特許第6546910号(P6546910)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6546910-感温性粘着剤 図000010
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6546910
(24)【登録日】2019年6月28日
(45)【発行日】2019年7月17日
(54)【発明の名称】感温性粘着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 201/02 20060101AFI20190705BHJP
   C09J 133/06 20060101ALI20190705BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20190705BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20190705BHJP
【FI】
   C09J201/02
   C09J133/06
   C09J11/06
   C09J7/38
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-510138(P2016-510138)
(86)(22)【出願日】2015年2月23日
(86)【国際出願番号】JP2015054989
(87)【国際公開番号】WO2015146410
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2017年10月31日
(31)【優先権主張番号】特願2014-61904(P2014-61904)
(32)【優先日】2014年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104318
【弁理士】
【氏名又は名称】深井 敏和
(72)【発明者】
【氏名】惠 隆史
(72)【発明者】
【氏名】河原 伸一郎
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特表平04−507425(JP,A)
【文献】 特開2012−102212(JP,A)
【文献】 特開2010−254803(JP,A)
【文献】 特開2014−227520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1側鎖結晶性ポリマーを含有し、前記第1側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度で粘着力が低下する感温性粘着剤であって、
前記第1側鎖結晶性ポリマーよりも小さい重量平均分子量を有する第2側鎖結晶性ポリマーをさらに含有するとともに、
前記第1側鎖結晶性ポリマーは、40万〜70万の重量平均分子量と、10〜60℃の融点とを有し、
前記第2側鎖結晶性ポリマーは、3500〜10万の重量平均分子量と、43〜53℃の融点とを有し、
軟化点が90〜110℃である粘着付与剤をさらに含有する、感温性粘着剤。
【請求項2】
前記粘着付与剤の含有量が、第1側鎖結晶性ポリマー100重量部に対して15〜35重量部である、請求項に記載の感温性粘着剤。
【請求項3】
前記第2側鎖結晶性ポリマーの含有量が、第1側鎖結晶性ポリマー100重量部に対して1〜20重量部である、請求項1または2に記載の感温性粘着剤。
【請求項4】
前記第1側鎖結晶性ポリマーおよび前記第2側鎖結晶性ポリマーが、炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレート、炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートおよび極性モノマーを重合させることによって得られる共重合体である、請求項1〜のいずれかに記載の感温性粘着剤。
【請求項5】
前記第1側鎖結晶性ポリマーが、反応性フッ素化合物をさらに重合させることによって得られる共重合体である、請求項に記載の感温性粘着剤。
【請求項6】
200℃以上の高温雰囲気下に曝した後の5℃におけるガラス−ガラス間の剥離強度が10N/676mm2以下である、請求項1〜のいずれかに記載の感温性粘着剤。
【請求項7】
ガラス基板の仮固定用である、請求項1〜のいずれかに記載の感温性粘着剤。
【請求項8】
請求項1〜のいずれかに記載の感温性粘着剤を含む、感温性粘着シート。
【請求項9】
