特許第6546576号(P6546576)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6546576
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】電圧センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 19/00 20060101AFI20190705BHJP
   G01R 15/14 20060101ALI20190705BHJP
【FI】
   G01R19/00 Y
   G01R15/14 B
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-199722(P2016-199722)
(22)【出願日】2016年10月11日
(65)【公開番号】特開2018-63117(P2018-63117A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2017年12月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(72)【発明者】
【氏名】石原 裕己
(72)【発明者】
【氏名】石居 真
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 実
【審査官】 續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−228367(JP,A)
【文献】 特表2008−526079(JP,A)
【文献】 特開2008−052270(JP,A)
【文献】 特開2005−253187(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0026136(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0080754(US,A1)
【文献】 特開2016−065817(JP,A)
【文献】 特開2008−099020(JP,A)
【文献】 特開2008−066800(JP,A)
【文献】 特開2013−160990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 19/00
G01R 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械的な支持手段によって支持されて浮遊電位となる振動子に対して所定の間隔を有して配置された駆動電極とゼロ電位となるフレームグランドとの間に前記振動子を振動させるべく交流電圧を印加して共振させ、前記振動子に所定の隙間を介して配置された固定電極とフレームグランドとの間に測定対象となる電圧が印加されたときの共振周波数の変化から、前記測定対象となる電圧の大きさを検出するための電圧センサであって、
前記駆動電極に対してゼロ電圧を跨ぐ交流電圧を印加する駆動手段を備え、
前記駆動手段は、交流電圧がゼロ電圧となる毎に、ゼロ電圧到達時点から所定時間ゼロ電圧を維持する
ことを特徴とする電圧センサ。
【請求項2】
前記駆動手段は、前記駆動電極に対して時間平均が略ゼロとなる交流電圧を印加する
ことを特徴とする請求項1に記載の電圧センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポッケルス素子、1/4波長板、偏光子、検光子等を備えた電圧センサが提案されている。この電圧センサでは、光源より出力された光信号が偏光子により偏光されてポッケルス素子に入射し、ポッケルス素子にて電圧の大きさに応じた光変調を受ける。光変調を受けた光信号は1/4波長板を経て検光子へ伝達される。検光子から出力された光信号は所定の光受信器により受信及び検出され、ポッケルス素子に印加された電圧を測定することができる(例えば特許文献1参照)。
【0003】
しかし、特許文献1に記載の電圧センサは、ポッケルス素子、1/4波長板、偏光子、検光子等の部品が必要となり、部品点数の増加を招いてしまう他、光軸のアライメント等が必要となり、組み立てが煩雑化してしまう。
【0004】
