(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6546169
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】車体
(51)【国際特許分類】
B62D 21/15 20060101AFI20190705BHJP
B62D 25/20 20060101ALI20190705BHJP
B60R 19/34 20060101ALI20190705BHJP
【FI】
B62D21/15 C
B62D25/20 C
B62D25/20 H
B60R19/34
【請求項の数】6
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-531970(P2016-531970)
(86)(22)【出願日】2014年11月19日
(65)【公表番号】特表2016-537253(P2016-537253A)
(43)【公表日】2016年12月1日
(86)【国際出願番号】EP2014003092
(87)【国際公開番号】WO2015074753
(87)【国際公開日】20150528
【審査請求日】2017年11月13日
(31)【優先権主張番号】102013019522.5
(32)【優先日】2013年11月22日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】514309479
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】THYSSENKRUPP STEEL EUROPE AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】キベン,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】パットベルク,ロター
(72)【発明者】
【氏名】レットガー,ロルフ ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ツェルナク,マルクス
【審査官】
マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/172132(WO,A1)
【文献】
特開2013−233820(JP,A)
【文献】
特開2012−228907(JP,A)
【文献】
特開2008−213739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 21/15
B60R 19/34
B62D 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の横材(4)および少なくとも二つの縦材(6)を具える車体であって、
各縦材のための衝突エネルギを吸収する第1のフォームフィッテッング手段(8)および第2のフォームフィッテッング手段(10、20)が設けられ、当該第1および第2のフォームフィッテッング手段によって、スモールオーバーラップ衝突事故において選択的に少なくとも一つの縦材(6)に荷重負担が導入され、前記第2のフォームフィティング手段(10、20)が前記縦材との間の間隙または凹部を有しており、前記スモールオーバーラップ衝突事故において前記第2のフォームフィッテッング手段の間隙または凹部が第1のフォームフィッテッング手段の一部を受け入れて、前記縦材の長手方向に前記第1および第2のフォームフィッティング手段が嵌合してフォームフィッティング結合するように構成されていることを特徴とする車体。
【請求項2】
請求項1に記載の車体において、
前記第1のフォームフィッティング手段(8)がくさび形要素であり、前記第2のフォームフィッティング手段(10)の間隙が前記くさび形要素の一部を受け入れるように構成されていることを特徴とする車体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の車体において、
前記横材(4)が、部分的に、前記縦材(6)に対して90°より小さい角度を有することを特徴とする車体。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の車体において、
前記第1および第2のフォームフィッティング手段(8、10)が、前記横材(4)および/または前記縦材(6)に、一体化する接合方法によって連結されることを特徴とする車体。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の車体において、
前記縦材(6)および/または前記横材(4)が、鋼から構成されることを特徴とする車体。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の車体において、
