(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6546700
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】ケイ酸ジルコニウム組成物の長期間の使用及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 33/24 20190101AFI20190705BHJP
C01B 33/20 20060101ALI20190705BHJP
A61P 3/12 20060101ALI20190705BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20190705BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20190705BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20190705BHJP
【FI】
A61K33/24
C01B33/20
A61P3/12
A61P7/00
A61P13/12
A61K9/14
【請求項の数】20
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-519853(P2018-519853)
(86)(22)【出願日】2016年10月10日
(65)【公表番号】特表2018-530596(P2018-530596A)
(43)【公表日】2018年10月18日
(86)【国際出願番号】US2016056286
(87)【国際公開番号】WO2017066128
(87)【国際公開日】20170420
【審査請求日】2019年2月20日
(31)【優先権主張番号】14/883,428
(32)【優先日】2015年10月14日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518127912
【氏名又は名称】ジーエス・ファーマ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】ZS PHARMA, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ドナルド・ジェフリー・カイザー
(72)【発明者】
【氏名】アルバロ・エフ・ギレム
【審査官】
深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2014−506556(JP,A)
【文献】
米国特許第06814871(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00−33/46
A61K 33/00−33/44
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
(式中、
Aはカリウムイオン、ナトリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ヒドロニウムイオン、又はこれらの混合物であり、
Mは少なくとも1種の骨格金属であり、前記骨格金属はハフニウム(4+)、スズ(4+)、ニオブ(5+)、チタン(4+)、セリウム(4+)、ゲルマニウム(4+)、プラセオジウム(4+)、テルビウム(4+)、又はこれらの混合物であり、
「p」は1〜20の値を有し、
「x」は0から1未満の値を有し、
「n」は0〜12の値を有し、
「y」は0〜12の値を有し、
「m」は3〜36の値を有し、
1≦n+y≦12である)
のケイ酸ジルコニウムを含有するカチオン交換組成物であって、前記ケイ酸ジルコニウムが0.6ppm未満の鉛含有量を
示し、そしてカリウム充填能が2.7〜3.7mEq/gである、組成物。
【請求項2】
前記鉛含有量が0.1〜0.5ppmの範囲である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記鉛含有量が0.3〜0.5ppmの範囲である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記鉛含有量が0.3〜0.45ppmの範囲である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、3ミクロン未満の直径を有する粒子を7%未満含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物中の前記粒子の0.5%未満が1ミクロン未満の直径を有する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、3ミクロン未満の直径を有する粒子を7%未満含み、ナトリウム含有率が12%未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、3ミクロン未満の直径を有する粒子を7%未満含み、ナトリウム含有率が9%以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物のpHが7〜9の範囲である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
