(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記2つの第1の積層構造のうち、前記第1の低放射率膜が形成された前記主平面からより遠い当該構造が含む前記金属層の厚さd3に対する、当該主平面により近い当該構造が含む前記金属層の厚さd4の比d4/d3が1.15以上であり、
前記厚さd3が6nm以上である、請求項6に記載の複層ガラスユニット。
前記一対のガラス板のうち前記室外空間側に位置するガラス板に対して、所定の間隔で互いに離間した状態となるようにさらなる空隙層を挟んで対向して前記室外空間側に配置されたガラス板をさらに含む、請求項1または2に記載の複層ガラスユニット。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示の第1の態様は、所定の間隔で互いに離間した状態となるように空隙層を挟んで対向して配置された一対のガラス板を含み、室内空間と室外空間とを分離する複層ガラスユニットであって、前記一対のガラス板のうち前記室内空間側に位置するガラス板における前記空隙層側の主平面に第1の低放射率(Low−E)膜、前記室内空間側の主平面に第2の低放射率膜が、それぞれ形成されており、前記室内空間側の主平面に形成された前記第2の低放射率膜の表面の算術平均粗さRaが14nm以下である、複層ガラスユニットを提供する。
【0014】
本開示の第2の態様は、第1の態様に加え、前記第1の低放射率膜が金属層と、前記金属層における前記空隙層側の面に当該金属層と接して配置された犠牲層と、前記金属層および前記犠牲層を挟持する誘電体層のペアとを含む第1の積層構造を有し、前記第2の低放射率膜が、当該第2の低放射率膜が形成された前記主平面側から順に下地層、透明導電性酸化物層およびアモルファス層を含む第2の積層構造を有する複層ガラスユニットを提供する。
【0015】
本開示の第3の態様は、第2の態様に加え、前記アモルファス層の厚さが40nm未満である複層ガラスユニットを提供する。
【0016】
本開示の第4の態様は、第2の態様に加え、前記透明導電性酸化物層が厚さ120nm以上のフッ素ドープ酸化スズ層を含み、前記アモルファス層が厚さ15〜70nmのシリカ層を含み、前記透明導電性酸化物層の厚さd1および前記アモルファス層の厚さd2が、式d2≧d1×0.11+1.4nmを満たし、前記第2の低放射率膜の放射率εが0.34以下である複層ガラスユニットを提供する。
【0017】
本開示の第5の態様は、第2から第4のいずれかの態様に加え、前記第1の低放射率膜が2つの前記第1の積層構造を有する複層ガラスユニットを提供する。
【0018】
本開示の第6の態様は、第5の態様に加え、前記2つの第1の積層構造のうち、前記第1の低放射率膜が形成された前記主平面からより遠い当該構造が含む前記金属層の厚さd3に対する、当該主平面により近い当該構造が含む前記金属層の厚さd4の比d4/d3が1.15以上であり、前記厚さd3が6nm以上である複層ガラスユニットを提供する。
【0019】
本開示の第7の態様は、第1から第6のいずれかの態様に加え、前記第2の低放射率膜の表面における粗さ曲線の二乗平均平方根傾斜RΔqが0.77以下である複層ガラスユニットを提供する。
【0020】
本開示の第8の態様は、第1から第7のいずれかの態様に加え、前記第2の低放射率膜が機能性層をさらに有する複層ガラスユニットを提供する。
【0021】
本開示の第9の態様は、第1から第8のいずれかの態様に加え、前記一対のガラス板のうち前記室外空間側に位置するガラス板の双方の主平面に低放射率(Low−E)膜が形成されていない複層ガラスユニットを提供する。
【0022】
本開示の第10の態様は、第1から第9のいずれかの態様に加え、前記複層ガラスユニットの厚さが22mm以下、U値が1.6(W/(m
2・K))以下、SHGC値が0.4〜0.7、可視光線透過率が50〜75%である複層ガラスユニットを提供する。
【0023】
本開示の第11の態様は、第1から第10のいずれかの態様に加え、前記空隙層よりも前記室外空間側に、型板ガラス板または網入りガラス板を備える複層ガラスユニットを提供する。
【0024】
本開示の第12の態様は、第1から第11のいずれかの態様に加え、前記一対のガラス板のうち前記室外空間側に位置するガラス板に対して、所定の間隔で互いに離間した状態となるようにさらなる空隙層を挟んで対向して前記室外空間側に配置されたガラス板をさらに含む複層ガラスユニットを提供する。
【0025】
本開示の第13の態様は、第1から第12のいずれかの態様の複層ガラスユニットにおける、前記一対のガラス板のうち前記室内空間側に位置する前記ガラス板に用いるガラス板であって、当該ガラス板の双方の主平面に低放射率(Low−E)膜が形成されており、一方の前記主平面に形成された前記低放射率膜の表面の算術平均粗さRaが14nm以下である複層ガラスユニット用ガラス板を提供する。
【0026】
本開示の第14の態様は、第13の態様に加え、一方の前記主平面に形成された前記低放射率膜の表面における粗さ曲線の二乗平均平方根傾斜RΔqが0.77以下である複層ガラスユニット用ガラス板を提供する。
【0027】
本開示の第15の態様は、3つのガラス板A、ガラス板Bおよびガラス板Cから構成され、室内空間と室外空間とを分離する複層ガラスユニットであって、前記ガラス板Aおよび前記ガラス板B、ならびに前記ガラス板Bおよび前記ガラス板Cは、それぞれ、所定の間隔で互いに離間した状態となるように空隙層を挟んで対向して配置され、前記3つのガラス板のうち最も前記室内空間側に位置する前記ガラス板Cにおける前記空隙層側の主平面に第1の低放射率(Low−E)膜、前記室内空間側の主平面に第2の低放射率膜が、それぞれ形成されているとともに、前記3つのガラス板のうち最も前記室外空間側に位置する前記ガラス板Aにおける前記ガラス板B側の主平面または中央の前記ガラス板Bにおける前記ガラス板A側の主平面に第3の低放射率膜が形成されており、前記ガラス板Cの前記室内空間側の主平面に形成された前記第2の低放射率膜の表面の算術平均粗さRaが14nm以下である複層ガラスユニットを提供する。
【0028】
図1に、本発明の複層ガラスユニットの一例を示す。
図1に示す複層ガラスユニット1は、室外空間側に位置する第1のガラス板2および室内空間側に位置する第2のガラス板3の2枚のガラス板を備える。第1および第2のガラス板2,3は、空隙層4を挟んで対向して配置されている、空隙層4を間に挟んで対(ペア)となるガラス板である。第1および第2のガラス板2,3は、所定の間隔で互いに離間した状態となるように配置されており、離間した両者の間に形成された空間が空隙層4である。複層ガラスユニット1は、ガラスユニットとして単体で、または窓枠(サッシ)部を備える窓アセンブリとして、建物または車両などの窓構造に組み込まれ、室内空間と室外空間とを分離する。
図1に示すガラスユニット1は2つのガラス板2,3から構成されており、第1のガラス板2は最も室外空間側にかつ当該空間に露出して、第2のガラス板3は最も室内空間側にかつ当該空間に露出して、それぞれ配置されている。
【0029】
