(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6546538
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/582 20060101AFI20190705BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20190705BHJP
【FI】
C04B35/582
H01L21/68 R
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-15503(P2016-15503)
(22)【出願日】2016年1月29日
(65)【公開番号】特開2017-132669(P2017-132669A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早坂 愛
(72)【発明者】
【氏名】傳井 美史
(72)【発明者】
【氏名】土田 淳
(72)【発明者】
【氏名】市川 佳孝
(72)【発明者】
【氏名】北林 徹夫
【審査官】
小川 武
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−214456(JP,A)
【文献】
特表2003−521435(JP,A)
【文献】
特開2003−020282(JP,A)
【文献】
特表平06−506905(JP,A)
【文献】
特開平11−322432(JP,A)
【文献】
国際公開第98/027024(WO,A1)
【文献】
特開2001−313148(JP,A)
【文献】
特開2010−208871(JP,A)
【文献】
特開昭63−175642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
C01B 21/072
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主相がAlNであり、粒界相がNdAl11O18を含むことを特徴とする窒化アルミニウム焼結体。
【請求項2】
請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結体において、Caの含有量が10ppm未満であることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体。
【請求項3】
直接窒化法により得られた窒化アルミニウムと酸化ネオジムとを準備する工程と、
前記窒化アルミニウムと前記酸化ネオジムとを混合する工程と、
前記窒化アルミニウムと前記酸化ネオジムとの混合物を焼成する工程と、
を含むことを特徴とする主相がAlNであり、粒界相がNdAl11O18を含む窒化アルミニウム焼結体の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の窒化アルミニウム焼結体の製造方法において、前記窒化アルミニウムと前記酸化ネオジムとの混合物を焼成する工程における焼成温度が1650〜1950℃であり、かつ焼成後、前記焼成温度から降温させる際の降温速度が0.8℃/分以上であることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の窒化アルミニウム焼結体の製造方法において、前記直接窒化法により得られた窒化アルミニウム中のCaの含有量が10ppm未満であることを特徴とする窒化アルミニウム焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置、特にウェハ、ガラス基板等の被吸着物を吸着保持する静電チャック部材等の材料として有用な窒化アルミニウム焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置等に用いられるウェハやガラス基板等を吸着保持する吸着装置として、静電チャックが知られている。静電チャックの吸着方式は、誘電体として絶縁材料を使用するクーロン力を利用したものと、被吸着物と誘電体との界面の小さなギャップに微少電流を流し、帯電分極して誘起されるジョンセン・ラーベック力を利用したものとが知られている。このうち、半導体ウエハーを吸着し、保持する方法としては、ジョンセン・ラーベック力を利用した静電チャック方式が有用である。当該方式の静電チャック部材の材料としては、高い吸着力を確保するために常温域での低体積抵抗率が要求される。このような材料としては、種々のものが知られているが、特に、常温域での体積抵抗率を低くするため、窒化アルミニウムに酸化サマリウムを添加して焼結した窒化アルミニウム焼結体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4458722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の通り、窒化アルミニウムに酸化サマリウムを添加して焼結した窒化アルミニウム焼結体は常温域の体積抵抗率を低下させることができる。他にも、焼成助剤として希土類元素の酸化物を添加して窒化アルミニウムを焼結して得た焼結体が常温域での体積抵抗率を低下させることが知られているが、酸化ネオジムを用い、常温域での体積抵抗率を低下させた窒化アルミニウム焼結体は知られていない。
【0005】
本発明は、酸化ネオジムを用い、常温域での体積抵抗率を低下させることができる窒化アルミニウム焼結体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の窒化アルミニウム焼結体は、主相がAlNであり、粒界相が
NdAl11O18を含むことを特徴とする。本発明の窒化アルミニウム焼結体は粒界伝導型であり、粒界相として
