(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記炭素数12以上のモノマー(a22)は、炭素数8〜18のアルキル基及び直鎖アルコキシ基からなる群から選択される少なくとも一種の基を有する(メタ)アクリレートを含む、
請求項3に記載の被覆用樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の一実施形態について説明する。
【0008】
本実施形態に係る被覆用樹脂組成物は、適宜の基材を覆う被覆膜を作製するための組成物である。被覆用樹脂組成物は、環状エーテル基含有重合体(A)と、成分(B)とを含有する。環状エーテル基含有重合体(A)は、環状エーテル基を有するエチレン性不飽和モノマー(a11)を含む重合性モノマー成分(a)の重合体であり、環状エーテルを有する。成分(B)は、多価カルボン酸(b1)と多価カルボン酸無水物(b2)とからなる群から選択される少なくとも一種の化合物からなる。さらに、被覆用樹脂組成物を100℃以上かつ前記被覆用樹脂組成物の分解温度以下で、0.1時間以上加熱して硬化させることで作製された硬化物の、JIS R3257で規定される水との接触角が、90°以下である。
【0009】
被覆用樹脂組成物中の環状エーテル基含有重合体(A)と成分(B)とを反応させることで、被覆用樹脂組成物を硬化させることができる。これより、被覆用樹脂組成物から被覆膜を作製できる。被覆膜は、高い強度を有することができる。また、被覆膜は、環状エーテル基とカルボキシル基又は無水カルボキシル基との反応で生じる水酸基を有する。さらに、被覆膜は、成分(B)のカルボキシル基又は無水カルボキシル基に由来する未反応のカルボキシル基を有することができる。成分(B)は環状エーテル基含有重合体(A)と比べて被覆用樹脂組成物中で運動しやすいと考えられ、そのため被覆膜の表面にカルボキシル基が配列しやすいと考えられる。これらの理由によって、被覆膜は高い親水性と高い撥油性とを有することができ、これにより90°以下という水との接触角を達成できると考えられる。これにより、被覆膜は、高い強度、高い防曇性及び高い防汚性を有することができる。さらに、被覆膜は、ガラスなどの無機酸化物との高い密着性を有することができる。これは、ガラス上で被覆用樹脂組成物を硬化させると、無機酸化物の表面の水酸基が、被覆用樹脂組成物中の環状エーテル基含有重合体(A)における環状エーテル基及び成分(B)のカルボキシル基又は無水カルボキシル基と反応して結合しやすいからであると、推察される。
【0010】
被覆用樹脂組成物の成分について、更に詳しく説明する。
【0011】
上記のとおり、環状エーテル基含有重合体(A)は、環状エーテル基を有するエチレン性不飽和モノマー(a11)を含む重合性モノマー成分(a)の重合体である。重合性モノマー成分(a)は、エチレン性不飽和モノマー(a11)のみを含有してよい。重合性モノマー成分(a)は、エチレン性不飽和モノマー(a11)と、環状エーテル基を有さないエチレン性不飽和モノマー(a12)とを、含有してもよい。
【0012】
環状エーテル基含有重合体(A)の有する環状エーテル基は、例えばエポキシ基とオキセタン基とのうち、少なくとも一方を含む。すなわち、エチレン性不飽和モノマー(a11)の有する環状エーテル基は、例えばエポキシ基とオキセタン基とのうち、少なくとも一方を含む。
【0013】
重合性モノマー成分(a)の100質量部に対するエチレン性不飽和モノマー(a11)の量は、40質量部以上100質量部以下であることが好ましい。エチレン性不飽和モノマー(a11)の量が40質量部以上であると、被覆膜のガラスなどの無機酸化物との高密着性が特に高くなる。エチレン性不飽和モノマー(a11)の量が40質量部以上80質量部以下であれば特に好ましい。この場合、被覆膜は良好な耐アルカリ性及び耐酸性を有することができる。これは、エチレン性不飽和モノマー(a11)の量が80質量部以下であると被覆膜中の水酸基の量が十分に抑制され、かつ40質量部以上であると被覆膜中の架橋密度が十分に高められることで、被覆膜の親水性の程度と架橋密度との適度なバランスが達成できるからであると、推察される。
【0014】
重合性モノマー成分(a)は、炭素数11以下のモノマー(a21)のみを含有してもよい。重合性モノマー成分(a)が炭素数11以下のモノマー(a21)のみを含有すると、防曇性が特に良好な被覆膜を得ることができる。これは、モノマーの炭素数が、環状エーテル基含有重合体(A)と成分(B)との反応で生成する水酸基、成分(B)に由来するカルボキシル基といった親水性の官能基の、被覆膜の表面における分布に、影響を与えるからであると、推察される。すなわち、重合性モノマー成分(a)が炭素数11以下のモノマー(a21)のみを含有すると、親水性の官能基が被覆膜の表面に適度に分布し、これにより、被覆膜の表面に良好な親水性が付与されると、推察される。
【0015】