そこで、機械的なサスペンションによって支持された振動子と、この振動子にある隙間を介して対向配置された固定電極と、を具備し、固定電極に測定対象である電圧を印加することで、静電引力を振動子に作用させ、振動子の共振周波数が変化することで、測定対象である電圧を算出する電圧センサが提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
この電圧センサでは、測定対象となる電圧が固定電極に印加されると、この電圧による静電引力により、実質的にサスペンションのバネ定数が変化することとなり、振動子の共振周波数が変化することとなる。この変化は、測定対象となる電圧の大きさに一定の相関があることから、変化した共振周波数から測定対象となる電圧の値を測定することができる。このように、特許文献2に記載の電圧センサは、上記光学部品が必要とならず、部品点数の増加を抑え、且つ、光軸のアライメント等も必要とならないことから、組み立ての煩雑化も防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−146875号公報
【特許文献2】特開2013−228367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特許文献2に記載されるような電圧センサにおいて、振動子を振動させるために駆動電極に印加される交流電圧は正のDCバイアスを掛けたものとなっていた。すなわち、振動子は浮遊電位であることから、振動子を振動アクチュエータとしてみた場合において振動効率を考慮して、駆動電極に印加される交流電圧が正のDCバイアスを掛けたものとなっていた。
【0008】
しかし、特許文献2に記載の電圧センサでは、交流振幅の下限値においても正の電圧となるように、駆動電極に正のDCバイアスを掛けた交流電圧を印加している関係上、振動子は常に一方向の電界を受けてチャージアップし、振動子に印加される実質的な電界が変化してしまい、共振周波数に影響が及んで計測のバラつきが大きくなってしまうものであった。なお、この問題は正のDCバイアスを掛けて交流振幅の下限値においても正の電圧となる交流電圧に限らず、負のDCバイアスを掛けて交流振幅の上限値においても負の電圧となる交流電圧についても同様に生じる問題である。
【0009】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、部品点数の増加、及び、組み立ての煩雑化を防止しつつ、計測のバラつきを小さくすることができる電圧センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の電圧センサは、機械的な支持手段によって支持されて浮遊電位となる振動子に対して所定の間隔を有して配置された駆動電極とゼロ電位となるフレームグランドとの間に前記振動子を振動させるべく交流電圧を印加して共振させ、前記振動子に所定の隙間を介して配置された固定電極とフレームグランドとの間に測定対象となる電圧が印加されたときの共振周波数の変化から、前記測定対象となる電圧の大きさを検出するための電圧センサであって、前記駆動電極に対してゼロ電圧を跨ぐ交流電圧を印加する駆動手段を備え、前記駆動手段は、交流電圧がゼロ電圧となる毎に、ゼロ電圧到達時点から所定時間ゼロ電圧を維持することを特徴とする。
【0011】
本発明の電圧センサによれば、駆動電極に対して0Vを跨ぐ交流電圧を印加するため、振動子が常に一方向の電界を受けるということがなく、振動子のチャージアップに基づく振動子に印加される実質的な電界の変化を抑えて共振周波数への影響を抑えることができる。また、ポッケルス素子、1/4波長板、偏光子、検光子等の部品が必要なく、光軸のアライメント等も必要がないため、部品点数の増加、及び、組み立ての煩雑化を防止することができる。従って、部品点数の増加、及び、組み立ての煩雑化を防止しつつ、計測のバラつきを小さくすることができる。
【0013】
さらに、交流電圧がゼロ電圧となる毎に、ゼロ電圧到達時点から所定時間ゼロ電圧を維持するため、振動子のチャージアップがさらに軽減されることとなり、計測のバラつきを一層小さくすることができる。
【0014】
また、上記電圧センサにおいて、前記駆動手段は、前記駆動電極に対して時間平均が略ゼロとなる交流電圧を印加することが好ましい。
【0015】
