(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
血管内デバイスから受信したアナログ流れセンサデータを処理するように動作可能な患者インターフェースモジュールを含む医療診断システムであって、前記患者インターフェースモジュールは、
前記血管内デバイスから同じ通信経路で受信した流れセンサデータとは別の少なくとも1つの種類のデータを分離するように動作可能な信号分離器と、
デジタル流れセンサデータを生成するために直交サンプリングレートに従って前記アナログ流れセンサデータをサンプリングするように動作可能なアナログ−デジタル変換器と、
ベースバンド流れセンサデータを生成するために前記デジタル流れセンサデータに対してベースバンド変換を実施するように動作可能な信号処理手段と、
処理システムに前記ベースバンド流れセンサデータを出力するように動作可能なインターフェースサブユニットと
を含む、医療診断システム。
前記信号処理手段が、前記デジタル流れセンサデータに対して前記ベースバンド変換を実施するように動作可能な加重累算器を含む、請求項1に記載の医療診断システム。
前記ベースバンド流れセンサデータに基づき流体流れボリュームの測定値を入手するように、及びユーザディスプレイ上に流体流れボリュームの前記測定値を表示するように動作可能な前記処理システムをさらに含む、請求項1に記載の医療診断システム。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本開示の原理の理解を促進する目的のために、図面に例示された実施形態が参照され、特定の言い回しが同一のことを説明するために使用されるが、本開示の範囲の限定を意図するものではないことが理解される。本開示が関連する技術分野の当業者であれば通常思いつくような、記載されるデバイス、システム及び方法に対するあらゆる変更及びさらなる修正、並びに本開示の原理のあらゆるさらなる適用は、完全に企図されており、本開示の範囲内に含まれる。とりわけ、1つの実施形態に関して記載される特徴、構成要素及び/又は工程は、本開示の他の実施形態に関して記載される特徴、構成要素及び/又は工程と組み合わされ得ることが完全に企図される。しかしながら、簡潔のために、これらの組み合わせの数多くの反復するものについては個別に説明しない。
【0013】
図1を参照すると、そこには本開示の実施形態に従う診断システム100が示されている。概して、診断システム100は、単様式医療システム又は多様式医療システムであり得る。その点に関して、多様式医療システムは、生理学的及び形態学的情報を取得し、解釈し、且つ/又はヒト脈管系における種々の状態の処置を調整するために使用される様々な方法に対して高感度であるように設計された多種多様な形態の取得素子及び処理素子の、整合のとれた統一及び統合を提供する。
【0014】
図示されるように、診断システム100は、検知器具102を含む。検知器具102は、脈管内に置かれるための大きさ及び形状に作られた、あらゆる形態のデバイス、器具又はプローブであり得る。例示された実施形態において、器具102は、概して、ガイドワイヤを表す。他の実施形態において、器具102は、カテーテル(ラピッドエクスチェンジカテーテル又はオーバーザワイヤカテーテルを含む)であり得る。概して、器具102は、それが脈管を通る流体流れを著しく損なうことなく脈管内に置かれ得ることとなるような大きさに作られる。したがって、場合によっては、器具102は、0.035インチ、0.018インチ、0.014インチ又はそれ以下の外径を有する。
【0015】
図1に示されるように、器具102の遠位端は、脈管104内へと進められる。脈管104は、生体内の天然及び人造の両方の流体充填構造物を表しており、例えば、血管(動脈及び静脈)、心臓の部分、心臓弁、ステント、シャント、フィルタ、及び体内に置かれる他の天然又は人工のデバイスなどの構造物を含み得るが、これらに限定されない。
【0016】
