特許第6546495号(P6546495)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6546495
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】内燃機関の始動装置
(51)【国際特許分類】
   F02N 11/08 20060101AFI20190705BHJP
   B60K 6/485 20071001ALI20190705BHJP
【FI】
   F02N11/08 V
   B60K6/485ZHV
   F02N11/08 M
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-189565(P2015-189565)
(22)【出願日】2015年9月28日
(65)【公開番号】特開2017-66881(P2017-66881A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 岳嗣
(72)【発明者】
【氏名】河野 隆修
(72)【発明者】
【氏名】前田 茂
【審査官】 楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/038480(WO,A1)
【文献】 特開2005−146875(JP,A)
【文献】 特開2002−147319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02N 11/00〜11/14
B60K 6/485
F02D 29/02
F02N 15/00〜15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(10)をクランキングする回転電機(20)と、
前記内燃機関のクランク軸(11)の角度を検出する検出装置(51)と、
前記回転電機の駆動を制御する制御装置(50)と、を備え、
前記制御装置は、
前記内燃機関のシリンダ(10a)内の気体により前記内燃機関に作用する図示トルクの作用方向を判定する方向判定部と、
前記検出装置により検出された前記角度から前記クランク軸の回転速度を算出する速度算出部と、
前記内燃機関が完全に停止する前の停止過程中において、前記内燃機関の始動条件が成立した際に、前記速度算出部により算出された前記回転速度が、回転電機トルクと前記図示トルクとの合成トルクに関する所定速度であって、前記図示トルクが負方向となっていると、正方向の前記合成トルクが不足する所定速度よりも低い場合に、前記方向判定部により判定された前記作用方向が正方向であることを条件として、前記回転電機による正回転方向のクランキングを開始する開始部と、
を備える、内燃機関の始動装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記内燃機関が完全に停止する前の停止過程中において、前記内燃機関の始動条件が成立した際に、前記速度算出部により算出された前記回転速度が前記所定速度よりも低く、且つ前記方向判定部により判定された前記作用方向が負方向の場合に、前記方向判定部により判定された前記作用方向が正方向になるまで、前記回転電機による正回転方向のクランキングの開始を待機する待機部を備える請求項1に記載の内燃機関の始動装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記内燃機関が完全に停止する前の停止過程中において、前記内燃機関の始動条件が成立した際に、前記速度算出部により算出された前記回転速度が前記所定速度よりも低く、且つ前記方向判定部により判定された前記作用方向が負方向の場合に、前記回転電機により前記内燃機関を逆回転方向に所定時間クランキングさせる逆回転部を備える請求項1に記載の内燃機関の始動装置。
【請求項4】
前記検出装置により検出された前記角度に基づいて前記図示トルクの大きさを判定するトルク判定部を備え、
前記開始部は、前記方向判定部により判定された前記作用方向が正方向で、且つ前記トルク判定部により判定された前記図示トルクの大きさが所定値よりも大きいことを条件として、前記回転電機による正回転方向のクランキングの開始する請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関の始動装置。
【請求項5】
前記方向判定部は、前記検出装置により検出された前記角度に基づいて、前記作用方向を判定する請求項1〜4のいずれか1項に記載の内燃機関の始動装置。
【請求項6】
前記速度算出部は、前記検出装置により検出された前記角度から前記クランク軸の回転速度を、正回転方向を正の値且つ逆回転方向を負の値として算出し、
前記制御装置は、前記速度算出部により算出された前記回転速度から前記クランク軸の角加速度を算出する角加速度算出部を備え、
前記方向判定部は、前記角加速度算出部により算出された前記角加速度に基づいて、前記作用方向を判定する請求項1〜5のいずれか1項に記載の内燃機関の始動装置。
【請求項7】
前記内燃機関及び前記回転電機はハイブリッド車両の走行駆動源であり、
