1〜21)を除き、ATCC19606(D0C8X7)のアシネトバクターのゲノム配列から予想されるのと同じアミノ酸配列をコードしていた。
【0212】
3.4 AB030のための発現ベクター(配列番号7)
【0213】
SignalIP 3.0は、配列番号8の位置1〜44にN末端シグナル配列を予測した。配列番号7の位置133〜150と2695〜2721にそれぞれ結合するオリゴヌクレオチドoAB030wss CTTGTGGATCCCAAAGTTCGGCTGAGACC(配列番号23)とoAB030as AAAGTCGACTT AAAGTTGTGGACCAATAAAGAAATG(配列番号24)を設計した。クローニングのためoAB030wssとoAB030asに付加した制限部位に下線を引いてある。PCRの伸長時間を長くして2分30秒にし、サイクル数を30回に減らしたという変更以外はAB023の発現ベクターについて説明したのとまったく同様にして配列番号7の位置133〜2721と相同なcdsをPCRによって増幅し、クローニングしてpET-28a(+)に入れた。
【0214】
AB030のための発現ベクターは、シグナル・ペプチド(アミノ酸1〜44)と、セリンの代わりにトレオニンをコードしている位置58のアミノ酸を除き、ATCC19606(D0C629)のアシネトバクターのゲノム配列から予想されるのと同じアミノ酸配列をコードしていた。他のアシネトバクター・バウマニ株(例えばAB307 - B7H123)におけるAB030のホモログはこの位置にトレオニンを含んでいるため、予想される配列からのこの違いは許容された。
【0215】
3.5 AB031Lのための発現ベクター(配列番号9)
【0216】
相同性検出と構造予測用のソフトウエアHHPred(http://toolkit.tuebingen.mpg.de/hhpred:Soding他、Nucleic Acids Res.、第33巻(ウェブ・サーバー号):W244〜248ページ、2005年7月1日)を用いてAB031の構造を予測した。AB031の構造相同体(Pubmedタンパク質ID 1ek9 - 外膜タンパク質TOLC)が、最大の確率(100%)と、最大の統計的有意性を持つE値(0)で予想された。アラインメントから、配列番号10の位置87〜164の78個のアミノ酸が細菌の細胞外の側に位置することが予測された。
【0217】
PCRによって78個のアミノ酸ループを増幅するため、オリゴヌクレオチドoAB031L1wss AAAGGATCCAGAGCATATGCTTTTCATAGTG(配列番号25)とoAB031L1as AAAGTCGA CTTAAGATGGTCGGACTACTTGGTCTTCT(配列番号26)を設計した。クローニングのためoAB031L1wssとoAB031L1asに付加した制限部位に下線を引いてある。Dream-Taqポリメラーゼ(Fermentas社、EP0701)とオリゴヌクレオチドのペアoAB031L1wss/oAB031L1asを使用し、78個のアミノ酸配列に相同なcdsをPCRによってATCC19606のゲノムDNAから増幅した。反応物50μlにつき、50ngのゲノムDNA、0.5Uのtaqポリメラーゼ、1×taq 緩衝液、0.2mMのdNTP(それぞれ)、0.2μMのオリゴヌクレオチド(それぞれ)を使用した。PCR熱サイクル・プログラムは、(94℃、3分間)、5×(94℃、15秒間;50℃、15秒間;72℃、2分間)、25×(94℃、15秒間;55℃、15秒間;72℃、2分間)、(72℃、5分間)であった。AB023の発現ベクターに関して説明したようにしてPCR産物をクローニングしてpET-28a(+)に入れた。AB031L1のための発現ベクターは、配列番号10の78個のアミノ酸配列から予想されるのと同じアミノ酸配列をコードしていた。
【0218】
3.6 FimAのための発現ベクター(配列番号11)
【0219】
SignalIP 3.0は、配列番号12の位置1〜20にN末端シグナル配列を予測した。配列番号11の位置61〜78と392〜407にそれぞれ結合するオリゴヌクレオチドoFimAwss GGACGAGGATCCGCTGATGGTACAATTACA(配列番号27)とoFimAas AACTAAGCTTT CAACCCATTGATTGAGCAC(配列番号28)を設計した。クローニングのためオリゴヌクレオチドに付加した制限部位に下線を引いてある。AB025の発現ベクターに関して記載したのとまったく同じようにして配列番号11の位置61〜407と相同なcdsをPCRによって増幅し、クローニングしてpET-28a(+)に入れた。
【0220】
