(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
オレフィン系不飽和二重結合を有するモノアルデヒドによりポリビニルアルコール系重合体(A)をアセタール化して得られる、側鎖に二重結合を有するポリビニルアルコール系重合体(B)を含有することを特徴とする懸濁重合用分散安定剤。
側鎖に二重結合を有するポリビニルアルコール系重合体(B)の、不飽和二重結合を有するモノアルデヒドによる変性量が、ポリビニルアルコール系重合体(A)のモノマーユニットあたり0.01〜20モル%であることを特徴とする請求項1に記載の懸濁重合用分散安定剤。
ポリビニルアルコール系重合体(B)のケン化度が60〜99.9モル%、平均重合度が300〜5000であることを特徴とする請求項1又は2に記載の懸濁重合用分散安定剤。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂の工業的な製造方法は、水性媒体中において分散安定剤の存在下で、塩化ビニル等のビニル系単量体(モノマー)を分散させ、油溶性重合開始剤を用いて重合を行うバッチ式懸濁重合により行われているのが一般的である。塩化ビニル系樹脂の品質を支配する重合プロセスでの因子としては、重合率、水性媒体とモノマーの比、重合温度、重合開始剤の種類及び量、重合槽の形式、攪拌速度ならびに分散安定剤の種類及び量等が挙げられるが、中でも分散安定剤の影響が非常に大きい。
【0003】
塩化ビニル系樹脂を得るための懸濁重合における分散安定剤の役割は、水性媒体中でモノマーを分散させ、安定な液滴を形成し、分散と合一を繰り返す液滴の大きさを均一に整えるとともに、重合した粒子の凝集性をコントロールすることにある。このため、かかる分散安定剤に求められる性能としては、
<1>得られる塩化ビニル系樹脂粒子の粒度分布をシャープにすること、
<2>得られる塩化ビニル系樹脂粒子を多孔質にし、可塑剤吸収性を大きくして成形加工性を良くすること、
<3>得られる塩化ビニル系樹脂粒子の空隙率を一定の範囲にし、残存モノマーの除去を容易にすること、
<4>得られる塩化ビニル系樹脂粒子の嵩比重を上げ、塩化ビニル系樹脂の加工性を向上させること、
等が挙げられる。
【0004】
すなわち、上記の分散安定剤に求められる性能を要約すると、少量で優れた分散力を発揮し、塩化ビニル系樹脂の粒子径、粒子形状等を適正な状態に制御することである。
【0005】
上記の分散安定剤としては、一般的に、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、ポリビニルアルコールをPVAと略記することがある)、セルロース誘導体等が単独で又は適宜組み合わされて使用されており、中でもPVA系重合体が最も広く使用されている。しかし、これらは上記の要求性能を十分に満たしているとはいいがたく、様々な検討が続けられているのが、現状である。
【0006】
例えば、非特許文献1には、塩化ビニルの懸濁重合用分散安定剤として、粘度平均重合度2000、ケン化度88モル%又は80モル%の、乳化力の高いとされるPVAや、粘度平均重合度600〜700、ケン化度70モル%前後の、塩化ビニル系樹脂の重合温度では析出するタイプのPVAを使用する方法が記載されている。
【0007】
また、特許文献1には、アルデヒド類等の存在下で重合して得られたポリ酢酸ビニルをケン化することによって得られたPVAに酢酸ナトリウムを添加し、さらに加熱処理して得られる重合度1500以下、ケン化度90モル%以下でかつ、分子内にカルボニル基、ビニレン基の二連鎖及び三連鎖を有するPVAを、塩化ビニル類の懸濁重合用分散安定剤として用いる方法が示されている。
【0008】
さらに、特許文献2には、分子内のビニレン基含有量を表わす指標である0.1重量%水溶液の波長280nm及び波長320nmでの吸光度が一定値以上であり、かつその比が一定値以上である特定のPVAが、塩化ビニル類の懸濁重合用分散安定剤として示されている。
【0009】
しかしながら、これらの文献(特許文献1及び特許文献2)に記載されたPVAは、熱処理を施したPVAであり、熱処理したPVAを用いて塩化ビニルの懸濁重合を行った場合に、重合安定性の点で必ずしも満足すべき効果が得られているとは言いがたい。重合安定性を向上するためには、強く熱処理したPVAを使用する必要があるが、強く熱処理したPVAではPVAの黄変起こるため、得られた塩化ビニル樹脂(PVC樹脂)の色相が悪くなる、また、ブロックキャラクターが高くなってしまうため分散性能が低下し、多孔質性の塩化ビニル樹脂を得がたいという問題があった。
【0010】
その他、エチレン変性PVA(特許文献3)、側鎖に1,2−ジオールを有するPVA(特許文献4)、炭素数2〜20のヒドロキシアルキル基を有するPVA(特許文献5)
等に例示されるように、種々の変性PVAが分散安定剤として検討されている。しかしながら、これらの分散安定剤を用いて塩化ビニルの懸濁重合を行った場合も、重合安定性の点で必ずしも満足すべき効果が得られていない。
【0011】
また、不飽和二重結合を有するカルボン酸によりエステル化されたPVA(特許文献6)が検討されているが、この方法ではカルボン酸、カルボン酸エステルの親水性が強いため、このPVAを分散安定剤として用いて塩化ビニルの懸濁重合を行った場合にも、重合安定性の点で必ずしも満足すべき効果が得られてはいない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の懸濁重合用分散安定剤は、オレフィン系不飽和二重結合を有するモノアルデヒドによりポリビニルアルコール系重合体(A)をアセタール化して得られる、側鎖に二重結合を有するポリビニルアルコール系重合体(B)を含むことを特徴とする。
【0019】
