特許第6546069号(P6546069)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6546069
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】二重殻低温貯槽の建造方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 7/06 20060101AFI20190705BHJP
【FI】
   E04H7/06 301C
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-218084(P2015-218084)
(22)【出願日】2015年11月6日
(65)【公開番号】特開2017-89163(P2017-89163A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年10月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】恒川 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 充弘
(72)【発明者】
【氏名】小野 淳
【審査官】 土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−148044(JP,A)
【文献】 特開平06−146649(JP,A)
【文献】 特開昭50−127215(JP,A)
【文献】 特開2012−001968(JP,A)
【文献】 特開昭52−062943(JP,A)
【文献】 特開2000−120092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 7/00 − 7/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒型の外槽側壁の内部に、湾曲した長方形状の側板を周方向に複数枚配置すると共に高さ方向に複数段配置してそれら複数の側板を溶接することで円筒型の内槽側板を構築する二重殻低温貯槽の建造方法において、
前記外槽側壁の外部において、周方向に隣接する2枚の側板を組として、1組ずつ順次、2枚の側板の互いの短辺を突き合せて溶接し、側板ブロックを形成する側板ブロック形成工程と、
次に、前記側板ブロックを外槽側壁に形成した工事口から外槽側壁の内部に搬入し、前記側板ブロック形成工程で形成された溶接線が鉛直方向となるように前記側板ブロックを前記外槽側壁に沿って構築する側板ブロック構築工程と、
次に、外槽側壁の内部において、周方向に隣接する側板ブロック同士及び鉛直方向に隣接する側板ブロック同士を溶接する側板ブロック溶接工程と、
を備えたことを特徴とする二重殻低温貯槽の建造方法。
【請求項2】
前記側板ブロック構築工程において、側板の板厚が上方に向って順次小さくなるように側板ブロックを構築すると共に、内槽側板の内面が段差のない円筒面となるように側板ブロックを構築することを特徴とする請求項1に記載の二重殻低温貯槽の建造方法。
【請求項3】
円筒型の外槽側壁の内部に、湾曲した長方形状の側板を周方向に複数枚配置すると共に高さ方向に複数段配置してそれら複数の側板を溶接することで円筒型の内槽側板を構築する二重殻円筒型タンクの建造方法において、
前記外槽側壁の外部において、鉛直方向に隣接する2枚の側板を組として、1組ずつ順次、2枚の側板の互いの長辺を突き合せて溶接し、側板ブロックを形成する側板ブロック形成工程と、
次に、クレーンを用いて前記側板ブロックを外槽側壁の上方から外槽側壁の内部に搬入し、前記側板ブロック形成工程で形成された溶接線が水平方向となるように前記側板ブロックを前記外槽側壁に沿って構築する側板ブロック構築工程と、
次に、外槽側壁の内部において、周方向に隣接する側板ブロック同士及び鉛直方向に隣接する側板ブロック同士を溶接する側板ブロック溶接工程と、
を備えたことを特徴とする二重殻低温貯槽の建造方法。
【請求項4】
前記側板ブロック形成工程では、互いに厚みが異なる側板同士を、内槽側板の内面側の板面が揃うように溶接して前記側板ブロックを形成すると共に、
前記側板ブロック構築工程において、内槽側板の内面が段差のない円筒面となるように側板ブロックを構築することを特徴とすることを特徴とする請求項3に記載の二重殻低温貯槽の建造方法。
