(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第一の取付部材と第二の取付部材が上下に離れて配置されて、それら第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体によって相互に弾性連結された防振装置本体を有していると共に、該防振装置本体に装着されるブラケットが横方向に差し入れられた該第二の取付部材に固定されているブラケット付き防振装置において、
前記第二の取付部材にガイド部が設けられていると共に、前記ブラケットには該第二の取付部材の該ブラケットへの差入れ方向に延びるガイド溝が設けられており、該ガイド部が該ガイド溝に挿入されて上下方向で位置決めされていると共に、
該防振装置本体の上下の少なくとも一方の端面に重ね合わされる圧縮壁面が前記ブラケットに設けられており、該圧縮壁面に対して上下反対側に位置する該ガイド溝の溝幅内面が該圧縮壁面に対して相対的に傾斜して該第二の取付部材の該ブラケットへの差入れ方向に向けてそれらガイド溝の溝幅内面と圧縮壁面が上下方向で相互に接近していることを特徴とするブラケット付き防振装置。
前記ガイド溝の溝幅内面が前記第二の取付部材の前記ブラケットへの差入れ方向に対して傾斜する傾斜面とされて差入れ方向に向けて上下反対側に位置する前記圧縮壁面に接近していると共に、前記ガイド部における該ガイド溝の溝幅内面と対応する面が該ガイド溝の溝幅内面と同じ方向に傾斜する傾斜面とされている請求項1に記載のブラケット付き防振装置。
前記第二の取付部材における前記ガイド部には差入れ方向に突出するかしめピンが設けられていると共に、前記ブラケットにおける前記ガイド溝の差入れ方向先端壁部には該かしめピンに対応するかしめ孔が設けられており、該かしめピンが該かしめ孔に挿通された状態で該かしめピンの先端部が該かしめ孔の開口周縁部にかしめ固定されている請求項1〜3の何れか一項に記載のブラケット付き防振装置。
前記防振装置本体が壁部の一部を前記本体ゴム弾性体で構成されて非圧縮性流体を封入された流体室を備えていると共に、該防振装置本体が前記第二の取付部材に対して前記第一の取付部材と上下反対側に配された圧縮部材を備えている一方、
前記ブラケットの前記ガイド溝における該第一の取付部材側の溝幅内面が該第二の取付部材の該ブラケットへの差入れ方向に対して傾斜する傾斜面とされているとともに該圧縮部材側の前記圧縮壁面が差入れ方向に広がってそれらガイド溝の溝幅内面と圧縮壁面が差入れ方向に向けて相互に接近しており、
該防振装置本体の下方の前記端面とされた該圧縮部材の下端面が該圧縮壁面に当接した状態で該防振装置本体に該ブラケットが装着されることにより該第二の取付部材と該圧縮部材の間に配された封止体が該第二の取付部材と該圧縮部材の間で挟み込まれて該流体室のシール構造を構成している請求項1〜4の何れか一項に記載のブラケット付き防振装置。
前記ブラケットにおける前記第一の取付部材側の前記圧縮壁面が前記第二の取付部材の該ブラケットへの差入れ方向に対して傾斜する傾斜面とされて、該第一の取付部材とは反対側の前記ガイド溝の溝幅内面に対して該第二の取付部材の前記ブラケットへの差入れ方向に向けて相互に接近していると共に、前記防振装置本体の該第一の取付部材側の端面となる上方の前記端面が該圧縮壁面に当接して前記本体ゴム弾性体が上下方向に予圧縮された状態で該防振装置本体に該ブラケットが装着されている請求項1〜5の何れか一項に記載のブラケット付き防振装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、本体ゴム弾性体に対する予圧縮や流体封入構造における流体室の封止に必要な上下方向の力を簡単に且つ精度よく及ぼして、目的とする性能を実現することができる、新規な構造のブラケット付き防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0010】
すなわち、本発明の第一の態様は、第一の取付部材と第二の取付部材が上下に離れて配置されて、それら第一の取付部材と第二の取付部材が本体ゴム弾性体によって相互に弾性連結された防振装置本体を有していると共に、該防振装置本体に装着されるブラケットが横方向に差し入れられた該第二の取付部材に固定されているブラケット付き防振装置において、前記第二の取付部材にガイド部が設けられていると共に、前記ブラケットには該第二の取付部材の該ブラケットへの差入れ方向に延びるガイド溝が設けられており、該ガイド部が該ガイド溝に挿入されて上下方向で位置決めされていると共に、該防振装置本体の上下の少なくとも一方の端面に重ね合わされる圧縮壁面が前記ブラケットに設けられており、該圧縮壁面に対して上下反対側に位置する該ガイド溝の溝幅内面が該圧縮壁面に対して相対的に傾斜して該第二の取付部材の該ブラケットへの差入れ方向に向けてそれらガイド溝の溝幅内面と圧縮壁面が上下方向で相互に接近していることを、特徴とする。
【0011】
本発明の第一の態様に従う構造とされたブラケット付き防振装置によれば、ブラケットにおける圧縮壁面とガイド溝の溝幅内面が、防振装置本体のブラケットに対する差入れ方向に向けて相互に接近していることから、防振装置本体をブラケットに差し入れるに従って、防振装置本体が圧縮壁面とガイド溝の溝幅内面との間で上下に圧縮されるようになっている。これにより、防振装置本体に上下方向の圧縮が必要とされる場合に、ブラケット装着前の防振装置本体に対して予め圧縮作業を行う必要がなくなる。しかも、圧縮壁面とガイド溝の溝幅内面が離れた側から防振装置本体をブラケットに差し入れることから、防振装置本体に上下方向の圧縮力を及ぼしながら防振装置本体をブラケットに差し入れる必要もない。
