特許第6546189号(P6546189)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6546189対向ピストンエンジンにおける軸受油溜りからの潤滑油を利用するピストン冷却構成
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6546189
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】対向ピストンエンジンにおける軸受油溜りからの潤滑油を利用するピストン冷却構成
(51)【国際特許分類】
   F02F 3/22 20060101AFI20190705BHJP
   F02F 3/00 20060101ALI20190705BHJP
   F01P 3/08 20060101ALI20190705BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20190705BHJP
   F01M 1/08 20060101ALI20190705BHJP
   F02B 75/28 20060101ALI20190705BHJP
   F16J 1/09 20060101ALI20190705BHJP
   F16J 1/16 20060101ALI20190705BHJP
【FI】
   F02F3/22 A
   F02F3/00 Z
   F01P3/08 G
   F01P3/08 C
   F01M1/06 B
   F01M1/06 C
   F01M1/08 F
   F02B75/28 E
   F16J1/09
   F16J1/16
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-554613(P2016-554613)
(86)(22)【出願日】2015年3月5日
(65)【公表番号】特表2017-509823(P2017-509823A)
(43)【公表日】2017年4月6日
(86)【国際出願番号】US2015019028
(87)【国際公開番号】WO2015134786
(87)【国際公開日】20150911
【審査請求日】2017年12月28日
(31)【優先権主張番号】14/199,877
(32)【優先日】2014年3月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506405644
【氏名又は名称】アカーテース パワー,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マッケンジー,ライアン,ジー.
【審査官】 櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第02236401(US,A)
【文献】 米国特許第03023743(US,A)
【文献】 特表2013−539516(JP,A)
【文献】 実開昭59−165908(JP,U)
【文献】 米国特許第02282085(US,A)
【文献】 特開昭58−101250(JP,A)
【文献】 実開平03−077052(JP,U)
【文献】 特開昭50−042208(JP,A)
【文献】 実開平03−102042(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0295683(US,A1)
【文献】 特開昭57−020536(JP,A)
【文献】 特開2001−050243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 3/22
F02F 3/00
F02B 75/28
F16J 1/09
F16J 1/16
F01M 1/06
F01M 1/08
F01P 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向ピストンの端面により燃焼室を形成するように形作られた端面(206、306)を有するクラウン(203、303)を備えたピストン(200、300)と、
アンダークラウン(208、308)を含む前記クラウンと、
前記アンダークラウンと接続ロッド(210)の小端部(215)との間で前記ピストンに取り付けられた軸受(217)と、
リストピン(221)を含む前記軸受と、