重合性モノマー成分(a)は、炭素数12以上のモノマー(a22)を、0.5質量%以上60質量%以下の割合で含有してもよい。すなわち、重合性モノマー成分(a)は、炭素数11以下のモノマー(a21)と炭素数12以上のモノマー(a22)とを含有し、かつ重合性モノマー成分(a)全体に対して、モノマー(a21)の割合が40質量%以上99.5質量%以下、モノマー(a22)の割合が0.5質量%以上60質量%以下でもよい。この場合、防汚性が特に良好な被覆膜を得ることができる。これは、モノマー(a22)の割合が0.5質量%以上であることで、被覆膜中に、親水性の官能基を有する分子鎖が適度に運動できるスペースが生じ、それに起因して、被覆膜の表面と油滴との間の相互作用が小さくなり、これにより、被覆膜の表面に良好な撥油性が付与されると、推察される。また、モノマー(a22)の割合が60質量%以下であることで、被覆膜の表面における、親水性の官能基を有する分子鎖の密度が過剰に大きくならず、分子鎖の運動が阻害されにくいからであると推察される。
【0016】
さらに、モノマー(a22)は炭素数12〜22のモノマー(a221)を含有し、かつモノマー(a221)の割合は、重合性モノマー成分(a)全体に対して、0.5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。さらに、モノマー(a22)は炭素数16 22を超えるモノマーを含有しないことが好ましい。この場合、被覆膜は特に高い防汚性を有することができる。これは、炭素数22を超えるモノマーの量が抑制されることで、被覆膜の表面における分子鎖が親油性に傾くことが抑制されるからであると、推察される。
【0017】
モノマー(a22)は、炭素数8〜18のアルキル基及び直鎖アルコキシ基からなる群から選択される少なくとも一種の基を有する(メタ)アクリレートを含むことも好ましい。この場合、被覆膜は特に良好な防汚性を有することができる。これは、(メタ)アクリレートに由来するアルキル基又は直鎖アルコキシ基が、被覆膜の表面におけるカルボキシル基などの親水性官能基の密度を適度に調整することで、親水性官能基と汚れとの相互作用を低減し、これにより被覆膜に汚れが付着しにくくなるためと、推察される。また、炭素数12以下であると、被覆膜は良好な硬度を維持できる。これは、(メタ)アクリレートに由来するアルキル基又は直鎖アルコキシ基が炭素数12を超えるにつれて分子鎖が親油性に傾き、被覆膜の表面に露出されることで、炭素数12を超えるアルキル基又は直鎖アルコキシ基により被覆膜の表面が可塑性を示すためと、推察される。この(メタ)アクリレートの量は、重合性モノマー成分(a)に対して0.5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0018】
なお、上記の環状エーテル基を有するエチレン性不飽和モノマー(a11)と環状エーテル基を有さないエチレン性不飽和モノマー(a12)とは、重合性モノマー成分(a)に含まれるモノマーを、炭素数の如何にかかわらず、環状エーテル基の有無に基づいて規定する。また、炭素数11以下のモノマー(a21)、炭素数12以上のモノマー(a22)及び炭素数12〜22のモノマー(a221)は、重合性モノマー成分(a)に含まれるモノマーを、環状エーテル基の有無にかかわらず、炭素数に基づいて規定する。このため、例えばエチレン性不飽和モノマー(a11)に含まれ、かつ炭素数11以下のモノマー(a21)にも含まれるモノマーも、ありうる。
【0019】
環状エーテル基含有重合体(A)は、芳香環を有さないことが好ましい。すなわち、重合性モノマー成分(a)は、芳香環を有さないことが好ましい。この場合、被覆膜は高い透明性を有することができる。さらに、被覆膜に光が照射された場合の被覆膜の黄変が抑制される。すなわち、被覆膜は、高い耐光性及び耐黄変性を有することができる。
【0020】
モノマー(a11)に含まれ、かつモノマー(a21)にも含まれるモノマー、すなわち環状エーテル基を有し炭素数11以下のモノマーの例は、グリシジルメタクリレート(炭素数7)、3,4−エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート(炭素数10)、3−エチル−3−メタクリロキシメチルオキセタン(炭素数10)、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル及び3,4−エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート(炭素数11)を含む。
【0021】
モノマー(a12)に含まれ、かつモノマー(a21)にも含まれるモノマー、すなわち環状エーテル基を有さず炭素数11以下のモノマーの例は、メチルメタクリレート(炭素数5)、tert−ブチルアクリレート(炭素数7)、tert−ブチルメタクリレート(炭素数8)、及びベンジルメタクリレート(炭素数11)を含む。
【0022】
モノマー(a12)に含まれ、かつモノマー(a22)にも含まれるモノマー、すなわち環状エーテル基を有さず炭素数12以上のモノマーの例は、イソノニルアクリレート(炭素数12)、2−エチルヘキシルメタクリレート(炭素数12)、イソノニルメタアクリレート(炭素数13)、イソデシルアクリレート(炭素数13)、イソデシルメタアクリレート(炭素数14)、n−ラウリルアクリレート(炭素数15)、n−ラウリルメタアクリレート(炭素数16)、イソステアリルアクリレート(炭素数21)、n−ステアリルアクリレート(炭素数21)、イソステアリルメタアクリレート(炭素数22)、及びn−ステアリルメタアクリレート(炭素数22)を含む。
