特許第6545986号(P6545986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6545986
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】固体電解質型燃料電池セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20190705BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20190705BHJP
   H01M 8/1213 20160101ALI20190705BHJP
   H01M 8/0202 20160101ALI20190705BHJP
【FI】
   H01M4/86 U
   H01M8/12 101
   H01M4/86 T
   H01M8/1213
   H01M8/0202
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-57215(P2015-57215)
(22)【出願日】2015年3月20日
(65)【公開番号】特開2016-177987(P2016-177987A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2017年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(74)【代理人】
【識別番号】100139066
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】寺西 真哉
(72)【発明者】
【氏名】小島 邦裕
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聡司
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−267631(JP,A)
【文献】 特開2011−113840(JP,A)
【文献】 特開平08−180885(JP,A)
【文献】 特開2004−230322(JP,A)
【文献】 特開平03−193117(JP,A)
【文献】 特表2008−500540(JP,A)
【文献】 特開平01−236297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86−4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極層(2)と、電解質層(3)と、反応防止層(4)と、空気極層(5)とがこの順で積層されてなる固体電解質型燃料電池セル(1)であって、
前記空気極層は、前記反応防止層側から電極反応層(50)、SOx吸着層(51)、及び集電層(52)が順に積層されて構成され
前記SOx吸着層の構成元素中のアルカリ土類金属の割合が、前記電極反応層及び前記集電層のそれぞれの構成元素中のアルカリ土類金属の割合よりも大きく、
前記集電層の構成元素中のアルカリ土類金属の割合が、前記電極反応層の構成元素中のアルカリ土類金属の割合よりも小さいことを特徴とする固体電解質型燃料電池セル。
【請求項2】
燃料極層(2)と、電解質層(3)と、反応防止層(4)と、空気極層(5)とがこの順で積層されてなる固体電解質型燃料電池セル(1)であって、
前記空気極層は、前記反応防止層側から電極反応層(50)、SOx吸着層(51)、及び集電層(52)が順に積層されて構成され、
前記SOx吸着層の構成元素中のアルカリ金属の割合が、前記電極反応層及び前記集電層のそれぞれの構成元素中のアルカリ金属の割合よりも大きいことを特徴とする固体電解質型燃料電池セル。
【請求項3】
請求項に記載の固体電解質型燃料電池セルにおいて、
前記集電層の構成元素中のアルカリ金属の割合が、前記電極反応層の構成元素中のアルカリ金属の割合よりも小さいことを特徴とする固体電解質型燃料電池セル。
【請求項4】
燃料極層(2)と、電解質層(3)と、反応防止層(4)と、空気極層(5)とがこの順で積層されてなる固体電解質型燃料電池セル(1)であって、
前記空気極層は、前記反応防止層側から電極反応層(50)、SOx吸着層(51)、及び集電層(52)が順に積層されて構成され、
前記SOx吸着層は、構成元素中のアルカリ土類金属の割合の異なる複数種の材料により構成されていることを特徴とする固体電解質型燃料電池セル。
【請求項5】