カリウム充填能が3.5mEq/gである、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の組成物を含む、高カリウム血症の治療剤。
【請求項12】
前記組成物が、3ミクロン未満の直径を有する粒子を3%未満含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記ケイ酸ジルコニウムが、優勢的にZS−9である、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
式(I):
【化2】
(式中、
Aはカリウムイオン、ナトリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ヒドロニウムイオン、又はこれらの混合物であり、
Mは少なくとも1種の骨格金属であり、前記骨格金属はハフニウム(4+)、スズ(4+)、ニオブ(5+)、チタン(4+)、セリウム(4+)、ゲルマニウム(4+)、プラセオジウム(4+)、テルビウム(4+)、又はこれらの混合物であり、
「p」は1〜20の値を有し、
「x」は0から1未満の値を有し、
「n」は0〜12の値を有し、
「y」は0〜12の値を有し、
「m」は3〜36の値を有し、
1≦n+y≦12である)
のケイ酸ジルコニウムを含有するカチオン交換組成物であって、前記ケイ酸ジルコニウムが優勢的にZS−9であり、0.1〜0.6ppm未満の範囲の鉛含有量を示し、そしてカリウム充填能が2.7〜3.7mEq/gである組成物。
【請求項15】
前記鉛の含有量が0.3〜0.45ppmの範囲である、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が、3ミクロン未満の直径を有する粒子を7%未満含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物中の前記粒子の0.5%未満が1ミクロン未満の直径を有する、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物が、3ミクロン未満の直径を有する粒子を7%未満含み、ナトリウム含有率が12%未満である、請求項14に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物が、3ミクロン未満の直径を有する粒子を7%未満含み、ナトリウム含有率が9%以下である、請求項14に記載の組成物。
【請求項20】
前記組成物のpHが7〜9の範囲である、請求項14に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年10月14日に出願された「EXTENDED USE ZIRCONIUM SILICATE COMPOSITIONS AND METHODS OF USE THEREOF」というタイトルの米国特許出願第14/883,428号明細書の利益を主張し、この出願はその全体が参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、望ましくない副作用を生じさせることなしに消化管から毒性物質(例えばカリウムイオン又はアンモニウムイオン)を速やかに除去するために処方される、新規な微孔性ケイ酸ジルコニウム組成物に関する。組成物は、特定の疾患、すなわち高カリウム血症の再発又は発症を治療又は予防するための長期投与に関して望ましい特性を示すように製造される。
【背景技術】
【0003】
急性高カリウム血症は、高い血清カリウム値に起因する生命を脅かす深刻な疾患である。カリウムは人体中の様々なプロセスに関与する至る所に存在するイオンである。これは最も豊富に存在する細胞内カチオンであり、細胞膜電位の維持、細胞容積の恒常性、及び活動電位の伝達などの様々な生理学的プロセスのために極めて重要である。その主な食事供給源は野菜(トマト及びジャガイモ)、果物(オレンジ、バナナ)、及び肉である。血清中の正常なカリウム値は3.5〜5.0mmol/lであり、腎臓がカリウム値の主な調節器官である。カリウムの腎排出は受動的であり(糸球体を通る)、近位尿細管及びヘンレ係蹄上行脚で能動的に再吸収される。カリウムの能動的な排出は遠位尿細管及び集合管の中で行われ、両方のプロセスはアルドステロンによって制御される。
