特許第6546207号(P6546207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ファナック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6546207-レーザ加工方法 図000002
  • 特許6546207-レーザ加工方法 図000003
  • 特許6546207-レーザ加工方法 図000004
  • 特許6546207-レーザ加工方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6546207
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】レーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/40 20140101AFI20190705BHJP
   B23K 26/16 20060101ALI20190705BHJP
   B23K 26/18 20060101ALI20190705BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20190705BHJP
   B23K 26/382 20140101ALI20190705BHJP
【FI】
   B23K26/40
   B23K26/16
   B23K26/18
   B23K26/00 P
   B23K26/00 Q
   B23K26/382
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-7927(P2017-7927)
(22)【出願日】2017年1月19日
(65)【公開番号】特開2018-114544(P2018-114544A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2018年2月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】和泉 貴士
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−175721(JP,A)
【文献】 特開平06−091388(JP,A)
【文献】 特開平02−084286(JP,A)
【文献】 特表平04−502429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/40
B23K 26/00
B23K 26/16
B23K 26/18
B23K 26/382
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックワークにレーザ光を照射して加工するレーザ加工方法であって、
前記ワークに前記レーザ光を照射する際に、前記レーザ光の照射時間とパワーと吸収率との積が、前記ワークの溶融対象部分の体積を溶融させるのに必要なエネルギ以上になるように設定するとともに、このレーザ光の照射に伴って発生する前記ワークの溶融材料を、熱拡散により前記ワークの母材と溶融部付近との温度差が前記ワークの耐熱衝撃性を示す所定の温度差以上にならないような速度で前記ワークのレーザ受光部から除去する際に、前記溶融材料にその重量以上の吸引力を作用させ、前記ワークのレーザ受光部に負圧を発生させて、前記溶融材料を吸引して除去するレーザ加工方法。
【請求項2】
前記ワークの前記溶融対象部分は、前記レーザ光のスポットサイズに対応する直径0.01mm〜1mmの円形の底面と、前記ワークの溶融深さに対応する100μm以上の高さと、を有する円柱に近似する形状である請求項1に記載のレーザ加工方法。
【請求項3】
前記ワークに前記レーザ光を照射する際に、予め前記ワークの前記レーザ受光部に反射防止膜をコーティングして、前記ワークに対する前記レーザ光の吸収率を増加させる請求項1または2に記載のレーザ加工方法。
【請求項4】
前記反射防止膜は、厚さが0.1mm以下である請求項3に記載のレーザ加工方法。
【請求項5】
前記ワークに前記レーザ光を照射する際に、前記ワークの厚さに応じて、前記レーザ光の焦点位置を前記ワークの裏面側に移動させる請求項1から4までのいずれかに記載のレーザ加工方法。
【請求項6】
前記レーザ光の焦点位置を移動させるときに、この焦点位置の移動動作および停止動作を交互に行い、この焦点位置の移動中に前記レーザ光の照射動作を停止するとともに、この焦点位置の停止中に前記レーザ光の照射動作を実行する請求項5に記載のレーザ加工方法。