【0012】
さらに、第二の取付部材のガイド部がブラケットのガイド溝に差し入れられて上下に係合されることから、ブラケットにおける圧縮壁面とガイド溝の溝幅内面との間で防振装置本体を上下に圧縮する際に、第二の取付部材のブラケットに対する上下変位が防止されている。これにより、防振装置本体における第二の取付部材を挟んだ上下各側において、目的とする上下方向の圧縮力をそれぞれ独立して作用させることができる。
【0013】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載されたブラケット付き防振装置において、前記ガイド溝の溝幅内面が前記第二の取付部材の前記ブラケットへの差入れ方向に対して傾斜する傾斜面とされて差入れ方向に向けて上下反対側に位置する前記圧縮壁面に接近していると共に、前記ガイド部における該ガイド溝の溝幅内面と対応する面が該ガイド溝の溝幅内面と同じ方向に傾斜する傾斜面とされているものである。
【0014】
第二の態様によれば、ガイド溝の溝幅内面とガイド部の対応する面が当接するブラケットの装着状態において、防振装置本体とブラケットのがたつきが防止されると共に、ガイド部のガイド溝からの抜けが防止され易くなる。また、防振装置本体のブラケットへの差入れに際して、ガイド部がガイド溝の傾斜面に面当たりすることにより、防振装置本体とブラケットがより安定した状態で案内されて差し入れられる。
【0015】
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載されたブラケット付き防振装置において、前記ガイド部の表面に被覆ゴムが固着されているものである。
【0016】
第三の態様によれば、ガイド部をガイド溝に圧入してガイド部をガイド溝から抜け難くすることにより、防振装置本体のブラケットからの抜けを防止することができる。特に、強度や寸法精度などの理由からガイド部をガイド溝に直接圧入固定することが難しい場合にも、ガイド部とガイド溝の間に被覆ゴムを介在させることにより、ガイド部のガイド溝への圧入が可能となる。
【0017】
本発明の第四の態様は、第一〜第三の何れか一つの態様に記載されたブラケット付き防振装置において、前記第二の取付部材における前記ガイド部には差入れ方向に突出するかしめピンが設けられていると共に、前記ブラケットにおける前記ガイド溝の差入れ方向先端壁部には該かしめピンに対応するかしめ孔が設けられており、該かしめピンが該かしめ孔に挿通された状態で該かしめピンの先端部が該かしめ孔の開口周縁部にかしめ固定されているものである。
【0018】
第四の態様によれば、かしめピンがかしめ孔の開口周縁部に係合されることによって、ガイド部がガイド溝から抜けるのを防止して、防振装置本体に対するブラケットの装着状態を高い信頼性をもって維持することができる。また、かしめピンをかしめ孔に挿入してかしめ固定した構造であることから、圧入に比してかしめピンをかしめ孔に挿通し易く、挿入時にかしめピンやかしめ孔の周縁部が損傷し難く、寸法誤差による組付け不良も生じ難い。
【0019】
本発明の第五の態様は、第一〜第四の何れか一つの態様に記載されたブラケット付き防振装置において、前記防振装置本体が壁部の一部を前記本体ゴム弾性体で構成されて非圧縮性流体を封入された流体室を備えていると共に、該防振装置本体が前記第二の取付部材に対して前記第一の取付部材と上下反対側に配された圧縮部材を備えている一方、前記ブラケットの前記ガイド溝における該第一の取付部材側の溝幅内面が該第二の取付部材の該ブラケットへの差入れ方向に対して傾斜する傾斜面とされているとともに該圧縮部材側の前記圧縮壁面が差入れ方向に広がってそれらガイド溝の溝幅内面と圧縮壁面が差入れ方向に向けて相互に接近しており、該防振装置本体の
下方の前
記端面とされた該圧縮部材の下端面が該圧縮壁面に当接した状態で該防振装置本体に該ブラケットが装着されることにより該第二の取付部材と該圧縮部材の間に配された封止体が該第二の取付部材と該圧縮部材の間で挟み込まれて該流体室のシール構造を構成しているものである。
【0020】
第五の態様によれば、防振装置本体をブラケットへ横方向で差し入れることによって、第二の取付部材と圧縮部材の間で封止体に上下方向の圧縮力を作用させることができて、封止工程(封止体の上下圧縮工程)を特別に設けることなく、流体室の流体密性を確保することができる。しかも、圧縮力を及ぼすブラケットに対して第二の取付部材が上下方向で位置決めされていることから、圧縮力が本体ゴム弾性体の弾性変形などで吸収されることなく、封止体に効率的に及ぼされて、目的とするシール性能を安定して得ることができる。
【0021】
本発明の第六の態様は、第一〜第五の何れか一つの態様に記載されたブラケット付き防振装置において、前記ブラケットにおける前記第一の取付部材側の前記圧縮壁面が前記第二の取付部材の該ブラケットへの差入れ方向に対して傾斜する傾斜面とされて、該第一の取付部材とは反対側の前記ガイド溝の溝幅内面に対して該第二の取付部材の前記ブラケットへの差入れ方向に向けて相互に接近していると共に、前記防振装置本体の該第一の取付部材側の端面となる
上方の前