FimAのための発現ベクターは、ベクターからのヒスチジン-タグで置換したシグナル・ペプチド(アミノ酸1〜20)を除き、ATCC19606(D0C767)のアシネトバクターのゲノム配列から予想されるのと同じアミノ酸配列をコードしていた。
【0221】
3.7 CsuABのための発現ベクター(配列番号13)
【0222】
SignalIP 3.0は、配列番号14の位置1〜23にN末端シグナル配列を予測した。配列番号13の位置70〜84と512〜537にそれぞれ結合するオリゴヌクレオチドoCsuABwss AATACTGGATCCGCTGTTACTGGTCAG(配列番号29)とoCsuABas AACTAAGCTTTTAG AAATTTACAGTGACTAATAGAG(配列番号30)を設計した。クローニングのためオリゴヌクレオチドoCsuABwssとoCsuABasに付加した制限部位に下線を引いてある。AB025の発現ベクターに関して記載してあるようにして配列番号13の位置70〜537と相同なcdsをPCRによって増幅し、クローニングしてpET-28a(+)に入れた。
【0223】
CsuABのための発現ベクターは、ベクターからのヒスチジン-タグで置換したシグナル・ペプチド(アミノ酸1〜23)を除き、ATCC19606(D0C5S9)のアシネトバクターのゲノム配列から予想されるのと同じアミノ酸配列をコードしていた。
【0224】
3.8 OmpAのための発現ベクター(配列番号15)
【0225】
SignalIP 3.0は、配列番号16の位置1〜22にN末端シグナル配列を予測した。配列番号15の位置67〜83と1064〜1071にそれぞれ結合するオリゴヌクレオチドoOmpAwss CTGCTGAATTCGGCGTAACAGTTACTCC(配列番号31)とoOmpAas CAAGAAAGCTTA TTATTGAG(配列番号32)を設計した。クローニングのためオリゴヌクレオチドoOmpAwssとoOmpAasに付加した制限部位に下線を引いてある。制限酵素EcoR1とHindIII(Fermantas社、ER0271、ER0501)を代わりに用いたという変更以外はAB023の発現ベクターに関して記載したのとまったく同様にして配列番号15の位置67〜1071と相同なcdsをPCRによって増幅し、クローニングしてpET-28a(+)に入れた。
【0226】
OmpAのための発現ベクターは、ベクターからの付加されたヒスチジン-タグで置換したシグナル・ペプチド(アミノ酸1〜22)を除き、ATCC19606(D0CDF2)のアシネトバクターのゲノム配列から予想されるのと同じアミノ酸配列をコードしていた。
【0227】
実施例4:組み換えタンパク質の発現と精製
【0228】
4.1 大腸菌における組み換えタンパク質の発現
【0229】
ヒスチジン・タグを有するタンパク質を組み換え発現させるため、上記の各発現ベクターを用いてケミコンピテント大腸菌BL-21(DE3)を形質転換し、50μg/mlのカナマイシン(Applicem社)を含むLPA-プレートで標準的な手続きを利用して選択した。50μg/mlのカナマイシンを含むLBの中で耐性コロニーを一晩培養したものを用い、50μg/mlのカナマイシンを含む0.5リットルのLBでの培養を0.2以下のOD600で開始した。OD600が0.5〜1になるまで、この培養物を37℃にて200rpmでインキュベートした。IPTG(Sigma-Aldrich社)を1mMの濃度で添加し、細菌を37℃にて200rpmでさらに3〜4時間インキュベートした。細菌を遠心分離(3500g、10分間)し、ペレットを-20℃で凍結させた。
【0230】
4.2 大腸菌細菌ペレットからの組み換えタンパク質の抽出
【0231】
細菌細胞ペレットを10mlの細胞破壊緩衝液(0.15MのNaCl、10mMのMgCl2、10mMのMnCl2、20mMのトリス-HCl、pH=8.0、10mg/lのDNアーゼ)に再懸濁させ、この懸濁液を1.2.2.2に記載したようにして氷の上で超音波処理し、氷の上で30分間インキュベートした。この懸濁液を遠心分離し(4℃にて4000g、10分間)、上清を廃棄し、力学的な力によってペレットを10mlの洗浄用緩衝液(0.15MのNaCl、20mMのトリス-HCl、pH=8.0、1%のトリトンX100)の中に再懸濁させた。この懸濁液を4℃にて8000gで10分間遠心分離した。ヒスチジン・タグ付きAB031L1の場合、上清に5mMのDTTを補足してAB031L1用結合緩衝液にし、その直後にNi-NTAアフィニティ精製で使用した。他のあらゆる組み換えタンパク質に関しては、上清を廃棄し、ペレットを20mlの冷たい脱イオン水の中に再懸濁させることによって2回洗浄し、遠心分離を繰り返した。洗浄したペレットは-20℃で凍結させ、将来使用するまで保管した。