前記内燃機関に作用する前記回転電機のトルクの最大値は、前記内燃機関のシリンダ内の気体により前記内燃機関に作用する前記図示トルクの最大値よりも小さい請求項1〜6のいずれか1項に記載の内燃機関の始動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動停止及び自動始動を行う内燃機関の始動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の停止条件が成立すると自動停止し、始動条件が成立すると自動始動を行う内燃機関を搭載した車両がある。この種の車両において、内燃機関は、停止処理が開始されても、慣性により正方向に回転を続け、ピストンが圧縮行程の上死点を乗り越えられなくなると、ピストンが押し戻されて逆方向に回転を始める。そして、内燃機関は、逆方向の回転において、膨張行程であった気筒のピストンが上死点を乗り越えられなくなると、正方向に回転方向を変え、回転方向の変換を繰り返して完全に停止する。
【0003】
上記車両において、内燃機関の停止処理の開始後、内燃機関が完全に停止する前に内燃機関の始動条件が成立する場合がある。特許文献1に記載の内燃機関の始動装置は、内燃機関が正方向に回転している最中に始動条件が成立した場合には、スタータモータにより内燃機関のクランキングを開始している。一方、上記始動装置は、内燃機関が逆方向に回転している最中に始動条件が成立した場合には、動力伝達部材に過大な負荷が掛かることを防止するため、逆回転中はクランキングを禁止し、逆回転が解消するまで待ってからクランキングを開始している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−146875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記始動装置は、内燃機関の逆回転が解消するまで待ってからクランキングを開始するため、内燃機関の始動が遅れるおそれがある。また、内燃機関が正方向に回転している最中であっても、停止直前の低回転速度時にクランキングを開始する場合、始動条件成立時の内燃機関の状態によっては始動が遅れるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑み、始動条件成立後に、内燃機関を迅速に始動することができる内燃機関の始動装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、内燃機関の始動装置であって、内燃機関(10)をクランキングする回転電機(20)と、前記内燃機関のクランク軸(11)の角度を検出する検出装置(51)と、前記回転電機の駆動を制御する制御装置(50)と、を備え、前記制御装置は、前記内燃機関のシリンダ(10a)内の気体により前記内燃機関に作用する図示トルクの作用方向を判定する方向判定部と、前記検出装置により検出された前記角度から前記クランク軸の回転速度を算出する速度算出部と、前記内燃機関が完全に停止する前の停止過程中において、前記内燃機関の始動条件が成立した際に、前記速度算出部により算出された前記回転速度が所定速度よりも低い場合に、前記方向判定部により判定された前記作用方向が正方向であることを条件として、前記回転電機による正回転方向のクランキングを開始する開始部と、を備える。
【0008】
本発明によれば、内燃機関が完全に停止する前の停止過程中において、内燃機関の始動条件が成立した際に、クランク軸の回転速度が所定速度よりも低く、且つ図示トルクの作用方向が負方向の場合には、クランキングが開始されない。ここで、シリンダ内の気体の圧縮及び膨張に伴い内燃機関に作用する図示トルクは、内燃機関の行程に応じて正方向と負方向とに交互に作用する。回転電機によるクランキングの際には、図示トルクと回転電機トルクとの合成トルクがクランク軸に作用する。
【0009】
内燃機関の始動条件が成立した際に、クランク軸の回転速度が所定速度以上の場合には、図示トルクの作用方向に関わらず、始動条件の成立と同時にクランキングを開始しても、クランク軸の回転速度は速やかに上昇する。一方、内燃機関の始動条件が成立した際に、クランク軸の回転速度が所定速度よりも低下している場合には、図示トルクが負方向となっていると、正方向の合成トルクが不足するおそれがある。そのため、シリンダ内の空気の圧縮に時間を要したり、圧縮された空気による図示トルクと回転電機のトルクとが釣り合ってクランク軸が静止したりして、内燃機関の始動を迅速にできないおそれがある。この点、図示トルクの作用方向が正方向であることを条件として、正回転方向のクランキングを開始するため、正方向の合成トルクが十分に大きくなり、クランキング開始から始動完了までの始動時間を短縮できる。また、クランク軸が逆方向に回転している際に、図示トルクが負方向から正方向へ反転するタイミングは、クランク軸の回転方向が逆回転方向から正回転方向へ反転するタイミングよりも早い。そのため、クランク軸の回転方向が正回転方向へ反転するまで待ってからクランキングを開始するよりも、早くクランキングを開始できる。したがって、始動条件成立後に、内燃機関を迅速に始動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ハイブリッド車両システムの概略構成を示す図。
図2】エンジンが定速度で回転している場合におけるクランク角度に対する図示トルクを示す図。
図3】第1実施形態に係るエンジン始動の処理手順を示すフローチャート。
図4】第1実施形態、始動要求時にMGトルクを付与した場合、及びMGトルクを付与しない場合のそれぞれに係る(a)エンジン回転速度、(b)MGトルク、(c)図示トルクのタイムチャート。
図5】第2実施形態に係るエンジン始動の処理手順を示すフローチャート。
