特許第6546477号(P6546477)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6546477
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】流体封入式防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20190705BHJP
【FI】
   F16F13/10 L
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-165294(P2015-165294)
(22)【出願日】2015年8月24日
(65)【公開番号】特開2017-44227(P2017-44227A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年5月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】小宮 康宏
(72)【発明者】
【氏名】林 貴志
【審査官】 鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−316723(JP,A)
【文献】 特開平09−177866(JP,A)
【文献】 特開2012−013153(JP,A)
【文献】 特開2006−194439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ取付部材と型成形されたアウタブラケットが本体ゴム弾性体によって相互に弾性連結されていると共に、壁部の一部を該本体ゴム弾性体によって構成されて非圧縮性流体を封入された流体室が設けられている流体封入式防振装置において、
前記アウタブラケットと異なる材質のかしめ部材が、相互に離隔して突出する複数の突片を有しており、該複数の突片が該アウタブラケットから突出した状態で、該かしめ部材が該アウタブラケットに対して固定されていると共に、
前記流体室の壁部の他の一部を構成する蓋部材が該かしめ部材の該突片を曲げ加工することによってかしめ固定されて該アウタブラケットに取り付けられていることを特徴とする流体封入式防振装置。
【請求項2】
前記アウタブラケットが合成樹脂製である請求項1に記載の流体封入式防振装置。
【請求項3】
前記かしめ部材が前記アウタブラケットに対して部分的な埋設状態で固定されている請求項1又は2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項4】
前記かしめ部材が前記アウタブラケットに係止固定されている請求項1又は2に記載の流体封入式防振装置。
【請求項5】
前記蓋部材が可撓性膜を含んで構成されていると共に、前記流体室には該流体室を仕切る仕切部材が配設されて、該仕切部材を挟んだ両側には、壁部の一部を前記本体ゴム弾性体で構成された受圧室と、壁部の一部を該可撓性膜で構成された平衡室が形成されており、更にそれら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路が形成されている請求項1〜4の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【請求項6】
インナ取付部材と型成形されたアウタブラケットが本体ゴム弾性体によって相互に弾性連結されていると共に、壁部の一部を該本体ゴム弾性体によって構成されて非圧縮性流体を封入された流体室が設けられている流体封入式防振装置において、
前記アウタブラケットと異なる材質のかしめ部材が該アウタブラケットへ軸方向に差し込まれて部分的に埋設された状態で固定されていることで、該かしめ部材が内外周の両側から該アウタブラケットで挟まれて固定されていると共に、
前記流体室の壁部の他の一部を構成する蓋部材が、該かしめ部材の突片が内周側へ曲げられることでかしめ固定されて該アウタブラケットに取り付けられていることを特徴とする流体封入式防振装置。
【請求項7】