【0232】
再懸濁させたペレットを室温で30分間回転させながらインキュベートすることにより、組み換えタンパク質を10〜20mlの結合緩衝液の中に抽出した。ヒスチジン・タグ付きFimAに関しては、結合緩衝液G(6MのGuHCl、0.5MのNaCl、20mMのイミダゾール(Merck社、ドイツ国)、5mMのDTT、20mMのトリス-HCl、pH=9.0)を用いてペレットを抽出したのに対し、ヒスチジン・タグ付きAB023、AB024、AB025、AB030、CsuAB、OmpAに関しては、結合緩衝液U(8Mの尿素、0.5MのNaCl、20mMのイミダゾール、5mMのDTT、20mMのトリス-HCl、pH=8.0)を用いてペレットを抽出した。
【0233】
4.3 組み換えヒスチジン・タグ付きタンパク質のNi-NTA精製
【0234】
HisTrap(登録商標)HPカラム(GE Healthcare社、17-5247-01)を用いてヒスチジン・タグ付きタンパク質をアフィニティ精製した。Aktaアヴァント装置(GE Healthcare社)を、システムの流速1ml/分、0.5MPaプレと0.3MPaデルタというカラム圧力限界で作動させて精製操作を実施した。カラムは、5カラム分の体積(CV)のランニング緩衝液で平衡させた。ランニング緩衝液は、DTTが存在しないこと以外は、各抗原のための結合緩衝液と同じ諸成分で構成した。抽出された組み換えタンパク質を含む結合緩衝液をカラムに適用し、記録されるUV 280nmの信号が安定するまでカラムをランニング緩衝液で洗浄した。20mM〜500mMの線形勾配のイミダゾールを含む10CVのランニング緩衝液を用い、結合したタンパク質をカラムから溶離させた。0.5mlの分画を回収し、SDS-PAGEとクーマシー染料によって組み換えタンパク質の存在、純度、量をそれぞれ分析した。組み換えタンパク質の純度と濃度が最大の分画をプールし、クーマシーで染色したSDS-PAGEゲル上で、滴定された組み換えタンパク質を滴定されたBSA基準(レーンごとに0.5、1、2、4、6μg)と比較することによって定量した。
【0235】
エタノールを90%(v/v)まで添加してFimAを沈殿させ、-80℃まで冷却し、14,000rcf超で4℃にて30分間遠心分離し、Speed Vacによって乾燥させた。FimAはペレットとして保管するか、-20℃で結合緩衝液Uに1mg/mlの濃度で溶かした。他のすべてのタンパク質は、ランニング緩衝液の中に1mg/mlまたは3mg/mlに希釈して-20℃で保管した。
【0236】
4.4 OmpAの構造復元
【0237】
McConnellら(McConnell, Michael J.;Pachon, Jeronimo(2011年):Protein Expression and Purification、第77巻(1)、S.98〜103ページ)に従ってOmpAの構造を復元した。簡単に述べると、ヒスチジン・タグ付きOmpA(1〜2mg/mlのものを1ml)を50mlの構造復元用緩衝液(10mg/mlのn-オクチル-β-D-グルコピラノシド、20mMのNaPi、pH 7.4)の中で50倍に希釈し、42℃で一晩インキュベートした。カットオフ値が10kDaのAmplicon Ultra-15遠心分離装置(Millipore社、マサチューセッツ州、米国)を使用してこの体積を濃縮して1mg/mlのOmpAにした。
【0238】
実施例5:ポリクローナル・ウサギ血清の生成と、ウサギIgGの精製
【0239】
抗原を個別に調製し、ウサギ免疫血清を生成させた。AB030をエタノールで沈殿させ、1Mの尿素緩衝液(1Mの尿素、10mMのトリス-HCl、pH=8.0、0.1%のSDS)の中に1.2mg/mlの濃度で再懸濁させた。AB031-L1を沈殿させ、ペレットを1Mの尿素緩衝液の中に2.5mg/mlの濃度で溶かした。抗原(それぞれ1.5mg)をBiogenes社(ベルリン、ドイツ国)に送り、そこでウサギ抗血清を生成させた。免疫化の前にそれぞれのウサギ免疫前血清を採取した。各抗原について2羽のウサギを免疫化し、免疫化の7日後と14日後に追加免疫化した。28日目にウサギを追加免疫化し、20mlの血清を調製し、組み換えタンパク質を用いてELISAとイムノブロットによって分析した。全血清は免疫化の42日後から56日後の間に調製した。血清は、保存剤として0.02%のチメロサールを含んでいた。
【0240】
標準的なプロトコルを利用し、プロテインAアフィニティ精製によって血清から全IgGを精製した。精製した全IgGは、トリス-グリシン緩衝液(pH=7.5)、250mMのNaCl、0.02%のチメロサールの中、またはトリス-グリシン緩衝液(pH=7.5)の中にあった。