図6】第1実施形態及び第2実施形態のそれぞれに係る(a)エンジン回転速度、(b)MGトルク、(c)図示トルクのタイムチャート。
図7】第1〜第3実施形態のそれぞれに係る(a)エンジン回転速度、(b)MGトルク、(c)図示トルクのタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、内燃機関の始動装置を具現化した各実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各実施形態において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0012】
(第1実施形態)
まず、本実施形態に係るハイブリッド車両システムの構成について、図1を参照して説明する。本実施形態に係るハイブリッド車両システムは、車両の走行駆動源であるエンジン10及びMG20と、ハイブリッド車両システムを制御するECU50を備える。
【0013】
エンジン10は、所定の停止条件が成立すると自動停止し、所定の始動条件が成立すると自動始動するガソリン等のエンジンである。また、エンジン10は、4つのシリンダ10a(#1)〜(#4)を備える4気筒エンジンである。各シリンダ10aには、図示しない燃料噴射弁が設置されており、燃料噴射弁により燃料が噴射される。本実施形態において、エンジン10が内燃機関に相当する。なお、本実施形態では、一例として4気筒のエンジンを示しているが、エンジン10の気筒数はいくつでも構わない。
【0014】
MG20は、電動機及び発電機として作動する3相のモータジェネレータである。MG20は、3相のインバータ22に接続されている。3相のインバータ22は、高圧(例えば数百V)の直流電源であるバッテリ23に接続されている。MG20が電動機として作動する場合、インバータ22によりバッテリ23の直流電力が交流電力に変換されてMG20に供給され、MG20が駆動される。また、MG20が発電機として作動する場合、MG20により発電された交流電力は、インバータ22により直流電力に変換されて、バッテリ23へ供給される。
【0015】
エンジン10のクランク軸11は、クランクプーリ31に機械的に接続されている。また、MG20の回転軸21は、MGプーリ32に機械的に接続されている。クランクプーリ31とMGプーリ32とは、補機ベルト33により連結されている。MG20が電動機として作動する場合、MG20から出力されたトルクは、MGプーリ32、補機ベルト33及びクランクプーリ31を介して、クランク軸11に作用し、クランク軸11を回転させる。ここでは、MG20から出力されたトルクに応じて、最終的にクランク軸11に作用するトルクをMGトルクと称する。MGトルクは、クランクプーリ31とMGプーリ32との比、及びMG20から出力されたトルク等により決まる。また、クランク軸11の回転速度を、エンジン10の回転速度Neと称する。MGプーリ32、補機ベルト33及びクランクプーリ31は、MGトルクをクランク軸11へ伝達する動力伝達機構となっている。動力伝達機構はこの構成に限らず他の構成でもよい。例えば、ギアやワンウェイクラッチを備えた機構であってもよい。なお、本実施形態において、MG20は比較的小型の走行アシスト用モータであり、MG20の出力だけで走行することは困難となっている。
【0016】
また、MG20は、エンジン10の始動時に、動力伝達機構を介してクランク軸11にMGトルクを付与して、エンジン10をクランキングするスタータモータとして機能する。すなわち、MG20が、内燃機関をクランキングする回転電機に相当する。なお、本実施形態に係るハイブリッド車両システムは、MG20とは別に、ユーザによる初回始動時にエンジン10をクランキングするスタータモータを備えていてもよいし、モータジェネレータを複数備えていてもよい。
【0017】
ECU50は、CPU、ROM、RAM及びI/O等を備えたマイクロコンピュータを主体として構成された電子制御装置である。ECU50は、運転者の要求等に基づき、エンジン10やMG20の出力を制御する。詳しくは、ECU50は、クランク角センサ51により検出されたクランク軸11の回転角度であるクランク角度、及びアクセルセンサ52により検出されたアクセル開度等の検出値を取得する。そして、ECU50は、取得した各種検出値に基づいて、エンジン10の要求出力及びMG20のトルク指令値を算出する。ECU50は、算出したエンジン10の要求出力に基づいて、スロットルバルブを調整するスロットルアクチュエータへ駆動信号を出力するとともに、算出したトルク指令値に基づいて、インバータ22へ駆動信号を出力する。本実施形態において、ECU50が回転電機の駆動を制御する制御装置に相当し、クランク角センサ51が検出装置に相当する。
【0018】
また、ECU50は、エンジン10のアイドリングストップ制御を行う。詳しくは、ECU50は、停止条件が成立した場合に燃料カット等の処理を実施してエンジン10を自動停止させ、始動条件が成立した場合にエンジン10を自動始動させる。停止条件は、アクセルペダルが踏み込まれていない等である。始動条件は、アクセルペダルが踏み込まれる等である。
【0019】
ECU50は、始動条件が成立してエンジン10を自動始動させる際に、MG20を電動機として作動させてエンジン10をクランキングする。ここで、停止条件が成立してエンジン10を自動停止させている過程で、エンジン10が完全に停止する前に、始動条件が成立する場合がある。このとき、始動条件成立時のエンジン10の状態によっては、始動条件の成立と同時に正回転方向のクランキングを開始すると、エンジン10の始動が遅れるおそれがある。よって、ECU50は、始動条件が成立した場合に、適切なタイミングで正回転方向のクランキングを開始し、エンジン10を迅速に始動させる。以下、ECU50によるエンジン10の自動始動処理について説明する。
