(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、杖は、ステッキやポールとも称され、視覚障害者や、高齢者等の足の不自由な人のみならず、健常者においてもトレッキングや軽登山等において使用されている。このような杖は、通常、棒状のシャフト部と、シャフト部の上端に形成され使用者にて把持されるグリップ部と、シャフト部の下端に付設された石突きとを備えている。これら従来の杖は、構造的に多少の違いはあるものの、それらの殆どが、木製やアルミニウム合金等の材質から形成されている。
【0003】
しかしながら、例えば視覚障害者が使用する、いわゆる白杖にあっては、長時間に亘って、先端を地面から僅かに持ち上げた状態で使用されることが多く、使用者の負担を軽減するため、軽量化が望まれている。そこで、シャフト部を炭素繊維強化樹脂材料で構成した杖が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。このようなシャフト部を有する杖においては、前記従来の木製やアルミニウム合金製の杖に比べて軽量化されており、反りや腐食の問題が解消されているが、視覚障害者等にとっては未だ長時間の使用に耐えうるほど軽量とはいえず、歩行路面や障害物の状況を探るため頻繁にこれらを叩く作業が入るので、その叩いた時の衝撃力が石突きを通してシャフト部に伝搬し、前記炭素繊維に微小クラック(亀裂)を発生させ、亀裂が発生している部分で容易に破断するという問題がある。
【0004】
上記の問題点を解消するため、シャフト部が、高強度有機繊維強化樹脂層と炭素繊維強化樹脂層とを備え、内側にガラス繊維強化樹脂層を備える杖が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。この杖のシャフト部は、中空であり、互いに連結・分離可能な複数のシャフト部分からなり、互いに隣接するシャフト部分は、一方のシャフト部分の連結端部に、これに対向する他方のシャフト部の連結端部(アウターパイプ)内へ挿抜可能な小径部を設けることで、折り畳み可能な杖としている。
【0005】
しかしながら、前記シャフト部分を連結した杖は、シャフト部分と該シャフト部分に接着された小径部が各製造規格をクリアーしていても、ガタツキが発生することがある。特に白杖にあっては、歩行路面や障害物の状況を探るため頻繁にこれらを叩く作業が入るので、その叩いた時の衝撃力で、シャフト部分と小径部との接着部分が破損し、その結果、使用とともにインナーパイプ潜りが発生しガタツキの発生や歩行補助として使用不可の原因となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0015】
図1(a)は、本発明の実施形態を示す杖の外観図である。
図1(a)に示すように、本発明の実施形態の杖(1)は、シャフト部(2)と、前記シャフト部(2)の上端に設けたグリップ部(3)と、シャフト部(2)の下端に設けた石突き(4)とから構成されており、前記シャフト部(2)は、連結・分離可能な複数のシャフト部分(20)から構成されている(シャフト部分(20)については後述する)。
【0016】
シャフト部(2)は、例えば、杖(1)の使用者に自転車がぶつかった場合など、軸直交方向に衝撃を受けた場合でも容易に破断しないように、その軸直交方向の力に対する耐衝撃性は10J以上の衝撃吸収エネルギーのものが好ましく、安全性および補修性により優れる点から15J以上のものがより好ましい。なおこの耐衝撃性は、インストロン社の落錘型衝撃試験機(製品名:落錘型衝撃試験機 Dynatup(登録商標)9200シリーズ)等を用いて、JIS K 7055に記載の三点曲げ落錘試験法に準じて測定できる。
【0017】
前記グリップ部(3)は、本発明の実施形態に用いることができるものとしてI字形に形成した例を挙げているが、I字型の握持部の太さや角度を変形するなど歩行路面を叩く作業がし易い各種形状に形成したものなどに適宜変更することが可能である。また、必要に応じて、任意の部位に繋ぎ手材やストラップ等を付設してもよいし、グリップ部(3)の長さや太さを、使用者が確りと把持できる寸法に、適宜変更してもよい。
【0018】
グリップ部(3)に用いる樹脂材料としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、例えば、ポリエステル樹脂や、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ゴム、エラストマー、繊維補強樹脂等が挙げられる。特に、前記グリップ部(3)を、例えば炭素繊維強化樹脂や、高強度有機繊維強化樹脂を用いて形成すると、軽量でありながら高い強度を備えることができ、しかも安価に実施できて好ましい。
