特許第6546472号(P6546472)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6546472
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】立体駐車装置
(51)【国際特許分類】
   E04H 6/42 20060101AFI20190705BHJP
【FI】
   E04H6/42 H
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-148049(P2015-148049)
(22)【出願日】2015年7月27日
(65)【公開番号】特開2017-25665(P2017-25665A)
(43)【公開日】2017年2月2日
【審査請求日】2018年4月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000163095
【氏名又は名称】極東開発工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】北條 隆敏
(72)【発明者】
【氏名】田中 耕司
(72)【発明者】
【氏名】滝原 剛
(72)【発明者】
【氏名】小南 泰嗣
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−012093(JP,A)
【文献】 実開昭60−036455(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0284704(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 6/00 − 6/42
E03C 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が載置され、所定の厚さの床板を有し、当該床板が立体的に配置された立体駐車装置において、前記床板に水抜き孔が設けられ、前記水抜き孔の下側開口縁は環状に連続する曲線又は一部に直線を含む連続した線であり、前記水抜き孔の上側開口縁は曲線又は一部に直線を含む線を基調とし一部に不連続部がある環状形状であることを特徴とする立体駐車装置。
【請求項2】
床板は、車両を搭載する移動式のパレットであり、辺部が複数の点または線で他の部材に支持され、昇降及び/又は走行するものであることを特徴とする請求項1に記載の立体駐車装置。
【請求項3】
水抜き孔は円形又は楕円形を基調とした孔であり、上側開口縁の一部が水平方向に変位し、上側開口縁は曲線を基調とし前記変位部分によって不連続部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の立体駐車装置。
【請求項4】
水抜き孔は円形又は楕円形を基調とした孔であり、上側開口縁の一部が垂直方向に変位し、上側開口縁は曲線を基調とし前記変位部分によって不連続部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の立体駐車装置。
【請求項5】
水抜き孔は円形又は楕円形を基調とした孔であり、上側開口縁の一部に下向きに傾斜する傾斜部があり、上側開口縁は曲線を基調とし前記傾斜部によって不連続部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の立体駐車装置。
【請求項6】
水抜き孔は円形又は楕円形を基調とした孔であり、上側開口縁の一部が下側開口縁に至らない深さに切り欠かれていて下側開口縁が環状に連続する曲線であり、上側開口縁は曲線を基調とし前記切り欠き部分によって不連続部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の立体駐車装置。
【請求項7】
前記切り欠き部分の平面形状は、水抜き孔側に広がり水抜き孔に対して反対側となる奥側が狭い形状であることを特徴とする請求項6に記載の立体駐車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は立体駐車装置に関するものであり、特に屋根を持たない立体駐車装置として好適である。
【背景技術】
【0002】
限られた面積の土地を有効に活用し、より多数の自動車を駐車させる装置として、立体駐車装置が知られている。
立体駐車装置は、自動車(車両)を立体的に駐車させる装置である。立体駐車装置には、大きく分けて固定構造式のものと昇降式のものがある。昇降式の立体駐車装置は、自動車を載置するパレットと、このパレットを昇降させる昇降機構を有している。