【請求項7】
前記ワークに前記レーザ光を照射する際に、前記ワークの前記レーザ受光部の周囲温度を測定し、このレーザ受光部の周囲温度が規定値を超えた場合に、このレーザ受光部に対する前記レーザ光の照射動作を中断する請求項1から6までのいずれかに記載のレーザ加工方法。
【請求項8】
前記ワークに前記レーザ光を照射する際に、前記ワークの前記レーザ受光部の周囲温度を測定し、このレーザ受光部の周囲温度が規定値を超えた場合に、このレーザ受光部を冷却する請求項1から7までのいずれかに記載のレーザ加工方法。
【請求項9】
前記レーザ光は、炭酸ガスレーザ、ファイバレーザ、ダイレクトダイオードレーザまたはYAGレーザである請求項1から8までのいずれかに記載のレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ(酸化アルミニウム)等のセラミックからなるワーク(セラミックワーク)にレーザ光を照射して加工するレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セラミックワークにレーザ光を照射して加工する際には、パルス幅が数μ秒以下のレーザ照射により、ワークに穴開け加工を行っていた(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06−155061号公報
【特許文献2】特開2015−047638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これでは、次のような不都合があった。
【0005】
第1に、セラミックは、アルミニウム等の金属に比べて熱伝導率が悪い。例えば、アルミナの場合は、図4に示すように、熱伝導率が23W/m・Kである。そのため、セラミックワークの厚さが1mm以上の場合は穴開けに時間がかかり、熱伝導率が悪いため加工点周辺が局部的に高温になる。また、セラミックワークに連続して穴開け加工を行う場合には、熱が蓄積される。そのため、セラミックワークに大きな温度差が局部的に発生することで、セラミックワークに割れや破損、変形が発生しやすい。
【0006】
第2に、セラミックは、レーザ光の波長依存性が大きい。通常、微細加工を実施したい場合、集光径を小さくできるレーザの種類を選択するが、反射率が高い(吸収率が低い)場合は、出力の大きな発振器を用いる必要がある。そのため、レーザ発振器を含む装置(レーザ加工機)が肥大化し、レーザ加工に要するコストが増大する。
【0007】
本発明は、厚さ1mm以上のセラミックワークにレーザ加工を行う場合や、セラミックワークに連続してレーザ加工を行う場合においても、そのセラミックワークの割れや破損、変形なくレーザ加工を迅速かつ低廉に実行することが可能なレーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るレーザ加工方法は、セラミックワーク(例えば、後述のワーク3)にレーザ光(例えば、後述のレーザ光LB)を照射して加工するレーザ加工方法であって、前記ワークに前記レーザ光を照射する際に、前記レーザ光の照射時間とパワーと吸収率との積が、前記ワークの溶融対象部分の体積を溶融させるのに必要なエネルギ以上になるように設定するとともに、このレーザ光の照射に伴って発生する前記ワークの溶融材料(例えば、後述の溶融材料10)を前記ワークのレーザ受光部(例えば、後述のレーザ受光部3a)から除去する。
【0009】
前記ワークの前記溶融対象部分は、前記レーザ光のスポットサイズに対応する直径0.01mm〜1mmの円形の底面と、前記ワークの溶融深さに対応する100μm以上の高さと、を有する円柱に近似する形状であってもよい。
【0010】
前記ワークの前記溶融材料を前記ワークの前記レーザ受光部から除去する際に、前記ワークの前記レーザ受光部に負圧を発生させて、前記溶融材料を吸引して除去してもよい。
【0011】
前記ワークに前記レーザ光を照射する際に、予め前記ワークの前記レーザ受光部に反射防止膜をコーティングして、前記ワークに対する前記レーザ光の吸収率を増加させてもよい。
【0012】
前記反射防止膜は、厚さが0.1mm以下であってもよい。
【0013】
前記ワークに前記レーザ光を照射する際に、前記ワークの厚さに応じて、前記レーザ光の焦点位置を前記ワークの裏面側に移動させてもよい。
【0014】
前記レーザ光の焦点位置を移動させるときに、この焦点位置の移動動作および停止動作を交互に行い、この焦点位置の移動中に前記レーザ光の照射動作を停止するとともに、この焦点位置の停止中に前記レーザ光の照射動作を実行してもよい。