前記リストピンを介して前記リストピンと軸受面との間の潤滑界面内に油を通過させるように配置された1つ以上のリストピン油出口通路(225)と流体連通する前記リストピンの油溜り(222)と、
前記油溜りと流体連通するリストピン油入口通路(224)、および
前記軸受の固定部(219a)および前記軸受の可動部(221)のうちの1つにおける少なくとも1つの冷却噴射口(270、275、278)と、
を含み、
前記冷却噴射口が前記油溜りと流体連通し、かつアンダークラウン部分に向けられ
前記リストピンは前記接続ロッドの前記小端部に受容され、
前記軸受の前記可動部は、前記ピストンの運動に応答して前記アンダークラウンに対して回転揺動する前記リストピンを含み、かつ
前記冷却噴射口は前記リストピンに取り付けられたノズルを含む、
対向ピストンエンジン用のピストン冷却構成。
【請求項2】
前記軸受の前記固定部は、前記ピストンの運動に応答して前記アンダークラウンに対して回転揺動できるように前記リストピンを支持する軸受部材を含み、かつ
前記冷却噴射口は前記軸受部材における油出口通路を含む、
請求項に記載のピストン冷却構成。
【請求項3】
前記接続ロッドは前記リストピン油入口通路と流体連通する油路を含み、
前記軸受部材における前記油出口通路は、前記リストピンと前記軸受面との間の前記界面からの加圧油を受け取る、
請求項に記載のピストン冷却構成。
【請求項4】
前記リストピンおよび前記軸受面は揺動軸受を形成する、請求項に記載のピストン冷却構成。
【請求項5】
前記リストピンおよび前記軸受面は二軸軸受を形成する、請求項に記載のピストン冷却構成。
【請求項6】
前記接続ロッドは前記リストピン油入口通路と流体連通する油路を含む、請求項に記載のピストン冷却構成。
【請求項7】
前記リストピンおよび前記軸受面は、揺動軸受または二軸軸受を形成する、請求項に記載のピストン冷却構成。
【請求項8】
長手方向に間隔をおいて配置された排気ポートおよび吸気ポートを持つ少なくとも1つのシリンダと、前記シリンダのボア内に相互に対向して配置された1対のピストンと、1対の接続ロッドとを含み、各ピストンが軸受によってそれぞれの接続ロッドに連結され、かつ少なくとも1つのピストンが請求項1〜のいずれか一項に記載のピストン冷却構成を含む、対向ピストンエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権)
本願は、2014年3月6日に出願された米国特許出願第14/199,877号による優先権を主張し、かつその一部継続出願である。
【0002】
(関連出願)
本願は、米国特許出願公開第2012/0073526号および米国特許公開第2014/0238360号の対象に関連する対象を含む。
【0003】
分野
本分野は、内燃機関のピストン熱管理である。さらに詳しくは、本願は、アンダークラウン―燃焼が作用するクラウン端面の後ろまたは下に位置するピストンクラウンの部分―が、ピストンの軸受機構の油溜りから供給される潤滑油を1つ以上の噴射に用いることによって冷却される、対向ピストンエンジンのピストン冷却構成の実現に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
現代のエンジンに要求される負荷の増大のため、ピストンの熱管理はピストンの完全性への継続課題を提起する。典型的なピストンにおいて、熱的損傷を特に受け易い4つの領域は、ピストンクラウン、リング溝、ピストン/リストピン界面、およびピストンアンダークラウンである。クラウン端面が感知する燃焼温度がクラウンの材料の酸化温度を超えると、酸化が発生し得る。クラウンは、酸化部位の応力/疲労によって機械的故障を生じ易くなる。ピストンのリング、リング溝、およびランドは、潤滑油がそのコークス化温度を超えて加熱されることによるカーボン堆積を呈することがある。高温のピン穴は結果的に、ピストン軸受の負荷容量を低下させるおそれがある。リング溝と同様に、ピストンアンダークラウンもまた油のコークス化を招く傾向がある。
【0005】
対向ピストン燃焼室構造の一部の態様では、クラウンが凹凸の激しい端面を含み、それが複雑な乱流給気運動を生じさせ、それが空気と燃料の均一な混合を促進する、ピストンを利用することが好ましい。対向配置された同様の凹凸を持つピストン端面と共に燃焼室を形成する、凹凸の激しいピストン端面の一例は、特許文献1の図11に示されている。燃焼はこれらのピストンに高い熱負荷をかける。それらの凹凸の激しい端面は、熱の集中(「ホットスポット」)を含む不均一な温度分布を形成し、それは非対称な熱応力、摩耗、およびピストンの破断を導くおそれがある。