【0023】
環状エーテル基含有重合体(A)の合成について説明する。重合性モノマー成分(a)を重合させることで、環状エーテル基含有重合体(A)を合成できる。重合の方法は、公知の方法でよい。例えば溶液重合法で環状エーテル基含有重合体(A)を合成する場合、例えば重合性モノマー成分(a)と、重合開始剤と、溶媒とを含有する反応性溶液を、不活性雰囲気下、加熱することで、重合性モノマー成分(a)を重合させて、環状エーテル基含有重合体(A)を合成できる。
【0024】
溶液重合法で使用される溶媒の例は、水、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、エチレングリコール等の直鎖、分岐、2級或いは多価のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;スワゾールシリーズ(丸善石油化学社製)、ソルベッソシリーズ(エクソン・ケミカル社製)等の石油系芳香族系混合溶剤;セロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;カルビトール、ブチルカルビトール、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のカルビトール類;プロピレングリコールメチルエーテル等のプロピレングリコールアルキルエーテル類;ジプロピレングリコールメチルエーテル等のポリプロピレングリコールアルキルエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート等の酢酸エステル類;ジオキサン、ジメチルホルムアミド、及びジアルキルグリコールエーテル類を含む。これらの溶媒は一種単独で使用され、或いは複数種が併用される。
【0025】
重合開始剤の例は、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の過酸化物;及び2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、1,1'−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル、4,4'−アゾビス−4−シアノ吉草酸、2,2'−アゾビス−(2−アミジノプロパン)−ジヒドロクロリド等のアゾ系化合物を含む。
【0026】
反応性溶液中には、環状エーテル基含有重合体(A)の分子量調節等のため、必要に応じて連鎖移動剤が添加されてもよい。連鎖移動剤の例は、ラウリルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリセロール等のメルカプタン基を有する化合物;2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン等のαメチルスチレンダイマー類、及び次亜リン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の無機塩を含む。連鎖移動剤の使用量は、環状エーテル基含有重合体(A)の重量平均分子量が所望の範囲となるように適宜決定される。
【0027】
環状エーテル基含有重合体(A)の重量平均分子量は、100000以下であることが好ましい。環状エーテル基含有重合体(A)の重量平均分子量は、1000以上13000以下であることが更に好ましい。この場合、被覆膜は特に良好な物性を有することができ、例えばガラスなどの無機酸化物製の基材に対して特に高い密着性を有することができる。なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定された、ポリスチレン換算の値である。
【0028】
環状エーテル基含有重合体(A)における、有機溶剤を含まない重合体単独の環状エーテル基当量は、140以上400以下であることが好ましい。この場合、環状エーテル基含有重合体(A)は良好な反応性を有し、かつ被覆膜は良好な硬度と良好な親水性とを有することができる。詳しくは、環状エーテル基当量が400以下であれば、被覆膜は高い架橋密度を有することができ、このため被覆膜は特に良好な密着性、硬度、耐水性及び耐薬品性を有することができる。また、環状エーテル基当量が140以上であれば、被覆膜における水酸基が過剰に多くなることが抑制されることで、被覆膜は特に良好な耐水性及び耐薬品性を有することができる。
【0029】
成分(B)について説明する。成分(B)は、上記のとおり、多価カルボン酸(b1)と多価カルボン酸無水物(b2)とからなる群から選択される少なくとも一種の化合物のみからなる。
【0030】
成分(B)は、25℃で液体であることが好ましい。この場合、被覆膜は高い均質性を有することができ、かつ特に高い親水性を有することができる。これは、成分(B)が液体であると、組成物中で成分(B)が良好に分散することで、環状エーテル基含有重合体(A)と成分(B)との反応で生じた水酸基が被覆膜に良好に分散するからであると、推察される。
