特許第6546563号(P6546563)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6546563
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】低キャパシティー冷却用三元組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20190705BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20190705BHJP
   C09K 3/30 20060101ALI20190705BHJP
【FI】
   C09K5/04 F
   C09K5/04 E
   C09K3/00 111B
   C09K3/30 J
   C09K3/30 K
   C09K3/30 N
   C09K3/30 T
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-104907(P2016-104907)
(22)【出願日】2016年5月26日
(62)【分割の表示】特願2012-528413(P2012-528413)の分割
【原出願日】2010年8月20日
(65)【公開番号】特開2016-194077(P2016-194077A)
(43)【公開日】2016年11月17日
【審査請求日】2016年6月22日
【審判番号】不服2018-2829(P2018-2829/J1)
【審判請求日】2018年2月28日
(31)【優先権主張番号】0956249
(32)【優先日】2009年9月11日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100092277
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100155446
【弁理士】
【氏名又は名称】越場 洋
(72)【発明者】
【氏名】ラシェド, ウィザム
【合議体】
【審判長】 冨士 良宏
【審判官】 川端 修
【審判官】 日比野 隆治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/059677(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/023923(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00− 5/20
F25B 1/00− 7/00
C11D 1/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
向流モードまたは向流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムでの1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)を代替する熱伝達流体としての使用であって、
上記熱伝達流体が10〜5重量%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)と、25〜80重量%の1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)と、5〜10重量%のジフルオロメタン(HFC−32)とから成る三元組成物であることを特徴とする使用。
【請求項2】
上記三元組成物が10〜45重量%の2,3,3,3−テトラフルオロプロペンと、50〜80重量%のHFC−134aと、5〜10重量%のHFC−32とから成る請求項1に記載の使用。
【請求項3】
上記三元組成物が安定剤および/または潤滑剤をさらに含む請求項1または2に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む組成物の熱媒体流体、発泡剤、溶剤およびエーロゾルとしての使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気のオゾン層を枯渇させる物質に起因する問題(オゾン減損ポテンシャル(ODP)がモントリオールで論議され、クロロフルオロカーボン(CFC)の生産および使用を減らすことが合意され、このプロトコールの改正でCFCの廃棄が決められ、ヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)を含む他の化合物への規制が広げられた。
【0003】
冷凍および空調工業ではこれら冷媒の代替物に対する大きな投資がなされてきた。その結果、ハイドロフルオロカーボン(HFC)が市場に出た。また、発泡剤または溶剤として使われる(ハイドロ)クロロフルオロカーボンもHFCに置換された。
【0004】
自動車の工業では多くの国において、市場に出される車両用空調システムがクロロフルオロカーボン冷媒(CFC-12)からオゾン層に有害でないハイドロフルオロカーボン(1,1,1,2-テトラフルオロエタン:HFC-134a)冷媒に変わった。しかし、このHFC-134a(GWP =1300)は京都プロトコルの目標に対しては温室効果が高いとみなされる。温室効果に対する貢献度は、二酸化炭素を基準値1とした地球温暖化ポテンシャルGWP(温室効果を要約した判定基準)で定量化される。
【0005】
二酸化炭素は毒性がなく、不燃性で、GWPが非常に低く、空調システムの冷媒としてHFC-134aの代替物として提案されたが、二酸化炭素の使用には既存の機器および技術での冷媒として使用するには多くの欠点、特に超高圧を必要とするという欠点がある。