複層ガラスユニット1では、空隙層4を挟む一対のガラス板2,3のうち、室内空間側に位置する第2のガラス板3の双方の主平面(ガラス面)11c,11dに、低放射率(Low−E)膜5a,5bが形成されている。より具体的には、室内空間側に位置する第2のガラス板3における空隙層4側の主平面11cに第1の低放射率膜5aが、室内空間側の主平面11dに第2の低放射率膜5bが、それぞれ形成されている。これにより、複層ガラスユニット1では、低いU値(熱貫流率)を維持したままSHGC(日射熱取得率)の値を従来より大きく設計することが可能となり、当該ユニット1によって、夏季のみならず冬季の室内環境の快適度を向上させ、年間を通じて室内の空調に必要なエネルギーを低減することができる。また、室内空間に露出している第2のガラス板3の主平面11dの表面のRaが14nm以下(厳密には、主平面11d上に形成された、室内空間に露出しているLow−E膜5bの表面のRaが14nm以下)であることにより、複層ガラスユニット1の室内側のガラス面について良好な汚れ落ち性を確保できる。
【0030】
複層ガラスユニットでは当業者の慣例として、当該ユニットが備えるガラス板の主平面について、室外空間側から第1面、第2面、第3面...と順に番号が付される。この慣例に基づけば、
図1に示す複層断熱ガラスユニット1において、第1のガラス2の空隙層4とは反対側の主平面(室外空間に露出している主平面)11aが第1面(#1面)、第1のガラス2の空隙層4に面する主平面11bが第2面(#2面)、第2のガラス3の空隙層4に面する主平面11cが第3面(#3面)、第2のガラス3の空隙層4とは反対側の主平面(室内空間に露出している主平面)11dが第4面(#4面)である。
図1に示す例では、#3面および#4面がLow−E膜を有する。
【0031】
複層ガラスユニット1は、少なくとも2つのLow−E膜を有する。これにより、Low−E膜を1つのみ有する複層ガラスユニットに比べて遮熱性を向上、典型的にはU値を小さく、できる。例えば、銀(Ag)層のような金属層を含むLow−E膜において、金属層の数を増加させることによっても複層ガラスユニットのU値を低減できるが、Low−E膜が1つの場合、その低減に限界がある。少なくとも2つのLow−E膜により、当該限界を超えて複層ガラスユニットのU値を低減できる。また、複層ガラスユニット1では、空隙層4を挟んで室内空間側に位置する第2のガラス板3の双方の主平面11c,11dにLow−E膜5a,5bが形成されている。これにより、他の組み合わせの主平面に2つのLow−E膜が形成されている場合に比べて、低いU値を保持したまま、より大きなSHGCの値を示す複層ガラスユニットを設計することが可能となる。
【0032】
Low−E膜5a,5bの構成は特に限定されず、公知のLow−E膜を適用できる。
【0033】
Low−E膜の一例は、Ag層のような金属層を含む膜である。この膜は、例えば、ガラス板の主平面側から順に、誘電体層/金属層/犠牲層/誘電体層が積層された構造(第1の積層構造)を有する。換言すれば、このLow−E膜は、金属層と、金属層における上記主平面側とは反対側の面に当該金属層と接して配置された犠牲層と、金属層および犠牲層を挟持する誘電体層のペアとを含む第1の積層構造を有する。このLow−E膜は2以上の金属層を含んでいてもよく、これにより複層ガラスユニットのU値をより小さくする設計が可能となる。この場合、Low−E膜は、例えば、ガラス板の主平面側から順に、誘電体層/金属層/犠牲層/誘電体層/金属層/犠牲層/誘電体層が積層された構造を有しうる。すなわち、Low−E膜は2以上の第1の積層構造を有していてもよく、この場合、犠牲層と金属層との間に挟まれた誘電体層を2つの第1の積層構造で共有することができる。
【0034】
誘電体層、金属層および犠牲層の各層は、1つの材料から構成される1つの層であっても、互いに異なる材料から構成される2以上の層の積層体であってもよい。
【0035】
第1の積層構造において金属層および犠牲層を挟持する一対の誘電体層は、同じ材料から構成されていても、互いに異なる材料から構成されていてもよい。
【0036】
金属層を含むLow−E膜は、当該金属層の数をnとすると当該金属層を挟持する誘電体層の数がn+1以上となるため、通常、2n+1またはそれ以上の数の層から構成されている。
【0037】
金属層は、例えば、Ag層である。Ag層は、Agを主成分とする層であってAgからなる層であってもよい。本明細書において「主成分」とは、当該層において最も含有率が大きな成分のことであり、その含有率は、通常50重量%以上であり、70重量%以上、80重量%以上、90重量%以上の順により好ましい。金属層には、Agの代わりに、パラジウム、金、インジウム、亜鉛、スズ、アルミニウムおよび銅などの金属をAgにドープした材料を使用してもよい。
【0038】
Low−E膜が金属層を含む場合、Low−E膜における金属層の厚さの合計は、例えば18〜34nmであり、好ましくは22〜29nmである。
【0039】
犠牲層は、例えば、チタン、亜鉛、ニッケル、クロム、亜鉛/アルミニウム合金、ニオブ、ステンレス、これらの合金およびこれらの酸化物から選ばれる少なくとも1種を主成分とする層であり、チタン、チタン酸化物、亜鉛および亜鉛酸化物から選ばれる少なくとも1種を主成分とする層が好ましい。犠牲層の厚さは、例えば0.1〜5nmであり、好ましくは0.5〜3nmである。
【0040】
誘電体層は、例えば、酸化物または窒化物を主成分とする層であり、このような誘電体層のより具体的な例は、ケイ素、アルミニウム、亜鉛、錫、チタン、インジウムおよびニオブの各酸化物ならびに各窒化物から選ばれる少なくとも1種を主成分とする層である。誘電体層の厚さは、例えば8〜120nmであり、好ましくは15〜85nmである。
【0041】
金属層、犠牲層および誘電体層の形成方法は限定されず、公知の薄膜形成手法を利用できる。例えば、スパッタリング法によりこれらの層を形成できる。すなわち、金属層を含むLow−E膜は、例えば、スパッタリング法により形成できる。酸化物または窒化物から構成される誘電体層は、例えば、スパッタリング法の一種である反応性スパッタリングにより形成できる。犠牲層は、金属層上に誘電体層を反応性スパッタリングにより形成するために必要な層(反応性スパッタリング時に自らが酸化することによって金属層の酸化を防ぐ層)であり、犠牲層との名称は当業者によく知られている。
【0042】
Low−E膜の別の一例は、透明導電性酸化物層を含む積層膜である。この膜は、例えば、ガラス板の主平面側から順に、下地層/透明導電性酸化物層/アモルファス層が積層された構造(第2の積層構造)を有する。換言すれば、このLow−E膜は、透明導電性酸化物層と、透明導電性酸化物層を挟持する下地層およびアモルファス層とを含む第2の積層構造を有する。このLow−E膜は、2以上の透明導電性酸化物層を含んでいてもよい。
【0043】
下地層、透明導電性酸化物層およびアモルファス層の各層は、1つの材料から構成される1つの層であっても、互いに異なる材料から構成される2以上の層の積層体であってもよい。
【0044】
下地層は、例えば、ケイ素、アルミニウム、亜鉛およびスズの各酸化物から選ばれる少なくとも1種を主成分とする層であり、ケイ素、アルミニウムおよび亜鉛の各酸化物から選ばれる少なくとも1種を主成分とする層でありうる。下地層は、ガラス板に含まれるナトリウムイオンなどのアルカリ金属イオンが透明導電性酸化物層に移動することを抑制し、これにより当該酸化物層の機能の低下が抑制される。下地層の厚さは、例えば25〜90nmであり、好ましくは35〜70nmである。下地層は、屈折率が互いに異なる2以上の層から構成されていてもよく、この場合、各層の厚さを調整することにより、Low−E膜の反射色を中性色に近づけることが可能である。2以上の層、例えば2つの層、から構成される下地層では、ガラス板の主平面側から順に、酸化スズまたは酸化チタンを主成分とする第1の下地層、および酸化ケイ素または酸化アルミニウムを主成分とする第2の下地層とすることが好ましい。