【0031】
成分(B)は、芳香環を有さないことが好ましい。この場合、被覆膜は高い透明性を有することができる。さらに、被覆膜に光が照射された場合の被覆膜の黄変が抑制される。すなわち、被覆膜は、高い耐候性及び耐黄変性を有することができる。
【0032】
成分(B)が多価カルボン酸(b1)を含む場合、多価カルボン酸(b1)は、特に4−メチルヘキサヒドロフタル酸と、ヘキサヒドロフタル酸とのうち、少なくとも一方を含むことが好ましい。また、成分(B)が多価カルボン酸無水物(b2)を含む場合、多価カルボン酸(b2)は、特に4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸と、ヘキサヒドロ無水フタル酸とのうち、少なくとも一方を含むことが好ましい。これらの場合、被覆膜は特に高い均質性を有することができ、かつ特に高い親水性を有することができる。
【0033】
組成物中において、成分(B)のカルボキシル基1当量に対する、アクリル系共重合体(A)の環状エーテル基の量は、0.1当量以上16当量以下であることが好ましい。この場合、被覆膜が特に高い親水性を有することができる。これは、成分(B)に未反応のカルボキシル基が、被覆膜の表面に良好に分散して存在するからであると、推察される。また、環状エーテル基の量が0.1当量以上であると、未反応のカルボキシル基が被覆膜に過剰に存在することを抑制でき、このため、被覆膜の密着性及び耐水性を良好に維持できる。さらに、成分(B)の一部が被覆膜に未反応のまま残留することを抑制でき、このため、被覆膜が加熱された場合に成分(B)の一部が揮発することで被覆膜が不均一になるような事態を抑制できる。また、環状エーテル基の量が16当量以下であると、被覆膜における高い架橋密度を維持でき、このため被覆膜の良好な硬度、密着性及び耐薬品性を維持できる。環状エーテル基の量が0.3当量以上であればより好ましい。環状エーテル基の量が5当量以下であることも、より好ましい。
【0034】
被覆用樹脂組成物は、硬化触媒(硬化促進剤ともいう)を含有してよい。硬化触媒とは、環状エーテル基を有する化合物とカルボキシル基を有する化合物との反応を促進する化合物である。硬化触媒は公知であり、硬化触媒の例は、イミダゾール系化合物、有機リン系化合物、第3級アミン及び第4級アンモニウム塩を含む。ただし、被覆用樹脂組成物は、硬化触媒を含有しないことが好ましい。被覆用樹脂組成物が硬化触媒を含有しなくても、被覆用樹脂組成物中の環状エーテル基含有重合体(A)と成分(B)との反応は良好に進行しうる。さらに、被覆用樹脂組成物が硬化触媒を含有しない場合には、被覆膜の用途が硬化触媒によって阻害されることがなく、例えば被覆膜を食品衛生用途に適用することも可能になる。
【0035】
被覆用樹脂組成物は、下記式(1)で示されるフルオロアルキル基含有化合物(C1)(以下、化合物(C1)ともいう)と、下記式(2)で示されるフルオロアルキル基含有化合物(C2)(以下、化合物(C2)ともいう)とのうち、少なくとも一方を、更に含有してもよい。化合物(C1)及び化合物(C2)は、被覆膜の親水性及び撥油性を更に向上できる。
【0036】
式(1)中、R
Fの各々はC
aF
2a+1O
b、aは1以上15以下、bは0以上10以下の数であり、Rは有機基、nは自然数である。式(2)中、R
FはC
aF
2a+1、aは1以上15以下の数である。式(2)中、x及びyは自然数であり、x及びyは、x:yが1:99から60:40までの範囲内である。
R
F−(CH
2CH(C(=O)R))
n−R
F …(1)
【0038】
フルオロアルキル基含有化合物(C1)について更に説明する。
【0039】
式(1)中の有機基Rは、例えばヒドロキシル基;メチルエーテル基、エチルエーテル基、プロピルエーテル基又はイソプロピルエーテル等の直鎖又は分岐アルキルエーテル基;モルホリノ基、(1,1−ジメチル−3−オキソイソブチル)アミノ基、ジメチルアミノ基等の2級アミノ基;又は3級アミノ基である。
【0040】
式(1)中のnは、例えば1以上450以下の数である。
【0041】
化合物(C1)はオリゴマーであることが好ましく、特に化合物(C1)の数平均分子量が、500以上30000以下であることが好ましい。この数平均分子量は、1000以上15000以下であることが更に好ましく、2000以上8000以下であることも更に好ましい。この数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィにより測定される値である。
【0042】
化合物(C1)は、例えば(CH
2CH(C(=O)R))としてジメチルアクリルアミドの残基を有するフルオロアルキル基含有ジメチルアクリルアミドオリゴマー、(CH
2CH(C(=O)R))としてN−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)アクリルアミドの残基を有するフルオロアルキル基含有N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)アクリルアミドオリゴマー、及び(CH
