【実施例1】
【0014】
本実施の形態では、建設機械として油圧ショベルを例に説明するが、本発明における建設機械は油圧ショベルに限定するものではない。以下、
図1から
図6を用いて第1の実施形態に係る油圧ショベル及び油圧ショベルの較正方法について説明する。
【0015】
図1は第1の実施の形態である油圧ショベルを示している。油圧ショベル1は、一般的な油圧ショベルと同様に、上部旋回体11、クローラを含む下部走行体12、掘削などの作業を行う作業機構を構成するブーム13、アーム14、バケット15、アーム14及びバケット15と共にリンク機構を構成する第1バケットリンク16a及び第2バケットリンク16b、ブーム13を駆動するブームシリンダ17、アーム14を駆動するアームシリンダ18、バケット15をバケットリンク16a,16bを含むリンク機構を介して駆動するバケットシリンダ19などから構成されている。
【0016】
上部旋回体11は、下部走行体12に回転可能に支持されており、旋回モータ(図示せず)によって下部走行体12に対して相対的に回転駆動される。ブーム13は、一端が上部旋回体11に回転可能に支持されており、ブームシリンダ17の伸縮に応じて上部旋回体11に対して相対的に回転駆動される。アーム14は、一端がブーム13の他端に回転可能に支持されており、アームシリンダ18の伸縮に応じてブーム13に対して相対的に回転駆動される。
【0017】
バケット15は、アーム14の他端に回転可能に支持されており、第1バケットリンク16aは、一端がアーム14に回転可能に支持されており、第2バケットリンク16bは、一端がバケット15に回動可能に支持され、他端が第1バケットリンク16aの他端に回動可能に支持されている。第1バケットリンク16aは、バケットシリンダ19の伸縮に応じてアーム14に対して相対的に回転駆動される。バケット15は、第1バケットリンク16aと連動して駆動される第2バケットリンク16bにより、アーム14に対して相対的に回転駆動される。このような構成である油圧ショベル1はブームシリンダ17、アームシリンダ18、バケットシリンダ19を適切な位置に駆動することにより、バケット15を任意の位置、姿勢に駆動し、所望の作業を行うことができる。
【0018】
油圧ショベル1は、ブーム13、アーム14、バケットリンク16aにそれぞれブーム傾斜センサ21、アーム傾斜センサ22、バケット傾斜センサ23が設置されている。本実施形態では、傾斜センサ21〜23は2軸又は3軸の加速度を測定し、重力方向に対する傾斜角度を検出するものとして説明する。油圧ショベル1は上部旋回体11に設置された車体傾斜センサ24を持ち、車体の左右方向の傾斜角度θ
r(ロール角度)と前後方向の傾斜角度θ
p(ピッチ角度)を検出可能な構成となっている。
【0019】
各傾斜センサ21〜24の信号は、上部旋回体11に設置された演算装置25に送られ、演算装置25内でバケット先端位置P
6やバケット角度θ
bkを演算する。演算されたバケット先端位置P
6やバケット角度θ
bkは、運転席内のモニタ26に表示することでガイダンス機能として運転者へ提供したり、作業機構の動作を制御するためのフィードバック情報として用いられる。
【0020】
以下、各傾斜センサ信号からバケット先端位置P
6とバケット角度θ
bkを演算する方法について
図1を用いて説明する。まず、演算に必要な各点P
0〜P
5を定義する。
【0021】
点P
0は、上部旋回体11とブーム13との回転対偶部の回転軸上にあり、上部旋回体11、ブーム13又は両者の回転対偶部に挿入されたピン(図示せず)のいずれかの構造物の右端とする。点P
1は、ブーム13とアーム14との回転対偶部の回転軸上にあり、ブーム13、アーム14又は両者の回転対偶部に挿入されたピン(図示せず)のいずれかの構造物の右端とする。
【0022】
点P
2は、アーム14とバケットリンク16aとの回転対偶部の回転軸上にあり、アーム14、バケットリンク16a又は両者の回転対偶部に挿入されたピン(図示せず)のいずれかの構造物の右端とする。
【0023】
点P
3は、バケットリンク16aとバケットシリンダ19との回転対偶部の回転軸上にあり、バケットリンク16a、バケットシリンダ19又は両者の回転対偶部に挿入されたピン(図示せず)のいずれかの構造物の右端とする。
【0024】
点P
4は、アーム14とバケット15との回転対偶部の回転軸上にあり、アーム14、バケット15又は両者の回転対偶部に挿入されたピン(図示せず)のいずれかの構造物の右端とする。