この電圧センサによれば、駆動電極に対して時間平均が略ゼロとなる交流電圧を印加するため、振動子のチャージアップに基づく振動子に印加される実質的な電界の変化をより一層抑えて共振周波数への影響を一層抑えることができる。よって、計測のバラつきを一層小さくすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、部品点数の増加、及び、組み立ての煩雑化を防止しつつ、計測のバラつきを小さくすることができる電圧センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る電圧センサの原理を示す基本構成図である。
図2】本実施形態に係る電圧センサを示す斜視図である。
図3図2に示したA部の拡大図である。
図4図2に示した電圧センサの上面拡大図である。
図5】本実施形態に係る駆動回路により印加される交流電圧を示す図であり、(a)は第1の例を示し、(b)は第2の例を示し、(c)は第3の例を示し、(d)は第4の例を示している。
図6図2に示した電圧センサの周波数に対するシグナル変化を示すグラフである。
図7】固定電極に印加する電圧と共振周波数との相関を示すグラフであり、正のDCバイアスを掛けた交流電圧(0V〜60V)を駆動電極に印加した場合を示している。
図8】固定電極に印加する電圧と共振周波数との相関を示すグラフであり、時間平均してゼロとなる両極性の交流電圧(−30V〜30V)を駆動電極に印加した場合を示している。
図9】固定電極30に印加する電圧と共振周波数の標準偏差との相関を示すグラフであり、オフセット電圧30Vの交流電圧を駆動電極50に印加した場合と、オフセット電圧0Vの交流電圧を駆動電極50に印加した場合との双方を示している。
図10】オフセット電圧10V及び20Vのときの標準偏差を示す表である。
図11】オフセット電圧10V及び20Vのときの標準偏差の算出手法を示す図であって、(a)はオフセット電圧30Vの波形を示し、(b)はオフセット電圧20Vの波形を示し、(c)はオフセット電圧10Vの波形を示し、(d)はオフセット電圧0Vの波形を示している。
図12】固定電極に印加する電圧と共振周波数との相関を示すグラフであり、ゼロ電圧時において一定の停止時間を設けたオフセット電圧0Vの交流電圧を駆動電極に印加した場合を示している。
図13】固定電極に印加する電圧と共振周波数の標準偏差との相関を示すグラフであり、オフセット電圧0Vの交流電圧を駆動電極に印加した場合(停止時間を設けない場合)と、ゼロ電圧時において一定の停止時間を設けたオフセット電圧0Vの交流電圧を駆動電極に印加した場合(停止時間を設けた場合)との双方を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明するが、本発明は以下の実施形態に限られるものではない。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る電圧センサの原理を示す基本構成図である。図1に示すように、本実施形態に係る電圧センサ1は、機械的なサスペンション(支持手段)10と、振動子20と、固定電極30と、演算部40とを備えている。
【0020】
サスペンション10は、振動子20を支持するものである。このサスペンション10のバネ定数をkとする。振動子20は、サスペンション10により支持された平板電極であり、サスペンション10の弾性力により振動可能となっている。この振動子20の質量をmとする。
【0021】
固定電極30は、振動子20に所定の隙間を介して対向配置された平板電極であり、振動子20とは平行平板電極の関係を有している。なお、振動子20と固定電極30との向かい合った面積をSとする。また、両者間の初期ギャップをgとする。
【0022】
このような電圧センサ1において振動子20に交流電圧が印加されると、振動子20はサスペンション10の弾性力により固定電極30との距離が増減する方向(図中左右方向)に振動する。このとき、振動子20は、
【数1】

なる関係式(1)に基づく共振周波数fで振動することとなる。
【0023】
さらに、固定電極30に測定対象となる電圧が印加されたとする。このとき、固定電極30から振動子20に対して静電引力が付与されて距離xだけ変位する。静電引力は、式(2)に示す等価バネ定数kとして表わすことができる。
【数2】

なお、式(2)においてεはギャップg間の誘電率であり、Vは測定対象となる電圧である。
【0024】
これにより、振動子20は式(3)に示す共振周波数f’で振動することとなる。
【数3】
【0025】