【0006】
典型的には、ピストン温度を管理するために3通りの手法が取られる。1つでは、ピストンクラウンの高い熱抵抗が、燃焼室からクラウン内への熱の通過を低減または遮断する。第2の手法は、クラウンからピストンのリング、リング溝、ランド、およびスカートを介するシリンダボアへの熱伝導に依存する。第3の手法は、液体冷却材の流動を利用してアンダークラウンから熱を除去する。現代のピストン構造は典型的には3通りの手法を全部含む。
【0007】
液体冷却材は典型的には、ギャラリおよび/またはノズルによってアンダークラウンに施される。例えば特許文献2は、ピストンアンダークラウンを冷却するための油を受け取りかつ輸送する外側ギャラリを含むピストン冷却構造を教示している。外側ギャラリの底部に油出口が設けられる。油出口と流体連通する、外側ギャラリの床に取り付けられたノズルは、アンダークラウンに向けられる。油は、ピストンの上昇動作に応答して、ギャラリから油出口を介して慣性圧送される。圧送された油は、ピストンの上昇動作に応答して、ノズルからアンダークラウン上に噴霧される。
【0008】
対向ピストンの文脈におけるアンダークラウン冷却の一例は、出願人の特許文献3の図5に示されており、ここで凹凸のある端面を持つピストンは、端面の下でクラウンの外周をたどる環状ギャラリ256をクラウン内に含む。環状ギャラリは、端面の中心部の下の中心ギャラリ257と流体連通する。ピストンから分離したノズル262は、環状ギャラリ256の開口に向けられる。ノズル262によって放出される油の高速噴射は、環状ギャラリ内に移動し、燃焼中に高い熱的負担を負う端面の隆起の下のクラウンの特定部分にぶつかる。噴射は衝突によって特定のクラウン部分を冷却する。次いで油は環状ギャラリおよび中央ギャラリ中を流動し、それによってアンダークラウンのさらなる部分を冷却する。油は中央ギャラリから流出し、ピストンから排出される。
【0009】
特許文献2に記載されたノズルの冷却能力は、ピストンの上昇動作中に起きる慣性圧送動作によって制限される。その結果、アンダークラウンは、ピストンの動作サイクルの2分の1の間だけ油を噴霧することによって冷却される。さらに、噴霧される油は冷却ギャラリから得られるので、油はすでに加熱されており、それは、ノズルによって放出されたときにその冷却能力を制限する。特許文献3の冷却構造は、ピストン外部のノズルを介してピストン内に油を送り込む。アンダークラウンを冷却し、かつピストンロッド連結機構を潤滑するために、加圧された油を送り込む別々の輸送路が要求される。その結果、ピストンの動作サイクル中ずっと油が提供されるが、その代償として潤滑システムの複雑さおよびコストが増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2011/0271932号明細書
【特許文献2】米国特許第8430070号明細書
【特許文献3】米国特許公開第2012/0073526号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、潤滑のために油をピストンに輸送するシステムの複雑さおよびコストを増大することなく、ピストンの動作サイクル中ずっと潤滑油の流動を維持するやり方でアンダークラウンを冷却するように、潤滑油をピストンに送達する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
概要
潤滑のために油をピストンに輸送するシステムの複雑さおよびコストを増大することなく、ピストンの動作サイクル中ずっと加圧潤滑油によりピストンのアンダークラウンを冷却するために、油は、ピストンの軸受にある軸受の潤滑用の油溜りに圧送される。油溜りから、加圧油はまた、軸受に設けられかつアンダークラウンに向けられた1つ以上の冷却噴射口にも提供される。
【0013】
一部の態様では、油溜りはピストン軸受のリストピンに存在する。一部のさらなる態様では、油溜りは接続ロッドの小端部に取り付けられたピストン軸受リストピンに存在する。
【0014】
一部の態様では、軸受油溜りと流体連通する固定冷却噴射口が、ピストンアンダークラウンの特定の大きい領域を標的とする油の噴射を放出するように配置される。固定冷却噴射口はアンダークラウンに対して動かない軸受部に配置することができる。一部の態様では、軸受部は、エンジン動作中にアンダークラウンに対する揺動運動のためにリストピンを支持する。