本発明において用いられるオレフィン系不飽和二重結合を有するモノアルデヒドとしては、特に限定されず、例えば、アクロレイン、クロトンアルデヒド、メタクロレイン、3−ブテナール、2,4−ペンタジエナール、3−メチル−2−ブテナール、2−メチル−2−ブテナール、2−ペンテナール、3−ペンテナール、4−ペンテナール、2,4−ヘキサジエナール、2−ヘキセナール、3−ヘキセナール、4−ヘキセナール、5−ヘキセナール、2−エチルクロトンアルデヒド、2−メチル−2−ペンテナール、3−(ジメチルアミノ)アクロレイン、2,6−ノナジエナール、シンナムアルデヒド、ミリストレインアルデヒド、パルミトレインアルデヒド、オレインアルデヒド、エライジンアルデヒド、バクセンアルデヒド、ガドレインアルデヒド、エルカアルデヒド、ネルボンアルデヒド、リノールアルデヒド、リノレンアルデヒド、エレオステアリンアルデヒド、ステアリドンアルデヒド、アラキドンアルデヒド、エイコサペンタエンアルデヒド、シトラール、シトロネラール、α−メチルシンナムアルデヒド等の不飽和モノアルデヒド等が挙げられるが、これらのシス−トランス異性体が存在するものは、シス体及びトランス体の両方を含む。これらのオレフィン系不飽和二重結合を有するモノアルデヒドは、単独で又は二種以上を併用して用いることができる。
【0020】
尚、ジアルデヒド、多価アルデヒドは、アセタール化して得られたポリビニルアルコール系重合体(B)が不溶化する恐れがあるため好ましくない。
また、アセタール化の際、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、ヘキサナール等の脂肪族アルデヒド、ベンズアルデヒド、トルアルデヒド等の芳香族アルデヒド等のオレフィン系不飽和二重結合を含まないモノアルデヒドを併用することもできる。
【0021】
[ポリビニルアルコール系重合体(A)]
本発明の分散安定剤に使用されるポリビニルアルコール系重合体(以下、ポリビニルアルコール系重合体をPVA系重合体と略記することがある)(A)は、特に限定されないが、例えば、ビニルエステル系重合体をケン化反応することにより得られるPVA系重合体(A)を使用することができる。
該ビニルエステル系重合体は、ビニルエステル系単量体を重合することにより得ることができる。重合方法としては、特に限定されず、従来公知の方法に従って良いが、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合等が挙げられ、重合度の制御や重合後に行うケン化反応のことを考慮すると、メタノールを溶媒とした溶液重合、あるいは、水又は水/メタノールを分散媒とする懸濁重合が好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0022】
前記重合に用いることができるビニルエステル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、カプリル酸ビニル、バーサチック酸ビニル等を挙げることができ、これらの中でも酢酸ビニルが工業的観点から好ましい。
【0023】
ビニルエステル系単量体の重合に際して、本発明の効果を奏する限り、ビニルエステル系単量体を他の単量体を共重合させても差し支えない。使用しうる他の単量体としては、特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、N−ブテン、イソブチレン等のα−オレフィン;アクリル酸及びその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸N−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸N−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸N−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸N−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩、N−メチロールアクリルアミド及びその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩、N−メチロールメタクリルアミド及びその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、N−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、N−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその塩又はそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。
【0024】
また、ビニルエステル系単量体の重合に際して、得られるビニルエステル系重合体の重合度を調節すること等を目的として、連鎖移動剤を共存させても差し支えない。連鎖移動剤としては、特に限定されないが、例えば、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノン等のケトン類;2−ヒドロキシエタンチオール、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン等の有機ハロゲン類が挙げられ、中でもアルデヒド類及びケトン類が好適に用いられる。連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数及び目的とするビニルエステル系重合体の重合度に応じて決定されるが、一般にビニルエステル系単量体に対して0.1〜10重量%が望ましい。
【0025】