【0045】
透明導電性酸化物層は、例えば、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛アルミニウム、アンチモンドープ酸化スズ(SnO:Sb)およびフッ素ドープ酸化スズ(SnO
2:F)から選ばれる少なくとも1種を主成分とする層である。透明導電性酸化物層の厚さは、例えば100〜350nmであり、好ましくは120〜260nmである。
【0046】
アモルファス層は、例えば、ケイ素およびアルミニウムの各酸化物から選ばれる少なくとも1種を主成分とする層である。アモルファス層は、透明導電性酸化物層を保護するとともに、透明導電性酸化物層、特に化学気相成長(CVD)法により形成した当該酸化物層、の表面の粗さを小さくする作用を有する。アモルファス層の厚さは、例えば10〜70nmであり、好ましくは20〜60nmである。アモルファス層の厚さの上限は、40nm未満でありうる。
【0047】
Low−E膜、典型的には室内空間に露出している第2のLow−E膜は機能性層を有していてもよく、この場合、アモルファス層の上に機能性層が形成されうる。機能性層は、例えば、抗菌層、抗ウィルス層である。機能性層は、例えば、TiO
2層であり、好ましくはアナターゼ型のTiO
2層である。
【0048】
第2の積層構造の具体的な一例では、透明導電性酸化物層が厚さ120nm以上のフッ素ドープ酸化スズ層を含み、アモルファス層が厚さ15〜70nmのシリカ層を含む。厚さ120nm以上のフッ素ドープ酸化スズ層は、Low−E膜の放射率εを一定の値以下とすることに寄与する。厚さ15nm以上70nm以下のシリカ層は、室内空間側および室外空間側から見た複層ガラスユニットの反射色の変動、特に赤色化、を抑制しながら、透明導電性酸化物層の表面の粗さが小さくなり、複層ガラスユニット1の室内空間側のガラス面の汚れ落ち性が向上することに寄与する。この例では、透明導電性酸化物層の厚さd1およびアモルファス層の厚さd2は、式d2≧d1×0.11+1.4nmを満たすことが好ましい。アモルファス層の厚さがシリカ層の厚さ以上、すなわち15nm以上であることを考慮すると、このとき、透明導電性酸化物層の厚さd1は125nm以上となる。この例において、第2のLow−E膜5bの放射率εは、例えば0.34以下である。
【0049】
下地層、透明導電性酸化物層およびアモルファス層の形成方法は限定されず、公知の薄膜形成手法を利用できる。例えば、CVD法によりこれらの層を形成できる。すなわち、透明導電性酸化物層を含むLow−E膜は、例えば、CVD法により形成できる。CVD法による薄膜の形成は、ガラス板の製造工程、より具体的な例としてフロート法によるガラス板の製造工程において「オンライン」にて実施可能である。
【0050】
これらの例はLow−E膜の一例であり、複層ガラスユニット1が有するLow−E膜の構成はこれらの例に限定されない。
【0051】
複層ガラスユニット1の一つの実施形態では、第2のガラス板3の空隙層4に面する主平面11cに形成された第1のLow−E膜5aは、金属層と、金属層における主平面11c側とは反対側の面(空隙層4側の面)に当該金属層と接して配置された犠牲層と、金属層および犠牲層を挟持する誘電体層のペアとを含む第1の積層構造を有し、第2のガラス板3の室内空間側の主平面11dに形成された第2のLow−E膜5bは、当該主平面11d側から順に下地層、透明導電性酸化物層およびアモルファス層を含む第2の積層構造を有する。
図1に示す例において、Low−E膜5bは室内空間に露出しており、空隙層4に面するLow−E膜5aよりも汚れ(例えば、指紋など)が付着しやすく、また、付着した汚れを掃除するための、あるいは物体の接触などによる化学的および物理的ストレスにも強く晒されることになる。そして、第1の積層構造と第2の積層構造とでは、第2の積層構造の方が強度ならびに化学的および物理的耐久性に優れている。このため、このような実施形態とすることにより、複層ガラスユニット1における使用時の耐久性が向上する。
【0052】
この実施形態のより具体的な例として、第2のLow−E膜5bについて、透明導電性酸化物層が厚さ120nm以上のフッ素ドープ酸化スズ層を含み、アモルファス層が厚さ15〜70nmのシリカ層を含む例が挙げられる。上述のように、厚さ120nm以上のフッ素ドープ酸化スズ層は、Low−E膜の放射率εを一定の値以下とすることに寄与する。厚さ15nm以上70nm以下のシリカ層は、室内空間側および室外空間側から見た複層ガラスユニットの反射色の変動、特に赤色化、を抑制しながら、透明導電性酸化物層の表面の粗さが小さくなり、複層ガラスユニット1の室内空間側のガラス面の汚れ落ち性が向上することに寄与する。この例では、透明導電性酸化物層の厚さd1およびアモルファス層の厚さd2は、式d2≧d1×0.11+1.4nmを満たすことが好ましい。アモルファス層の厚さがシリカ層の厚さ以上、すなわち15nm以上であることを考慮すると、このとき、透明導電性酸化物層の厚さd1は125nm以上となる。この例において、第2のLow−E膜5bの放射率εは、例えば0.34以下である。
【0053】
この実施形態の上記例とは異なる具体的な例として、第1のLow−E膜5aが2つの第1の積層構造を有する例が挙げられる。これにより、U値をより低減させた複層ガラスユニット1の設計が可能となる。この例では、2つの第1の積層構造のうち、第1のLow−E膜5aが形成された主平面11cからより遠い当該構造が含む金属層の厚さd3に対する、当該主平面11cにより近い当該構造が含む金属層の厚さd4の比d4/d3が1.15以上であり、厚さd3が6nm以上であることが好ましい。この比d4/d3の設定により、主平面11cおよび室外空間側の主平面11aにおける複層ガラスユニット1の反射色の変動、特に赤色化、が抑制されるとともに、反射色の入射角依存性が緩和される。この効果は、特に、金属層の厚さd3およびd4の和が27nm以上であるときに顕著である。
【0054】
第2のガラス板3の室内空間に面するガラス面11d(
図1に示す複層ガラスユニット1では#4面)に形成された第2のLow−E膜5bの表面の粗さは、適度になめらかである。この表面の粗さについて、Low−E膜5bの表面の算術平均粗さRa(JIS B0601に規定)は14nm以下であり、好ましくは13nm以下、より好ましくは12nm以下である。本明細書のRaは、原子間力顕微鏡(AFM)による表面の高さプロファイルから算出した値である。また、この表面の粗さについて、Low−E膜5bの表面における粗さ曲線の二乗平均平方根傾斜RΔq(JIS B0601に規定)が0.77以下であることが好ましい。同じRaの値を示す場合においても、表面の変動の微視的な傾きは異なりうる。この傾きの差を考慮し、0.77以下のRΔqが好ましいとする。本明細書のRΔqは、AFMによる表面の高さプロファイルから3次元的に求めた値である。2次元的に求めたRΔqの値は、3次元的に求めたRΔqの値とは異なるため、用いることができない。
【0055】
第2のガラス板3自体の構成は特に限定されない。第2のガラス板3は、例えば、フロート法により形成されたフロートガラス板である。第2のガラス板3のガラス組成も特に限定されず、第2のガラス板3は、例えばソーダライムガラス組成物から構成される。
【0056】
第2のガラス板3の厚さは、例えば2〜15mmであり、好ましくは2.5〜6mmである。
【0057】
