【実施例】
【0047】
発明者は、各表中に開示の固体酸触媒を作製し、植物系食品残渣物よりマンノースの抽出を試行した。これと併せて、液体酸触媒及び市販の触媒も使用して植物系食品残渣物よりマンノースの抽出を試行した。はじめに、木質固体酸触媒(C1)ないし(C6)及び樹脂固体酸触媒(C7)ないし(C10)の作製から説明する。
【0048】
[木質固体酸触媒(C1)の作製]
ベイマツ(米松)のオガコを105±5℃に保温した乾燥機内で一晩乾燥した。乾燥済みのオガコを金属製トレイに入れてマッフル炉内に載置した。炉内に窒素ガスを供給して不活性雰囲気とし、所定の昇温速度により350℃まで昇温し当該温度を60分間維持しオガコを焼成した。冷却後、マッフル炉から焼成されたオガコを取り出して粉砕機によりおよそ0.18mm以下に粉砕し粉砕炭化物とした。
【0049】
粉砕炭化物10gに11%発煙硫酸100mLを添加して攪拌し、液温80℃を維持しながら10時間かけてスルホ化した。スルホ化後冷却して100℃の蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返して木質固体酸触媒(C1)を得た。
【0050】
[木質固体酸触媒(C2)の作製]
ベイマツ(米松)由来の塩化亜鉛賦活活性炭(フタムラ化学株式会社製,比表面積1700,平均粒径39μm)の10gに、11%発煙硫酸100mLを添加して攪拌し、液温80℃を維持しながら10時間かけてスルホ化した。スルホ化後冷却して100℃の蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返して木質固体酸触媒(C2)を得た。
【0051】
[木質固体酸触媒(C3)の作製]
前出の木質固体酸触媒(C2)に蒸留水を添加してスラリー濃度を重量5%とした。当該スラリーをオートクレーブにより150℃、10時間加熱した。冷却してスラリーを濾過し濾液を除去した。最終的に、スラリー濃度1重量%としたときの濾液中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで当該操作を繰り返して木質固体酸触媒(C3)を得た。
【0052】
[木質固体酸触媒(C4)の作製]
ベイマツ(米松)由来の塩化亜鉛賦活活性炭(フタムラ化学株式会社製,比表面積1600,平均粒径1.11mm)の10gに、11%発煙硫酸100mLを添加して攪拌し、液温80℃を維持しながら10時間かけてスルホ化した。スルホ化後冷却して100℃の蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返して粒状(顆粒状)の木質固体酸触媒(C4)を得た。
【0053】
[木質固体酸触媒(C5)の作製]
前出の木質固体酸触媒(C4)に蒸留水を添加してスラリー濃度を重量5%とした。当該スラリーをオートクレーブにより150℃、10時間加熱した。冷却してスラリーを濾過し濾液を除去した。最終的に、スラリー濃度1重量%としたときの濾液中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで当該操作を繰り返して粒状(顆粒状)の木質固体酸触媒(C5)を得た。
【0054】
[木質固体酸触媒(C6)の作製]
ベイマツ(米松)のオガコを105±5℃に保温した乾燥機内で一晩乾燥し、オガコを粉砕機により0.075mm以下に粉砕した。粉砕後のオガコ300gに、DIC株式会社製,フェノール樹脂バインダ(品名「フェノライト J−325」)120gと適量の蒸留水を添加し、これらを混練し木質混練物を得た。この混練物をペレタイザにより直径2mm×長さ10mmの円筒ペレット状に成形して保形物を得た。
【0055】
前記の保形物を金属製トレイに入れてマッフル炉内に載置した。炉内に窒素ガスを供給して不活性雰囲気とし、所定の昇温速度により350℃まで昇温し当該温度を60分間維持し保形物を焼成して焼成保形物を得た。焼成保形物10gに11%発煙硫酸100mLを添加して攪拌し、液温80℃を維持しながら10時間かけてスルホ化した。スルホ化後冷却して100℃の蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返して保形物(ペレット状)の木質固体酸触媒(C6)を得た。