記端面が該圧縮壁面に当接して前記本体ゴム弾性体が上下方向に予圧縮された状態で該防振装置本体に該ブラケットが装着されているものである。
【0022】
第六の態様によれば、防振装置本体をブラケットへ横方向で差し入れることによって、本体ゴム弾性体に対して上下方向の予圧縮が施されることから、本体ゴム弾性体の予圧縮工程を特別に設けることなく、予圧縮による本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。更に、第二の取付部材が圧縮力を及ぼすブラケットに対して上下方向で位置決めされていることから、圧縮力が封止体などの他の弾性体の変形によって吸収されるのを防いで、目的とする予圧縮を安定して実現することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、防振装置本体をブラケットに対して横方向に差し入れて装着することにより、防振装置本体に対する上下方向の圧縮力をブラケットによって及ぼすことができる。また、第二の取付部材のガイド部がブラケットのガイド溝に差し入れられて、第二の取付部材がブラケットに対して上下方向で相対的に位置決めされていることから、第二の取付部材の上下両側において圧縮力をそれぞれ独立して及ぼすことができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0026】
図1,2には、本発明に従う構造とされた防振装置の第一の実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、
図3,4に示す防振装置本体としてのマウント本体12に対して、
図5,6に示すブラケット14が装着された構造とされている。なお、本実施形態において、上下方向とは、主たる振動入力方向であり、車両への装着状態で略鉛直上下方向となる
図1中の上下方向を言う。更に、左右方向とは車両への装着状態で略車両左右方向となる
図2中の左右方向を、前後方向とは車両への装着状態で略車両前後方向となる
図1中の左右方向を、それぞれ言う。
【0027】
より詳細には、マウント本体12は、
図2,4に示すように、第一の取付部材16と第二の取付部材18が上下に離れて配置されていると共に、それら第一の取付部材16と第二の取付部材18が本体ゴム弾性体20によって相互に弾性連結された構造を有している。なお、
図3では、マウント本体12が斜視で示されているが、分かり易さのために、後述するカップ部材44が第二の取付部材18に取り付けられる前の状態とされている。
【0028】
第一の取付部材16は、金属や合成樹脂などで形成された硬質の部材であって、
図2,4に示すように、左右に延びる略角丸四角筒状の筒状部22と、筒状部22の下壁部の中央部分に一体形成されたカップ状の内固着部24とを、備えている。筒状部22と内固着部24はプレス加工によって一体形成されて、内固着部24の上端が筒状部22の下壁部と連続しており、内固着部24が筒状部22の内周空間へ向けて開口している。なお、筒状部22の上壁部の中央と内固着部24の中央には、それぞれ上下に貫通する円形の孔が形成されている。
【0029】
第二の取付部材18は、第一の取付部材16と同様の硬質部材であって、円環状の外固着部26と、外固着部26から下方へ向けて延び出す筒状の連結部28とを、一体で備えている。また、第二の取付部材18には、外固着部26から前後外方へ突出する一対のガイド部30,30が一体形成されている。このガイド部30は、後述するガイド溝80と対応する断面形状で左右方向に延びており、上面が右方へ行くに従って水平面に対して次第に下傾する傾斜面とされていると共に、下面が水平面に対して非傾斜の平面とされて、右方へ行くに従って上下寸法が小さくなっている。更に、ガイド部30には、右方へ向けて突出するかしめピン32が一体形成されている。
【0030】
第一の取付部材16と第二の取付部材18は、略同一中心軸上で上下に離れて配置されて、それら第一の取付部材16と第二の取付部材18が本体ゴム弾性体20によって相互に弾性連結されている。本体ゴム弾性体20は、厚肉大径の略円錐台形状とされており、本体ゴム弾性体20の小径側端部が第一の取付部材16の内固着部24に加硫接着されていると共に、本体ゴム弾性体20の大径側端部が第二の取付部材18の外固着部26に加硫接着されている。本実施形態では、内固着部24の内周側にも本体ゴム弾性体20が固着されており、内固着部24が本体ゴム弾性体20に対して埋設状態で固着されている。更に、本体ゴム弾性体20の径方向中央部分には、上下に延びる液注入孔33が形成されており、かかる液注入孔33の上端が第一の取付部材16の筒状部22の内周空間に開口していると共に、下端が第一の取付部材16の内固着部24の下壁部を貫通して本体ゴム弾性体20の下面に開口している。なお、本体ゴム弾性体20は、第一の取付部材16と第二の取付部材18を備えた一体加硫成形品として形成されている。
【0031】
さらに、本体ゴム弾性体20には、大径側の端面に開口する略逆向きすり鉢状の大径凹所34が形成されており、これによって本体ゴム弾性体20が縦断面において内固着部24と外固着部26の対向方向に延びるゴム脚を有する形状とされている。なお、本体ゴム弾性体20の液注入孔33の下端は、大径凹所34の上底壁面に開口している。
【0032】