【請求項5】
前記外槽側壁はプレストレスコンクリート製の防液堤を有することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の二重殻低温貯槽の建造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重殻低温貯槽の建造方法に関し、特に内槽側板の構築方法を改善したものに関する。
【背景技術】
【0002】
LNG(液化天然ガス)等を貯留する二重殻低温貯槽は、PC(プレストレスコンクリート)製の円筒体とその内面に付設した鋼板ライナーとからなる外槽側壁と、低温用鋼板製の円筒型の内槽側板と、コンクリート製の基礎版とその上に敷設した外槽底板と、この外槽底板上の保冷材の上面に敷設した低温用鋼板製の内槽底板と、低温用鋼板製の内槽屋根と普通鋼製の外槽屋根とからなる屋根構造等で構成され、その二重殻低温貯槽にその他の関連する装備品(外槽と内槽間に充填するパーライト等の保冷材を含む)や機器類が付設される。
【0003】
前記の二重殻低温貯槽を建造する方法として、外槽AR法(外槽エアレイジング法)と、内槽AR法(内槽エアレイジング法)が広く採用されている。
【0004】
外槽AR法は、外槽側壁を構築しながら外槽側壁の内部で屋根構造(但し未完成状態)を製作し、外槽側壁と外槽屋根間をシール部材でシールした状態で、加圧エアを注入して屋根構造を空気圧で上昇させるエアレイジングを行い、その後外槽屋根を外槽側壁に連結する。
【0005】
次に、上記の屋根構造により風雨を防ぎ、寒冷時には外槽側壁の内部に暖房を施しつつ、外槽側壁の内部において、内槽底板の敷設と内槽側板の構築を行なう。
前記内槽側板は、例えば湾曲した長方形状の側板(例えば、最大の側板はサイズ4m×10m、板厚例えば50〜10mm)を外槽側壁に形成した工事口から1枚ずつ外槽側壁内に搬入し、その側板を周方向に複数枚配置すると共に高さ方向に複数段配置し、それらを側板同士の縦方向溶接継目と横方向溶接継目(周方向溶接継目)を溶接することで構築する。
【0006】
内槽AR法は、外槽側壁と内槽側板と内槽底板と屋根構造(但し未完成状態)とを並行して構築し、その後内槽側板と内槽屋根間をシール部材でシールした状態で、加圧エアを注入して屋根構造を空気圧で上昇させるエアレイジングを行い、その後内槽屋根をナックルプレートを介して内槽側板に接合する。
内槽側板の構築の際、クレーンを用いて内槽側板の側板を1枚ずつ外槽側壁の上方から外槽側壁内へ搬入し、その側板を周方向に複数枚配置すると共に高さ方向に複数段配置し、それらを側板同士の縦方向溶接継目と横方向溶接継目を溶接することで内槽側板を構築する。
この内槽AR法では、外槽側壁と内槽側板と内槽底板と屋根構造とを並行して建造するため、工期の短縮を図ることができるという利点がある。
【0007】
特許文献1に記載の円筒型タンク(二重殻低温貯槽)の構築方法は、外槽AR法により
タンクを構築する際に、外槽側壁の外部において、内槽側板の側板のうち鉛直方向に隣接する2枚の側板を組として、1組ずつ順次、2枚の側板の互いの長辺を突き合せて溶接した側板ブロックを製作し、この側板ブロックを台車に載せて外槽側壁に形成した大型の工事口(例えば、上下幅8m以上)から外槽側壁内へ搬入し、側板ブロックをその溶接線が水平方向となるように側板ブロックを外槽側壁に沿って構築する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第5672787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の円筒型タンクの構築方法では、2枚の側板を縦方向に並べて接合した側板ブロックを外槽側壁内へ搬入するために、特に大型の工事口を外槽側壁に形成しなければならない。このように、PC製の外槽側壁(防液堤)の強度上の弱点になる他、工事口の形成と修復に多大のコストがかかる。
【0010】
他方、従来の内槽AR法により二重殻低温貯槽の内槽側板を構築する際には、クレーンを用いて側板を1枚ずつ外槽側壁の上方から外槽側壁の内部に搬入していたため、工期の短縮と溶接コストの低減を図ることができなかった。
【0011】