フィルム状またはシート状の基材と、前記基材の少なくとも片面に積層された請求項1〜のいずれかに記載の感温性粘着剤からなる粘着剤層とを含む、感温性粘着テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温雰囲気下(例えば200℃以上)においてもガラスなどを固定し得る耐熱性を有し、かつ高温雰囲気下から冷却して低温雰囲気下に曝した場合に、固定したガラスなどを剥離し得る感温性粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネル、有機EL素子(OLED)などの製造工程において、基板の加工を効率よく行うために、粘着剤、粘着シート、粘着テープなどを用いて基板を固定する場合がある。例えば、特許文献1には、所定の粘着付与剤および側鎖結晶性ポリマーを含有する粘着シートが記載されている。
【0003】
ところで、タッチパネル、有機EL素子などの製造工程には、基板を200℃以上の高温雰囲気下に曝すプロセスが存在する。例えば、従来の粘着シートなどを用いて、ガラス製の台座にプラスチック製の基板を固定した場合には、高温条件下に曝した後でも、台座から基板を剥離することができる。
【0004】
しかし、従来の粘着シートなどを用いて、ガラス製の台座にガラス製の基板を固定した場合には、高温雰囲気下に曝すと粘着成分のガラスに対する密着性が高まり、台座から基板を剥離するのが困難となる。また、剥離しにくくても、柔軟なフィルム状の基板であれば、例えば基板を巻き取るように曲げて剥離することも可能であるが、ガラス基板の場合は曲げて剥離することもできない。このように、従来の粘着剤、粘着シート、粘着テープなどは、ガラス製の台座にガラス基板を固定することを想定していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−102212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、高温雰囲気下(例えば200℃以上)においてもガラスなどを固定し得る耐熱性を有し、かつ高温雰囲気下から冷却して低温雰囲気下に曝した場合に、固定したガラスなどを剥離し得る感温性粘着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の感温性粘着剤は、第1側鎖結晶性ポリマーを含有し、前記第1側鎖結晶性ポリマーの融点未満の温度で粘着力が低下し、前記第1側鎖結晶性ポリマーよりも小さい重量平均分子量を有する第2側鎖結晶性ポリマーをさらに含有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の感温性粘着剤によれば、高温雰囲気下(例えば200℃以上)においてもガラスなどを固定し得る耐熱性を有し、かつ高温雰囲気下から冷却して低温雰囲気下に曝した場合に、固定したガラスなどを剥離し得るという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例における剥離強度の測定方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<感温性粘着剤>
以下、本発明の一実施形態に係る感温性粘着剤について詳細に説明する。本実施形態の感温性粘着剤は、第1側鎖結晶性ポリマーおよび第1側鎖結晶性ポリマーよりも小さい重量平均分子量を有する第2側鎖結晶性ポリマーを含有する。
【0011】
「側鎖結晶性ポリマー」とは、融点を有するポリマーのことである。ここで「融点」とは、ある平衡プロセスにより、最初は秩序ある配列に整合されていた重合体の特定部分が無秩序状態になる温度であり、示差熱走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分の測定条件で測定して得られる値のことを意味する。
【0012】
側鎖結晶性ポリマーは、上述の融点未満の温度では結晶化し、かつ融点以上の温度では相転位して流動性を示す。すなわち、側鎖結晶性ポリマーは、温度変化に応じて可逆的に結晶状態または流動状態になるため、感温性を有する。側鎖結晶性ポリマーは融点未満まで冷却すると、結晶化して粘着力が低下する。一方、側鎖結晶性ポリマーは融点以上に加熱すると流動性を示すため、粘着力が回復する。その結果、本実施形態の感温性粘着剤は、繰り返し使用することができる。
【0013】
(第1側鎖結晶性ポリマー)
