(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照して、本発明の第1〜第3実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
また、以下に示す第1〜第3実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
[第1実施形態の制振ダンパー]
図1で示す第1実施形態は、軸降伏型の制振ダンパー1を示すものであり、ダンパー本体2と、変位表示装置3とを備えている。
[ダンパー本体]
ダンパー本体2は、振動エネルギーを軸方向に作用する圧縮及び引張りの軸荷重を塑性変形により吸収して減衰する軸部材5と、軸部材5の軸方向の両端にそれぞれ設けた一対の構造物連結部材6a,6bと、軸部材5を内挿する補剛部材7と、を備えている。
軸部材5は、履歴減衰特性(塑性変形に伴うエネルギー減衰特性)を有する普通鋼又は低降伏点鋼の鋼管からなる。そして、軸部材5は、軸方向に作用する軸荷重に対して伸縮して降伏する。補剛部材7は、軸部材5に軸方向の圧縮荷重が作用したときに軸部材5の座屈を防止するようになっており、例えば円筒形状で形成されている。一対の構造物連結部材6a,6bは、橋梁、アーチ橋、水門、ボックスカルバートなどの土木構造物や、ビル、塔、倉庫などの建築構造物に制振ダンパー1を取り付けるときの継ぎ手として用いられる。一対の構造物連結部材6a,6bとしてはボルト接合タイプやピン接合タイプがあるが、この第1実施形態ではピン接合タイプを採用している。
【0012】
[変位表示装置]
変位表示装置3は、
図2に示すように、補剛部材7と構造物連結部材6aとの間で生じる相対変位を正逆方向の回転運動に変換するラック&ピニオン部8と、ラック&ピニオン部8のピニオン12から伝達された正逆方向の回転を一方向の回転に変換する一方向回転変換部9と、一方向回転変換部9から得られた一方向の回転により累積変位量を表示する累積変位量表示部10と、軸部材5の軸方向変位量の最大値を表示する最大変位量表示部4と、を備えている。
【0013】
ラック&ピニオン部8は、
図2に示すように、ラック部材11と、ラック部材11のラック歯11aに噛合しているピニオン12と、を備えている。ラック部材11は、
図1に示すように、補剛部材7及び構造物連結部材6aの相対変位方向Rdに沿ってラック歯11aが並んでおり、その一端がラック連結部材13を介して構造物連結部材6aに連結されている。
ラック&ピニオン部8のピニオン12は、
図1に示す補剛部材7の外周に固定された一方向回転変換部9のケース14に回転自在に支持されている。
【0014】
ラック部材11は、ラック連結部材13に連結している一端から補剛部材7の外周に沿って軸方向に延在し、ケース14を貫通した状態で配置され、ケース14内のピニオン12に噛合している。
一方向回転変換部9は、補剛部材7の外周に固定ベルト16で固定されている。
一方向回転変換部9のケース14内には、
図2に示すように、入力軸17に、ラック&ピニオン部8のピニオン12及びウォーム18が軸方向に離間して固定されている。そして、第1回転軸19に固定されたウォーム歯車20がウォーム18に噛合されていることで、入力軸17の回転が減速されてウォーム歯車20に伝達されるようになっている。
【0015】
第1回転軸19には、第1ワンウェイクラッチ21及び第2ワンウェイクラッチ22がウォーム歯車20に対して同軸に、互いに軸方向に離間して固定されている。
第1ワンウェイクラッチ21及び第2ワンウェイクラッチ22は、図示しないが、外輪と、内輪と、外輪及び内輪の間に配置され、第1回転軸19に伝達された正逆方向の回転の一方向の回転のみを外輪に伝達する回転制御部とを備えた装置である。
そして、第1ワンウェイクラッチ21の外輪の外周に第1クラッチ歯車23が固定され、第2ワンウェイクラッチ22の外輪の外周に第2クラッチ歯車24が固定されている。
【0016】
図3は、