本発明の目的は、外槽AR法で二重殻低温貯槽を建造する際の工事口の形成・修復コストの低減を図ること、内槽AR法で二重殻低温貯槽を建造する際の工期短縮と溶接コストの低減を図ることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に係る二重殻低温貯槽タンクの建造方法は、円筒型の外槽側壁の内部に、湾曲した長方形状の側板を周方向に複数枚配置すると共に高さ方向に複数段配置してそれら複数の側板を溶接することで円筒型の内槽側板を構築する二重殻低温貯槽の建造方法において、前記外槽側壁の外部において、周方向に隣接する2枚の側板を組として、1組ずつ順次、2枚の側板の互いの短辺を突き合せて溶接し、側板ブロックを形成する側板ブロック形成工程と、次に、前記側板ブロックを外槽側壁に形成した工事口から外槽側壁の内部に搬入し、前記側板ブロック形成工程で形成された溶接線が鉛直方向となるように前記側板ブロックを前記外槽側壁に沿って構築する側板ブロック構築工程と、次に、外槽側壁の内部において、周方向に隣接する側板ブロック同士及び鉛直方向に隣接する側板ブロック同士を溶接する側板ブロック溶接工程とを備えたことを特徴としている。
【0013】
請求項2に係る二重殻低温貯槽タンクの建造方法は、請求項1の発明において、前記側板ブロック構築工程において、側板の板厚が上方に向って順次小さくなるように側板ブロックを構築すると共に、内槽側板の内面が段差のない円筒面となるように側板ブロックを構築することを特徴としている。
【0014】
請求項3に係る二重殻低温貯槽タンクの建造方法は、円筒型の外槽側壁の内部に、湾曲した長方形状の側板を周方向に複数枚配置すると共に高さ方向に複数段配置してそれら複数の側板を溶接することで円筒型の内槽側板を構築する二重殻円筒型タンクの建造方法において、前記外槽側壁の外部において、鉛直方向に隣接する2枚の側板を組として、1組ずつ順次、2枚の側板の互いの長辺を突き合せて溶接し、側板ブロックを形成する側板ブロック形成工程と、次に、クレーンを用いて前記側板ブロックを外槽側壁の上方から外槽側壁の内部に搬入し、前記側板ブロック形成工程で形成された溶接線が水平方向となるように前記側板ブロックを前記外槽側壁に沿って構築する側板ブロック構築工程と、次に、外槽側壁の内部において、周方向に隣接する側板ブロック同士及び鉛直方向に隣接する側板ブロック同士を溶接する側板ブロック溶接工程とを備えたことを特徴としている。
【0015】
請求項4に係る二重殻低温貯槽の建造方法は、請求項3の発明において、前記側板ブロック形成工程では、互いに厚みが異なる側板同士を、内槽側板の内面側の板面が揃うように溶接して前記側板ブロックを形成すると共に、前記側板ブロック構築工程において、内槽側板の内面が段差のない円筒面となるように側板ブロックを構築することを特徴としている。
【0016】
請求項5に係る二重殻低温貯槽の建造方法は、請求項1〜4の何れか1項に記載の発明において、前記外槽側壁はプレストレスコンクリート製の防液堤を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本願の発明は課題解決手段の欄に記載の構成を有するため、次の効果を奏する。
請求項1の発明によれば、外槽側壁の外部において、周方向に隣接する2枚の側板を溶接して側板ブロックを形成するため、側板ブロックを搬入するために外槽側壁に形成する工事口の上下幅を特別に大きく形成する必要がないから、工事口の形成と修復のコストを低減することができる。
そして、側板を1枚ずつ外槽側壁内へ搬入して内槽側板を構築する場合と比べて、内槽側板構築時の縦方向溶接継目の合計長さを半減できるため工期を短縮でき、溶接コストを低減できる。
【0018】
請求項2の発明によれば、側板の板厚が上方に向って順次小さくなるように側板ブロックを構築するため、内槽側板に作用する低温液化ガスの液圧に応じた板厚の側板とすることができるから、内槽側板の構造を無駄のない構造にすることができる。内槽側板の内面を段差のない円筒面にするため、低温液化ガスの液面レベルから貯留量を算出する上で有利である。
【0019】
請求項3の発明によれば、外槽側壁の外部において2枚の側板の互いの長辺を突き合せて溶接して側板ブロックを形成し、その側板ブロックをクレーンを用いて外槽側壁の上方から外槽側壁内へ搬入し、内槽側板の構築に供するため、内槽側板構築時の横方向溶接継目の合計長さを半減することができるから溶接コストを大幅に低減できる。しかも、クレーンにより外槽側壁の上方から外槽側壁内へ側板を搬入する総回数を半減できるため、工期を短縮でき、側板搬入コストを大幅に低減できる。側壁ブロックの搬入のため大型の工事口を外槽側壁に形成する必要もない。以上の結果として、建造コストの大幅な低減と工期の短縮を図ることができる。