上述のようにして得られたビニルエステル系重合体をケン化反応することにより、PVA系重合体(A)を製造することができる。ビニルエステル系重合体のケン化反応方法は、特に限定されず、従来公知の方法に従ってよいが、例えば、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒、又はp−トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた、加アルコール分解ないし加水分解反応が適用できる。ケン化反応に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。中でも、メタノール又はメタノールと酢酸メチルとの混合溶液を溶媒として用い、塩基性触媒である水酸化ナトリウムの存在下にケン化反応を行うのが簡便であり好ましい。
【0026】
PVA系重合体(A)のケン化度については、特に制限はないが、JIS K 6726で規定されているPVAのケン化度測定方法により求められるPVA系重合体(A)のケン化度が、好ましくは60モル%〜99.9モル%、より好ましくは65モル%〜99.9モル%である。ケン化度が低くなりすぎると水に溶解し難く、水性媒体中で分散安定剤として機能しなくなるおそれがある。
【0027】
また、PVA系重合体(A)の重合度も、特に限定されないが、JIS K 6726で規定されているPVAの平均重合度測定方法により求められる重合度が、好ましくは300〜5000、より好ましくは350〜4000、さらに好ましくは400〜2500である。
PVA系重合体(A)の重合度が低くなりすぎると、本発明の分散安定剤としての分散性能が低下するおそれがあり、また、重合度が高くなりすぎると、水に溶解した際の水溶液粘度が高くなるため、取扱いにくくなるとともに、懸濁重合の際に分散媒の粘度が高くなりすぎ、重合に悪影響を及ぼす場合がある。
【0028】
PVA系重合体(A)の残存酢酸基のブロックキャラクターは、0.5以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.3〜0.5であり、さらに好ましくは0.35〜0.45である。
ここで、残存酢酸基のブロックキャラクター(η)とは、PVA系重合体の残存酢酸基の分布を示す指標であり、13C−NMRスペクトル中のメチレン領域に現れる3本のピークの解析により求められる。前記の3本のピークは、(OH、OH)、(OH、OAc)、(OAc、OAc)に相当する3個の2単位連鎖構造に相当し、その吸収強度は3個の構造に比例している。ブロックキャラクター(η)は、下記式(1)で表される。
【0029】
η=(OH、OAc)/[2(OH)(OAc)] 式(1)
〔式中、(OH、OAc)は、OH基とOAc基が隣接する2単位連鎖構造(OH、OAc)の割合を表し、13C−NMRスペクトルのメチレン炭素の強度比より求められる。また、式中、(OH)は、ケン化度を表し、(OAc)は、残存酢酸基の割合を表し、それぞれモル分率で表される。〕
【0030】
このブロックキャラクターは、0〜2の値をとり、0に近いほど残酢基分布のブロック性が高いことを示し、1に近いほどランダム性が高いことを示し、2に近いほど交互性が高いことを示す。残存酢酸基のブロック性は、塩ビモノマー等のビニル系単量体の分散性に影響を与える。尚、このブロックキャラクターに関しては、前記非特許文献1の第246〜249頁及びMacromolecules,10,532(1977年)にその測定法等が詳述されている。
ブロックキャラクターが0.5を越える場合には、ビニルアルコール系重合体を用いた懸濁重合により得られるビニル系重合体の可塑剤吸収性が低下する。ブロックキャラクターが0.3より低い場合、該ビニルアルコール系重合体の水溶液の取扱い性が悪化する。
【0031】
本発明において、PVA系重合体(A)の残存酢酸基のブロックキャラクターは、ビニルエステル系重合体をケン化してPVA系重合体(A)を製造する際に使用するケン化触媒及び溶媒の種類等により調整できる。
0.5以下のブロックキャラクターを得るためには、メタノールと酢酸メチルとの混合溶液を溶媒として用い、塩基性触媒をケン化触媒に用いるアルカリケン化を行うのが簡便であり好ましい。酸性触媒を用いる酸ケン化では高いブロックキャラクターが高くなりすぎるため好ましくない。
また、得られたPVA系重合体(A)を加熱するとブロックキャラクターが増加するため、過度の加熱は好ましくない。
【0032】
[アセタール化]
本発明において、PVA系重合体(A)を、オレフィン系不飽和二重結合を有するモノアルデヒドによりアセタール化させる方法については特に制限はない。公知のアセタール化方法を用いることができる。
その方法として、例えば、(i)水溶液としたPVA系重合体(A)にモノアルデヒドを溶解し酸触媒下で反応させ、その後塩基性物質で中和しPVA系重合体(B)を得る方法;(ii)スラリー状又は粉末状のPVA系重合体(A)に、モノアルデヒドを直接添加、あるいはモノアルデヒドをメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールもしくは水に溶解又は分散させた液体を添加し、酸触媒を加えて反応させ、反応後塩基性物質で中和し、さらに余分な溶媒を乾燥してPVA系重合体(B)を得る方法等が挙げられる。(i)の方法は、得られたPVA系重合体の水溶液をそのまま懸濁重合に使用することができる。(ii)のスラリー状態で反応させる方法は、PVA系重合体を固体として得ることができるため取り扱いやすい。尚、(i)及び(ii)の方法において、PVA系重合体(A)を水溶液とする方法、中和、溶解、分散及び乾燥の方法は、特に限定されず、常法を用いることができる。
【0033】
前記(i)、(ii)の方法において、酸触媒としては、特に制限されないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸等を挙げることができる。
また、中和に用いる塩基性物質としては、特に制限されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩等を挙げることができる。