複数の前記かしめ部材が互いに独立し相互に離隔して設けられている請求項1〜6の何れか一項に記載の流体封入式防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に封入された非圧縮性流体の流動作用などに基づく防振効果を利用する流体封入式防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装されて、それら部材を相互に防振連結する防振装置の一種として、内部に封入された流体の流動作用などに基づく防振効果を発揮する流体封入式防振装置が知られており、自動車のエンジンマウントなどに適用されている。流体封入式防振装置は、特許第4199379号公報(特許文献1)などに開示されているように、振動伝達系を構成する一方の部材に取り付けられるインナ取付部材と、振動伝達系を構成する他方の部材に取り付けられるアウタ取付部材とが、本体ゴム弾性体によって弾性連結されていると共に、壁部の一部を本体ゴム弾性体によって構成されて、内部に非圧縮性流体を封入された流体室が設けられた構造を有している。そして、インナ取付部材がインナブラケットを介して振動伝達系の構成部材の一方に取り付けられると共に、アウタ取付部材がアウタブラケットを介して振動伝達系の構成部材の他方に取り付けられる。
【0003】
また、特許文献1の流体封入式防振装置では、流体室の壁部の一部を構成する可撓性膜がアウタ取付部材にかしめ固定されることにより、流体室が流体密に画成されている。
【0004】
ところで、構造の簡略化や軽量化などを目的として、特許第3929927号公報(特許文献2)などでは、アウタ取付部材が省略されて、特許文献1においてアウタ取付部材を介して取り付けられていたアウタブラケットに対して、本体ゴム弾性体を直接加硫接着した構造も提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献2のようなアウタ取付部材を省略した構造では、可撓性膜などの流体室を画成する蓋部材を特許文献1のようにアウタ取付部材にかしめ固定することができないことから、蓋部材をかしめ固定するための構造が必要となる。特に、特許文献2のように、アウタブラケットが合成樹脂などで形成されている場合には、特許文献1のようなかしめ構造をアウタブラケットによって実現することも難しい。加えて、アウタブラケットは高剛性を実現するために、一般的に、型成形で形成された厚肉大型の部材とされることから、薄肉のかしめ片をアウタブラケットに一体形成することも困難であった。
【0006】
なお、特許文献2では、可撓性膜などを取り付けるためのかしめ部材が本体ゴム弾性体に加硫接着された構造が開示されているが、この構造では、本体ゴム弾性体の変形によってかしめ部材がアウタブラケットに対して相対的に変位し得ることから、かしめ部材をアウタブラケットに対して十分な精度で位置決めすることが難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4199379号公報
【特許文献2】特許第3929927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、部品点数の削減による構造の簡略化を図りつつ、流体室の流体密性を確保することができ、且つ優れた防振性能も実現可能とされた、新規な構造の流体封入式防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0010】
すなわち、本発明の第一の態様は、インナ取付部材と型成形されたアウタブラケットが本体ゴム弾性体によって相互に弾性連結されていると共に、壁部の一部を該本体ゴム弾性体によって構成されて非圧縮性流体を封入された流体室が設けられている流体封入式防振装置において、前記アウタブラケットと異なる材質のかしめ部材が、相互に離隔して突出する複数の突片を有しており、該複数の突片が該アウタブラケットから突出した状態で、該かしめ部材が該アウタブラケットに対して固定されていると共に、前記流体室の壁部の他の一部を構成する蓋部材が該かしめ部材の該突片を曲げ加工することによってかしめ固定されて該アウタブラケットに取り付けられていることを、特徴とする。
【0011】
このような第一の態様に従う構造とされた流体封入式防振装置によれば、アウタブラケットが本体ゴム弾性体に対して直接的に固着されることから、アウタブラケットが本体ゴム弾性体に固着されたアウタ取付部材を介して本体ゴム弾性体に取り付けられる構造に比して、部品点数の削減とそれに伴う構造の簡略化が図られる。
【0012】
また、別材質のかしめ部材がアウタブラケットに対して突出状態で固定されていることにより、アウタブラケットが例えば合成樹脂やアルミニウム合金などのかしめ固定に適さない材料で形成されていても、かしめ部材によって蓋部材をかしめ固定して流体室を流体密に画成することができる。しかも、かしめ部材が硬質のアウタブラケットに固定されることにより、かしめ部材をアウタブラケットに対して精度よく位置決めすることができて、かしめ部材によってかしめ固定される蓋部材を、アウタブラケットに対して適切な位置に安定して取り付けることができる。
【0013】