【0015】
一部の態様では、冷却噴射口は軸受油溜りと流体連通する可動ノズルを含む。ノズルは、ピストンアンダークラウンの特定の大きい領域を標的とする油の噴射を放出するように配置される。ノズルは、領域に噴射を掃射するためにピストンが移動するにつれて、アンダークラウンに対して移動するピストン部分に取り付けることができる。一部の他の態様では、この部分は、ピストン運動の各サイクルで噴射が連続的に領域を掃射するように、ピストン運動に応答してピストンスカート内で揺動する。さらなる他の態様では、ノズルは、エンジン動作中にアンダークラウンに対して揺動または振動する接続ロッドの要素に取り付けられる。
【0016】
さらなる態様では、冷却噴射口は、揺動運動のためにリストピンを受容しかつ支持する軸受面を含む軸受支持部材に穿孔または形成された通路を含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、圧送油ギャラリを備えた先行技術の対向ピストンエンジンの略図である。
【0018】
図2図2は、ピストンが第1端面構造を有する2サイクル対向ピストンエンジン用のピストン/接続ロッド組立体の側面斜視図である。
【0019】
図3図3は、図2の線A‐Aに沿って切ったピストンクラウンおよびスカートの断面図である。
【0020】
図4図4は、軸受構成の要素を示す図2のピストン/接続ロッド組立体の分解組立図である。
【0021】
図5A図5Aは、第1冷却噴射口構造を示す、図2の線A‐Aに沿って切ったピストン/接続ロッド組立体の断面図である。
【0022】
図5B図5Bは、第2冷却噴射口構造を示す、図2の線B‐Bに沿って切ったピストン/接続ロッド組立体の断面図である。
【0023】
図6図6は、第2端面構造を有するピストンのクラウンおよびスカートの断面図である。
【0024】
図7A図7Aは、第1冷却噴射口構造の第1変形例を持つ軸受に組み付けられた図6のピストンを示す断面図である。
【0025】
図7B図7Bは、第2冷却噴射口構造の変形例を持つ軸受に組み付けられた図6のピストンを示す断面図である。
【0026】
図8図8は、1つ以上の冷却噴射をピストンの中央ギャラリに送達するための冷却噴射口構造を示す、図2の線A‐Aに沿って切ったピストン/接続ロッド組立体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
詳細な説明
2サイクルエンジン(two−stroke cycle engine)は、クランクシャフトの完全な1回転およびクランクシャフトに接続されたピストンの2行程によりパワーサイクルが完了する内燃機関である。2サイクルエンジンの一例は、1対のピストンがシリンダのボア内に対向して配置される対向ピストンエンジンである。エンジンの動作中に、ピストンの端面間に形成される燃焼室で燃焼が起こる。
【0028】
図1に示される通り、対向ピストンエンジン49は、少なくとも1つのポート付きシリンダ50を有する。例えば、エンジンは1つのポート付きシリンダ、2つのポート付きシリンダ、3つのポート付きシリンダ、または4つ以上のポート付きシリンダを有することができる。例証として、エンジン49は、複数のポート付きシリンダを有すると想定されている。各シリンダ50はボア52を有する。排気ポート54が吸気ポート56から長手方向に間隔をおいて配置されるように、シリンダのそれぞれの端部に排気および吸気ポート54および56が形成される。排気および吸気ポート54および56の各々は、1つ以上の周方向の開口配列を含む。排気および給気ピストン60および62は、それらの端面61および63が相互に対向する状態で、ボア52内に摺動自在に配置される。排気ピストン60はクランクシャフト71に連結され、給気ピストンはクランクシャフト72に連結される。ピストンは各々、軸受74および接続ロッド76によってその関連クランクシャフトに連結される。
【0029】
エンジン49の可動部を潤滑するために油を供給する潤滑システムは油溜り80を含み、そこから加圧油がポンプ82によって主ギャラリ84に圧送される。主ギャラリは、典型的には主軸受(図示せず)の穿孔86を介して、加圧油をクランクシャフト71および72に供給する。主軸受の溝から、加圧油は接続ロッド76の大端軸受の溝に提供される。そこから加圧油は接続ロッドの穿孔77を介して軸受74へ流動する。