【0056】
[樹脂固体酸触媒(C7)の作製]
レゾール型フェノール樹脂(リグナイト株式会社製,LPS(登録商標)シリーズ)100gに11%発煙硫酸1000mLを添加して攪拌し、液温80℃を維持しながら10時間かけてスルホ化した。スルホ化後冷却して100℃の蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返した。洗浄後、湿式にて粒径0.3mm以上に篩別して粒状の樹脂固体酸触媒(C7)を得た。
【0057】
[樹脂固体酸触媒(C8)の作製]
レゾール型フェノール樹脂(リグナイト株式会社製,LPS(登録商標)シリーズ)100gに11%発煙硫酸1000mLを添加して攪拌し、液温80℃を維持しながら10時間かけてスルホ化した。スルホ化後冷却して100℃の蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返して樹脂固体酸触媒(C8)を得た。
【0058】
[樹脂固体酸触媒(C9)の作製]
レゾール型フェノール樹脂(リグナイト株式会社製,LPS(登録商標)シリーズ)100gに98%濃硫酸1000mLを添加して攪拌し、液温80℃を維持しながら10時間かけてスルホ化した。スルホ化後冷却して100℃の蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返して樹脂固体酸触媒(C9)を得た。
【0059】
[樹脂固体酸触媒(C10)の作製]
ノボラック型フェノール樹脂(群栄化学株式会社製,商品名「カイノール」)3gに11%発煙硫酸300mLを添加して固定床にて攪拌し、液温160℃を維持しながら10時間かけてスルホ化した。スルホ化後冷却して100℃の蒸留水により洗浄し、洗浄後の蒸留水中の硫酸イオンが検出限界以下になるまで洗浄を繰り返した。洗浄後、当該スルホ化物を粉砕するとともに0.18mm以下に篩別した。こうして、樹脂固体酸触媒(C10)を得た。
【0060】
[マンノース抽出操作(1)]
市販の粉末状(ミル粉砕)のコーヒー豆にイオン交換水を添加してスラリー濃度を5重量%とし、これを30分間煮沸した。煮沸後濾過を3回以上繰り返してコーヒー豆抽出残渣を分離した。コーヒー豆抽出残渣を105±5℃に保温した乾燥機内で一晩乾燥し、粉砕機により0.075mm以下に粉砕した。こうして植物系食品残渣物の試料となるコーヒー豆抽出残渣を得た。
【0061】
4mLサンプル管に、コーヒー豆抽出残渣0.1g、木質固体酸触媒0.1gまたは樹脂固体酸触媒0.1g(ともに乾燥重量)、及びイオン交換水を添加して全水分重量を1.4gに設定し、90℃を維持しながら後出の表中の時間反応させた。反応終了後氷温に冷却するとともにサンプル管内にイオン交換水1.6gを添加して希釈した。そして、シリンジフィルター(孔径:0.2μm)を用いて反応液を濾過し抽出濾液を得た。
【0062】
[マンノース抽出操作(2)]
15mLサンプル管に、前出のマンノース抽出操作(1)にて使用のコーヒー豆抽出残渣0.2gと木質固体酸触媒0.2g(ともに乾燥重量)、及びイオン交換水を添加して全水分重量を2.8gに設定し、140℃を維持しながら後出の表中の時間反応させた。反応終了後氷温に冷却するとともにサンプル管内にイオン交換水3.2gを添加して希釈した。そして、シリンジフィルター(前記同様)を用いて反応液を濾過し抽出濾液を得た。
【0063】
[マンノース抽出操作(3)]
4mLサンプル管に、前出のマンノース抽出操作(1)にて使用のコーヒー豆抽出残渣0.1g(乾燥重要)と10%(v/v)の希硫酸0.1g、及びイオン交換水1.4gを添加し、90℃を維持しながら後出の表中の時間反応させた。反応終了後氷温に冷却するとともにサンプル管内にイオン交換水1.6gを添加して希釈した。そして、シリンジフィルター(前記同様)を用いて反応液を濾過し抽出濾液を得た。
【0064】
[マンノース抽出操作(4)]