【0034】
本発明において、PVA系重合体(A)は単独で使用しても、あるいは特性の異なる2種以上のPVA系重合体(A)を混合して使用してもよい。
【0035】
[ポリビニルアルコール系重合体(B)]
上述のようにして得られたPVA系重合体(A)を、オレフィン系不飽和二重結合を有するモノアルデヒドによりアセタール化することにより、側鎖に二重結合を有するPVA系重合体(B)が得られる。
【0036】
本発明において、PVA系重合体(B)は、PVA系重合体(A)のアセタール化により導入された不飽和二重結合を有するモノアルデヒドによる変性量が、PVA系重合体(A)のモノマーユニットあたり0.01〜20モル%が好ましく、0.05〜15モル%がより好ましく、0.1〜10モル%が特に好ましい。
本発明において、不飽和二重結合を有するモノアルデヒドによる変性量を測定する方法は、特に限定されないが、例えば、PVA系重合体(B)をd6−DMSO溶媒に溶解させ、これを1H−NMRにより測定し、二重結合に由来するシグナルを解析する方法、あるいは高速液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィーにより未反応モノアルデヒドを測定し求める方法等が挙げられる。
【0037】
本発明におけるPVA系重合体(B)のケン化度については、特に制限はないが、JIS K 6726で規定されているPVAのケン化度測定方法により求められるPVA系重合体(B)のケン化度は、好ましくは60モル%〜99.9モル%、より好ましくは65モル%〜99.9モル%である。ケン化度が低くなりすぎると水に溶解し難く、水性媒体中で分散安定剤として機能しなくなるおそれがある。
PVA系重合体(B)のケン化度は、この原料であるPVA系重合体(A)のケン化度で調整することができる。PVA系重合体(A)をモノアルデヒドでアセタール化する際に、反応系に水を含有させるとアセタール化反応中のPVA系重合体のケン化度の変化が少ないので好ましい。
【0038】
また、PVA系重合体(B)の重合度も、特に限定されないが、JIS K 6726で規定されているPVAの平均重合度測定方法により求められる重合度が、好ましくは300〜5000、より好ましくは350〜4000、さらに好ましくは400〜2500である。
PVA系重合体(B)の重合度が低くなりすぎると、本発明の分散安定剤としての分散性能が低下するおそれがあり、また、重合度が高くなりすぎると、水に溶解した際の水溶液粘度が高くなるため、取扱いにくくなるとともに、懸濁重合の際に分散媒の粘度が高くなりすぎ、重合に悪影響を及ぼす場合がある。
【0039】
PVA系重合体(B)の重合度は、この原料となるPVA系重合体(A)の重合度で調整することができる。
PVA系重合体(B)の残存酢酸基のブロックキャラクターは0.5以下であり、好ましくは0.3〜0.5であり、さらに好ましくは0.35〜0.45である。ブロックキャラクターが0.5を越える場合には、PVA系重合体(B)を用いた懸濁重合により得られるビニル系重合体の可塑剤吸収性が低下する。ブロックキャラクターが0.3より低い場合、該ビニルアルコール系重合体の水溶液の取扱い性が悪化する。
PVA系重合体(B)の残存酢酸基のブロックキャラクターは、この原料であるPVA系重合体(A)のブロックキャラクターで調整することができる。さらに、PVA系重合体(A)をモノアルデヒドでアセタール化する際に、反応系に水を含有させるとアセタール化反応中のPVA系重合体のブロックキャラクターの変化を少なくすることができるので好ましい。
【0040】
[ビニル系重合体の製造方法]
次に、上記したPVA系重合体(B)からなる本発明の分散安定剤の使用ないし該分散安定剤を使用したビニル系単量体の懸濁重合によるビニル系重合体の製造方法について説明する。
【0041】
本発明における懸濁重合とは、水性媒体中にそれに不溶なビニル系単量体と油溶性の重合開始剤を添加し、攪拌することによって、ビニル系単量体を含有する微小な液滴を形成せしめ、この液滴中で重合を行う重合様式である。ここで使用できる水性媒体としては、特に限定されないが、例えば、水、各種の添加成分を含有する水溶液、水と相溶性を有する有機溶剤と水との混合溶媒等が挙げられる。
【0042】
本発明における上記のPVA系重合体(B)は、ビニル系単量体の懸濁重合を行う際に分散安定剤として使用することができる。該ビニル系単量体としては、特に限定されないが、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル、アクリロニトリル等の一般的に懸濁重合が適用されるビニル系単量体が好ましく、中でも、塩化ビニル系単量体が特に好ましい。塩化ビニル系単量体としては、例えば、塩化ビニル単量体が挙げられ、また、塩化ビニル単量体とこれに共重合し得る他の単量体との混合物が挙げられる。塩化ビニル単量体に共重合し得る他の単量体としては、例えば、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ビニルアルコキシシラン、マレイン酸、ヒドロキシアルキルアクリレート、アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸等の単量体が挙げられる。
【0043】
したがって、本発明の分散安定剤は、懸濁重合による塩化ビニルの単独重合に好適に用いることができ、また、懸濁重合による塩化ビニルと共重合可能な公知の単量体から選ばれる1種以上と塩化ビニルとの二元ないしそれ以上の多元共重合にも使用することができ、中でも懸濁重合による塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合における分散安定剤として、特に好適に使用することができる。
【0044】