【0025】
点P
5は、バケット15とバケットリンク16aとの間に挿入されるバケットリンク16bと、バケット15との回転対偶部の回転軸上にあり、バケット15、バケットリンク16b又は両者の回転対偶部に挿入されたピン(図示せず)のいずれかの構造物の右端とする。
【0026】
点P
6は、バケット15の先端且つバケット15の右端とする。本実施形態では、バケット先端位置P
6は、点P
0に原点をもち、上部旋回体11の前方向にX軸(X
B)、左方向にY軸(Y
B)、上方向にZ軸(Z
B)を持つ車体座標系ΣBで表すものとする。
【0027】
点P
1〜P
6をX
BZ
B平面に投影した点をP
1’〜P
6’とし、線分P
0P
1’の長さをL
bm、線分P
1’P
4’の長さをL
am、線分P
4’P
6’の長さをL
bk、線分P
1’P
2’の長さをL
p2、線分P
2’P
3’の長さをL
bklとし、線分P
1’P
4’に対して線分P
1’P
2’の成す角度をリンクオフセット角度θ
p2とする。また、水平面と上部旋回体11とのY
B軸回りの角度を車体ピッチ角度θ
p(図示せず)、水平面と線分P
0P
1’の成す角度をブーム角度θ
bm、水平面と線分P
1’P
4’の成す角度をアーム角度θ
am、水平面と線分P
2’P
3’の成す角度をバケットリンク角度θ
bkl、水平面と線分P
4’P
6’の成す角度をバケット角度θ
bkとすると、X
BZ
B平面に投影したバケット先端位置P
6’は下記の式で表される。
【0028】
【数1】
【0029】
ここで、P
6’xB、P
6’zBはそれぞれ座標系ΣBにおけるバケット先端位置P
6のX
B軸方向距離(X
B座標)、Z
B軸方向距離(Z
B座標)を示す。車体ピッチ角度θ
pは車体傾斜センサ24によって検出される。ブーム角度θ
bmはブーム傾斜センサ21、アーム角度θ
amはアーム傾斜センサ22、バケット角度θ
bkはバケット傾斜センサ23によって得られるバケットリンク角度θ
bklとアーム角度θ
amから求めることができる。
【0030】
各傾斜センサ21〜23からの各角度の求め方を
図2〜
図4を用いて説明する。
【0031】
図2はブーム傾斜センサ21の出力からブーム角度θ
bmを求める方法を模式的に示した図である。ブーム傾斜センサ21は内部に少なくとも2軸の方向の加速度を検出する加速度センサを持っており、ブーム傾斜センサ21に固定され座標系ΣBのY軸と平行なY軸を持つ座標系をΣS1とすると、ΣS1のX軸(X
S1)とZ軸(Z
S1)の2軸方向の加速度を検出できる。ブーム傾斜センサ21のX
S1軸方向の加速度検出値をa
x1、Z
S1軸方向の加速度検出値をa
z1とすると、ブーム傾斜センサ21の水平方向に対する傾斜角度θ
s1は、
【数2】
で求めることができる。ここで、X
S1軸と線分P
0P
1’との成す角、つまりブーム13に対するブーム傾斜センサ21の取付角度をθ
m1とすると、ブーム角度θ
bmは、
【数3】
で求めることができる。なお、本実施の形態では右側面から見て時計回りの回転を正方向としている。
【0032】
図3はアーム傾斜センサ22の出力からアーム角度θ
amを求める方法を模式的に示した図である。アーム傾斜センサ22もブーム傾斜センサ21と同様に内部に少なくとも2軸の方向の加速度を検出する加速度センサを持っており、アーム傾斜センサ22に固定され座標系ΣBのY軸と平行なY軸を持つ座標系をΣS2とすると、ΣS2のX軸(X
S2)とZ軸(Z
S2)の2軸方向の加速度を検出できる。アーム傾斜センサ22のX
S2軸方向の加速度検出値をa
x2、Z
S2軸方向の加速度検出値をa
z2とすると、アーム傾斜センサ22の水平方向に対する傾斜角度θ
s2は、
【数4】
で求めることができる。ここで、X
S2軸と線分P
1’P
4’との成す角、つまりアーム14に対するアーム傾斜センサ22の取付角度をθ
m2とすると、アーム角度θ
amは、
【数5】
で求めることができる。
【0033】
図4はバケット傾斜センサ23の出力とアーム角度θ
amからバケット角度θ
bkを求める方法を模式的に示した図である。バケット傾斜センサ23もブーム傾斜センサ21やアーム傾斜センサ22と同様に内部に少なくとも2軸の方向の加速度を検出する加速度センサを持っており、バケット傾斜センサ23に固定され座標系ΣBのY軸と平行なY軸を持つ座標系をΣS3とすると、座標系ΣS3のX軸(X
S3)とZ軸(Z
