特許第6546583号(P6546583)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6546583
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】疎水化処理蛍光体及び発光装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20190705BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20190705BHJP
   H01L 33/50 20100101ALI20190705BHJP
【FI】
   C09K11/08 G
   C09K11/64
   H01L33/50
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-511983(P2016-511983)
(86)(22)【出願日】2015年4月1日
(86)【国際出願番号】JP2015060387
(87)【国際公開番号】WO2015152341
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2018年3月7日
(31)【優先権主張番号】特願2014-76400(P2014-76400)
(32)【優先日】2014年4月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】野見山 智宏
(72)【発明者】
【氏名】三谷 駿介
(72)【発明者】
【氏名】野々垣 良三
【審査官】 厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−237713(JP,A)
【文献】 特開2013−173868(JP,A)
【文献】 特開2012−177049(JP,A)
【文献】 特開2005−187797(JP,A)
【文献】 特開2009−167338(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/093427(WO,A1)
【文献】 特公平05−052919(JP,B2)
【文献】 特表2014−503643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00 − 11/89
H01L 27/32
H05B 33/00 − 33/28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式Si6−zAl8−z:Eu2+(zは0より大きく4.2以下である)で表される蛍光体粒子と、
蛍光体粒子の表面に付着させた疎水化物質からなる表面層とを有し、
疎水化物質が炭素数12以上の長鎖脂肪酸、粘度1.5Pa・s以下のシリコーンオイル、又はこれらの両方からなる、疎水化処理蛍光体。
【請求項2】
請求項1に記載の疎水化処理蛍光体と発光素子とを備える発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止樹脂との界面で剥離を生じにくい疎水化処理蛍光体、及び、この疎水化処理蛍光体を用いたことにより輝度及び発光色の経時的変化が小さく長期安定性に優れた発光装置に関する。より詳しくは、β型サイアロン蛍光体粒子の表面に特定の疎水化物質を付着させることによって疎水性の表面層を形成した疎水化処理蛍光体、及び、この疎水化処理蛍光体を封止樹脂に分散させたものを発光素子を搭載した発光面に塗布して硬化させた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
Eu2+を固溶したβ型サイアロンは、一般式:Si6−zAl8−z(zは0より大きく4.2以下)で示されるβ型サイアロンをホスト結晶とし、発光中心としてEu2+を固溶した酸窒化物蛍光体であり、紫外から青色の光で励起され、520〜560nmの緑色発光を示す(特許文献1)。Eu2+で付活したβ型サイアロン蛍光体は、温度上昇に伴う輝度低下が小さく、耐久性に優れていることから、発光装置における発光ダイオード(以下、LEDという。)用の緑色発光蛍光体として広く用いられている。
【0003】
このような蛍光体を発光装置に実装する場合、一般に、蛍光体をエポキシ樹脂、ポリカーボネート、シリコンゴムなどの透光な封止樹脂に分散させてスラリーとし、このスラリーを発光面の発光素子を取り囲むように塗布して硬化させることが行われている。
【0004】