ここで、式(2)の等価バネ定数kは、固定電極30に印加される電圧Vmの大きさに応じて変化することから、式(3)に示す共振周波数f’についても電圧Vmの大きさを反映したものとなる。
【0026】
よって、演算部40は、振動子20の共振周波数f’から測定対象となる電圧Vmの大きさを算出することができる。
【0027】
図2は、本実施形態に係る電圧センサ1を示す斜視図である。図2に示すように、電圧センサ1は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)加工技術を利用して作成されるマイクロ電圧センサである。
【0028】
図2に示すように、この電圧センサ1において振動子20は共振周波数を高めるために、質量が小さくなる細長形状とされている。また、サスペンション10は、細長形状となる振動子20の両端部それぞれに設けられており、両端側から振動子20を支持する構成となっている。さらに、サスペンション10は、それぞれがコの字状に折り返された形状となっている。振動子20は、このような2つのサスペンション10に支持されて浮遊電位となっている。
【0029】
また、この電圧センサ1は、図1に示す構成に加えて、駆動電極50と、各サスペンション10の振動子20の接続側と反対側の端部につながる第1及び第2電極61,62と、ストッパ70とを備えている。図1に示した演算部40は、第1及び第2電極61,62の少なくとも一方に接続される。
【0030】
駆動電極50は、振動子20に隣接して配置されており、交流電圧の印加により振動子20を励起振動させて共振させるものである。図3は、図2に示したA部の拡大図である。図3に示すように、駆動電極50は、振動子20の方向に伸びる櫛歯電極51を備えている。同様に図2に示す振動子20は、駆動電極50の方向に伸びる櫛歯電極21を備えている。互いの櫛歯電極21,51は接触することなく噛み合うように配置されている。
【0031】
このような電圧センサ1は、例えばSOIウェハを加工することにより作成することができる。具体的には、シングルマスクでパターニングを行い、Deep−RIEにてエッチングを行う。可動部である振動子20のリリースは、気相HFを用いて犠牲層エッチングを行う。
【0032】
上記したように振動子20は、振動のためサスペンション10に支持された状態で宙に浮いた構造となっている。なお、実際の製品(デバイス層x:1125μm、y:1585μm、z:25μm)において振動子20は、他の電極30,50に対して最大66nm沈むが、犠牲層は2μmであるため、沈み量は犠牲層の1/30と僅かであり、ハンドル層とは接触しない。また、図示の関係上、櫛歯電極51及び固定電極30についても宙に浮いた構造に見えるかもしれないが、これは犠牲層エッチングが一部進行したためであり、実際にはハンドル層に固定されている。
【0033】
図4は、図2に示した電圧センサ1の上面拡大図である。図2及び図4に示すように、ストッパ70は、振動子20に対して固定電極30側に4つ配置されている(図4では2つのみを図示)。このストッパ70は、電気的にどこにも接続されていない浮遊電極となっている。このようなストッパ70は、本体部71と、バネ部72と、接触部73とを備えている。
【0034】
本体部71は、上面視した場合に略正方形状となっており、この正方形の1つの頂点部から細長のバネ部72が形成されている。バネ部72の先端は、固定電極30よりも振動子20側にやや突き出ている。また、バネ部72は、頂点部から振動子20側に伸びると共に90度に折り返されて正方形の辺に沿って伸び、且つ、再度振動子20側に90度折り返されている。すなわち、バネ部72は、途中で2回90度に折られた形状となっており、この90度の折り返しにより弾性力を有する構成となっている。このようなストッパ70が存在することで、振動子20が静電引力により固定電極30側に過剰に引っ張られたとしても振動子20は接触部73に接触することとなり、振動子20と固定電極30との短絡が防止されることとなる。また、振動子20がストッパ70に接触した場合においても、バネ部72の弾性力が接触時の力を緩和する働きを有するため、接触部73の折れ曲がりや折れ自体が防止されることとなる。
【0035】
次に、本実施形態に係る電圧センサ1の動作を説明する。まず、本実施形態の電圧センサ1において駆動電極50は交流電圧を発生させる。これにより、駆動電極50の電圧により静電引力が発生し、電圧が交流であることから振動子20は所定の共振周波数fを持ち振動することとなる。