2CH(C(=O)R))としてアクリロイルモルフォリンの残基を有するフルオロアルキル基含有アクリロイルモルフォリンオリゴマーからなる群から選択される、少なくとも一種の化合物を含有する。
【0044】
式(2)は、化合物(C2)を構成する構造単位の構造、及び化合物(C2)中の各構造単位の比を示す組成式である。つまり、化合物(C2)とは、式(2)中の左側に示される構造単位(すなわちフルオロアルキル基を有するアクリレートモノマーの残基)と、右側に示される構造単位(すなわちアクリル酸残基)とを、x:yのモル比で有する共重合体である。化合物(C2)は、フルオロアルキル基を有するアクリレートモノマーとアクリル酸とを、x:yのモル比で共重合させた共重合体であるともいえる。
【0045】
フルオロアルキル基を有するアクリレートモノマーは、例えばCH
2CHCOOCH
2CH
2R
Fという構造を有する。フルオロアルキル基を有するアクリレートモノマーは、例えばフルオロアルキルエチルアクリレートを含有する。特にフルオロアルキル基を有するアクリレートモノマーが、2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート、及び2−(パーフルオロオクチル)エチルアクリレートからなる群から選択される少なくとも一種を含有することが好ましい。
【0046】
式(2)のR
Fにおいて、aは特に4以上8以下であることが好ましい。また、式(2)において、特にx:yが3:97から40:60までの範囲内であることが好ましい。
【0047】
化合物(C2)の数平均分子量は、500以上10000以下であることが好ましく、1500以上5000以下であれば更に好ましい。この数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィにより測定される値である。
【0048】
化合物(C2)は、例えばアクリル酸とフルオロアルキル基を有するアクリレートモノマーとを、適宜の重合方法で共重合させることで合成できる。重合方法の例として、溶媒が使用される通常の溶液重合法等の公知の重合方法が挙げられる。
【0049】
化合物(C1)及び化合物(C2)は、分子中に存在するフッ素アルキル鎖に起因して、被覆膜の親水性及び撥油性を特に向上できると考えられる。
【0050】
被覆用樹脂組成物は、特に化合物(C1)を含有することが好ましい。化合物(C1)は被覆膜の親水性及び撥油性を特に向上し、被覆膜の防曇性を向上できる。これは、化合物(C1)が骨格に極性基を有し、末端にパーフルオロアルキル基又はパーフルオロオキサアルキル基を有するためであると考えられる。
【0051】
被覆用樹脂組成物が化合物(C1)と化合物(C2)とのうち、少なくとも一方を含有する場合、被覆用樹脂組成物中の化合物(C1)と化合物(C2)との合計量は、環状エーテル基含有重合体(A)と、成分(B)に対して1質量%以上50質量%以下であることが好ましい。化合物(C1)と化合物(C2)との合計量が1質量%以上であることで、被覆膜は特に良好な防曇性、防汚性を有することができ、50質量%以下であることで、被覆用樹脂組成物を良好に硬化させることができる。化合物(C1)と化合物(C2)との合計量が5質量%以上であれば更に好ましく、10質量%以下であることも更に好ましい。
【0052】
被覆用樹脂組成物は、必要に応じて溶剤を含有してよい。溶剤の例は、上述の環状エーテル基含有重合体(A)を溶液重合法で合成する場合の溶剤の例と、同じである。
【0053】
被覆用樹脂組成物を基材に塗布してから、加熱して環状エーテル基含有重合体(A)と成分(B)を反応させることで、被覆用樹脂組成物を硬化させることができる。これにより、被覆用樹脂組成物から被覆膜を作製できる。この被覆膜は、上述のとおり、高い親水性及び撥油性を有することができる。このため基材の表面に良好な防曇性及び防汚性を付与できる。基材の材質及び形状に制限はない。上述のとおり、基材がガラスなどの無機酸化物から作製されていると、被覆膜は基材と特に高い密着性を有することができる。
【0054】
被覆膜の厚みは、1μm以上であることが好ましい。厚みが1μm以上であることで、被覆膜はガラスなどの基材との良好な密着性を有することができる。これは、厚みが1μm以上であることで被覆膜が適度の耐久性を有するからであると推察される。
【0055】
被覆膜は、上述のとおり高い親水性を有することができ、被覆膜は、水との接触角が120°以下であることを達成できる。水との接触角は、上述のとおり、被覆用樹脂組成物を硬化させて硬化物を作製し、この硬化物の水との接触角をJIS R3257で規定される方法で測定することで、確認される。被覆膜が高い親水性を有するためには、被覆膜又は硬化物の水との接触角が90°以下であることがより好ましい。水との接触角は40°以上であることも好ましい。この場合、被覆膜は優れた防曇性を有することができる。これは、硬化物及び被覆膜の親水性と撥油性のバランスが適度となるためと推察される。水との接触角が60°以上であればより好ましい。
【0056】