しかしながら、従来のβ型サイアロン蛍光体は、封止樹脂との濡れ性が十分でないために封止樹脂との密着性が低く、蛍光体と封止樹脂との界面で剥離を生じる場合があった。界面に生じた剥離は光の屈折や散乱を引き起こすため、経時的に封止樹脂との界面に剥離が蓄積していくことによって、輝度低下や色ズレが生じることになる。このため、β型サイアロン蛍光体自体は耐熱性や耐久性に優れていても、その特性を十分に引き出すことが難しく、長期安定性を実現できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−303331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、β型サイアロン蛍光体粒子の表面に特定の疎水化物質を付着させ、疎水化物質からなる薄膜状の表面層を設けることにより、封止樹脂との界面において剥離を生じにくくなることを見出した。また、この疎水化物質による表面層を有する蛍光体(以下、「疎水化処理蛍光体」と称する)を用いることにより、輝度及び発光色の経時的変化が小さく、長期安定性に優れる発光装置が得られることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、
一般式Si6−zAl8−z:Eu2+(zは0より大きく4.2以下である)で表される蛍光体粒子と、
蛍光体粒子の表面に付着させた疎水化物質からなる表面層とを有し、
疎水化物質が炭素数12以上の長鎖脂肪酸、粘度1.5Pa・s以下のシリコーンオイル、又はこれらの両方からなる、疎水化処理蛍光体を要旨とする。
【0008】
また、本発明は、上記の疎水化処理蛍光体と発光素子とを備える発光装置を要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の疎水化処理蛍光体は、蛍光体粒子の表面に特定の疎水化物質からなる表面層が設けられていることにより、従前のβ型サイアロン蛍光体よりも封止樹脂との密着性に優れ、封止樹脂との界面で剥離を生じにくい。また、この疎水化処理蛍光体を用いることにより、本発明の発光装置は、輝度及び発光色の経時的変化が小さく長期安定性に優れている。具体的には、気温85℃、相対湿度85%の環境下、150mAで1000時間通電させた後のJIS Z8701に基づく色度座標CIEy値のズレを、通電前の値に対して±5%の範囲内に抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<疎水化処理蛍光体>
本発明の疎水化処理蛍光体は、一般式Si6−zAl8−z:Eu2+(zは0より大きく4.2以下である)で表されるβ型サイアロンの蛍光体粒子の表面に疎水化物質を薄膜状に付着させたものである。
【0011】
<蛍光体粒子>
本発明の疎水化処理蛍光体に用いられる蛍光体粒子は、一般式Si6−zAl8−z(zは0より大きく4.2以下である)で示されるβ型サイアロンの母体結晶に、発光中心であるEu2+が固溶したものであり、上記特許文献1等に記載される周知のβ型サイアロン蛍光体を用いることができる。
【0012】
発光効率の観点から、蛍光体粒子がβ型サイアロン結晶相を高純度で極力多く含んでいること、できればβ型サイアロン結晶の単相から構成されていることが望ましいが、特性が低下しない範囲であれば、若干量の不可避的な非晶質相及び他の結晶相を含んでいても構わない。
【0013】
蛍光体粒子の平均粒径は、あまりに小さいと発光強度が低く、なおかつ、光を散乱しやすい傾向があり、また、封止樹脂への均一分散も困難になる傾向がある。一方、蛍光体粒子の平均粒径があまりに大きいと、発光強度及び色調のバラツキを生じる傾向がある。このため、蛍光体粒子の体積基準の積算分率における50%径(D50)は、1μm以上30μm以下であることが好ましい。
【0014】
<疎水化物質>
疎水化物質は、蛍光体粒子の表面に付着して薄膜状の表面層を形成することにより、蛍光体粒子の疎水性物質に対する親和性の尺度である「疎水化度」を向上させる。疎水化度を向上させることにより、封止樹脂との濡れ性が改善され、封止樹脂との界面における剥離の発生が抑制される。
本発明における「疎水化度」は、以下の方法によって測定される。
(1)500mlの三角フラスコに測定対象の疎水化処理蛍光体0.2gを秤量する。
(2)イオン交換水50mlを(1)に加え、スターラーにて撹拌する。
(3)撹拌をしたままビュレットよりメタノールを滴下させ、疎水化処理蛍光体の全量がイオン交換水に懸濁された時の滴下量を測定する。
(4)次式より疎水化度を求める。
疎水化度(%)=[メタノール滴下量(ml)]×100/[メタノール滴下量(ml)+イオン交換水量(ml)]
本発明の疎水化処理蛍光体の疎水化度は、10%以上であり、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは75%以上である。疎水化度が10%以上であれば、封止樹脂との界面における剥離の発生を十分に減少させることができる。
【0015】
疎水化度を10%以上とすることができる疎水化物質としては、炭素数12以上の長鎖脂肪酸、粘度1.5Pa・s以下のシリコーンオイルのいずれか一方又は両方を使用することができる。
炭素数12以上の長鎖脂肪酸としては、典型的には炭素数が12〜30、より好ましくは炭素数が12〜22の、飽和又は不飽和の高級脂肪酸を用いることができる。本発明で使用することができる炭素数12以上の長鎖脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、オレイン酸(C18)、ステアリン酸(C18)、リノール酸(C18)、及びベヘン酸(C22)を挙げることができる。