燃料極層(2)と、電解質層(3)と、反応防止層(4)と、空気極層(5)とがこの順で積層されてなる固体電解質型燃料電池セル(1)であって、
前記空気極層は、前記反応防止層側から電極反応層(50)、SOx吸着層(51)、及び集電層(52)が順に積層されて構成され、
前記SOx吸着層は、構成元素中のアルカリ金属の割合の異なる複数種の材料により構成されていることを特徴とする固体電解質型燃料電池セル。
【請求項6】
燃料極層(2)と、電解質層(3)と、反応防止層(4)と、空気極層(5)とがこの順で積層されてなる固体電解質型燃料電池セル(1)であって、
前記空気極層は、前記反応防止層側から電極反応層(50)、SOx吸着層(51)、及び集電層(52)が順に積層されて構成され、
前記SOx吸着層は、前記電極反応層及び前記集電層よりも厚いことを特徴とする固体電解質型燃料電池セル。
【請求項7】
燃料極層(2)と、電解質層(3)と、反応防止層(4)と、空気極層(5)とがこの順で積層されてなる固体電解質型燃料電池セル(1)であって、
前記空気極層は、前記反応防止層側から電極反応層(50)、SOx吸着層(51)、及び集電層(52)が順に積層されて構成され、
前記SOx吸着層の気孔率は、前記電極反応層及び前記集電層のそれぞれの気孔率よりも高いことを特徴とする固体電解質型燃料電池セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料極層と、電解質層と、反応防止層と、空気極層とがこの順で積層されてなる固体電解質型燃料電池セル(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の燃料電池セルとしては、例えば特許文献1に記載の燃料電池セルがある。特許文献1に記載の燃料電池セルでは、空気極層にプロブスカイト型複合酸化物が用いられている。プロブスカイト型複合酸化物としては、例えばAサイトにストロンチウム(Sr)とランタン(La)とが共存するランタンストロンチウムコバルタイト(LSC)が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−26926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の燃料電池セルのように空気極層にSr等のアルカリ土類金属が存在する場合、当該アルカリ土類金属に空気中のSOx(硫黄酸化物)が付着し、空気極層が被毒するおそれがある。すなわち、空気極層の触媒活性が低下するおそれがある。また、空気極層が被毒すると、空気極層の電子導電性が低下して集電面の接触抵抗が増加するため、燃料電池セルとしての発電性能が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、空気中のSOxに起因する空気極層の被毒を抑制することのできる固体電解質型燃料電池セルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、燃料極層(2)と、電解質層(3)と、反応防止層(4)と、空気極層(5)とがこの順で積層されてなる固体電解質型燃料電池セル(1)では、前記空気極層が、前記反応防止層側から電極反応層(50)、SOx吸着層(51)、及び集電層(52)が順に積層されて構成されている。
上記課題を解決する一態様による個体電解質型燃料電池セルでは、SOx吸着層の構成元素中のアルカリ土類金属の割合が、電極反応層及び集電層のそれぞれの構成元素中のアルカリ土類金属の割合よりも大きく、集電層の構成元素中のアルカリ土類金属の割合が、電極反応層の構成元素中のアルカリ土類金属の割合よりも小さい。
上記課題を解決する他の態様による個体電解質型燃料電池セルでは、SOx吸着層が、構成元素中のアルカリ土類金属の割合の異なる複数種の材料により構成されている。
上記課題を解決する他の態様による個体電解質型燃料電池セルでは、SOx吸着層が、構成元素中のアルカリ金属の割合の異なる複数種の材料により構成されている。
上記課題を解決する他の態様による個体電解質型燃料電池セルでは、SOx吸着層が、電極反応層及び集電層よりも厚い。
上記課題を解決する他の態様による個体電解質型燃料電池セルでは、SOx吸着層の気孔率が、電極反応層及び集電層のそれぞれの気孔率よりも高い。
【0007】