【0241】
透析によってチメロサールを除去した後、生きた細菌で実験を行なった。簡単に述べると、10kDaのカットオフ値を持つSlide-A-Lyzer透析カセット(Thermo Fisher Scientific社、マサチューセッツ州、米国)を使用して血清と全IgGを1〜2 I PBSに対して室温で30分間にわたって2回透析し、4℃で一晩1回透析した。
【0242】
実施例6:イムノブロット分析
【0243】
基準株(大腸菌、緑膿菌、A.バウマニ)またはA.バウマニの臨床単離体をLB培地の中で増殖させて(特に断わらない限り)定常期または対数増殖期にし(OD600が0.3〜1.2)、4000gで5〜10分間遠心分離した。細菌細胞ペレットを水の中に再懸濁させ、同体積の2×SDSサンプル緩衝液(0.1Mのトリス-HCl、pH=6.8、4%(w/v)のSDS、0.2%(w/v)のブロモフェノール・ブルー、20%のグリセロール、0.2MのDTT)または2×Novex(登録商標)トリス-グリシンSDSサンプル緩衝液と最終濃度が12 OD600/mlに等しい還元剤(LC2676、Invitrogen社)を用いて溶解させ、10分間にわたって98℃に加熱した。精製したタンパク質をSDSサンプル緩衝液の中に希釈し、濃度を10μlにつき1〜2μgまたはそれと同等なOD600/mlにした。Novex(登録商標)4〜20%トリス-グリシン・ゲル(Invitrogen社)のレーンごとに10μlの細菌懸濁液または精製した抗原を装填した。5〜10μlの分子量基準(SeeBlue(登録商標)染色前タンパク質基準、またはNovex(登録商標)Sharp染色前タンパク質基準、Invitrogen社)を別のレーンに装填した。タンパク質の分離は、SDS-PAGEを製造者の支持に従って用い、運転条件を140Vで90分間(Invitrogen社)にして実施した。精製した抗原だけを分離する場合、NuPAGE(登録商標)4%〜20%ビス-トリス・ゲル(NP0322BOX、Invitrogen社)を代わりに使用し、製造者による変性し還元されたサンプルのための指示に従ってMESランニング緩衝液(Invitrogen社)を用いて分離した。
【0244】
ゲルは、上記のようにしてクーマシーで染色するか、2DEに関して上に説明したようにニトロセルロース膜にブロットしてポンソーS染色とイムノブロット分析によって分析した。ウサギ抗血清は1:500〜1:1000に希釈し、ヒト血清は1:500に希釈した。二次抗体であるHRP-ヤギ抗ウサギIgG(Sigma-Aldrich社)とHRP-ヤギ抗ヒトIgG(Invitrogen社)は1:2000に希釈して用いた。
【0245】
イムノブロット分析の結果を図3図4図5図6C図9Cに示す。
【0246】
実施例7:ELISA
【0247】
各抗原性ポリペプチドをコーティング用緩衝液の中で1μg/mlに希釈し、ウエル1つにつき0.1mlの割合で入れた96ウエルのELISA用プレート(Nun社、439454)を4℃で一晩、または室温で2時間コーティングした。ヒスチジン・タグ付きAB023、AB024、AB025、AB030、FimA、CsuABでは尿素ランニング緩衝液(8Mの尿素、0.5MのNaCl、20mMのイミダゾール、20mMのトリス-HCl、pH 8.0)をコーティング用緩衝液として用いた。構造が復元されたOmpAとAB031 L1ではPBSをコーティング用緩衝液として用いた。
【0248】
被覆されたELISA用プレートをPBS-T(ウエルごとに0.35ml)で3回洗浄した(Skan washer 400、Skatran社を使用)。ヒト血清またはウサギ血清を一次抗体として用いた。一次抗体はPBS-Tの中に希釈し、0.1mlを各ウエルに添加した。一次抗体として用いる前に、ヒト血清は1:200の希釈度から滴定を開始し、ウサギ抗血清は1:100または1:200の希釈度から滴定を開始した。ELISAプレートを一次抗体とともに室温で1時間インキュベートした後、PBS-Tの中で3回洗浄した。HRP-ヤギ抗ヒトIgG(Invitrogen社)またはHRP-ヤギ抗ウサギIgG(Sigma-Aldrich社)を二次抗体としてそれぞれ1:2000、1:5000の希釈度で用いた。ELISAプレートを再びPBS-Tの中で3回洗浄し、結合したHRPを、O-フェニレンジアミン(Fluka社)の色彩変化によって検出した。1MのHClを用いて反応を停止させ、490nmでODを測定することによって定量した。
【0249】
一次抗体としてヒト血清を使用すると標的を検出できるのに対し、ウサギ血清の使用によって標的の免疫原性が証明される。
【0250】
ELISAの結果を図1図2に示す。