器具102は、器具102が置かれる脈管104内の流体流れについて(又は脈管104自体について)の診断情報を入手するように構成される。その点に関して、器具102は、器具102の遠位部分内に置かれた1つ以上の検知素子、変換器、及び/又は他のモニタリング素子(一般的にセンサ106と呼ぶ)を含む。例えば、1つ以上のセンサが、器具の遠位先端108に配置され得る。センサ(1つ又は複数)106は、診断情報(例えば、流速、ボリューム流量、血管内圧、温度、画像(血管内超音波、光干渉断層法、熱画像法、及び/又は他のイメージング技術を用いて得られる画像を含む)、及び/又はそれらの組み合わせのうちの1つ以上)を入手するように構成される。
【0017】
例示された実施形態において、器具102は、脈管内の流体流れをモニタリングするように構成された少なくとも1つのセンサ106を含む。一部の例示的な流れモニタリングセンサ106は、1つ以上の超音波変換器を含む。例えば、場合によっては、流れモニタリングセンサ106は、血流速度を示すドップラーシフトした超音波エコー信号を検出するように構成された超音波変換器である。
【0018】
加えて又は変形例において、器具102は、少なくとも1つの圧力モニタリングセンサ106を含み得る。例示的な圧力モニタリングセンサ106としては、ピエゾ抵抗圧力センサ、ピエゾ電気圧力センサ、容量型圧力センサ、電磁圧力センサ、流体柱(この流体柱は、器具と別個である及び/又は流体柱の近位の器具の一部に置かれた流体柱センサと連絡している)、光圧力センサ、及び/又はそれらの組み合わせが挙げられる。場合によっては、圧力モニタリング素子の1つ以上の特徴は、微小電気機械システム(MEMS)技術及び/又は他の好適な製造技術を用いて製造された固体素子として実装される。流速測定素子及び圧力測定素子の両方を含む市販のガイドワイヤ製品の一例は、Volcano Corporationから入手可能なComboWire(登録商標)XT圧力及び流れガイドワイヤである。
【0019】
センサ106が作動中であるとき、器具102中に存在する通信チャネル110(例えば、光ファイバ、導体束、及び/又は無線トランシーバ)が、器具102の近位端に結合された患者インターフェースモニタ(PIM)112にセンサデータを伝達する。PIM112は、器具102及び対応するセンサ106によって収集された医療センサデータを受信するように動作可能であり、且つ受信したデータを処理システム114に送信するように動作可能である。様々な実施形態において、PIM112は、USB接続で医療センサデータを送信するが、他の実施形態においては、Ethernet接続、Thunderbolt接続、FireWire接続、又は一部の他の高速データバス接続が利用され得る。他の例において、PIM112は、IEEE802.11 Wi−Fi規格、Ultra Wide−Band(UWB)規格、無線FireWire、無線USB、又は別の高速無線ネットワーク接続規格を用いて無線接続を介して処理システム114に接続され得る。
【0020】
器具102と処理システム114との間でデータを送信することに加えて、PIM112は、データを送信する前にセンサデータの処理を実施し得る。そのような実施形態の例において、PIM112は、データの増幅、フィルタリング、時間サンプリング、識別、及び/又は集約を実施する。PIM112はまた、データを処理システム114から器具102のセンサ106に転送し得る。例示的な実施形態において、このフィードバックデータは、センサを有効及び無効にするためのコマンド並びに/又は個々のセンサについての動作モードを設定するためのコマンドを含む。一部の実施形態において、PIM112はまた、センサ106の動作を駆動するために電力を供給する。
【0021】
PIM112が結合される処理システム114が、センサ動作、並びにデータの取得、処理、解釈及び表示を管理する。その点に関して、処理システム114は、PIM112を介して器具102のセンサ106からセンサデータを受信し、センサデータを処理してそれを表示に適したものにし、処理したセンサデータをユーザディスプレイ又はモニタ116上に示す。
【0022】