【0036】
このとき、固定電極30に測定対象となる電圧Vmが印加されたとする。これにより、式(2)に示した静電引力が発生し、式(3)に示すように振動子20は共振周波数f’を持ち振動することとなる。
【0037】
演算部40は、この共振周波数f’から測定対象となる電圧Vmの大きさを演算することとなる。なお、演算部40は、共振周波数f’を測定するために振動子20の変位量を測定する必要がある。この際、電圧センサ1は振動子20にレーザ光を照射し、反射光の振れ幅から振動子20の変位量を求めることとなる(光学的測定)。また、電圧センサ1は、電極ギャップgが変化することによる静電容量の変化から振動子20の変位量を計測するようにしてもよい(電気的測定)。なお、静電容量から変位量を求める場合、固定電極30をそのまま利用してもよいし、別途変位量を測定するための平行平板電極を設置してもよい。
【0038】
ここで、本実施形態に係る電圧センサ1は、駆動回路(駆動手段)80が駆動電極50に接続されている。振動子20を共振させるための交流電圧は駆動回路80から駆動電極50に印加される。特に、本実施形態において駆動回路80は、駆動電極50に対して0Vを跨ぐ交流電圧を印加し、より好ましくは駆動電極50に対して時間平均(周期単位の時間平均)が略ゼロとなる交流電圧を印加する。
【0039】
図5は、本実施形態に係る駆動回路80により印加される交流電圧を示す図であり、(a)は第1の例を示し、(b)は第2の例を示し、(c)は第3の例を示し、(d)は第4の例を示している。図5(a)に示すように、駆動回路80は、駆動電極50に対して0Vを跨ぐ交流電圧を印加する。この例において、印加される交流電圧は、正(負でも可)に所定量のDCバイアスが掛けられており、その時間平均は略ゼロではない。また、図5(b)に示すように、駆動回路80は、駆動回路80は、交流電圧がゼロ電圧となる毎に、ゼロ電圧到達時点から所定時間ゼロ電圧を維持するようになっていてもよい。すなわち、ゼロ電圧において停止時間を設けるようにしてもよい。さらに、図5(c)に示すように、駆動回路80は、正又は負にDCバイアスを掛けた交流電圧を印加するのではなく、電圧ゼロを中心に正及び負に同じ振幅を有する両極性電圧を印加することが好ましい。加えて、図5(d)に示すように、駆動回路80は、電圧ゼロを中心に正及び負に同じ振幅を有する両極性電圧を印加しつつも、ゼロ電圧において停止時間を設けるようにしてもよい。すなわち、図5(b)と図5(c)との例の組み合わせとしてもよい。
【0040】
このような交流電圧を駆動電極50に印加することにより、振動子20のチャージアップに基づく振動子20に印加される実質的な電界の変化を抑えて共振周波数への影響を軽減することができる。
【0041】
図6は、図2に示した電圧センサ1の周波数に対するシグナル変化を示すグラフである。例えば図5(c)に示した交流電圧を駆動電極50に印加し、その際に振動子20から発生するシグナルを検出する。そして、周波数を変化させていくと、図6に示すように22.73kHz(共振周波数)において急激なシグナル変化が得られる。なお、後述の図8にも示すように、固定電極30に印加する電圧Vmが大きくなると、上記のシグナル変化が得られる周波数(共振周波数)は単調減少することとなり、電圧センサ1として充分機能することがわかった。
【0042】
図7は、固定電極30に印加する電圧Vmと共振周波数との相関を示すグラフであり、正のDCバイアスを掛けた交流電圧(0V〜60V)を駆動電極50に印加した場合を示している。また、図8は、固定電極30に印加する電圧Vmと共振周波数との相関を示すグラフであり、時間平均してゼロとなる両極性の交流電圧(−30V〜30V)を駆動電極50に印加した場合を示している。なお、正のDCバイアスを掛けた交流電圧(0V〜60V)をオフセット電圧30Vの交流電圧と称し、時間平均してゼロとなる両極性の交流電圧(−30V〜30V)をオフセット電圧0Vの交流電圧と称する。
【0043】
なお、図7及び図8に示すグラフにおいては、固定電極30に印加する電圧Vmを0V、20V、40V、50V、60V、及び80Vとし、それぞれの電圧において共振周波数を10回測定した。共振周波数の測定については、上記の電気的測定を利用して行った。
【0044】