【0251】
実施例8:細菌のFACS分析
【0252】
定常期または対数増殖期の細菌のOD600を測定した。0.5%(w/v)のBSAを含むブロッキング剤としてのPBSの中に細菌を希釈してOD600を0.1にした。丸底の96ウエル細胞培養皿(Corning社、ニューヨーク州、米国)の中で反応ごとに0.05mlの細菌懸濁液を使用し、0.05mlの一次抗体と組み合わせた。0.2mlのブロッキング剤の中に細菌を再懸濁させ、1700gで10分間遠心分離し、上清を除去することからなる2回の洗浄サイクルにより、結合しなかった抗体を除去した。必要に応じてこの段階で、氷の上の4%(w/v)ホルムアミド/PBSの中で10分間インキュベートすることにより、結合した抗体を固定した。固定剤を使用した場合には、細菌を2回洗浄した。二次抗体であるヤギ抗ヒトIgG-Alexa Fluor 488、ヤギ抗ヒトIgm-Alexa Fluor 488、ヤギ抗ウサギIgG-FITC(Invitrogen社)のいずれかを1:1000の希釈度にしてウエル1つにつき0.1ml添加し、30分間インキュベートした。細菌を再び洗浄し、FACS Caliburを用いて分析した。細菌の集団をゴミから、そして弱い蛍光信号を強い蛍光信号から最適に識別できるように装置の設定を調節した(前方散乱;電圧E01、増幅利得:7.0, log。側方散乱:電圧659、増幅利得:1.0, log。Fl-1:電圧767、増幅利得:1.0, log)。陰性対照として洗浄用緩衝液だけを使用し、一次抗体または免疫前血清は使用しなかった。患者の血清またはウサギ免疫血清を陽性対照(強い信号)として使用した。すべての溶液(細菌溶液は除く)を殺菌濾過してFACSのアーチファクトを減らした。
【0253】
結果を図6A図6B図7に示す。
【0254】
実施例9:免疫蛍光分析(IFA)
【0255】
さまざまな方法を用いてIFAのための細菌を調製した。LBAプレートまたはBHIプレートからの細菌のコロニーを50μlの水の中に高密度(OD600>1)で再懸濁させ、10ウエルのガラス・スライド(MP Biomedicals社、米国)のウエルに塗布した。液体細菌培養物をスライドに直接塗布した。塗布物を空中で乾燥させ、4%(w/v)のホルムアルデヒドを含むPBSを用いて10分間固定した後、PBSを用いた3つの洗浄ステップを実施した。あるいは細菌は-20℃のアセトンの中で10分間固定し、空中で乾燥させた。IFAのための細菌を調製する別の方法は、液体細菌培養物をガラス・スライド(BD Biosciences社、ニュージャージー州、米国)上で直接増殖させてバイオフィルムの形成を可能にするというものであった。培養物を取り出し、ガラス・スライドに付着させた細菌を上記のようにして固定した。
【0256】
IFAは以下のようにして実施した。固定した細菌をブロッキング剤(1%(w/v)のBSAを含むPBS)とともに少なくとも30分間インキュベートした。緩衝液を、ブロッキング剤の中に希釈した一次抗体で置き換えた。ウサギ免疫血清を1:50〜1:500に希釈した。細菌を1時間インキュベートした後、PBSで3〜4回洗浄した。ブロッキング剤の中に1:200〜1:400の希釈度で希釈した二次抗体(ヤギ抗ウサギIgG-FITC(F2765、Invitrogen社))を45分間インキュベートし、PBSで3〜4回洗浄した。DAPIを含むVectashield(H-1200、Vector Labs社)をスライドの上に載せてカバー・スライドとマニキュア液で封止した。ベルン大学の解剖学研究所(スイス国)でスライドを分析し、Nikonの蛍光顕微鏡“fluonik”の100倍油浸漬対物レンズを用いて写真を撮影した。すべてのステップを室温で実施した。
【0257】
結果を図8Bに示す。
【0258】
実施例10:凝集アッセイ
【0259】
定常期の細菌をPBSの中に希釈してOD600を約3にした。対数増殖期の細菌を遠心分離によって濃縮し、PBSに再懸濁させてOD600を約3にした。ウサギ血清から精製した全IgGについては、マルチウエル・ガラス・スライド上で10μlの細菌懸濁液を、濃度が0.2〜1.5mg/mlの同体積の抗体と混合した。濃度は、個々の抗体の性質によって異なっていた。モノクローナル抗体とアフィニティ精製したポリクローナル抗体は、必要とされる濃度が免疫血清から精製した全IgGと比べてはるかに低い。スライドをやさしくゆすり、室温で10分間インキュベートした。Moticシステム顕微鏡(B1シリーズ)を10〜40倍の倍率で用いて凝集を観察した。
【0260】
結果を図8Aに示す。
【0261】
実施例11:直接FimAプルダウン・アッセイ
【0262】