様々な実施形態において、診断システム100は、医療データを取得し、処理し、且つ表示するために、ハードウェア及びソフトウェアの任意の組み合わせを含む計算処理システムを含む。診断システム100がコンピュータワークステーションを含む実施形態において、当該システムは、プロセッサ(例えば、マイクロコントローラ又は専用中央処理装置(CPU))、非一時的コンピュータ可読記憶媒体(例えば、ハードドライブ、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(例えば、CD−ROM、DVDなど))、ビデオコントローラ(例えば、画像処理装置(GPU))、及び/又はネットワーク通信デバイス(例えば、Ethernetコントローラ及び/又は無線通信コントローラ)を含む。診断システム100のハードウェアは、本明細書に記載されるデータ取得及び分析と関係する工程を実行するようにプログラミングされ得る。したがって、データ取得、データ処理、器具制御及び/又は本開示の他の処理若しくは制御態様に関連するあらゆる工程が、処理システムによりアクセス可能な非一時的コンピュータ可読媒体上又は内に記憶されている対応する命令を用いて診断システム100により実行され得ることが理解される。さらに、本開示の異なる処理及び/又は制御態様は、複数の計算処理デバイスを用いて個別に又は予め定められたグループ内で実行され得ることが理解される。本開示は、多種多様な計算処理デバイスにわたる以下に記載される処理及び/又は制御態様のあらゆる分割及び/又は組み合わせを包含する。
【0023】
次に
図2を参照すると、例示的なPIM112が、本開示の実施形態に従ってより詳細に示されている。PIM112は、より費用のかかるアナログ信号処理エレクトロニクスを利用するのではなく、高サンプリングレートのアナログ−デジタル変換を利用して信号処理の多くがデジタル領域において実施されることを可能にする改善された器具インターフェースを提供する。例えば、一部の実施形態において、アナログ成分は、ベースバンド変換、補間及び低域フィルタリング、積分及び保持、並びに/又は低周波数及び静止エコーを除去するためのクラッタフィルタリングを含むデータ処理工程を実施するために使用される。これらの成分は、センサデータのアナログ表現(電圧波形)で動作する。これまでは、高周波数アナログ信号を変換し処理する能力が限られていたのはデジタルエレクトロニクスであり、アナログ信号処理は、様々な信号処理タスクに採用するには柔軟性が限られてはいるが高周波数信号を扱うための比較的コンパクトで効率的な方法を提供してきた。しかしながら、現在では、最新のデジタルエレクトロニクスは、非常に向上した柔軟性を提供しつつ、従来のアナログエレクトロニクスに比べてより一層コンパクトで電力効率のよい形式で、高周波数アナログ−デジタル変換及び信号処理タスクに対応し得る。アナログ回路は、多くの場合、特定の器具102又は特定の系統の器具102に対して調整されるのに対し、デジタル信号処理は、典型的に、種々様々なセンサの種類に適合するように、デジタル信号処理素子(1つ又は複数)のプログラム可能性によって高度な柔軟性を提供し得る。したがって、一部の実施形態においては、デジタル信号処理は、よりコンパクトな実装及び電力消費の低減を可能にしつつ、アナログ集約的アプローチに比べて、同じか又は改善された信号処理能力及びより大きな柔軟性を提供する。一部のそのような実施形態において、これらの利益は、より小さく且つより費用のかからないPIM112において実現され得る。
【0024】
図2に示されるように、PIM112は、信号分離器202、1つ以上のアナログ−デジタル変換器(例えば、ADC204及び206)、信号プロセッサ208、及びインターフェースサブユニット210を含む。例示された実施形態において、PIM112は、器具102から圧力及び流れ関連データを受信するように構成される。これらのデータの種類は例示的なものであり、したがって、器具102によって提供されるセンサデータの種類に基づき、構成要素が、PIM112に加えられるか又はそこから除かれ得ることが理解される。
【0025】
受信したセンサデータは、まず、PIM112の信号分離器202に提供され得る。器具102が同じ一連の導電体又は他の通信経路で1つより多くの種類のデータを供給する実施形態において、信号分離器202は、各出力において異なる種類又は様式のデータを提供するために、データの種類を区別する。例えば、例示された実施形態において、信号分離器202は、器具102によって報告された圧力データと、同じく器具102によって報告された流れ関連データとを分離する。器具102が単に単一の種類のデータを供給するだけの実施形態においては、信号分離器202は、省略されるか又は無効にされ得る。