少なくとも一つの前記フォームフィッティング手段(8、10)が、鋼から構成されることを特徴とする車体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の横材と、少なくとも一つの縦材とを具える車体に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車の後面衝突の大部分は20km/hより低い速度で発生するため、代表的な後面衝突におけるダメージを軽減する目的で、保護区画の衝突安全試験が開発されている。これらの試験方法によって、自動車保険は、乗用車を「AZT試験」を用いたクラス型に分類している。自動車の前面全ての表面領域における前面衝突よりも、自動車の斜め前におけるスモールオーバーラップ衝突事故の方が、高い頻度で乗員を害する大きなリスクと関連している。これは、スモールオーバーラップ衝突事故では車体の縦材に近い領域のみが変形するため、自動車の中央の縦軸近くに配置される縦材は、たとえ荷重吸収を支持し得るとしても、不十分であることに起因している。これらの場合には、衝突エネルギを吸収すると乗車スペースが大きく変形してしまい、結果として乗員を害するリスクが増加する。したがって、特に車体前面の設計では、斜め前でのスモールオーバーラップ衝突事故の荷重吸収を改善する必要がある。
【0003】
スモールオーバーラップ衝突事故のエネルギ吸収を改善するために、JP2004066932Aは、側方に縦材を拡大し、側方への拡大部を前面の横材とも連結させることを提案している。この方法によって、縦材によって荷重吸収が改善され得る。
【0004】
上記の先行技術を発端とし、本発明は、スモールオーバーラップ衝突事故における荷重吸収が確実に改善されるような車体を決定するという目的に基づいており、この車体の変形性能は、表面領域全体にわたる衝突事故で実質的に損なわれることがない。
【0005】
本発明によれば、少なくとも一つの縦材に衝突エネルギを吸収する手段が与えられ、当該手段によって、スモールオーバーラップ衝突事故において選択的に少なくとも一つの縦材に荷重経路が導入され、衝突事故において縦材の方向へフォームフィッティング結合を形成するようなフォームフィッティング手段が与えられる先述の車体によって、本目的が達成される。
【0006】
スモールオーバーラップ衝突事故では、荷重吸収が選択的に増加することが認められており、このため本発明に係る手段は、フルオーバーラップ衝突した場合、特に20km/hよりも低い速度で後面に衝突した場合の、少なくとも一つの縦材との衝突エネルギ吸収に悪影響を与えない。荷重吸収の改良が選択的に生じることによって、スモールオーバーラップ衝突事故のときに、少なくとも一つの縦材に増加した荷重吸収を導入するような前面衝突事故では、衝撃を受けた車体部分の過度の剛性で乗員を危険な状態にさらすことなく、荷重吸収を増加させることができる。本発明に係る手段によって、側面のスモールオーバーラップ衝突事故での乗車スペースの変形を軽減することが達成され、それにより乗員の安全性が増加する。スモールオーバーラップ衝突事故の際に縦材方向にフォームフィッティング結合を形成する、フォームフィッティング手段を提供することにより、変形、特に縦材近くの領域における横材の座屈、および/または少なくとも一つの縦材の変形によって、フォームフィッティング結合の形成がもたらされる。結果として、スモールオーバーラップ衝突事故での乗車スペースの変形がさらに軽減され、乗員の安全性はさらに増加する。フォームフィッティング手段は、少なくとも一つの縦材上に配置されてもよいが、横材上に少なくとも部分的に配置されてもよい。
【0007】
本発明によって設けられる横材は、例えば、前面および後面のバンパーとして設計され得る。車体の前部および後部領域の両方において、車体が本発明の構成を具えることも同様に考えられる。
【0008】
好適には、フォームフィッティング手段は、少なくとも二つの接続部材を具える。
【0009】
本発明に係る車体の好適な改良によれば、フォームフィッティング手段のうち少なくとも一つの接続部材が、くさび形要素として設計される。くさび形要素は、例示的には、横材上に配置されてもよいが、少なくとも一つの縦材に固定されてもよい。くさび形要素は、例示的には、金属シートまたは中空材として設計されてもよい。フォームフィッティング手段の接続部材は、くさび形要素の設計に加えて、例示的に断面が多角形、特に長方形の中空形状に設計されることも同様に考えられる。
【0010】
さらにフォームフィッティング手段は、好適には、第二の接続部材として、例えばくさび形要素用のフォームフィッティング適合手段を含む。特に好適な実施例によれば、フォームフィッティング手段のうち少なくとも一つの接続部材は、ボルト型要素として設計される。衝突事故では、特にくさび形要素である第一の接続部材を、このボルト型要素によりフォームフィッティングの方法で適合させることが可能となる。フォームフィッティング手段は、第一の接続部材、特にくさび形要素が適合する接続部材として異なる手段を含むことも同様に考えられる。例示的には、くさび形または異なる設計の第一の接続部材に適合する適切な凹部または凸部を、縦材上に設けることができる。
【0011】
代替的または追加的に、少なくとも一つの縦材に連結され、かつ第一の接続部材に適合するのに適したタブ形要素が設けられてもよい。特に好適には、タブ形要素と、凹部または凸部との両方が縦材上に配置され得る。したがって、フォームフィッティング手段は、三つの接続部材を含むことも考えられる。
【0012】
横材は、好適に、少なくとも部分的に縦材に対して90°より小さい角度を有する。衝突事故では、フォームフィッティング手段は縦材の方向により大きく動くので、当該角度のある領域が横材の外縁に設けられると、スモールオーバーラップ衝突事故において、少なくとも一つの縦材に荷重負担を特に効率的に導入することができる。
【0013】