【0015】
前記ワークに前記レーザ光を照射する際に、前記ワークの前記レーザ受光部の周囲温度を測定し、このレーザ受光部の周囲温度が規定値を超えた場合に、このレーザ受光部に対する前記レーザ光の照射動作を中断してもよい。
【0016】
前記ワークに前記レーザ光を照射する際に、前記ワークの前記レーザ受光部の周囲温度を測定し、このレーザ受光部の周囲温度が規定値を超えた場合に、このレーザ受光部を冷却してもよい。
【0017】
前記レーザ光は、炭酸ガスレーザ、ファイバレーザ、ダイレクトダイオードレーザまたはYAGレーザであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、厚さ1mm以上のセラミックワークにレーザ加工を行う場合や、セラミックワークに連続してレーザ加工を行う場合においても、そのセラミックワークの割れや破損、変形なくレーザ加工を迅速かつ低廉に実行することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1実施形態に係るレーザ加工機を示す概略構成図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るレーザ加工機のノズルを示す垂直断面図である。
図3】アルミナその他の材料について、レーザ光の波長と反射率との関係を示す片対数グラフである。
図4】アルミナの物性を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態の一例について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係るレーザ加工機を示す概略構成図である。図2は、本発明の第1実施形態に係るレーザ加工機のノズルを示す垂直断面図である。
【0021】
この第1実施形態に係るレーザ加工機1は、図1に示すように、アルミナの平板状ワーク3を水平に支持する可動テーブル4と、円形断面のレーザ光LBを出射するレーザ発振器5と、レーザ発振器5から出射されたレーザ光LBをワーク3に誘導する導波路6と、レーザ光LBを集光レンズ7で集光してワーク3に照射する加工ヘッド8と、加工ヘッド8の先端に装着されるノズル2と、可動テーブル4、レーザ発振器5、集光レンズ7および加工ヘッド8の動作を制御する制御装置9と、を備えている。
【0022】
なお、可動テーブル4は、X軸方向およびY軸方向に移動自在になっている。また、加工ヘッド8は、Z軸方向に移動自在になっている。集光レンズ7は、加工ヘッド8内でZ軸方向に移動自在になっている。さらに、導波路6には、レーザ発振器5から出射されたレーザ光LBを反射して集光レンズ7に誘導する反射ミラー6aが含まれている。また、レーザ光LBの種類は特に限定されず、例えば、炭酸ガスレーザ、ファイバレーザ、ダイレクトダイオードレーザ、YAGレーザ等を用いることができる。
【0023】
ノズル2は、図2に示すように、レーザ光LBをワーク3に照射する略円筒状のノズル本体21と、ノズル本体21に形成された給気口22と、ノズル本体21に、給気口22に対向して形成された排気口23と、を備えている。給気口22には、円筒状の給気管32が接続されている。排気口23には、円筒状の排気管33が接続されている。そして、ノズル2は、ノズル本体21に誘導されるレーザ光LBの光軸CLを横切る形で、給気口22から排気口23に至る直線的なガス流路25に沿ってノズル本体21の内部にガスGを供給することにより、ノズル本体21の先端の開口部21aの近傍に負圧を発生させるように構成されている。
【0024】
ここで、給気口22の口径D2は、図2に示すように、ノズル本体21に誘導されるレーザ光LBのガスGに横切られる部位における直径D1以上である(D2≧D1)。また、排気口23の口径D3は、給気口22の口径D2より大きい(D3>D2)。例えば、D3=5mm、D2=1mmとすることができる。また、給気口22は、ガスGの直進性を向上させるための所定の長さL2(例えば、1mm)の直線部を有している。
【0025】
また、ノズル2は、ガス流路25に沿ってガスGが供給されるときには、例えば、ガスGの圧力や流量を適宜調整することにより、ワーク3の穴開け加工に伴って発生する溶融材料10に、その重量以上の吸引力を作用させ、この溶融材料10がノズル本体21の開口部21aから吸引されて排気口23からノズル本体21の外部へ排出されるように構成されている。
【0026】
さらに、ノズル2の近傍にはサーモグラフィ31が、ワーク3のレーザ受光部3aの周囲温度を測定しうるように設置されている。