【0026】
信号分離器202が動作する機構は、通信チャネル110を通じてデータが送信される仕方によってある程度決まる。一実施形態において、異なる種類のデータは、異なる導体で報告され、信号分離器202は、単にデータの種類によって導体を分けるだけである。一実施形態において、データは、時分割多重化され、信号分離器202は、時分割多重分離装置を含む。一部の実施形態において、異なるデータの種類は、異なる特性周波数を有し、信号分離器202は、多数の低域、高域及び/又は帯域フィルタを含む。例えば、一実施形態において、圧力データは、DC及び低周波数信号(例えば、およそ100Hz以下)として報告され、流れ関連のドップラー超音波エコー信号を伝達する超音波エコー信号は、より高い特性周波数(例えば、超音波周波数範囲、典型的には10MHz以上)を有する。したがって、信号分離器202は、複合信号を、低域フィルタに通して圧力関連データを抽出し、広域フィルタに通して流れ関連データを抽出する。当然のことながら、これらの実施形態は例示的なものにすぎず、他の種類の信号分離が企図され、提供もされる。
【0027】
分離後、データ信号のうちの1つ以上が増幅され得る。例示された実施形態において、例示された増幅器によって流れデータは増幅されるが、圧力データは増幅されない。しかしながら、他の実施形態においては、アナログ−デジタル変換の前に、信号データの全ての種類が増幅される、一部の種類が増幅される、及び/又はいずれの種類も増幅されないことが理解される。増幅された又は増幅されていないデータは、アナログ−デジタル変換器(例えば、ADC204及び206)を用いてデジタル化される。ADC204及び206は、アナログ信号を別個の時間にサンプリングし、サンプル値をデジタル形式で提供する。ADCにより使用されるサンプリングレートは、サンプリングされるデータの種類及びその特性周波数によってある程度決まり得る。例えば、圧力データは、比較的ゆっくりと変化し得、したがって、一実施形態においては、およそ200HzのサンプリングレートがADC204に与えられる。場合によっては、PIM112は、参照によりその全体が本明細書に援用される2014年3月14日に出願された米国特許出願第14/212,989号に記載されるような、圧力データを処理するための構成要素を含む。
【0028】
圧力データの低特性周波数と対照的に、ドップラー超音波変換器により生成される流速データは、はるかに高い特性周波数を有し得る。超音波変換器は、公称中心周波数を中心とする超音波を発し、周囲の組織(例えば、血管壁104)及び脈管内の移動する血液からのエコー信号を受信することにより動作する。したがって、一部の実施形態において、該当する流れデータ(ドップラーシフトした超音波エコー信号)は、中心が公称中心周波数である比較的狭い帯域幅の範囲に含まれる。血管内ドップラー流れ測定のために使用される様々な例示的な超音波変換器は、およそ10MHz〜およそ15MHzの間の公称中心周波数を有する。他の例示的な超音波変換器は、およそ20MHz又はおよそ40MHzの公称中心周波数を有する。ドップラー超音波エコー信号は、その典型的にはるかに狭い帯域幅に比して比較的高いその中心周波数のため、必要とされるADCサンプリングレートを下げるために、多くの場合、デジタル化される前にベースバンド形式に変換される。ベースバンド変換は、狭帯域幅の高周波数信号を正弦基準波形及び余弦基準波形と混合して、ゼロ周波数を中心とするが元のエコー信号と同じ帯域幅にわたる、低周波数の一対の同相信号及び直交信号を生成する。結果として生じるより低い周波数の信号は、元のエコー信号を直接サンプリングするために必要とされるレートに比べてはるかに低いレートでデジタル化されたサンプルによって正確に表され得る。
【0029】