第1のガラス板2の構成は特に限定されない。第1のガラス板2は、例えば、フロート法により形成されたフロートガラス板、あるいは型板ガラス板、網入りガラス板である。第1のガラス板2のガラス組成も特に限定されず、第1のガラス板2は、例えばソーダライムガラス組成物から構成される。
【0058】
第1のガラス板2の厚さは、例えば2〜15mmであり、好ましくは2〜8mmであり、より好ましくは2.5〜6mmである。
【0059】
第1のガラス板2の主平面にはLow−E膜が形成されていてもいなくてもよい。
図1に示す例では、第1のガラス板2の双方の主平面にLow−E膜が形成されていない。すなわち、空隙層4を挟んで対向する一対のガラス板のうち、室外空間側に位置するガラス板の双方の主平面にLow−E膜が形成されていない。第1のガラス板2における室外空間側の主平面にLow−E膜が形成されていない場合、室外空間に露出する当該主平面、例えば複層ガラスユニット1の使用時に屋外に曝露される主平面、の汚れの問題を考慮する必要がない。第1のガラス板2の双方の主平面にLow−E膜が形成されていない場合、第1のガラス板2として、Low−E膜をガラス面に形成することが困難な型板ガラス板あるいは網入りガラス板を使用できる。型板ガラス板あるいは網入りガラス板を一方のガラス板に使用した複層ガラスユニットは、建物の窓構造への使用に好適である。より具体的なメリットの例として、型板ガラス板によって意匠的な効果が期待されるし、網入りガラス板によって防犯および/または防火の効果が期待される。
【0060】
図1に示す例において空隙層4は、空隙層4を挟持する一対のガラス板(第1および第2のガラス板2,3)の周縁部(空隙層4に面する主平面の周縁部)に配置されたスペーサー6によってその厚さが保持されている。また、スペーサー6のさらに外周に配置された封着材7によって、空隙層4内の空間が密閉されている。スペーサー6とガラス板2,3との間にさらなる封着材が配置されていてもよい。スペーサー6および封着材7には、公知の構成を適用できる。空隙層4には、空気(乾燥空気)、ならびにアルゴンおよびクリプトンのような不活性ガスなどの気体が導入、充填されうる。空隙層4に気体が充填されている場合、空気よりもアルゴン、アルゴンよりもクリプトンが充填されている方が、複層ガラスユニット1のU値をより小さく設計できる。
【0061】
空隙層4の厚さは、例えば4〜16mmであり、好ましくは6〜16mmである。
【0062】
図1に示す複層ガラスユニット1の厚さは、例えば10〜22mmであり、12〜22mmとすることもできる。
【0063】
図1に示す複層ガラスユニット1の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の方法により形成された第1のガラス板および上述した薄膜形成手法を利用して形成された第2のガラス板を用いて、公知の方法により製造できる。
【0064】
空隙層4は減圧されていてもよく、この場合、減圧の程度は限定されない。真空(圧力にしておよそ10Pa以下)にまで減圧された空隙層4とすることにより、複層ガラスユニット1のU値をさらに小さく設計できる。空隙層4が真空層である複層ガラスユニットの一例を
図2に示す。
【0065】
図2に示す複層ガラスユニット1は、真空層である空隙層4をより確実に維持するための構成が異なる以外、
図1に示す複層ガラスユニット1と同様の構成を有する。真空層である空隙層4をより確実に維持するための代表的な構成は、第1のガラス板2および第2のガラス板3が空隙層4を挟んで所定の間隔で互いに離間した状態で保持されるために、双方のガラス板2,3の間に配置されている複数のスペーサー21である。そして、
図2に示す複層ガラスユニット1では、複数のスペーサー21、およびユニット1の外周に配置された封着材7によって、空隙層4の負圧が保たれている。その他の特徴は、
図1に示すガラスユニット1と同じである。例えば、
図2に示すガラスユニット1においても、空隙層4を挟む一対のガラス板2,3のうち、室内空間側に位置する第2のガラス板3の双方の主平面11c,11dに第1および第2のLow−E膜5a,5bが形成されており、室内空間に露出している第2のガラス板3の主平面11dの表面のRaが14nm以下である。スペーサー21および封着材7には公知の構成を適用できる。
【0066】
真空層である空隙層4の厚さは、例えば0.1〜1mmであり、典型的には0.2mmである。
【0067】
図2に示す複層ガラスユニット1の厚さは、空隙層4の厚さを小さくできることに基づき、例えば6〜12mmであり、6.2〜10.2mmあるいは6.2〜8.2mmとすることもできる。厚さ3〜8mm程度の1つのガラス板が窓枠(サッシ)に嵌め込まれた窓構造があるが、
図2に示す複層ガラスユニット1は、その厚さによってはこのような窓構造に上記1つのガラス板を置き換えて使用できるとともに、この使用により、例えば優れた断熱効果(小さなU値)が期待される。
【0068】
図2に示す複層ガラスユニット1の製造方法も特に限定されず、例えば、公知の方法により形成された第1のガラス板および上述した薄膜形成手法を利用して形成された第2のガラス板を用いて、公知の方法により製造できる。
【0069】
本発明の複層ガラスユニットの構成は、所定の間隔で互いに離間した状態となるように空隙層4を挟んで互いに対向して配置された上述の第1および第2のガラス板2,3を備える限り限定されない。例えば、本発明の複層ガラスユニットは、第1および第2のガラス板2,3以外のさらなるガラス板を備えていてもよい。この場合、さらなるガラス板は、第1のガラス板2よりも室外空間側に配置されている。すなわち、この場合、第1および第2のガラス板2,3が挟持する空隙層4の室外空間側に2以上のガラス板が配置されており、空隙層4よりも室内空間側にある第2のガラス板3が室内空間に露出している(主平面11d上に形成されたLow−E膜5bが室内空間に露出している)。換言すれば、3以上のガラス板から構成される本発明の複層ガラスユニットにおいても、最も室内空間側に位置するガラス板は第2のガラス板3である。
【0070】
本発明の複層ガラスユニットでは、第1および第2のガラス板2,3が挟持する空隙層4よりも室外空間側のガラス板の枚数およびそれぞれの当該ガラス板の構成は限定されない。一つの実施形態では、複層ガラスユニット1が、空隙層4よりも室外空間側に型板ガラス板または網入りガラス板を備える。この型板ガラス板または網入りガラス板は、第1のガラス板2であっても、第1のガラス板2よりもさらに室外空間側に配置されたさらなるガラス板であってもよい。型板ガラス板および網入りガラス板により期待される効果は、上述のとおりである。
【0071】
空隙層4よりも室外空間側のガラス板の数が2以上である複層ガラスユニットの一実施形態は、上述した一対のガラス板2,3のうち室外空間側に位置する第1のガラス板2に対して、所定の間隔で互いに離間した状態となるようにさらなる空隙層を挟んで対向して室外空間側に配置されたガラス板をさらに含む。このユニットは、3以上のガラス板から構成される。このユニットの最も室内空間側に位置するガラス板は第2のガラス板3である。
【0072】
このような複層ガラスユニットの一例を
図3に示す。
図3に示す複層ガラスユニット1は3つのガラス板(第1のガラス板2、第2のガラス板3および第3のガラス板8)から構成される。第1のガラス板2および第2のガラス板3は、