【0027】
レーザ加工機1は以上のような構成を有するので、このレーザ加工機1を用いてアルミナのワーク3の穴開け加工を行う際には、次の手順による。
【0028】
まず、図1に示すように、可動テーブル4上にワーク3を載置した状態で、制御装置9からの指令に基づき、可動テーブル4をX軸方向、Y軸方向に適宜移動させて、ワーク3をX軸方向およびY軸方向の所定の位置に位置決めする。
【0029】
次いで、制御装置9からの指令に基づき、加工ヘッド8をZ軸方向に適宜移動させて、ノズル2をZ軸方向の所定の位置に位置決めする。すると、ノズル2は、図2に示すように、ノズル本体21の開口部21aがワーク3の表面から所定の距離L1(例えば、L1=0.5mm〜5mm)だけ上方に離れた状態になる。
【0030】
さらに、制御装置9からの指令に基づき、集光レンズ7を加工ヘッド8内でZ軸方向に適宜移動させる。すると、ノズル本体21の開口部21aとワーク3の表面との距離L1を保持した状態で、レーザ光LBの焦点位置がZ軸方向の所定の位置に位置決めされる。
【0031】
次に、制御装置9からの指令に基づき、給気口22から排気口23に至るガス流路25に沿って、ノズル本体21の内部にガスGを所定の圧力(例えば、0.5MPa)で供給する。すると、このガスGの流れに巻き込まれてノズル本体21の内部のガスが排気口23から排出されるため、ノズル本体21の開口部21aの近傍に負圧が発生する。
【0032】
このとき、排気口23は、給気口22に対向しているとともに、その口径D3が給気口22の口径D2より大きく、給気口22にガスGの直進性を向上させる所定の長さL2の直線部が設けられているため、給気口22からノズル本体21の内部に供給されたガスGは、残らず排気口23から排出される。その結果、ガスGの供給に無駄が生じることはなく、負圧の発生を効率的に進めることができる。
【0033】
さらに、制御装置9からの指令に基づき、サーモグラフィ31を用いて、ワーク3のレーザ受光部3aの周囲温度を測定する。
【0034】
この状態で、制御装置9からの指令に基づき、レーザ発振器5からレーザ光LBを出射する。すると、そのレーザ光LBは、導波路6に沿って誘導された後、集光レンズ7で集光されてノズル2のノズル本体21の開口部21aからワーク3に照射される。その結果、ワーク3は、そのレーザ受光部3aがレーザ光LBのレーザ照射によって溶融し、穴開け加工が開始される。
【0035】
このとき、レーザ光LBの照射時間とパワーと吸収率との積が、ワーク3の溶融対象部分の体積を溶融させるのに必要なエネルギ以上になるように設定する。このワーク3の溶融対象部分は、レーザ光LBが円形断面を有していることから、円柱に近似する形状であると考えられる。この円柱は、レーザ光LBのスポットサイズに対応する直径0.01mm〜1mmの円形の底面と、ワーク3の溶融深さに対応する100μm以上の高さと、を有している。
【0036】
ここで、レーザ光LBのスポットサイズとは、ワーク3のレーザ受光部3aにおけるレーザ光LBの断面積をいう。また、ワーク3の溶融深さとは、レーザ光LBの照射によって溶融するワーク3のレーザ受光部3aの深さをいう。
【0037】
また、ワーク3に対する反射率が高いレーザ光LBを選択し、照射する際には、予めワーク3のレーザ受光部3aに厚さが0.1mm以下の反射防止膜をコーティングして、ワーク3に対するレーザ光LBの吸収率を増加させることが望ましい。吸収率が低い場合、溶融までに時間がかかる為、熱拡散がおこるためである。なお、このレーザ光LBの吸収率を増加させるべく、鉄粉入りのテープ(図示せず)をワーク3の表面に貼ることも考えられるが、これでは、ワーク3の溶融材料10がこのテープに付着して吸引できない可能性がある。これに対して、反射防止膜をコーティングすれば、こうした可能性がない点で好ましい。
【0038】
また、ワーク3が厚い場合には、1回のレーザ照射でワーク3の穴開け加工が完了しないので、ワーク3の厚さに応じて、集光レンズ7をZ軸方向に移動させることにより、図2に二点鎖線で示すように、レーザ光LBの焦点位置をワーク3の裏面側(図2下方)に所定の回数(例えば、3回)だけ移動させる。
【0039】
このとき、焦点位置の移動動作および停止動作を交互に行い、この焦点位置の移動中にレーザ光LBの照射動作を停止するとともに、この焦点位置の停止中にレーザ光LBの照射動作を実行する。こうすることにより、レーザ照射を停止している間にワーク3の溶融材料10の排出時間を作ることができるため、レーザ光LBが溶融材料10に照射され、ワーク3に反射し、周囲温度が上昇することを防ぐことができる。