【0020】
まず、エンジン10の動作について説明する。各シリンダ10aは、吸気行程、圧縮行程、膨張行程、排気行程の4行程を1サイクルとし、クランク軸11が720°回転すると1サイクルを終了する。吸気行程では、吸気バルブが開いた状態で、シリンダ10a内のピストンが下死点(BDC)へ下がり、シリンダ10a内へ空気を吸い込む。圧縮行程では、吸気バルブが閉じた状態で、ピストンがBDCから上死点(TDC)へ上がり、シリンダ10a内の燃料と空気の混合気が圧縮される。この際、気体の圧縮反力により、エンジン10のクランク軸11の回転方向とは反対方向のトルクが、エンジン10のクランク軸11に作用する。燃料の燃焼に伴うクランク軸11の回転方向を正回転方向とすると、クランク軸11が正回転方向に回転している場合には、圧縮反力により負トルクがクランク軸11に作用する。この圧縮反力によるトルクは、ピストンがTDCに到達する前にピークとなり、その後TDC付近でゼロに近づく。
【0021】
膨張行程では、燃焼気体が膨張してピストンがTDCからBDCへ押し下げられる。この際、気体の膨張力により、エンジン10のクランク軸11の回転方向と同じ方向のトルクが、エンジン10のクランク軸11に作用する。すなわち、クランク軸11が正回転方向に回転している場合には、膨張力により正トルクがクランク軸11に作用する。この膨張力によるトルクは、ピストンがBDCへ近づくにつれて小さくなる。排気行程では、排気バルブが開いた状態で、ピストンがBDCから上がり、燃焼気体をシリンダ10a外へ押し出す。
【0022】
シリンダ10a(#1)〜(#4)は、#1→#3→#4→#2の順に、シリンダ10a内の混合気が点火される。例えば、シリンダ10a(#1)が圧縮行程のときは、シリンダ10a(#3)が吸気行程、シリンダ10a(#4)が排気行程、シリンダ10a(#2)が膨張行程となる。クランク軸11には、圧縮行程におけるシリンダ10aで発生したトルクと、膨張行程におけるシリンダ10aで発生したトルクの合計トルクが作用する。各シリンダ10a内の空気の圧縮及び膨張に伴い、エンジン10のクランク軸11に作用するトルクを図示トルクと称する。ここでは、燃料の燃焼により発生したトルクだけでなく、燃料の燃焼停止中に慣性によりクランク軸11が回転している場合において、各シリンダ10a内の空気の圧縮及び膨張に伴い、エンジン10のクランク軸11に作用するトルクも図示トルクと称する。
【0023】
図2に、燃焼がない状態でエンジン10が一定の回転速度Neで運転している場合における図示トルクを示す。図2では、クランク角度0°から180°の範囲では、例えば、シリンダ10a(#1)が膨張行程、シリンダ10a(#3)が圧縮行程となっている。クランク角度0°から約90°の範囲では、シリンダ10a(#1)で発生する膨張に伴う正トルクが、シリンダ10a(#3)で発生する圧縮に伴う負トルクよりも大きいため、クランク軸11には正トルクが作用する。その後、シリンダ10a(#1)における正トルクと、シリンダ10a(#3)における負トルクとが釣り合う。
【0024】
さらに、クランク角度が約90°〜180°の範囲では、シリンダ10a(#1)における正トルクよりも、シリンダ10a(#3)における負トルクの方が大きくなり、クランク軸11には負トルクが作用する。そして、クランク角度が180°となると、シリンダ10a(#1)のピストンはBDC、シリンダ10a(#3)のピストンはTDCの位置となる。このように、シリンダ10a内の気体によりクランク軸11に作用する図示トルクは、正の値と負の値を交互に繰り返す。
【0025】
エンジン10は、自動停止処理が開始されても直ちに停止するわけではなく、慣性により正回転方向に回転を続ける。そして、エンジン10は、あるシリンダ10aのピストンが圧縮行程のTDCを乗り越えられなくなると、ピストンが押し戻されて逆回転方向に回転を始める。さらに、エンジン10は、逆回転方向の回転において、正回転方向時に膨張行程であったシリンダ10aのピストンがTDCを乗り越えられなくなると、正回転方向に回転方向を変える。エンジン10は、回転方向の変化を繰り返して完全に停止する。エンジン10の停止過程中において始動条件が成立した場合には、エンジン10が完全に停止してからクランキングを開始することも考えられるが、エンジン10が完全に停止するまで待つとエンジン10の始動が遅くなる。よって、ECU50は、エンジン10の停止過程中において始動条件が成立した場合には、エンジン10が完全に停止するまで待つことなくクランキングを開始する。
【0026】
MG20でエンジン10をクランキングする場合、クランク軸11には図示トルクとMGトルクと摩擦等との合成トルクが作用する。以下では、摩擦等を省略して、合成トルクを、図示トルクとMGトルクとを合成したトルクとする。本実実施形態に係るMG20は、小型のアシストモータであり、MGトルクは、シリンダ10a内の圧縮反力によるトルクに対して十分に大きくない。詳しくは、MG20は、MGトルクの最大値が図示トルクの最大値よりも小さいモータである。
【0027】