しかしながら、以下でさらに詳細に述べるように、サンプルレート要件を低減するためにアナログベースバンド変換を用いるのではなく、ドップラーシフトした超音波エコー信号をより高いサンプリングレートで直接デジタル化することの利点が存在する。とりわけ、アナログベースバンド変換は、同相チャネルと直交チャネルとの間に非線形の信号歪み及び不整合を導入し、後のドップラー分析においてアーティファクトを生じるのであるが、直接デジタルサンプリングは、同相サンプル及び直交サンプルの両方を取り込むために単一のADCを利用し、それにより完全なマッチングを確実にして、チャネルマッチングアーティファクトを排除し得る。加えて、アナログベースバンド変換回路は、最適な性能を確実にするために構成要素の慎重な調整を必要とし、一般的に、多種多様なデバイスの種類をサポートするために異なる動作周波数に適合することにおいて、限られた柔軟性を提供する。それに対して、直接デジタルサンプリングは、構成要素の調整の必要性を低減又は排除し、あらゆる必要とされる較正又は調整は、不揮発性メモリに記憶された補償係数によってデジタル領域において実行される。さらに、直接デジタルサンプリングアプローチは、サンプリング周波数及び他の信号処理パラメータを制御するために新たなファームウェアをロードすることにより、異なるデバイス及び信号処理アルゴリズムに対応するための多大な柔軟性を提供する。
【0030】
直接デジタルサンプリングの1つの特定の変形例は、以下により詳細に説明するような、デジタル直交サンプリングアプローチである。このアプローチによれば、様々な実施形態において、流れADC206は、式:
【数2】
(式中、Nは、0以上の整数である)によって決定されるサンプリングレートで、ドップラーシフトした超音波エコー信号をデジタル化する。器具102の超音波変換器が12MHzの公称中心周波数を有する例示的な実施形態において、Nは、流れデータADC206が、ドップラーシフトした超音波エコー信号を公称中心周波数の4倍(すなわち、48MHz)でサンプリングすることとなるように、0であるように選択される。
【0031】
直接直交サンプリングの代わりとして、高速ADC206が、ドップラーシフトした超音波エコー信号を、ナイキストレートより高い(すなわち、エコー信号中の最高周波数成分の2倍より高い)任意の周波数でサンプリングするために使用され得る。高速ADCは、(GHz範囲以上の)非常に高いサンプリングレートをサポートする。よって、一部の実施形態において、ADC206は、ナイキストレートよりも著しく高い(例えば、ナイキストレートの10倍以上の)レートで流れデータをサンプリングするために使用される。さらなる例示的な実施形態において、流れデータADC206は、擬似ランダム間隔でサンプリングする。
【0032】
デジタル化されたセンサデータは、信号プロセッサ208に提供されるのであるが、信号プロセッサ208は、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)、ASIC(特定用途向け集積回路)、プログラマブルマイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、及び/又は任意の他の処理手段を含み得る。一実施形態において、信号プロセッサ208は、デジタル化されたドップラーシフトした超音波エコーデータに対して、ベースバンド変換、フィルタリング、補間、雑音低減、積分及び保持、並びに/又は他の信号処理タスクを実施した後に、この処理された流れ関連データを、インターフェースサブユニット210を介して診断システム100の他の構成要素(例えば、処理システム114)に提供する。
【0033】
次に
図3を参照すると、例示的な信号処理手段208がより詳細に例示されている。例示された論理ブロック302〜316は、センサデータに対して様々な信号処理タスクを実施するように構成されたハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、及び/又はそれらの組み合わせを表す。例示された実施形態において、センサデータは、血流データを表すドップラーシフトした超音波エコー信号を含み、信号処理ブロックは、デジタル化されたデータのベースバンド変換を実施するミクサーブロック302及び306並びに低域フィルタブロック304及び308を含む。アナログ領域におけるベースバンド変換と同様に、デジタルベースバンド変換ブロックは、高周波数データを表す一連の低周波数ベースバンド信号を生成する。基本原則は、時変信号S(t)が次の通りに表現され得ることである。
S(t)=I(t)cos(2πf
ct)−Q(t)sin(2πf
ct)
【0034】