さらに、大型で高剛性のアウタブラケットを型成形によって形成することができると共に、型成形では形成困難な薄肉のかしめ部材をアウタブラケットとは別体で形成して、アウタブラケットに固定することにより、目的とするかしめ部材を備えたアウタブラケットを容易に得ることができる。
【0014】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記アウタブラケットが合成樹脂製とされているものである。
【0015】
第二の態様によれば、軽量のアウタブラケットを大きな形状自由度をもって形成することができる。
【0016】
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記かしめ部材が前記アウタブラケットに対して部分的な埋設状態で固定されているものである。
【0017】
第三の態様によれば、かしめ部材をアウタブラケットに対して強固に固定することができて、かしめ部材のアウタブラケットからの脱落や位置ずれなどが回避される。
【0018】
本発明の第四の態様は、第一又は第二の態様に記載された流体封入式防振装置において、前記かしめ部材が前記アウタブラケットに係止固定されているものである。
【0019】
第四の態様によれば、かしめ部材をアウタブラケットに対して簡単に取り付けることができる。しかも、流体封入式防振装置の製造に際して、たとえば蓋部材をかしめ部材でかしめ固定する工程において、かしめ部材がアウタブラケットに係止されるようにすれば、少ない製造工程数でかしめ部材をアウタブラケットに取り付けることができる。
【0020】
本発明の第五の態様は、第一〜第四の何れか一つの態様に記載された流体封入式防振装置において、前記蓋部材が可撓性膜を含んで構成されていると共に、前記流体室には該流体室を仕切る仕切部材が配設されて、該仕切部材を挟んだ両側には、壁部の一部を前記本体ゴム弾性体で構成された受圧室と、壁部の一部を該可撓性膜で構成された平衡室が形成されており、更にそれら受圧室と平衡室を相互に連通するオリフィス通路が形成されているものである。
【0021】
第五の態様によれば、受圧室と平衡室の相対的な圧力変動で生じるオリフィス通路の流体流動によって優れた防振性能を発揮する流体封入式防振装置が、アウタ取付部材を省略した簡単な構造によって実現される。また、本発明の第六の態様は、インナ取付部材と型成形されたアウタブラケットが本体ゴム弾性体によって相互に弾性連結されていると共に、壁部の一部を該本体ゴム弾性体によって構成されて非圧縮性流体を封入された流体室が設けられている流体封入式防振装置において、前記アウタブラケットと異なる材質のかしめ部材が該アウタブラケットへ軸方向に差し込まれて部分的に埋設された状態で固定されていることで、該かしめ部材が内外周の両側から該アウタブラケットで挟まれて固定されていると共に、前記流体室の壁部の他の一部を構成する蓋部材が、該かしめ部材の突片が内周側へ曲げられることでかしめ固定されて該アウタブラケットに取り付けられていることを特徴とする。更にまた、本発明の第七の態様は、第一〜第六の何れか一つの態様に記載された流体封入式防振装置において、複数の前記かしめ部材が互いに独立し相互に離隔して設けられているものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、アウタ取付部材が省略されてアウタブラケットが本体ゴム弾性体に固着されていることから、部品点数の削減とそれに伴う構造の簡略化が実現される。更に、蓋部材をかしめ固定するかしめ部材が、アウタブラケットとは別材質とされて、アウタブラケットに固定されることから、アウタブラケットに対する要求性能と、かしめ部材に対する要求性能とを、それぞれ高度に実現することができる。更にまた、かしめ加工に適する薄肉部分を作り難い型成形のアウタブラケットに対して、別体のかしめ部材を固定することで、アウタブラケットに対して目的とするかしめ構造を設けることができると共に、かしめ部材をアウタブラケットに対して精度よく位置決めすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第一の実施形態としてのエンジンマウントの正面図。
図2図1に示すエンジンマウントの平面図。
図3図1に示すエンジンマウントの底面図。
図4図1に示すエンジンマウントの右側面図。
図5】図のV−V断面図。
図6図1に示すエンジンマウントを構成する一体加硫成形品の正面図。
図7図6に示す一体加硫成形品の平面図。
図8図6に示す一体加硫成形品の底面図。
図9図6に示す一体加硫成形品の右側面図。
図10図6に示す一体加硫成形品にアウタブラケットを固着した正面図。