図2で記載したウォーム歯車20を、矢印A方向(第1回転軸19の軸方向に沿う方向)から示した図であり、ウォーム歯車20はウォーム18からR1方向(右回り)及びR2方向(左回り)の回転が伝達される。
第1ワンウェイクラッチ21の回転制御部は、ウォーム歯車20を介して第1回転軸19に
図3のR1方向及びR2方向の回転が伝達された場合に、R1方向の回転のみを第1クラッチ歯車23に伝達し、R2方向の回転が伝達された場合には第1クラッチ歯車23が空回りする構造としている。
【0017】
また、第2ワンウェイクラッチ22の回転制御部は、第1回転軸19に
図3のR1方向及びR2方向の回転が伝達された場合に、R2方向の回転のみを第2クラッチ歯車24に伝達し、R1方向の回転が伝達された場合には第2クラッチ歯車24が空回りする構造としている。
そして、第1クラッチ歯車23は、第2回転軸25に固定された第1分岐歯車26に噛合されており、第2回転軸25には、第1分岐歯車26に対して軸方向に離間した位置に第2分岐歯車27が固定されている。
【0018】
また、第2クラッチ歯車24は、出力軸28に固定された第3分岐歯車29に噛合されているとともに、出力軸28には、第3分岐歯車29に対して軸方向に離間し位置に合成歯車30が固定されている。
この合成歯車30に、第2回転軸25に固定された第2分岐歯車27が噛合されている。
また、累積変位量表示部10は、
図4に示すように、表示回転軸31から回転が伝達される指針32と、一方向回転変換部9のケース14に固定され、指針32が回転する表示円の範囲内に3つの表示領域33a,33b,33cが表示されている表示プレート33と、指針32が1回転以上時計回りに回転するのを規制するストッパー34と、を備えている。
【0019】
ここで、表示回転軸31は、一方向回転変換部9の出力軸28から回転が伝達されており、出力軸28からR1方向の回転(
図3参照)が伝達されることで、指針32が時計回りに回転するようになっている。
3つの表示領域33a,33b,33cの各々は、時計回りに並んで表示されており、表示領域33aは例えば青色、表示領域33bは例えば黄色、表示領域33cは例えば赤色で表示されており、軸部材5の累積変位量に対応して識別されており、青色の表示領域33a、黄色の表示領域33b、赤色の表示領域33cの順に累積変位量が多くなることを示している。
【0020】
図1に示すように、補剛部材7と構造物連結部材6aとの相対変位は、軸部材5の軸方向の伸縮変位によって生じる。軸部材5の軸方向の伸縮変位は、軸方向に作用する圧縮及び引張りの軸荷重により生じる。
図5(a)は、軸部材5が引張り方向に変位したときの変位表示装置3の動作を示し、
図5(b)は、軸部材5が圧縮方向に変位したときの変位表示装置3の動作を示している。なお、
図5(a)、(b)で記載したR1,R2は、
図3で示したR1方向(右回り)の回転、R2方向(左回り)の回転を示している。
【0021】
軸部材5が引張り方向に変位すると、
図5(a)に示すように、ラック部材11の往動作によりラック歯11aに噛合しているピニオン12が正回転し、このピニオン12の回転がウォーム18を介してウォーム歯車20にR1方向の回転として伝達される。
ウォーム歯車20に伝達されたR1方向の回転は、第1ワンウェイクラッチ21及び第1クラッチ歯車23を介して第1分岐歯車26にR2方向の回転として伝達される。第1分岐歯車26に伝達されたR2方向の回転は、第2分岐歯車27を介して合成歯車30にR1方向の回転として伝達される。
そして、合成歯車30に伝達されたR1方向の回転が出力軸28を介して表示回転軸31に伝達されることで、累積変位量表示部10の指針32が、軸部材5が引張り方向に変位したときの累積変位量として、所定角度だけ時計回りに回転する。
【0022】
また、軸部材5が圧縮方向に変位すると、
図5(b)に示すように、ラック部材11の復動作によりラック歯11aに噛合しているピニオン12が逆回転し、このピニオン12の回転がウォーム18を介してウォーム歯車20にR2方向の回転として伝達される。