【0019】
前記シャフト部(2)の下端には石突き(4)が装着してある。該石突き(4)の装着方法は本発明の効果を妨げない範囲で適宜設定することができ、例えば、その上端に装着穴が凹設してあり、この装着穴に前記シャフト部(2)の下端を内嵌して、接着剤または両面テープ等でかしめて固定する方法を用いることができる。これにより、摩耗あるいは破損した際には、石突き(4)を取り換えることが可能になる。
【0020】
前記石突き(4)の形状は、本発明の効果を妨げない限り特定の形状に限定されないが、路面の溝および階段の滑り止めへの引っ掛かりがない点から円柱形または円錐台形が好ましく、円柱形がより好ましい。さらに、前記石突き(4)の外表面を滑らかな曲面に形成していると、特に好ましい。これにより、路面や階段等の段差部や障害物等に、より引っ掛かりにくくすることができる。
【0021】
また、石突き(4)の太さと長さについても、本発明の効果を妨げない範囲で適宜設定することができ、例えば、外径は、前記シャフト部(2)の外径よりも大形に形成して、路面に配置された溝蓋の格子などの隙間に容易に嵌り込まない大きさに設定することができる。
【0022】
図1(b)は、
図1(a)のB部の拡大断面図である。
図1(b)に示すように、前記シャフト部(2)は、高強度有機繊維強化
エポキシ樹脂層(201)と炭素繊維強化
エポキシ樹脂層(202)とガラス繊維強化
エポキシ樹脂層(203)とで形成され、連結・分離可能な
2〜7段のシャフト部分(20)から構成されている。前記高強度有機繊維強化
エポキシ樹脂層(201)と炭素繊維強化
エポキシ樹脂層(202)は、少なくとも1層ずつ設けられており、最も内側にガラス繊維強化
エポキシ樹脂層(203)が設けられ、一体的に積層されている。
以下、高強度有機繊維強化エポキシ樹脂層を「高強度有機繊維強化樹脂層」と、炭素繊維強化エポキシ樹脂層を「炭素繊維強化樹脂層」と、ガラス繊維強化エポキシ樹脂層を「ガラス繊維強化樹脂層」と称する。
【0023】
前記高強度有機繊維強化樹脂層(201)は、公知の方法によって製造することができる。例えば、パラ系アラミド繊維などの高強度有機繊維に、エポキシ樹
脂を含浸させて所定の円筒状に成形し、これを室温〜130℃程度で加熱して樹脂を硬化させた後、所定の長さに切断することで製造する。炭素繊維強化樹脂層(202)やガラス繊維強化樹脂層(203)も同様に製造することができる。
【0024】
前記高強度有機繊維強化樹脂層(201)を構成する有機繊維は、引張強度など機械的強度などが高い有機繊維であればよく、特定の材質のものに限定されない。例えば、超高分子量ポリエチレン繊維、全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ヘテロ環高性能繊維、ポリアセタール繊維など、任意のものを単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。前記有機繊維を用いることにより、軽量で且つ高い引張強度を備え、炭素繊維等の無機繊維に比べて伸度があるので、例えば杖の先端で地面等を叩いても、その衝撃で有機繊維に微小クラックを発生させるおそれがなく、耐久性に優れているため好ましい。これにより、シャフト部分(20)およびシャフト部(2)が軸直交方向から衝撃(曲げ衝撃)を受けても、高強度有機繊維強化樹脂層(201)が破断することなく座屈状に変形し、この衝撃を緩和することができる。
【0025】
炭素繊維強化樹脂層(202)は、前記高強度有機繊維強化樹脂層(201)とガラス繊維強化樹脂層(203)との間に設けられており、仮にシャフト部分(20)が軸直交方向から衝撃をうけて炭素繊維が折損した場合であっても、炭素繊維強化樹脂層(202)は外周面に一体化した高強度有機繊維強化樹脂層(201)で保護され、シャフト部分(20)は座屈変形するだけで、激しく破断することが防止され、しかも折損した炭素繊維がトゲ状に突出することが防止され、例えば視覚障害者等は、この衝撃をうけて損傷した部位を手探り等で安全に確認することができるため好ましい。また、炭素繊維が有機繊維に比べて弾性率が高いことから高い剛性を備えており、前記高強度有機繊維強化樹脂層(201)を過剰に厚く形成する必要がなくなる。
【0026】