図7に示すように、オフセット電圧30Vの交流電圧を駆動電極50に印加した場合、固定電極30に印加する電圧Vmが0V、20V、40V、50V、60V、及び80Vのいずれにおいても0.005kHz〜0.013kHz程度の計測のバラつきが発生した。
【0045】
これに対して、図8に示すように、オフセット電圧0Vの交流電圧を駆動電極50に印加した場合、固定電極30に印加する電圧Vmが40Vであるときに0.003kHz程度の計測のバラつきが見られたが、その他の電圧(0V、20V、40V、50V、60V、及び80V)では、ほぼ計測のバラつきが見られなかった。
【0046】
図9は、固定電極30に印加する電圧と共振周波数の標準偏差との相関を示すグラフであり、オフセット電圧30Vの交流電圧を駆動電極50に印加した場合と、オフセット電圧0Vの交流電圧を駆動電極50に印加した場合との双方を示している。
【0047】
図9に示すように、オフセット電圧30Vの交流電圧を駆動電極50に印加した場合、固定電極30に印加する電圧Vmが0V、20V、40V、50V、60V、及び80Vのそれぞれにおいて、標準偏差はいずれも0.0015kHz以上となった。特に、固定電極30に印加する電圧Vmが80Vである場合の標準偏差は0.0035kHz弱となった。そして、正のDCバイアスを掛けた交流電圧を駆動電極50に印加した場合の、標準偏差の平均値は0.00233kHzとなった。
【0048】
これに対して、オフセット電圧0Vの交流電圧を駆動電極50に印加した場合、固定電極30に印加する電圧Vmが40Vであるときの標準偏差が0.0010kHz弱を示したものの、その他の電圧(0V、20V、50V、60V、及び80V)では、標準偏差が0.0002kHz以下となった。そして、時間平均してゼロとなる両極性の交流電圧を駆動電極50に印加した場合の、標準偏差の平均値は0.00019kHzとなった。
【0049】
以上より、オフセット電圧0Vの交流電圧を駆動電極50に印加した場合の標準偏差は、オフセット電圧30Vの交流電圧を駆動電極50に印加した場合の標準偏差の10分の1以下になり、計測のバラつきが小さくなった。
【0050】
また、オフセット電圧が10Vや20Vの交流電圧(振幅±30V)であっても、オフセット電圧30Vの場合よりも上記標準偏差が小さくなり、計測のバラつきが小さくなると予測される。
【0051】
図10は、オフセット電圧10V及び20Vのときの標準偏差を示す表である。なお、図10においては、オフセット電圧0V及び30Vのときの標準偏差についても示す。また、図11は、オフセット電圧10V及び20Vのときの標準偏差の算出手法を示す図であって、(a)はオフセット電圧30Vの波形を示し、(b)はオフセット電圧20Vの波形を示し、(c)はオフセット電圧10Vの波形を示し、(d)はオフセット電圧0Vの波形を示している。
【0052】
まず、図11(a)に示すように、オフセット電圧30Vの場合において、ゼロ電圧を超える部位の面積(図11(a)において「+」の部分)から、ゼロ電圧未満の部位の面積(図11(a)において無し)を減算して得られる面積を「1」とする。また、この場合における共振周波数の標準偏差は、図10に示すように、0.00233kHzである。
【0053】
また、図11(d)に示すように、オフセット電圧0Vの場合において、ゼロ電圧を超える部位の面積(図11(d)において「+」の部分)から、ゼロ電圧未満の部位の面積(図11(d)において「−」の部分)を減算して得られる面積は「0」である。また、この場合における共振周波数の標準偏差は、図10に示すように、0.00019kHzである。
【0054】
以上のデータに基づいて、面積比率の関係から、オフセット電圧10V及び20Vのときの標準偏差を算出すると、図11(b)に示すように、オフセット電圧20Vの場合において、ゼロ電圧を超える部位の面積(図11(b)において「+」の部分)から、ゼロ電圧未満の部位の面積(図11(b)において「−」の部分)を減算して得られる面積は図11(a)に示す場合を「1」としたとき、「0.66」である。このため、共振周波数の標準偏差についても同様に比率から、0.00162kHzであるといえる(図10参照)。
【0055】
また、図11(c)に示すように、オフセット電圧10Vの場合において、ゼロ電圧を超える部位の面積(図11(c)において「+」の部分)から、ゼロ電圧未満の部位の面積(図11(c)において「−」の部分)を減算して得られる面積は図11(a)に示す場合を「1」としたとき、「0.33」である。このため、共振周波数の標準偏差についても同様に比率から、0.00090kHzであるといえる(図10参照)。