2つの成分信号I(t)及びQ(t)は、S(t)の同相成分及び直交成分と称される。この表現は、I(t)及びQ(t)が、搬送周波数と称されるf
cによって下方にシフトされる周波数であることから有用であり、時変信号が搬送周波数を中心にした狭い帯域幅を有する場合、これらの成分信号も同様にゼロ周波数を中心にして帯域幅が狭い。この場合、時変信号は、選択された搬送周波数の知識と組み合わされた2つの成分信号によって完全に表されるのであるが、多くの場合、低周波数成分信号I(t)及びQ(t)の方が、後の信号処理工程においてそれらの高周波数対応物S(t)よりも操作が容易である。多くの実施形態において、f
cは、ドップラー流れデータを入手するために使用された超音波変換器の公称中心周波数と等しくなるように選択される。I(t)を入手するためには、デジタル化されたセンサデータは、不必要な高周波数成分を除去するために、同相ミクサーブロック302において余弦基準波形cos(2πf
ct)と混合され(掛け合わされ)、次いでフィルタブロック304により低域フィルタリングされる。Q(t)を入手するためには、デジタル化されたセンサデータは、不必要な高周波数成分を除去するために、直交ミクサーブロック306において正弦基準波形sin(2πf
ct)と混合され、フィルタブロック308により低域フィルタリングされる。
【0035】
信号プロセッサ208の同相ミクサーブロック302は、係数として基準波形cos(2πf
ct)のサンプルが供給される乗算器により実行され得、直交ミクサーブロック306は、係数として基準波形sin(2πf
ct)のサンプルが供給される乗算器により実行され得る。サンプリングレートが式:
【数3】
に従う実施形態において、これらの係数は自明である。例えば、N=0であり、f
cが超音波変換器の公称中心周波数となるように選択される場合、基準波形cos(2πf
ct)のデジタル化されたサンプルは[1,0,−1,0,1,0,−1,0,...]であり、基準波形sin(2πf
ct)のデジタル化されたサンプルは[0,1,0,−1,0,1,0,−1,...]である。これらの単純な係数を用いると、直交混合に一般的に必要とされる通常複雑なデジタル乗算ブロックは、単純なデジタル論理に還元され得る。さらに、同相成分に寄与するADCサンプルは奇数サンプルのみであるのに対して、直交成分に寄与するサンプルは、偶数サンプルのみである。デジタル直交サンプリングにより容易にされる同相成分と直交成分との間のこの分離は、種々の中間結果(例えば、低域フィルタ出力又は積分及び保持出力)に寄与するサンプルの数を半分に減らすことにより、後の信号処理動作を単純にする。
【0036】
(直接デジタル直交サンプリングとは違って)任意のレートでの高周波数アナログ−デジタル変換を用いる代替的な実施形態においては、基準波形係数はそれほど単純ではなく、さらに、各サンプルは、同相成分及び直交成分の両方に寄与し得る。これらの非自明な係数の場合は、一対の高速デジタル乗算器が、ミクサーブロック302及び306を実行するために必要とされ、これらのミクサーブロックの各々が、偶数サンプル及び奇数サンプルの両方を処理する必要があるであろう。しかしながら、この追加の複雑さがあったとしても、必要とされる高速乗算器は、FPGAベースの(又は他の)実装に容易に組み込まれ得る。
【0037】
図3にさらに例示されるように、ミクサーブロック302及び306からの同相出力及び直交出力は、続いて補間及び低域フィルタブロック304及び308によって処理される。補間は、時間的に同じ瞬間に対応する同相サンプル及び直交サンプルを提供し、それは、そのサンプリング処理が、直接直交サンプリングのサンプリング周期に等しい時間シフトによって互いにオフセットされた同相サンプル及び直交サンプルを必然的に提供するので、直接直交サンプリングに関して特に有利である。概して、補間は帯域フィルタによって実行されるが、ゼロ周波数を中心とするベースバンド信号の場合は、補間は単純な低域フィルタを用いて実行される。有限インパルス応答(FIR)フィルタを用いて補間を実行することが好都合であり、この場合、補間フィルタ係数は、両方の動作が単一の工程で一緒に行われ得ることとなるように、低域フィルタ係数と(畳み込みにより)組み合わされ得る。
【0038】