【0030】
限定することを意図しない一部の態様では、エンジン49はスーパーチャージャ110およびターボチャージャ120を含む空気管理システム51を備える。ターボチャージャは、共通シャフト123上で回転するタービン121およびコンプレッサ122を含む。タービン121は排気サブシステムに連結され、コンプレッサ22は給気サブシステムに連結される。排気ポート54から導管125内に流れ込む排ガスは、タービン21を回転させる。これはコンプレッサ122を回転させ、コンプレッサは吸気を圧縮することによって給気を発生させる。コンプレッサ122によって出力される給気は導管126内を流れ、そこからスーパーチャージャ110によって吸気ポート56の開口に圧送される。
【0031】
対向ピストンエンジンの動作サイクルはよく理解されている。それらの端面61、63の間で発生する燃焼に応答して、対向ピストン60、62はシリンダ内のそれぞれの上死点(TC)位置から遠ざかる。TCから移動しながら、ピストンは、それぞれの下死点(BC)位置に接近するまで、それらの関連ポートを閉じたまま維持する。ピストンは、排気および吸気ポート54、56が同調して開閉するように同期して移動することができる。代替的に、一方のピストンは他方のピストンより位相が進むことができ、その場合、吸気および排気ポートは異なる開閉時間を有する。ピストンがそれらのBC位置を通過すると、排気ポート54から流出する排出物は、吸気ポート56を介してシリンダ内に流入する給気に取って代わられる。BCに到達後、ピストンは方向を逆転し、ポートはピストンによって再び閉じられる。ピストンがTCに向かって移動し続ける間、シリンダ50内の給気は端面61および63の間で圧縮される。ピストンがシリンダボア内でそれぞれのTC位置に進むにつれて、燃料がノズル100を介して給気中に噴射され、給気と燃料の混合物は、ピストン60および62の端面61および63の間に形成される燃焼室で圧縮される。混合物が点火温度に達すると、燃料は発火する。燃焼が起き、ピストンをそれぞれのBC位置に向かって離隔駆動させる。
【0032】
場合によっては、対向端面61および63は同一に構成され、かつピストン60および62は、それらが配置されたシリンダの軸に対して回転対称に配置される。例えば出願人の米国特許公開第2011/0271932号明細書および米国特許公開第2013/0213342号明細書に記載されかつ図示されたピストン端面構造を参照されたい。他の場合によっては、対向端面61および63は、回転対向を必要としない相補的構造を有する。例えば出願人の国際公開第2012/158756号および関連米国出願第14/026,931号明細書に記載されかつ図示されたピストン端面構造を参照されたい。
【0033】
図1に示すエンジン49のような対向ピストンエンジンのピストンの熱的設計に、アンダークラウン冷却を含めることが好ましい。したがって、本明細書に記載されかつ図示されたアンダークラウン冷却の実施形態は、効果的なピストンの熱性能を実現するために、ピストンの熱管理の他の態様と組み合わせることができる。アンダークラウンの冷却および他の目的は、対向ピストンエンジンのピストン軸受に加圧潤滑油を蓄積することによって、かつ蓄積された油を1つ以上の噴射によって軸受を潤滑するためかつピストンのアンダークラウンを冷却するためにも軸受から一定量を供給することによって、達成される。
【0034】
第1端面の構造
図2は、ピストンが同一端面を有する対向ピストンエンジンで使用されるピストン組立体の斜視図である。この場合、説明は単一のピストンに向けられているが、それは対向する相手ピストンにも適用されることを理解されたい。ピストン組立体はピストン200およびその関連接続ロッド210を含む。ピストン200はクラウン203およびスカート205を有する。クラウンの端面206は、同一形状の対向するピストンの端面と協働して燃焼室を形成するように構成される。クラウンの側壁にはランドおよびリング溝207が設けられる。図2図3、および図4を参照すると、ピストンは、燃焼が作用する端面206の後ろまたは下に位置するピストンクラウン203の部分であるアンダークラウン208を含む。接続ロッド210は、クランクシャフト(図示せず)のクランクスローに連結するための大端部211を有する。大端部211の軸受面に油溝212が形成される。油送達通路213(図5Bに最もよく示される)は、油溝212から小端部215まで接続ロッド210に長手方向に延びる。