本実施形態の感温性粘着剤に含まれる第1側鎖結晶性ポリマーは、側鎖結晶性ポリマーであれば特に限定されず、例えば、炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートを含むモノマー成分を重合させて得られる重合体などが挙げられる。なお、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」または「メタクリレート」を意味する。この炭素数16以上の直鎖状アルキル基が、側鎖結晶性ポリマーにおける側鎖結晶性部位として機能する。すなわち、側鎖結晶性ポリマーは、側鎖に炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する櫛形のポリマーであり、この側鎖が分子間力などによって秩序ある配列に整合され結晶化する。
【0014】
炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、エイコシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどの炭素数16〜22の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。この(メタ)アクリレートは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。この(メタ)アクリレートは、モノマー成分中に好ましくは10〜90重量%、より好ましくは20〜80重量%の割合で含まれる。
【0015】
モノマー成分には、炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレートと共重合し得る他のモノマーが含まれていてもよい。他のモノマーとしては、極性モノマー、炭素数16以上の直鎖状アルキル基以外のアルキル基を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0016】
極性モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基を有するエチレン性不飽和単量体などが挙げられる。これらの極性モノマーは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。極性モノマーは、モノマー成分中に好ましくは20重量%以下、より好ましくは1〜15重量%の割合で含まれる。
【0017】
炭素数16以上の直鎖状アルキル基以外のアルキル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば炭素数1〜6のアルキル基を有する(メタ)アクリレートが挙げられ、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。この(メタ)アクリレートは、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。この(メタ)アクリレートは、モノマー成分中に好ましくは10〜90重量%、より好ましくは20〜80重量%の割合で含まれる。
【0018】
さらに、モノマー成分には、反応性フッ素化合物が含まれていてもよい。反応性フッ素化合物とは、反応性を示す官能基を有するフッ素化合物を意味する。反応性を示す官能基としては、例えばビニル基、アリル基、(メタ)アクリル基、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基などのエチレン性不飽和二重結合を有する基;エポキシ基(グリシジル基およびエポキシシクロアルキル基を含む)、メルカプト基、カルビノール基(メチロール基)、カルボキシル基、シラノール基、フェノール基、アミノ基、水酸基などが挙げられる。
【0019】
反応性フッ素化合物の具体例としては、下記一般式(I)で表される化合物などが挙げられる。
【0020】
【化1】
【0021】
式中、R1はCH2=CHCOOR2−またはCH2=C(CH3)COOR2−を示す。またR2はアルキレン基を示す。
【0022】
アルキレン基としては、例えばメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基などの炭素数1〜6の直鎖または分岐したアルキレン基などが挙げられる。
【0023】
一般式(I)で表される化合物の具体例としては、下記式(Ia)で表される2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、式(Ib)で表される2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0024】
【化2】
【0025】
反応性フッ素化合物は市販品を用いてもよく、例えば、「ビスコート3F」、「ビスコート3FM」、「ビスコート4F」、「ビスコート8F」、「ビスコート8FM」(いずれも、大阪有機化学工業(株)製)、「ライトエステルM−3F」(共栄社化学(株)製)などが市販されている。
【0026】