さらに、本実施形態において、第一の取付部材16の筒状部22は、内周面が本体ゴム弾性体20と一体形成された嵌着ゴム層36で覆われていると共に、外周面が本体ゴム弾性体20と一体形成された緩衝ゴム層38で覆われている。更にまた、第二の取付部材18は、連結部28が本体ゴム弾性体20と一体形成され
て封止体を構成するシールゴム40によって覆われていると共に、ガイド部30の上下および前後の表面が本体ゴム弾性体20と一体形成された被覆ゴム42によって覆われている。なお、筒状部22の上面に固着された緩衝ゴム層38の上面(後述するマウント本体12の上端面110)は、左右両外方へ向けて下傾する傾斜面とされている。
【0033】
また、第二の取付部材18には、圧縮部材としてのカップ部材44が取り付けられている。カップ部材44は、合成樹脂などで形成された全体として略有底円筒形状の部材であって、底壁部には上下に貫通する貫通孔46が形成されている。更に、カップ部材44の周壁部は、上下中間部分に段差が設けられて、段差に対して上部が下部よりも大径とされている。そして、カップ部材44は、大径とされた周壁部の上部が第二の取付部材18の連結部28に外嵌されることにより、第二の取付部材18に取り付けられており、第二の取付部材18に対して第一の取付部材16とは反対側(下側)に配置されている。なお、カップ部材44の周壁部の上端部には、外周へ突出する補強部47が全周に亘って一体形成されており、カップ部材44の形状の安定化が図られている。
【0034】
また、第二の取付部材18およびカップ部材44には、可撓性膜48と仕切部材50が取り付けられている。可撓性膜48は、ゴム等のエラストマで形成されており、全体として薄肉の略円板形状とされていると共に、上下の弛みを有している。そして、可撓性膜48は、外周端部に設けられ
て封止体を構成する外周封止部49がカップ部材44の底壁部と後述する仕切部材50の間で上下に挟まれることにより、第二の取付部材18およびカップ部材44に取り付けられて、カップ部材44の貫通孔46を流体密に閉塞している。これにより、本体ゴム弾性体20と可撓性膜48の間には、壁部の一部が本体ゴム弾性体20で構成されているとともに他の一部が可撓性膜48で構成された流体室52が画成されており、この流体室52には非圧縮性流体が封入されている。流体室52に封入される非圧縮性流体は、特に限定されるものではないが、例えば水やエチレングリコール、アルキレングリコール、ポリアルキレングリコール、シリコーン油、或いはそれらの混合液などが好適に採用される。更に、流体室52に封入される非圧縮性流体は、後述するオリフィス通路76などによる防振効果を有利に得るために、0.1Pa・s以下の低粘性流体であることが望ましい。
【0035】
仕切部材50は、全体として略円板形状を有しており、上仕切部材54と下仕切部材56の間に可動膜58を配した構造とされている。上仕切部材54は、金属や合成樹脂で形成された硬質の部材であって、中央部分に上方へ向けて開口する円形の中央凹所60を備えていると共に、外周端部には外周面に開口しながら一周に満たない長さで周方向に延びる上周溝62を備えている。一方、下仕切部材56は、上仕切部材54と同様の硬質部材であって、中央部分に上方へ向けて開口する円形の収容凹所64を備えていると共に、外周部分には上面に開口しながら一周に満たない長さで周方向に延びる下周溝66を備えている。なお、下仕切部材56が上仕切部材54よりも大径とされており、後述する上仕切部材54と下仕切部材56が上下に重ね合わされた状態において、下周溝66と上周溝62が径方向で略同じ位置に形成されていると共に、下仕切部材56の外周端部が
上周溝6
2よりも外周まで至っている。
【0036】
そして、上仕切部材54と下仕切部材56が上下に重ね合わされており、収容凹所64の開口部が上仕切部材54で覆われて形成された収容空所に可動膜58が配されている。可動膜58は、ゴム等のエラストマで形成された略円板状の部材であって、外周端部には厚さ方向両側へ突出して周方向環状に延びる挟持部が形成されていると共に、内周部分には厚さ方向両側へ突出して放射状に延びるリブが一体形成されている。この可動膜58は、下仕切部材56の収容凹所64に配されており、上下に重ね合わされた上仕切部材54と下仕切部材56の間に配設されている。更に、上仕切部材54における中央凹所60の底壁部に貫通形成された上透孔68と、
下仕切部材5
6における収容凹所64の底壁部に貫通形成された下透孔70とによって、可動膜58が上下の仕切部材54,56の外側に露出している。
【0037】
このような構造とされた仕切部材50は、流体室52に配設されている。より具体的には、上仕切部材54が第二の取付部材18の連結部28に挿入されると共に、下仕切部材56がカップ部材44の周壁部の下部に挿入されて、それら上下の仕切部材54,56が第二の取付部材18とカップ部材44の上下間に配設されている。また、下仕切部材56は、外周部分が可撓性膜48の外周封止部49に重ね合わされており、外周封止部49が下仕切部材56とカップ部材44の底壁部との上下間で挟持されている。
【0038】
さらに、仕切部材50が流体室52に配設されることにより、流体室52が仕切部材50を挟んで上下に二分されており、仕切部材50の上方に壁部の一部を本体ゴム弾性体20で構成された受圧室72が形成されていると共に、仕切部材50の下方に壁部の一部を可撓性膜48で構成された平衡室74が形成されている。
【0039】