図11】図に示す一体加硫成形品にアウタブラケットを固着した底面図。
図12】図に示す一体加硫成形品にアウタブラケットを固着した右側面図。
図13図10に示すアウタブラケットの製造工程を説明する縦断面図であって、成形用金型に一体加硫成形品とかしめ部材をセットした図。
図14図1に示すエンジンマウントを構成するかしめ部材の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1〜5には、本発明に従う構造とされた流体封入式防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、一体加硫成形品12にアウタブラケット14が固着された構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とは図1中の上下方向を、前後方向とは図1中の左右方向を、左右方向とは図2中の上下方向を、それぞれ言う。
【0026】
より詳細には、一体加硫成形品12は、図6〜9に示すように、インナ取付部材16に本体ゴム弾性体18を加硫接着した構造とされている。インナ取付部材16は、鉄やアルミニウム合金などで形成された高剛性の部材であって、左右に延びる略角丸矩形筒状の嵌着部20と、上向きに開口する凹形状の固着部22とを備えており、嵌着部20の下壁部の中央部分に固着部22が一体形成されて下方へ突出している。本実施形態のインナ取付部材16は、プレス材によって形成されている。
【0027】
本体ゴム弾性体18は、大径の略四角錐台形状を有しており、小径側の端部にインナ取付部材16が加硫接着されている。本実施形態では、固着部22が本体ゴム弾性体18に埋設状態で加硫接着されている一方、嵌着部20の内周面が本体ゴム弾性体18と一体形成された被覆ゴム層24によって覆われていると共に、嵌着部20の外周面が本体ゴム弾性体18と一体形成されたストッパゴム26によって覆われている。本実施形態のストッパゴム26は、上側部分と前後両側部分の略中央において、厚さ寸法が部分的に大きくされている。
【0028】
さらに、本体ゴム弾性体18には、大径側の端面に開口する大径凹所28が形成されている。大径凹所28は、上方に行くに従って縮小する略四角錐台状の凹所であって、インナ取付部材16の固着部22までは至らない深さとされている。この大径凹所28が本体ゴム弾性体18の下部に形成されていることにより、本体ゴム弾性体18の下部は、内周面と外周面の両方が下方に向かって外周へ傾斜している。
【0029】
このような構造とされた一体加硫成形品12には、図10〜12に示すように、アウタブラケット14が固着される。アウタブラケット14は、繊維補強合成樹脂やアルミニウム合金などの軽金属等で形成されており、略角丸四角筒形状の装着筒部30と、装着筒部30における前後対辺部分において下方へ突出する前後の取付脚部32,32と、前後の取付脚部32,32に対して上方へ延び出して装着筒部30の上方を跨ぐ門形ストッパ部34とを、一体で備えている。
【0030】
装着筒部30は、角を丸められた略四角筒形状とされており、内周面が段付き筒状面とされて、上部内法寸法が下部内法寸法よりも大きくされていると共に、内周面の上部が上方に向けて拡開するテーパ形状を有している。更に、装着筒部30には、左右対辺の一方において外周側へ突出するストッパ受部40が設けられており、ストッパ受部40において装着筒部30が周上部分的に厚肉とされている。
【0031】
取付脚部32は、前後外側へ突出すると共に、下方へ延び出しており、下端において前後外側へ延び出している。この取付脚部32の下端部には、ナット44がインサート成形によって部分的な埋設状態で配されており、内周面にねじ山が形成されて上下に貫通するねじ孔46が設けられている。なお、前後の取付脚部32,32は、相互に略前後対称構造とされている。
【0032】
門形ストッパ部34は、装着筒部30から上方へ延び出す前後の竪壁部48,48と、竪壁部48,48の上端を相互に繋ぐように設けられる天壁部50とを一体で備えており、全体として略門形とされている。本実施形態では、前後の竪壁部48,48の上部が、下部に比して前後内側に突出して前後厚肉とされている。
【0033】
そして、装着筒部30と前後の取付脚部32,32と門形ストッパ部34とを一体で備えるアウタブラケット14は、図13に示すような成形用金型52を用いた型成形によって形成されている。即ち、複数の分割金型を組み合わせてなる成形用金型52のキャビティ54に一体加硫成形品12やナット44などがセットされた状態で、キャビティ54にアウタブラケット14の形成材料が射出充填されることにより、アウタブラケット14が一体加硫成形品12の本体ゴム弾性体18に固着された状態で形成される。これにより、インナ取付部材16とアウタブラケット14が本体ゴム弾性体18によって相互に弾性連結されている。