【0016】
粘度1.5Pa・s以下のシリコーンオイルとしては、典型的には粘度が0.01〜1.5Pa・sの範囲、より好ましくは粘度が0.04〜0.8Pa・sの範囲のシリコーンオイルを使用することができる。シリコーンオイルの粘度が高すぎると、表面層の厚みを均一に形成できない場合があり、シリコーンオイルの粘度が低すぎると、蛍光体粒子表面への付着性が低下して十分な疎水化度を達成できない場合がある。粘度の測定は25℃にて行う。
本発明で使用することができる粘度1.5Pa・s以下のシリコーンオイルとしては、例えば、ヒドロキシ末端ジメチルポリシロキサン、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、エポキシ・ポリエーテル変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル等が挙げられる。
【0017】
<表面層の形成>
蛍光体粒子の表面に、疎水化物質を薄膜状に付着させる方法は、蛍光体粒子と疎水化物質とを均一に混合することができれば特に限定されるものではない。
また、疎水化物質は、単独で使用してもよいが、蛍光体粒子との均一な混合を助けるために、疎水化物質を溶解できる溶媒に混合して使用してもよい。このような溶媒としては、例えば、エタノール等が挙げられる。
【0018】
蛍光体粒子に対する疎水化物質の添加量は、形成される表面層の厚みが0.02μm以上0.5μm以下、より好ましくは0.04μm以上0.2μm以下となる量が好ましい。表面層の厚みは、蛍光体粒子と疎水化物質との混合比率を変えることによって調節することができる。典型的には、疎水化物質は、蛍光体粒子100質量%に対して1.0質量%以上5.0質量%以下となるように混合することが好ましい。疎水化物質の付着量又は表面層の厚みが少なすぎると、封止樹脂に分散させた際に封止樹脂との界面での剥離防止効果が不十分になる傾向があり、疎水化物質の量が多すぎると界面近傍における封止樹脂の硬化が阻害され、経時的な色ズレを生じることがある。
【0019】
<発光装置>
本発明の発光装置は、少なくとも上記の疎水化処理蛍光体を含む蛍光体と、発光素子とを備える。発光装置としては、照明装置、バックライト装置、画像表示装置及び信号装置等がある。
発光素子は240〜500nmの波長の光を発するものが望ましく、なかでも420nm以上500nm以下の青色LED発光素子が好ましい。
【0020】
発光装置に使用する蛍光体としては、本発明の疎水化処理蛍光体に加えて、他の蛍光体を併用することができる。本発明の疎水化処理蛍光体と併用できる他の蛍光体は、特に限定されるものではなく、発光装置に要求される輝度や演色性等に応じて適宜選択可能である。本発明の疎水化処理蛍光体と他の発光色の蛍光体とを混在させることにより、昼白色〜電球色の様々な色温度の白色を実現することができる。
【0021】
本発明の疎水化処理蛍光体を含む蛍光体は、封止樹脂に分散させてスラリーとし、このスラリーを発光面の発光素子を取り囲むように成形することによって発光装置に実装される。
封止樹脂としては、常温で流動性を有するシリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができ、例えば、東レ・ダウコーニング株式会社製JCR6175を挙げることができる。
本発明の疎水化処理蛍光体を含む蛍光体は、封止樹脂に対して30質量%以上50質量%以下となるように混合して用いることが好ましい。
【0022】
本発明の発光装置は、疎水化処理蛍光体を用いることから、封止樹脂との界面で剥離を生じにくい。このため、経時的な輝度低下及び色ズレが小さく、長期安定性に優れている。
【実施例】
【0023】
本発明を以下に示す実施例によってさらに詳しく説明する。
【0024】
[実施例1〜7及び比較例1〜3]
実施例1〜7及び比較例1〜3は、いずれもSi6−zAl8−z:Eu2+(z=0.04)で表されるβ型サイアロン蛍光体に基づくものである。比較例1は、蛍光体粒子の表面に疎水化物質からなる表面層を設けていない従来の蛍光体であり、比較例2及び3は、本発明に規定する疎水化物質とは異なる物質で表面処理した蛍光体である。一方、実施例1〜7は蛍光体粒子の表面に本発明に規定する特定の疎水化物質を付着させて表面層を形成した疎水化処理蛍光体である。
【0025】
<比較例1>
比較例1の蛍光体を、以下に記載するように、原料を混合する混合工程、混合工程後の原料を焼成する焼成工程、並びに、焼成工程後の焼結体を後処理するアニール工程及び酸処理工程を経て製造した。
【0026】
<混合工程>