エンジン10の停止過程中において始動条件が成立した際に、エンジン10の回転速度Neが所定速度以上の場合には、図示トルクの作用方向に関わらず、始動条件の成立と同時に正回転方向のクランキングを開始すると、回転速度Neは速やかに上昇する。一方、回転速度Neが所定速度よりも低下している場合には、図示トルクが負方向となっていると、正方向の合成トルクが不足するおそれがある。正方向の合成トルクが不足すると、シリンダ10a内の空気の圧縮に比較的長い時間を要したり、負方向の図示トルクとMGトルクとが釣り合ってクランク軸11が静止したりして、エンジン10の始動を迅速にできないおそれがある。すなわち、クランキングの開始から、エンジン10がMG20の力を借りることなく自立回転するようになるまでの始動時間が長くなったり、始動できなかったりするおそれがある。そこで、ECU50は、エンジン10の停止過程中において始動条件が成立した際に、回転速度Neが所定速度よりも低い場合には、図示トルクの作用方向が正方向であることを条件として、MG20による正回転方向のクランキングを開始する。
【0028】
詳しくは、ECU50は、CPUがROMに記憶されているプログラムを実行することにより、速度算出部、方向判定部、トルク判定部、待機部、及び開始部の各機能を実現する。
【0029】
速度算出部は、クランク角センサ51により検出されたクランク角度から、クランク軸11の回転速度すなわちエンジン10の回転速度Neを算出する。詳しくは、速度算出部は、回転速度Neを、正回転方向を正の値且つ逆回転方向を負の値として算出する。クランク角センサ51は、正回転方向と逆回転方向のどちらの場合でも、クランク角度を検出できるセンサを用いると、逆回転方向の回転速度Neが算出される。
【0030】
方向判定部は、図示トルクの作用方向を判定する。具体的には、クランク角センサ51により検出されたクランク角度に基づいて、図示トルクの作用方向を判定する。クランク角度とエンジン10の行程とは対応し、エンジン10の行程と図示トルクの作用方向とは対応する。よって、図2に示すような、クランク角度と図示トルクとの作用方向との対応関係を予め用意しておき、方向判定部は、予め用意しておいた対応関係を用いて、図示トルクの作用方向を判定する。
【0031】
あるいは、方向判定部は、クランク軸11の角加速度に基づいて、作用方向を判定してもよい。この場合、ECU50は、速度算出部により算出された回転速度Neから、クランク軸11の角加速度を算出する角加速度算出部の機能を備える。一般に、トルクは回転軸の角加速度に比例し、トルクが正回転方向であれば、角加速度も正回転方向に加速する値となる。よって、方向判定部は、算出されたクランク軸11の角加速度が正回転方向の加速度であれば、図示トルクの作用方向を正方向、角加速度が逆回転方向の加速度であれば、図示トルクの作用方向を負方向と判定する。
【0032】
トルク判定部は、クランク角センサ51により検出されたクランク角度に基づいて、図示トルクの大きさを判定する。詳しくは、図2に示すような、クランク角度と図示トルクの作用方向及び大きさとの対応関係を予め用意しておき、トルク判定部は、予め用意しておいた対応関係を用いて図示トルクの大きさを判定する。あるいは、上述したように、クランク角度に基づいて算出されたクランク軸11の角加速度は、図示トルクに比例するため、トルク判定部は、クランク軸11の角加速度から図示トルクの大きさを判定してもよい。
【0033】
待機部は、エンジン10の停止過程中において始動条件が成立した際に、回転速度Neが所定速度よりも低く、且つ、判定された図示トルクの作用方向が負方向の場合には、判定された図示トルクの作用方向が正方向になるまで、MG20による正回転方向のクランキングの開始を待機する。
【0034】
開始部は、エンジン10の停止過程中において始動条件が成立した際に、回転速度Neが所定速度よりも低い場合には、図示トルクの作用方向が正方向であることを条件として、MG20による正回転方向のクランキングを開始する。
【0035】
詳しくは、開始部は、判定された図示トルクの作用方向が正方向で、且つ判定された図示トルクの大きさが所定値よりも大きいことを条件として、MG20による正回転方向のクランキングの開始を待機する。図示トルクが正トルクで、且つ大きさが所定値よりも大きくなってから正回転方向のクランキングを開始することで、エンジン10が確実に始動される。なお、この所定値は、MG20の出力の大きさやエンジン10の出力の大きさによって変化する0以上の値である。所定値は実験等により予め設定しておく。
【0036】
次に、始動条件が成立した場合に、エンジン10を始動させる処理手順について、図3のフローチャートを参照して説明する。本処理手順は、エンジン10の始動条件の成立時に、ECU50が実行する。
【0037】
まず、ステップS10では、回転速度Neが所定速度以上か否か判定する。回転速度Neが所定速度以上の場合(ステップS10でYES)、ステップS11において、正のMGトルクを発生させて、クランク軸11に付与する。
【0038】
一方、回転速度Neが所定速度よりも低い場合(ステップS10でNO)、ステップS12において、図示トルクが0以上の値である所定値以下か否か判定する。図示トルクが正の所定値以下の場合は(ステップS12でYES)、ステップS12の処理を繰り返し実行する。一方、図示トルクが所定値よりも大きい場合は(ステップS12でNO)、ステップS11において、正のMGトルクを発生させて、クランク軸11に付与し、クランキングを開始する。以上で本処理を終了する。
【0039】