【0004】
細胞内カリウム値が増加すると、細胞の膜電位の脱分極が生じる。この脱分極はいくらかの電位開口型ナトリウムチャネルを開くものの、活動電位を生じさせるには不十分である。短時間の後、開口ナトリウムチャネルは不活性化して不応性になり、活動電位を生じさせる閾値が上昇する。これは神経筋、心臓、及び胃腸の器官系の障害をもたらし、この障害は高カリウム血症でみられる症状の原因となる。最も大きな懸念は、心臓系に対する影響であり、心臓伝導の障害は心停止又は心室細動などの致命的な心臓不整脈を生じさせ得る。致命的な心臓不整脈の可能性のため、高カリウム血症は直ちに治さなければならない急性の代謝異常である。
【0005】
高カリウム血症は、血清カリウムの過剰な生成が存在する場合(経口摂取、組織の機能停止)に発症し得る。高カリウム血症の最も一般的な原因である不十分な排泄は、ホルモン性(アルドステロン欠乏においてなど)、薬理学的(ACE阻害剤又はアンジオテンシン受容体拮抗薬による治療)、あるいはより一般的には、低下した腎機能又は進行した心不全による場合がある。高カリウム血症の最も一般的な原因は腎不全であり、腎不全の程度と血清カリウム(S−K)値との間には密接な関係が存在する。更に、多数の様々な一般的に使用されている薬剤(ACE阻害剤、アンジオテンシン受容体拮抗薬、カリウム保持性利尿薬(例えばアミロリド、スピロノラクトン)、NSAID(イブプロフェン、ナプロキセン、セレコキシブなど)、ヘパリン、及び特定の細胞毒性薬、及び/又は抗生物質(シクロスポリン及びトリメトプリムなど)等)は、高カリウム血症を生じさせる。最後に、β−受容体遮断薬であるジゴキシン又はスクシニルコリンは、高カリウム血症の別の周知の原因である。加えて、進行した虚血性心疾患、広範囲の怪我、熱傷、又は血管内溶血は、ほとんどの場合は糖尿病性ケトアシドーシスの一部である代謝性アシドーシスの場合のように、高カリウム血症の原因である。
【0006】
高カリウム血症の症状は若干非特異的であり、通常は不快感、動悸、及び筋力低下、又は心臓不整脈の兆候(動悸、頻脈−徐脈、又はめまい/失神など)が含まれる。しかし、多くの場合、高カリウム血症は、内科的疾患についての通常のスクリーニング血液検査の際又は重い合併症(心臓不整脈又は突然死)の発症の後に発見される。診断は、S−K測定によって明確に確立されている。
【0007】
治療はS−K値に依存する。軽症の場合(5〜6.5mmol/lの間のS−K)、食事療法の指導(低カリウム食)を併用したカリウム結合樹脂(Kayexalate(登録商標))による急性治療、又は場合により薬物治療の修正(薬物を用いた治療が高カリウム血症を生じさせる場合)が標準治療である;S−Kが6.5mmol/l超又は不整脈が存在する場合には、病院内での緊急のカリウムの低減及び綿密なモニタリングが指示される。次の治療が典型的に使用されている:
【0008】
Kayexalate(登録商標)は、腸の中でカリウムと結合し、その結果便排泄を増加させ、それによりS−K値を減少させる樹脂である。しかしながら、Kayexalate(登録商標)は腸閉塞及び破裂の可能性を生じさせることが示された。更に、治療と同時に下痢が必然的に生じる。これらの要因が、Kayexalate(登録商標)を用いる治療の好ましさを減じている。
【0009】
インスリンIVは(低血糖症を防止するためにグルコースと共に用いられ)、カリウムを細胞中に移し、血液中からなくす。
【0010】
カルシウムの補給。カルシウムはS−Kを下げないが、心筋の興奮を低下させ、その結果心筋が安定し、心臓不整脈のリスクを下げる。
【0011】
重炭酸塩。重炭酸イオンはK+のNa+との交換を刺激し、その結果ナトリウム−カリウムATPアーゼを刺激し、(重症の場合には)透析をもたらす。
【0012】
体内からのカリウムの除去を実際に増やす唯一の薬理学的治療がKayexalate(登録商標)である;しかしながら、下痢を誘発するため、Kayexalate(登録商標)は長期的に投与することができず、また急性期であっても下痢を生じる必然性が、限定的な効果しかないこと並びに不快なにおい及び味と相まって、その有用性を減じている。
【0013】
血液又は透析液から毒性のカチオン及びアニオンを除去するためのケイ酸ジルコニウム又はケイ酸チタンである微孔性イオン交換体の使用は、特許文献1、特許文献2、特許文献3、及び特許文献4に記載されており、これらそれぞれはその全体が本明細書に組み込まれる。微孔性イオン交換体の追加的な例は、特許文献5、特許文献6、及び特許文献7中で見出され、これらそれぞれはその全体が本明細書に組み込まれる。