【0006】
特許文献1(国際特許第WO2004/037913号公報)には、3つまたは4つの炭素原子を有するフルオロプロペンを有する少なくとも一種のフルオロアルケン、特にペンタフルオロプロペンとテトラフルオロプロペンとを含む組成物、好ましくはGWPが最大で150の組成物の熱熱伝達流体体としての使用が記載されている。
【0007】
特許文献2(国際特許第WO 2005/105947号公報)には発泡剤、例えばジフルオロメタン、ペンタフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ジフルオロエタン、ヘヌタフルオロプロパン、ヘキサフルオロプロパン、ペンタフルオロプロパン、ペンタフルオロブタン、水および二酸化炭素にテトラフルオロプロペン、好ましくは1,3,3,3-テトラフルオロプロペンを加えることが記載されている。
【0008】
特許文献3(国際特許第WO2006/094303号公報)には、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HF0-1234yf)とジフルオロメタン(HFC-32)および2,3,3,3-テトラフルオロ−プロピレンとジフルオロメタン(HFC-152a)の二元組成物が記載されている。
【0009】
この文献には1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)と、ジフルオロメタン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンおよびHFC-134aとを組み合わせた四元混合物も記載されている。しかし、1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペンには毒性がある。
【0010】
特許文献3(国際特許第WO2006/094303号公報)には2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを、イオドトリフルオロメタン(CF3I)、HFC-32およびHFC-134aとを組み合わせた四元混合物も記載されている。しかしCF3 IのODPはゼロではなく、安定性および腐食性に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際特許第WO2004/037913号公報
【特許文献2】国際特許第WO 2005/105947号公報
【特許文献3】国際特許第WO2006/094303号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の欠点がなく、ODPがゼロで、GWPがHFC-134aのような既存の熱伝達流体より小さい2,3,3,3-テトラフルオロプロペン組成物を見出した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
熱伝達流体として使われる本発明の組成物はHFC-134aによって与えられる値に匹敵する値のコンプレッサ出口温度と圧力レベルを有し、圧縮比はそれ以下である。本発明組成物はコンプレッサの方法を変えずにHFC-134aを代替することができる。
【0014】
熱伝達流体として使われる本発明組成物は、HFC-134aの容積キャパシティー(116〜133%の間)より大きい容積キャパシティーを有する。この性質によって本発明組成物はより小型のコンプレッサを使用でき、同じ加熱または冷却キャパシティーを有することができる。
【0015】
本発明で使用する組成物は基本的に10〜90重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、5〜80重量%のHFC-134aと、5〜10重量%のHFC-32とを含む。
【0016】
本発明組成物は基本的に10〜45重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、50〜80重量%のHFC-134aと、5〜10重量%のHFC-32とを含む。
【0017】
本発明組成物は圧縮システム、好ましくは向流モードまたは向流傾向を有する交差流モードの熱交換器を有する圧縮システムで用いることができ、特に、コンプレッサの単位掃気体容積当たりの容積キャパシティが低い冷却システムに適している。
【0018】
圧縮システムでは、冷媒と熱源との間の熱交換器換が熱伝達流体によって行われる。この熱伝達流体は気体状態(空調および直接膨張式冷凍機では空気)、液体状態(ヒートポンプでは水、グリコール水)または二相混合の状態にある。
【0019】
熱伝達には下記のような種々の方式がある:
(1)二つの流体が平行に配置され、同じ方向に移動する:並流(アンチメソディック(antimethodic))モード、
(2)二つの流体が平行に配置され、逆方向に移動する:向流(メソディック(methodic))モード、
(3)二つの流体が直角に配置される交差流モード:この交差流モードは並流モードまたは向流モードの傾向にできる。
(4)二つの流体の一方が第2の流体が通る大径パイプ中でUターンする。この形状は長さの半分が向流交換器で他の半分が並流交換器であるものと等価:ピンヘッドモード。
【0020】
本発明組成物は固定空調およびヒートポンプにおいてHFC-134aの代替として好ましく有利に使用できる。
【0021】
本発明で使われる組成物は安定化できる。安定剤の量は組成物に対して最大で5重量%にするのが好ましい。
【0022】