ビニル系単量体の懸濁重合における重合開始剤も、公知のものでよく、例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、α−クミルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシデカノエート等のパーエステル化合物、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等の過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキサイド等が挙げられ、さらには、これらに過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を組み合わせて使用することもできる。
【0045】
ビニル系単量体の懸濁重合における分散安定剤の主な役割としては、ビニル系単量体及びその重合体からなる液滴を安定させ、液滴で生成した重合体粒子同士が液滴間で融着して大きな塊が生成するのを防止することであるが、本発明の分散安定剤は、分散性能に優れているため、少ない使用量で安定した液滴を形成することができ、上記の融着による塊の生成を防止することができる。
なお、液滴が安定するとは、細かくかつほぼ均一なサイズの液滴が懸濁重合の分散媒体中に安定して分散することを意味する。
【0046】
ビニル系単量体の懸濁重合において、本発明の分散安定剤の使用量は、特に制限はないが、通常は、ビニル系単量体100重量部に対して5重量部以下であり、0.005〜1重量部が好ましく、0.01〜0.2重量部がさらに好ましい。本発明の分散安定剤も通常の分散安定剤と同様に、ビニル系単量体を仕込む前に、懸濁重合の分散媒体にあらかじめ常法を用いて溶解させて使用することが一般的である。
【0047】
ビニル系単量体の懸濁重合における分散安定剤としては、本発明の分散安定剤を単独で使用してもよいが、他の分散安定剤を併用してもよく、そのような他の分散安定剤としては、塩化ビニル等のビニル系単量体を水性媒体中で懸濁重合する際に使用される公知の分散安定剤、例えば、平均重合度100〜4500、ケン化度30〜100モル%のPVAや本発明以外の変性PVA系重合体、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の水溶性セルロースエーテル、ゼラチン等の水溶性ポリマー、ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリオレート、グリセリントリステアレート、エチレンオキシドプロピレンオキシドブロックポリマー等の油溶性乳化物、ポリオキシエチレングリセリンオレート、ラウリン酸ナトリウム等の水溶性乳化剤等が挙げられる。これらの他の分散剤は、それらのうちの1種類を用いてもよく、2種類以上を同時に用いてもよい。
【0048】
本発明においては、分散安定剤として、重合度、ケン化度が異なる2種類もしくはそれ以上のPVA系重合体を組み合わせて使用することが好ましく、そのうちの1種類以上を本発明の分散安定剤であるPVA系重合体(B)とするのが好ましい。より好ましくは、重合度が1700以上の分散安定性の高いPVA系重合体と重合度が1000以下のPVA系重合体とを組み合わせて使用し、そのうちの1種以上を、本発明のPVA系重合体(B)とする。
【0049】
本発明の分散安定剤を用いる懸濁重合においては、公知である種々の分散助剤を併用することも可能である。かかる分散助剤としては、ケン化度が、好ましくは30〜60モル%、より好ましくは30〜50モル%の低ケン化度PVAが用いられる。また、該分散助剤は、平均重合度が、好ましくは160〜900、より好ましくは200〜500のPVAが用いられる。
【0050】
分散助剤以外にも、連鎖移動剤、重合禁止剤、pH調整剤、スケール防止剤、架橋剤等のビニル系化合物の懸濁重合において公知の各種添加剤を併用しても差し支えない。
【0051】
懸濁重合における重合温度に制限はなく、使用するビニル単量体の種類、重合条件及び目標とする重合収率等に応じて任意に選択可能であるが、通常は、内温30〜80℃であることが好ましい。重合時間も特に制限はなく、目的とする重合体の重合度に応じて適宜設定すればよい。
【0052】
上述した本発明の製造方法で得られる塩化ビニル系樹脂は、重合体粒子の粒度分布がシャープであり、嵩比重が高く、また可塑剤吸収性がよいため、各種成形品への加工性がよく、また、成形された場合のフィッシュアイが少なく、色相が良好である。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例において「%」及び「部」は、特にことわりのない限り、「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0054】
はじめに、本実施例における塩化ビニル重合体(塩化ビニル樹脂)の評価方法を、以下に示す。
(塩化ビニル重合体の評価)
塩化ビニル重合体について、平均粒子径、スケール付着量、粗大粒子含有量、嵩比重、可塑剤吸収性、フィッシュアイ、及び初期着色性を、次のようにして評価した。
【0055】
<平均粒子径、粗大粒子含有量>
ロータップ式振動篩(JIS篩を使用)により粒度分布を測定し、平均粒子径を求めた。測定した粒子径分布より、60メッシュオンの粗大粒子の含有量を%で表した。数字が小さいほど粗大粒子が少なくて粒度分布がシャープであり、重合安定性に優れていることを示す。尚、後述の表2及び4において、該含有量は#60オンと示す。
【0056】
<スケール付着量>
重合体スラリーを重合槽から取り出した後の重合槽の内壁におけるスケールの付着状態を目視観察し、以下の基準で評価した。
◎:スケールの付着がほとんどない
〇:スケールの付着が少ない
×:白色のスケール付着が著しい
【0057】
<嵩比重>
JIS K−6721に準拠して測定した。嵩比重が大きいほど、押出し速度が向上し、加工性が良いことを示す。