床の体積が20μlのプロテインAビーズ(POROS(登録商標)MabCapture(登録商標)、Applied Biosystems(登録商標)社、カリフォルニア州、米国)を遠心分離(300g、1分間)によって1mlのPBSの中で2回洗浄し、上清を除去した。ビーズを室温にて0.2mlのPBSの中で10μgの抗体とともに30分間、30rpmでインキュベートすることにより、ビーズを抗体で被覆した。ビーズを1mlのPBSの中で再び洗浄し、A.バウマニのLB一晩培養物の上清0.4mlの中に入れた。細菌培養物を4000g超で5分間遠心分離することによって上清を調製し、その上清を注射器のための0.2μmのフィルタ(Nalgene社、#194-2520)で濾過した。混合物を室温にて30rpmで1時間インキュベートした。ビーズを1mlのPBSの中で再び2回洗浄した。最後に、ビーズをNuPAGE(登録商標)4%〜20%ビス-トリス・ゲル(NP0322BOX、Invitron社)のための30μlの溶解緩衝液に再懸濁させ、98℃で5分間インキュベートした。上記のように製造者による変性し還元された4%〜20%ビス-トリス・ゲルのための指示に従ってMESランニング緩衝液(IM-8042 Version H、Invitron社)を用いてサンプルをイムノブロットで分析し、ナイーブFimAの存在を調べた。FimAに対するウサギ免疫血清を使用してFimAを検出した。
【0263】
結果を図11に示す。
【0264】
実施例12:動物における能動的免疫化と受動的免疫化
【0265】
Eveillardら(2010年、Journal of Infection、第60巻(2)、S.154〜161ページ)が以前に開発した能動的免疫化と受動的免疫化の研究を、マウスのアシネトバクター肺炎モデルを用いて実施した。そのとき、生存率、臨床スコア、体重を読み取り値として使用した。
【0266】
12.1 能動的免疫化
【0267】
0日目、14日目、28日目、42日目に、10μgの抗原を含む0.1mlの50%(v/v)のゲルブ・助剤(GERBU Biotechnik GmbH社、ドイツ国)/PBSを腹腔内に注射して各マウス(135 C3H/HeNマウス、18〜20g、週齢6週間、Elevage Janvier社、サルト、フランス国)を免疫化した。陰性対照として、50%(v/v)のゲルブ・助剤/PBSを用いて、またはPBSだけを用いてマウスを免疫化した。
【0268】
49日目に、Marie Laure Joly-GuillouとMathieu Eveillardの実験室で確立されたプロトコル(Eveillard他、Journal of Infection、第60巻(2)、S.154〜161ページ、2010年)に従って肺炎モデルを開始した。簡単に述べると、A.バウマニを接種する4日前または3日前にシクロホスファミド(Baxter社、イリノイ州、米国)を腹腔内注射して(体重1kgにつき150mgが含まれた0.15ml)マウスを一時的に好中球が減少した状態にした。イソフルランを純粋な酸素と組み合わせてこのマウスを麻酔した。以前に報告されているようにして(Joly-Guillou他、Antimicrob. Agents Chemother.;第41巻(2):345〜351ページ、1997年2月)A.バウマニを気道内に点滴した。簡単に述べると、気道に絎針を挿入し、108cfu/mlを含む50μlの細菌懸濁液を注入した。接種原のサイズを定量的培養によって確認した。
【0269】
接種原を気道内に点滴した後、マウスをケージに戻し(0日目)、自発的な経過を評価するために観察した。この経過は毎日評価し(0日目を含む)、死亡率と、マウスの体重変化と、臨床スコアに注意した。臨床スコアは、マウスの運動(自発的運動がスコア=0、刺激したときだけ運動する場合にはスコア=1、運動しない場合にはスコア=2)と、結膜炎の進展(結膜炎がないとスコア=0、結膜炎があるときにはスコア=1)と、毛の外観(毛が正常だとスコア=0、毛が乱れているとスコア=1)に基づいて構成されている。結局のところ、臨床スコアは、正常なマウスの0から深刻な病気の4まで変化する。
【0270】
結果を図12に示す。
【0271】
12.2 受動的免疫化
【0272】
Marie Laure Joly-GuillouとMathieu Eveillardの実験室で確立されたプロトコル(Eveillard他、Journal of Infection、第60巻(2)、S.154〜161ページ、2010年)に従って肺炎モデルを開始した。簡単に述べると、A.バウマニを接種する4日前または3日前にシクロホスファミド(Baxter社、イリノイ州、米国)を腹腔内注射して(体重1kgにつき150mgが含まれた0.15ml)マウスを一時的に好中球が減少した状態にした。0日目、A.バウマニを接種する3時間前に0.15mlのウサギ抗血清、ナイーブ・ウサギ血清、PBSのいずれかをマウスの腹腔内に受動的に接種した。マウスに麻酔することから始め、能動的免疫化プロトコルと同様にして肺炎を誘導した。同様に、死亡率と、臨床スコアと、マウスの体重変化をモニタした。結果を図11図13に示す。