α型窒化ケイ素(宇部興産株式会社製SN−E10グレード、酸素含有量1.0質量%)95.45質量%、窒化アルミニウム(株式会社トクヤマ製Eグレード、酸素含有量0.8質量%)3.1質量%、酸化アルミニウム(大明化学株式会社製TM−DARグレード)0.66質量%、及び酸化ユーロピウム(信越化学工業株式会社製RUグレード)0.79質量%となるように秤量した。当該原料の配合比は、β型サイアロンの一般式:Si6−zAl8−zにおいて、酸化ユーロピウムを除いて、z=0.04となるように設計した。この原料粉末をV型混合機(筒井理化学器械株式会社製S−3)で10分間乾式混合した。原料の大きさを揃えるため、混合後の原料のうち、目開き250μmのナイロン製篩を通過したものを以下の工程に用いた。
【0027】
<焼成工程>
分級後の混合物を蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器(電気化学工業株式会社製N−1グレード)に充填し、カーボンヒーターの電気炉で0.8MPaの加圧窒素雰囲気中、2000℃で15時間放置して焼成を行った。焼成終了後、容器を取り出し、室温になるまで放置した。得られた塊状の焼成物を、蛍光体として要求される粒子サイズ及び粒子形態にするため、ロールクラッシャーで解砕した。目開き150μmの篩を通過した粉体を以下の工程に用いた。
【0028】
<アニール工程>
焼成工程後の分級された粉体を、アルゴンガス雰囲気下1450℃に8時間放置した。
【0029】
<酸処理工程>
アニール工程後の粉体を、フッ化水素酸と硝酸の混酸に30分間浸すことにより酸処理を行った。酸処理後の粉体から酸を分離するため、粉体を混酸ごと合成樹脂製フィルタに流し、フィルタ上に残った粉体を水洗いしてSi6−zAl8−z:Eu2+(z=0.04)で表される比較例1の蛍光体を得た。
【0030】
<実施例1>
比較例1の蛍光体粒子と、オレイン酸(関東化学株式会社製、鹿1級)とを、蛍光体粒子100質量%に対しオレイン酸1.0質量%の比率となるように配合し、10分間混合した。混合後に目開き75μmの篩を用いて分級し、オレイン酸からなる厚み0.04μmの表面層を有する実施例1の疎水化処理蛍光体を得た。
【0031】
<実施例2〜7及び比較例2〜3>
実施例2〜7及び比較例2〜3は、使用する疎水化物質及び配合量を、それぞれ以下のように変更したこと以外は実施例1と同じ方法及び条件で製造した。
【0032】
実施例2、3では、オレイン酸の配合量を蛍光体粒子100質量%に対してそれぞれ3.0質量%、5.0質量%とした。
【0033】
実施例4では、蛍光体粒子100質量%に対して1.0質量%のラウリン酸(関東化学株式会社製)をエタノールに希釈したものを、疎水化物質として用いた。
【0034】
実施例5では、蛍光体粒子100質量%に対して1.0質量%のステアリン酸(東京化成工業株式会社製)をエタノールに希釈したものを、疎水化物質として用いた。
【0035】
実施例6では、蛍光体粒子100質量%に対して1.0質量%のベヘン酸(関東化学株式会社製)をエタノールに希釈したものを、疎水化物質として用いた。
【0036】
実施例7では、蛍光体粒子100質量%に対して1.0質量%の、粘度が0.08Pa・sであるシリコーンオイル(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製YF3800)を疎水化物質として用いた。
【0037】
比較例2では、蛍光体粒子100質量%に対して1.0質量%のヘキサン酸(関東化学株式会社製)をエタノールに希釈したものを、疎水化物質として用いた。ヘキサン酸は炭素数6の中鎖脂肪酸である。
【0038】
比較例3では、蛍光体粒子100質量%に対して1.0質量%の、粘度が3.0Pa・sであるシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製KF―96―3000cs)を疎水化物質として用いた。
【0039】
<蛍光体の評価>
次に、得られた疎水化処理蛍光体(又は蛍光体)を以下の方法で評価した。評価結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
<表面層の膜厚>
表面層の膜厚(μm)は、蛍光体粒子の表面に付着させた疎水化物質によって形成された表面層の厚みであり、次式より算出した。
膜厚(μm)=[表面層の体積(m)/蛍光体の表面積(m)]×10
表面層の体積(m)=表面層の質量(g)/[表面層の密度(g/cm)×10
蛍光体の表面積(m)=蛍光体の比表面積(m/g)×蛍光体全体の質量(g)
【0042】
<疎水化度>
疎水化度(%)は、上述したとおり、以下の方法によって測定した。
(1)500mlの三角フラスコに測定対象の疎水化処理蛍光体0.2gを秤量する。
(2)イオン交換水50mlを(1)に加え、スターラーにて撹拌する。
(3)撹拌をしたままビュレットよりメタノールを滴下させ、前記疎水化処理蛍光体の全量がイオン交換水に懸濁された時の滴下量を測定する。
(4)次式より疎水化度を求める。
疎水化度(%)=[メタノール滴下量(ml)]×100/[メタノール滴下量(ml)+イオン交換水量(ml)]
【0043】
<内部量子効率及び外部量子効率>
疎水化処理蛍光体の量子効率を次の方法により、常温で評価した。