【0058】
<可塑剤吸収性>
底にグラスファイバーを詰めた円筒状容器に得られた樹脂を入れ、過剰のジオクチルフタレート(以下、DOPと略記する)を加え、30分放置することによって樹脂にDOPを浸透させた後、3000rpmで遠心分離することによって余分なDOPを除去した後、樹脂の重量を測定して、重合体100部あたりのDOP吸収量を算出した。DOP吸収量が大きいほど、可塑剤吸収性がよく、成形加工性に優れることを示す。
【0059】
<フィッシュアイ>
得られた樹脂100部、ジオクチルフタレート30部、三塩基性硫酸鉛1部、ステアリン酸鉛1.5部、二酸化チタン0.2部、カーボンブラック0.1部を150℃で4分間溶融混錬し、厚さ0.3mmのシートを作製し、100mm×100mmあたりのフィッシュアイ(0.4mm以上の透明粒子)の数を測定した。
【0060】
<初期着色性>
得られた樹脂100部、Ba−Zn系複合安定剤2部、エポキシ化大豆油2部、DOP38部を150℃で10分間溶融混錬し、厚さ0.8mmのシートを作製した。次に、このシート片を7枚重ね、180℃で5分間プレスし、厚み5mmの積層シートを得た。この積層シートの透明性及び初期着色性を色度・濁度測定器(COH−300A、日本電色工業社製)を用いて測定し、黄色度(YI)で評価した。
【0061】
実施例1
(PVA系重合体(A)の合成)
攪拌機、コンデンサー、窒素ガス導入口及び開始剤投入口を備えた反応槽に、予めメタノール450部及び酢酸ビニルモノマー550部を仕込み、系内に窒素ガスを流通させながら60℃に昇温し、開始剤として2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)の1%メタノール溶液を25部添加し、重合を開始した。
重合中は系を60℃に保持し、系内に窒素ガスを流しつつ、さらに2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)の1%メタノール溶液35部を重合開始直後から4時間にわたって連続的に加えた。重合開始から4.5時間後、酢酸ビニルの反応収率が85%になった時点で系を冷却し、重合を終了した。得られた反応物にメタノール蒸気を加えながら、残存する酢酸ビニルモノマーを留出し、ポリ酢酸ビニルの45%メタノール溶液を得た。
次に、上記で得られたポリ酢酸ビニルの45%メタノール溶液500部に、酢酸メチル70部、水酸化ナトリウムの3%メタノール溶液30部を加えてよく混合し、40℃でケン化反応を行い、得られたゲル状物を粉砕した後に乾燥して、ケン化度72.0モル%、平均重合度800、ブロックキャラクター0.39のPVA系重合体(A)の粉末を得た。
【0062】
(PVA系重合体(B)の合成)
上記で得られたPVA系重合体(A)の粉末100重量部を、アクロレイン1重量部をメタノール400重量部に溶解させた溶液に60分間浸漬した後、1N塩酸水溶液25重量部を添加し、40℃の温度で2時間反応を行った。次いで、1N水酸化ナトリウム水溶液25重量部で中和した。次いで、遠心分離により溶媒を除去した後、窒素雰囲気下にて80℃で4時間乾燥しPVA系重合体(B)を得た。このPVA系重合体(B)の分析値は、ケン化度72.5モル%、重合度800で、ブロックキャラクターは、0.41であった。また、d6−DMSO溶媒に溶解させて1H−NMR測定を行ったところ、5.8、5.4、5.2ppmに二重結合由来のシグナルが観測された。このシグナル強度から求めたアクロレインのPVA系重合体(B)への変性量は0.9モル%であった。
【0063】
(塩化ビニルの懸濁重合)
上記で得られたPVA系重合体(B)を、分散安定剤として用いて、以下に示す条件にて塩化ビニルの懸濁重合を行った。
耐圧のステンレス製重合器に、脱イオン水900部及び上記で得られたPVA系重合体(B)を0.5部仕込んだ。次に、真空ポンプで重合器内を50mmHgとなるまで減圧し、脱気した後、塩化ビニル単量体700部を仕込み、さらに重合開始剤としてt−ブチルパーオキシネオデカノエート0.42部を仕込んだ後、攪拌を行い、昇温を開始した。重合器の内容物の温度を57℃に維持しながら懸濁重合を行い、塩化ビニルの重合転化率が88%に達した時点で重合反応を停止した。そして、未反応単量体を減圧トラップにより回収した後、重合体スラリーを重合器から抜き出し、脱水、乾燥して塩化ビニル重合体(塩化ビニル樹脂)を得た。得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表2に示す。
【0064】
実施例2〜9
表1に示す不飽和二重結合を有するモノアルデヒドを用いた以外は実施例1と同様にして合成されたPVA系重合体(B)を用い、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体を得た。得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表2に示す。
【0065】
実施例10〜13
重合に用いるメタノールの使用量、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)の添加量、反応収率、及び鹸化反応に用いる酢酸メチルの量及び水酸化ナトリウム溶液の使用量を、表1に示す重合度、ケン化度及びブロックキャラクターを有するPVA系重合体(A)が得られるように適宜変えた以外は実施例1と同様の方法で合成したPVA系重合体(A)、及び表1に示す不飽和二重結合を有するモノアルデヒドを用いた以外は実施例1と同様にして合成されたPVA系重合体(B)を用い、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体を得た。得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表2に示す。
【0066】
実施例14〜15