【0014】
本発明者らは、公知のケイ酸ジルコニウム組成物が高カリウム血症の治療におけるカリウムの除去のために生体内で利用した場合に望ましくない影響を示し得ることを見出した。具体的には、本発明者らは、ケイ酸ジルコニウムモレキュラーシーブ組成物の投与が、尿のpHを増加させるだけでなく、動物試験において、白血球の炎症、最小限の急性膀胱炎、並びに腎う及び尿における正体不明の結晶の観察、の入り混じった発生と関連することを見出した。本発明者らは、ケイ酸ジルコニウム組成物の粒径及びナトリウム含有率を制御することによってこれらの問題に対処した。特許文献8及び特許文献9を参照のこと。これらそれぞれはその全体が本明細書に組み込まれる。
【0015】
更に、公知のケイ酸ジルコニウム組成物は結晶性不純物及び望ましくない低いカチオン交換能力に関する問題を有していた。ケイ酸ジルコニウムの溶解し易い形態の低減は、ジルコニウム又はケイ酸ジルコニウムの全身からの吸収を減らすため又はなくすために重要である。本発明者らは、組成物からZS−8を本質的に除去して検出不能な量のZS−8とするように製造条件を制御することによってこの問題に対処した。特許文献10を参照のこと。
【0016】
本発明者らは、特定のケイ酸ジルコニウム組成物が、例えば高水準の血清カリウムと関連する疾患の治療などの長期の使用に有用であることを見出した。長期の治療計画におけるケイ酸ジルコニウム組成物の使用は、組成物中の不純物、特には鉛の注意深い管理が必要とされる。例えば、FDAは、長期間の使用のための組成物中の鉛についての承認基準を1日当たり5マイクログラムと定めている。本発明者らは、工業的な量で公知の方法を使用して製造されるケイ酸ジルコニウムが約1〜1.1ppm以上の鉛を含むことを見出した。ケイ酸ジルコニウムを少量のバッチでより高純度に合成した場合であっても(すなわち、Sigma−Aldrichから入手可能な試薬グレードの出発物質を使用)、鉛の量は0.6ppm以上であることが分かった。ケイ酸ジルコニウムによる治療は1日当たり5〜45グラムの範囲の投与量を利用することから、鉛の量の削減が必須である。本発明は、ケイ酸ジルコニウムの1日投与量によって必要とされる許容可能な範囲内の鉛含有量のケイ酸ジルコニウムの組成物に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第6,579,460号明細書
【特許文献2】米国特許第6,099,737号明細書
【特許文献3】米国特許第6,332,985号明細書
【特許文献4】米国特許出願第2004/0105895号明細書
【特許文献5】米国特許第6,814,871号明細書
【特許文献6】米国特許第5,891,417号明細書
【特許文献7】米国特許第5,888,472号明細書
【特許文献8】米国特許第8,802,152号明細書
【特許文献9】米国特許第8,808,750号明細書
【特許文献10】米国特許第8,877,255号明細書
【発明の概要】
【0018】
本発明は、式(I):
A
pM
xZr
1−xSi
nGe
yO
m (I)
(式中、Aはカリウムイオン、ナトリウムイオン、
ルビジウムイオン、セシウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ヒドロニウムイオン、又はこれらの混合であり、Mは少なくとも1種の骨格金属であり、骨格金属はハフニウム(4+)、スズ(4+)、ニオブ(5+)、チタン(4+)、セリウム(4+)、ゲルマニウム(4+)、プラセオジウム(4+)、テルビウム(4+)、又はこれらの混合であり、「p」は約1〜約20の値を有し、「x」は0から1未満の値を有し、「n」は約0〜約12の値を有し、「y」は約0〜約12の値を有し、「m」は約3〜約36の値を有し、1≦n+y≦12である)
のケイ酸ジルコニウムを含有するカチオン交換組成物であって、0.6ppm未満の鉛含有量を示す組成物に関する。好ましくは、鉛含有量は0.1〜0.6ppm、より好ましくは0.3〜0.5ppmであり、最も好ましくは0.3〜0.45ppmの範囲である。ある実施形態においては、鉛含有量は0.38ppmである。本発明は、200L以上の反応容積での鉛含有量が1.1ppm未満であるケイ酸ジルコニウムの製造方法にも関する。この実施形態においては、鉛含有量は0.1〜1.1ppm、より好ましくは0.3〜0.5ppm、最も好ましくは0.3〜0.45ppmの範囲である。
【0019】