ウォーム歯車20に伝達されたR2方向の回転は、第2ワンウェイクラッチ22及び第2クラッチ歯車24を介して第3分岐歯車29にR1方向の回転として伝達される。第3分岐歯車29に伝達されたR1方向の回転は、出力軸28に同軸に固定されている合成歯車30にR1方向の回転として伝達される。
そして、合成歯車30に伝達されたR1方向の回転が出力軸28を介して表示回転軸31に伝達されることで、累積変位量表示部10の指針32が、軸部材5が圧縮方向に変位したときの累積変位量として、所定角度だけ時計回りに回転する。
ここで、本発明に係る一方向回転変換部から累積変位量表示部10に伝達される一方向の回転が、R1方向の回転に対応している。
【0023】
[最大変位量表示部]
最大変位量表示部4は、
図6(a)に示すように、圧縮側変位表示部材36と、引張り側変位表示部材37と、を備えている。
圧縮側変位表示部材36は、一方向回転変換部9のケース14を貫通しているラック部材11の一端側(ラック連結部材13側)に突出しているラック部材11の側面及びラック歯11aに摺動自在に係合しているとともに、ケース14に接触しないときにはラック部材11上で停止している門型、或いは輪型形状の部材である。
圧縮側変位表示部材36は、軸部材5が圧縮方向に変位する際には、ケース14のラック連結部材13を向く側面14aの一部に当接しながらラック部材11の一端側に摺動していく。
【0024】
また、引張り側変位表示部材37は、ケース14を貫通しているラック部材11の自由端側に突出しているラック部材11の側面及びラック歯11aに摺動自在に係合しているとともに、ケース14に接触しないときにはラック部材11上で停止している門型、或いは輪型形状の部材である。
引張り側変位表示部材37は、軸部材5が引張り方向に変位する際には、ケース14の前述した側面14aに対して逆側の側面14bの一部に当接しながらラック部材11の自由側に摺動していく。
【0025】
そして、
図6(b)は、軸部材5が軸方向に変位した後の最大変位量表示部4の状態を示したものである。
この図によると、圧縮側変位表示部材36は、ラック部材11の一端側に移動しており、ケース14の側面14aからの距離CXmaxを、現在までの圧縮側最大変位量として表示する。
また、引張り側変位表示部材37は、ラック部材11の自由端側に移動しており、ケース14の側面14bからの距離TXmaxを、現在までの引張り側最大変位量として表示する。
【0026】
ここで、第1実施形態のラック部材11の外周に最大変位の表示部を設けてもよい。すなわち、圧縮側変位表示部材36及び引張り側変位表示部材37の両者がケース14の側面14a,14bに当接している位置のラック部材11の外周を初期位置表示とし、この初期位置表示からラック連結部材13側に向かう側に、圧縮側の変位量を示す目盛り表示や色別表示を設け、初期位置表示からラック連結11の自由端に向かう側に引張り側の変位量を示す目盛り表示や色別表示を設けてもよい。
【0027】
[変位表示装置の具体的な構造]
次に、
図7及び
図8は、変位表示装置3の具体的な構成部材を示すものである。
変位表示装置3は、ラック&ピニオン部8のピニオン12から伝達された正逆方向の回転運動が、ピニオン12の回転軸(入力軸17)に対して回転軸(第1回転軸19)が直交配置されたウォーム歯車20にR1方向及びR2方向の回転(
図3参照)として伝達される。
そして、ウォーム歯車20に伝達されたR1方向及びR2方向の回転が、一方向回転変換部9によりR1方向に合成されて出力軸28に出力される。
ここで、
図7及び
図8では図示していないが、一方向回転変換部9を構成している第1ワンウェイクラッチ21は、第1回転軸19に配置されている第1クラッチ歯車23に内蔵されており、第2ワンウェイクラッチ22は、第1回転軸19に配置されている第2クラッチ歯車24に内蔵されている。
【0028】
[制振ダンパー]
次に、
図9は、第1実施形態1の制振ダンパー1を橋梁に適用した状態を示す図である。