また、被覆膜は、上述のとおり高い撥油性を有することができ、これにより、ドデカンとの接触角が10°以上であることも達成できる。ドデカンとの接触角は、被覆用樹脂組成物を硬化させて硬化物を作製し、この硬化物のドデカンとの接触角をJIS R3257で規定される方法で測定することで、確認される。被覆膜が高い撥油性を有するためには、被覆膜又は硬化物のドデカンとの接触角が15°以上であることがより好ましい。この場合、被覆膜又は硬化物の撥油性が良好となることで、被覆膜又は硬化物は特に優れた防汚性を有することができる。ドデカンとの接触角が20°以上であればより好ましい。
【0057】
被覆膜は、高い親水性及び高い撥油性を有しながら、環状エーテル基含有重合体(A)と成分(B)とが十分に反応することで、高い硬度を有することができる。このため、被覆膜の鉛筆硬度がB以上であることを達成することができる。
【0058】
また、上述のとおり、被覆膜は、ガラスとの高い密着性を有する。例えばガラス製の平滑な基材の上に被覆膜を形成し、この被覆膜に対して、JIS K5600 5−6で規定されているセロハン粘着テープ剥離試験を行った場合、カットの縁が滑らかで、カットの交差点における剥れも見られず、10×10個の格子の目全てにおいて剥れが無いことを達成することができる。
【0059】
これらの被覆膜の特性は、被覆用樹脂組成物の組成を上記説明した範囲内で調整することで、達成可能である。
【0060】
被覆用樹脂組成物から、防曇性と防汚性とを有する被覆膜を作製することができる。被覆膜の防曇性と防汚性は、上記のように被覆膜が高い親水性及び高い撥油性を有することで達成される。
【実施例】
【0061】
1.重合体の準備
1−1.合成
還流冷却器、温度計、窒素導入管、及び撹拌機を取り付けた四ツ口フラスコに、表1〜3に示す成分を入れて、反応性溶液を調製した。この反応性溶液を、窒素雰囲気下、95℃で6.5時間加熱して重合反応を進行させることで、重合体を含有する溶液を得た。
【0062】
1−2.重量平均分子量の測定
重合体の重量平均分子量を、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した。
【0063】
測定に当たり、重合体を含有する溶液にテトラヒドロフランを固形分濃度が0.1質量%になるように加えて、試料溶液を調製し、この試料溶液20μlをGPC測定装置に注入した。なお、ゲル浸透クロマトグラフィーの条件は次のとおりである。
・GPC測定装置:昭和電工社製、SHODEX GPC SYSTEM 11。
・カラム:GPC KF−800P、GPC KF−805、GPC KF−803、GPC KF−801(昭和電工株式会社製)の4本直列。
・移動層:THF。
・流量:1ml/分。
・カラム温度:40℃。
・検出器:示差屈折率検出器。
・換算:ポリスチレン。
【0064】
1−3.固形分量の測定
重合体を含有する溶液0.7gを、アルミニウム製の皿に入れた状態で、150℃のホットプレートで加熱しながら攪拌することによって仮乾燥後した。続いて、溶液を150℃の乾燥機にて1時間加熱してから、デシケーター内にて室温まで冷却した。これにより、溶液から溶媒を揮発させて固形分を得た。固形分の質量を測定し、その結果から、溶液中の固形分量(質量%)を算出した。
【0065】
1−4.環状エーテル基当量の算出
重合体の環状エーテル基当量を、原料の組成に基づいて算出した。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
2.組成物の調製及び評価
合成された重合体を用いて組成物を調製した。具体的には、表4〜9に示す成分を混合することで、組成物を調製した。なお、表中のテトラヒドロフランの量は、環状エーテル基含有重合体(A)と成分(B)の合計量1gに対する体積である。
【0070】
表中の「4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸/ヘキサヒドロ無水フタル酸(70/40)」は、新日本理化株式会社製の品名リカシッドMH−70である。
【0071】
また、表中のフルオロ化合物1〜3の詳細は、次のとおりである。
・フルオロ化合物1:式(1)に示す構造を有し、式(1)中の(CH
2CH(C(=O)R))がジメチルアクリルアミドの残基であり、R
FがCF(CF
3)OC
3F
7であり、数平均分子量が1700であるフルオロアルキル基含有ジメチルアクリルアミドオリゴマー。
・フルオロ化合物2:式(1)に示す構造を有し、式(1)中の(CH
2CH(C(=O)R))がN−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)アクリルアミドの残基であり、R
FがCF(CF
3)OC
3F
7であり、数平均分子量が10100であるフルオロアルキル基含有N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)アクリルアミドオリゴマー。
・フルオロ化合物3:式(1)に示す構造を有し、式(1)中の(CH
2CH(C(=O)R))がアクリロイルモルフォリンの残基であり、R
FがCF(CF
3)OC
3F
7であり、数平均分子量が8300であるフルオロアルキル基含有アクリロイルモルフォリンオリゴマー。
【0072】