昇降式の立体駐車装置では、パレットに自動車を載置し、パレットを昇降装置で上下に移動して所定の階に自動車を配置する。
【0003】
立体駐車装置には、ビルの一部に組み込まれたものと、屋外に単独で設置されたものがある。
屋外に単独で設置される立体駐車装置は、多くの場合、天井を持たない。そのため雨がふると、床面が濡れる。
ビルの一部に組み込まれた立体駐車装置は、天面がビル自体の天井に覆われており、床面に直接雨がかかることはないが、自動車のボディやタイヤ等に付着した雨水が落ちて濡れる。
【0004】
また昇降式の立体駐車装置は、パレットの重量を低減する目的から、パレットの縁にリブが設けられている。
例えばパレットは、補強目的とタイヤの脱輪を防ぐ目的から周囲に縦壁があり、その内側に鋼板が貼られた構造となっている。そのためパレットは、周囲の縁が隆起し、中央が窪んだ皿形状となっている。
そのためパレット上に雨が落ちると、パレットの窪み部分に雨が溜まる。
特に、チェーン等でパレットを吊り下げる構造の立体駐車装置では、パレットの自重や車両の重量によってパレットの中央が僅かに撓み、全体がより皿状となり、雨が溜まってしまう。
そこで、屋外に設置される立体駐車装置では、パレットに水抜き用の孔が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−225356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した様に、立体駐車装置のパレットには、水抜き用の孔が設けられている。しかしながら、現実には、パレットの上に大量の水が溜まり、使用者に不快感を与えていた。
そこで本発明者らは、実験を繰り返し、パレット上に大量に水が溜まってしまう原因を調査した。
調査の結果、パレットに水抜き孔があるものの、水の表面張力で水抜き孔に水の膜が生じてしまい、孔が実質的に水膜で塞がれてしまうことが原因であることが判明した。
【0007】
図11は、従来技術のパレット101の水抜き孔部分の断面図であり、(a)乃至(f)は、水が溜まる様子を順次示している。
従来技術の水抜き孔100は、平面形状が円形の孔である。また孔の断面形状は、いずれの部位も同じ円形である。
従来技術のおいて、パレット101に雨が落ちると、雨は図11(b)の様に水抜き孔100以外の部分に溜まり、次第に専有面積を拡大して水抜き孔100に迫ってゆく。
【0008】
そして遂には図11(c)の様に水が水抜き孔100の縁に至る。しかしながら表面張力により水はただちには落下せず、水抜き孔100の縁で止まる。そして図11(d)の様にパレット101の水位が少しだけ上昇するまで、水は水抜き孔100でせき止められる。
【0009】
水位がある程度上昇すると、水の自重が水の表面張力よりも大きくなり、水は水抜き孔100に一気に流れ込む。しかしながら、水抜き孔100の周囲から水が一気に流れ込むので、水抜き孔100の中心部分で水どうしが当たってつながり、図11(e)の様に水抜き孔100に水膜102を作ってしまう。そのため水は、水抜き孔100から落下しにくくなり、図11(f)の様に、パレット101上の水位が上昇し、パレット101上に深い水たまりができてしまう。
【0010】
この対策として、水抜き孔100の径を大きくすることが考えられる。またパレット101をエクスパンドメタル等の網状の部材で構成する方策も考えられる。
これらの方策は、水はけを良くするという観点からは推奨されるが、パレットの剛性を低下させてしまうという問題がある。
【0011】
そこで本発明は、従来技術の上記した問題点に注目し、水はけがよく、且つ床板の剛性を過度に低下させることのない立体駐車装置を開発することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した課題を解決するための請求項1に記載の発明は、車両が載置され、所定の厚さの床板を有し、当該床板が立体的に配置された立体駐車装置において、前記床板に水抜き孔が設けられ、前記水抜き孔の下側開口縁は環状に連続する曲線又は一部に直線を含む連続した線であり、前記水抜き孔の上側開口縁は曲線又は一部に直線を含む線を基調とし一部に不連続部がある環状形状であることを特徴とする立体駐車装置である。
【0013】
床板は上下や水平方向に移動する移動式のものであってもよく、固定式のものであってもよい。
「不連続部」とは曲線や直線がなだらかに繋がっていない部分を言う。例えば「不連続部」の周囲は、一定の関数で表現される線であるが、その中途に、周囲の曲線を表現する関数の線とは異なる部分がある。接線の傾きが急変する部分も「不連続部」に含まれる。