【0035】
図2および図3の通り、端面206の輪郭は、バルク空気運動成分と相互作用して燃焼室における給気乱流を増強する窪み214を含む複雑な湾曲面によって形成される隆起209を含む。燃焼中に、隆起209および/または窪み214を含むクラウンの部分に1つ以上のホットスポットが発生することがある。
【0036】
ピストン軸受の構造および潤滑
図4図5A、および図5Bに関連して、ピストン200は、アンダークラウン208に固定されかつスカート205によって囲まれた空間に配置された軸受217を含む。図4および図5Bの通り、軸受構造は軸受支持部材219aおよび219bを含む。軸受支持部材219aは、ねじ式締結具によって小端部215に取り付けられたリストピン221(「ジャーナル」または「ガジオンピン」とも呼ばれる)を受容する軸受面220を含む。場合によっては、軸受支持部材219aおよび219bはリストピン221を中心に接合され、アンダークラウン208の内部構造に螺合着座する締結具218によってアンダークラウンに固定される。図4に示す通り、軸受支持部材219bの開口223は接続ロッド210を受容する。組み立てられたときに、軸受支持部材219a、219bは、開口223内の接続ロッド210の円弧状揺動によって引き起こされる軸受面220上での揺動ができるようにリストピン221を保持する。
【0037】
図4および5Bの通り、リストピン221は、リストピン221に穿孔された油入口通路224およびリストピン221に穿孔された1つ以上の油出口通路225と流体連通する内部油溜り222を含む。油出口通路225と整列し連通する軸受面220に周方向給油溝227が形成される。図4に最もよく示された一部の態様では、油溜り222は、対向端およびリストピン221の揺動軸線に対応する軸線を持つ環状凹部として構成することができる。この場合、円筒状シャフト250はリストピン221の円筒状内面228に受容される。フランジ252はシャフト250の一端に固定され、シャフトの反対側の端部は、シャフト250をリストピン221の円筒状内面228と同軸上に整列して保持するように、別のフランジ254に螺着される。図4および図5Bに示す通り、シャフト252の小さい直径は結果的に、それ自体と内面228との間に環状空間を形成する。他の場合、油溜りは、リストピン221のキャップドまたはストッパードドリリング(capped or stoppered drilling、キャップまたは留め具のドリルによる孔あけ)によって形成することができる。
【0038】
図5Bに関連して、加圧油は、図1の輸送路80、82、84、86によって示されるように大端油溝212に輸送される。油溝212から、加圧油は油溜り入口通路224を介して油溜り222に送達される。油溜り222に受容された加圧油は出口通路225を介して複数の流れで給油溝227に提供され、そこから軸受面220とリストピン221との間の軸受界面を潤滑するように流れる。
【0039】
一部の態様では、必須ではないが、軸受217は揺動ジャーナル軸受(「二軸」軸受とも呼ばれる)として構成することができる。そのような軸受は出願人の米国特許出願第13/776,656号明細書に記載されている。この場合、軸受面220は、軸線方向に間隔をおいて偏心配置された複数の表面セグメントを含み、リストピン221は、対応する軸線方向に間隔をおいて偏心配置された複数のリストピンセグメントを含む。そのような場合、軸受面220は、第1中心線を共有する2つの側方表面セグメントと、2つの側方表面セグメントを分離しかつ第1中心線から偏位した第2中心線を有する中央表面セグメントとを備えた、半円筒形状を有することができる。そのような場合、周方向給油溝227は、軸受面220の中央表面セグメントと側方表面セグメントとの間の境界に形成される。場合によっては、リストピン221の外面に、間隔をおいて配置された周方向溝226を有することができ(図4に最もよく示される)、かつ軸受界面の潤滑を増強するために、1つ以上の周方向に間隔をおいて配置された軸線方向の給油溝(図示せず)を軸受面220に形成することもできる。
【0040】
ギャラリ冷却:
図3図4、および図5Aに最もよく示される通り、アンダークラウン208は、クラ