この構成によれば、電極反応層により触媒活性を、また集電層により電子導電性を確保することができる。さらに、SOx吸着層により空気中のSOxを選択的に吸着することができる。すなわち、空気極層の機能を確保しつつ、空気極層のSOxの被毒を抑制することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、空気中のSOxに起因する空気極層の被毒を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】固体電解質型燃料電池セルの一実施形態についてその断面構造を示す断面図である。
図2】固体電解質型燃料電池セルの他の実施形態についてその断面構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、固体電解質型燃料電池セルの一実施形態について説明する。
【0011】
図1に示されるように、本実施形態の固体電解質型燃料電池セル1は、燃料極層(アノード電極層)2と、電解質層3と、反応防止層4と、空気極層(カソード電極層)5とがこの順で積層された構造を有している。以下、固体電解質型燃料電池セル1を「SOFC1」と略記する。SOFC1は、燃料極層2に供給される燃料と、空気極層5に供給される空気中の酸素との化学反応に基づき発電する。本実施形態では、燃料極層2に供給される燃料として水素が用いられている。SOFC1により発電される電力は、例えば蓄電池等の負荷10に供給される。
【0012】
燃料極層2は、例えばNi(ニッケル)とYSZ(イットリア安定化ジルコニア)とを含んで構成される多孔質の薄板状の焼成体からなる。燃料極層2は、SOFC1を構成する各層2〜5のうち、最も大きい厚さを有しており、SOFC1の支持基板としての機能も有している。燃料極層2は、空気極層5から電解質層3を介して移動する酸素イオン(O2-)と、燃料としての水素との間で化学反応を起こすことにより水を生成する機能を有している。
【0013】
電解質層3は、Zr(ジルコニウム)を含む材料、例えばYSZを含んで構成される緻密な薄板状の焼成体からなる。電解質層3は、空気極層5で生成される酸素イオンを燃料極層2に移動させる機能を有している。
【0014】
反応防止層4は、セリアを含んで構成される薄板状の焼成体からなる。反応防止層4は、例えばGDC(ガドリニウムドープセリア)やSDC(サマリウムドープセリア)により構成されている。反応防止層4は、SOFC1の製造時又は作動時に電解質層3内のZrと空気極層5内のSr(ストロンチウム)とが反応することにより電解質層3と空気極層5との間に高抵抗層が形成される現象を抑制する機能を有している。
【0015】
空気極層5は、触媒活性が高い材料、例えばプロブスカイト型複合酸化物を含んで構成される多孔質の薄板状の焼成体により構成されている。プロブスカイト型複合酸化物は、プロブスカイト型酸化物のAサイトの一部がアルカリ土類金属に置換された構造からなる。アルカリ土類金属としては、例えばSrが用いられる。プロブスカイト型複合酸化物としては、例えばLSC(ランタンストロンチウムコバルタイト)やLSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)等が用いられる。空気極層5は、プロブスカイト型複合酸化物を主材料として、反応防止層4側から電極反応層50と、SOx吸着層51と、集電層52とが順に積層された構造からなる。
【0016】
電極反応層50は、反応防止層4への焼付けを容易にするために、また反応防止層4との熱膨張係数の差異に起因する熱ひずみを抑制するために、空気極層5の主材料に反応防止層4の材料が添加された材料により構成されている。例えば空気極層5の主材料としてLSCが用いられ、且つ反応防止層4の材料としてGDCが用いられている場合には、電極反応層50は、LSCにGDCが添加された材料により構成される。電極反応層50は、空気極層5に供給される空気中の酸素と、集電層52に集電される電子との間で化学反応を起こすことにより酸素イオンを生成する機能を有している。
【0017】
集電層52は空気極層5の主材料からなる。集電層52は、負荷10から供給される電子を集電する機能を有している。
【0018】
SOx吸着層51は、空気中の硫黄酸化物(SOx)を選択的に吸着する部分である。SOx吸着層51のSOxの吸着率を電極反応層50及び集電層52よりも高めるために、SOx吸着層51の構成元素中のアルカリ土類金属の割合は、電極反応層50及び集電層52のそれぞれの構成元素中のアルカリ土類金属の割合よりも大きくなっている。例えば電極反応層50及び集電層52がLa0.6Sr0.4CoO3により構成されている場合、SOx吸着層51はLa0.5Sr0.5CoO3により構成される。
【0019】