例えば、孔の基調部分が、「X2 +Y2 =r2 」(円の方程式)や楕円の方程式等の曲線の方程式に当てはまるが、この式が当てはまらない場合が「不連続部」に含まれる。
孔の基調部分が、「X2 +Y2 =r2 」(円の方程式)や楕円の方程式等の曲線の方程式に当てはまるが、一部に直線部分や局所的な円弧部分があり、当該部分の基端部の接線の傾きが、近傍の部分の接線の傾きが大きく相違する部分も「不連続部」に含まれる。
また基調とする部分とは異なる数式で表現される部分や、基調とする部分の線に対して角度をもって繋がる部分も「不連続部」に含まれる。
なお、孔は危険防止のために面取りされることが普通であり、その際に微小な傷や、凹凸が生じるが、これらは「不連続部」には含まない。
本発明の立体駐車装置では、水抜き孔の上側開口縁は、例えば円、楕円、長円、ダルマ形等の曲線や、長孔等の様に円弧部分と直線部分を含むが両者が円滑に繋がった形状を基調としているが、その一部に不連続部がある。例えば接線の傾きが急変する部分等がある。
そのため水抜き孔の縁で水がせき止められるが、不連続部については、他の部分にさきがけて破壊される。メカニズムを説明すると、水は表面張力によって表面積が最小になろうとし、表面(壁面)が曲面を呈するのに対し、不連続部は曲線や直線が急変する部分であるから、水の表面形状が不連続部の辺と合致せず、水がこぼれ落ちる。不連続部においては、水の表面張力の均衡が破れて水が流れ出すとも考えられる。
そのため水抜き孔に不連続部があると、水抜き孔に水膜が生じにくい。また水膜が発生したとしても、破壊されやすい。
本発明では、不連続部があるのは上面側だけであり、下面側は、環状に連続する。そのため床面の剛性は過度には低下しない。
即ち、床板の自重や、車両の重量によって、床板は「下に凸」の形状に撓む。そのため床板の上面は圧縮力を受け、下面は引っ張り力を受ける。
ここで引っ張り側にキズがあれば、当該部分に応力が集中して、床板の破壊が進むが、本発明では、水抜き孔の引っ張り側の縁は、環状に連続する形状であって応力集中を起こしにくい。そのため床板の剛性は過度には低下しない。
【0014】
請求項2に記載の発明は、床板は、車両を搭載する移動式のパレットであり、辺部が複数の点または線で他の部材に支持され、昇降及び/又は走行するものであることを特徴とする請求項1に記載の立体駐車装置である。
【0015】
請求項3に記載の発明は、水抜き孔は円形又は楕円形を基調とした孔であり、上側開口縁の一部が水平方向に変位し、上側開口縁は曲線を基調とし前記変位部分によって不連続部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の立体駐車装置である。
【0016】
請求項4に記載の発明は、水抜き孔は円形又は楕円形を基調とした孔であり、上側開口縁の一部が垂直方向に変位し、上側開口縁は曲線を基調とし前記変位部分によって不連続部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の立体駐車装置である。
【0017】
請求項5に記載の発明は、水抜き孔は円形又は楕円形を基調とした孔であり、上側開口縁の一部に下向きに傾斜する傾斜部があり、上側開口縁は曲線を基調とし前記傾斜部によって不連続部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の立体駐車装置である。
【0018】
請求項6に記載の発明は、水抜き孔は円形又は楕円形を基調とした孔であり、上側開口縁の一部が下側開口縁に至らない深さに切り欠かれていて下側開口縁が環状に連続する曲線であり、上側開口縁は曲線を基調とし前記切り欠き部分によって不連続部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の立体駐車装置である。
【0019】
請求項7に記載の発明は、前記切り欠き部分の平面形状は、水抜き孔側に広がり水抜き孔に対して反対側となる奥側が狭い形状であることを特徴とする請求項6に記載の立体駐車装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の立体駐車装置は、水抜き孔に水膜が生じにくい。また水膜が発生したとしても、水膜は破壊されやすい。そのため本発明の立体駐車装置は、床板の水はけがよい。また本発明の立体駐車装置は、床板の剛性が確保されている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態の立体駐車装置の斜視図である。