反応性フッ素化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。さらに、反応性フッ素化合物は、モノマー成分中に好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下の割合で含まれる。
【0027】
第1側鎖結晶性ポリマーの好ましい組成としては、ベヘニルアクリレート28〜34重量%、メチルアクリレート54〜64重量%、アクリル酸4〜6重量%、および式(Ia)で表される2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート4〜6重量%である。第1側鎖結晶性ポリマーの他の好ましい組成としては、ステアリルアクリレート26〜30重量%、メチルアクリレート58〜66重量%、アクリル酸4〜6重量%、および式(Ia)で表される2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート4〜6重量%である。第1側鎖結晶性ポリマーは、モノマー成分のうちメチルアクリレートの割合が最も多いのが好ましい。
【0028】
モノマー成分の重合方法としては特に限定されず、例えば溶液重合法、塊状重合法、縣濁重合法、乳化重合法などが挙げられる。例えば、溶液重合法を採用する場合、モノマー成分と溶媒とを混合し、必要に応じて重合開始剤や連鎖移動剤を添加して、撹拌しながら40〜90℃程度で2〜10時間程度反応させればよい。
【0029】
第1側鎖結晶性ポリマーの重量平均分子量は特に限定されず、好ましくは100000よりも大きく、より好ましくは300000〜800000、さらに好ましくは400000〜700000である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。
【0030】
本実施形態の感温性粘着剤に含まれる第1側鎖結晶性ポリマーは、例えば基板加工のプロセスにおける固定および剥離を考慮すると、10〜60℃の融点を有することが好ましく、20〜60℃の融点を有することがより好ましい。融点がこのような温度であれば、基板加工の高温雰囲気下におけるプロセスでは、感温性粘着剤は粘着性を有するため、被着体を確実に固定することができる。一方、被着体を剥離するために冷却する際には、比較的少ない冷却エネルギーで融点未満の温度まで冷却することができる。融点は、モノマー成分の組成などを変えることによって調整することができる。
【0031】
(第2側鎖結晶性ポリマー)
本実施形態の感温性粘着剤に含まれる第2側鎖結晶性ポリマーは、第1側鎖結晶性ポリマーよりも小さい重量平均分子量を有するものであれば特に限定されない。
【0032】
従来の感温性粘着剤を被着体に固定した状態で高温雰囲気下に曝すと、感温性粘着剤が柔軟になって被着体の表面に存在する凹凸形状に追従するようになる。そのため冷却した際に、いわゆるアンカー効果が発現し、感温性粘着剤の粘着力が初期粘着力よりも高くなり、剥離不良が生じる。
【0033】
第2側鎖結晶性ポリマーは、高温雰囲気下における感温性粘着剤の被着体に対する濡れ性を低下させ、被着体の表面に存在する凹凸形状に感温性粘着剤を追従させにくくすると推察される。その結果、アンカー効果の発現を抑制することができ、剥離性が向上する。
【0034】
第2側鎖結晶性ポリマーも、基本的には、第1側鎖結晶性ポリマーと同様の方法によって得られる。すなわち、上述の炭素数16以上の直鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリレート、極性モノマー、炭素数16以上の直鎖状アルキル基以外のアルキル基を有する(メタ)アクリレートなどを含むモノマー成分を、上述の溶液重合法、塊状重合法、縣濁重合法、乳化重合法などで重合させて得られる。必要に応じて、上述の反応性フッ素化合物がモノマー成分に含まれていてもよい。
【0035】
第2側鎖結晶性ポリマーの重合反応において、第1側鎖結晶性ポリマーよりも重量平均分子量を小さくするため、例えば、第1側鎖結晶性ポリマーの重合反応よりも重合開始剤や連鎖移動剤の添加量を増やすなどして、所望の重量平均分子量に調整すればよい。第2側鎖結晶性ポリマーの重量平均分子量は、好ましくは100000以下、より好ましくは4000〜100000、さらに好ましくは4000〜40000、さらに好ましくは5000〜30000である。
【0036】
第2側鎖結晶性ポリマーは、第1側鎖結晶性ポリマー100重量部に対して、好ましくは1〜20重量部、より好ましくは1〜15重量部、さらに好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部の割合で含まれる。