安定剤として特にニトロメタン、アスコルビン酸、テレフタル酸、トルトリアゾールまたはベンゾトリアゾールのようなアゾール、トコフェロールのようなフェノール化合物、ハイドロキノン、t- ブチルハイドロキノン、2,6-ジ-tert- ブチル-4-メチルフェノール、エポキシド(アルキル、必要に応じてフッ素化またはパーフッ素化またはアルケニルまたは芳香族)、例えばn-ブチルグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、亜リン酸エステル、ホスフェート、ホスホネート、チオールおよびラクトンが挙げられる。
【0023】
熱伝達剤として使用される本発明組成物は潤滑剤、例えば鉱油、アルキルベンゼン、ポリアルキレン・グリコール、ポリオール・エステルおよびポリビニールエーテルの存在下で使うことができる。
【0024】
本発明組成物は発泡剤、エアーゾルおよび溶剤としても使用できる。
【実施例】
【0025】
実験部分
計算ツール
密度、エンタルピー、エントロピーおよび混合物の液体/蒸気平衡データはRK-Soave式を用いて計算した。この式を使用するには該当混合物中の各純粋化合物の性質に関する知識と、各二成分混合物に対する相互作用係数とが必要である。
【0026】
各純粋化合物に必要なデータは以下の通りである:沸点、臨界温度および臨界圧力、沸点から臨界点までの温度を関数とする圧力曲線および温度を関数とする飽和液体および飽和蒸気の密度。
【0027】
HFC-32、HFC-134a:
これらの化合物のデータは「ASHRAE Handbook 2005、第20章」に記載されており、また、Refrop(冷媒の性質を計算するためにNISTによって開発されたソフトウェア)から入手できる。
【0028】
HFO-1234yf
HFO-1234yfの温度-圧力曲線データは静的方法で測定できる。臨界温度および臨界圧力はSetaramから市販のC80カロリメータを使用して測定される。温度を関数とする飽和密度はパリのEcole des Mines研究所が開発した振動管デンシトメータ法を用いて測定される。
【0029】
二元相互作用係数:
混合物中の各化合物の挙動を表すためにRK-Soave式では二元相互作用係数を使用する。この係数は液体−蒸気平衡の実験データの関数として計算される。液体/蒸気平衡の測定に使われる方法は静的セル分析法である。平衡セルはサファイヤ・チューブから成り、2つの電磁ROLSITMサンプラを備え、それをクライオスタット浴(HUBER HS40)中に没す。可変速度で回転駆動される磁気攪拌機を用いて平衡に達するように加速する。サンプルの解析はカサロメータ(TCD)を使用したガスクロマトグラフィ(HP5890シリーズII)で実行する。
【0030】
HFC-32/HFO-1234yf、HFC-134a/HF0-1234yf:
HFC-32/HFO-1234yf二成分混合物の液体/蒸気平衡の測定は-10℃、30℃、70℃で下記の等温式で求める。HFC-134a /HFO-1234yf二成分混合物の液体/蒸気平衡の測定は20℃で下記の等温式で求める。
【0031】
HFC-32/HFC-134a:
HFC-134a/HFC-32二成分混合物の液体/蒸気平衡データはRefpropから入手にできる。この二元系の相互作用係数の計算には2つの等温式(-20℃と20℃)および2つの等圧曲線(1バールと25バール)を用いる。
【0032】
圧縮システム
スクリュー圧縮機と膨張弁とを有する、向流凝縮器および蒸発器を備えた圧縮システムを考える。この圧縮システムを15℃の過熱および5℃の過冷却で運転する。二次流体と冷媒との間の最少温度差は約5℃とみなされる。
【0033】
コンプレッサの等エントロピー効率は圧縮比に依存する。この効率は下記の式に従って計算する:
【0034】
スクリュー圧縮機の場合、等エントロピー効率の式(1)のa、b、c、dおよびeの定数は「Handbook of air conditioning and refrigeration, page 11.52」に記載の標準データに従って計算される。
【0035】
%CAPはHFC-134aの容積キャパシティに対する各化合物が与える容積キャパシティの比の百分比である。
【0036】
成績係数(COP)はシステムに供給されたまたはシステムで消費された動力に対するシステムをよって供給される有効動力として定義される。
【0037】
ローレンツ成績係数(COPLorenz)は基準の成績係数である。これは温度の関数で、各種流体のCOPを比較するのに使われる。このローレンツ成績係数は下記のように定義される(温度TはKである):
【0038】
空調および冷蔵の場合のローレンツCOPは以下の通りである:
【0039】
加熱の場合のローレンツCOPは以下の通りである:
【0040】
各組成物に対してローレンツ・サイクルの成績係数を対応温度の関数として計算する。%COP/COPLorenzは対応するローレンツサイクルのCOPに対するシステムのCOPの比である。
【0041】
加熱モードでの結果
加熱モードでは、圧縮システムを蒸発器の冷媒入口温度の-5℃と、凝縮器の冷媒入口温度の50℃との間の温度で運転する。システムは45℃で熱を供給する。
【0042】
加熱モード運転条件下での本発明組成物の性能を[表1]に示す。各組成物での各成分(HF0-1234yf、HFC-32、HFC-134a)の値は重量百分率で与えられる。
【0043】
【表1】
【0044】
冷却モードおよび空調モードでの結果
冷却モードでは、圧縮システムを蒸発器の冷媒入口温度の-5℃と凝縮器の冷媒入口温度の50℃との間で運転する。システムは0℃で冷気を出す。
冷却運転条件下の本発明組成物の性能を[表2]に示す。各組成物の各成分(HF0-1234yf、HFC-32、HFC-134a)の値は重量百分率で与えられる。
【0045】
【表2】