【実施例】
【0023】
本発明を以下に示す実施例によってさらに詳しく説明する。
【0024】
[実施例1〜7及び比較例1〜3]
実施例1〜7及び比較例1〜3は、いずれもSi
6−zAl
zO
zN
8−z:Eu
2+(z=0.04)で表されるβ型サイアロン蛍光体に基づくものである。比較例1は、蛍光体粒子の表面に疎水化物質からなる表面層を設けていない従来の蛍光体であり、比較例2及び3は、本発明に規定する疎水化物質とは異なる物質で表面処理した蛍光体である。一方、実施例1〜7は蛍光体粒子の表面に本発明に規定する特定の疎水化物質を付着させて表面層を形成した疎水化処理蛍光体である。
【0025】
<比較例1>
比較例1の蛍光体を、以下に記載するように、原料を混合する混合工程、混合工程後の原料を焼成する焼成工程、並びに、焼成工程後の焼結体を後処理するアニール工程及び酸処理工程を経て製造した。
【0026】
<混合工程>
α型窒化ケイ素(宇部興産株式会社製SN−E10グレード、酸素含有量1.0質量%)95.45質量%、窒化アルミニウム(株式会社トクヤマ製Eグレード、酸素含有量0.8質量%)3.1質量%、酸化アルミニウム(大明化学株式会社製TM−DARグレード)0.66質量%、及び酸化ユーロピウム(信越化学工業株式会社製RUグレード)0.79質量%となるように秤量した。当該原料の配合比は、β型サイアロンの一般式:Si
6−zAl
zO
zN
8−zにおいて、酸化ユーロピウムを除いて、z=0.04となるように設計した。この原料粉末をV型混合機(筒井理化学器械株式会社製S−3)で10分間乾式混合した。原料の大きさを揃えるため、混合後の原料のうち、目開き250μmのナイロン製篩を通過したものを以下の工程に用いた。
【0027】
<焼成工程>
分級後の混合物を蓋付きの円筒型窒化ホウ素製容器(電気化学工業株式会社製N−1グレード)に充填し、カーボンヒーターの電気炉で0.8MPaの加圧窒素雰囲気中、2000℃で15時間放置して焼成を行った。焼成終了後、容器を取り出し、室温になるまで放置した。得られた塊状の焼成物を、蛍光体として要求される粒子サイズ及び粒子形態にするため、ロールクラッシャーで解砕した。目開き150μmの篩を通過した粉体を以下の工程に用いた。
【0028】
<アニール工程>
焼成工程後の分級された粉体を、アルゴンガス雰囲気下1450℃に8時間放置した。
【0029】
<酸処理工程>
アニール工程後の粉体を、フッ化水素酸と硝酸の混酸に30分間浸すことにより酸処理を行った。酸処理後の粉体から酸を分離するため、粉体を混酸ごと合成樹脂製フィルタに流し、フィルタ上に残った粉体を水洗いしてSi
6−zAl
zO
zN
8−z:Eu
2+(z=0.04)で表される比較例1の蛍光体を得た。
【0030】
<実施例1>
比較例1の蛍光体粒子と、オレイン酸(関東化学株式会社製、鹿1級)とを、蛍光体粒子100質量%に対しオレイン酸1.0質量%の比率となるように配合し、10分間混合した。混合後に目開き75μmの篩を用いて分級し、オレイン酸からなる厚み0.04μmの表面層を有する実施例1の疎水化処理蛍光体を得た。
【0031】
<実施例2〜7及び比較例2〜3>
実施例2〜7及び比較例2〜3は、使用する疎水化物質及び配合量を、それぞれ以下のように変更したこと以外は実施例1と同じ方法及び条件で製造した。
【0032】
実施例2、3では、オレイン酸の配合量を蛍光体粒子100質量%に対してそれぞれ3.0質量%、5.0質量%とした。
【0033】
実施例4では、蛍光体粒子100質量%に対して1.0質量%のラウリン酸(関東化学株式会社製)をエタノールに希釈したものを、疎水化物質として用いた。
【0034】
実施例5では、蛍光体粒子100質量%に対して1.0質量%のステアリン酸(東京化成工業株式会社製)をエタノールに希釈したものを、疎水化物質として用いた。
【0035】
実施例6では、蛍光体粒子100質量%に対して1.0質量%のベヘン酸(関東化学株式会社製)をエタノールに希釈したものを、疎水化物質として用いた。
【0036】
実施例7では、蛍光体粒子100質量%に対して1.0質量%の、粘度が0.08Pa・sであるシリコーンオイル(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製YF3800)を疎水化物質として用いた。
【0037】
比較例2では、蛍光体粒子100質量%に対して1.0質量%のヘキサン酸(関東化学株式会社製)をエタノールに希釈したものを、疎水化物質として用いた。ヘキサン酸は炭素数6の中鎖脂肪酸である。
【0038】
比較例3では、蛍光体粒子100質量%に対して1.0質量%の、粘度が3.0Pa・sであるシリコーンオイル(信越化学工業株式会社製KF―96―3000cs)を疎水化物質として用いた。
【0039】
<蛍光体の評価>
次に、得られた疎水化処理蛍光体(又は蛍光体)を以下の方法で評価した。評価結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
<表面層の膜厚>
表面層の膜厚(μm)は、蛍光体粒子の表面に付着させた疎水化物質によって形成された表面層の厚みであり、次式より算出した。
膜厚(μm)=[表面層の体積(m
3)/蛍光体の表面積(m
2)]×10
6
表面層の体積(m
3)=表面層の質量(g)/[表面層の密度(g/cm
3)×10
6]
蛍光体の表面積(m
2)=蛍光体の比表面積(m
2/g)×蛍光体全体の質量(g)
【0042】
<疎水化度>
疎水化度(%)は、上述したとおり、以下の方法によって測定した。
(1)500mlの三角フラスコに測定対象の疎水化処理蛍光体0.2gを秤量する。