【0037】
第2側鎖結晶性ポリマーの好ましい組成としては、ベヘニルアクリレート33〜47重量%、ステアリルアクリレート32〜38重量%、メチルアクリレート17〜23重量%、およびアクリル酸4〜6重量%である。第2側鎖結晶性ポリマーは、モノマー成分のうちベヘニルアクリレートの割合が最も多いのが好ましい。
【0038】
(粘着付与剤)
本実施形態の感温性粘着剤は、必要に応じて粘着付与剤をさらに含有していてもよい。粘着付与剤としては、例えば、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、炭化水素系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、フェノール系樹脂、ケトン系樹脂などが挙げられ、特に限定されない。粘着付与剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、第1側鎖結晶性ポリマーおよび第2側鎖結晶性ポリマーとの相溶性の観点から、ロジン系樹脂が好ましい。
【0039】
粘着付与剤の軟化点は特に限定されず、例えば50〜250℃程度、好ましくは90〜200℃程度である。軟化点を、90〜140℃、好ましくは90〜110℃にすると、剥離性が向上する傾向にある。なお、軟化点は、JIS K 5902に規定される環球法に従って測定される。
【0040】
ロジン系樹脂としては、例えばロジン誘導体などが挙げられる。ロジン誘導体としては、例えばガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンなどの未変性ロジン(生ロジン)をアルコール類によってエステル化したロジンのエステル化合物、または水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジンなどの変性ロジンをアルコール類によってエステル化した変性ロジンのエステル化合物などのロジンエステル類;未変性ロジン、変性ロジン、各種ロジン誘導体などのロジン類の金属塩;未変性ロジン、変性ロジン、各種ロジン誘導体などにフェノールを酸触媒で付加させて熱重合することによって得られるロジンフェノール樹脂などが挙げられる。
【0041】
これらのロジン誘導体の中でも、ロジンのエステル化合物が好ましく、例えば、「スーパーエステルA−100」、「スーパーエステルA−125」、「ペンセルD−160」(いずれも荒川化学工業(株)製)などが市販されている。
【0042】
ロジンのエステル化合物以外の粘着付与剤としては、例えばロジン変性特殊合成樹脂の「ハリエスターKT−3」や「ハリエスターDS−90」(ハリマ化成(株)製)、脂環族飽和炭化水素系樹脂の「アルコンP−100」(荒川化学工業(株)製)などが市販されている。
【0043】
粘着付与剤は、第1側鎖結晶性ポリマー100重量部に対して、好ましくは200重量部以下、より好ましくは150重量部以下、さらに好ましくは100重量部以下の割合で含まれる。粘着付与剤の含有量を、第1側鎖結晶性ポリマー100重量部に対して、好ましくは5〜40重量部、より好ましくは15〜35重量部、さらに好ましくは25〜35重量部にすると、剥離性が向上する傾向にある。
【0044】
(架橋剤)
本実施形態の感温性粘着剤は、本実施形態の効果を阻害しない範囲で、架橋剤を含有していてもよい。例えば、架橋剤は、第1側鎖結晶性ポリマー同士、第2側鎖結晶性ポリマー同士、または第1側鎖結晶性ポリマーと第2側鎖結晶性ポリマーとを架橋させるために用いられる。架橋剤としては、例えば金属キレート化合物、アジリジン化合物、イソシアネート化合物、エポキシ化合物などが挙げられる。これらの中でも、耐熱性をより向上させる点で、金属キレート化合物が好ましい。架橋反応は、架橋剤を添加して90〜110℃で1〜20分程度加熱することによって行われる。
【0045】
金属キレート化合物としては、例えば、多価金属のアセチルアセトン配位化合物、多価金属のアセト酢酸エステル配位化合物などが挙げられる。多価金属としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、鉄、チタン、亜鉛、コバルト、マンガン、ジルコニウムなどが挙げられる。金属キレート化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アルミニウムのアセチルアセトン配位化合物またはアセト酢酸エステル配位化合物が好ましく、アルミニウムトリスアセチルアセトナートがより好ましい。
【0046】