積分球(φ60mm)の側面開口部(φ10mm)に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製スペクトラロン)をセットした。この積分球に、発光光源としてのXeランプから455nmの波長に分光した単色光を光ファイバーにより導入し、反射光のスペクトルを分光光度計(大塚電子株式会社製MCPD−7000)により測定した。その際、450〜465nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。
次に、凹型のセルに表面が平滑になるように疎水化処理蛍光体を充填したものを積分球の開口部にセットし、波長455nmの単色光を照射し、励起の反射光及び蛍光のスペクトルを分光光度計により測定した。得られたスペクトルデータから励起反射光フォトン数(Qref)及び蛍光フォトン数(Qem)を算出した。
励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は、465〜800nmの範囲で算出した。
得られた三種類のフォトン数から、外部量子効率(%)=Qem/Qex×100、内部量子効率(%)=Qem/(Qex−Qref)×100を求めた。
【0044】
<色度CIEx及び色度CIEy>
色度座標を分光光度計(大塚電子社製MCPD−7000)を用いて測定した。励起光として波長455nmの青色光を用いた。
分光光度計の試料部に測定対象の蛍光体を充填し、表面を平滑にして、積分球を取り付けた。この積分球に、発光光源としてのXeランプからの光から波長455nmの青色光に分光した単色光を、光ファイバーを用いて導入した。この単色光を蛍光体に照射し測定した。測定結果のうちの465〜780nmの波長範囲のデータから、JIS Z8724に準じJIS Z8701で規定されるXYZ表色系における色度座標CIExとCIEyを算出した。
【0045】
<相対ピーク強度>
相対ピーク強度(%)として、YAG:Ce蛍光体(化成オプトニクス株式会社製P46Y3)の発光スペクトルのピーク高さを100%としたときの相対的な強度を求めた。
【0046】
<光束保持率>
光束保持率(%)は、光の強さ(輝度)の経時的な減衰を評価する値である。光束保持率(%)は、測定対象の疎水化処理蛍光体をLEDの発光面側に搭載した発光装置を製造し、この発光装置を高温高湿度環境下で一定時間駆動させる前後の光束を比較することによって評価した。
【0047】
(発光装置の製造)
発光装置は、測定対象の疎水化処理蛍光体50質量%とシリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング株式会社製JCR6175)50質量%とを撹拌混合したスラリー3.4μLを、LEDチップを有する2個のトップビュータイプパッケージに注入し、150℃で2時間加熱してスラリーを硬化させることによって製造した。LEDチップは、波長460nmにピークを有する青色発光のものを用いた。
【0048】
(光束保持率の算出方法)
光束の測定は、LED測定装置(Instrument System社製CAS140B)を用いた。
測定対象の疎水化処理蛍光体を実装した発光装置を、温度85℃、湿度85%の環境下で通電(150mA)し、500時間、1000時間駆動させた後の光束を測定した。高速保持率は、500時間経過後のLEDの光束、1000時間経過後のLEDの光束を、通電開始前(0時間経過)の光束で割った値に100を乗じた値である。1000時間経過時での合格値は90%以上である。
【0049】
<色度CIEy保持率>
色度CIEy保持率(%)は、経時的な色ズレを評価する値である。色度CIEy保持率(%)は、光束保持率の測定方法と同じ発光装置と測定条件を用いて、高温高湿度環境下で一定時間駆動させる前後の色度CIEyを比較することによって評価した。具体的には、500時間経過後の色度CIEy、1000時間経過後の色度CIEyを、通電開始前(0時間経過)の色度CIEyで割った値に100を乗じた値である。500時間経過時での合格値は90%であり、1000時間経過時での合格値は95%である。
【0050】
表1に示されるように、実施例1〜7の疎水化処理蛍光体は、内部量子効率、外部量子効率、色度CIEx、色度CIEy及び相対ピーク強度に関しては、比較例1及び2の蛍光体と大きな差異は認められなかった。しかし、比較例1及び2の蛍光体は、1000時間経過時の光束保持率及び色度CIEy保持率が合格基準に達しなかったのに対し、実施例1〜7の疎水化処理蛍光体はいずれも合格基準を満たしており、輝度及び発光色の経時的変化が小さいことが確認された。
なお、比較例3は、疎水化物質として用いたシリコーンオイルが高粘度であり、蛍光体粒子の表面に均一な膜厚の表面層を形成できなかったことから、評価を行わなかった。
【0051】
<実施例8>
実施例1の疎水化処理蛍光体を、発光光源としての青色発光LEDの発光表面に搭載した発光装置を製造した。この発光装置は、実施例1の疎水化処理蛍光体を用いているので、比較例1の蛍光体を用いた発光装置よりも輝度及び発光色の経時的変化が小さく長期安定性に優れていた。