同相成分及び直交成分、すなわちI(t)及びQ(t)が決定されたら、信号プロセッサ208は、他の信号処理タスクを実施し得る。一実施形態において、信号プロセッサ208は、範囲選択性を実行し、レンジゲート深度を定義し、帯域幅を制限し、信号対雑音比を改善するために、積分及び保持プロセスを実施する。補間及び低域フィルタブロック304及び308からの同相出力及び直交出力は、レンジゲートされたベースバンドドップラー信号を生成するために、積分及び保持ブロック310及び312によって処理される。積分及び保持工程は、単に初期送信パルスからの所望の遅延(レンジゲート深度に対応)後の次に続くサンプルの選択された数(レンジゲート幅に対応)を累積する(合計する)ことにより、デジタル領域において実施される。積分動作は、積分時間の逆数と名目上等しいカットオフ周波数により低域フィルタリング効果を生じさせ、また、信号対雑音比は、積分器により累積されるサンプルの数の平方根として平均することにより改善される。
【0039】
先の段落で説明した3つの種類の信号処理ブロック(ミクサー、補間/フィルタ、並びに積分及び保持)の各々は、そのブロックへの入力サンプルの一次結合である出力を生成する。線形性の原理により、一次結合の一次結合は、それ自体が元の入力の一次結合であり、したがって、これらの処理工程の3つ全てが組み合わされて、単にADCからの入力サンプルの加重和(すなわち、一次結合)を提供する単一の数学的動作にされ得る。この場合、その複合動作のための重み付け係数は、ベースバンド混合、補間、低域フィルタリング、及び積分に必要とされる係数を含み、単一の乗算器/累算器素子が、同相チャネルについてはブロック302、304、及び310において、又は直交チャネルについてはブロック306、308、及び312において、ミクサー機能、補間/低域フィルタ機能、並びに積分及び保持機能を提供し得る。
【0040】
一実施形態において、信号プロセッサ208は、静止組織及び動きの遅い組織に起因する超音波エコーの寄与を除去するために、ブロック314及び316においてクラッタフィルタリングを実施する。一部の実施形態において、クラッタフィルタリングは、ミクサー及び低域フィルタブロックにおけるベースバンド変換、並びにレンジゲートされたベースバンドドップラー信号中に存在する静止成分及び低周波数成分を除去するための積分及び保持ブロックにおけるレンジゲート選択の後に続く。クラッタフィルタリングは、FFT(高速フーリエ変換)処理がドップラー信号を周波数領域に変換した後に、単にスペクトルの低周波数区間を削除することにより実行され得る。代替的に、クラッタフィルタリングは、FFTの前に時間領域動作において実施され得る。FFT前の時間領域クラッタフィルタは、大きな低周波数クラッタ成分の存在下においてドップラースペクトルの低レベル流れ血流成分を保持するために必要とされるFFT計算におけるダイナミックレンジを低減する点から有利である。時間領域クラッタフィルタは、ボックスカー平均(累算器)及び減算からなる比較的単純なアルゴリズムを用いて実装され得るか、又はそれは、IIR(無限インパルス応答)若しくはFIR(有限インパルス応答)アーキテクチャを用いて実装されるより精密な高域フィルタを使用し得る。
【0041】
様々な実施形態において、信号プロセッサ208は、さらなる信号処理(例えば、同相成分及び直交成分に対する高速フーリエ変換(FFT)及び/又はFFTからのスペクトル出力に対する瞬間ピーク速度(IPV)処理)を実施する。続いて、信号プロセッサ208は、診断システム100の他の構成要素(例えば、処理システム114)への送達のために、処理された同相成分及び直交成分をインターフェースサブユニット210に提供する。
【0042】
次に
図4を参照すると、
図1〜
図3の診断システム100を用いてセンサデータを処理する方法400が、本開示の実施形態に従って例示されている。方法400の工程の前、間及び後にさらなる工程が提供され得ること、当該方法の他の実施形態については記載された工程の一部が置き換えられ得る又は省かれ得ることが理解される。
【0043】