【0020】
請求項4の発明によれば、請求項2と同様の効果が得られるうえ、内槽側板の内面を段差のない円筒面に形成するため、内槽AR法により屋根構造を円滑に確実にエアレイジングすることが可能になる。
請求項5の発明によれば、強度と耐久性の高い外槽側壁を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施例1に係る二重殻低温貯槽の右半分の縦断面図である。
図2】内槽底板のアニュラープレートと内槽側板の部分縦断面図である。
図3】外槽AR法にて屋根構造をエアレイジングする状態を示す断面図である。
図4】内槽側板の下段部を構築する状態を示す断面図である。
図5】内槽側板の中段部を構築する状態を示す断面図である。
図6】内槽側板の上段部を構築する状態を示す断面図である。
図7】実施例2に係る二重殻低温貯槽の建造の際、内槽側板の下段部等を構築する状態を示す断面図である。
図8】内槽側板の下段部と内槽屋根等を建造する状態を示す断面図である。
図9】内槽側板の中段部と外槽屋根等を建造する状態を示す断面図である。
図10】内槽側板の上段部等を建造する状態を示す断面図である。
図11】内槽AR法で屋根構造をエアレイジングする状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態について実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0023】
図1に示すように、この二重殻低温貯槽1は、LNG(液化天然ガス)を貯留するものであり、この二重殻低温貯槽1は、多数の基礎杭(図示略)の上に構築された鉄筋コンクリート製の基礎版2と、この基礎版2の外周部から立ち上がるプレストレストコンクリート製(PC製)の円筒型の外槽側壁3(防液堤)と、基礎版2の上面に敷設された底部ライナー4(外槽底板)と、この底部ライナー4の外周端部から立ち上げられて外槽側壁3の内周面に付設され且つ外槽側壁に属する側部ライナー5と、底部ライナー4の上面に所定の厚さの保冷材6を介して設置された内槽底板7と、この内槽底板7の外周側部分である内槽アニュラープレート7aの外周端近傍部から立ち上げられ且つ側部ライナー5との間に所定の間隔を空けて配置された円筒型の内槽側板8と、側部ライナー5の内面に形成された所定の厚さの冷熱抵抗緩和材(例えば、ポリウレタン発泡体など)と、側部ライナー5と内槽側板8間の隙間に充填されたパーライト等の保冷材9と、内槽屋根10と外槽屋根11の間に保冷材12を組み込んだ屋根構造13などを備えている。
【0024】
底部ライナー4と側部ライナー5と外槽屋根11などは普通鋼で製作される。内槽底板4と内槽側板8と内槽屋根10などは低温用鋼で製作される。
前記内槽側板8は、外槽側壁3の内部に、湾曲した長方形状の側板8aを周方向に複数枚配置すると共に高さ方向に複数段配置してそれら複数の側板8aを溶接することで円筒型の内槽側板8として構築される。
【0025】
図2に示すように、内槽側板8において、側板8aの板厚が上方に向って順次小さくなるように、後述の側板ブロック8Aを用いて内槽側板8を構築し、内槽側板8の内面が段差のない円筒面となるように側板ブロック8Aを構築する。
【0026】
次に、二重殻低温貯槽1を外槽AR法により建造する方法のうち、本発明に関連する内槽側板の構築方法について、図3図6に基づいて説明する。
図3は、基礎杭と基礎版2と、基礎版2上の底部ライナー4と、PC製の外槽側壁3(防液堤)と、屋根構造13を製作してから、外槽側壁3と外槽屋根11との間をシール部材でシールし、ブロア15により外槽側壁3の内側且つ屋根構造13の下側の空間に加圧エアを供給することにより、屋根構造13をエアレイジングする状態を示している。
【0027】
この外槽エアレイジングの後、外槽屋根11が外槽側壁3の上端に連結固定され、内槽屋根10の下端外周部のナックルプレート10aが所定の高さまで上昇して懸垂状態に保持される。
【0028】
図4は、内槽側板8の下段部を構築する状態を示し、図5は内槽側板8の中段部を構築する状態を示し、図6は内槽側板8の上段部を構築する状態を示している。