図4に、エンジン10の停止過程中で、且つ図示トルクが負の方向のときに、エンジン10の始動条件が成立した場合における、(a)エンジン10の回転速度Ne、(b)MGトルク、(c)図示トルクのタイムチャートを示す。図4(a)〜(c)において、始動条件が成立する前における回転速度Ne及び図示トルクを二点鎖線で示す。また、始動条件成立後における本実施形態に係る回転速度Ne、MGトルク、及び図示トルクを実線で示す。また、始動条件成立と同時に正方向のMGトルクを付与した場合に係る回転速度Ne、MGトルク、及び図示トルクを破線で示す。さらに、始動条件成立後にMGトルクを付与しない場合に係る回転速度Ne、MGトルク、及び図示トルクを一点鎖線で示す。
【0040】
図4(a)〜(c)に一点鎖線で示すように、エンジン10の停止過程中に始動条件が成立してもMGトルクを付与しない場合、本実施形態においてMGトルクを付与するまでの間と同様に、回転速度Neが低下し続けて0となった後、エンジン10は逆方向に回転している。そして、エンジン10は、回転方向の変化を繰り返した後に停止している。また、エンジン10の始動条件成立と同時に正方向のMGトルクを付与した場合は、負の図示トルクに対して正のMGトルクが十分に大きくないため、MGトルクと図示トルクとが釣り合い、エンジン10は回転を停止している。すなわち、正方向の合成トルクが不足して、エンジン10の始動ができていない。このように、正方向の合成トルクが不足した場合、エンジン10の始動ができたとしても、始動に時間がかかる。
【0041】
これに対して、本実施形態の場合、図示トルクが所定値よりも大きくなった時に、正のMGトルクをクランク軸11に付与しているため、正方向の図示トルクが十分に大きくなり、エンジン10が速やかに始動している。
【0042】
なお、エンジン10の始動条件の成立時に図示トルクが正の所定値よりも大きい場合は、始動条件の成立と同時に、正のMGトルクを付与してクランキングを開始すれば、速やかにエンジン10を始動できる。
【0043】
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0044】
・図示トルクの作用方向が正方向であることを条件として、正回転方向のクランキングを開始するため、正方向の合成トルクが十分に大きくなり、クランキング開始から始動完了までの始動時間を短縮できる。また、エンジン10が逆回転方向に回転している際に、図示トルクが負方向から正方向へ反転するタイミングは、エンジン10の回転方向が逆回転方向から正回転方向へ反転するタイミングよりも早い。そのため、エンジン10の回転方向が正回転方向へ反転するまで待ってからクランキングを開始するよりも、早くクランキングを開始できる。したがって、始動条件成立後に、エンジン10を迅速に始動することができる。
【0045】
・エンジン10の停止過程中に始動条件が成立した際に、図示トルクの作用方向が負方向の場合には、正方向になるまで待ってから正回転方向のクランキングを開始することにより、図示トルクを大きくして、エンジン10を迅速に始動することができる。
【0046】
・図示トルクが所定値よりも大きいことを条件として、正回転方向のクランキングを開始することにより、エンジン10を確実に始動することができる。
【0047】
・クランク角度とエンジン10の行程とは対応し、エンジン10の行程と図示トルクの作用方向及び図示トルクの大きさとは対応するため、クランク角の角度に基づいて、図示トルクの作用方向及び大きさを判定することができる。
【0048】
・クランク軸11の角加速度は図示トルクに比例するため、クランク軸11の角加速度に基づいて、図示トルクの作用方向及び図示トルクの大きさを判定することができる。
【0049】
・MGトルクが図示トルクに対して十分に大きくない小型のMG20をクランキングに用いる場合には、図示トルクが正方向の所定値よりも大きくなるまでクランキングの開始を待ち、正方向の合成トルクを大きくすることは特に有効である。
【0050】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係るECU50によるエンジン10の自動始動処理について、第1実施形態と異なる点について説明する。
【0051】
第2実施形態に係るECU50は、始動条件成立時の図示トルクが負方向の場合に、図示トルクが0以上の所定値を超えるタイミングを早くするため、逆回転部の機能を備える。詳しくは、逆回転部は、エンジン10の停止過程中において始動条件が成立した際に、回転速度Neが所定速度よりも低く、且つ判定された図示トルクの作用方向が負方向の場合に、MG20によりエンジン10を逆回転方向に所定時間クランキングさせる。
【0052】
エンジン10の停止過程中の始動条件成立時に、エンジン10が正回転しており、且つ図示トルクが負方向の場合には、負のMGトルクをクランク軸11に付与することで、正回転方向の回転速度Neの減速が促進され、正回転から逆回転へ反転するタイミングが早くなる。ひいては、図示トルクの作用方向が負方向から正方向へ反転し、所定値よりも大きくなるタイミングが早くなる。エンジン10の回転方向が正回転方向から逆回転方向に反転すると、正回転時に圧縮行程であったピストンが膨張行程となる。そして、逆回転時に膨張行程となったピストンが圧縮行程に移行し、圧縮反力が大きくなると、図示トルクが負方向から正方向へ反転する。逆回転部は、MG20の負トルクをクランク軸11に付与することで、図示トルクが負方向から正方向へ反転するタイミングを早くする。