更にまた、上仕切部材54の上周溝62が第二の取付部材18の連結部28によって覆われていると共に、下仕切部材56の下周溝66が上仕切部材54によって覆われて、更に上周溝62と下周溝66が周方向端部で相互に連通されており、二周に満たない長さで周方向に延びるトンネル状の流路が形成されている。これにより、該トンネル状流路の一方の端部が受圧室72に連通されているとともに他方の端部が平衡室74に連通されていることにより、受圧室72と平衡室74を相互に連通するオリフィス通路76が形成されている。なお、オリフィス通路76は、流体室52の壁ばね剛性を考慮しながら通路断面積Aと通路長Lの比A/Lを適宜に設定することにより、通路内を流動する非圧縮性流体の共振周波数(チューニング周波数)が、エンジンシェイクに相当する10Hz程度の低周波数に調節されている。
【0040】
さらに、可動膜58の上面に上透孔68を通じて受圧室72の液圧が及ぼされていると共に、可動膜58の下面に下透孔70を通じて平衡室74の液圧が及ぼされており、可動膜58が受圧室72と平衡室74の液圧差に基づいて上下に弾性変形可能とされている。なお、可動膜58は、オリフィス通路76のチューニング周波数よりも高周波数の振動入力に対して共振状態で変形するように共振周波数が調節されており、本実施形態では可動膜58の共振周波数がアイドリング振動に相当する十数Hz程度にチューニングされている。
【0041】
なお、本実施形態では、本体ゴム弾性体20の一体加硫成形品とカップ部材44と可撓性膜48と仕切部材50とを組み合わせた後で、流体室52に非圧縮性流体を注入する後液注入構造とされている。即ち、上記の各部材を組み合わせた後で、本体ゴム弾性体20の液注入孔33に図示しないノズルが差し入れられて、該ノズルから所定量の非圧縮性流体が流体室52へ注入される。更に、流体室52に対する非圧縮性流体の注入完了後に、液注入孔33に球状の栓部材77が嵌め入れられて液注入孔33が栓部材77で流体密に遮断されることにより、非圧縮性流体が流体室52に封入される。尤も、マウント本体12は、後液注入構造に限定されるものではなく、例えば、上記の各部材の組み合わせ作業を非圧縮性流体で満たされた水槽中で行うことにより、各部材の組付け作業と同時に非圧縮性流体を封入することもできる。
【0042】
かくの如き構造とされたマウント本体12には、ブラケット14が装着される。ブラケット14は、金属や合成樹脂などで形成された高剛性の部材であって、
図5,6に示すように、前後方向で相互に対向して配置された一対の対向壁部78,78を備えている。一対の対向壁部78,78は、対向方向内側へ向けて開口しながら左右に延びるガイド溝80をそれぞれ備えており、このガイド溝80は、第二の取付部材18のガイド部30と略対応する溝形状を有している。更に、本実施形態のガイド溝80では、後述するマウント本体12のブラケット14への差入れ方向である右方へ行くに従って、
図6に示すように前後溝深さ内面82が前後内側へ傾斜する傾斜面とされていると共に、
図7に示すように上溝幅内面84が水平面に対して角度αで下傾する傾斜面とされている。なお、ガイド溝80の下溝幅内面86は
図7に示すように略水平に広がる平面とされており、上溝幅内面84と下溝幅内面86が右方へ行くに従って相互に接近しており、ガイド溝80の溝幅が右方へ行くに従って小さくなっている。
【0043】
また、一対の対向壁部78,78は、上端部が一体形成された上圧縮壁部88によって相互に連続していると共に、下端部が一体形成された下圧縮壁部90によって相互に連続している。上圧縮壁部88と下圧縮壁部90は上下に対向して配置されており、それらの対向面が圧縮壁面としての上圧縮壁面92および下圧縮壁面94とされている。そして、上圧縮壁面92とガイド溝80の下溝幅内面86が相互に上下反対側に配された対向する面とされていると共に、下圧縮壁面94とガイド溝80の上溝幅内面84が相互に上下反対側に配された対向する面とされている。また、上圧縮壁面92が後述するマウント本体12のブラケット14への差入れ方向である右方へ行くに従って水平面に対して角度βで下傾する傾斜面とされていると共に、下圧縮壁面94が略水平に広がる平面とされており、上圧縮壁面92と下溝幅内面86が相対的に傾斜していると共に、下圧縮壁面94と上溝幅内面84が相対的に傾斜している。なお、下圧縮壁部90には、上下に貫通する円形孔95が形成されている。
【0044】
さらに、一対の対向壁部78,78および上下の圧縮壁部88,90の右端には、竪壁部96が一体形成されており、一対の対向壁部78,78と上下の圧縮壁部88,90と竪壁部96とによって囲まれた凹所状の装着空所98が左方へ向けて開口して形成されている。なお、竪壁部96の上部には、左右に貫通する窓部100が形成されており、装着空所98の上部が窓部100を通じて右方へ開口している。更に、竪壁部96の少なくとも下部は、マウント本体12の外周面に対応する湾曲形状とされている。更にまた、竪壁部96におけるガイド溝80の右端を塞ぐ部分には、第二の取付部材18のかしめピン32に対応する断面形状を有するかしめ孔102が左右に貫通して形成されている。
【0045】
さらに、一対の対向壁部78,78の下端部には、前後外方へ突出する取付片104がそれぞれ形成されている。取付片104は、板状とされて、略上下に貫通するボルト孔106を備えている。更にまた、取付片104の前端部には、取付片104と対向壁部78の間に跨って広がる補強板108が一体形成されており、ブラケット14の変形剛性の向上が図られている。