【0040】
また、アルミナの耐熱衝撃性は、図4に示すように、200℃であるため、ワーク3の穴開け加工を行っている最中に、ワーク3のレーザ受光部3aの温度差が、この温度を超えた場合、材料が破壊する。サーモグラフィなどでは、ワーク3のレーザ受光部3aを直接高精度で温度測定できない場合、このレーザ受光部3aの周囲温度が規定値(例えば、60℃)を超えた場合には、このレーザ受光部3aに対するレーザ光LBの照射動作を中断する。そして、レーザ受光部3aが冷却するのを待つか、或いは、温度が規定値を超えていない部分に対して先にレーザ加工を行う。このとき、ワーク3のレーザ受光部3aに風や冷却水を当てることにより、このレーザ受光部3aを強制的に冷却してもよい。
【0041】
こうしたワーク3の穴開け加工に伴って、ワーク3のレーザ受光部3aは、レーザにより加熱され溶融するが、このレーザ受光部3aに供給されるエネルギ量が大きい場合、瞬間的にレーザ受光部3aは沸点を超え、このレーザ受光部3aに溶融材料10が発生してレーザ光LBと同軸方向へ跳ね上がる。しかし、ノズル2内には、上述したとおり、レーザ光LBを横切るようにガスGが流れているので、溶融材料10が集光レンズ7に達することを阻止して、集光レンズ7を保護することができる。これに加えて、ノズル2は、レーザ光LBの光軸CLを横切るガスGの流れにより、ノズル本体21の開口部21aの近傍が負圧になっているため、このレーザ受光部3aにも負圧が発生する。しかも、ガスGは、溶融材料10の重量以上の吸引力が作用するように供給されている。その結果、この溶融材料10は、ノズル本体21の内部に吸い上げられつつ冷却されながら、排気口23からノズル本体21の外部に排出される。したがって、溶融材料10がノズル本体21の内部に滞留してレーザ光LBの照射の邪魔をすることはなく、ワーク3の穴開け加工を効率よく実行することができる。
【0042】
このように、ワーク3にレーザ光LBを照射する際には、レーザ光LBの照射時間とパワーと吸収率との積が、ワーク3の溶融対象部分の体積を溶融させるのに必要なエネルギ以上になるように設定される。しかも、このレーザ光LBの照射に伴って発生する溶融材料10は、素早く取り除かれるので、溶融材料10からワーク3のレーザ受光部3a以外の部分への熱拡散を抑制し、過熱に起因するワーク3の割れや破損、変形を防止することができる。その結果、厚さ1mm以上のアルミナのワーク3にレーザ加工を行う場合や、アルミナのワーク3に連続してレーザ加工を行う場合においても、ワーク3に割れ等が発生することを回避しつつ、レーザ加工を実行することができる。
【0043】
また、ワーク3のレーザ受光部3aに反射防止膜をコーティングすることにより、反射率が高いレーザ光LBでも吸収率を増加させることができる。そのため、出力の小さなレーザ発振器5を使用することができ、レーザ加工を迅速かつ低廉に実行することが可能となる。
【0044】
こうして、ワーク3の穴開け加工が終了すると、ワーク3のレーザ受光部3aがワーク3の表面から裏面へ貫通しているので、ワーク3の溶融材料10をワーク3の裏面から下方に排出することができる。したがって、それ以降は、ワーク3の溶融材料10を吸引する必要がなくなり、ガスGの供給を停止し、ノズル2からアシストガスを供給しながら、ワーク3の切断加工を行うことも可能になる。
【0045】
なお、本発明は、上述した第1実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【0046】
例えば、上述した第1実施形態では、加工ヘッド8内の光学系として集光レンズ7のみを備えている場合について説明した。しかし、集光レンズ7を保護する光学系としてのウインド(図示せず)が集光レンズ7の下方に取り付けられている場合にも、本発明を同様に適用することができる。
【0047】
また、上述した第1実施形態では、ノズル本体21の開口部21aをワーク3の表面から所定の距離L1だけ離した状態でレーザ加工を行う場合について説明した。しかし、例えば、ノズル本体21の開口部21aの下側に円筒状のシリコーンゴムからなる弾性部材(図示せず)をワーク3に接触するように取り付けることにより、ノズル本体21の密閉度を高め、溶融材料10の吸引力を増大させることも可能である。
【0048】
また、上述した第1実施形態では、ワーク3のレーザ受光部3aの温度を測定するのにサーモグラフィ31を使用する場合について説明したが、サーモグラフィ31に代えて、各種の温度センサ(図示せず)を用いることもできる。