図2】本発明の実施形態の立体駐車装置の立体的な機構図である。
図3】パレット(床板)の斜視図である。
図4】水抜き孔の拡大斜視図である。
図5】(a)は水抜き孔の平面図、(b)は水抜き孔の正面断面図、(c)は水抜き孔の底面図である。
図6】(a)は、図5のA−A断面図、(b)は、図5のB−B断面図、(c)は、図5のC−C断面図である。
図7】(a)は、図5のD−D断面図、(b)は、図5のE−E断面図、(c)は、図5のF−F断面図である。
図8】(a)乃至(i)は、水抜き孔の変形例を示す平面図である。
図9】水抜き孔に掛かる力を説明する説明図である。
図10】本発明の他の実施形態の立体駐車装置の斜視図である。
図11】従来技術のパレットの水抜き孔部分の断面図であり、(a)乃至(f)は、水が溜まる様子を順次示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下さらに本発明の実施形態について説明する。
本実施形態の立体駐車装置1は、地上4階地下一階構造の立体駐車装置である。なお図1には、地下部分の図示を省略している。
立体駐車装置1は、フレーム4を有している。フレーム4は、柱11と梁12等によって構築された構造物であり、地上4階構造となっている。
そしてフレーム4によって各階にそれぞれ4室の車両設置エリアが作られている。
最上階たる4階には、全ての車両設置エリアにパレット(床板)2がある。これに対して4階よりも下の下層階(3階、2階、1階)に設置されたパレット2の数は、車両設置エリアの数よりも少ない。
【0023】
最上階たる4階の車両設置エリアは、パレット2を昇降させる昇降機構8を備えている。これに対して下層階(3階、2階、1階)の車両設置エリアは、パレット2を昇降させる昇降機構と、パレット2を横行させる横行機構を備えている。
パレット2を横行させる機構は、パレット2自身に横行車輪を設け、横行レールに横行車輪が載置されたものである(図示せず)。
【0024】
本実施形態の立体駐車装置1では、昇降機構8は、図2の様に4本のチェーン3a,3b,3c,3dを利用している。そして4本のチェーン3a,3b,3c,3dでパレット2を吊り下げている。
この様に本実施形態の立体駐車装置1は、一台の車両を搭載する移動式のパレット(床板)2を有している。そしてこのパレット(床板)2は、長辺側の2点でチェーン3a,3b,3c,3dによって吊り下げ支持されており、チェーン3a,3b,3c,3dをモータ5で巻き上げることによって昇降する。
【0025】
また他の階のパレット2は、同様にチェーンによって吊り下げられていると共に、車輪によって横方向にも走行する。
車輪は、パレット2の短辺に設けられており、走行機構を有するパレット2は、辺部の線で他の部材に支持されて走行する。
この様に本実施形態のパレット2は、中空状態に置かれるものであり、辺部が複数の点または線で他の部材に支持されている。そのため、自重や車両の重量によって中央部分が下に凸形状に撓む。
【0026】
次に、パレット2について説明する。
パレット2は、鋼板によって作られたものであり、平面形状は図3の様に長方形をしている。なおパレット2の底には、図示しない補強桟が設けられている。
パレット2は、図3の様に幅方向に3エリアA,B,Cに分かれている。両端側のエリアA,Cは、タイヤ載置エリアであり、表面は平滑である。
中央エリアBは、車両のシャーシの下となる部分である。中央エリアBは、補強のために波板10が設置されている。
【0027】
パレット2の長辺には、補強目的とタイヤの脱輪を防ぐ目的から周囲に縦壁13が設けられている。そのため中央部分が相対的に窪んだ形状となっている。
従って雨水は、タイヤ載置エリアA,Cに溜まることとなる。
そして本実施形態の立体駐車装置1では、パレット2のタイヤ載置エリアA,Cに水抜き孔15が設けられている。
本実施形態では、各タイヤ載置エリアA,Cに6個ずつ水抜き孔15が設けられているが、水抜き孔15の個数及び位置、レイアウト等は任意である。
【0028】
本実施形態で採用する水抜き孔15は、図4の様に円を基調とする孔である。
本実施形態で採用する水抜き孔15は、円を基調とし、3か所に切り欠き16a,b,cが設けられている。切り欠き16a,b,cの間隔は不均等であり、切り欠き16aと切り欠き16bの間及び切り欠き16bと切り欠き16cの間は90度であるが、切り欠き16cと切り欠き16aの間は180度開いている。