図1に示す複層ガラスユニット1と同様、所定の間隔で互いに離間した状態となるように空隙層4を挟んで対向して配置されている。第1のガラス板2および第3のガラス板8は、所定の間隔で互いに離間した状態となるようにさらなる空隙層9を挟んで対向して配置されている。このガラスユニット1では、第3のガラス板8が最も室外空間側にかつ当該空間に露出して、第2のガラス板3が最も室内空間側にかつ当該空間に露出して、それぞれ配置されている。また、
図1に示すガラスユニット1と同様に、最も室内空間側に位置する第2のガラス板3の双方の主平面11c,11dに、第1および第2のLow−E膜5a,5bがそれぞれ形成されており、室内空間に露出している第2のガラス3の主平面11dの表面のRaが14nm以下である。
図3に示す複層ガラスユニットでは、当業者の慣例に従い、第3のガラス8の空隙層9とは反対側の主平面(室外空間に露出している主平面)11eが#1面、第3のガラス8の空隙層9に面する主平面11fが#2面、第1のガラス2の空隙層9に面する主平面11aが#3面、第1のガラス2の空隙層4に面する主平面11bが#4面、第2のガラス3の空隙層4に面する主平面11cが#5面、第2のガラス3の空隙層4とは反対側の主平面(室内空間に露出している主平面)11dが#6面である。
図3に示すガラスユニット1では、#5面および#6面がLow−E膜を有する。
【0073】
第3のガラス板8の構成(厚さを含む)は特に限定されず、第1のガラス板2と同様でありうる。
【0074】
図3に示す複層ガラスユニット1では、非常に小さいU値を実現する設計が可能である。
【0075】
図3に示す複層ガラスユニット1の厚さは、例えば17〜41mmであり、21〜41mmとすることもできる。
【0076】
図3に示す複層ガラスユニット1の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の方法により形成された第1および第3のガラス板、ならびに上述した薄膜形成手法を利用して形成された第2のガラス板を用いて、公知の方法により製造できる。
【0077】
空隙層9は、空隙層4と同様の構成をとりうる。空隙層9および空隙層4の構成(厚さを含む)は、同一であっても互いに異なっていてもよい。空隙層4および/または空隙層9が真空層であってもよい。この場合、複層ガラスユニット1のU値をさらに小さく設計できる。第1のガラス板2および第2のガラス板3により挟まれている空隙層4が真空層である複層ガラスユニットの一例を
図4に示す。
【0078】
図4に示す複層ガラスユニット1は、真空層である空隙層4をより確実に維持するための構成が異なるとともに、最も室外空間側に位置する第3のガラス板8における空隙層9側の主平面(#2面)に第3のLow−E膜5cが形成されている以外、
図3に示す、3つのガラス板から構成される複層ガラスユニット1と同様の構成を有する。真空層である空隙層4をより確実に維持するための代表的な構成は、第1のガラス板2および第2のガラス板3が空隙層4を挟んで所定の間隔で互いに離間した状態で保持されるために、双方のガラス板2,3の間に配置されている複数のスペーサー21である。そして、
図4に示す複層ガラスユニット1では、複数のスペーサー21、およびユニット1の外周に配置された封着材7によって、空隙層4の負圧が保たれている。その他の特徴は、
図3に示すガラスユニット1と同じである。例えば、
図4に示すガラスユニット1においても、空隙層4を挟む一対のガラス板2,3のうち、室内空間側に位置する第2のガラス板3の双方の主平面11c,11dに第1および第2のLow−E膜5a,5bが形成されており、室内空間に露出している第2のガラス板3の主平面11dの表面のRaが14nm以下である。スペーサー21および封着材7には公知の構成を適用できる。
【0079】
上述のように真空層である空隙層の厚さを小さくできることから、
図4に示す複層ガラスユニット1の厚さは、例えば14〜30mmであり、14.2〜29mmあるいは14.2〜21.2mmとすることもできる。2つのガラス板から構成される、厚さ12〜22mm程度の従来の複層ガラスユニットが窓枠(サッシ)に嵌め込まれた窓構造があるが、
図4に示す、3つのガラス板から構成される複層ガラスユニット1は、その厚さによっては、このような2つのガラス板から構成される従来の複層ガラスユニットを置き換えて使用できるとともに、この使用により、例えば極めて優れた断熱効果(特に小さいU値)が期待される。
【0080】
第3のLow−E膜5cの構成は限定されず、例えば、第1の積層構造および第2の積層構造のいずれの構造を有していてもよい。U値をできるだけ小さくする観点からは、第3のLow−E膜が第1の積層構造を有することが好ましい。
【0081】
図4に示す複層ガラスユニット1の製造方法も特に限定されず、例えば、公知の方法により形成された第1のガラス板、ならびに上述した薄膜形成手法を利用して形成された第2のガラス板および第3のガラス板を用いて、公知の方法により製造できる。
【0082】
図3,4に示す複層ガラスユニット1のように3つのガラス板から構成される複層ガラスユニットでは、中央のガラス板となる第1のガラス板2は、少なくともその一方の主平面にLow−E膜が形成されていない必要があり、双方の主平面にLow−E膜が形成されていないことが好ましい。換言すれば、中央のガラス板の双方の主平面にLow−E膜が形成されている構成は採用できない。空隙層を挟んで互いに対向して配置された3つのガラス板から構成される複層ガラスユニットにおいて、中央のガラス板となるガラス板の双方の主平面にLow−E膜が形成されていると、日射の熱により当該ガラス板の温度が上昇し、破損(熱割れ)が生じやすくなるためである。特に、南面の日射量が大きく、複層ガラスユニットの周縁部が強く冷却される冬季の晴れた午前中に、熱割れが生じやすい。また、第1のガラス板2が真空層である空隙層に面している場合、当該ガラス板のいずれの主平面にもLow−E膜が形成されていないことが好ましい。中央のガラス板において少なくとも片方の主平面にLow−E膜が形成されていると、同じく熱割れが生じやすくなるためである。これらの観点から、3つのガラス板から構成される複層ガラスユニットにおいて第1のガラス板2および第2のガラス板3により挟まれた空隙層4が真空層である場合、Low−E膜は、#2面、#5面および#6面に形成されていることが好ましい。
図4に示すガラスユニット1では、#2面、#5面および#6面にLow−E膜が形成されている。
【0083】
図3に示すガラスユニット1は、以下のように表現することもできる:すなわち、
図3に示す複層ガラスユニットは、3つのガラス板A、ガラス板Bおよびガラス板Cから構成され、室内空間と室外空間とを分離する複層ガラスユニットであって、ガラス板Aおよびガラス板B、ならびにガラス板Bおよびガラス板Cは、それぞれ、所定の間隔で互いに離間した状態となるように空隙層を挟んで対向して配置され、3つのガラス板のうち最も室内空間側に位置するガラス板C(第2のガラス板3)における空隙層4側の主平面に第1のLow−E膜、室内空間側の主平面に第2のLow−E膜がそれぞれ形成されており、当該室内空間側の主平面に形成された第2のLow−E膜の表面の算術平均粗さRaが14nm以下である。
【0084】
図4に示すガラスユニット1は、以下のように表現することもできる:すなわち、