【0034】
ここにおいて、アウタブラケット14には、左右一対のかしめ部材56,56が取り付けられている。かしめ部材56は、アウタブラケット14とは異なる鉄などの材料によって、アウタブラケット14とは別体で形成されており、後述するかしめ固定を実現し得る塑性加工性に優れた部材とされている。本実施形態では、鉄製のプレス金具とされており、薄肉とされることにより厚さ方向の曲げ加工が容易とされている。かしめ部材56は、図14に示すように、上端部が基部58とされている。基部58は、前後に延びる略矩形板形状とされており、本実施形態では厚さ方向へ貫通する係止孔60,60が形成されている。
【0035】
さらに、基部58には、下方へ突出する板状の2つの突片62,62が一体形成されている。2つの突片62,62は、前後に所定の距離を隔てて配置されて、基部58の前後端部において下方へ突出している。なお、本実施形態では、互いに独立した左右一対のかしめ部材56,56が採用されているが、例えば、基部が軸方向視でU字形状とされて周方向に連続しており、該基部の左右対向部分に各2つの突片62,62が一体形成されることによって、左右両側に各2つの突片62,62を備えたかしめ部材を1つの部品として形成することもできる。
【0036】
そして、一対のかしめ部材56,56は、左右に相互に対向して配置されて、図13に示すように、アウタブラケット14の成形時に成形用金型52のキャビティ54にセットされてアウタブラケット14にインサートされている。これにより、各基部58がアウタブラケット14の装着筒部30に埋設状態で固着されていると共に、各突片62が少なくとも先端部分においてアウタブラケット14の装着筒部30から下方へ突出しており、かしめ部材56,56がアウタブラケット14に対して各突片62が下方へ突出する部分的な埋設状態で固着されている。本実施形態では、各基部58の全体がアウタブラケット14の装着筒部30に埋設されており、各基部58に設けられた突片62,62の前後間において、基部58の下方がアウタブラケット14によって覆われて、かしめ部材56のアウタブラケット14からの抜けが防止されている。また、本実施形態では、アウタブラケット14の成形時に、基部58に形成された係止孔60に形成材料が充填されることで、アウタブラケット14の一部が係止孔60に挿通係止されて、かしめ部材56のアウタブラケット14からの抜けが防止されている。
【0037】
このかしめ部材56によって、一体加硫成形品12およびアウタブラケット14には、仕切部材64と可撓性膜66が取り付けられる。
【0038】
仕切部材64は、厚肉大径の略四角板形状を有する部材であって、仕切部材本体68に板金具70が取り付けられた構造を有している。仕切部材本体68は、厚肉の略四角板形状を有しており、中央部分には上面に開口する収容凹所72が形成されている一方、外周部分には上面に開口しながら周方向へ延びる周溝74が一周に満たない長さで形成されている。図中には示されていないが、仕切部材本体68における収容凹所72の底壁部分に複数の下透孔が貫通形成されていると共に、周溝74の一方の端部の底壁部に下連通孔が形成されている。
【0039】
板金具70は、薄肉の略四角板形状であって、仕切部材本体68の上面に重ね合わされて収容凹所72および周溝74の上開口を覆っている。図中において明らかではないが、板金具70には、収容凹所72を覆う部分に上透孔が貫通形成されていると共に、周溝74の他方の端部を覆う部分に上連通孔が形成されている。なお、板金具70は、仕切部材本体68に対して接着や機械的な係合などによって固定されていても良いし、仕切部材本体68に対して非固着で重ね合わされて、本体ゴム弾性体18と後述する可撓性膜66との間で挟持されるなどしても良い。
【0040】
さらに、板金具70で覆われた仕切部材本体68の収容凹所72には、可動部材76が収容されている。可動部材76は、略オーバル断面の筒状体であって、ゴム弾性体で形成されている。なお、可動部材76としては、たとえば、特開2013−148192号公報、特開2013−155817号公報、特開2013−210093号公報、特開2013−256980号公報、特開2013−256981号公報、特開2014−5857号公報、特開2014−31850号公報などに開示された可動部材の構造が、好適に採用され得る。
【0041】