S3)の2軸方向の加速度を検出できる。バケット傾斜センサ23のX
S3軸方向の加速度検出値をa
x3、Z
S3軸方向の加速度検出値をa
z3とすると、バケット傾斜センサ23の水平方向に対する傾斜角度θ
s3は、
【数6】
で求めることができる。ここで、X
S3軸と線分P
2’P
3’との成す角、つまりバケットリンク16aに対するバケット傾斜センサ23の取付角度をθ
m3とすると、バケットリンク角度θ
bklは、
【数7】
で求めることができる。バケット角度θ
bkは、上述の通り求めたアーム角度θ
amとバケットリンク角度θ
bklから求めることができ、その関数をfとすると、
【数8】
で求めることができる。なお、関数fは、バケット15を駆動するリンク機構の各寸法(線分P
2’P
3’、線分P
2’P
4’、線分P
3’P
5’、線分P
4’P
5’の各長さ及びリンクオフセット角度θ
p2)に基づいて決定される。
【0034】
これまでの説明の通り、各傾斜センサの検出値からバケット先端位置P
6やバケット角度を演算することができ、これらの演算は、演算装置25内で行われる。ただし、ブーム傾斜センサ21、アーム傾斜センサ22、バケット傾斜センサ23の取付角度θ
m1,θ
m2,θ
m3と、作業機構の各部寸法L
bm,L
am,L
bkは事前に把握しておかなければならない。各部寸法は設計情報から参照することができるが、取付角度は実際の車体毎に高精度に較正しなければならない。本発明は、この取付角度θ
m1,θ
m2,θ
m3を高精度且つ容易に較正する方法を提供するものである。
【0035】
なお、本実施形態では、車体傾斜センサ24は上部旋回体11に対して取付角度がゼロとなるように取付けられているとし、車体ピッチ角度θ
p及び車体ロール角度θ
rは車体傾斜センサ24の検出値から直接得られるものとするが、車体傾斜センサに関しては、取付角度がバケット先端位置P
6の演算に影響するほどの大きさであれば、180°旋回した時のセンサの検出値から取付角度を較正するなどの広く世の中で用いられている方法を活用すればよい。
【0036】
図5〜
図7を用いて、本実施形態における本発明の内容である油圧ショベルの傾斜センサ較正方法を説明する。
【0037】
図5は較正方法を示す油圧ショベル1と外部計測装置3の斜視図である。外部計測装置3は例えばトータルステーションのような三次元空間上の任意の点の位置を計測可能なものである。外部計測装置3に固定の座標系をΣAとし、座標系ΣAのZ軸(Z
A)が重力方向に対して平行となるように外部計測装置3は設置される。つまり、座標系ΣAのX軸(X
A)とY軸(Y
A)を含む平面は水平面と等しくなる。本発明の較正方法は、油圧ショベル1の4つの点P
0,P
1,P
2,P
3の三次元位置を外部計測装置3により計測し、得られた三次元位置から各傾斜センサ21〜23の取付角度θ
m1,θ
m2,θ
m3を求めるものである。
【0038】
図6は油圧ショベル1の右側面、上面、正面を示す三面図であり、
図7は
図6の油圧ショベル1のリンク構造のみを模式的に示した三面図である。油圧ショベル1は、これらの図に示す通りX
B軸回りにロール角度θ
r傾いているとする。この場合、X
AY
A平面とY
B軸との成す角がθ
rとなる。また、点P
0と点P
1のY
B軸方向距離をL
bmy、点P
1と点P
2のY
B軸方向距離をL
p2y’、点P
2と点P
3のY
B軸方向距離をL
bklyとする。外部計測装置3によって計測される三次元位置は、座標系ΣAでの三次元座標となる。つまり、外部計測装置3によって計測される点P
0の位置は、X
A軸方向にP
0xA、Y
A軸方向にP
0yA、Z
A軸方向にP
0zAとなる。点P
1〜P
6も同様である。
【0039】
各傾斜センサの取付角度θ
m1,θ
m2,θ
m3は、ブーム角度θ
bm、アーム角度θ
am、バケットリンク角度θ
bkl、及びその時の各傾斜センサ21〜23の出力から得られる傾斜角度θ
s1,θ
s2,θ
s3を基に、算出することができる。ブーム角度θ
bm、アーム角度θ
am及びバケットリンク角度θ
bklは、外部計測装置3で計測された各点P
0,P
1,P
2,P
3の三次元位置を基に、以下の式を用いて求めることができる。
【0040】
【数9】
【0041】
この時の各傾斜センサ21〜23の傾斜角度θ
s1,θ
s2,θ
s3を各傾斜センサ21〜23の検出値から求めることにより、以下の式で各センサの取付角度θ