図4に示す複層ガラスユニットは、3つのガラス板A、ガラス板Bおよびガラス板Cから構成され、室内空間と室外空間とを分離する複層ガラスユニットであって、ガラス板Aおよびガラス板B、ならびにガラス板Bおよびガラス板Cは、それぞれ、所定の間隔で互いに離間した状態となるように空隙層を挟んで対向して配置され、3つのガラス板のうち最も室内空間側に位置するガラス板C(第2のガラス板3)における空隙層4側の主平面に第1のLow−E膜、室内空間側の主平面に第2のLow−E膜がそれぞれ形成されているとともに、3つのガラス板のうち最も室外空間側に位置するガラス板A(第3のガラス板8)におけるガラス板B(第1のガラス板2)側の主平面(室内空間側の主平面あるいは空隙層9側の主平面)または中央のガラス板Bにおけるガラス板A側の主平面(室外空間側の主平面あるいは空隙層9側の主平面)に第3のLow−E膜が形成されており、ガラス板Cの室内空間側の主平面に形成された第2のLow−E膜の表面の算術平均粗さRaが14nm以下である。
【0085】
本発明の複層ガラスユニットは、以下の特性を満たすように設計できる。
【0086】
図1に示す複層ガラスユニット1に関し:
U値について、例えば1.6W/(m
2・K)以下であり、ガラスユニットの構成によっては、1.4W/(m
2・K)以下、および1.2W/(m
2・K)以下;
SHGCの値について、例えば0.40以上であり、ガラスユニットの構成によっては、0.40を超える値、0.45以上、0.50以上、0.60以上。SHGCの値の上限は限定されない;
可視光線透過率(Tvis)について、例えば50〜75%であり、好ましくは50〜70%であり、より好ましくは50〜65%;
室外空間からの反射率について、例えば8〜26%であり、好ましくは10〜20%であり、より好ましくは12〜20%;
室内空間からの反射率について、例えば8〜28%であり、好ましくは10〜25%であり、より好ましくは10〜22%。
【0087】
図2に示す複層ガラスユニット1に関し:
U値について、例えば1.0W/(m
2・K)以下であり、ガラスユニットの構成によっては、0.9W/(m
2・K)以下;
SHGCの値について、例えば0.45以上であり、ガラスユニットの構成によっては、0.47以上、0.50以上。SHGCの値の上限は限定されない;
可視光線透過率(Tvis)について、例えば50〜75%;
室外空間からの反射率について、例えば10〜25%;
室内空間からの反射率について、例えば10〜30%。
【0088】
図3に示す複層ガラスユニット1に関し:
U値について、例えば0.93W/(m
2・K)以下であり、ガラスユニットの構成によっては、0.80W/(m
2・K)以下、0.72W/(m
2・K)以下;
SHGCの値について、例えば0.30以上であり、ガラスユニットの構成によっては、0.32以上、0.36以上。SHGCの値の上限は限定されない;
可視光線透過率(Tvis)について、例えば45〜60%;
室外空間からの反射率について、例えば15〜25%;
室内空間からの反射率について、例えば15〜25%。
【0089】
図4に示す複層ガラスユニット1に関し:
U値について、例えば0.68W/(m
2・K)以下であり、ガラスユニットの構成によっては、0.67W/(m
2・K)以下、0.65W/(m
2・K)以下;
SHGCの値について、例えば0.30以上であり、ガラスユニットの構成によっては、0.31以上。SHGCの値の上限は限定されない;
可視光線透過率(Tvis)について、例えば45〜60%;
室外空間からの反射率について、例えば15〜30%;
室内空間からの反射率について、例えば15〜35%。
【0090】
本発明の複層ガラスユニットでは、室外空間からの色調について、La
*b
*表色系のa
*値を、例えば−25〜0、好ましくは−20〜−4、b
*値を、例えば−10〜10、好ましくは−5〜5とすることができる。
【0091】
本発明の複層ガラスユニットでは、室内空間からの色調について、La
*b
*表色系のa
*値を、例えば−20〜0、好ましくは−15〜−3、b
*値を、例えば−10〜15、好ましくは−4〜10とすることができる。
【0092】
本発明の複層ガラスユニットは、当該ユニットの厚さが小さい場合においても、低いU値および高いSHGCの値を実現できる。例えば、本発明の複層ガラスユニットの一形態、典型的には2つのガラス板から構成される本発明の複層ガラスユニットの一形態、において、複層ガラスユニットの厚さが22mm以下、U値が1.6W/(m
2・K)以下、SHGC値が0.4〜0.7、可視光線透過率が50〜75%である。
【0093】
本発明の複層ガラスユニットの製造方法は特に限定されず、例えば、公知の方法により形成された第1のガラス板および上述した薄膜形成手法を利用して形成された第2のガラス板、ならびに、必要に応じて、公知の方法により、または上述した薄膜形成手法を利用して形成された第3のガラス板を用いて、公知の方法により製造できる。
【0094】
第2のガラス板3は、本発明の複層ガラスユニットの製造に使用する複層ガラスユニット用ガラス板として、単独で流通できる。この複層ガラスユニット用ガラス板は、双方の主平面11c,11dにLow−E膜5a,5bが形成されており、一方の主平面11dに形成されたLow−E膜5bの表面の算術平均粗さRaが14nm以下である。この複層ガラスユニット用ガラス板は、その他、第2のガラス板3の説明において上述した好ましい形態をとりうる。例えば、上記一方の主平面11dに形成されたLow−E膜5bの表面における粗さ曲線の二乗平均平方根傾斜RΔqが0.77以下である。
【0095】
本発明の複層ガラスユニットは、単独で、あるいは窓枠(サッシ)部をさらに備え、窓枠部に複層ガラスユニットがはめ込まれた窓アセンブリとして、任意の窓構造に使用できる。この窓アセンブリおよび窓構造は、本発明の複層ガラスユニットを備え、低いU値を保持したままSHGCの値を従来より大きく設計することが可能である。
【実施例】
【0096】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0097】
本実施例では、所定の間隔で互いに離間した状態となるように空隙層を挟んで2つのガラス板が対向して配置された、2つのガラス板から構成される複層ガラスユニット、および所定の間隔で互いに離間した状態となるように空隙層を挟んで2つのガラス板が対向して配置されるとともに、一方のガラス板に対して所定の間隔で互いに離間した状態となるようにさらなる空隙層を挟んで対向して配置されたさらなる1つのガラス板が配置された、3つのガラス板から構成される複層ガラスユニットを作製した。複層ガラスユニットの作製方法を以下に示す。
【0098】
各実施例および比較例について、2または3つのフロートガラス板(厚さ3.0mm)を準備し、それぞれを所定寸法に切断するとともに、以下の表1A〜表1Mに示すようにガラス板の主平面にLow−E膜を形成した。表1A〜表1Mにおいて、括弧内の数値は層の厚さ(nm)を示し、「−」はLow−E膜を形成していないことを示す。
【0099】
そして、この2または3つのガラス板から、当業者に周知の製法により複層ガラスユニットを製造した。複層ガラスユニットの空隙層には所定の気体(空気またはアルゴン)を封入するか、または圧力1Pa以下にまで減圧した真空空隙層とした。
【0100】
金属層(Ag層)を含むLow−E膜は、スパッタリング法によって形成した。このLow−E膜における誘電体層(表1A〜表1Mに示す「誘電体層」)は亜鉛酸化物層、スズ亜鉛酸化物層、スズ酸化物層、窒化ケイ素層などである。犠牲層を構成する材料にはチタン、ZnAlまたは酸化チタン(TiO
X)を使用した。一方、透明導電性酸化物層を含むLow−E膜は、CVD法により形成した。
【0101】