鉛不純物の量が望ましいことに加えて、組成物は、経口摂取されるイオン捕捉剤としてこれを望ましくする1つ以上の特性を示し得る。1つの態様においては、ケイ酸ジルコニウム組成物は、2.3meq/g超、好ましくは2.3〜3.5meq/gの範囲、より好ましくは3.05〜3.35meq/gの範囲、最も好ましくは約3.2meq/gの範囲のカリウム交換能を有し得る。ある実施形態においては、組成物中の7%の粒子が3ミクロン未満の直径を有する。別の実施形態においては、組成物中の0.5%未満の粒子が1ミクロン未満の直径を有する。好ましくは、ナトリウム含有率は12重量%未満であり、より好ましくは9重量%以下である。ケイ酸ジルコニウムは、好ましくは、約15.5及び28.9で2本の高ピークを生じさせるXRDディフラクトグラムを示し、最も高いピークは28.9で生じる。材料は、好ましくは、または優勢的には、7〜9の範囲のpHと、2.7〜3.7mEq/g、最も好ましくは約3.5のカリウム充填能を有する、ZS−9である。
【0020】
本発明は、上述のケイ酸ジルコニウム組成物の投与方法にも関する。ある好ましい実施形態においては、ケイ酸ジルコニウム組成物は、連続5日間を超える期間にわたって投与される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】ケイ酸ジルコニウムNa
2.19ZrSi
3.01O
9.11*2.71H
2O(MW420.71)の構造を示す多面体図である。
【
図2】ケイ酸ジルコニウム製造のためのバッフルを有する反応容器の概略図を示す。
【
図3】ケイ酸ジルコニウムを製造するために使用される処理装置の略図を示す。
【
図4】実施例3により合成されたケイ酸ジルコニウムの粒度分布を示す。
【
図5】実施例3により合成されたケイ酸ジルコニウムについてのXRDプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者らは、低い不純物プロファイルを有する組成物を長期間使用する要求に応える、新規なケイ酸ジルコニウムモレキュラーシーブ系吸収剤を発見した。ケイ酸ジルコニウム組成物は、前述したケイ酸ジルコニウム組成物についての性能基準を満たすだけでなく、低減された不純物(特には鉛)も示し、このため組成物は長期間の使用に適する。
【0023】
本発明者らは、高純度、高−KEC ZS−9結晶の大スケール製造のための反応器を設計した。米国特許第8,802,152号明細書、米国特許第8,808,750号明細書、及び米国特許第8,877,255号明細書を参照のこと。反応器200は、その側壁上にバッフル構造204を有し、これは撹拌機201と協働して反応時の結晶を大きく持ち上げて懸濁させ、また高純度の高KEC ZS−9結晶を形成させる。
図2。改良された反応器は、バッフル構造204に加えて、結晶化時に反応温度を制御するための冷却又は加熱用のジャケットも含み得る。好ましくは、反応器は、少なくとも20L、より好ましくは200L、500L、2000L、又は5000L、及び200L〜30,000Lの範囲の容積を有する。
【0024】
ケイ酸ジルコニウムの製造のためのプロセスフローは
図3に示されている。反応器にケイ酸塩原料が添加される。経口投与のために望ましい特性を有するケイ酸ジルコニウムを製造することができる以前の方法は、ケイ酸塩原料としてケイ酸ナトリウムを使用していた。この方法は、
図3に示される反応器に入れられる50%のNaOH溶液、水、及び酢酸ジルコニウムも使用する。未精製のケイ酸ジルコニウム生成物が中に供給される乾燥機も示されている。ケイ酸ジルコニウムを洗浄、プロトン化、及び乾燥機の中で乾燥することで、水性廃棄物と共に望みのケイ酸ジルコニウムが製造される。
【0025】
下の実施例2で論じられているように、ケイ酸塩原料は、ケイ酸ナトリウムではなくコロイドシリカ(Ludox(登録商標))である。本発明者らは、高品質のケイ酸ナトリウムの製造のために公知の方法におけるケイ酸ナトリウムを置き換えることは効果的でないことを見出した。本発明は、反応器に最初にコロイドシリカを添加せず、代わりに予め混合された水酸化ナトリウム及び水を添加すべきであるという本発明者らの発見に基づく。更に、シリカ結合を切断してよく混合された溶液を得るために、コロイドシリカを添加して少なくとも20分後に撹拌速度を上げなければならない。本発明の方法の追加的な態様は、下の実施例2を参照することによって理解することができる。
【0026】
本発明のケイ酸ジルコニウムは、1ppm未満の鉛含有量を示す。より好ましくは、鉛含有量は0.1〜0.8ppm、より好ましくは0.3〜0.6ppm、最も好ましくは0.3〜0.45ppmの範囲である。ある実施形態においては、鉛含有量は0.38ppmである。
【実施例】
【0027】