この組成物を、ガラス製の基材にバーコーター(No.16)で塗布してから、150℃で30分加熱することで、厚み10μm(ただし、実施例11−1の場合のみ40μm)の被覆膜を作製した。なお、表2における比較例5は、被覆膜を設けていないガラス製の基材である。このようにして得られた実施例及び比較例の被覆膜及び基材表面を、下記の方法で評価した。その結果を表4〜9に示す。
【0073】
2−1.表面粘着性
室温の被覆膜に人間が指で触れることで被覆膜の粘着性の程度を確認し、下記の基準で評価した。
A:粘着性は感じられなかった。
B:僅かに粘着性が感じられた。
C:強い粘着性が感じられた。
【0074】
2−2.外観
被覆膜を人間が目視することで被覆膜の外観色を確認し、無色透明である場合をA、着色している場合をBと、評価した。
【0075】
2−3.表面状態
被覆膜を人間が目視することで被覆膜の表面状態を確認し、均一に見える場合をA、不均一に見える場合をBと、評価した。
【0076】
2−4.ガラスに対する密着性
ガラス製の基材上の被覆膜に対して、JIS K5600 5−6で規定されているセロハン粘着テープ剥離試験を行うことで、ガラスに対する密着性を確認した。その結果を下記の基準で評価した。
A:カット線の縁が滑らかで、カット線の交点における剥れがなく、かつ全てのマス目が剥離していない。
B:全てのマス目は剥離していないが、カット線の縁が滑らかでなく、又はカット線の交点における剥れが認められる。
C:少なくとも一つのマス目の剥離が認められる。
【0077】
2−5.鉛筆硬度
被覆膜に、JIS K5600 5−4で規定される鉛筆硬度試験を実施した。
【0078】
2−6.防曇性
25℃、湿度50%の環境下で、被覆膜(比較例5では基材の表面)を35℃の水の上方15cmの位置で水面と対向するように配置した。この状態で、被覆膜を配置した時点から被覆膜に曇りが認められるまでの経過時間を確認し、その結果から下記の基準で防曇性を評価した。
A:経過時間60秒以上。
B:経過時間30秒以上60秒未満。
C:経過時間10秒以上30秒未満。
D:経過時間10秒未満。
【0079】
2−7.耐水性
被覆膜を40℃の水中に150時間配置したことによる、被覆膜の膨れ、剥れ、浮きといった外観異常の有無を確認し、その結果を下記の基準で評価した。
A:外観異常が認められない。
B:僅かに外観異常が認められる。
C:著しい外観異常が認められる。
【0080】
2−8.耐久性
上記2−7項の耐水性の試験の後、被覆膜の表面を十分に乾燥させてから、上記2−6項の防曇性の試験を行った。
【0081】
2−9.防汚性
被覆膜の表面(比較例5では基材の表面)に、人間が親指の指紋痕を付着させてから、被覆膜の表面をティッシュペーパー(日本製紙クレシア株式会社製)で10回、円を描くように拭った。続いて、被覆膜の表面を目視で観察し、その結果を下記のとおり評価した。
A:指紋痕の残存が認められない。
B:指紋痕の残存が僅かに認められる。
C:指紋痕の残存が明確に認められる。
【0082】
2−10.耐アルカリ性
被覆膜を40℃の10%NaOH水溶液に30分浸すことによる、被覆膜の膨れ、剥れ、浮きといった外観異常の有無を目視で観察し、その結果を下記の基準で評価した。
A:外観異常が認められない。
B:僅かに外観異常が認められる。
C:著しい外観異常が認められる。
【0083】
2−11.耐酸性
被覆膜を40℃の10%HCL水溶液に30分浸すことによる、被覆膜の膨れ、剥れ、浮きといった外観異常の有無を目視で観察し、その結果を下記の基準で評価した。
A:外観異常が認められない。
B:僅かに外観異常が認められる。
C:著しい外観異常が認められる。
【0084】
2−12.色差(耐光性)
まず、被覆膜とガラス製の基材との積層体の、ガラス製の基材のみとの間の色差(ΔE
*ab)を測定した。続いて、被覆膜にメタルハライドランプが発する光を照度1000mJの条件で照射した。この光の照射を50回繰り返し行った。続いて、被覆膜の色差を再度測定した。色差の変化が小さいほど耐光性が良好であると判断できる。
【0085】
2−13.PETフィルムへの密着性
被覆膜を、ポリエチレンテレフタレート製のフィルムの上に形成し、この被覆膜に対して、JIS K5600 5−6で規定されているセロハン粘着テープ剥離試験を行うことで、ポリエチレンテレフタレートに対する密着性を確認した。その結果を下記の基準で評価した。
A:カット線の縁が滑らかで、カット線の交点における剥れがなく、かつ全てのマス目が剥離していない。
B:全てのマス目は剥離していないが、カット線の縁が滑らかでなく、又はカット線の交点における剥れが認められる。
C:少なくとも一つのマス目の剥離が認められる。
【0086】
2−14.ドデカン接触角
被覆膜のドデカンとの接触角を、JIS R3257で規定される方法に準拠した方法で測定した。
【0087】
2−15.水接触角
被覆膜の水との接触角を、JIS R3257で規定される方法で測定した。実施例33〜46及び比較例6〜7については、被覆膜に水滴を付着させた直後の水接触角の値(初期値)、並びに付着させてから5分経過時、10分経過時、15分経過時、20分経過時、25分経過時及び30分経過時での水接触角の値を、測定した。
【0088】
【表4】
【0089】
【表5】
【0090】