ガラス繊維強化樹脂層(203)は、シャフト部分(20)を構成する繊維強化樹脂層(201・202・203)のなかで、最も内側に設けられている。これにより、内面の耐摩耗性を良好にできるうえ、シャフト部を所定長さ等に切断する際、切断端部の内面で有機繊維がほぐれることを防止でき、この切断端部の形状を良好にできるため好ましい。ガラス繊維強化樹脂層(203)を構成するガラス繊維としては、例えば含アルカリガラス繊維、無アルカリガラス繊維、低誘電ガラス繊維等を用いることができる。
【0027】
前記有機繊維や炭素繊維、ガラス繊維に含浸される樹脂としては
、エポキシ樹
脂が挙げられる
。
【0028】
上記は、本発明のシャフト部分(20)を、各繊維強化樹脂層(201・202・203)を1層ずつ用いた例を記載したが、本発明は上記の場合に限定されない。例えば、炭素繊維強化樹脂層において、少なくとも外周面に高強度有機繊維強化樹脂層が一体的に積層してあればよいが、その外周面と内周面とにそれぞれ高強度有機繊維強化樹脂層が一体的に積層してあると、この炭素繊維強化樹脂層が内外の高強度有機繊維強化樹脂層で挟持された状態となり、これらの高強度有機繊維強化樹脂層で一層良好に保護されたシャフト部分を形成することもできる。
【0029】
前記各繊維強化樹脂層(201・202・203)における繊維と樹脂の含有比率は、本発明の効果を妨げない限り特定の値に限定されず、有機繊維や樹脂の種類、成形寸法によっても異なるが、軽量で、且つ充分な曲げ剛性など所望の強度を確保でき、かつ長時間の使用にも耐えられるほど軽量で、破断し難く安全性や補修性に優れる観点から、重量比で80:20〜60:40の範囲内に設定され、より好ましくは75:25〜65:35の範囲内に設定され、さらに好ましくは70:30〜67:33の範囲内に設定される。樹脂含浸量が高すぎると適切な強度を容易に維持することができず、また、樹脂含浸量が低すぎると成形品として形態をなさず、成したとしても、適切な強度が得られないからである。ここで、上記の「適切な強度」とは、本発明の効果を合わせ持つための強度を意味する。
【0030】
杖(1)の重量と強度は、杖(1)の太さやシャフト部(2)の厚み、各繊維強化樹脂層(201・202・203)の繊維と樹脂との使用比率や厚みのほか、樹脂の種類等によっても異なる。しかし、有機繊維は炭素繊維に比べて比重が小さいので、炭素繊維強化樹脂層(202)を少なくし、高強度有機繊維強化樹脂層(201)を多くすることで、軽量で強度の高い杖(1)が得られる。
【0031】
シャフト部分(20)内および小径部(30)内には、シャフト部分(20)同士を接続しているゴム紐(5)が挿通してある。前記ゴム紐(5)は、シャフト部分(20)同士を容易に分離・連結できる弾力性や伸縮性を備えておればよく、材質や太さは特に限定されず、公知のものを使用することができる。
【0032】
図1(c)は、
図1(a)のA−A線矢視端面図である。
図1(c)に示すように、シャフト部分(20)は、杖の軽量化の点から、中空に形成され、中空部(21)とその周囲の外殻部(22)とからなるものが好ましい。このシャフト部の軸直交断面において、前記中空部(21)と外殻部(22)との断面積比率は、本発明の効果を妨げない限り特定の値に限定されないが、軸直交方向からの力に対して十分な強度を有し、かつ長時間の使用にも耐えられるほど軽量である点から、その断面積比率は85:15〜56:44が好ましく、より優れた安全性および補修性も有する点から80:20〜60:40であるとより好ましい。シャフト部全体に対する中空部(21)の断面積比率が56%未満であると、杖を十分に軽量化できないうえ、シャフト部分(20)が硬くなり過ぎて長時間使用すれば疲れやすくなる。一方、シャフト部分(20)全体に対する中空部(21)の断面積比率が85%を超えると、杖が軽量になり過ぎ、かつ、軸直交方向からの力に対する強度が十分でなくなる。また、シャフト部分(20)の断面形状は円断面状であると好ましく、真円断面状であると特に好ましい。これにより、シャフト部分(20)が、どの方向からの衝撃に対しても所望の強度を確保することができる。
【0033】
図2は、本発明の連結・分離可能な複数のシャフト部分(20)における、連結前の連結端部の断面図を示し、
図3は、連結状態での連結端部の断面図を示している。
【0034】
図2および