【0053】
また、エンジン10の停止過程中の始動条件成立時に、エンジン10が逆回転しており、且つ図示トルクが負方向の場合には、負のMGトルクをクランク軸11に付与することで、回転速度Neの減速が促進される、すなわち、エンジン10の逆回転方向の回転速度Neが上昇する。これにより、逆回転時に膨張行程であったピストンが圧縮行程に移行し、圧縮反力が大きくなるタイミングが早くなるため、図示トルクが負方向から正方向へ反転し、所定値よりも大きくなるタイミングが早くなる。
【0054】
開始部は、第1実施形態と同様に、エンジン10の停止過程中において始動条件が成立した際に、回転速度Neが所定速度よりも低い場合には、図示トルクの作用方向が正方向で、且つ所定値よりも大きいことを条件として、MG20による正回転方向のクランキングを開始する。逆回転部により、図示トルクが所定値よりも大きくなるタイミングが早くなると、MG20による正回転方向のクランキングの開始タイミングが早くなるため、エンジン10の始動が更に早くなる。
【0055】
なお、本実施形態において、所定時間は、始動条件が成立してから図示トルクが所定値よりも大きくなるまでの時間とする。すなわち、本実施形態では、始動条件の成立と同時に負のMGトルクを発生させ、図示トルクが所定値よりも大きくなった時点で、MGトルクを負トルクから正トルクに切り替える。
【0056】
次に、始動条件が成立した場合に、エンジン10を始動させる処理手順について、図5のフローチャートを参照して説明する。本処理手順は、エンジン10の始動条件の成立時に、ECU50が実行する。
【0057】
まず、ステップS20では、回転速度Neが所定速度以上か否か判定する。回転速度Neが所定速度以上の場合(ステップS20でYES)、ステップS21において、正のMGトルクを発生させて、クランク軸11に付与する。
【0058】
一方、回転速度Neが所定速度よりも低い場合(ステップS20でNO)、ステップS22において、図示トルクが0以上の値である所定値よりも小さいか否か判定する。図示トルクが所定値以下の場合は(ステップS22でYES)、ステップS23において、負のMGトルクを発生させて、負のMGトルクをクランク軸11に付与した後、ステップS22の処理に戻る。
【0059】
一方、ステップS22の判定において、図示トルクが所定値よりも大きい場合は(ステップS12でNO)、ステップS11において、正のMGトルクを発生させて、正のMGトルクをクランク軸11に付与し、正回転方向のクランキングを開始する。以上で本処理を終了する。
【0060】
図6に、エンジン10の停止過程中で、且つ図示トルクが負の方向のときに、エンジン10の始動条件が成立した場合における、(a)エンジン10の回転速度Ne、(b)MGトルク、(c)図示トルクのタイムチャートを示す。図6(a)〜(c)において、始動条件が成立する前における回転速度Ne及び図示トルクを二点鎖線で示す。また、始動条件成立後における第2実施形態及び第1実施形態に係る回転速度Ne、MGトルク、及び図示トルクを、それぞれ実線と破線で示す。
【0061】
図6(a)〜(c)に示すように、第2実施形態は、エンジン10の始動条件の成立と同時に負のMGトルクをクランク軸11に付与しているため、第1実施形態よりも回転速度Neの減速が促進され、回転速度Neが急激に落ち込んでいる。これに伴い、第2実施形態は、第1実施形態よりも、図示トルクが負方向から正方向に反転するタイミング、ひいては、図示トルクが所定値よりも大きくなるタイミングが早くなっている。その結果、第2実施形態は、第1実施形態よりも、始動条件成立後にエンジン10が迅速に始動している。
【0062】
なお、エンジン10の始動条件の成立時に、図示トルクの作用方向が正方向の場合には、負のMGトルクをクランク軸11に付与することなく、図示トルクが所定値よりも大きくなったタイミングで、正のMGトルクをクランク軸11に付与すればよい。
【0063】
以上説明した第2実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏するとともに、エンジン10の始動条件成立時に図示トルクの作用方向が負方向の場合には、図示トルクが所定値よりも大きくなるタイミングを早くして、更にエンジン10の始動を迅速に行うことができる。
【0064】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態に係るECU50によるエンジン10の自動始動処理について、第2実施形態と異なる点について説明する。
【0065】
第2実施形態では、エンジン10の停止過程中の始動条件の成立時に、図示トルクの作用方向が負方向の場合に、負のMGトルクをクランク軸11に付与し、図示トルクが所定値よりも大きくなった時点で、負のMGトルクを正のMGトルクに切り替えていた。
【0066】
第3実施形態では、第2実施形態と同様に、負のMGトルクをクランク軸11に所定時間付与した後、一旦、MGトルクのクランク軸11への付与を停止する。そして、図示トルクが所定値よりも大きくなった時点で、正のMGトルクのクランク軸11への付与を開始する。すなわち、第3実施形態における負のMGトルクを付与する所定時間は、第2実施形態における負のMGトルクを付与する所定時間よりも短くする。
【0067】