次に、SOFC1の動作について説明する。
【0020】
空気極層5では、空気極層5に供給される空気中の酸素と、集電層52に集電される電子との間の化学反応が電極反応層50において起こることにより、酸素イオンが生成される。この酸素イオンは電解質層3を介して燃料極層2に移動する。燃料極層2では、電解質層3を移動する酸素イオンと、燃料としての水素との間で化学反応が起こることにより水が生成される。この化学反応の際に生成される電子が負荷10を介して空気極層5の集電層52に移動する。このような電子の移動により負荷10に電力が供給される。
【0021】
以上説明した本実施形態のSOFC1によれば、以下の(1)及び(2)の作用及び効果を得ることができる。
【0022】
(1)空気極層5では、電極反応層50により触媒活性を、また集電層52により電子伝導性を確保することができる。また、SOx吸着層51により空気中のSOxを選択的に吸着することができる。これにより、空気極層5の機能を確保しつつ、空気極層5のSOxの被毒を抑制することができる。
【0023】
(2)SOx吸着層51の構成元素中のアルカリ土類金属の割合を、電極反応層50及び集電層52のそれぞれの構成元素中のアルカリ土類金属の割合よりも大きくすることとした。これにより、より効果的に空気中のSOxを吸着することができるため、空気極層5の被毒を更に抑制することができる。
【0024】
なお、上記実施形態は、以下の形態にて実施することもできる。
【0025】
・上記実施形態では、SOx吸着層51におけるSOxの吸着率を電極反応層50及び集電層52よりも高めるために、SOx吸着層51の構成元素中のアルカリ土類金属の割合を電極反応層50及び集電層52のそれぞれの構成元素中のアルカリ土類金属の割合よりも大きくした。これに代えて、空気極層5の主材料に適宜の材料を添加することにより、SOx吸着層51におけるSOxの吸着率を高めてもよい。例えば空気極層5の主材料がLSCの場合には、SOx吸着層51の材料として、LSCにBaOやSrOを添加した材料を用いてもよい。
【0026】
・空気極層5は、Aサイトの一部がアルカリ金属により置換された構造からなるプロブスカイト型複合酸化物により構成されていてもよい。この場合、SOx吸着層51の構成元素中のアルカリ金属の割合を、電極反応層50及び集電層52のそれぞれの構成元素中のアルカリ金属の割合よりも大きくすれば、上記の(2)と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0027】
・集電層52は、電極反応層50及びSOx吸着層51と比較すると、空気との接触面積が大きいため、SOxにより被毒し易い。これを回避するために、集電層52の構成元素中のアルカリ土類金属の割合を、電極反応層50の構成元素中のアルカリ土類金属の割合よりも小さくしてもよい。具体的には、電極反応層50の主材料がLSCの場合には、電極反応層50の材料としてLNF(ランタンニッケルフェライト)を用いる。これにより、集電層52の被毒を抑制することができる。同様に、集電層52の構成元素中のアルカリ金属の割合を、電極反応層50の構成元素中のアルカリ金属の割合よりも小さくしてもよい。
【0028】
・SOx吸着層51は、構成元素中のアルカリ土類金属の割合の異なる複数種の材料により構成されていてもよい。具体的には、SOx吸着層51を、La0.6Sr0.4CoO3と、La0.5Sr0.5CoO3とにより構成してもよい。この構成によれば、後者のSrの割合の大きい材料によりSOxを選択的に吸着しつつ、前者のSrの割合の小さい材料によりSOx吸着層51の電子導電性を確保することができる。同様に、SOx吸着層51は、構成元素中のアルカリ金属の割合の異なる複数種の材料により構成されていてもよい。
【0029】
図2に示されるように、電極反応層50及び集電層52よりもSOx吸着層51を厚くしてもよい。また、電極反応層50及び集電層52のそれぞれの気孔率よりもSOx吸着層51の気孔率を高くしてもよい。いずれの構成であっても、より効果的にSOxを吸着することが可能となるため、空気極層5の被毒を更に抑制することができる。
【0030】
・本発明は上記の具体例に限定されるものではない。すなわち、上記の具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0031】
1:固体電解質型燃料電池セル(SOFC)
2:燃料極層
3:電解質層
4:反応防止層
5:空気極層
50:電極反応層
51:SOx吸着層
52:集電層
図1
図2