重合でアセトアルデヒドを連載移動剤として使用し、メタノールの使用量、酢酸ビニルの使用量、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)の添加量、反応収率、及び鹸化反応に用いる酢酸メチルの量及び水酸化ナトリウム溶液の使用量を、表1に示す重合度、ケン化度及びブロックキャラクターを有するPVA系重合体(A)が得られるように適宜変えた以外は実施例1と同様の方法で合成したPVA系重合体(A)、及び表1に示す不飽和二重結合を有するモノアルデヒドを用いた以外は実施例1と同様にして合成されたPVA系重合体(B)を用い、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体を得た。得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表2に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
実施例16
実施例15と同様のPVA系重合体(A)の粉末100重量部を、アクロレイン1重量部をメタノール500重量部に溶解させた溶液に40分間浸漬した後、p−トルエンスルホン酸50重量%メタノール溶液6.5重量部を添加し、40℃の温度で2時間反応を行った。次いで、10重量%水酸化ナトリウム水溶液7.5重量部で中和した。次いで、遠心分離により溶媒を除去した後、窒素雰囲気下にて80℃で4時間乾燥しPVA系重合体(B)を得た。このPVA系重合体(B)の分析値は、ケン化度72.7モル%、重合度800で、ブロックキャラクターは、0.42であった。また、d6−DMSO溶媒に溶解させて1H−NMR測定を行ったところ、5.8、5.4、5.2ppmに二重結合由来のシグナルが観測された。このシグナル強度から求めたアクロレインのPVA系重合体(B)への変性量は0.9モル%であった。
上記PVA系重合体(B)を分散安定剤として用いて、実施例1と同様の条件にて塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体を得た。得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表2に示す。
【0070】
実施例17
実施例15と同様のPVA系重合体(A)の10重量%水溶液100重量部にアクロレイン0.1重量部を加え、p−トルエンスルホン酸50重量%水溶液0.65重量部を添加し、40℃の温度で2時間反応を行った。次いで、10重量%水酸化ナトリウム水溶液0.75重量部を加え中和し、PVA系重合体(B)の水溶液を得た。このPVA系重合体(B)の分析値は、ケン化度72.1モル%、重合度800で、ブロックキャラクターは、0.40であった。また、d6−DMSO溶媒に溶解させて1H−NMR測定を行ったところ、5.8、5.4、5.2ppmに二重結合由来のシグナルが観測された。このシグナル強度から求めたアクロレインのPVA系重合体(B)への変性量は0.9モル%であった。
上記PVA系重合体(B)を分散安定剤として用いて、実施例1と同様の条件にて塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体を得た。得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表2に示す。
【0071】
実施例1〜17の結果が示すように、本発明の分散安定剤は、塩化ビニル樹脂の重合に用いた際に重合安定性に優れるため、粗粒が少なく、樹脂成形後のフィッシュアイが少なく、可塑剤吸収性が良く、色相に優れた塩化ビニル系樹脂を得ることができることが確認された。
【0072】
比較例1〜6
表1に示すように、PVA系重合体(B)の代わりにPVA系重合体(A)の粉末をそのまま分散安定剤として用いた以外は、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体を得た。尚、比較例1〜6において、PVA系重合体(A)は、実施例1〜16で使用されたPVA系重合体(A)のうち所望の重合度、ケン化度及びブロックキャラクターを有するものをそれぞれ使用した。
得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表2に示す。比較例1及び5では、塩化ビニルがブロック化して重合を行うことができなかったために、塩化ビニル重合体を得ることはできなかった。比較例2〜4及び6では、粗大粒子があり均一な重合体粒子が得られず、スケール付着量も多く安定な重合ができず、また、フィッシュアイも多く良好な塩化ビニル重合体を得ることはできなかった。
【0073】
比較例7
表1に示すように、PVA系重合体(B)の代わりに特許文献1の実施例A欄の方法に従い製造したPVA系重合体(A)を分散安定剤として用いた以外は、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体を得た。得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表2に示す。
比較例7では、粗大粒子があり均一な重合体粒子が得られず、安定な重合ができず、可塑剤吸収量、色相が悪く、フィッシュアイも多く良好な塩化ビニル重合体を得ることはできなかった。
【0074】
比較例8
表1に示すように、PVA系重合体(B)の代わりに特許文献6の実施例1の方法に従い製造した不飽和二重結合を有するカルボン酸でエステル化したPVA系重合体(A)を分散安定剤として用いた以外は、実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体を得た。得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表2に示す。