内槽側板8を形成する複数の側板8aは、以下の側板ブロック形成工程と、側板ブロック構築工程と、側板ブロック溶接工程を経て内槽側板8として建造される。
【0029】
側板ブロック形成工程においては、外槽側壁3の外部において、周方向に隣接する2枚の側板8aを組として、1組ずつ順次、2枚の側板8aの互いの短辺を突き合せて溶接し、側板ブロック8Aを形成する。
【0030】
次に、側板ブロック構築工程においては、側板ブロック8Aをクレーン16を介して台車17に載せた状態で外槽側壁3に形成した工事口3aから外槽側壁3の内部に搬入し、側板ブロック形成工程で形成された溶接線8u(縦溶接継目)が鉛直方向となるように側板ブロック8Aを外槽側壁3に沿って構築する。
【0031】
この側板ブロック構築工程において、図2に示すように、側板8aの板厚が上方に向って順次小さくなるように側板ブロック8Aを構築すると共に、内槽側板8の内面が段差のない円筒面となるように側板ブロック8Aを構築して内槽側板8を建造する。
【0032】
次に、側板ブロック溶接工程において、外槽側壁3の内部において、周方向に隣接する側板ブロック8A同士の溶接継目と鉛直方向に隣接する側板ブロック8A同士の溶接継目を溶接する。
【0033】
ここで、内槽側板8の構築と並行的に行うその他の建造作業について補足的に説明する。図4においては、外槽側壁3の内面に側部ライナー5を付設する。図5においては、底部ライナー4上に保冷材6を敷設する。図6においては、内槽底板7を据え付けて溶接し、内槽屋根10とナックルプレート10aを所定高さ降下させ、内槽側板8の上端にナックルプレート10aの下端部を溶接接合する。
【0034】
次に、本発明の二重殻低温貯槽の建造方法の作用、効果について説明する。
外槽側壁3の外部において、周方向に隣接する2枚の側板8aを溶接して側板ブロック8Aを形成するため、側板ブロック8Aを搬入するために外槽側壁3に形成する工事口3aの上下幅を特別に大きく形成する必要がないから、工事口3aの形成と修復コストを低減することができる。
【0035】
そして、側板8aを1枚ずつ外槽側壁3内へ搬入して内槽側板8を構築する場合と比べて、内槽側板8構築時の縦方向溶接継目の合計長さを半減できるため溶接コストを低減できる。特に、横方向溶接継目よりも縦方向溶接継目の溶接速度が遅いため、溶接コストを著しく低減することができる。以上の結果として工期の短縮も図ることができる。
【0036】
側板8aの板厚が上方に向って順次小さくなるように側板ブロック8Aを構築するため、内槽側板8に作用する低温液化ガスの液圧に応じた板厚の側板8aとすることができるから、内槽側板8の構造を無駄のない構造にすることができる。内槽側板8の内面を段差のない円筒面にするため、低温液化ガスの液面レベルから貯留量を算出する上で有利である。
【実施例2】
【0037】
実施例2は、実施例1の二重殻低温貯槽1と同様の構造を有する二重殻低温貯槽を内槽AR法により建造する方法に関するものである。以下、上記の建造方法のうちの本発明に関連する内槽側板の構築方法について、図7図11に基づいて説明する。尚、実施例1と同じ部材に同じ符号を付して説明する。
【0038】
図7は、基礎杭と基礎版とこの基礎版上の底部ライナー4を含む底部構造2Aと、PC製の外槽側壁3(防液堤)の下段部とを建造済みの状態を示している。
この図7に示す工程において、さらに、屋根架台20a(中央部)を組み立て、内槽底板7のアニュラープレート7aを環状に据え付けて溶接し、外槽側壁3の中段部を建造し、内槽側板8の下段部を構築し、屋根架台20b,20c(外周部分と中間部分)を組み立てる。
【0039】
次に、図8に示す工程において、内槽側板8の下段部および中段部を構築し、外槽側壁3の上段部を建造し、内槽屋根10を架台上に製作し、外槽側壁3の最上段部を建造し、外槽側壁3の内面の側部ライナー5のうちの頂部ライナー5aを構築する。
【0040】
次に、図9に示す工程において、底部ライナー4の上面に保冷材6を敷設し、内槽側板8の中段部を構築し、屋根架台20a〜20c(中央部、中間部)を解体し、外槽屋根11を内槽屋根10の上側に製作する。
【0041】
次に、図10に示す工程において、外槽屋根11の残部を製作し、外槽側壁3の内面に側部ライナー5の残部を組み付けて溶接し、内槽側板8の上段部を構築し、内槽側板8の上端部にナックルプレート8kを組み付けて溶接し、保冷材6の上面に内槽底板7を据え付けて溶接する。