橋梁40は、地中(不図示)から立設している柱部41と、柱部41の上端に配置された上部工42とを備え、上部工42が温度や変形で伸縮する場合に、柱部41や上部工42に余分な応力が加わらないように、柱部41の上端と上部工42との間に、上部工42を長手方向(
図9の左右方向)に移動可能とする可動支承43が設置されている。上部工42は、柱部41を横切るようにして柱部41の上端上に配置されている。柱部41の側面上部41aには柱部側ブラケット44が設けられ、上部工42の下面42aには上部工側ブラケット45が設けられている。
制振ダンパー1は、柱部41及び上部工42で仕切られた空間内に、上部工42の長手方向に沿うようにして配置されている。そして、制振ダンパー1は、一端側の構造物連結部材6aが上部工側ブラケット45に回動自在に連結され、他端側の構造物連結部材6bが柱部41の柱部側ブラケット44に回動自在に連結されている。
【0029】
[地震発生時の制振ダンパー及び変位表示装置の動作]
次に、
図10は、地震時において制振ダンパー1の軸部材5に生じる軸方向の変位状態の一例を示したものである。
図10の横軸は、軸部材5の伸縮量を表し、縦軸は軸部材5に付加される軸力を表す。また、破線は軸部材5の弾性変形量を表し、実線のC1,C2,C3は圧縮方向の塑性変位量であり、実線のT1,T2,T3は引張り方向の塑性変位量である。また、
図10の符号δで示す範囲は、軸部材5の変位初期で発生する遊びである。
【0030】
図9のように橋梁に適用した制振ダンパー1は、地震により柱部41と上部工42との水平方向の相対変位Hで発生した振動エネルギーを、
図10で示す軸部材5の軸方向(補剛部材7及び構造物連結部材6aの相対変位方向Rd)の引張り方向の塑性変形T1,T2,T3及び圧縮方向の塑性変形C1,C2,C3で吸収して減少し、上部工42の長手方向に沿う1軸方向の制振を行う。
一方、制振ダンパー1の変位表示装置3は、地震時に軸部材5が引張り方向に変位するときには、一方向回転変換部9が、ラック&ピニオン部8のピニオン12の正回転をR1方向の回転として累積変位量表示部10の表示回転軸31に伝達していき、指針32を時計回りに回転させて累積変位量を加算していく(
図5(a)参照)。また、地震時に軸部材5が圧縮方向に変位するときには、一方向回転変換部9が、ラック&ピニオン部8のピニオン12の逆回転をR1方向の回転として累積変位量表示部10の表示回転軸31に伝達していき、指針32を時計回りに回転させて累積変位量を加算していく(
図5(b)参照)。
【0031】
このように制振ダンパー1の変位表示装置3は、地震時において、軸部材5の圧縮方向の塑性変形量(
図10の実線のC1,C2,C3)と、軸部材5の引張り方向の塑性変形量(
図10の実線のT1,T2,T3)とを加算した累積変位量を累積変位量表示部10で表示する。
また、制振ダンパー1の最大変位量表示部4は、
図10の圧縮側の最大変位量CXmaxを、
図6(b)で示した圧縮側変位表示部材36とケース14の側面14aからの距離CXmaxで表示するとともに、
図10の引張り側の最大変位量TXmaxを、
図6(b)で示した引張り側変位表示部材37とケース14の側面14bからの距離TXmaxで表示する。
【0032】
[制振ダンパー及び変位表示装置の効果について]
橋梁に適用した制振ダンパー1は、地震により柱部41と上部工42との水平方向の相対変位Hで発生した振動エネルギーを、軸部材5の軸方向の引張り方向の塑性変形及び圧縮方向の塑性変形で吸収して減少させるので、上部工42の長手方向に沿う1軸方向の制振を確実に行うことができる。
軸部材5の累積変位量は、制振ダンパー1の低サイクル疲労の度合いを算定するための指標であることから、制振ダンパー1の疲労の度合いを、変位表示装置3の累積変位量表示部10を見るだけで容易に判断することができる。
【0033】