このような可動部材76を配された仕切部材64は、アウタブラケット14の装着筒部30に挿入されて、上面外周端部が本体ゴム弾性体18に下方から当接状態で重ね合わされている。本実施形態では、仕切部材64の外周面と、アウタブラケット14の装着筒部30の内周面との間に隙間77が形成されており、仕切部材64と装着筒部30が直接的には当接していない。更に、仕切部材64は、固定部材78に対して可撓性膜66を挟んで間接的に当接しており、本体ゴム弾性体18と可撓性膜66によって弾性的に支持されている。尤も、仕切部材64は、アウタブラケット14の装着筒部30や固定部材78に対して、直接的に当接して取り付けられても良い。
【0042】
一方、可撓性膜66は、薄肉の略円板形状を有するゴム膜であって、厚さ方向の変形が容易に許容されていると共に、上下の弛みが与えられている。この可撓性膜66は、外周部分が仕切部材64と固定部材78の間で挟持されることによって、本体ゴム弾性体18の下方を覆うように取り付けられており、アウタブラケット14の下開口部が可撓性膜66によって閉塞されている。固定部材78は、鉄などの金属で形成された高剛性の部材であって、環状とされており、外周端部が上下に厚肉の外周かしめ部80とされていると共に、内周部分が外周かしめ部80よりも薄肉の内周挟持部82とされている。
【0043】
そして、固定部材78の外周かしめ部80がかしめ部材56の突片62によってかしめ固定されて、内周挟持部82と仕切部材64との間で可撓性膜66の外周端部が上下に挟まれることにより、可撓性膜66がアウタブラケット14に取り付けられている。より具体的には、仕切部材64と可撓性膜66と固定部材78をアウタブラケット14およびかしめ部材56に挿入した状態で、上下に直線的に延びる略平板形状の各突片62を曲げ加工し、突片62を下方に行くに従って一対のかしめ部材56,56の対向方向内側へ傾斜するテーパ形状に屈曲させて、各突片62の対向内面を固定部材78の下端外周縁に当接させる。これにより、固定部材78の外周かしめ部80が、アウタブラケット14の装着筒部30と、かしめ部材56の各突片62との上下間で挟まれて、周上の4箇所においてかしめ固定される。なお、本実施形態では、可撓性膜66と固定部材78によって、蓋部材が構成されている。
【0044】
かしめ部材は、アウタブラケットに固定された状態で設けられて、蓋部材をアウタブラケットに対して直接的または間接的にかしめ加工によって取り付け得るものであれば良い。かしめ加工とは、複数の部品を接合するための加工方法の1つであり、かしめ部材の塑性加工によって接合するものである。それ故、実施形態の如き曲げ加工によるかしめ固定の他、円筒状かしめ部材の絞り加工によるかしめ固定や、アウタブラケットから突出させた中空または中実のかしめ突部を蓋部材に挿通してかしめ加工するリベットやハトメ構造のかしめ固定、バーリングかしめやダボかしめ等によるかしめ固定なども採用することができる。
【0045】
このように可撓性膜66が取り付けられることにより、本体ゴム弾性体18と可撓性膜66の上下間には、壁部の一部が本体ゴム弾性体18で構成された流体室84が、流体密に画成されており、流体室84には非圧縮性流体が封入されている。更に、流体室84に仕切部材64が配されて、流体室84が仕切部材64によって上下に仕切られており、仕切部材64の上方には、壁部の一部を本体ゴム弾性体18で構成された受圧室86が、大径凹所28を利用して形成されている一方、仕切部材64の下方には、壁部の一部を可撓性膜66で構成された平衡室88が形成されている。本実施形態では、可撓性膜66が仕切部材64と固定部材78の間で上下に挟み込まれていることにより、かしめ部材56による固定部材78のかしめ固定部分を外れた内周側にシール構造が設けられて、流体室84の流体密性が確保されている。なお、受圧室86と平衡室88を含む流体室84に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば、水やエチレングリコール、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液などの液体が望ましく、より好適には、0.1Pa・s以下の低粘性流体が採用される。
【0046】