15mLサンプル管に、前出のマンノース抽出操作(1)にて使用のコーヒー豆抽出残渣0.2g(乾燥重要)と10%(v/v)の希硫酸0.2g、及びイオン交換水2.8gを添加し、140℃を維持しながら後出の表中の時間反応させた。反応終了後氷温に冷却するとともにサンプル管内にイオン交換水3.2gを添加して希釈した。そして、シリンジフィルター(前記同様)を用いて反応液を濾過し抽出濾液を得た。
【0065】
[マンノース抽出操作(5)]
当該操作の反応触媒(比較例)として、イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製,アンバーリスト(登録商標),15JWET)と合成ゼオライト(和光純薬株式会社製,合成ゼオライト,HS−320,粉末,ヒドロゲンY)の2種類を用意した。4mLサンプル管に、前出のマンノース抽出操作(1)にて使用のコーヒー豆抽出残渣0.1gと比較例の反応触媒0.1g(ともに乾燥重量)、及びイオン交換水を添加して全水分重量を1.4gに設定し、90℃を維持しながら後出の表中の時間反応させた。反応終了後氷温に冷却するとともにサンプル管内にイオン交換水1.6gを添加して希釈した。そして、シリンジフィルター(前記同様)を用いて反応液を濾過し抽出濾液を得た。
【0066】
[マンノース生成量の測定]
マンノース抽出操作(1)ないし(5)を経て得た抽出濾液中のマンノース量について、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(株式会社島津製作所製,RID−10A)、カラム(BIO−RAD社製,品名:AminexHPX−87Hカラム)、オーブン(株式会社島津製作所製,CTO−20AC)、デガッサ(株式会社島津製作所製,DGU−20A3)を使用して測定した。はじめに内部基準物質として、所定濃度のキシリトール溶液を調製してHPLCに装填した。そして、HPLCの対応するリテンションタイムに出現したピーク面積比から、測定対象のマンノースの生成量及び抽出濾液中の可溶糖中に占めるマンノースの生成割合(%)を求めた。マンノースの生成量は残渣物0.1gから生成したマンノース重量(mg)として換算した(mg/0.1g)。
【0067】
[スルホ基量の測定]
各触媒における反応中心はスルホ基と考えられる。そこで、触媒毎にスルホ基量を分析して求めた。実施例の木質固体酸触媒及び樹脂固体酸触媒、比較例の反応触媒を100℃に加熱して乾燥した。それぞれに含まれる元素組成について、自動燃焼イオンクロマトグラフ:DIONEX製ICS−1000、燃焼装置:株式会社三菱化学アナリテック製AQF−100、吸収装置:株式会社三菱化学アナリテック製GA−100、送水ユニット:株式会社三菱化学アナリテック製WS−100、燃焼温度1000℃)により分析した。得られた硫黄分(mmol/g)は、スルホ基と等価であるとして、単位重量当たりのスルホ基(スルホン酸基)量(mmol/g)とした。
【0068】
植物系食品残渣物であるコーヒー豆抽出残渣に対し、固体酸触媒等を添加してマンノース抽出操作を行った結果(実施例及び比較例)を表1ないし表5として示す。表1ないし表3では、触媒物性{触媒の種類、形態、粒径等、精製温度(℃)、スルホ基量(mmol/g)}、反応条件{反応温度(℃)、反応時間(hr)}、反応結果{マンノース生成量(mg/0.1g)、マンノース生成割合(%)}、そして、触媒分離性(良または不良)である。ここで、触媒分離性は、前掲のマンノース抽出操作(1)ないし(5)を経て得た抽出濾液への触媒成分の混入の有無の目視による確認とした。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
【表5】
【0074】
[結果,考察]
〈形態、種類について〉
全実施例と比較例1ないし10との決定的な相違は触媒の形態である。実施例は固体酸であり比較例は液体の硫酸である。自明ながら実施例は固体酸触媒であるため、糖鎖の分解により生成したマンノース抽出液と固体酸触媒は、濾過を通じて容易に分離可能である。しかも濾過分離後、回収して再度触媒として反応系に加えることもできる。このような利点は、硫酸等の液体の酸触媒からは得ることができない。
【0075】