【0273】
実施例13:mAbの生成
【0274】
フィコール-パック勾配遠心分離によって40mlの全血サンプルから精製した末梢血リンパ球を、細胞培地(IMDM/ハムのF12 50:50;10%FCS)3mlと、EBV分泌B-95-8マーモセット細胞の細胞培養物の上清3mlの中に再懸濁させた。37℃かつ6.5%のCO2の条件で3〜15時間インキュベートし、HANKS緩衝液の中で洗浄/遠心分離ステップを1回実施した後、くっついていない細胞とくっついている細胞を、1μg/mlのシクロスポリンA±補足物を含む18mlの細胞培地に移した。細胞をウエル1つにつき200μlの体積で96ウエルの丸底プレートに入れ、迅速に成長するコロニーであるリンパ芽球様細胞系(LCL)を同定できて、pHがずれることで培地が黄色になるまで、1〜3週間培養した。細胞の上清をELISAによって分析し、抗原特異的抗体を探した。その後、抗体産生細胞を、次の融合手続きに十分な細胞数になるまで継代培養した。2.5×105個または1.25×105個のLCLと、同量の融合パートナー細胞(例えばマウス-ヒト異種骨髄腫LA55)を用いて1回電気細胞融合させる。指数関数的に増殖しているときに細胞を回収し、PBSで1回洗浄した後、電気細胞融合用緩衝液で洗浄する。LCLの上清を4℃で保管し、あとでスクリーニングELISAにおいて陽性対照として使用する。2種類の細胞をまとめた後、細胞を遠心脱水し、出現したペレットを200μlの電気融合用緩衝液の中に注意深く再懸濁させる。融合のため、細胞混合物をMultiporator(Eppendorf社)のHelix-Fusion室に移し、細胞融合プログラム(アラインメント:5ボルト、30秒間;パルス:30ボルト、30秒間、パルス数:3;アラインメント後:5ボルト、30秒間)を実施する。その後、細胞を室温で5〜10分間インキュベートし、FCSを含まない4mlの細胞培地に再懸濁させ、24ウエルのプレートの4つのウエルに分配した。37℃かつ6.5%のCO2の条件で3時間インキュベートした後、細胞懸濁液をプールし、4mlの選択培地と混合し、96ウエルの丸底プレートに移した(200μl/ウエル)。1週間後、培地を、選択試薬を含まない細胞培地と交換する。その後、迅速に増殖するハイブリドーマのコロニーを同定できるまで、細胞を培養する。次に、上清をELISAによって分析し、特異的抗体の存在を調べる。同定されたハイブリドーマを増殖させ、単一の細胞を2回培養することによって再クローニングし、増殖のため低温で保管する。
【0275】
実施例14:殺菌アッセイ
【0276】
CO2が6%の細胞培養インキュベータの中で、HL-60細胞(ATCC CCL-240)をIMDM(Sigma-Aldrich社)またはRPMI-1640(Sigma-Aldrich社)の中で37℃にて培養した。それぞれの培地は、熱で不活性化した(56℃で40分間)20%(v/v)のウシ胎仔血清(FCS)(Biochem社、ベルリン、ドイツ国)と2mMのGlutaMAX-I(Gibco/Invitrogen社、米国)を含んでいる。細胞を3〜4日ごとに継代培養して新鮮な細胞培養フラスコに入れ、細胞培養物の80%〜90%を新鮮な培地で置き換えることにより、細胞を105〜106個/mlの細胞密度に維持した。HL-60細胞を4ヶ月以上培養することはなかった。
【0277】
殺菌アッセイの4日前に、40mlの培地中の8×106個のHL-60細胞に310μlのジメチルホルムアミド(Sigma-Aldrich社、ドイツ国)を添加することによってHL-60細胞を分化させた。細胞を37℃で4日間インキュベートした。
【0278】
殺菌アッセイの当日、LBに含まれるA.バウマニの一晩培養物を3mlの新鮮なLB培地の中で1:150に希釈し、37℃かつ200rpmで3時間インキュベートすると、OD600が0.5〜1.5になった。0.1(w/v)%のBSAを含むあらかじめ室温に温めたIMDMの中でこの培養物を希釈してOD600を3.8×10-6にした。抗体または血清と、それに対応する対照を同様にしてPBSの中で希釈した。96ウエル細胞培養プレートの1つのウエルの中で、希釈した各抗体(20μl)を80μlの細菌懸濁液とまとめた。抗体の濃度は、使用したA.バウマニ株、血清、抗体によって異なっていた。ウサギ免疫血清(αCsuAB)またはナイーブ・ウサギ血清からの全IgGの抗体(ATCC1960とCsuE KO6については0.5μg/ウエル、Ruh134については5μg/ウエル)を使用した。