m1,θ
m2,θ
m3を求めることができる。
【0042】
【数10】
【0043】
上記によって各傾斜センサ21〜23の取付角度θ
m1,θ
m2,θ
m3を得ることができ、このパラメータと傾斜センサ21〜23の検出値θ
s1,θ
s2,θ
s3からこれまでの説明の通りバケット先端位置P
6’xB ,P
6’zBを求めることができる。
【0044】
以上の説明からわかる通り、本実施形態の油圧ショベルの傾斜センサ較正方法は、作業機構の3つの稼動部(ブーム13、アーム14、バケットリンク16a)の回転対偶部の三次元位置を、外部計測装置3により計測する第1ステップと、第1ステップで得られた回転対偶部の三次元位置、及び作業機構の各部の寸法情報を基に、各稼動部の傾斜角度を演算する第2ステップと、各傾斜センサ21〜23から得られた検出値θ
s1,θ
s2,θ
s3、及び第2ステップで得られた各稼動部の傾斜角度θ
bm,θ
am,θ
bklを基に、各傾斜センサ21〜23の較正パラメータである取付角度θ
m1,θ
m2,θ
m3を演算する第3ステップとから成る。
【0045】
具体的には、油圧ショベル1を任意の姿勢に静止させ、外部計測装置3によって4つの点P
1,P
1,P
2,P
3の三次元位置を計測する。その後、モニタ26を介して演算装置25へ較正パラメータ演算ステップの開始を指示し、計測によって得られた複数の三次元位置をモニタ26を介して演算装置25へ入力する。或いは、外部計測装置3とモニタ26もしくは演算装置25が、図示しない有線または無線通信装置により接続されており、外部計測装置3の計測によって得られた複数の三次元位置が通信により演算装置25へ送られる。演算装置25では、各傾斜センサ20〜23の検出値から車体ロール角度θ
rと各傾斜センサ21〜23の傾斜角度θ
s1,θ
s2,θ
s3を取得し、入力された複数の三次元位置と車体ロール角度θ
rから作業機構の各稼動部の傾斜角度θ
bm,θ
am,θ
bklを演算し、これらの演算結果と各傾斜センサ21〜23の傾斜角度θ
s1,θ
s2,θ
s3から各傾斜センサ21〜23の取付角度θ
m1,θ
m2,θ
m3を演算し、較正パラメータとして保存する。以降のバケット先端位置P
6の演算には、保存された較正パラメータを用いる。
【0046】
較正パラメータとしての取付角度θ
m1,θ
m2,θ
m3の演算精度を確保するためには、外部計測装置3により、油圧ショベル1の作業機構の各回転対偶部の中心をできるだけ正確に計測する必要がある。一方、多くの油圧ショベル1では、外観からわかる回転対偶部は正確に中心を示す何らかの目印等があるわけではない。そのため、本実施形態では、
図8に示す通り回転対偶部の中心を示す目印として、マーカ4を設けている。なお、
図8ではバケット15付近のみ図示しているが、ブーム13やアーム14の回転対偶部に設けるマーカに関しても同様である。
【0047】
トータルステーション等の外部計測装置3はレーザ光を目標位置に照射し、距離や角度を計測する。このため、マーカ等の目印があれば、何もない場合に比べて精度良くレーザ光を目的の場所に照射することができ、得られる三次元位置の計測結果の精度が向上する。また、マーカ4の代わりにレーザ光を入射方向に反射するプリズム5(コーナーキューブ)等を用いれば、レーザ光による計測の精度が向上する。このため、
図9に示す通りプリズム5を治具6を用いて回転対偶部に取付けてもよい。
図9では、作業機構の回転対偶部に挿入されたピン27と、そのピン27に取付けるプリズム5と治具6を示している。この場合、作業機構の各回転対偶部にテーパ穴28を設け、治具はそのテーパ穴28に嵌合する円すい部61とマグネット62を備えることで、各回転対偶部の回転軸上に容易かつ精度良くプリズム5を取付けることができる。なお、マーカ4やプリズム取付治具6の構成は本実施形態に示すものに限るものではなく、同等の機能を有していればよいことは言うまでもない。
【0048】
本実施形態の油圧ショベルの較正方法は、次のような特徴を持つ。まず、油圧ショベル1の作業機構を動かす必要が無いため、狭い空間での較正作業が可能である。また、基準姿勢に位置合わせする必要もなく、最低4回の外部計測装置3による計測を行うのみでよいため、これまでの方法に比べて大幅に較正作業の時間を短縮することができる。加えて、車体や作業機構を動かすオペレータを必要としないため、外部計測装置3を用いる作業者1名のみで容易に較正作業を実施できる。