変位表示装置3は、地震時に軸部材5が引張り方向、圧縮方向に変位する際の動作が、ラック&ピニオン部8のピニオン12に正逆方向の回転運動として伝達されるとともに、このピニオン12の正逆方向の回転運動が、一方向回転変換部9を構成する複数の回転伝達要素に伝達されてR1方向の回転(本発明の一方向の回転に対応している)に変換され、この一方向の回転が累積変位量表示部10の表示回転軸31に伝達されることで、電力を使用せずに機械式で軸部材5の累積変位量を表示することができる。したがって、電源が無い場所や、バッテリーなどの電源の交換が容易にできない場所であっても、制振ダンパー1を構成している軸部材5の累積変位量を測定することができる。
【0034】
変位表示装置3の一方向回転変換部9は、ラック&ピニオン部8のピニオン12から正逆方向の回転運動が伝達される第1回転軸19に、回転伝達方向が互いに異なる第1ワンウェイクラッチ21及び第2ワンウェイクラッチ22が軸方向に離間して同軸に固定されており、変位表示装置3の小型化を図ることができる。
また、制振ダンパー1に最大変位量表示部4を備えているので、制振ダンパー1の疲労に関わる歪みの度合いを、目視で簡単に測定することができる。
また、最大変位量表示部4は、ラック&ピニオン部8を構成しているラック部材11に圧縮側変位表示部材36及び引張り側変位表示部材37を配置した簡便な構造としているので、製造コストの低減化を図ることができる。
【0035】
なお、第1実施形態では、制振ダンパー1のダンパー本体2を、軸部材5及び補剛部材7を備えた軸降伏型のダンパーとしたが、座屈拘束ブレース、鋼材ダンパー、鉛ダンパー、摩擦ダンパー、シリンダー型ダンパー、オイルダンパー、粘弾性体ダンパー、せん断ダンパー、曲げ降伏型ダンパー、せん断パネル型ダンパー、鋼管ダンパー、アンボンドプレース、波形鋼板ダンパー、慣性質量ダンパー、回転慣性質量ダンパーの何れかであっても、同様の効果を奏することができる。
また、変位表示装置3は、補剛部材7と構造物連結部材6aとの間で生じる相対変位(直線運動)を正逆方向の回転運動に変換するラック部材11及びピニオン12を備えたラック&ピニオン部8を備えているが、ピニオン12をゴム車(不図示)に替え、ゴム車に回転運動を伝達する摩擦板をラック部材11に替えた構造としても同様の効果を奏することができる。
【0036】
また、第1実施形態の一方向回転変換部9は、第1クラッチ歯車23、第2クラッチ歯車24、第1分岐歯車26、第2分岐歯車27、第3分岐歯車29及び合成歯車30を備えているが、例えばプーリ及びベルトを使用した回転伝達要素を使用しても、同様の効果を奏することができる。
さらに、
図9において紙面の表裏方向に制振ダンパー1が延在した状態で柱部41及び上部工42の間に連結されていても、前述した効果を奏することができる。
【0037】
[第2実施形態の減速機構]
図2の一方向回転変換部9では、入力軸17の回転を減速する機構としてウォームギア式減速機構(ウォーム18及びウォーム歯車20)を使用したが、この減速機構は、
図2で示した一方向回転変換部9の第1ワンウェイクラッチ21及び第2ワンウェイクラッチ22に発生する遊びが、
図10で示した軸部材5の変位初期で発生する遊びδに相当するように調整するためのものである。
【0038】
ここで、
図2で示したウォームギア式減速機構に替えて、
図11(a)で示すタンジェントスクリュー式減速機構50を採用してもよい。なお、第1回転軸19には、
図2と同様に第1ワンウェイクラッチ21及び第2ワンウェイクラッチ22が固定されている。
図11(a)のタンジェントスクリュー式減速機構50は、入力軸17の外周に形成した雄ねじ51と、雄ねじ51に螺合する雌ねじ(不図示)が形成され、入力軸17の回転によって入力軸17の軸方向に移動する軸方向移動部材52と、軸方向移動部材52の入力軸17の軸方向の移動を第1回転軸19にR1方向の回転、或いはR2方向の回転として伝達する回転伝達部材53と、を備えている。なお、R1方向及びR2方向の回転は、
図3で示したR1方向(右回り)の回転、R2方向(左回り)の回転である。
【0039】