比較例1
高能力のZS−9結晶は次の代表例に従って合成した。
【0028】
反応物は次の通りに合成した。22Lのモートンフラスコに、オーバーヘッドスターラー、熱電対、及び平衡状態にした滴下漏斗を装着した。フラスコに脱イオン水(8,600g、477.37モル)を入れた。撹拌は約145〜150rpmで開始し、水酸化ナトリウム(661.0g、16.53モルのNaOH、8.26モルのNa
2O)をフラスコに添加した。フラスコの中身は、水酸化ナトリウムが溶解するにつれて24℃から40℃まで3分かけて発熱した。溶液を1時間撹拌して最初の発熱を弱めた。ケイ酸ナトリウム溶液(5,017g、22.53モルのSO2、8.67モルのNa
2O)を添加した。ケイ酸ナトリウムはSigma−Aldrichから入手した。この溶液に、滴下漏斗から酢酸ジルコニウム溶液(2,080g、3.76モルのZrO
2)を30分かけて添加した。得られた懸濁液を更に30分間撹拌した。
【0029】
混合物を、脱イオン水(500g、27.75モル)を用いて5G Parrの圧力容器4555型に移した。撹拌機と隣接する反応器の中にバッフル状の構造を与えるための曲がりくねった構成を有する冷却コイルを、反応器に取り付けた。冷却コイルは、撹拌機と隣接するバッフル状の構造を与える目的のみのためにこの反応において使用したことから、これには熱交換流体は充填しなかった。
【0030】
容器を密封し、反応混合物を約230〜235rpmで撹拌し、21℃から140〜145℃まで7.5時間加熱し、140〜145℃で10.5時間維持した。その後、210〜215℃まで6.5時間かけて加熱し、ここで295〜300psiの最大圧力を得た。その後、210〜215℃で41.5時間保持した。引き続き、反応器を4.5時間かけて45℃まで冷却した。得られた白色固体を、脱イオン水(1.0KG)を使用して濾過した。溶出濾液のpHが11未満(10.54)になるまで、固体を脱イオン水(40L)で洗浄した。ウエットケーキの代表的な部分を真空(25インチHg)で一晩、100℃で乾燥させることによって1.376g(87.1%)のZS−9を白色固体として得た。
【0031】
’152特許の中で論じられているように、この実施例の特定の反応器構成及びプロセス条件はより高い能力のケイ酸ジルコニウムを達成し得ることを示した。例えば、1.7〜2.3meq/gの範囲の能力しか達成できない先行技術の方法に対し、3.8〜3.9meq/gの範囲の能力を達成した。
【0032】
しかしながら、本発明者らは、この実施例により製造される材料が、0.6ppmの鉛含有量を示すことを見出した。鉛含有量は、誘導結合プラズマ−マススペクトル(ICP−MS)を使用して決定される。試料は0.5mLのフッ化水素酸、2mLの硝酸、1mLの塩酸、及び1mLの精製水と混合した0.1gの秤量した一部を用いて調製した。材料が溶解したように見えるまで最大200℃で密閉した容器のマイクロ波システムを使用して試料を温浸した。冷却後、内部標準溶液を添加し、製造した溶液をICP−MSのために50gまで精製水で希釈した。
【0033】
ケイ酸ジルコニウム生成物への鉛の主な寄与は、反応物である酢酸ジルコニウム及びケイ酸ナトリウム由来である。この実施例は、反応物として試薬グレードの材料(ケイ酸ナトリウム、酢酸ジルコニウム)を使用した場合でさえも鉛の量が許容可能な量を超え得ることを示している。
【0034】
実施例2
この実施例は、500Lの反応器の中でのケイ酸ナトリウムと酢酸ジルコニウムとの反応からのケイ酸ジルコニウムの製造を示す。ケイ酸ナトリウム(148.8kg)及び水(100.1kg)を500Lの反応容器に添加し、200rpmの速度で撹拌した。水酸化ナトリウム(37.7kg)を添加し、残りの水(100.2kg)を添加した。撹拌速度を80rpmに下げ、酢酸ジルコニウム(62.0kg)を水(49.4kg)と共に添加し、反応器を25〜35分間混合した。140rpmで48時間以上、210±5℃で反応器を加熱して材料を反応させた。得られた材料を4.75〜5.25のpHまでプロトン化して5.0%以下の含水率まで乾燥させた。
【0035】
組成物は、21.8ミクロンの体積加重平均及び13.56ミクロンの表面加重平均を有する。材料は、1ミクロン未満をその体積の0.05%未満含み、3ミクロン未満を1.41%未満含む。得られた材料は、ZS−9について特徴的なXRDプロットを示す。5〜10の2θの範囲内にプリーズ(please)が存在しないことによって示されるように、検出できない量のZS−8しか存在しなかった。本発明者らの先行特許に記載されているように、低減された量の微細粒子を有しケイ酸ジルコニウムの可溶型(ZS−8)がないこの材料は、例えば高カリウム血症の治療などにおける経口投与に好適である。