図3に示すように、シャフト部分(20)に接着された小径部(30)の、第1連結端部(23)から外方へ突出させた非接着部分(隣接する他のシャフト部分(20)内に挿入される小径部(30)の前部(以下、インナーパイプ(302)と称する。))は、前記シャフト部分(20)の内径と略等しい外径に形成してあり、隣接する他方のシャフト部分(20)の第2連結端部(24)側から挿抜可能に構成している。即ち、前記第2連結端部(24)内にインナーパイプ(302)を挿入することで、シャフト部分(20)同士が連結され、インナーパイプ(302)を抜きとることでシャフト部分(20)同士が分離される、いわゆる折り畳み式杖にすることができる。前記シャフト部分(20)の数、即ち折り畳み段数は、特定の値に限定されず、杖の長さと携帯時の寸法とから、例えば2段〜7段など、任意の段数に適宜設定される。前記シャフト部を複数のシャフト部分から構成した折り畳み式の杖とすることで、不使用時に杖を折り畳んでコンパクトにでき、容易に携帯できるため好ましい。
【0035】
インナーパイプ(302)の突出長さは、シャフト部分(20)同士を強固と連結できる長さが必要であり、通常、40〜60mm程度に設定することが好ましい。また、
図2および
図3では、該インナーパイプ(302)の表面に樹脂コーティング層(31)を形成しているので、第2連結端部(24)内周面とインナーパイプ(302)との密着性が向上し、使用時のガタツキを防止することができる。前記樹脂コーティング層(31)は、シャフト部分(20)と小径部(30)の後部(以下、接着部分(301)と称する。)とを接着させ、完全に乾燥させたのち、塗布することが好ましく、樹脂コーティング層(31)の外周面に、例えば、市販のシリコーングリース等の潤滑層を設けていてもよい。
【0036】
前記樹脂コーティング層(31)を形成する樹脂としては、耐水性および耐熱性に優れている点より、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂等が好ましく用いられる。コーティング層は、上記の樹脂、或いは上記の樹脂を溶媒に溶解させたコーティング剤を、刷毛塗り、吹付塗り、浸漬塗り等の方法で塗布し、乾燥することにより、形成することができる。特にポリウレタン樹脂は、塗膜の弾性に優れているうえに、ポリウレタン樹脂に硬化剤を配合した1液型、或いは、ポリウレタン樹脂と硬化剤とを使用時に混合する2液型のコーティング剤を、上記の方法で塗布し、1日程度乾燥するだけでコーティング層を短時間で形成することができ、しかも安価に実施できる。
【0037】
前記シャフト部分(20)同士の連結部分、第1連結端部(23)と第2連結端部(24)との間にゴム製リング等の緩衝材を介在させることもできる。これにより、連結部分の密着性を高める効果がある。このゴム製リングは、摩耗あるいは破損した際には取り換え可能である。
【0038】
前記第1連結端部(23)および第2連結端部(24)など、杖(1)の一部に応力が集中することを防止するため、応力が集中し易い連結部分、特に石付きに最も近い連結部分にジョイントカバーを用いることもできる。これにより、使用時の衝撃に対して外側から確りと補強して、機械的強度を高めることもでき、応力集中による杖(1)の破損とこれに伴う使用者の転倒のおそれを低減できるため、安全に杖を用いることができる。
【0039】
図4は、内面に螺旋状の凹溝(25)を形成したシャフト部分(20)に小径部(30)を挿入し、接着するまでを示す説明図である。
図4(a)に示すように、本発明の杖のシャフト部分(20)の第1連結端部(23)側内周面には、小径部(30)との接着性を向上させるための螺旋状の凹溝(25)を形成している。この螺旋状の凹溝(25)を設けることにより、外周面に接着剤(32)を塗布した小径部(30)の接着部分(301)を、シャフト部分(20)内に挿入する際に、凹溝(25)に接着剤(32)が入り込み、シャフト部分(20)の内周面と接着部分(301)の外周面との接着性が向上することで、杖のガタツキの発生を抑制することができる。また、前記凹溝(25)の形状を螺旋状に形成にすることで、シャフト部分(20)軸方向の中心位置に向かって接着剤(32)が入り込み易くなる。
【0040】
前記螺旋状の凹溝(25)を形成する方法としては、本発明の効果を妨げない限り特定の方法に限定されず、例えば、ねじ切り用のタップ等を用いて形成することができる。
【0041】
前記螺旋状の凹溝(25)の切削深さについては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、シャフト部分(20)を形成するガラス繊維強化樹脂層と略同等の深さであることが好ましく、具体的には0.1mm〜0.5mm
である。0.1mmよりも小さい場合には、接着剤が凹溝内に入り込んでも十分な接着強度が発揮されず、0.5mmを超える場合には、シャフト部分(20)そのものの強度を低下させるおそれがある。