【0056】
このように、図11(b)及び図11(c)に示す場合であっても、図11(a)に示す場合よりも、共振周波数のバラつきを抑えるといえる。すなわち、駆動電極50に対して時間平均がゼロとなる交流電圧を印加する場合に限らず、駆動電極50に対して0Vを跨ぐ交流電圧を印加した場合であっても一定の効果が得られるといえる。
【0057】
図12は、固定電極30に印加する電圧と共振周波数との相関を示すグラフであり、ゼロ電圧時において一定の停止時間を設けたオフセット電圧0Vの交流電圧を駆動電極50に印加した場合を示している。
【0058】
図12に示すように、ゼロ電圧時において一定の停止時間を設け時間平均してゼロとなる交流電圧を駆動電極50に印加した場合、固定電極30に印加する電圧Vmが0V、20V、40V、50V、60V、及び80Vのいずれにおいても計測のバラつきが確認されなかった。
【0059】
図13は、固定電極30に印加する電圧と共振周波数の標準偏差との相関を示すグラフであり、オフセット電圧0Vの交流電圧を駆動電極50に印加した場合(停止時間を設けない場合)と、ゼロ電圧時において一定の停止時間を設けたオフセット電圧0Vの交流電圧を駆動電極50に印加した場合(停止時間を設けた場合)との双方を示している。
【0060】
停止時間を設けない場合の標準偏差は、上記したように、固定電極30に印加する電圧Vmが40Vであるときに0.0010kHz弱を示し、その他の電圧(0V、20V、50V、60V、及び80V)で0.0002kHz以下を示し、平均値が0.00019kHzとなった。
【0061】
一方、停止時間を設けた場合の標準偏差は、全ての電圧(0V、20V、40V、50V、60V、及び80V)において約0.0001kHz以下を示し、平均値が0.00007kHzとなった。
【0062】
以上より、停止時間を設けた場合の標準偏差は、停止時間を設けない場合の標準偏差の2分の1以下になり、計測のバラつきが一層小さくなった。
【0063】
このようにして、本実施形態に係る電圧センサ1によれば、駆動電極50に対して時間平均がゼロとなる交流電圧を印加するため、振動子20は常に一方向の電界を受けることがない。よって、振動子20のチャージアップに基づく振動子20に印加される実質的な電界の変化を抑えて共振周波数に影響が及んでしまうことを防止することができる。故に、計測のバラつきを小さくすることを防止できる。また、ポッケルス素子、1/4波長板、偏光子、検光子等の部品が必要なく、光軸のアライメント等も必要がないため、部品点数の増加、及び、組み立ての煩雑化を防止することができる。従って、部品点数の増加、及び、組み立ての煩雑化を防止しつつ、計測のバラつきを小さくすることができる。
【0064】
また、交流電圧がゼロ電圧となる毎に、ゼロ電圧到達時点から所定時間ゼロ電圧を維持するため、振動子20のチャージアップがさらに軽減されることとなり、計測のバラつきを一層小さくすることができる。
【0065】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。
【0066】
例えば、本実施形態において振動子20は、細長形状となっているが、これに限らず、リング形状などの他の形状であってもよい。すなわち、図1に示す原理に基づいて電圧を測定できるのであれば、振動子20の形状を問うものではない。よって、リング型の振動子を用い、これをワイングラスモード振動させるものであってもよいし、他のものであってもよい。
【0067】
また、本実施形態において振動子20と駆動電極50とは、櫛歯電極21,51を備えているが、これに限らず、充分に静電引力を発生させて振動子20を振動させることができれば、特に櫛歯電極21,51を備えていなくともよい。
【符号の説明】
【0068】
1 :電圧センサ
10 :サスペンション(支持手段)
20 :振動子
21 :櫛歯電極
30 :固定電極
40 :演算部
50 :駆動電極
51 :櫛歯電極
61 :第1電極
62 :第2電極
70 :ストッパ
71 :本体部
72 :バネ部
73 :接触部
80 :駆動回路(駆動手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13