ウン203の内部の1つ以上のギャラリを流れる潤滑油によって冷却される。好ましくは、ギャラリは、軸受支持部材219aの上面に床が設けられた、アンダークラウン208内の畏敬空間を含む。例えば、環状ギャラリ256はクラウン203の外周をたどり、中央ギャラリ257を取り囲む。環状ギャラリ256は穴258を介して中央ギャラリ257と連通する。環状ギャラリ256は、隆起209の下で260のように立ち上がる非対称なプロファイルを有する。中央ギャラリ257は端面206の最深部に当接する。アンダークラウンを冷却するための潤滑油は、加圧油の高速噴射を介してギャラリに提供される。噴射は環状ギャラリの内面の最高位置260にぶつかり、隆起209の下のアンダークラウン208の部分を衝突により冷却する。噴射によって運ばれた油はそこから環状ギャラリ256全体に流れる。環状ギャラリ256から潤滑油は中央ギャラリ257内に流入し、そこで隆起209の内側に沿ってアンダークラウンの中央部分に連続的に灌注する。環状ギャラリ256全体を流れる潤滑油は、ランドおよびリング溝207に当接するアンダークラウン208の環状部分を洗浄かつ冷却する。ピストンの往復運動は潤滑油を撹拌し、それは潤滑油を環状ギャラリ256内で循環させる。撹拌およびピストン運動に応答して、油は環状ギャラリ256から中央ギャラリ257内へも流入する。ピストンの往復運動はまた、中央ギャラリ257に集まりまたは蓄積した油をも撹拌して、端面206の中央部分の下のアンダークラウン208を冷却する。油は、中央ギャラリ257の底部から軸受構造内の1つ以上の通路を介して、スカート205の内部に流入する。そこから油はスカート205の開口端から外に流れ出る。
【0041】
出願人の米国特許公開第2012/0073526号明細書に記載された先行技術のギャラリ冷却構造では、アンダークラウンを冷却するための潤滑油の噴射は、ピストンから分離しピストンの外部にありピストンに対して固定されたノズルから、ピストンギャラリに提供される。これから説明する実施形態では、油噴射はピストン自体の要素から供給され、ピストン軸受の油溜りから供給される。
【0042】
冷却噴射構造
これまで記載したピストン潤滑構造に関連して、潤滑のために軸受油溜りに送達される加圧油は同時に、対向ピストンエンジンのアンダークラウンの冷却に使用することができる。一部の態様では、軸受油溜りから得られる加圧油は、ピストンアンダークラウンを冷却するために高速の流れまたは噴射の形で提供される。以下、そのような噴射を便宜上かつ簡潔を期すために、「冷却噴射」と呼ぶ。冷却噴射は、軸受油溜りと流体連通した冷却噴射口から提供される。受け取った加圧潤滑油から構成される少なくとも1つの冷却噴射は、衝突によってアンダークラウンの一部分を冷却するように、各ピストン軸受から提供される。噴射された油は、アンダークラウンの残部を衝突によって冷却する冷却材が絶えず補充されるように、アンダークラウン部分からピストン冷却ギャラリ内に流入する。冷却噴射は固定することができ、あるいは揺動運動により掃射することができる。
【0043】
図4図5A、および図5Bは、2つの冷却噴射の実施形態を示す。両方の実施形態が1つ以上の図に一緒に示されているが、これは便宜上かつ簡潔を期すためである。実際、これらの実施形態は選択肢として提案されている。すなわち、ピストンは、設計上の考慮事項およびコストによる要求に従ってどちらか一方を装備することができる。
【0044】
第1実施形態
引き続き図4および図5Aに示す例示的ピストン構造に関連して、第1冷却噴射口の実施形態は、軸受支持部材219aに穿孔または形成された通路270から構成される。通路270の一端は、給油溝227を介して油溜り222と連通する。油溜りで受け取った加圧油が給油溝227に入ると、油の一部分は通路270内に流入し、そこから油は冷却材噴射272の形で放出される。通路270は、アンダークラウン部分260を標的にするように配置されかつ方向付けられる。その結果、冷却材噴射272は、隆起209に関連付けられるクラウン203におけるホットスポットに方向付けられる。図から明らかな通り、軸受支持部材219aはアンダークラウンに固定される。部材219aとアンダークラウン208との間の相対運動がないので、噴射272はアンダークラウン208に対して固定的である。
【0045】
第2実施形態