【0279】
抗体と細菌を37℃にて130rpmで20分間インキュベートした。分化したHL-60細胞(60μl)または培地と、補体としての20μlの子ウサギ血清(BSR)(Charles River Wiga GMBH社、ドイツ国)、または56℃で40分間インキュベートすることによって以前に熱で不活性化したBRS(HBRS)を添加し、ウエルを37℃かつ130rpmで120分間インキュベートした。コロニー形成単位(cfu)を以下のようにして求めた。各ウエルを完全に再懸濁させ、10μlの希釈していない懸濁液と、1:5に希釈した懸濁液をLBA上でプレーティングした。LBA-プレートを37℃インキュベートし、16〜20時間後にcfuをカウントした。
【0280】
結果を図9A図9Bに示す。
【0281】
実施例15:ペプチド/エピトープのマッピング
【0282】
ウサギ免疫血清と対応する免疫前血清のペプチド・マッピングは、Pepperprint GmbH社(ハイデルベルク、ドイツ国)がマイクロアレイ分析によって実施した。配列番号2、4、6、8、10、12、14、16から、5個、8個、15個のアミノ酸からなる可能なあらゆる直線状ペプチド断片が合成された。PEGMAコポリマー・フィルム上で断片をβ-アラニンとアスパラギン酸のリンカーで被覆した。配列番号2、4、6、8、10、12、14、16からのペプチド断片のデュープリケートからなるマイクロアレイを、ウサギ免疫前血清と、対応する組み換えタンパク質に対する特異的免疫血清で染色した(例えば配列番号12のペプチド断片で覆われたマイクロアレイを、配列番号2の組み換えタンパク質で免疫化したウサギの免疫前血清と免疫血清で染色した)。組み換えタンパク質の作製は実施例3と4に記載されている。免疫血清の作製は実施例5に記載されている。抗体染色手続きは以下のようにして実施した。ペプチド断片で覆われたペプチド・マイクロアレイを基準緩衝液(PBS、pH 7.4+0.05%のトゥイーン20)の中で30分間あらかじめ膨潤させ、ブロッキング緩衝液(Rocklandブロッキング緩衝液B-070)の中に30分間入れた後、1:1000に希釈したウサギ免疫前血清とともに500rpmで震盪させながら4℃で16時間インキュベートした。基準緩衝液の中で1分間ずつ2回洗浄した後、マイクロアレイを、1:5000に希釈した二次ヤギ抗ウサギIgG(H+L)DyLight680抗体で室温にて30分間染色した。ペプチド・マイクロアレイを基準緩衝液で1分間ずつ2回洗浄し、蒸留水でリンスし、空気流の中で乾燥させた。Odysseyイメージング・システムを21μmの解像度かつ緑/赤の強度を7/7にして用いて読み取りを実施した。読み取り後、対応する免疫血清を用いて事前膨潤ステップから始めて染色手続きを繰り返した。ブロッキング緩衝液の中でのインキュベーションは省略した。対応する免疫前血清と免疫血清の信号強度を比較した。PepSlide(登録商標)Analyzerからのソフトウエア・アルゴリズムを用いて各ペプチドの染色強度の中央値を計算し、デュープリケートを平均し、標準偏差を計算した。平均強度に基づいて強度マップを作成し、ペプチド・マップ中の特異的バインダを同定した。ペプチド・マップと強度マップは、ウサギ免疫血清と特異的に相互作用したコンセンサス・モチーフと顕著なペプチドを同定するためのマイクロアレイ走査の目視検査結果と相関していた。
【0283】
実施例15の結果
【0284】
ペプチド断片の免疫原性を確認するため、実施例15に記載されているようにしてマイクロアレイ分析を実施した。配列番号2、4、6、8、10、12、14、16を、5個、8個、15個のアミノ酸からなる線形ペプチド断片にし、特異的ウサギ免疫血清を用いて相互作用を分析した。すべてのウサギ免疫血清に対するこの方法により、さまざまな長さの抗体エピトープが同定された。大半のコンセンサス・モチーフは5個のアミノ酸で構成されていたが、他のものは長さがアミノ酸6個、または7個、または8個であった。対照として使用した免疫前血清は、無視できるバックグラウンドしか示さなかった。8個のアミノ酸からなる断片に基づくと、配列番号14に特異的な免疫血清は、単一エピトープ・コンセンサス・モチーフPVDFTVAI(配列番号36)を示したため、モノクローナル反応性を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12-1】
図12-2】
図13
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]