このように作製した実施例および比較例の各複層ガラスユニットの特性を、以下のように評価した。以下に、特性の評価方法を示す。
【0102】
[熱的特性および反射特性]
複層ガラスユニットの#1面における可視光透過率Tvis(%)、#1面における可視光反射率R(%)、#4面(2つのガラス板から構成される複層ガラスユニット)または#6面(3つのガラス板から構成される複層ガラスユニット)における可視光反射率R(%)、および複層ガラスユニットのSHGCの値は、室外側のガラス板および室内側のガラス板それぞれの光学特性実測値の結果から、JIS R3106(板ガラス類の透過率・反射率・放射率・日射熱取得率の試験方法)に準拠して計算により求めた。
【0103】
また、複層ガラスユニットの#1面、および#4面(2つのガラス板から構成される複層ガラスユニット)または#6面(3つのガラス板から構成される複層ガラスユニット)における入射角5°での反射色を、La
*b
*表色系のa
*値およびb
*値として、JIS Z8722およびJIS Z8729に準拠して求めた。なお、実施例1,7〜9および比較例3,5の#1面の反射色について、その入射角依存性を評価するために、入射角45°でのa
*値およびb
*値を併せて求めた。なお、入射角45°での反射色の値は、偏光面の影響をなくすために、S偏光での測定値とP偏光での測定値との平均値とした。
【0104】
[Low−E膜の表面の粗さ]
複層ガラスユニットの#4面(2つのガラス板から構成される複層ガラスユニット)または#6面(3つのガラス板から構成される複層ガラスユニット)にLow−E膜を形成した実施例および比較例の一部について、当該Low−E膜の表面の算術平均粗さRaおよび粗さ曲線の二乗平均平方根傾斜RΔqを、JIS B0601:2013の規定に準拠して求めた。
【0105】
[汚れ落ち特性]
作製した複層ガラスユニットにおける室内空間に露出している面(複層ガラスユニットの#4面または#6面)の汚れ落ち特性は、以下のように評価した。最初に、#4面または#6面における以下の各汚れ(指紋、油性インク、口紅)を付着させた部分を、洗浄剤を染み込ませた10cm角の綿布で所定の回数擦った後、当該部分に呼気を吐きかけたときに汚れの痕跡が肉眼で認められなかった場合をOK、認められた場合をNGとした。所定の回数は、ガラス面にコーティングがなされていない市販のフロートガラスにおいて、上記綿布で痕跡が認められなくなるまで擦った回数とした。
【0106】
<指紋に対する汚れ落ち特性>
被評価表面に、手の指先を押しつけて指紋を付けた。洗浄剤は脱イオン水、所定の回数は20回とした。
【0107】
<油性フェルトペンインクに対する汚れ落ち特性>
被評価表面に、市販の黒色の油性フェルトペン(マジックインキ(R) No.500、寺西化学工業株式会社製)で直径約1cmの円を描き、乾燥させて汚れを付着させた。洗浄剤は市販のガラス用洗剤(ガラスマジックリン(R)、花王株式会社製)、所定の回数は50回とした。
【0108】
<口紅に対する汚れ落ち特性>
被評価表面に、市販の口紅(株式会社カネボウ化粧品製)で直径約1cmの円を描き、汚れを付着させた。洗浄剤は市販の除光液(ネイルカラーリムーバー、株式会社カネボウ化粧品製)、所定の回数は30回とした。
【0109】
[熱割れ可能性]
3つのガラス板から構成される複層ガラスユニットのうち、実施例71〜74、比較例71〜78、および実施例81〜84で作製したユニットについて、その中央部ガラス板の熱割れ可能性を評価した。
【0110】
ガラス板は、サッシに嵌め込まれて建物などに取り付けられることがある。ガラス板が日射を受けると、日射の一部を吸収して温度が上昇し、膨張しようとする。一方、サッシに嵌め込まれた部分あるいは建物の庇などにより影になった部分は、日射による温度上昇が小さく、熱膨張が小さいので、日射を受けた部分の膨張を拘束する。これにより、ガラス板の周縁部に、日射を受けた部分とそうでない部分、典型的には周縁部、との温度差に比例する引張応力(熱応力)が生じる。熱応力がガラス板のエッジ強度を超えるとガラス板が割れることがある。これを熱割れという。
【0111】
ガラス板に生じる熱応力は、影のでき方によりガラスの温度分布が変わることで変化し(影係数)、室内のカーテンなどによりガラス板の中央部の温度が高くなることで増加し(カーテン係数)、ガラス板の面積が大きくなることで増加し(面積係数)、ガラス板が嵌め込まれるサッシの断熱性が大きくなることで減少し(エッジ係数、サッシカラー)、地域による代表的な外気温により変化する。このため、これらの条件を考慮して熱応力を算出した。具体的には、日本板硝子株式会社が公開する「ガラス建材カタログ 技術資料編」の第68−71ページ(http://glass-catalog.jp/pdf/g46-010.pdf[2014年12月]、http://glass-catalog.jp/pdf/g60-010.pdf[2015年1月20日訂正]を参照)の記載に従い、影係数を「シングルシャドー」、カーテン係数を「カーテン無し」、エッジ係数を「弾性シーリング材+バックアップ材(発泡材)」、サッシカラーを「淡色」、地域を日本の地方である「関東南部・北陸・東海・近畿・中国・四国・九州」として熱応力を算出し、算出した熱応力が呼び厚さ3〜12mmのフロートガラス板の許容応力を超える場合を、熱割れ可能性あり(YES)、許容応力以下におさまる場合を熱割れ可能性なし(NO)とした。
【0112】
作製した実施例および比較例の各複層ガラスユニットに対する上記特性の評価結果を、以下の表2A〜表2Gに示す。
【0113】
【表1A】
【0114】
【表1B】
【0115】
【表1C】
【0116】
【表1D】
【0117】
【表1E】
【0118】
【表1F】
【0119】
【表1G】
【0120】
【表1H】
【0121】
【表1I】
【0122】
【表1J】
【0123】
【表1K】
【0124】
【表1L】
【0125】
【表1M】
【0126】
【表2A】
【0127】
【表2B】
【0128】
【表2C】
【0129】
【表2D】
【0130】
【表2E】
【0131】
【表2F】
【0132】
【表2G】
【0133】
表1A、表1Bおよび表1Dに示す実施例1〜9、比較例1〜8および実施例21〜22では、2つのガラス板から構成され、空気が満たされた厚さ12mmの空隙層を有する複層ガラスユニットを作製した。表1Cおよび表1Eに示す実施例11〜17および実施例31〜32では、2つのガラス板から構成され、アルゴンガスが満たされた厚さ12mmの空隙層を有する複層ガラスユニットを作製した。これらの複層ガラスユニットの特性を、表2A、表2Bに示す。
【0134】
表2Aに示すように実施例1〜9の複層ガラスユニットは、#4面の高い汚れ落ち特性を示すとともに、Low−E膜を有さないか、あるいは1つの面のみにLow−E膜が形成されている比較例1〜3のユニットに対して、低いU値を示した。また、実施例1〜9の複層ガラスユニットは、#2面および#4面にLow−E膜を有する比較例4,7,8のユニットに比べて、大きなSHGCの値を示した。#2面および#3面にLow−E膜を有する比較例6の複層ガラスユニットでは、その2つの面に形成されたLow−E膜の双方が金属層(Ag層)を2層有する低放射性に優れる膜であるにもかかわらず、実施例1〜9の複層ガラスユニットに比してU値が高く、SHGCの値が小さくなった。そして、実施例1〜9の複層ガラスユニットは、#4面のRaが14nmを超える比較例4,5のユニットに比べて、#4面の高い汚れ落ち特性を示した。
【0135】