【表6】
【0091】
【表7】
【0092】
【表8】
【0093】
【表9】
【0094】
以上述べた実施形態から明らかなように、第1の態様に係る被覆用樹脂組成物は、被覆膜を作製するための被覆用樹脂組成物であり、環状エーテル基を有するエチレン性不飽和モノマー(a11)を含む重合性モノマー成分(a)の重合体である環状エーテル基含有重合体(A)と、多価カルボン酸(b1)と多価カルボン酸無水物(b2)とからなる群から選択される少なくとも一種の化合物からなる成分(B)とを含有する。被覆用樹脂組成物を100℃以上かつ被覆用樹脂組成物の分解温度以下で、0.1時間以上加熱して硬化させることで作製された硬化物の、JIS R3257で規定される水との接触角が、90°以下である。
【0095】
この被覆用樹脂組成物から、防曇性と防汚性とを有する被覆膜を作製できる。
【0096】
第2の態様に係る被覆用樹脂組成物は、第1の態様において、重合性モノマー成分(a)は、炭素数11以下のモノマー(a21)のみを含有する。この場合、被覆膜は特に良好な防曇性を有することができる。
【0097】
第3の態様に係る被覆用樹脂組成物は、第1の態様において、重合性モノマー成分(a)は、炭素数12以上のモノマー(a22)を、0.5質量%以上60質量%以下の割合で含有する。この場合、被覆膜は特に良好な防汚性を有することができる。
【0098】
第4の態様に係る被覆用樹脂組成物は、第3の態様において、炭素数12以上のモノマー(a22)は、炭素数8〜18のアルキル基及び直鎖アルコキシ基からなる群から選択される少なくとも一種の基を有する(メタ)アクリレートを含む。この場合、被覆膜は特に良好な防汚性を有することができる。
【0099】
第5の態様に係る被覆用樹脂組成物は、第1から第4のいずれか一の態様において、重合性モノマー成分(a)の100質量部に対するエチレン性不飽和モノマー(a11)の量は、40質量部以上100質量部以下である。この場合、被覆膜は無機酸化物との良好な密着性を有することができる。
【0100】
第6の態様に係る被覆用樹脂組成物は、第1から第5のいずれか一の態様において、環状エーテル基含有重合体(A)の重量平均分子量は、1000以上13000以下である。この場合、被覆膜は特に良好な物性を有することができる。
【0101】
第7の態様に係る被覆用樹脂組成物は、第1から第6のいずれか一の態様において、成分(B)のカルボキシル基1当量に対する、環状エーテル基含有重合体(A)の環状エーテル基は、0.1当量以上16当量以下である。この場合、被覆膜が特に高い親水性を有することができ、かつ被覆膜の密着性、耐水性、硬度、密着性及び耐薬品性を良好に維持することができる。
【0102】
第8の態様に係る被覆用樹脂組成物は、第1から第7のいずれか一の態様において、環状エーテル基含有重合体(A)は、エポキシ基を有する。
【0103】
第9の態様に係る被覆用樹脂組成物は、第1から第8のいずれか一の態様において、環状エーテル基含有重合体(A)は、芳香環を有さない。この場合、被覆膜は高い透明性を有することができる。
【0104】
第10の態様に係る被覆用樹脂組成物は、第1から第9のいずれか一の態様において、成分(B)は、25℃で液体である。この場合、被覆膜は高い均質性を有することができ、かつ高い親水性を有することができる。
【0105】
第11の態様に係る被覆用樹脂組成物は、第1から第10のいずれか一の態様において、成分(B)は、4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸及びヘキサヒドロ無水フタル酸のうち少なくとも一方を含有する。この場合、被覆膜は高い均質性を有することができ、かつ高い親水性を有することができる。
【0106】
第12の態様に係る被覆用樹脂組成物は、第1から第11のいずれか一の態様において、硬化触媒を含有しない。被覆用樹脂組成物が硬化触媒を含有しなくても、被覆用樹脂組成物中の環状エーテル基含有重合体(A)と成分(B)との反応は良好に進行しうる。
【0107】
第13の態様に係る被覆用樹脂組成物は、第1から第12のいずれか一の態様において、式(1)で示される化合物と、式(2)で示される化合物とのうち、少なくとも一方を更に含有する。式(1)で示される化合物と、式(2)で示される化合物とは、被覆膜の親水性及び撥油性を向上できる。
【0108】
第14の態様に係る被覆用樹脂組成物は、第1から第13のいずれか一の態様において、防曇性と防汚性とを有する被覆膜を作製するためのものである。
高い防曇性と高い防汚性とを有する被覆膜を作製できる被覆用樹脂組成物を提供する。被覆用樹脂組成物は、被覆膜を作製するための被覆用樹脂組成物であり、環状エーテル基を有するエチレン性不飽和モノマー(a11)を含む重合性モノマー成分(a)の重合体である環状エーテル基含有重合体(A)と、多価カルボン酸(b1)と多価カルボン酸無水物(b2)とからなる群から選択される少なくとも一種の化合物からなる成分(B)とを含有する。被覆用樹脂組成物を100℃以上かつ前記被覆用樹脂組成物の分解温度以下で、0.1時間以上加熱して硬化させることで作製された硬化物の、JIS R3257で規定される水との接触角が、90°以下である。