ブロック402を参照すると、医療センサデータが入手される。一部の実施形態において、血管内デバイス(例えば、上述の器具102)が脈管104内へと進められる。器具102上に配置されたセンサ106が起動され、医療センサデータを入手するために使用される。したがって、医療センサデータは、1つ以上のデータ様式(例えば、流れ(速度)、流れ(ボリューム)、圧力、画像、温度、及び/又はそれらの組み合わせ)を含む。1つのそのような実施形態において、医療センサデータは、ドップラー超音波血流センサデータ及び圧力センサデータの両方を含む。入手された医療センサデータは、ブロック404に示されるように、通信チャネル110を介してPIM112に提供される。
【0044】
ブロック406を参照すると、一実施形態において、PIM112内の信号分離器202は、医療センサデータをそれぞれの様式によって分離する。例えば、信号分離器202は、ドップラー超音波血流センサデータと圧力センサデータとを、それらの異なる特性周波数によって分離し得る。
【0045】
ブロック408を参照すると、PIM112の1つ以上のADCは、医療センサデータをデジタル化し、それによってそれをアナログ形式からデジタル形式に変換する。ADCは、別個の時間にアナログ信号をサンプリングし、サンプリングされた値をデジタル形式で提供する。ドップラー超音波ベースの血流センサデータの例示的な実施形態において、式:
【数4】
(式中、Nは、0以上の整数である)によって規定されるADCサンプリングレートでデジタル直交サンプリングを実施することが有利であり得る。一部の実施形態において、Nは、公称中心周波数の4倍のサンプリングレートを提供するために、0であるように選択される。このサンプリングレートは、後の信号処理を単純にするためのデジタル直交サンプリングを提供し、それは、信号の全帯域幅を正確に取り込むために最小限に必要とされるナイキストレートよりもはるかに高い。過剰サンプリングされたデータは、ADC量子化雑音に関して、サンプル平均化により信号対雑音比の上昇を提供し得る。他の実施形態において、ADCは、ナイキストレートより著しく高いレート(例えば、ナイキストレートの10倍)で及び/又は擬似ランダムサンプリング間隔で、ドップラー超音波ベースの血流センサデータをサンプリングする。
【0046】
ブロック410を参照すると、PIM112の信号プロセッサ208は、デジタル化されたセンサデータに対してベースバンド変換を実施する。ベースバンド変換は、高周波数狭帯域幅センサデータを表す一連の低周波数信号を生成する。同相成分を入手するために、デジタル化されたセンサデータは、余弦基準波形cos(2πf
ct)と混合され(掛け合わされ)、低域フィルタリングされる。直交成分を入手するために、デジタル化されたセンサデータは、正弦基準波形sin(2πf
ct)と混合され(掛け合わされ)、低域フィルタリングされる。様々な実施形態において、ベースバンド変換は、単一の加重累算器により実施されるが、他の実施形態においては、ベースバンド変換は、一方が同相成分用であり他方が直交成分用である、一対の加重累算器により実施される。
【0047】
ブロック412を参照すると、PIM112の信号プロセッサ208は、ベースバンド変換されたセンサデータに対してさらなる処理を実施する。これは、積分及び保持プロセス、クラッタフィルタリング、FFT、IPV、並びに/又は他の好適な処理工程を含み得る。ブロック414を参照すると、処理されたセンサデータは、診断システム100の他の構成要素(例えば、処理システム114)に、PIMのインターフェースサブユニット210を介して提供される。処理されたセンサデータは、次いで、脈管104の診断評価を含む任意の好適な目的のために使用され得る。様々な実施形態において、積分及び保持プロセスは、混合及びフィルタリングによりベースバンド変換を実施するために使用される同じ加重累算器(1つ又は複数)を用いて実施される。
【0048】
当業者はまた、上で説明した装置、システム及び方法が、様々な手法で修正され得ることを認識する。したがって、当業者は、本開示により包含される実施形態が、上で説明した特定の例示的な実施形態に限定されないことを理解する。その点に関して、説明的な実施形態を示し、説明してきたが、広範囲の修正、変更及び置換が、上述の開示において企図される。そのような変形が、本開示の範囲から逸脱することなく上述のものになされ得ることが理解される。したがって、添付の特許請求の範囲は、広く且つ本開示と一致するように解釈されることが適切である。