実施例1〜9のなかでも実施例1,7の複層ガラスユニットがより低いU値を示した。実施例1,7のユニットは、いずれもAg層(金属層)の厚さd3およびd4の和が27nm以上であるが、Ag層(金属層)の厚さに関する上述の比d4/d3が1.15以上である実施例1のユニットは、そうではない実施例7のユニットに比べて、反射色の入射角依存性が緩和されていた。より具体的には、実施例7では5°から45°への入射角の変化によってa
*値が負の値から正の値へと変化し、反射色の色調が緑系色から赤系色に変化したが、実施例1では、当該入射角の変化によってもa
*値が負の値のままであり、反射色の色調は緑系色を保っていた。また、#3面のAg層の厚さの和が27nm未満である実施例8,9のユニットは、上述の比d4/d3にかかわらず、入射角の変化によってもa
*値が負の値のままであり、反射色の色調は緑系色を保っていた、すなわち、反射色の入射角依存性が緩和されていた。さらに、#3面のAg層の厚さの和が27nm未満である実施例3,4,8,9のユニットは、そうではない実施例1,2,5〜7のユニットに比べて、大きなSHGCの値を示した。
【0136】
表2Bに示す実施例11〜17、実施例21〜22および実施例31〜32についても、表2Aに示す実施例1〜9と同様の傾向を示した。実施例21〜22のU値は比較例6と同じであるが、金属層を有するLow−E膜について、比較例6の膜が2つの金属層を有する、すなわち本質的に低放射性に優れる膜であるのに対して実施例21〜22の膜が1つの金属層しか有さないことを考慮すると、実施例21〜22の構成によってU値を低下させる優れた効果が達成されていることがわかる。これに加えて、実施例21〜22のSHGCの値は比較例1〜8に比べて高い。また、アルゴンガスの空隙層を有する実施例11〜17、実施例31〜32では、空気の空隙層を有する実施例1〜9、実施例21〜22に比べて、Low−E膜について同様の構成を有する場合、U値がより小さくなった。
【0137】
表1Fおよび表1Gに示す実施例41〜42、比較例41〜44および実施例51〜52では、2つのガラス板から構成され、厚さ0.2mmの真空空隙層を有する複層ガラスユニットを作製した。これらの複層ガラスユニットの特性を、表2C、表2Dに示す。
【0138】
表2C、表2Dに示すように、実施例41〜42、実施例51〜52および比較例41〜44においても、表2Aに示す実施例1〜9および比較例1〜8と同様の傾向を示した。また、真空の空隙層を有する実施例41〜42および実施例51〜52では、空気またはアルゴンガスの空隙層を有する、2つのガラス板から構成される他の実施例に比べて、Low−E膜について同様の構成を有する場合、U値がさらに小さくなった。実施例51〜52のU値は比較例41〜44よりも高いが、金属層を有するLow−E膜について、比較例41〜44の膜が2つの金属層を有するのに対して実施例51〜52の膜が1つの金属層しか有さないことを考慮すると、実施例51〜52の構成によってU値を低下させる優れた効果が達成されていることがわかる。
【0139】
表1Hおよび表1Iに示す実施例61〜64および比較例61〜64では、3つのガラス板から構成され、一方の空隙層が厚さ0.2mmの真空空隙層である複層ガラスユニットを作製した。これらの複層ガラスユニットの特性を、表2Eに示す。
【0140】
表2Eに示すように、3つのLow−E膜を形成したユニットのうち、中央のガラス板のいずれの主平面にもLow−E膜が形成されていない実施例61〜64および比較例62〜64では、最も室内空間側のガラス板の双方の主平面(#5面および#6面)にLow−E膜を形成した実施例61〜64において非常に低いU値が達成された。また、2つのLow−E膜を形成した比較例61に対して、実施例61〜64では非常に低いU値が達成された。
【0141】
表1J〜表1Mに示す実施例71〜74、比較例71〜78および実施例81〜84では、3つのガラス板から構成され、双方の空隙層に気体(空気またはアルゴン)が充填された複層ガラスユニットを作製した。これらの複層ガラスユニットの特性を、表2F、表2Gに示す。
【0142】
表2F、表2Gに示すように、実施例71〜74、比較例71〜78および実施例81〜84では、最も室内空間側のガラス板の双方の主平面(#5面および#6面)にLow−E膜を形成した実施例71〜74および実施例81〜84において、比較例71〜78に比べて、低いU値が達成されるとともに、Low−E膜の数が同じ場合に、より高いSHGCの値が達成された。また、3つのガラス板のうち中央のガラス板の双方の主平面(#3面および#4面)にLow−E膜を形成した比較例77では、熱割れ可能性がYESとなった。
【0143】
より具体的に、3つのLow−E膜を形成した実施例71〜74、実施例81〜84および比較例73〜78のうち、最も室内空間側のガラス板の双方の主平面(#5面および#6面)と、最も室外空間側のガラス板の空隙層に面した主平面(#2面)または中央のガラス板の室外空間側の主平面(#3面)とにLow−E膜を形成した実施例71〜74および実施例81〜84において非常に低いU値が達成された。比較例75,76は、それぞれ、実施例71,73の#1面と#6面とを裏返したユニットであるが、実施例71,73と比較するとSHGCの値に変化がない一方で、U値が、各実施例より大きく劣る程、大きくなった。
【0144】
比較例78は、実施例72,74と同じく3つのLow−E膜が形成されたユニットであるが、#5面および#6面の双方の主平面にLow−E膜が形成されていないため、U値にこそ変化がないが、SHGCの値が小さく、各実施例より劣っていた。比較例73,74は、その3つのLow−E膜の何れもが2つの金属層を有するにもかかわらず、U値が大きく、3つのLow−E膜のうち2つの膜のみ2つの金属層を有する実施例71〜74および実施例81〜84に比べて劣っていた。また、2つのLow−E膜が形成されたユニットである比較例71,72に対して、実施例71〜74および実施例81〜84では非常に低いU値が達成された。
【0145】
次に、上記実施例および比較例に用いたガラス板と同じ厚さ3.0mmのフロートガラス板を準備し、これを所定寸法に切断するとともに、以下の表3に示すように当該ガラス板の一方の主平面のみにLow−E膜を形成した。Low−E膜を形成したこのガラス板について、複層ガラスユニットを製造することなく、そのLow−E膜の表面の粗さと、当該表面における汚れ落ち特性のみを評価した。その結果を比較例91,92として表3に示す。
【0146】
【表3】
【0147】
図5に、実施例1〜7および比較例4,5,91,92の#4面(比較例91,92においてはLow−E膜の形成面)における算術平均粗さRaと粗さ曲線の二乗平均平方根傾斜RΔqとの関係を示す。
図5に示すように、各実施例の間および各比較例の間においてRaとRΔqとはよい相関を示すが、実施例と比較例との間ではRaとRΔqとの相関が乏しい。すなわち、第2の積層構造にアモルファス層を含む実施例のLow−E膜は、Raは同じであるがアモルファス層を含まないLow−E膜と比較して小さなRΔqを有し、高い汚れ落ち特性を有するといえる。
【0148】
本発明は、その意図および本質的な特徴から逸脱しない限り、他の実施形態に適用しうる。この明細書に開示されている実施形態は、あらゆる点で説明的なものであってこれに限定されない。本発明の範囲は、上記説明ではなく添付したクレームによって示されており、クレームと均等な意味および範囲にあるすべての変更はそれに含まれる。