NdAl11O18を含むことで、当該粒界相が電流経路となり、常温域での体積抵抗率の低下に寄与する。
【0007】
本発明の窒化アルミニウム焼結体において、Caの含有量は10ppm未満であることが好ましい。後述するように、原料となる直接窒化法により得られた窒化アルミニウム中のCaの含有量が10ppm未満であると体積抵抗率をより低下することができる。従って、その原料を用いて得られた結果物であって、粒界相が
NdAl11O18を含む焼結体においても、Caの含有量が10ppm未満であると体積抵抗率が低いと考えられる。
【0008】
本発明の窒化アルミニウム焼結体の製造方法は、直接窒化法により得られた窒化アルミニウムと酸化ネオジムとを準備する工程と、前記窒化アルミニウムと前記酸化ネオジムとを混合する工程と、前記窒化アルミニウムと前記酸化ネオジムとの混合物を焼成する工程とを含むことによりを特徴とする。本発明の窒化アルミニウム焼結体の製造方法は、上記本発明の窒化アルミニウム焼結体を得るための製造方法であり、
主相がAlNであり、粒界相が
NdAl11O18を含む構造である粒界伝導型の窒化アルミニウム焼結体を得るために、原料となる窒化アルミニウムとして直接窒化法により得られた窒化アルミニウムを用いる。還元窒化法により得られた窒化アルミニウムを用いても上記のような構造の粒界相が得られないからである。
【0009】
本発明の窒化アルミニウム焼結体の製造方法において、前記窒化アルミニウムと前記酸化ネオジムとの混合物を焼成する工程における焼成温度が1650〜1950℃であり、かつ焼成後、前記焼成温度から降温させる際の降温速度が0.8℃/分以上であることが好ましい。焼成温度を前記範囲とし、かつ降温速度を前記範囲とすることにより、体積抵抗率をより低下することができる。また、当該温度範囲でも高温の方が焼成体の体積抵抗率をより低下することができる。
【0010】
また、本発明の窒化アルミニウム焼結体の製造方法において、前記直接窒化法により得られた窒化アルミニウム中のCaの含有量は10ppm未満であることが好ましい。窒化アルミニウム中のCaの含有量が10ppm未満であると、体積抵抗率をより低下することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<窒化アルミニウム焼結体>
本発明の窒化アルミニウム焼結体は、主相がAlNであり、粒界相がNdAl
11O
18及び/又はNdAlO
3を含む粒界伝導型の焼結体であり、粒界相が電流経路となり体積抵抗率の低下に寄与する。具体的には、常温域の体積抵抗率を例えば1×10
7〜1×10
13Ω・cm程度とすることができ、例えば、半導体製造装置の静電チャックの材料として有用である。
【0012】
本発明の窒化アルミニウム焼結体は、粒界相としてNdAl
11O
18及び/又はNdAlO
3を含むが、特にNdAl
11O
18が生成されないと体積抵抗率を十分に低下させることができない。従って、本発明においては、体積抵抗率をより低下させる観点から、粒界相に含まれる上記2成分のうち、NdAl
11O
18を多く含むものが好ましい。例えば、NdAl
11O
18及びNdAlO
3の全体量に対してNdAl
11O
18をモル分率で1%以上含むことが好ましく、10%以上含むことがより好ましい。
【0013】
本発明の窒化アルミニウム焼結体は、AlN、NdAl
11O
18及びNdAlO
3以外に、TiN、TiC、TiO
2などの遷移金属窒化物、炭化物、酸化物を含んでいてもいよい。ただし、色消し剤として使用し得るTiO
2、TiN、TiCは粒界伝導を阻害するため体積抵抗率を増大させる効果が認められる。従って、それらの色消し剤は含有しないほうがより低い体積抵抗率を呈するため好ましい。また、Caの含有量は10ppm未満であることが好ましい。後述するように、原料となる直接窒化法により得られた窒化アルミニウムにおいて、Caの含有量が10ppm未満であるものを用いると体積抵抗率をより低下することができる。従って、その原料を用いて得られた結果物であって、粒界相がNdAl
11O
18及び/又はNdAlO
3を含む焼結体においても、Caの含有量が10ppm未満であると低い体積抵抗率を呈すると考えられる。当該Caの含有量は1ppm以下であることがより好ましい。
【0014】
本発明の窒化アルミニウム焼結体は、圧力が4〜15MPa負荷されたホットプレス焼成で製造されることが好ましい。また、降温速度の大きい条件により焼成されることが好ましい。それらの詳細については、本発明の窒化アルミニウム焼結体の製造方法の説明で述べる。
【0015】
<窒化アルミニウム焼結体の製造方法>
本発明の窒化アルミニウム焼結体の製造方法は、以上の本発明の窒化アルミニウム焼結体を製造し得る製造方法であり、直接窒化法により得られた窒化アルミニウムと酸化ネオジムとを準備する工程(以下、「工程A」と呼ぶ。)と、前記窒化アルミニウムと酸化ネオジムとを混合する工程(以下、「工程B」と呼ぶ。)と、前記窒化アルミニウムと前記酸化ネオジムとの混合物を焼成する工程(以下、「工程C」と呼ぶ。)とを含む。以下に各工程について説明する。
【0016】
[工程A]
本工程においては、直接窒化法により得られた窒化アルミニウム(AlN)と酸化ネオジム(Nd
2O
3)とを準備する。本工程において、直接窒化法により得られた窒化アルミニウムを用いるのは、当該窒化アルミニウムを用いて酸化ネオジムと焼成するとNdAl
11O
18を含む構造の粒界相とする粒界伝導型の焼結体が得られるためである。逆に、還元窒化法により得られた窒化アルミニウムは粒界伝導型の焼結体とすることは困難である。窒化アルミニウムは、金属アルミニウムの粉末を窒素雰囲気下で燃焼合成して製造してもよいし、市販のものをそのまま用いてもよい。市販のものとしては、H.C.スタルク社製のものが挙げられる。窒化アルミニウムは粉末状のものを用いることが好ましい。一方、酸化ネオジムは市販の粉末状のものを用いることが好ましい。