【0049】
さらに、上述した第1実施形態では、アルミナのワーク3にレーザ加工を行う場合について説明したが、アルミナ以外のセラミックからなるワークにレーザ加工を行う場合にも、本発明を同様に適用することができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0051】
図3は、アルミナその他の材料について、レーザ光の波長と反射率との関係を示す片対数グラフである。図3のグラフにおいて、横軸(対数)はレーザ光の波長(単位:μm)を表し、縦軸はレーザ光の反射率(単位:%)を表す。図4は、アルミナの物性を示す表である。
【0052】
<実施例1>
炭酸ガスレーザを用いて、上述した第1実施形態に係るレーザ加工方法により、厚さ2mmのアルミナのワークにレーザ加工を行った。炭酸ガスレーザ(波長:約10μm)は、図3から明らかなように、アルミナに対する反射率が約20%、つまり吸収率が約80%である。また、アルミナは、図4に示すように、密度が3.9g/cm3 、比熱が0.75kJ/kg・K、融点が1777K、沸点が2723Kである。
【0053】
これらを踏まえて、ワークを溶融させるために必要なエネルギおよびワークを沸騰させるために必要なエネルギを算出する。すなわち、ワークの溶融対象部分が円柱状であり、その底面(つまり、レーザ光のスポットサイズに対応するもの)を直径0.5mmの円形、その高さ(つまり、ワークの溶融深さに対応するもの)を0.1mmと仮定すると、この円柱の体積は、円周率を3.14として、0.25mm×0.25mm×3.14×0.1mm=0.0196mm3 となる。したがって、この円柱の重さは、この体積に密度を乗じて、0.0196mm3 ×3.9g/cm3 =0.0765×10-3gになる。その結果、室温を293Kとして、ワークを溶融させるために必要なエネルギは、0.0765×10-3g×(1777K−293K)×0.75kJ/kg・K=0.085Jと算出される。また、ワークを沸騰させるために必要なエネルギは、0.0765×10-3g×(2723K−293K)×0.75kJ/kg・K=0.139Jと算出される。
【0054】
一方、レーザ発振器が、パワー1000W、デューティ20%、周波数1000Hz、照射時間0.005秒とすれば、アルミナに対する吸収率を80%として、このレーザ発振器から与えられるエネルギは、1000W×20%×0.005秒×0.8=0.8Jとなる。したがって、レーザ発振器から与えられるエネルギ(0.8J)は、ワークを沸騰させるために必要なエネルギ(0.139J)より大きくなる。
【0055】
その結果、このワークは、瞬間的に沸点を超える形で溶融した。また、このレーザ照射に伴って発生する溶融材料を吸引して瞬間的に取り除くことで、この溶融材料から母材への熱伝導を少なくし、母材の過熱を低減することができた。このように、ワークが瞬間的に沸点を超える場合、溶融材料はレーザの照射方向へ跳ね上がることがある。このような場合でも、レーザ光の光軸を横切るガスGの流れにより流され、集光レンズを汚染することは無い。
【0056】
1回のレーザ照射で深さ0.3mm〜0.4mm程度の穴が形成されると考えられるため、レーザ光の焦点位置を0.3mmずつワークの裏面側に移動させつつ、レーザ照射を5、6回繰り返した。その結果、厚さ2mmのアルミナのワークに直径0.5mmの穴を貫通して形成することができた。
【0057】
<実施例2>
レーザの種類を炭酸ガスレーザからファイバレーザに置き換えたこと以外は、上述した実施例1と同様にして、厚さ2mmのアルミナのワークにレーザ加工を行った。ファイバレーザ(波長:約1μm)は、図3から明らかなように、アルミナに対する吸収率が約8%、つまり、炭酸ガスレーザ(実施例1参照)の吸収率の1/10である。そのため、同じレーザ出力でレーザ加工を行うと、炭酸ガスレーザの10倍の時間がかかる。加工時間が長引くと、熱伝導により、母材が温められて割れる危険性が高くなる。同じ時間で行う場合には、10倍の出力のレーザを用意する必要がある。
【0058】
そこで、加工時間を短縮すべく、レーザ照射に先立ち、ワークの表面に反射防止剤(ファインケミカルジャパン製「ブラックガードスプレー」)を噴き付けて反射防止膜をコーティングして、レーザ光の吸収率を増加させた。これにより、高出力のレーザ発振器を用いなくても、母材の割れを防止しつつ、厚さ2mmのアルミナのワークに穴を貫通して形成することができた。
【符号の説明】
【0059】
3……ワーク
3a……レーザ受光部
10……溶融材料
LB……レーザ光
図1
図2
図3
図4