また、実施例の固体酸触媒(実施例1ないし5の木質固体酸触媒)は、粉末状からペレット状まで形成可能であり、形状設計の自由度も高い。従って、生産規模に応じた濾過設備にも柔軟に対応できる。なお、固体酸触媒が大きくなるとその表面積は低下する。表面に露出する触媒部位のスルホ基量は減少する。このため、マンノース生成量の差異になったと考える。
【0076】
さらに、実施例1ないし9の木質固体酸触媒及び樹脂固体酸触媒のとおり、触媒の材質(種類)を拡張しても、いずれからも概ね良好な結果を得た。従って、多用な原料を基に木質固体酸触媒及び樹脂固体酸触媒を作製することができる。このことから、資源確保の観点上好ましい。
【0077】
比較例11は分子中にスルホ基を備えた樹脂である。スルホ基が触媒を担うと予想して実験した。ところが、性能的には劣ることが分かった。比較例11では、スルホ基量自体は樹脂分子と結合しているため、スルホ基の測定値は大きくなったことが原因と考える。比較例12は触媒として知られているゼオライトの結果である。ゼオライトは植物系食品残渣物からマンノースを抽出する反応には役立たないことがわかった。
【0078】
〈反応温度と反応時間について〉
実施例1及び2の比較から、90℃の反応温度の場合、より長時間反応させると生成量は増す傾向にある。なお、90℃の反応温度で短時間の場合、反応が緩慢であり十分な生成量を得ることはできなかった。そこで、当該温度を採用する場合には、固体酸触媒の量いかんによるものの、時間を要することが判明した。同様の知見は、希硫酸を使用した比較例1ないし5からも裏付けられる。反応時間の増加に伴ってマンノース生成量も増加した。
【0079】
実施例10ないし14は同形態の固体酸触媒(木質固体酸触媒)を使用した際の140℃の反応温度の場合の傾向である。この反応温度では、90℃の場合と異なり反応時間が長くなるほどマンノース生成量は減少した。おそらく、反応時の加熱を通じていったん生じたマンノースの分解や別の分子への変化が生じたと考える。こちらについても同様に、希硫酸を使用した比較例6ないし10からも裏付けられる。反応時間の増加に伴ってマンノース生成量は減少した。
【0080】
これらの結果を勘案すると、固体酸触媒のうち木質固体酸触媒について好適な反応温度は、マンノース抽出操作にて試行した90ないし140℃の範囲を含めて80ないし150℃の温度範囲が好適といえる。反応装置の規模、形状、熱伝導等を含めて適宜拡張される。
【0081】
〈触媒性能差について〉
植物系食品残渣物からマンノースを抽出する反応に使用する触媒としての性能差をさらに詳細に検討した。事前に、和光純薬工業株式会社製,D(+)−マンノース試薬を用いて、同様の条件下でHPLCによる測定を実施した。結果、リテンションタイム9.5分付近にピークの検出を確認した。
図3のHPLC分析チャート図において、上方のチャートは実施例14であり、下方のチャートは比較例10である。実施例14では、マンノースのピークを示すリテンションタイム9.5分付近に大きなピークが検出され、その他のピークは相対的に小さい。つまり、効率良くマンノースへの分解が進んだといえる。対照となる硫酸使用の比較例10では、ピークが複数存在することから、糖鎖のランダムな分解、さらにはマンノース自体の分解も生じたと類推できる。従って、固体酸触媒は従前の硫酸よりも高いマンノース濃度を簡便に得ることができる。
【0082】
次に固体酸触媒同士も比較した。
図4のHPLC分析チャート図において、下方から順に実施例10,11,12,13,及び14に対応するチャートである。固体酸触媒を反応させた時間の相違はあるものの、いずれもリテンションタイム9.5分付近に大きなピークが出現した。その他のピークは相対的に小さい。従って、固体酸触媒を使用すると、効率良く植物系食品残渣物からマンノースを抽出することが裏付けられた。
【0083】
〈まとめ〉
固体酸触媒(木質固体酸触媒及び樹脂固体酸触媒)によると、単に反応液中からマンノース抽出液と固体酸触媒を分離しやすいばかりではない。特に、植物系食品残渣物から他の分解産物等の生成を抑えつつ、マンノースを比較的高い濃度で得ることができる。このような付加価値は、従前の液体の酸触媒からは到底得ることができない効果である。従って、本発明のマンノース抽出方法は極めて効率よく植物系食品残渣物からマンノースを生成することができる。