【0017】
さらに、直接窒化法により得られた窒化アルミニウムの中でも、Caの含有量が10ppm未満のものが好ましく、1ppm以下のものがより好ましい。Caの含有量が10ppm未満であると体積抵抗率を低下させることができるからである。
なお、Caの含有量は、ICP−MSにより測定して得られる数値である。
【0018】
[工程B]
本工程においては、工程Aで準備した窒化アルミニウムと、酸化ネオジムとを混合する。例えば、両成分の混合において、アルコール系などの溶剤中に窒化アルミニウム粉末を投入して分散し、その中に酸化ネオジムを、粉末や溶液の状態で添加することができる。また、酸化ネオジムを添加した後は、攪拌するのであるが、粉末中の凝集物などを粉砕する必要がある場合には混合粉砕機を使用する。必要に応じて、他の添加物を添加することができ、そのような添加物としては、TiN、TiC、TiO
2などの遷移金属窒化物、炭化物、酸化物などが挙げられる。他の添加剤を添加してもよい。ただし、上述の通り、色消し剤としてTiN及びTiO
2を添加すると体積抵抗率の低下を阻害する。
【0019】
本工程において、結果物である焼成体の体積抵抗率を低下させるため、窒化アルミニウム及び酸化ネオジムは、酸化ネオジムの含有率が0.024〜0.64mol%となるように混合することが好ましい。
【0020】
[工程C]
本工程においては、工程Bで得られた、窒化アルミニウムと酸化ネオジムとの混合物を焼成する。焼成に当たり加圧するホットプレス焼成が好ましい。
【0021】
焼成温度は1650〜1950℃とすることが好ましく、1750〜1900 ℃とすることがより好ましい。高温であるほど焼結体の体積抵抗率が低下する傾向にある。また、焼成時間(焼結温度の保持時間)は、2〜10時間とすることが好ましい。焼成時間を長くするほど焼結体の体積抵抗率が低下する傾向にある。また、焼成時のプレス圧力としては、4〜15MPaとすることが好ましい。
【0022】
本工程においては、所定の焼結温度に到達したらその温度を所定の時間保持し、その後降温させるのであるが、降温時の降温速度は大きいほうが好ましい。粒界にNdAl
11O
18が生成しやすくなるためである。具体的には、0.8℃/分以上が好ましく、2℃/分以上がより好ましい。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0024】
[実施例1]
直接窒化法により得られた窒化アルミニウム(H.C.スタルク社製、Ca成分10ppm以下)99質量部と、Nd
2O
31質量部とを、ポットミルにより混合し混合粉末とした。次いで、この混合粉末を、温度を1650℃、プレス圧を14MPaの条件下で、2時間ホットプレス焼成し、焼成後2℃/分の降温速度で降温し窒化アルミニウム焼結体を得た。得られた窒化アルミニウム焼結体について、RIGAKU製RINT2500を用い、X線出力50KV、300mA、波長CuKαの条件でX線回折法により測定したところ、NdAl
11O
18及びNdAlO
3のピークを確認した。
【0025】
(評価)
得られた窒化アルミニウム焼結体に対し、厚みを2mmに加工後、株式会社ダイアインスツルメンツ社製高抵抗率計ハイレスターを用い、プローブ:UR−100、印加電圧:1000Vを印加して体積抵抗率を測定した。測定結果を表1に示す。
【0026】
[実施例2〜11]
窒化アルミニウム及びNd
2O
3の使用量を下記表1に記載の量としたこと、及び各実施例において焼成温度を下記表1に記載の温度としたこと以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を得た。なお、実施例11についてのみ、焼成時間を10時間とした。
【0027】
[実施例12]
窒化アルミニウムを、直接窒化法で得られたものであるが、実施例1〜11で使用した窒化アルミニウムとは異なるもの((株)東洋アルミニウム製、Ca成分160〜240ppm)に変更したこと、及び焼成温度を下記表1に記載の温度としたこと以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を得た。得られた窒化アルミニウム焼結体について、実施例1と同様にしてX線回折法により測定したが、NdAl
11O
18のピークはわずかに確認することができた。
【0028】
[比較例1]
窒化アルミニウムを還元窒化法で得られたもの((株)トクヤマ製、Ca成分150〜350ppm)に変更したこと、及び焼成温度を下記表1に記載の温度としたこと以外は実施例1と同様にして窒化アルミニウム焼結体を得た。得られた窒化アルミニウム焼結体について、実施例1と同様にしてX線回折法により測定したが、NdAl
11O
18のピークは確認することができなかった。また体積抵抗率は2.00×10
15Ωcmであり、すべての実施例より劣っていた。
【0029】
【表1】
【0030】
表1より、焼成温度が高いほど、窒化アルミニウム焼結体の体積抵抗率が低下する傾向があることが分かる。また、実施例3と実施例11との比較から、焼成温度の保持時間が長いほど体積抵抗率が低下することが分かる。さらに、実施例3と実施例12との比較から、窒化アルミニウム中のCaの含有量量が10ppm以下にすると、体積抵抗率がより低下することが分かる。
これに対して、還元窒化法で得られた窒化アルミニウムを用いた比較例1は体積抵抗率を低下させることができなかった。よって、直接窒化法による窒化アルミニウムを原料として用いると、体積抵抗率を低抵抗することが示された。
一方、実施例1〜3のグループ、実施例5〜7のグループ、実施例8〜10のグループの比較から、使用するNd
2O
3の比率が大きいほど体積抵抗率が低下する傾向があることが分かる。