MG20の慣性や応答性により、ECU50からインバータ22への駆動信号の送信タイミングと、それに応じたMGトルクの発生タイミングとのタイムラグが比較的大きい場合には、本実施形態のように、負のMGトルクをクランク軸11へ付与した後、正のMGトルクをクランク軸11へ付与する前に、MGトルクを零にする期間を設けるとよい。駆動信号の送信タイミングとMGトルクの発生タイミングとのタイムラグが比較的小さい場合には、第2実施形態のように、MGトルクを零にする期間を設けなくてもよい。
【0068】
また、補機ベルト33や補機ベルト33のテンショナ、他の補機類等により、MG20によるMGトルクの発生タイミングと、クランク軸11がMGトルクを受けるタイミングとのタイムラグが比較的大きい場合にも、本実施形態のように、MGトルクを零にする期間を設けるとよい。MGトルクの発生タイミングと、MGトルクを受けるタイミングとのタイムラグが比較的小さい場合には、第2実施形態のように、MGトルクを零にする期間を設けなくてもよい。
【0069】
さらに、クランク軸11へ負のMGトルクを比較的長い時間付与することで、回転速度Neが低下しすぎることを回避したい場合には、本実施形態のように、所定時間を短くして、MGトルクを零にする期間を設けるとよい。
【0070】
図7に、図6に対応する(a)エンジン10の回転速度Ne、(b)MGトルク、(c)図示トルクのタイムチャートを示す。図7(a)〜(c)において始動条件成立後における第3実施形態、第2実施形態及び第1実施形態に係る回転速度Ne、MGトルク、及び図示トルクを、それぞれ一点鎖線、実線、破線で示す。
【0071】
図7(a)〜(c)に示すように、第3実施形態は、第2実施形態よりも回転速度Neの落ち込みは少ないが、その分、第2実施形態よりも正のMGトルクをクランク軸11に付与するタイミングが遅くなっている。しかしながら、エンジン10の始動条件の成立と同時に負のMGトルクをクランク軸11に付与しているため、第1実施形態よりも回転速度Neの減速が促進され、正のMGトルクをクランク軸11に付与するタイミグは早くなっている。
【0072】
以上説明した第3実施形態によれば、第2実施形態と同様の効果を奏する。さらに、MG20の慣性や応答性により、MGトルクを負から正へ瞬時に切り替えることが困難な場合、MGトルクの発生とクランク軸11への伝達とにタイムラグが大きい場合、回転速度Neの低下しすぎを回避したい場合に、有効である。
【0073】
(他の実施形態)
・エンジン10の始動条件成立時において、判定閾値である所定速度を段階的に複数設定してもよい。例えば、第1所定速度(例えば100rpm)と、第1所定速度よりも高い第2所定速度(例えば800rpm)とを設定する。そして、回転速度Neが第2所定速度以上の場合は、MG20によるクランキングを行わず、燃料の噴射だけで、エンジン10の再始動を行うようにしてもよい。また、回転速度Neが第1所定速度以上且つ第2所定速度未満の場合は、図示トルクを考慮することなく、直ちにMG20による正回転方向のクランキングを開始してもよい。そして、回転速度Neが第1所定速度未満の場合には、各実施形態で示したように、図示トルクを考慮して、MG20による正回転方向のクランキングを開始してもよい。
【0074】
・ステップS12及びステップS22における図示トルクが所定値よりも大きいか否かの判定は、図示トルクを直接用いずに、図示トルクに対応する情報としてエンジン10の回転速度Neを用いて判定してもよい。図2及び図6に示すように、図示トルクが負方向の間、回転速度Neは低下し続ける。逆方向に回転している場合は、図示トルクが負方向の間、逆方向の回転速度Neの大きさが増加し続ける。そして、図示トルクが負方向から正方向に反転すると、回転速度Neは上昇を始める。よって、回転速度Neが第1所定値以下の状態から第2所定値まで上昇したか否かを判定し、回転速度Neが第1所定値以下の状態から第2所定値まで上昇した場合に、図示トルクが所定値よりも大きくなったとしてもよい。第2所定値は、第1所定値よりも大きい値とし、例えば、第1所定値が負の値の場合、第2所定値は、絶対値が第1所定値よりも小さい負の値とする。すなわち、図示トルクが所定値よりも大きいか否かは、クランク角度に基づいた情報により判定すればよい。
【0075】
・エンジン10が完全に停止した状態で始動条件が成立した時に、エンジンオイルの劣化による摩擦の増加や、MG20が本来の性能を発揮できない状況等により、通常のMG20による正回転方向のクランキングでエンジン10の始動が困難と判定される場合に、MG20により逆回転方向に所定時間クランキングさせてもよい。逆回転方向のクランキングにより、エンジン10を逆方向に回転させ、エンジン10の停止時に膨張行程の位置で停止したシリンダ10a内で空気の圧縮が開始させる。そして、シリンダ10a内の空気の圧縮反力により、クランク軸11に正の図示トルクが作用していると判定すると、MG20により正回転方向のクランキングを開始する。このようにすれば、逆回転中に発生する圧縮反力による正の図示トルクと、正のMGトルクとの合成トルクを、クランク軸11に作用させることができるので、エンジン10の始動が困難な場合でもエンジン10の始動を確実に実行することができる。なお、MG20が本来の性能を発揮できない状況は、MG20や、インバータ22、バッテリ23の故障や不調に伴い発生する。
【符号の説明】
【0076】
10…エンジン、10a…シリンダ、20…MG、11…クランク軸、50…ECU。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7