【0046】
そして、ブラケット14は、マウント本体12に装着されている。即ち、
図8に示すように、マウント本体12がブラケット14の装着空所98へ横方向で差し入れられて、マウント本体12がブラケット14の装着空所98に収容された状態で、マウント本体12にブラケット14が装着されている。更に、マウント本体12の第二の取付部材18に設けられた一対のガイド部30,30が、ブラケット14の一対の対向壁部78,78に設けられた一対のガイド溝80,80に対して横方向で嵌め入れられており、ブラケット14が第二の取付部材18に対して固定的に取り付けられている。本実施形態では、一対のガイド部30,30の表面に被覆ゴム42が設けられていることから、被覆ゴム42の弾性変形によってガイド部30,30とガイド溝80,80の寸法誤差が許容されていると共に、ガイド部30,30がガイド溝80,80から抜け難くなっている。
【0047】
更にまた、一対のガイド部30,30に突設されたかしめピン32が、一対のガイド溝80,80の右端に設けられた竪壁部96のかしめ孔102に挿通されて、かしめピン32の先端部がかしめ孔102の開口周縁部にかしめ固定されている。これにより、第二の取付部材18とブラケット14の左右方向での分離(抜け)が、かしめピン32とかしめ孔102の開口周縁部との係合により防止されている。なお、かしめ加工とは、複数の部品を接合するための加工方法の1つであって、本実施形態ではかしめ孔102に挿通されたかしめピン32に対して曲げや押し潰しなどの塑性加工が施されて、かしめピン32がかしめ孔102の開口周縁部に係合されることにより、かしめピン32を備える第二の取付部材18とかしめ孔102を備えるブラケット14がかしめ固定される。これによれば、かしめ加工前のかしめピン32の外径をかしめ孔102の内径よりも小さくすることができて、かしめピン32をかしめ孔102に圧入固定する場合に比して、かしめピン32のかしめ孔102への挿通が容易になる。
【0048】
なお、ブラケット14の装着状態において、マウント本体12におけるカップ部材44の下端面112にブラケット14の下圧縮壁部90が重ね合わされているが、ブラケット14の下圧縮壁部90に円形孔95が貫通形成されていることから、可撓性膜48の変形がカップ部材44の貫通孔46とブラケット14の円形孔95によって許容されている。
【0049】
ここにおいて、マウント本体12は、ブラケット14の装着状態において上下方向で圧縮されている。本実施形態では、マウント本体12の本体ゴム弾性体20が上下方向に予圧縮されていると共に、マウント本体12の第二の取付部材18とカップ部材44の間に上下方向の圧縮力が及ぼされて、流体室52の壁部のシール性能の向上が図られている。
【0050】
すなわち、ブラケット14は、上圧縮壁面92がマウント本体12のブラケット14への差入れ方向に対して傾斜する傾斜面とされていると共に、ガイド溝80の下溝幅内面86が差入れ方向と略平行に広がる水平面とされている。これにより、上圧縮壁面92と下溝幅内面86が相対的に傾斜しており、それら上圧縮壁面92と下溝幅内面86が差入れ方向(右方)に向けて次第に接近している。また、マウント本体12の装着位置におけるブラケット14のガイド溝80の下溝幅内面86と上圧縮壁面92との上下距離が、ブラケット14装着前のマウント本体12におけるガイド部30の下面と第一の取付部材16側の端面である上端面110との上下距離よりも小さくされて、マウント本体12の上端面110が上圧縮壁面92に当接状態で重ね合わされていると共に、マウント本体12のガイド部30の下面が下溝幅内面86に当接状態で重ね合わされている。これにより、マウント本体12のブラケット14装着状態において、マウント本体12の第一の取付部材16と第二の取付部材18がブラケット14のガイド溝80の下溝幅内面86と上圧縮壁面92との間で上下に接近せしめられており、本体ゴム弾性体20に上下方向の圧縮力が及ぼされて、本体ゴム弾性体20が上下に予圧縮されている。
【0051】
さらに、上圧縮壁面92が傾斜面とされていることから、マウント本体12の上端面110をブラケット14の上圧縮壁面92に当接させながらマウント本体12をブラケット14に対して右方へ差し入れることにより、本体ゴム弾性体20の上下圧縮量が次第に大きくなるようにされている。これにより、マウント本体12に対するブラケット14の装着を完了することによって、本体ゴム弾性体20に目的とする上下方向の予圧縮を及ぼすことができる。本実施形態では、マウント本体12の上端面110が左右両外方へ向けて下傾する傾斜面とされており、上端面110の右半分が上圧縮壁面92と同方向に傾斜して上圧縮壁面92に当接している。
【0052】
一方、ブラケット14は、ガイド溝80の上溝幅内面84がマウント本体12のブラケット14への差入れ方向に対して傾斜する傾斜面とされていると共に、下圧縮壁面94が差入れ方向と略平行に広がる水平面とされている。これにより、
下圧縮壁面9
4と
上溝幅内面8