(2)イオン交換水50mlを(1)に加え、スターラーにて撹拌する。
(3)撹拌をしたままビュレットよりメタノールを滴下させ、前記疎水化処理蛍光体の全量がイオン交換水に懸濁された時の滴下量を測定する。
(4)次式より疎水化度を求める。
疎水化度(%)=[メタノール滴下量(ml)]×100/[メタノール滴下量(ml)+イオン交換水量(ml)]
【0043】
<内部量子効率及び外部量子効率>
疎水化処理蛍光体の量子効率を次の方法により、常温で評価した。
積分球(φ60mm)の側面開口部(φ10mm)に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製スペクトラロン)をセットした。この積分球に、発光光源としてのXeランプから455nmの波長に分光した単色光を光ファイバーにより導入し、反射光のスペクトルを分光光度計(大塚電子株式会社製MCPD−7000)により測定した。その際、450〜465nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。
次に、凹型のセルに表面が平滑になるように疎水化処理蛍光体を充填したものを積分球の開口部にセットし、波長455nmの単色光を照射し、励起の反射光及び蛍光のスペクトルを分光光度計により測定した。得られたスペクトルデータから励起反射光フォトン数(Qref)及び蛍光フォトン数(Qem)を算出した。
励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は、465〜800nmの範囲で算出した。
得られた三種類のフォトン数から、外部量子効率(%)=Qem/Qex×100、内部量子効率(%)=Qem/(Qex−Qref)×100を求めた。
【0044】
<色度CIEx及び色度CIEy>
色度座標を分光光度計(大塚電子社製MCPD−7000)を用いて測定した。励起光として波長455nmの青色光を用いた。
分光光度計の試料部に測定対象の蛍光体を充填し、表面を平滑にして、積分球を取り付けた。この積分球に、発光光源としてのXeランプからの光から波長455nmの青色光に分光した単色光を、光ファイバーを用いて導入した。この単色光を蛍光体に照射し測定した。測定結果のうちの465〜780nmの波長範囲のデータから、JIS Z8724に準じJIS Z8701で規定されるXYZ表色系における色度座標CIExとCIEyを算出した。
【0045】
<相対ピーク強度>
相対ピーク強度(%)として、YAG:Ce蛍光体(化成オプトニクス株式会社製P46Y3)の発光スペクトルのピーク高さを100%としたときの相対的な強度を求めた。
【0046】
<光束保持率>
光束保持率(%)は、光の強さ(輝度)の経時的な減衰を評価する値である。光束保持率(%)は、測定対象の疎水化処理蛍光体をLEDの発光面側に搭載した発光装置を製造し、この発光装置を高温高湿度環境下で一定時間駆動させる前後の光束を比較することによって評価した。
【0047】
(発光装置の製造)
発光装置は、測定対象の疎水化処理蛍光体50質量%とシリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング株式会社製JCR6175)50質量%とを撹拌混合したスラリー3.4μLを、LEDチップを有する2個のトップビュータイプパッケージに注入し、150℃で2時間加熱してスラリーを硬化させることによって製造した。LEDチップは、波長460nmにピークを有する青色発光のものを用いた。
【0048】
(光束保持率の算出方法)
光束の測定は、LED測定装置(Instrument System社製CAS140B)を用いた。
測定対象の疎水化処理蛍光体を実装した発光装置を、温度85℃、湿度85%の環境下で通電(150mA)し、500時間、1000時間駆動させた後の光束を測定した。高速保持率は、500時間経過後のLEDの光束、1000時間経過後のLEDの光束を、通電開始前(0時間経過)の光束で割った値に100を乗じた値である。1000時間経過時での合格値は90%以上である。
【0049】
<色度CIEy保持率>
色度CIEy保持率(%)は、経時的な色ズレを評価する値である。色度CIEy保持率(%)は、光束保持率の測定方法と同じ発光装置と測定条件を用いて、高温高湿度環境下で一定時間駆動させる前後の色度CIEyを比較することによって評価した。具体的には、500時間経過後の色度CIEy、1000時間経過後の色度CIEyを、通電開始前(0時間経過)の色度CIEyで割った値に100を乗じた値である。500時間経過時での合格値は90%であり、1000時間経過時での合格値は95%である。
【0050】
表1に示されるように、実施例1〜7の疎水化処理蛍光体は、内部量子効率、外部量子効率、色度CIEx、色度CIEy及び相対ピーク強度に関しては、比較例1及び2の蛍光体と大きな差異は認められなかった。しかし、比較例1及び2の蛍光体は、1000時間経過時の光束保持率及び色度CIEy保持率が合格基準に達しなかったのに対し、実施例1〜7の疎水化処理蛍光体はいずれも合格基準を満たしており、輝度及び発光色の経時的変化が小さいことが確認された。
なお、比較例3は、疎水化物質として用いたシリコーンオイルが高粘度であり、蛍光体粒子の表面に均一な膜厚の表面層を形成できなかったことから、評価を行わなかった。
【0051】
<実施例8>
実施例1の疎水化処理蛍光体を、発光光源としての青色発光LEDの発光表面に搭載した発光装置を製造した。この発光装置は、実施例1の疎水化処理蛍光体を用いているので、比較例1の蛍光体を用いた発光装置よりも輝度及び発光色の経時的変化が小さく長期安定性に優れていた。