横材は、任意で、フォームフィッティング手段を適合させるための強化プレートを具えてもよく、当該強化プレートは、例示的に、少なくとも一つの縦材に対して90°より小さい角度で配置される。少なくとも一つの縦材が、横材との接触領域に、衝突事故時に変形することによって、衝突エネルギを吸収できるクラッシュボックスを具えていればさらに有益である。クラッシュボックスは、少なくとも一つの縦材と、好適には一体的に接合されるか非確動的に接合され、特に好適にはネジ接合の方法によって接合される。
【0014】
本発明に係る車体のさらなる有利な改良によれば、フォームフィッティング手段は、横材および/または少なくとも一つの縦材に、一体的な接合方法で、好適には溶接、鑞接または接着による方法で連結され、および/または非確動的な接合方法で、好適にはネジ接合で連結される。また、フォームフィッティング手段は、少なくとも一つの縦材または横材と、少なくとも部分的に一体成形することが考えられる。
【0015】
さらなる有利な改良では、少なくとも一つの縦材および/または横材は、鋼から構成され、好適には多相鋼または超高強度熱間成形鋼から構成される。これは相当する縦材および/または横材は、特に高い強度を具備し、同時に縦材および/または横材の重量の最適化が達成され得るからである。少なくとも一つのフォームフィッティング手段も同じく、有利に鋼から構成され、好適には多相鋼または超高強度熱間成形鋼から構成される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明は、図と共に実施例を用いて以下でより詳細に説明される。
【
図1】
図1は、本発明に係る車体の第一実施例の概略図を示している。
【
図2】
図2は、スモールオーバーラップ衝突事故における、本発明に係る車体の第一実施例の概略図を示している。
【
図3】
図3は、縦材とフルオーバーラップ衝突事故における、本発明に係る車体の第一実施例の概略図を示している。
【
図4】
図4は、スモールオーバーラップ衝突事故における、衝突エネルギを吸収するための、フォームフィッティング手段の第二実施例の概略図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明に係る車体2の第一実施例の概略図を示している。本発明に係る車体は、バンパー形態の横材4と、縦材6とを含む。また、衝突エネルギを吸収するための手段8、10が、横材4および縦材6上に配置され、当該手段により、スモールオーバーラップ衝突事故において選択的に一つの縦材6に荷重負荷が導入される。
【0018】
詳細には、車体2は横材4に設けられたくさび形要素8と、縦材6に設けられたボルト型要素10とを含む。くさび形要素8は、好適には金属シートとして設計され、かつ好適には多相鋼または高強度熱間成形鋼で構成される。ボルト型要素10は、角度のある形状である。90°と170°との間の角度が特に適している。既に記載された、フォームフィッティング手段の他の接続部材の設計もまた、スモールオーバーラップ衝突事故において荷重吸収を増加させるのに適している。記載された実施例では、フォームフィッティング手段8、10が、溶接による接合で横材4および/または縦材6と連結される。また、くさび形要素8は、ボルト型要素10の断面より大きな距離で縦材6から離れており、このため、本発明によれば、フルオーバーラップ衝突事故の際、例えば、縦材6の後面衝突事故の際に、増加した荷重負担が縦材に導入されることがない。
【0019】
図1で示された実施例は、本発明に係る自動車を示しており、スタート時の位置、すなわち衝突事故の場合ではない自動車を示している。縦材6は、クラッシュボックス12を介して横材4と連結されている。クラッシュボックス12は、ネジ接合14により縦材に固定される。
【0020】
横材4は、くさび形要素8と連結されている。横材4の末端部は縦材6に対して90°よりも小さい角度を有する。結果として、スモールオーバーラップ衝突事故では、くさび形要素8が縦材6方向へ移動し始める。
【0021】
図2は、概略図において、本発明に係る、スモールオーバーラップ衝突事故の車体の第一実施例を示しており、同じの符号は、本発明に係る車体の同じ構成要素を示している。衝突は、縦材6に隣接する車体領域のみを巻き込む。衝突の強さに応じて、縦材6および/または横材4のクラッシュボックス12が変形する。
図2は、変形によって、くさび形要素8が縦材6方向へと移動し、ボルト型要素10とフォームフィッティング結合することを示している。
【0022】
次に
図3は、本発明に係る、特に20km/h以下での縦材6の後面衝突事故であって、車体の第一実施例のフルオーバーラップ衝突事故での概略図を示しており、同じ符号は同じ構成要素を示している。この図は、縦材6の、少なくともクラッシュボックス12が変形していることを示しているが、くさび形要素8は縦材6方向へと移動しない。結果として、くさび形要素8とボルト型要素10との間にフォームフィッティング結合は形成されない。特にスモールオーバーラップ衝突事故のみにおいて、選択的に縦材に荷重負担が導入されるような本発明に係る構成によって、縦材が衝突に完全に巻き込まれる際の乗車スペースの変形をさらに軽減することが可能となる。
【0023】
図4は、スモールオーバーラップ衝突事故での衝突エネルギを吸収するためのフォームフィッティング手段の、第二実施例の概略図を示している。
図1から
図3で示されたボルト型要素は、同様に、
図4で示されるようなチャネル形の窪みを具える構成要素20の形を含んでもよい。