回転伝達部材53は、軸方向移動部材52から突出している突起54と、一端側が第1回転軸19に固定され、他端側に突起54を挿通する長穴55が形成されている回転伝達板56とで構成されている。
図1で示したように、補剛部材7と構造物連結部材6aとの相対変位は、軸部材5の軸方向の伸縮変位によって生じる。軸部材5の軸方向の伸縮変位は、軸方向に作用する圧縮及び引張りの軸荷重により生じる。
図11(a)は、軸部材5が引張り方向に変位したときのタンジェントスクリュー式減速機構50の動作を示し、
図11(b)は、軸部材5が圧縮方向に変位したときのタンジェントスクリュー式減速機構50の動作を示している。
【0040】
軸部材5が引張り方向に変位すると、
図11(a)に示すように、ラック部材11の往動作によりラック歯11aに噛合しているピニオン12が正回転し、このピニオン12の回転により軸方向移動部材52が矢印方向に移動する。この軸方向移動部材52の移動により、突起54が長穴55の軸方向に移動しながら回転伝達板56を矢印方向に移動させることで第1回転軸19にR1方向の回転を伝達する。そして、第1回転軸19に伝達されたR1方向の回転は、
図5(a)で示した状態と同様に一方向回転変換部9に伝達される。
【0041】
また、軸部材5が圧縮方向に変位すると、
図11(b)に示すように、ラック部材11の復動作によりピニオン12が逆回転し、このピニオン12の逆回転により軸方向移動部材52が矢印方向に移動する。この軸方向移動部材52の移動により、突起54が長穴55の軸方向に移動しながら回転伝達板56を矢印方向に移動させることで第1回転軸19にR2方向の回転を伝達する。そして、第1回転軸19に伝達されたR2方向の回転は、
図5(b)で示した状態と同様に一方向回転変換部9に伝達される。
なお、
図2で示したウォームギア式減速機構(ウォーム18及びウォーム歯車20)、
図11(a)、(b)で示したタンジェントスクリュー式減速機構50の他の構造の減速機構として、遊星変速ギヤを使用した減速機構を採用してもよい。
【0042】
[第3実施形態の累積変位量表示部]
次に、
図12は、第3実施形態の累積変位量表示部60を示すものである。
第3実施形態の累積変位量表示部60は、表示台61上を直線運動する表示移動部材62と、表示移動部材62の表面に表示されている表示部63と、一方向回転変換部9の出力軸28から一方向の回転が伝達される直線運動変換部64と、表示台61に形成され、直線運動した表示移動部材62の所定位置を指し示すマーク65と、を備えている。
表示移動部材62の具体的な構成は、上面にラック歯(不図示)を規制したラック部材であり、表示台61に設けた支持部材(不図示)により直線運動可能に配置されている。
また、直線運動変換部64の具体的な構成は、表示移動部材62のラック歯に係合するピニオンである。
【0043】
表示部63は、表示移動部材62の長手方向に並んで形成された表示領域63a,63b,63cで構成されている。表示領域63aは例えば青色、表示領域63bは例えば黄色、表示領域63cは例えば赤色で表示されており、軸部材5の累積変位量に対応して識別されており、青色の表示領域33a、黄色の表示領域33b、赤色の表示領域33cの順に累積変位量が多くなることを示している。
そして、表示台61に形成したマーク65が、表示部63の所定の表示領域(例えば表示領域63a)を指し示す。
【0044】
そして地震時に軸部材5が引張り方向、圧縮方向に変位する際の動作が、一方向回転変換部9の出力軸28にR1方向の回転として伝達され、このR1方向の回転が直線運動変換部64に伝達されて表示移動部材62が直線運動することで、マーク65が表示部63の所定の表示領域を指し示す。
したがって、第3実施形態の累積変位量表示部60も、電力を使用せずに機械式で軸部材5の累積変位量を表示することができる。
なお、第1〜第3実施形態の変位表示装置3は、振動エネルギーを吸収する制振ダンパー1のダンパー本体2に装着されるものとして説明したが、例えば免震装置に装着して累積変位量及び最大変位量を表示する装置として使用しても、同様の効果を発揮することができる。