切り欠き16a,b,cは、いずれもパレット2の上面にだけ設けられた欠落部であり、パレット2の下面にまでは至っていない。即ちパレット2に設けられた水抜き孔15の開口縁は、上側開口縁17の一部が下側開口縁に至らない深さに切り欠かれている。
そのため水抜き孔15の下面には、切り欠き16a,b,cの痕跡はなく、下側開口縁18の形状は円である。
【0029】
この様に本実施形態では、水抜き孔15は円形を基調とした孔である。そして上側開口縁17の一部が下側開口縁18に至らない深さに切り欠かれている。そのため下側開口縁18は環状に連続する曲線(円)であるが、上側開口縁17は円を基調とし切り欠き部分によって不連続部が形成されている。即ち下側開口縁18は曲線が切れ目無くなだらかに繋がった形状であり、線が連続している。下側開口縁18は不連続部が無く、一定の関数で表現される線である。下側開口縁18の形状は接線の傾きは連続的に変化する。
これに対して上側開口縁17は、概ね円形ではあるが、部分的に欠落部分があって不連続である。上側開口縁17は、曲線がなだらかに繋がっていない「不連続部」がある。欠落部分では、接線の傾きが急変している。
【0030】
以下、水抜き孔15及び切り欠き16a,b,cの形状について詳細に説明する。
水抜き孔15は、切り欠き16a,b,cを除くと真円の孔である。本実施形態においては、水抜き孔15の直径は、10mmから30mm程度である。なおこの数値は一例に過ぎない。水抜き孔15の直径が大きいと、切り欠き16a,b,cの効果が低下する。即ち水抜き孔15の直径が過度に大きいと、切り欠き16a,b,cが無くても水膜は生じにくい。その反面、水抜き孔15の直径が大きいと、パレットの剛性が低下する。
水抜き孔15の直径が小さいと、仮に切り欠き16a,b,cを設けても水膜ができ易い。ただし切り欠き16a,b,cをより大きくすれば水膜の形成をある程度防ぐことができる。
パレット2は、公知の構造用圧延鋼であり、本実施形態では、3.2mmの厚さのものが採用されている。パレット2を構成する鋼材の厚さは任意であり、2.8mmから4.0mm程度のものが一般に採用されているが、厚さが厚いほど、水同士が当たってつながる領域が増えるため。水膜が形成されやすい傾向がある。
【0031】
本実施形態では、切り欠き16a,b,cは平面形状が三角形であり、その頂点20の角度は、90度から20度程度に設定されている。本実施形態では、頂点20の角度は、60度程度である。ただしこの数値は一例に過ぎず、本発明がこの数値に限定されるものではない。
切り欠き16a,b,cの奥(頂点20)は必ずしも角張っている必要はないが、本実施形態では、図5の様に辺を構成する線20,21を延長して結んだ点の角度が、前記した様に90度未満となっている。
本実施形態では、図5の様に欠き部分の水抜き孔側の幅を底辺22とし、当該底辺22と接する2辺(20,21)によって構成される二つの角θ1、θ2(シータ1,シータ2)の合計が、90度以上180度未満となる様に設定している。
【0032】
また前記した様に切り欠き16a,b,cの平面形状は三角形であるから、上側開口縁17の一部が水平方向に変位している。水平方向変位量Gは、例えば水抜き孔15の直径の5パーセントから25パーセント程度である。
水平方向変位量Gは、大きいほど水の表面張力による曲線から外れるので、表面張力の均衡を破って水を流し易くする。ただし水平方向変位量Gが大きいと、使用者がつまずく場合がある。逆に水平方向変位量Gが小さいと、使用者がつまずくことはないが、水の流れは思わしくないこととなる。
【0033】
また前記した様に、切り欠き16a,b,cの深さは、下側開口縁18に至らない深さであり、水抜き孔15は上側開口縁17の一部が垂直方向に変位していると言える。垂直方向の変位量Hは、一例としてパレット2の厚さの10パーセントから90パーセント程度である。また40パーセントから70パーセントであってもよい。
切り欠き16a,b,cの垂直方向の変位量Hは、大きいほど真円部分の厚みが減るため、水膜が形成し難くなり、水が流れ易くなるが、パレット2の剛性(特に下面側の強度)が低下する。逆に切り欠き16a,b,cの垂直方向の変位量Hが小さい場合は、下面側の真円部分の厚みが増し、パレット2の剛性は向上するが、水の流れはいくらか悪くなる。
【0034】
切り欠き16a,b,cは、水が流れる溝として機能するが、溝の断面形状は、図7の様にいずれの位置についても三角形である。
ただし溝の深さは、奥(頂点20側)に行くほど浅くなっていく。即ち切り欠き16a,b,cによって形成される溝は、底23が傾斜している。