【0036】
しかし、本発明者らは、この実施例により製造された材料が、必要とされる薬剤の投与量を考慮した適切な水準よりも多い鉛の量を示すことを見出した。下の表2を参照のこと。具体的には、得られる製品は、1.0ppmの鉛量を有することが分かった。ケイ酸ジルコニウム生成物への鉛の主な寄与は、反応物である酢酸ジルコニウム(0.28ppm)及びケイ酸ナトリウム(0.38ppm)由来である。より低い鉛量の酢酸ジルコニウムの形態は商業スケールで入手することができない。ケイ酸塩の他の形態であるコロイドシリカが検出できない量の鉛を有することが分かったものの、コロイドシリカは酢酸ジルコニウムと反応させてケイ酸ジルコニウムを形成するための上述の方法では不適切である。本発明者らは、最終生成物中の鉛の量が、試薬中の鉛の量を抑制しない場合(これはこれらの試薬のバルク供給元での場合がある)に高くなる傾向があることを見出した。反応を200L〜500Lの反応容積のスケールで行った場合に、約1〜1.1ppmの同程度の鉛の量が観察された。
【0037】
実施例3
この実施例は、500Lの反応器中でのコロイドシリカと酢酸ジルコニウムとの反応からのケイ酸ジルコニウムの製造を示す。本発明者らは、コロイドシリカを酢酸ジルコニウムと反応させるためには、方法が追加的な工程及び異なる撹拌速度を含む必要があることを見出した。例えば、コロイドシリカ法は、シリカの結合を切断してよく混合された溶液を得るために20分以上の増加させた撹拌(200rpm)の工程を必要とする。本発明者らは、この方法によって鉛の量を1ppm未満に低減し得ること、及び下に示されるように500Lの反応器中で0.38ppmまで低減できることを見出した。
【0038】
水酸化ナトリウム(97.2kg)を84.5kgの水と混合し、150rpmで撹拌する一方で、108.8kgのコロイドシリカ(Ludox(登録商標))を添加する。反応器の中への添加ラインからコロイドシリカを除去するために10.5kgの水を使用する一方で、撹拌を同じ速度で継続する。コロイドシリカを反応器に添加した後、シリカの結合を切断してよく混合された溶液を得るために、撹拌を少なくとも20分間200rpmに上げる。追加的な52.9kgの水を添加する一方で撹拌を100rpmに下げ、次いで少なくとも更に5分間200rpmに上げる。
【0039】
その後、81.0kgの酢酸ジルコニウムを約30分間かけて添加する一方で撹拌を150rpmに下げる。水(62.8kg)を添加し、約30分間撹拌を継続した後に加熱する。
【0040】
反応器は、150rpmで混合しながらできるだけ迅速に210℃まで加熱する。反応器を210±5℃で少なくとも36時間維持する。完結した後、4.75〜5.25の範囲のpHまで材料を2回プロトン化する。材料を160℃で30分間加熱することによって5%未満の含水率まで乾燥させる。
【0041】
この実施例により合成した得られたケイ酸ジルコニウムの粒度分布は
図4に示されている。組成物は、3ミクロン未満が約2%の粒度分布を示した。XRDプロットからは、約15.5及び28.9で生じる2つ(tow)の最も高いピークを含み、最も高いピークが約28.9で生じる、ZS−9に関しての特徴が示された。5〜10の2θ範囲内にあるプリーズ(please)が存在しないことによって示されるように、検出できない量のZS−8しか存在しなかった。
図5を参照のこと。得られたケイ酸ジルコニウムはデブリ及び細部(particulars)が本質的にない自由流動性の白色粉末であった。FTIRスペクトルから、約799及び917cm
−1のバンドが示され、これは以前の許容可能なロットと一致した。適切なFTIRスペクトルは本発明者らの先行特許の中に示されている。得られた材料のpHは9であった。測定されたカリウム充填能は約3.5mEq/gであった。ジルコニウム含有率は約21.7%であり、ケイ素含有率は約17%であり、ナトリウム含有率は約7.3%であった。最終生成物の含水率は5%であった。
【0042】
コロイドシリカを使用する上述の方法により製造された最終生成物の鉛の量は0.38ppmであった。これはこの組成物の長期投与に関して適切な量である。
【0043】
本発明の別の実施形態及び使用は、明細書の検討及び本明細書に開示の発明の実施から当業者に自明であろう。全ての米国及び外国の特許及び特許出願を含む本明細書で引用されている全ての参照文献は、ここに具体的に全体が参照により本明細書に組み込まれる。明細書及び実施例は例示の目的にすぎないとみなされるべきことが意図されており、本発明の真の範囲及び趣旨は以下の請求項によって示される。
【0044】
【表1】