架橋剤は、第1側鎖結晶性ポリマー100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは0.5〜15重量部、さらに好ましくは1〜15重量部の割合で含まれる。架橋剤として金属キレート化合物を採用する場合、金属キレート化合物は、第1側鎖結晶性ポリマー100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部、より好ましくは5〜12重量部、さらに好ましくは8〜12重量部の割合で含まれる。
【0047】
本実施形態の感温性粘着剤の使用方法は特に限定されず、感温性粘着剤をそのまま使用してもよく、必要に応じて感温性粘着剤と溶剤とを混合して使用してもよい。あるいは、下記のように、本実施形態の感温性粘着剤を感温性粘着シート、感温性粘着テープなどに加工して使用してもよい。
【0048】
<感温性粘着シート>
感温性粘着シートとしては、例えば基材レスのシート状の形態が挙げられる。このような基材レスの感温性粘着シートは、例えば、離型フィルム(シリコーンなどの離型剤が塗布されたポリエチレンテレフタレートフィルムなど)に本実施形態の感温性粘着剤を塗布し、加熱して(架橋させて)得られる。通常、感温性粘着剤の塗布後、感温性粘着剤の上にさらに離型フィルムを貼付するため、感温性粘着シートは離型フィルムで挟まれている。離型フィルムは、好ましくは5〜500μm、より好ましくは25〜250μmの厚みを有しており、感温性粘着シートの使用時に剥離される。感温性粘着シートは、好ましくは5〜200μm、より好ましくは10〜100μmの厚みを有する。
【0049】
塗布方法は特に限定されず、例えば、感温性粘着剤と溶剤とを混合して塗布液を調製し、塗布液をコーターなどによって塗布する方法が挙げられる。コーターとしては、例えばナイフコーター、ロールコーター、カレンダーコーター、コンマコーター、グラビアコーター、ロッドコーターなどが挙げられる。
【0050】
<感温性粘着テープ>
本実施形態の感温性粘着剤を感温性粘着テープとして使用する場合には、本実施形態の感温性粘着剤からなる粘着剤層を、フィルム状またはシート状の基材の少なくとも片面に積層すればよい。基材としては、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ塩化ビニルなどの合成樹脂製の基材が挙げられる。
【0051】
基材は、単層構造または多層構造のいずれであってもよく、通常5〜500μm程度、好ましくは25〜250μm程度の厚みを有する。基材には、粘着剤層に対する密着性を高める上で、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、ブラスト処理、ケミカルエッチング処理、プライマー処理などの表面処理が施されていてもよい。
【0052】
基材に粘着剤層を積層させる方法としては、上述のように、感温性粘着剤と溶剤とを混合して塗布液を調製し、塗布液をコーターなどで塗布すればよい。粘着剤層は、好ましくは5〜60μm、より好ましくは10〜60μm、さらに好ましくは10〜50μmの厚みを有する。
【0053】
基材の両面に粘着剤層を積層させる場合、各粘着剤層の厚みは同じでもよく、異なっていてもよい。各粘着剤層を形成する感温性粘着剤の組成は同じでもよく、異なっていてもよい。さらに、片面に本実施形態の感温性粘着剤からなる粘着剤層が積層されていれば、他面は本実施形態の感温性粘着剤以外の粘着剤(例えば、感圧性粘着剤など)からなる粘着剤層が積層されていてもよい。感圧性粘着剤としては、例えば、天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤、スチレン−ブタジエンラテックスベース粘着剤、アクリル系粘着剤などが挙げられる。
【0054】
さらに、感温性粘着テープの粘着剤層の表面には、通常、離型フィルムが積層されており、この離型フィルムは感温性粘着テープの使用時に剥離される。離型フィルムとしては、上述の感温性粘着シートで説明した離型フィルムが用いられる。
【0055】
本実施形態の感温性粘着剤は、高温雰囲気下(例えば200℃以上)においてもガラスなどを固定し得る耐熱性を有し、かつ高温雰囲気下から冷却して低温雰囲気下に曝した場合に、固定したガラスなどを剥離し得るという効果を発揮する。例えば、本実施形態の感温性粘着剤は、200℃以上の高温雰囲気下に曝した後の5℃におけるガラス−ガラス間の剥離強度が、好ましくは10N/676mm2以下である。このように剥離強度が低いため、ガラス製の台座にガラス製の基板を固定した場合でも、冷却後にガラス基板を剥離することができる。
【0056】
したがって、本実施形態の感温性粘着剤は、例えば、ガラス基板を200℃以上の高温雰囲気下に曝すプロセスを含むタッチパネル、有機EL素子などの製造工程において、ガラス基板を仮固定するための粘着剤として好適に使用される。