底23の傾斜角度θ3(シータ3)は、円滑に水が流れる勾配であることが望ましく、例えば30度から80度程度である。本実施形態では60度である。
【0035】
また溝の側壁25についても図7の様に傾斜している。側壁25のなす角θ4(シータ4)は、例えば45度から100であり、30度から120度であってもよい。本実施形態では、90度である。
【0036】
本実施形態で採用するパレット2では、水抜き孔15に切り欠き16があるから、水抜き孔15の周囲に水のせきができた際、水のせきは表面張力によって壁面が曲面になろうとする。これに対して切り欠き16a,b,cの角部は基調部分の曲線から外れていて水のせきの形状と一致せず、せきに掛かる水圧が不均衡になる。そのため切り欠き16からせきが破れる。また切り欠き16は傾斜姿勢の溝を構成しているから、水は溝に沿って下に流れる。
仮に切り欠き16a,b,cの下面の水膜が形成されているか、あるいは形成されようとしていても、切り欠き16から流れこむ水流は他の部分に比べて強いので、当該水流によって水膜が突き破られる。そのためパレット2上の水は、水抜き孔15から円滑に排水され、パレット2上に溜まらない。
【0037】
またパレット2の自重や車両の重量によってパレット2は、図9(a)の下に凸形状に撓み、上側に圧縮応力が掛かり、下側に引っ張り応力が掛かる。しかしながら本実施形態体では、水抜き孔15の下側開口縁18は環状に連続していて応力集中は起きない。即ち水抜き孔15の下側開口縁18は上側開口縁17と形状が異なり、不連続部は無い。そのため剛性の低下は小さい。
なお図9(b)の様に、仮に水抜き孔15の下側開口縁18に切り欠き16を設けると、切り欠き部分に応力集中が生じて亀裂が発生する懸念がある。
【0038】
次に、水抜き孔15の変形例について説明する。なお図8は、いずれも水抜き孔30,31,32,33,34,35,36,40,45の上側開口縁を図示したものである。水抜き孔30,31,32,33,34,35,36,40,45の上側開口縁には不連続部があるが、下側開口縁には不連続部は無い。
上記した水抜き孔15は円を基調とした孔であり、下側開口縁は環状に連続する円であった。しかしながら本発明は円に限定されるものではなく、図8(c)の水抜き孔32や、図8(h)の水抜き孔40の様な楕円形や長円を基調とするものであってもよい。基調とする形状は、曲線のみでなく直線と曲線が混じったものであってもよいが、境界部分41はなだらかであり、不連続部を除いて接線の傾きに急変部分はない。また図8(d)(e)の水抜き孔33,34の様なダルマ形孔であってもよい。また図8(e)の水抜き孔34の平面形状は、一部に直線部分43がある。ただし直線部分43は他の部分となだらかに繋がっており、境界部分の接線の傾きは同一である。
【0039】
切り欠き16の数や位置は任意であり、図8(a)の水抜き孔30の様に一つでもよく。図8(b)の水抜き孔31の様に多数でもよい。また切り欠き16の配置は、図8(b)の水抜き孔31の様に均等であってもよいが、水膜に対して不均一に力を加える観点からは、水抜き孔のレイアウトは不均一である方がよい。
【0040】
切り欠き16の平面形状は、先の実施形態では三角形であったが、他の形状であってもよい。例えば、図8(f)の水抜き孔35の様な円弧状や「U」字状であってもよく、図8(g)の水抜き孔36の様に四角形であってもよい。即ち接線の接線の傾きが急変し、角の様な部分があればよい。
また不連続部は、図8(i)の水抜き孔45の様に内側に突出したものであってもよい。
【0041】
上記した実施形態の立体駐車装置1は、昇降装置8を有する移動式のパレット2を備えたものであるが、本発明は、移動式のパレット2を有するものに限定されるものではない。
例えば図10に示す立体駐車装置50の様な固定式の床板51だけを有するものであってもよい。
図10に示す立体駐車装置50は、架台52によって2階建てに構成されたものであり、自動車は、スロープ53を走行して2階に上がる。
二階には、中央に走行路55があり、その周囲に床板51が並べられている。
床板51には、前記した構造の水抜き孔(図示せず)が多数設けられている。
【符号の説明】
【0042】
1 立体駐車装置
2 パレット(床板)
3a,3b,3c,3d チェーン
8 昇降機構
15 水抜き孔
16a,b,c切り欠き
17 上側開口縁
18 下側開口縁
30,31,32,33,34,35,36,40,45 水抜き孔
50 立体駐車装置
51 床板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
図11