4が相対的に傾斜しており、それら下圧縮壁面94と上溝幅内面84が差入れ方向に向けて次第に接近している。また、マウント本体12の装着位置におけるブラケット14のガイド溝80の上溝幅内面84と下圧縮壁面94との上下距離が、ブラケット14装着前のマウント本体12におけるガイド部30の上面とカップ部材44側の端面である下端面112との上下距離よりも小さくされて、マウント本体12の下端面112が下圧縮壁面94に当接状態で重ね合わされていると共に、マウント本体12のガイド部30の上面が上溝幅内面84に当接状態で重ね合わされている。これにより、マウント本体12のブラケット14装着状態において、マウント本体12の第二の取付部材18とカップ部材44がブラケット14のガイド溝80の上溝幅内面84と下圧縮壁面94との間で上下に接近せしめられている。その結果、第二の取付部材18と仕切部材50の間に配されたシールゴム40や、仕切部材50とカップ部材44の間に配された可撓性膜48の外周封止部49などが上下方向に圧縮されて、流体室52の壁部を構成する第二の取付部材18と仕切部材50とカップ部材44の各部材間がより高度に封止されている。
【0053】
さらに、ガイド溝80の上溝幅内面84が傾斜面とされていることから、マウント本体12のガイド部30の上面をブラケット14の上溝幅内面84に当接させながらマウント本体12をブラケット14に対して右方へ差し入れることにより、シールゴム40および外周封止部49の上下圧縮量が次第に大きくなるようにされている。これにより、マウント本体12に対するブラケット14の装着を完了することにより、目的とする流体室52の封止が実現される。
【0054】
なお、本実施形態では、ブラケット14を装着する前のマウント本体12において、流体室52の壁部を構成する第二の取付部材18と仕切部材50とカップ部材44の各部材間においてシール性がある程度確保された仮シール状態とされており、ブラケット14の装着前に流体室52に非圧縮性流体が封入されている。しかしながら、ブラケット14の装着前には流体室52の壁部においてシール性が確保されている必要はなく、ブラケット14の装着によってシール性が確保されるようになっていても良い。このような場合などに、流体室52に対する非圧縮性流体の封入を、マウント本体12に対するブラケット14の装着後に行うことも可能である。
【0055】
また、本実施形態では、ブラケット14における装着空所98の開口側端部(左端)における上圧縮壁面92と下圧縮壁面94の上下距離H1(
図7参照)が、マウント本体12の右端における上下寸法h1(
図4参照)よりも大きくされている(H1>h1)。更に、ブラケット14の左端における上圧縮壁面92と上溝幅内面84の上下距離H2が、ガイド部30の右端位置における被覆ゴム42の上端からマウント本体12の上端までの上下寸法h2よりも大きくされている(H2>h2)。更にまた、ブラケット14の左端における下圧縮壁面94と上溝幅内面84の上下距離H3が、ガイド部30の右端位置における被覆ゴム42の上端からマウント本体12の下端までの上下寸法h3よりも大きくされている(H3>h3)。これらにより、マウント本体12をブラケット14の装着空所98に対して簡単に差し入れることができると共に、マウント本体12に上下方向の圧縮力を予め特別に及ぼすことなく、マウント本体12をブラケット14に差し入れることが可能とされている。
【0056】
本実施形態に係るエンジンマウント10では、第二の取付部材18のガイド部30が上溝幅内面84と下溝幅内面86を備える凹溝状のガイド溝80に差し入れられることにより、第二の取付部材18がブラケット14に対して上下方向で相対的に位置決めされている。従って、本体ゴム弾性体20の上下予圧縮量が、ブラケット14における上圧縮壁面92と下溝幅内面86の上下方向距離で設定されると共に、第二の取付部材18とカップ部材44の上下相対変位量、換言すれば流体室52の壁部を封止するシールゴム40や外周封止部49の上下圧縮変形量が、ブラケット14における下圧縮壁面94と上溝幅内面84の上下方向距離で設定される。このように、本体ゴム弾性体20の上下予圧縮量と、第二の取付部材18とカップ部材44の上下相対変位量が、相互に独立して設定可能とされており、目的とする防振特性や耐久性、信頼性を高度に且つ安定して実現することができる。
【0057】
さらに、ガイド溝80に対して表面に被覆ゴム42を備えるガイド部30だけが挿入される構造となっており、例えば上下に重ね合わせた複数の部材を差し入れてガイド溝80で挟み込む構造に比して、ガイド溝80に差し入れられる部分の上下寸法精度を高くすることができる。その結果、第二の取付部材18がブラケット14に対して上下方向で高精度に位置決めされて、本体ゴム弾性体20の予圧縮量と、第二の取付部材18とカップ部材44の上下相対変位量を、それぞれ高精度に設定することができる。
【0058】
本実施形態では、ブラケット14における上溝幅内面84の水平面に対する傾斜角度αが、上圧縮壁面92の水平面に対する傾斜角度βと略同じとされているが、マウント本体12の上端面110がガイド部30よりも右方へ突出していることによって、本体ゴム弾性体20の予圧縮と流体室52のシールが同時に実現される。また、α<βとすれば、マウント本体12をブラケット14の装着空所98に差し入れる際に、ガイド部30がガイド溝80の上溝幅内面84への当接によって押し下げられると共に、マウント本体12の上端面110が上圧縮壁面92への当接によって押し下げられて、本体ゴム弾性体20の予圧縮と流体室52のシールが同時に実現される。
【0059】