【実施例】
【0057】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
(合成例1:第1側鎖結晶性ポリマーの合成)
表1に示すモノマーを表1に示す割合で反応容器に加えた。表1に示すモノマーは、以下の通りである。
C22A:ベヘニルアクリレート
C18A:ステアリルアクリレート
C1A:メチルアクリレート
AA:アクリル酸
V3F:反応性フッ素化合物(上記式(Ia)で表される2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート:大阪有機化学工業(株)製の「ビスコート3F」)
【0059】
次いで、モノマー混合物100重量部に対して200重量部の溶媒を反応容器に加えた。溶媒としては、酢酸エチル:トルエン=8:2(重量比)の混合溶媒を用いた。さらに、重合開始剤として日油社製の「パーロイルOPP」を0.3重量部の割合で反応容器に加えた後、55℃で4時間撹拌して、これらのモノマーを共重合させ、第1側鎖結晶性ポリマーを得た。得られた第1側鎖結晶性ポリマーの重量平均分子量は600000であり、融点は55℃であった。重量平均分子量はGPCで測定し、得られた測定値をポリスチレン換算した値である。融点はDSCを用いて10℃/分の測定条件で測定した値である。
【0060】
(合成例2:第2側鎖結晶性ポリマーの合成)
表1に示すモノマーを表1に示す割合で反応容器に加えた。次いで、モノマー混合物100重量部に対して100重量部の溶媒を反応容器に加えた。溶媒としては、トルエンを用いた。さらに、重合開始剤として日油社製の「パーヘキシルPV」を1.0重量部、連鎖移動剤としてドデシルメルカプタンを6.0重量部の割合で反応容器にそれぞれ加えた後、60℃で2時間撹拌した。そして、還流温度でさらに3時間攪拌して、これらのモノマーを共重合させ、第2側鎖結晶性ポリマーを得た。得られた第2側鎖結晶性ポリマーの重量平均分子量は8000であり、融点は51℃であった。
【0061】
【表1】
【0062】
(実施例1)
合成例1で得られた第1側鎖結晶性ポリマー100重量部に対して、合成例2で得られた第2側鎖結晶性ポリマーを1重量部、および架橋剤としてアルミニウムトリスアセチルアセトナート(川研ファインケミカル(株)製)を10重量部の割合で混合した。次いで、得られた混合物に、固形分が30重量%となるように酢酸エチルを加えて塗布液を調製した。
【0063】
得られた塗布液を離型フィルム上に塗布し、100℃で10分間加熱して架橋反応を行った。このようにして、25μmの厚みを有する感温性粘着シートを得た。離型フィルムとしては、表面にシリコーンが塗布された50μmの厚みを有するポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。
【0064】
(実施例2〜7および比較例1)
表2に示す成分を表2に示す割合で用いた以外は、実施例1と同様の手順で塗布液を調製して、感温性粘着シートを得た。粘着付与剤としては、軟化点が95〜105℃である荒川化学工業(株)製の「スーパーエステルA−100」を用いた。
【0065】
<評価>
実施例1〜7および比較例1で得られた感温性粘着シートについて、(1)耐熱性、(2)剥離性および(3)剥離強度を下記の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0066】
(1)耐熱性
50℃雰囲気中で、感温性粘着シートを介してガラス基板(カバーガラス(50mm×70mm))をガラス台座上に固定した。次いで、ガラス基板を固定したガラス台座を200℃雰囲気下で60分間静置した。その後、ガラス基板の状態を目視で観察し、下記の基準で評価した。○の場合、高温雰囲気下でもガラス台座にガラス基板が固定されていると判断し、良好な耐熱性を有する感温性粘着シートであると評価した。
○:ガラス基板に浮きが見られなかった場合。
×:ガラス基板に浮きが見られた場合。
【0067】
(2)剥離性
上記の耐熱性において目視で観察した後、ガラス基板を固定したガラス台座を5℃雰囲気下で5分間静置した。その後、ガラス台座からガラス基板を手で剥離し、下記の基準で評価した。◎、○または△の場合、良好な剥離性を有する感温性粘着シートであると評価した。
◎:ガラス基板をガラス台座から容易に剥離できた場合。
○:若干の抵抗を感じるものの、ガラス基板をガラス台座から剥離できた場合。
△:抵抗を感じるものの、ガラス基板をガラス台座から剥離できた場合。
×:ガラス基板が割れた、またはガラス基板をガラス台座から剥離できなかった場合。