また、周溝74の上開口が板金具70によって覆蓋されることによりトンネル状の流路が形成されており、当該トンネル状流路の一方の端部が図示しない上連通孔を通じて受圧室86に連通されていると共に、周溝74の他方の端部が図示しない下連通孔を通じて平衡室88に連通されている。これにより、受圧室86と平衡室88を相互に連通するオリフィス通路90が、周溝74によって形成されている。そして、インナ取付部材16とアウタブラケット14の間への上下振動入力によって、受圧室86の内圧が平衡室88の内圧に対して相対的に変動することにより、オリフィス通路90を通じて受圧室86と平衡室88の間で流体流動が生ぜしめられる。これにより、流体の共振作用などの流動作用に基づいた防振効果が発揮されるようになっている。なお、オリフィス通路90は、流体室84の壁ばね剛性を考慮しつつ、通路断面積(A)の通路長(L)に対する比(A/L)を調節することにより、流動流体の共振周波数であるチューニング周波数が適宜に設定されており、例えばエンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波振動にチューニングされる。
【0047】
さらに、可動部材76の上面に対して、上透孔を通じて受圧室86の圧力が及ぼされると共に、可動部材76の下面に対して、下透孔を通じて平衡室88の圧力が及ぼされることから、受圧室86と平衡室88の相対的な圧力変動によって、可動部材76が収容凹所72内で上下に変位して、液圧吸収作用に基づく低ばね化が図られるようになっている。特に、可動部材76による液圧吸収作用は、オリフィス通路90のチューニング周波数よりも高周波の小振幅振動入力に対して有効に発揮されるようになっており、反共振によるオリフィス通路90の実質的な遮断状態において、著しい高動ばね化が回避されて、目的とする振動絶縁効果が発揮される。一方、低周波大振幅振動であるエンジンシェイクの入力に対しては、可動部材76の変位が仕切部材への当接によって規制されることから、受圧室86の内圧変動が有効に惹起されて、低周波にチューニングされたオリフィス通路90を通じての流体流動が効率的に生じるようになっている。
【0048】
このような本実施形態に係るエンジンマウント10は、インナ取付部材16の嵌着部20にゴムを介して嵌入される図示しないインナブラケットが、同じく図示しないパワーユニットに取り付けられるようになっていると共に、アウタブラケット14の取付脚部32,32が、ナット44,44に螺着される図示しないボルトによって、同じく図示しない車両ボデーに取り付けられるようになっている。
【0049】
かくの如き車両への装着状態において、本実施形態のエンジンマウント10では、上下および前後のストッパが構成される。即ち、インナ取付部材16の嵌着部20と、アウタブラケット14の門形ストッパ部34が、ストッパゴム26を介して当接することにより、インナ取付部材16のアウタブラケット14に対する前後および上方への相対変位量を制限するストッパ(前後ストッパおよびリバウンドストッパ)が構成される。更に、インナ取付部材16に固定されるインナブラケットが、アウタブラケット14の装着筒部30のストッパ受部40に対して、本体ゴム弾性体18の一部を介して当接することにより、インナ取付部材16のアウタブラケット14に対する下方への相対変位量を制限するストッパ(バウンドストッパ)が構成される。
【0050】
このような本実施形態に従う構造とされたエンジンマウント10によれば、本体ゴム弾性体18の外周面がアウタブラケット14に直接固着されていることから、アウタブラケット14が本体ゴム弾性体18に対してアウタ取付部材を介して間接的に取り付けられる構造に比して、アウタ取付部材の省略による構造の簡略化や軽量化などが図られる。
【0051】
また、可撓性膜66や仕切部材64を取り付けるためのかしめ部材56が、アウタブラケット14と異なる材質の別部品とされて、アウタブラケット14の成形時にアウタブラケット14に固定される。これにより、アウタブラケット14を合成樹脂やアルミニウム合金などの軽量材で形成して更なる軽量化を図りつつ、かしめ部材56によって可撓性膜66や仕切部材64の簡単な取付けが可能とされている。特に、型成形によって高い剛性が求められるアウタブラケット14を有利に形成しながら、型成形では形成困難な薄肉で曲げ加工性に優れた突片62をアウタブラケット14に突設することができる。このように、アウタブラケット14に要求される高剛性や軽量化などの特性と、かしめ部材56においてかしめ固定に求められる加工性や薄肉での十分な強度などの特性を、両立してそれぞれ高度に実現することが可能になる。
【0052】
さらに、かしめ部材56の基部58がアウタブラケット14に埋設状態で固着されることにより、かしめ部材56をアウタブラケット14に対して強固に取り付けることができる。特に本実施形態では、基部58の係止孔60,60にアウタブラケット14の一部が挿通された状態で固着されており、かしめ部材56のアウタブラケット14からの脱落がより有利に防止される。加えて、アウタブラケット14の成形時にかしめ部材56が部分的な埋設状態でアウタブラケット14に固着されることから、アウタブラケット14の成形時にかしめ部材56を成形用金型52に取り付けることによって、かしめ部材56の特別な取付工程が不要である。