また、マウント本体12に対するブラケット14の組付け作業によって、本体ゴム弾性体20の予圧縮と流体室52のシール性の向上が実現されることから、特別な予圧縮工程や封止工程を要することなく、目的とする性能を得ることができる。しかも、ブラケット14の傾斜面を利用して上下方向の圧縮力がマウント本体12に及ぼされることから、マウント本体12をブラケット14に差し入れる際に、マウント本体12に上下方向の力を加えながら差し入れるなどの複雑な作業は必要なく、簡単に製造することができる。
【0060】
また、本実施形態では、ブラケット14の下圧縮壁面94が非傾斜の水平面とされていることから、下圧縮壁面94に重ね合わされるカップ部材44の下端面112も非傾斜とされており、カップ部材44が周方向に略一定の断面形状を有する回転体とされている。それ故、カップ部材44を第二の取付部材18に取り付ける際に、第二の取付部材18とカップ部材44の周方向の向きが任意とされて、簡単に取り付けることができる。しかも、カップ部材44とブラケット14の向きの違いによるシール性能のばらつきが回避されることから、目的とする信頼性を安定して得ることが可能となる。
【0061】
また、ブラケット14の上圧縮壁面92と上溝幅内面84が傾斜面とされていることにより、ブラケット14を型成形によって製造する際に、金型を成形品から左右に取り外し易くなる。特に本実施形態では、ガイド溝80の前後溝深さ内面82も型抜き方向に対して傾斜していることから、成形品からの脱型がより容易とされている。
【0062】
なお、エンジンマウント10は振動伝達系の構成部材である図示しないパワーユニットと車両ボデーの間に介装されて、それらパワーユニットと車両ボデーがエンジンマウント10によって防振連結されるようになっている。即ち、第一の取付部材16の筒状部22には、図示しないインナブラケットが圧入固定されるようになっており、第一の取付部材16がインナブラケットを介してパワーユニットに取り付けられるようになっている。一方、ブラケット14の取付片104,104がボルト孔106,106に挿通される図示しない取付ボルトによって車両ボデーに取り付けられて、第二の取付部材18がブラケット14を介して車両ボデーに取り付けられるようになっている。
【0063】
かかるエンジンマウント10の車両装着状態において、第一の取付部材16と第二の取付部材18の間にエンジンシェイクに相当する低周波大振幅振動が入力されると、受圧室72と平衡室74の相対的な圧力変動によってオリフィス通路76を通じての流体流動が生ぜしめられて、流体の流動作用による防振効果が発揮される。一方、第一の取付部材16と第二の取付部材18の間にアイドリング振動に相当する高周波小振幅振動が入力されると、受圧室72と平衡室74の相対的な圧力変動によって可動膜58が上下に弾性変形せしめられて、液圧吸収作用による防振効果が発揮される。
【0064】
また、パワーユニットの分担支持荷重が第一の取付部材16と第二の取付部材18の間に上下方向で入力された状態では、第一の取付部材16の筒状部22からブラケット14の窓部100を通じて右方へ突出するインナブラケットが竪壁部96の上端(窓部100の下縁部)と上下に対向していると共に、マウント本体12の上端面110がブラケット14の上圧縮壁面92から下方へ離れている。これにより、インナブラケットとブラケット14の竪壁部96の緩衝ゴム層38を介した当接およびマウント本体12の上端面110とブラケット14の上圧縮壁面92の当接によって、第一の取付部材16と第二の取付部材18の上下方向への相対変位量を制限する上下ストッパが、構成されている。更に、第一の取付部材16の筒状部22の前後両外面とブラケット14の一対の対向壁部78,78の各一方との緩衝ゴム層38を介した当接によって、第一の取付部材16と第二の取付部材18の前後方向への相対変位量を制限する前後ストッパが、構成されている。これらのストッパによって、本体ゴム弾性体20の弾性変形量が制限されていることから、本体ゴム弾性体20の耐久性の向上が図られる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態ではブラケット14の上圧縮壁面92がマウント本体12のブラケット14に対する差入れ方向に対して傾斜しているとともに下溝幅内面86が非傾斜とされていたが、上圧縮壁面92が非傾斜且つ下溝幅内面86が傾斜していても良いし、上圧縮壁面92と下溝幅内面86の両方が傾斜していても良い。下圧縮壁面94と上溝幅内面84についても同様に、何れが傾斜面であっても良いし、両方が傾斜面であっても良い。
【0066】
また、上圧縮壁面92と下溝幅内面86の相対傾斜と、下圧縮壁面94と上溝幅内面84の相対傾斜は、何れか一方だけでも良い。具体的には、例えば、流体封入構造をもたない所謂ソリッドタイプの防振装置に本発明を適用する場合には、上圧縮壁面92と下溝幅内面86の相対傾斜による本体ゴム弾性体20の予圧縮だけが施されて、下圧縮壁面94と上溝幅内面84の相対傾斜は不要となり得る。なお、例示した上記構造では、ブラケット14において下圧縮壁面94を構成する下圧縮壁部90は省略することもできる。
【0067】
また、前記実施形態では、上圧縮壁面92や上溝幅内面84の傾斜角度が略一定とされているが、傾斜角度は変化していても良く、例えば、挿入初期に要する力を小さくするために、それら面の傾斜角度を差入れ方向に向けて次第に大きくすることもできる。
【0068】
また、かしめピン32とかしめ孔102による第二の取付部材18とブラケット14のかしめ固定は、それら第二の取付部材18とブラケット14の分離を防ぐために好適ではあるが、必須ではなく省略され得る。