【0068】
(3)剥離強度
図1に示すように、2枚のスライドガラス1a、1b(幅26mmおよび長さ76mm)のうち、1枚のスライドガラス1aを台座2に固定した。固定は、スライドガラス1aの両端部を固定具3で把持して行った。スライドガラス1aに、もう1枚のスライドガラス1bを、50℃雰囲気中で感温性粘着シート4を介して十字状に固定し、20分間静置した。その後200℃まで昇温して20分間静置した。次いで、5℃まで冷却して5分間静置後、5℃雰囲気中でスライドガラス1bを持ち上げ、スライドガラス1bがスライドガラス1aから剥がれたときの剥離強度を測定した。その結果を、表2中の「5℃剥離強度」の欄に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2から明らかなように、第2側鎖結晶性ポリマーを含有する実施例1〜7の感温性粘着シートは、いずれも良好な耐熱性および剥離性を有していることがわかる。さらに、5℃の雰囲気下に曝した場合に、いずれも剥離強度が10N/676mm2以下と低い(すなわち、粘着力が低下している)ことがわかる。すなわち、本実施形態の感温性粘着剤(感温性粘着シート)を用いると、高温雰囲気下においてもガラス基板が固定され得、かつ高温雰囲気下から冷却して低温雰囲気下に曝した場合にも、固定したガラス基板が問題なく剥離され得ることがわかる。一方、第2側鎖結晶性ポリマーを含まない比較例1では、剥離性に劣り、実用に耐えることができなかった。
【0071】
(実施例8)
実施例6において、スーパーエステルA−100の代わりに軟化点が120〜130℃である「スーパーエステルA−125」(荒川化学工業(株)製)を用いた以外は、実施例6と同様の手順で塗布液を調製して、感温性粘着シートを得た。得られたシートの剥離強度を実施例1と同様の手順で測定したところ、6.0N/676mm2であった。
【0072】
したがって、剥離強度の測定値からも、本実施形態の感温性粘着剤(感温性粘着シート)を用いると、高温雰囲気下から冷却して低温雰囲気下に曝した場合に、固定したガラス基板が問題なく剥離され得ることがわかる。
【0073】
(合成例3:第1側鎖結晶性ポリマーの合成)
表3に示すモノマーを表3に示す割合で反応容器に加え、合成例1と同様の方法でモノマーを共重合させ、第1側鎖結晶性ポリマーを得た。得られた第1側鎖結晶性ポリマーの重量平均分子量は550000であり、融点は25℃であった。
【0074】
【表3】
【0075】
(実施例9)
表4に示す成分を表4に示す割合で用いた以外は、実施例1と同様の手順で塗布液を調製して、感温性粘着シートを得た。粘着付与剤としては、軟化点が95〜105℃である荒川化学工業(株)製の「スーパーエステルA−100」を用いた。
【0076】
得られた感温性粘着シートについて、(1)耐熱性、(2)剥離性および(3)剥離強度を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表4に示す。
【0077】
【表4】
【0078】
表4から明らかなように、実施例9の感温性粘着シートは、良好な耐熱性および剥離性を有していることがわかる。さらに、5℃の雰囲気下に曝した場合に、剥離強度が10N/676mm2以下と低い(すなわち、粘着力が低下している)ことがわかる。
【0079】
(合成例4〜7:第2側鎖結晶性ポリマーの合成)
表5に示すモノマーを表5に示す割合で反応容器に加え、連鎖移動剤であるドデシルメルカプタンの添加量を以下に示す割合にした以外は合成例2と同様の方法でモノマーを共重合させ、第2側鎖結晶性ポリマーを得た。得られた第2側鎖結晶性ポリマーの重量平均分子量および融点を表5に示した。また、比較のため、上述した合成例2も表5に示した。
【0080】
(ドデシルメルカプタンの添加量)
合成例4:15.0重量部
合成例5: 3.0重量部
合成例6: 0.5重量部
合成例7: 0.2重量部
【0081】
【表5】
【0082】
(実施例10〜13)
表6に示す成分を表6に示す割合で用いた以外は、実施例1と同様の手順で塗布液を調製して、感温性粘着シートを得た。粘着付与剤としては、軟化点が95〜105℃である荒川化学工業(株)製の「スーパーエステルA−100」を用いた。
【0083】
得られた感温性粘着シートについて、(1)耐熱性、(2)剥離性および(3)剥離強度を実施例1と同様の方法で評価した。結果を表6に示す。また、比較のため、上述した実施例6も表6に示す。
【0084】
【表6】
【0085】
表5および表6から明らかなように、第2側鎖結晶性ポリマーが、4000〜40000の重量平均分子量を有する場合に、特に良好な剥離性を有していることがわかる。
図1