比較例8では、粗大粒子があり均一な重合体粒子が得られず、スケール付着量も多く安定な重合ができず、また、フィッシュアイも多く良好な塩化ビニル重合体を得ることはできなかった。
【0075】
実施例18〜19
実施例15と同様のPVA系重合体(A)及び表3に示す不飽和二重結合を有するモノアルデヒドを用いた以外は実施例16と同様にして合成されたPVA系重合体(B)を用いて、以下に示す条件にて塩化ビニルの懸濁重合を行った。
内容積100リットルの重合機(耐圧オートクレーブ)に、脱イオン水45kgを入れ、更に、塩化ビニル単量体に対して、表3に示した本発明のPVA系重合体(B)700ppm、部分ケン化ポリビニルアルコール(ケン化度88モル%、重合度2400)100ppm、部分ケン化ポリビニルアルコール(ケン化度55モル%、重合度220)150ppm、t−ブチルパーオキシネオデカエート500ppmを投入した。次に、重合機内を40mmHgまで脱気した後、塩化ビニル単量体を45kg仕込み、攪拌を開始した。重合温度は57℃とし、重合終了までこの温度を保持した。
重合転化率が90%に達した時点で反応を終了し、重合機内の未反応単量体を回収した後、重合体スラリーを系外に取り出し、脱水乾燥し、塩化ビニル重合体を得た。塩化ビニル重合体の評価結果を表4に示す。
【0076】
実施例20
実施例14と同様のPVA系重合体(A)を用い、表3に示す不飽和二重結合を有するモノアルデヒドを用い実施例16と同様にして合成されたPVA系重合体(B)を用い、実施例18と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体を得た。得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表4に示す。
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
実施例18〜20の結果が示すように、本発明の分散安定剤は、塩化ビニル樹脂の重合に用いた際に重合安定性に優れるため、粗粒が少なく、樹脂成形後のフィッシュアイが少なく、可塑剤吸収性が良く、色相に優れた塩化ビニル系樹脂を得ることができることが確認された。
【0080】
比較例9〜10
表3に示すように実施例1、15と同様のPVA系重合体(A)の粉末をそのまま分散安定剤として用い、実施例18と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体を得た。
得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表4に示す。比較例9では、塩化ビニルがブロック化して重合を行うことができなかったために、塩化ビニル重合体粒子を得ることはできなかった。比較例10では、粗大粒子があり均一な重合体粒子が得られず、スケール付着量も多く安定な重合ができず、また、フィッシュアイも多く良好な塩化ビニル重合体を得ることはできなかった。
【0081】
比較例11
表3に示すように特許文献1の実施例A欄の方法に従い製造したPVA系重合体(A)を分散安定剤として用い、実施例18と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体を得た。
得られた塩化ビニル重合体粒子の評価結果を表4に示す。
比較例11では、可塑剤吸収量、色相が悪く、粗大粒子があり均一な重合体粒子が得られず、フィッシュアイも多く良好な塩化ビニル重合体粒子を得ることはできなかった。
【0082】
比較例12
表3に示すように特許文献6の実施例1の方法に従い製造した不飽和二重結合を有するカルボン酸でエステル化したPVA系重合体(A)を分散安定剤として用い、実施例18と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体を得た。
塩化ビニル重合体粒子の評価結果を表4に示す。
比較例12では、粗大粒子があり均一な重合体粒子が得られず、またスケール付着量も多く安定な重合ができなかった。
【0083】
実施例21〜22
表3に示すように実施例10、11と同様のPVA系重合体(B)を用いて、以下に示す条件にて塩化ビニルの懸濁重合を行った。
内容積100リットルの重合機(耐圧オートクレーブ)に、脱イオン水45kgを入れ、更に、塩化ビニル単量体に対して、表3に示した本発明のPVA系重合体(B)550ppm、部分ケン化ポリビニルアルコール(ケン化度72モル%、重合度700)250ppm、部分ケン化ポリビニルアルコール(ケン化度55モル%、重合度220)150ppm、t−ブチルパーオキシネオデカエート500ppmを投入した。次に、重合機内を40mmHgまで脱気した後、塩化ビニル単量体を45kg仕込み、攪拌を開始した。重合温度は57℃とし、重合終了までこの温度を保持した。
重合転化率が90%に達した時点で反応を終了し、重合機内の未反応単量体を回収した後、重合体スラリーを系外に取り出し、脱水乾燥し、塩化ビニル樹脂を得た。得られた塩化ビニル重合体の評価結果を表4に示す。
【0084】
実施例21〜22が示すように、本発明の分散安定剤は、塩化ビニル系樹脂の懸濁重合時に用いた場合に重合安定性に優れるため、重合が不安定なことに起因するブロック化やスケール付着が低減して、粗大粒子が少なくシャープな粒度分布を有し、色相、可塑剤吸収性に優れた塩化ビニル重合体粒子を得ることができることが確認できた。
【0085】
比較例13〜14
表3に示すように実施例21〜22と同様のPVA系重合体(A)の粉末をそのまま分散安定剤として用い、実施例21と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行い、塩化ビニル重合体を得た。
塩化ビニル重合体粒子の評価結果を表4に示す。比較例13〜14では、粗大粒子があり均一な重合体粒子が得られず、スケール付着量も多く安定な重合ができず、また、フィッシュアイも多く良好な塩化ビニル重合体を得ることはできなかった。