【0053】
更にまた、かしめ部材56が硬質のアウタブラケット14に固定されることにより、かしめ部材56をアウタブラケット14に対して高精度に位置決めすることができる。その結果、かしめ部材56を介して、アウタブラケット14に取り付けられる可撓性膜66や仕切部材64をアウタブラケット14に対して適切な位置に安定して取り付けることができる。
【0054】
また、本実施形態では、左右一対のかしめ部材56,56が互いに独立して設けられていることから、かしめ部材が全周に亘って連続している場合に比して、アウタブラケット14の成形時の熱収縮などに起因したかしめ部材56の変形や損傷が問題になり難い。
【0055】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態では、軸方向視で略角丸四角形状を呈する本体ゴム弾性体18が例示されているが、例えば、軸方向視で略円形や楕円形を呈するなど、他の形状の本体ゴム弾性体18も採用可能である。この場合には、インナ取付部材16の固着部22や仕切部材64、可撓性膜66、固定部材78、アウタブラケット14の装着筒部30などについても、本体ゴム弾性体18に対応する軸方向視円形や楕円形などの他形状が採用され得る。
【0056】
また、たとえば、可撓性膜の外周端部に加硫接着された筒状の固定部材が、かしめ部材56の突片62によってかしめ固定された構造なども採用可能である。このような構造では、例えば、かしめ部材56の突片62と固定部材の間にシールゴム層を設けるなどして、かしめ部分にシール構造を設けることにより、流体室84の流体密性が確保される。
【0057】
アウタブラケット14は、合成樹脂やアルミニウム合金のような軽金属などが好適に採用されるが、形成材料は特に限定されるものではなく、アウタブラケット14に対する要求性能を満たすものであれば良い。より好適には、アウタブラケット14は、かしめ部材56よりも比重の小さな材料で形成される。
【0058】
また、かしめ部材56を取り付けられたアウタブラケット14を予め準備して、アウタブラケット14を本体ゴム弾性体18の成形用金型にセットし、本体ゴム弾性体18の加硫成形によってアウタブラケット14を本体ゴム弾性体18に加硫接着することもできる。
【0059】
また、基部58および突片62の形状、突片62の数や配置など、かしめ部材56の具体的な構造は、特に限定されず、適宜に変更され得る。具体的には、例えば、基部を周方向に連続するU字状乃至は環状とした構造や、複数の突片62が基部で繋がれることなく相互に独立した構造、前後に突片62を設けた構造などが、何れも採用され得る。
【0060】
また、かしめ部材は、アウタブラケットに対して必ずしも部分的な埋設状態で固着されて取り付けられる必要はなく、例えば、かしめ部材がアウタブラケットに対して係止固定されていても良い。具体的には、例えば、かしめ部材の基部に外周側へ突出する係止爪が設けられると共に、アウタブラケットの固着筒部の内周面には、係止爪に対応する溝状乃至は凹所状の係止凹部が設けられる。そして、かしめ部材がアウタブラケットの固着筒部へ挿入されて、係止爪が係止凹部に嵌め入れられることにより、係止爪と係止凹部が係止されて、かしめ部材がアウタブラケットに取り付けられるようにしても良い。このような係止によるかしめ部材のアウタブラケットの取付構造を採用する場合には、例えば、周方向に連続した筒状の基部を採用したり、かしめ部材の基部に仕切部材を挿入して、基部の内周への変形量を制限することにより、係止爪と係止凹部の係止が解除されるのを防ぐこともできる。
【0061】
前記実施形態では、本発明に係る流体封入式防振装置を自動車用のエンジンマウントに適用した例が示されているが、例えば、自動車用以外にも、自動二輪車や鉄道用車両、産業用車両などにも適用可能である。更に、本発明に係る流体封入式防振装置は、エンジンマウントだけに適用されるものではなく、防振連結すべき振動伝達系の構成部材間に配される防振装置であれば、デフマウントやボデーマウントなどにも適用され得る。
【符号の説明】
【0062】
10:エンジンマウント(流体封入式防振装置)、14:アウタブラケット、16:インナ取付部材、18:本体ゴム弾性体、56:かしめ部材、64:仕切部材、66:可撓性膜(蓋部材)、78:固定部材(蓋部材)、84:流体室、86:受圧室、88:平衡室、90:オリフィス通路
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