【0042】
次に、図11に示す工程において、内槽ARを行う為に、エアレイジング用シール部材22を内槽屋根10の外周縁部に取り付け、複数のブロア22を準備し、内槽AR法により内槽屋根10と外槽屋根11とからなる屋根構造13Aを上昇させるエアレイジングを行ない、その後、内槽屋根10を暫定的に固定し、屋根架台の外周部20cとエアレイジング用設備を撤去する。
【0043】
次に、図11の後の工程において、内槽屋根10とナックルプレート8kとを溶接し、外槽屋根11の外周部を製作し、その他の種々の付随的な工事を行なう。
【0044】
図7図10に示す工程において、内槽側板8を構築する際には、内槽側板8を形成する複数の側板8aは、以下の側板ブロック形成工程と、側板ブロック構築工程と、側板ブロック溶接工程を経て内槽側板8として建造する。
【0045】
側板ブロック形成工程においては、外槽側壁3の外部において、鉛直方向に隣接する2枚の側板8aを組として、1組ずつ順次、2枚の側板8aの互いの長辺を突き合せて溶接して側板ブロック8Bを形成する。この側板ブロック形成工程では、互いに厚みが異なる側板8a同士を、内槽側板8の内面側の板面が揃うように溶接して側板ブロック8Bを形成する
【0046】
次に、側板ブロック構築工程において、クレーン16を用いて側板ブロック8Bを外槽側壁3の上方から外槽側壁3の内部に搬入し、側板ブロック形成工程で形成された溶接線8wが水平方向となるように側板ブロック8Bを外槽側壁3に沿って構築する。この側板ブロック構築工程において、内槽側板8の内面が段差のない円筒面となるように側板ブロック8Bを構築する。
【0047】
次に、側板ブロック溶接工程において、外槽側壁3の内部において、周方向に隣接する側板ブロック8B同士の溶接継目と鉛直方向に隣接する側板ブロック8B同士の溶接継目を溶接する。
【0048】
次に、上記の二重殻低温貯槽の建造方法の作用、効果について説明する。
外槽側壁3の外部において2枚の側板8aの互いの長辺を突き合せて溶接して側板ブロック8Bを形成し、その側板ブロック8Bをクレーン16を用いて外槽側壁3の上方から外槽側壁3内へ搬入し、内槽側板8の構築に供するため、内槽側板8構築時の横方向溶接継目の合計長さを半減することができるから溶接コストを大幅に低減できる。しかも、クレーン16により外槽側壁3の上方から外槽側壁3内へ側板を搬入する総回数を半減できるため側板8aの搬入コストを大幅に低減できる。また、側板ブロック8Bの搬入のための大型の工事口を外槽側壁3に形成する必要もない。以上の結果として、建造コストの大幅な低減と工期の短縮を図ることができる。
【0049】
側板ブロック形成工程では、互いに厚みが異なる側板8a同士を、内槽側板8の内面側の板面が揃うように溶接して側板ブロック8Bを形成すると共に、側板ブロック構築工程において、内槽側板8の内面が段差のない円筒面となるように側板ブロック8Bを構築し、内槽側板8の内面を段差のない円筒面に形成するため、内槽AR法により屋根構造を円滑に確実にエアレイジングすることが可能になる上、低温液化ガスの液面レベルから貯留量を算出する上で有利である。
【0050】
外槽側壁3はプレストレスコンクリート製の防液堤を有するため、強度と耐久性の高い外槽側壁を構築することができる。
【0051】
次に、前記実施例を部分的に変更する例について説明する。
1)前記二重殻低温貯槽のサイズ、容量は何ら限定されるものではなく、種々のサイズ、容量の二重殻低温貯槽の建造に本発明を適用可能である。
【0052】
2)前記実施例では、LNGを貯留する二重殻低温貯槽を例にして説明したが、LNGに限らず、種々の低温液体を貯留する二重殻低温貯槽の建造に本発明を適用することができる。
3)その他、当業者ならば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記実施例に種々の変更を付加して本発明を実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【符号の説明】
【0053】
1 二重殻低温貯槽
3 外槽側壁
3a 工事口
8 内槽側板
8a 側板
8A,8B 側板ブロック
8u,8w 溶接線
16 クレーン
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