代替的な冷却材噴射出口は図4および図5Bに最もよく示されており、ここでノズル278は、油出口280を介して油溜り222と流体連通するようにリストピン221に取り付けられている。図示される実施例では、油出口280はフランジ252に形成され、ノズル278は油出口に受容されたエルボ継手281によってこのフランジに取り付けられる。ノズル278は環状ギャラリ256内に延び、アンダークラウン部分260に向けられる。油溜り222に受け取られた加圧油は、油出口280およびエルボ継手281を介してノズル内に流入する。ノズル278から、加圧油は冷却材噴射284の形で放出される。図から明らかな通り、リストピン221はアンダークラウン208に対して揺動運動を受ける。その結果、冷却材噴射284はアンダークラウン部分260全体を往復して掃射する。
【0046】
第2ピストン構造
一部の態様では、図2のピストンより複雑な輪郭を有する端面構造のピストンのアンダークラウンに対し2つ以上の冷却噴射を提供することが望ましい。例えば、出願人の国際公開第2012/158756号に記載されかつ図示された対向ピストンエンジン用の第1燃焼室構造は、各々が関連ホットスポットを持つ2つの対向する隆起を備えたピストン端面を含む。そのようなピストンを図6に示す。そこでピストン300は、端面306およびアンダークラウン308を備えたクラウン303を有する。端面は、対向する隆起309の間に画定される、ピストン300の直径方向に延びる細長い割れ目307を含む。図7Aおよび図7Bに最もよく示される通り、アンダークラウン308は環状および中央冷却ギャラリを含み、ピストンは、第1および第2冷却噴射実施形態が各々2つの噴射出口を含み各冷却噴射口がアンダークラウンのそれぞれのホットスポット部分に向けられることを除いては、軸受217の構造と同一の軸受構造を含む。
【0047】
中央ギャラリ冷却
図3および図8を参照して、一部の態様では、ピストン200のアンダークラウン208を、潤滑油の中央ギャラリ257への流れおよび中央ギャラリ内の流れによって冷却することが望ましい。そのような場合、冷却噴射口の実施形態は、軸受支持部材219aに穿孔または形成された通路275から構成される。通路275の一端は給油溝227を介して油溜りと流体連通する。油溜りに受け取られた加圧油が給油溝227に入ると、その一部分は通路275内に流入し、そこから冷却材噴射の形で放出される。通路275は、中央ギャラリ257を標的にするように配置され、かつ方向付けられる。その結果、冷却材噴射は、窪み214の最深部に関連付けられるクラウン203の部分に方向付けられる。部材219aとアンダークラウン208との間の相対運動がないので、通路から放出される噴射はアンダークラウン208に対し固定的である。一部の態様では、2つ以上の冷却材噴射を中央ギャラリ257に向けることが望ましい。これは、図8に点線で示す第2通路275によって達成される。図6および図7Aに関連して、割れ目307の最深部の下にある下面部に液体冷却材を送達するクラウン303の中央冷却ギャラリ内に、潤滑油の1つ以上の冷却噴射を注入できるように、ピストン300に同じ装備を設けることができることは明らかである。
【0048】
対向ピストンエンジンの動作方法
図に関連して、エンジン49のような対向ピストンエンジンは、少なくとも1つのシリンダ50と、本書に記載した軸受構造を備えた1対のピストン200とを含む。ピストンはシリンダのボア52内に相互に対向して配置され、各ピストンは軸受217によってそれぞれの接続ロッド210に接続される。エンジンは、各軸受217に加圧油の流れを提供することを含む方法によって動作する。各軸受217への加圧油の流れは、軸受のリストピン222に受け取られる。リストピンにおける加圧油に応答して、受け取られた加圧油の各リストピンからの複数の流れは、それぞれの軸受界面を潤滑するために提供され、受け取られた加圧油の少なくとも1つの噴射は各軸受の固定部および運動部の1つから提供され、各噴射はそれぞれのピストンアンダークラウン部分を標的とする。この方法では、加圧油の流れはリストピンの油溜りに受け取られる。この方法で、各軸受の可動部から噴射を提供することは、リストピンから噴射を提供することを含む。この方法で、各軸受の可動部から噴射を提供することは、それぞれのピストンアンダークラウン部分全体に噴射を掃射することを含む。
【0049】
本書に記載した冷却構造の実施形態、ならびにそれらを実現する装置および方法は例証であって、限定を意図するものではない。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8