【0042】
前記凹溝(25)の形成長さとしては、本発明の効果を妨げない限り限定されないが、シャフト部分(20)内に固定された小径部(30)の長さ、つまり接着部分(301)の長さよりも若干長く形成することが好ましい。通常、第1連結端部(23)側から40mm〜70mm程度、より好ましくは45mm〜65mm程度、特に好ましくは50mm〜60mm程度にするのがよい。40mm未満の場合には形成した螺旋状の凹溝(25)の表面積が少なくなるため、接着剤(32)が入り込んでも十分な接着強度が得られにくい。一方、シャフト部分(20)内に挿入される小径部(30)の長さを著しく超えることは、不必要な切削となるだけでなく作業効率も低下する。
【0043】
図4(b)は、螺旋状の凹溝(25)を形成したシャフト部分(20)内に、小径部(30)の接着剤(32)を塗布した接着部分(301)を挿入し始めた状態の断面図を示しており、このとき、インナーパイプ(302)には樹脂コーティング層は塗布されていない。なお、前記小径部(30)の接着剤(32)を塗布しなかった部分(インナーパイプ(302))は、上述した樹脂コーティング層が塗布され、隣接する他のシャフト部分(20)の第2連結端部(24)内に挿入される。
【0044】
図4(c)は、接着剤(32)を塗布した小径部(30)の接着部分(301)を、シャフト部分(20)内に挿入し終えた後、差し込み口に滲み出た接着剤(32)を拭き取り、乾燥してシャフト部分(20)と小径部(30)とを接着した状態を示している。
【0045】
前記小径部(30)は、使用による第1連結端部(23)付近に負荷がかかり亀裂等の破損を生じる可能性があるため、シャフト部分(20)とは別々に製造したのち、小径部(30)の略半分の長さまで接着剤(32)を塗布し、接着することが好ましい。
【0046】
前記接着剤(32)としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、例えば、市販のエポキシ系接着剤、エポキシ系化学反応型接着剤、スチレンブタジエンゴム系接着剤、シリル化ウレタン樹脂系接着剤等などを用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
シャフト部分と小径部との接着強度を以下の方法で試験した。
内径10mm×長さ200mmのシャフト部分の第1連結端部側から、10mmのねじ切りタップを用いて深さ(長さ)55mmまで凹溝を切削し、切り粉などをエアで吹き飛ばしたものを、接着用のシャフト部分とした。
外径約9.6mm〜9.9mm×長さ100mmの小径部の一端から、全長の1/2長さ(50mm)の部分までエポキシ樹脂系接着剤を塗布したものを、接着用の小径部とした。
前記シャフト部分内に小径部を挿入し、挿し込む際に挿し込み口ににじみ出た接着剤を拭き取り、48時間以上乾燥させたもので最大荷重を計測し試験した。この時計測した最大荷重を接着力とした。
【0049】
(実施例2)
エポキシ系化学反応型接着剤を用いた以外は、実施例1と同様の構成で試験した。
【0050】
(実施例3)
スチレンブタジエンゴム系接着剤を用いた以外は、実施例1と同様の構成で試験した。
【0051】
(実施例4)
シリル化ウレタン樹脂系接着剤を用いた以外は、実施例1と同様の構成で試験した。
【0052】
(比較例)
前記シャフト部分の内周面に凹溝を形成していないものを用いた以外は、実施例と同様の構成で試験した。
【0053】
〔接着力計測試験〕
前記の方法で接着・固定したシャフト部分及び小径部を、引張試験機(インストロン社製、型式:5966)に圧縮試験用治具を取り付け垂直に立てた状態で押圧速度100mm/分で試験した。このときの最大荷重(N)を接着力とした。また前記試験を複数回行い最大荷重(N)の平均を算出した。試験結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1の結果から明らかなように、凹溝を形成した実施例の接着強度は、凹溝を形成していない比較例に比べて高いことがわかった。
【0056】
上記の実施形態で説明した杖は、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、各部の形状や寸法、積層数などをこの実施形態のものに限定するものではなく、本発明の
特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものである。