【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発/劣化機構解析とナノテクノロジーを融合した高性能セルのための基礎的材料研究」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態について説明すれば以下の通りである。なお、本発明は以下の説明に限定されるものではない。
【0022】
<1.高分子電解質>
本発明に用いる高分子電解質、すなわちガラス不織布と複合する高分子電解質は、実質的にスルホン酸基を有さない、主鎖が主に芳香環基からなる疎水部オリゴマーに由来するユニット、および、スルホン酸基を有し、主鎖が主に芳香環基からなる親水部オリゴマーに由来するユニットとを主鎖とするものである。当該高分子電解質は、疎水部オリゴマーに由来するユニットと親水部オリゴマーに由来するユニットとからなるブロック共重合体であることが好ましい。ブロック共重合体とすることにより、高分子電解質の低加湿下でのプロトン伝導性が向上する。
【0023】
親水部オリゴマーに由来するユニットは、スルホン酸基を有し、主鎖が主に芳香環基からなるものである。すなわち、当該親水部オリゴマーに由来するユニットには、スルホン酸基が導入されている。親水部オリゴマーに由来するユニットがスルホン酸基を有するので、高分子電解質のプロトン伝導性が発現し、親水部オリゴマーに由来するユニットの主鎖が主に芳香環基からなるので、高分子電解質は耐熱性、化学的耐久性に優れるものになる。
【0024】
スルホン酸基は、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等の塩になっていてもよいし、ネオペンチルエステル、メチルエステル、プロピルエステル等のスルホン酸エステル基になっていてもよい。特にオリゴマー合成中や合成後は、塩やエステル等の保護基を有する状態になっているのが好ましいことが多いが、当該高分子電解質が、例えば燃料電池の電解質膜として用いられる場合は、無機酸の水溶液等に浸漬することにより、スルホン酸基に変換して使用されることが多い。よって、本発明においては、スルホン酸基としては、容易にスルホン酸基になる状態であれば、塩やエステル等の保護基を有する状態も含まれる。
【0025】
スルホン酸基の量は、親水部オリゴマーに由来するユニットを形成する繰り返し単位当たり1〜6個が好ましく、1〜4個がより好ましい。6個より多くなると、ユニットの水溶性が高くなり、合成中の取り扱いが難しくなる傾向がある。1個より少ないと、十分なプロトン伝導性が発現しにくくなる傾向がある。
【0026】
親水部オリゴマーに由来するユニットは、主鎖が主に芳香環基からなるものである。ここで「主鎖が主に芳香環基からなる」とは、ユニットにおける主鎖の連結基(エーテル基、チオエーテル基、スルホン基、ケトン基、スルフィド基等)以外の部分の分子量を100%とした場合、その70%以上が芳香環基からなるということを意味する。芳香環基としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、硫黄や窒素等を含む芳香族複素環基等が挙げられる。
主鎖が主に芳香環基からなると、化学的熱的な安定性が高い。このような主鎖構造としては、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリケトン、ポリスルホン、ポリスルフィド、ポリフェニレン、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール等が例示される。
【0027】
当該親水部オリゴマーに由来するユニットの具体的な例としては、下記一般式群(1)に記載の構造の少なくとも1つを繰り返し単位として含むものが挙げられる。
【化5】
(式中、Ar
1は、下記式群(2)に記載の構造のいずれかを有する2価の基を表し、当該2価の基は置換基を有していてもよい。Ar
2は、スルホン酸基を少なくとも1つ有する2価の芳香族基を表す。Ar
1またはAr
2が複数存在する場合は、互いに同じであっても異なっていてもよい。nは1〜4の整数、Xは−O−または−S−、Yは−SO
2−または−CO−を表す。)
【化6】
【0028】
また上記Ar
2は、下記式群(3)に記載の構造のいずれかを有し、かつ、スルホン酸基を少なくとも1つ有する2価の芳香族基であること、すなわち、下記式群(3)に記載の構造のいずれかを有する2価の芳香族基にスルホン酸基が少なくとも1つ導入された構造であることが、合成が容易であることから好ましい。
【化7】
【0029】
上記一般式群(1)に記載の構造において、ベンゼン環上に置換基を有していてもよい。また、上記式群(2)に記載の構造を有する2価の基は、置換基を有していてもよい。さらに、上記式群(3)に記載の構造を有する2価の芳香族基は、スルホン酸基以外に、置換基を有していてもよい。これら置換基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等)、炭素数1〜6のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等)、フェニル基等が挙げられる。また、当該置換基を1個以上有することができる。親水部オリゴマーに由来するユニットは、その主鎖、側鎖、両者(主鎖および側鎖)のいずれにスルホン酸基を有していてもよい。
【0030】
親水部オリゴマーを構成するモノマーとしては、例えば、上記一般式群(1)に記載の構造を構成しうるモノマーが挙げられ、具体的には、下式で表されるモノマーが好ましく挙げられる。また、上記一般式群(1)においてXが−S−である場合等には、下式で表されるモノマーにおいて、−OH基の代わりに−SH基を有するモノマー等も挙げられる。さらに、後述のように、スルホン酸基を有するモノマーの重合により親水部オリゴマーを調製する場合等には、下式で表されるモノマーにおいて、そのベンゼン環上にスルホン酸基を有しているモノマー等も挙げられる。
【化8】
【0031】
その他親水部オリゴマーを構成するモノマーとしては、特開2002−293889号公報で示されるもの等(電子求引性基および電子供与性基を有するモノマー等)も例示できる。
【0032】
親水部オリゴマーに由来するユニットのみのイオン交換容量(以下、イオン交換容量をIECとも表記する)は、高分子電解質膜としてのIECが高く設定でき、また低加湿下で高いプロトン伝導性を発現することができる点から、4.0meq./g以上であることが好ましい。親水部オリゴマーに由来するユニットのIECは、NMRの分析による計算や、ブロック電解質のIEC(従来公知の方法、例えば滴定等により容易に求められる)を、親水部オリゴマーに由来するユニットの重量割合で除すること等により求めることができるが、本明細書においては後者の方法により求めるものである。つまり、親水部オリゴマーに由来するユニットのIECは、実施例に記載の高分子電解質膜のIECの測定方法と同様にして求めた高分子電解質のIECを、親水部オリゴマーに由来するユニットの重量割合で除することにより求める。また、meq./gは、ミリ当量/gを意味する。
【0033】
疎水部オリゴマーに由来するユニットは、実質的にスルホン酸基を有さないものである。「実質的にスルホン酸基を有さない」とは、疎水部オリゴマーに由来するユニットがスルホン酸基を全く有さないか、疎水部オリゴマーに由来するユニットにおける繰り返し単位あたりのスルホン酸基の数が、親水部オリゴマーに由来するユニットにおける繰り返し単位あたりのスルホン酸基の数の1/10以下であることを意味する。これにより、親水部との相分離を明確にして、高分子電解質の低加湿下でのプロトン伝導性を向上させ、また、高分子電解質の強度を向上させる。当該疎水部オリゴマーに由来するユニットには、スルホン酸基が全く導入されていないことが好ましい。
【0034】
当該疎水部オリゴマーに由来するユニットは、耐熱性を有する点から、ポリイミド系、ポリベンズイミダゾール系、ポリエーテル系等で、主鎖が主に芳香環基からなる構造が好ましく、ポリエーテル系が合成の容易さの観点からより好ましい。「主鎖が主に芳香環基からなる」とは、ユニットにおける主鎖の連結基(エーテル基、スルホン基、ケトン基、スルフィド基等)以外の部分の分子量を100%とした場合、その70%以上が芳香環基からなるということを意味する。
【0035】
このような疎水部オリゴマーに由来するユニットとしては、下記一般式群(4)に記載の構造の少なくとも1つを繰り返し単位として含むことが好ましい。
【化9】
(式中、Arは、2価の芳香族基を表す。Arが複数存在する場合は、それらは同一であっても異なっていてもよい。)
【0036】
Arの2価の芳香族基としては、例えば、下式群(5)で表される基等が好ましく挙げられる。
【化10】
【0037】
また、Arの2価の芳香族基は、置換基を有していてもよい。当該置換基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等)、炭素数1〜6のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等)、フェニル基、シアノ基等が挙げられる。また、当該置換基を1個以上有することができる。
【0038】
疎水部オリゴマーを構成するモノマーとしては、例えば、上記一般式群(4)の構造を構成しうるモノマーが挙げられ、具体的には、下式で表されるモノマーが好ましく挙げられる。
【化11】
【0039】
親水部オリゴマーに由来するユニット、および、疎水部オリゴマーに由来するユニットの分子量は、その化学構造や合成のしやすさ等により異なるが、数平均分子量でそれぞれ700〜30,000[g/mol]が好ましく、2,000〜10,000[g/mol]がより好ましい。700[g/mol]より小さいと、ブロック共重合体型高分子電解質としての特性が現れにくくなる傾向があり、30,000[g/mol]より大きいと、溶解性等の問題で合成が困難になりやすい傾向がある。
【0040】
高分子電解質の分子量は、数平均分子量で10,000〜300,000[g/mol]が好ましく、合成の容易さと溶媒への溶解度のバランスから、30,000〜150,000[g/mol]がより好ましい。上記各オリゴマー及び高分子電解質の分子量は、実施例に記載の測定方法により求めることができる。
【0041】
また、高分子電解質のIECは、1.5〜3.5meq./gであると、電解質としての性能を発現し易いために好ましく、1.6〜3.0meq./gであると、低加湿下におけるプロトン伝導性と機械強度のバランスに優れるため、より好ましい。当該高分子電解質のイオン交換容量は、実施例に記載の測定方法と同様にして求めることができる。
【0042】
また、機械強度をより向上させたり、水分に対する膨潤を抑制するために、高分子電解質に架橋の導入等の化学的変性を行うことも、本発明の範疇である。
【0043】
高分子電解質は、従来公知の方法により作製することができる。例えば、親水部オリゴマーとなりうるオリゴマーを調製後、これと疎水部オリゴマーをブロック共重合体化し、ブロック共重合体の親水部となりうるユニットのみをスルホン酸化して、親水部−疎水部ブロック共重合体とする方法(方法(a));親水部オリゴマーとなりうるオリゴマーを調製後、スルホン酸基を導入して親水部オリゴマーを調製し、これと疎水部オリゴマーをブロック共重合体化する方法(方法(b));スルホン酸基を有するモノマーの重合により親水部オリゴマーを調製し、これと疎水部オリゴマーをブロック共重合体化する方法(方法(c));疎水部オリゴマーとスルホン酸基を有する多量のモノマーを重合することにより、結果的に親水部オリゴマーに由来するユニットと疎水部オリゴマーに由来するユニットとからなるブロック共重合体とする方法(方法(d))等が例示できる。
【0044】
以下に、上記方法(a)について説明する。なお、高分子電解質の製造方法は、以下に限定されるものではない。
まず、前述の親水部オリゴマーを構成するモノマー、および、疎水部オリゴマーを構成するモノマーを用いて、親水部オリゴマーとなりうるオリゴマー(スルホン酸化可能な部位を含むオリゴマー)と、疎水部オリゴマーを調製する。これらのオリゴマーを得る方法としては、末端に水酸基等の求核性の置換基を有するモノマーと、末端にハロゲン含有基等の脱離基を有するモノマーを縮合する方法や、脱離基を有するモノマー中に触媒を加えて縮合させる方法等が挙げられる。
【0045】
重合反応(縮合反応)は、溶媒を用いない溶融状態でも行うことは可能であるが、適当な溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、芳香族炭化水素系溶媒、ハロゲン系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、アミド系溶媒、スルホン系溶媒、スルホキシド系溶媒等が挙げられる。芳香族炭化水素系溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、1,3,5−トリメチルベンゼン等が挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、例えばジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等が挙げられる。エーテル系溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル等が挙げられる。ケトン系溶媒としては、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。アミド系溶媒としては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。スルホン系溶媒としては、例えばスルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等が挙げられる。スルホキシド系溶媒としては、例えばジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0046】
反応を促進するために、通常は触媒として塩基性化合物が用いられる。塩基性化合物としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が好適に用いられ、例示するならば、LiOH、NaOH、KOH、Li
2CO
3、Na
2CO
3、K
2CO
3、LiHCO
3、NaHCO
3、KHCO
3等である。
【0047】
重合反応工程の反応温度は、重合反応に応じて適宜設定すればよい。具体的には、最適使用範囲の20℃〜250℃に設定すればよく、より好ましくは40℃〜200℃である。20℃よりも低温であれば反応が遅くなる傾向があり、250℃よりも高温であれば主鎖が切れやすくなる傾向がある。重合反応工程の反応時間は、特に限定されないが、好ましくは0.1〜500時間、より好ましくは0.5〜300時間である。
【0048】
上記のようにして、親水部オリゴマーとなりうるオリゴマーと、疎水部オリゴマーを得た後、これらを化学結合させてブロック共重合体化させる。これらオリゴマーを化学結合させてブロック共重合体化させる方法としては、特に制限は無く、重合するオリゴマーの反応性によって適宜定める事ができる。重合法の詳細は、一般的な方法(「高分子の合成と反応(2)」p.249−255、1991年、共立出版株式会社)を適用することができる。具体的には、例えば、末端に水酸基等の求核性の置換基を有するオリゴマーと、末端にハロゲン含有基等の脱離基を有するオリゴマーを塩基性化合物存在下に縮合させることにより、ブロック共重合体化させる。あるいは、末端にハロゲン含有基を有する各オリゴマーどうしを遷移金属存在下に縮合させることにより、ブロック共重合体化させることもできる。
【0049】
次いで、上記のようにして得られたブロック共重合体において、親水部となりうるユニットのみをスルホン酸化する。この場合、ベンゼン環の電子密度が比較的高い部分がスルホン酸化される。すなわち、当該ブロック共重合体(親水部オリゴマーとなりうるオリゴマーと、疎水部オリゴマーとから得られる)と、スルホン酸化剤を反応させることにより、親水部オリゴマーに由来するユニットと疎水部オリゴマーに由来するユニットからなるブロック共重合体(高分子電解質)を合成することができる。
【0050】
スルホン酸化剤としては、例えばクロロスルホン酸、無水硫酸、発煙硫酸、硫酸、アセチル硫酸等が挙げられ、クロロスルホン酸、発煙硫酸が適度な反応性を有しているために好ましい。
スルホン酸化反応において、溶媒は用いても用いなくてもよい。溶媒を用いる場合、溶媒としては、スルホン酸化剤に対して不活性なものであればよく、例えば、炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられる。炭化水素系溶媒としては、飽和脂肪族炭化水素が挙げられ、特に炭素数5〜15の直鎖状または分岐状の炭化水素が好ましく、溶解度の点から、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンがより好ましい。ハロゲン化炭化水素系溶媒としては、ハロゲン化飽和脂肪族炭化水素、ハロゲン化芳香族炭化水素等が挙げられる。ハロゲン化飽和脂肪族炭化水素としては、例えば、モノクロロメタン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、テトラクロロメタン、モノクロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等が挙げられ、取り扱いの容易さからジクロロメタンが好ましい。ハロゲン化芳香族炭化水素としては、例えば、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等が挙げられ、取り扱いの容易さからクロロベンゼンが好ましい。
【0051】
スルホン酸化工程の反応温度は、反応に応じて適宜設定すればよく、具体的にはスルホン酸化剤の最適使用範囲である−80℃〜200℃に設定すればよく、より好ましくは−50℃〜150℃であり、さらに好ましくは−20℃〜130℃である。−80℃よりも低温であれば反応が遅くなり、目的とするスルホン酸化が100%まで進行しない傾向があり、200℃よりも高温であれば副反応が起こる傾向がある。
【0052】
スルホン酸化工程の反応時間は、親水部オリゴマーとなりうるオリゴマーの構造により適宜選択され得るが、通常1分間〜50時間程度の範囲内であればよい。1分間より短いと均一なスルホン酸化が進行しない傾向があり、50時間より長いと副反応が起こる傾向がある。
【0053】
スルホン酸化工程におけるスルホン酸化剤の添加量は、親水部オリゴマーとなりうるオリゴマーに含まれるスルホン酸化される部位の全量(モル)を1当量とした場合、1当量〜50当量であることが好ましい。1当量より少ないと、スルホン酸化されない部位が生じる傾向があり、一方、50当量より多いと親水部オリゴマーとなりうるオリゴマーの主鎖が切断されやすい傾向がある。
【0054】
スルホン酸化工程における親水部オリゴマーとなりうるオリゴマーの濃度は、スルホン酸化剤と接触させた場合に均一に反応が進行すれば特に限定されないが、親水部オリゴマーとなりうるオリゴマーが低分子量化等の副反応を起こさないことと、溶媒量抑制によるコスト優位性の観点から、スルホン酸化反応に用いた化合物全体の重量に対して1〜30重量%であることが好ましい。
【0055】
上記方法(b)〜(d)において、疎水部オリゴマーと親水部オリゴマーまたはスルホン酸基を有する親水モノマーの末端を、いずれもハロゲンとしておき、特開2012−229418号公報に記載されている方法に従い、遷移金属化合物を用いて重縮合する方法を用いることもできる。このような遷移金属化合物としては、ニッケル系化合物、パラジウム系化合物、銅化合物が好ましく用いられ、好ましくは、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、テトラキストリフェニルホスフィンニッケル等の0価ニッケル錯体が用いられる。また、ジクロロビストリフェニルホスフィンニッケル等の2価のニッケル錯体を、亜鉛等の還元剤の存在下に使用してもよい。
【0056】
<2.ガラス不織布>
ガラス不織布とは、ガラス繊維を不規則に絡み合わせ、シート状に加工したものである。本発明におけるガラス不織布は、平均径が1μm以下のガラス繊維を含み、かつ、シリコン系化合物バインダーまたはエポキシ系化合物バインダーで処理されていることを特徴とする。ガラス不織布がこのような特徴を有することにより、高い機械強度を有し、含水時の寸法変化を抑え、乾湿サイクル耐性に優れた高分子電解質膜が得られる。
【0057】
ガラス繊維の平均径が1μmを超えると、高分子電解質膜の乾湿サイクル耐性が低下する傾向がある。また、ガラス繊維の平均径は0.8μm以下であることが好ましい。
【0058】
ガラス不織布は、さらに、平均径が1μmを超え10μm未満であるガラス繊維を含んでいてもよい。ガラス繊維の平均径が1μm以下のものに、平均径が1μmを超え10μm未満のものを混合すると、ガラス不織布の剛性が向上し、さらに高い乾湿サイクル耐性を発現するため、より好ましい。平均径が1μmを超え10μm未満のガラス繊維の含有率は、ガラス繊維の合計100重量%に対し、10〜70重量%であることが好ましい。10重量%未満であると、剛性向上の効果が小さく、70重量%を超えると、太いガラス繊維の間が広がってしまい、引張強度が低下する傾向があり、微小領域で高分子電解質が均一に保持できなくなる可能性がある。
【0059】
ガラス繊維の繊維径は、通常ある程度ばらつきがあるため、平均値を用いる。より具体的には、ガラス不織布中の任意の約10本の繊維径を光学顕微鏡により観察して測定し、その平均値をガラス繊維の平均径とする。
【0060】
不織布を構成するガラス繊維の平均繊維長は、0.5mm〜20mmの範囲が好ましく、2mm〜15mmの範囲にあることがより好ましい。平均繊維長が0.5mm未満であると、不織布の機械的強度が低下するため、電解質膜の補強効果が減少する傾向がある。一方、平均繊維長が20mmを超えると、不織布成形時におけるガラス繊維の分散性が低下し、厚さの均一性や、目付量の均一性が低下する傾向がある。その結果、電解質膜の補強に適した不織布が得られなくなるおそれがある。
【0061】
複合対象の高分子電解質がスルホン酸基を有することから、当該ガラス繊維は、耐酸性ガラス、いわゆるCガラスや含アルカリガラスといわれる耐酸性を持ったガラスからなることが耐久性の観点でより好ましい。ここで、Cガラスや含アルカリガラスといわれるガラスは、一般にアルカリ含有量が0.8〜20重量%である組成を有するガラスであり、耐酸性に優れる。
【0062】
バインダーとしては種々の化合物が知られているが、本発明に用いられるガラス不織布は、シリコン系化合物バインダー、またはエポキシ系化合物バインダーを用いて処理されていることにより、ガラス繊維どうしを強固に拘束し、不織布の寸法安定性と強度を高めることができる。また、補強された高分子電解質膜の耐膨潤性および乾湿サイクル耐性が改善される。ガラス繊維のみで不織布を形成した場合、不織布の寸法安定性および引張強度は、繊維どうしの絡み合いのみに依存する。そのため、繊維どうしの結びつきが弱く、高分子電解質の変形に伴って、高分子電解質に密着しているガラス繊維も移動してしまう。すなわち、ガラス繊維どうしの拘束力が非常に弱く、燃料電池の電解質膜に必要とされる寸法安定性が得られない。
【0063】
なお、バインダーは単独でも、または2種類以上を混合して用いてもよい。上記バインダーの中でも、ガラス繊維の拘束力が強く、高分子電解質との親和性が高いため、高分子電解質膜の乾湿サイクル耐性がより向上するという観点から、エポキシ系化合物バインダーが好ましい。
【0064】
シリコン系化合物バインダーの例としては、まず、一般的にシランカップリング剤と称されるものが挙げられる。具体例としては、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等のアクリルシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のウレイドシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等のクロロシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン、γ−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン等のイソシアナートシラン等が挙げられる。また、上記アミノシランとエポキシシランの反応物、アミノシランとイソシアナートシランの反応物等も用いることができる。
【0065】
シランカップリング剤以外のシリコン系化合物バインダーとしては、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−ドデシルトリメトキシシラン等のアルキルシリケートや、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等のポリシロキサン等が挙げられる。
【0066】
エポキシ系化合物バインダーとしては、特に限定はなく、公知のものを使用することができる。例示するならば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAプロプレンオキシド付加物のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0067】
エポキシ系化合物バインダーを使用する場合は、エポキシ樹脂の硬化剤を併用する。硬化剤としては公知のものを使用することができ、例示するならば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、ベンジルジメチルアミン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド、メンタンジアミン、キシレンジアミン等のアミン系化合物、エチルメチルイミダゾール、各種ポリアミド樹脂、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水ドデシルコハク酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルナジック酸、無水ビロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、無水ジクロロコハク酸等の酸無水物等が挙げられる。
【0068】
シリコン系化合物バインダーおよびエポキシ系化合物バインダー以外のバインダーとしては、例えば、アクリル樹脂ディスパージョン、アクリル樹脂エマルション、フッ素樹脂ディスパージョン、フッ素樹脂エマルション、ポリウレタンディスパージョン、ポリウレタンエマルション、シリコーン樹脂ディスパージョン、シリコーン樹脂エマルション、ポリイミドワニス、ポリビニルアルコール水溶液、コロイダルシリカディスパージョン、アルキルシリケート、ケイ素またはチタンのアルコキシド、チタニアゾル等の種々の液状バインダーが知られている。
【0069】
バインダーとして一般的に用いられる上記のバインダーで処理した後に、さらに上記のシランカップリング剤による処理を施してもよい。上記一般的なバインダーとシランカップリング剤は、それぞれ独立した機構で補強の効果を発揮するため、それらは併用することができ、その効果は相乗される。
【0070】
上記の、シリコン系化合物バインダー、または、エポキシ系化合物バインダーは、無機バインダーを含んでいてもよい。無機バインダーとしては、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾルのような合成無機系ゾル(微粒子として水に分散しており、乾燥固化後にゲルとなり硬化するもの)、カオリン、クレー、セピオライト、アタパルジャイト、ベントナイトのような天然系鉱物紛体(水に分散後、乾燥時に固化するもの)、マイカ、スメクタイトのような鉱物系鱗片状物、シリカフレーク、シリカ−チタニアフレーク、アルミナフレークのような合成鱗片状物(水に分散しており、乾燥時に固結して自己膜を形成するもの)、シリカ微粒子等の無機バインダーが用いられる。中でも、不純物の少ない合成物の無機バインダーが好ましい。また、平均粒径0.01〜2μm、好ましくは0.1〜1μm、より好ましくは0.2〜0.6μmのものが用いられる。
【0071】
シリコン系化合物バインダー、または、エポキシ系化合物バインダーの使用量については、ガラス不織布におけるバインダーの固形分の付着量が、ガラス繊維の質量の0.5〜10%(より好ましくは2〜9%)の範囲となるよう調節されることが好ましい。
【0072】
本発明で使用されるガラス不織布は、例えば以下の方法で製造できる。
【0073】
第一の方法では、まず、ガラス繊維と、ガラス繊維どうしの結び付きを強めるバインダー成分とを含む混合液を調製する(工程(i))。ガラス繊維には、上述の通り、平均径が1μm以下のもの、あるいは、平均径が1μm以下のものと平均径が1μmを超え10μm未満のものとの混合物を用いる。バインダー成分には、上記のシリコン系化合物、またはエポキシ系化合物を用いる。工程(i)の混合液は、分散剤、界面活性剤、pH調整剤、凝集剤等を含んでいてもよい。次にその混合液から、ガラス繊維とバインダーを含む不織布を形成する(工程(ii))。不織布は、たとえば、一般的な湿式抄造の方法で形成できる。不織布を形成した後、必要に応じて熱処理等を行ってもよい。工程(ii)によって、ガラス繊維どうしがバインダーで拘束された不織布が得られる。
【0074】
第二の方法では、まず、ガラス繊維を用いて、たとえば一般的な湿式抄造の方法で、不織布を形成する(工程(I))。次にバインダー成分を含む液体を不織布に塗布した後、乾燥させることによって、ガラス繊維どうしの結びつきを強める(工程(II))。乾燥時に熱処理を行ってもよい。バインダーの塗布は、バインダーに不織布を浸漬することによって行ってもよいし、不織布にバインダーを含浸させることによって行ってもよい。工程(II)では、ガラス繊維間に膜が形成されることを抑制するため、バインダーを塗布した後、余分なバインダーを除去することが好ましい。
【0075】
第一の方法は、製造工程が簡単であるという利点がある。一方、第二の方法は、ガラス繊維の交点にバインダーを集中させることが可能であり、少ないバインダーの量で高い効果が得られるという利点がある。
【0076】
本発明の高分子電解質膜の厚さは、後述するように300μm以下であることが好ましいため、これと複合するガラス不織布も、機械強度向上の効果を奏する範囲内で薄いことが好ましく、具体的には、厚さ(圧力20kPにての測定値)が50μm以下であることが好ましく、30μm以下がより好ましい。また、当該ガラス不織布の厚さは、強度向上の点から、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。上記ガラス不織布の厚さは、ガラス不織布全体に均等な圧力(20kPa)を加え、ダイヤルゲージを用いてガラス不織布の任意の約10箇所の厚さを測定し、平均した値である。
【0077】
不織布の目付量(単位面積当たりの質量)は、2〜50g/m
2であることが好ましく、3〜25g/m
2の範囲であることがより好ましい。目付量が2g/m
2未満であると、ガラス繊維どうしの絡み合いが少なくなり、引張強度が低下する傾向がある。一方、目付量が50g/m
2を超えると、電解質膜の補強材としては厚くなりすぎるおそれがあり、また、これを薄くするためにプレス等によって密度を高くすれば、ガラス繊維がその交接点で折れて短くなり、引張強度が低下する場合がある。
【0078】
当該ガラス不織布は、機械強度の向上と複合化によるプロトン伝導性低下を最小限に抑えるという点から、空隙率が80%以上であることが好ましく、85〜95%の範囲であることがより好ましい。ガラス不織布の空隙率は、ガラス不織布の体積と重量から比重を算出し、これをガラスの真比重で除することにより算出することができる。
【0079】
<3.高分子電解質膜>
本発明の高分子電解質膜は、上記高分子電解質と上記ガラス不織布が複合されてなるものである。すなわち、本発明の高分子電解質膜は、実質的にスルホン酸基を有さない、主鎖が主に芳香環基からなる疎水部オリゴマーに由来するユニット、および、スルホン酸基を有し、主鎖が主に芳香環基からなる親水部オリゴマーに由来するユニットとを主鎖とする高分子電解質と、ガラス不織布とが複合されてなる高分子電解質膜であって、該ガラス不織布が、平均径が1μm以下のガラス繊維を含み、かつ、シリコン系化合物バインダーまたはエポキシ系化合物バインダーで処理されていることを特徴とする。
【0080】
高分子電解質とガラス不織布とを複合するとは、両者を一体化すること、すなわち、高分子電解質にガラス不織布を包埋させることを意味する。複合の方法は、従来公知の方法を適用しうる。簡易な方法としては、ガラス等の基板上にガラス不織布を固定し、この上に高分子電解質の溶液をキャストし、溶媒を除去する方法;ガラス等の基板上にまず高分子電解質の溶液をキャストし、その上にガラス不織布を載せ、さらに高分子電解質の溶液をキャストした後に、溶媒を除去する方法;高分子電解質の溶液にガラス不織布をディップすることにより、ガラス不織布の空隙中に高分子電解質を含浸させた後、溶液を含んだガラス不織布を例えば垂直状態で広げた状態で溶媒を除去する方法等が例示される。このような手法は、不織布と樹脂の複合材料を作製する際に用いられる方法で一般的である。その他、高分子電解質とガラス不織布を加熱圧着する方法;溶媒を含んだ半凝固状態の高分子電解質2枚でガラス不織布を挟み込み、プレス、乾燥させる方法等も適用しうる。
【0081】
溶媒の除去は、好ましくは10〜200℃、より好ましくは40〜150℃の温度で乾燥させることにより行うことができる。溶液を含んだガラス不織布を枚葉で乾燥する場合は、乾燥温度を45〜130℃程度に設定し、1時間〜20時間乾燥させることが好ましい。なお、高分子電解質の溶液の調製に用いられる溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルピロリドン等が挙げられる。上記のようにして、高分子電解質とガラス不織布が複合されてなる、本発明の高分子電解質膜を得ることができる。
【0082】
高分子電解質としては、前述の高分子電解質を単独で用いてもよいし、その他の高分子電解質を混合して用いてもよい。また、本発明の高分子電解質膜は、上記高分子電解質とガラス不織布以外の添加物を含んでいてもよい。例えば、樹脂劣化防止のための酸化防止剤、フィルムとしての成形加工における取扱を向上させるための帯電防止剤や滑剤等の各種添加剤を挙げることができ、電解質膜としての加工や性能に影響を及ぼさない範囲で適宜用いることができる。プロトン伝導性の点から、本発明の高分子電解質膜においては、前述の高分子電解質が、高分子電解質膜全体の70重量%以上を占める主成分であることが好ましい。
【0083】
また、電解質膜を得た後に、分子配向等を制御するために二軸延伸等の処理を施したり、結晶化度や残存応力を制御するための熱処理を施しても構わない。さらに、製膜時に適当な化学的処理を施してもよい。化学的処理とは、例えば、電解質膜の強度を上げるための架橋、伝導度を上げるためのプロトン性化合物の添加、耐久性向上やイオン架橋のための微量の多価金属イオンの添加等が挙げられる。いずれにしても、前述の高分子電解質を用いて、従来公知の技術と組み合わせて製造される高分子電解質膜も、本発明の範疇である。
【0084】
高分子電解質膜の厚さは、用途に応じて任意の厚さを選択することができる。例えば、燃料電池として用いる際の高分子電解質膜の抵抗を低減することを考慮した場合、高分子電解質膜の厚さは薄いほどよい。一方、高分子電解質膜のガス遮断性、ハンドリング性、電極との接合時の耐破れ性等を考慮すると、高分子電解質膜の厚さは薄すぎると好ましくない場合がある。これらを考慮すると、高分子電解質膜の厚さは、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、また、300μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。燃料電池として出力を重視する場合等は10μ以上50μm以下が特に好ましい。高分子電解質膜の厚さが5μm以上300μm以下であれば、製造が容易であり、膜抵抗と機械物性のバランスが取れており、燃料電池材料として加工する際のハンドリング性にも優れる。当該高分子電解質膜の厚さは、実施例に記載の測定方法により求めることができる。
【0085】
高分子電解質膜のイオン交換容量(IEC)は、高分子電解質のIECにより調整することができる。例えば、高分子電解質膜が高分子電解質とガラス不織布以外の材料を含む場合は、それによって高分子電解質膜としてのIECは低下するので、高分子電解質膜のIECを高めに設定する等、適宜調整しうる。
【0086】
高分子電解質膜のIECは、1.0meq./g以上であることが好ましく、1.5meq./g以上であることがより好ましく、また、3.5meq./g以下であることが好ましく、3.0meq./g以下であることがより好ましい。IECが1.0eq./gより小さいと、高いプロトン伝導性が発現しにくくなる傾向があり、3.5meq./gより大きいと、水による膨潤で機械的強度が低下し、十分な強度を有しにくくなる傾向がある。当該高分子電解質膜のIECは実施例に記載の測定方法により求めることができる。
【0087】
<4.膜/電極接合体、燃料電池>
本発明にかかる燃料電池用膜/電極接合体(以下、膜/電極接合体を「MEA」と表記する)は、本発明の高分子電解質膜上に電極触媒層を形成したものである。
【0088】
本発明で使用される電極触媒とは、文字通り、当業者にとって従来公知の電極触媒であればよく、導電性触媒担体と当該導電性触媒担体に担持された触媒活性物質を含むものであればよく、その他の具体的な構成については特に限定されない。具体的には、燃料電池の電極反応に対して活性な触媒が使用される。アノード側では、燃料(水素やメタノールなど)の酸化能を有する触媒が使用される。
【0089】
導電性触媒担体としては、触媒担持能や電子伝導性、電気化学的安定性等の観点から、カーボンブラック、ケッチェンブラック、活性炭、カーボンナノホーン、カーボンナノチューブなどの高表面積のカーボン担体等が好ましい。
【0090】
触媒活性物質としては、具体的には、白金、コバルト、ルテニウム等が例示でき、これらを単独で、あるいはこれらの少なくとも一種を含んだ合金、さらには任意の混合物として使用しても構わない。特に燃料の酸化能、酸化剤の還元能、耐久性を考慮すると、白金または白金を含む合金であることが好ましい。これらは必要に応じて、安定化や長寿命化のために、鉄、錫、希土類元素等を用い、3成分以上で構成してもよい。
【0091】
電極触媒層は、まず高分子電解質、電極触媒および溶媒を含む触媒インクを調製し、当該触媒インクを支持体上に塗布し、溶媒を除去することによって調製することができる。触媒インクに使用される高分子電解質としては、従来から用いられているパーフルオロカーボンスルホン酸系電解質や、炭化水素系高分子電解質(例えば、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリフェニレンサルファイド)を挙げることができる。溶媒としては、高分子電解質を溶解でき、燃料電池用触媒を被毒しないものであれば何ら制限なく使用可能である。
【0092】
当該触媒インクは、必要に応じて非電解質バインダー、撥水剤、分散剤、増粘剤、造孔剤などの添加剤を含んでいても構わない。また、これらの添加剤は、当業者にとって従来公知のものが使用可能であり、その他の具体的な構成については特に限定されない。
【0093】
前記組成および方法で調製された触媒インクには、粘度や基材の種類に応じて、下記に示す塗布方法が利用できる。塗布方法としては、当業者にとって従来公知の塗布方法であればよく、例えば、ナイフコーター、バーコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷などを利用する方法が列挙できるが、これらに限定されるものではない。その他の具体的な構成については特に限定されない。基材として高分子フィルムを使用した場合には、燃料電池用触媒層転写シートが、基材として導電性多孔質シートを使用した場合には、燃料電池用ガス拡散電極が、それぞれ製造できる。
【0094】
本発明の高分子電解質膜に、上記の方法により触媒インクを塗布する、あるいは、触媒層転写シートを圧着した後に高分子フィルムを剥離する、等の方法により、MEAを作製することができる。また、導電性多孔質シートを本発明の高分子電解質膜に貼りあわせることによっても、MEAを作製することができる。
【0095】
かかるMEAは、例えば、燃料電池、特に、固体高分子形燃料電池に用いることができる。本発明の高分子電解質膜を使用した燃料電池も本発明の範囲に含まれる。
【0096】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、開示された各技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0097】
以下実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。
【0098】
各測定は以下のように行った。
(分子量の測定)
GPC法により分子量を測定した。条件は以下の通り。
GPC測定装置:HLC−8220(東ソー株式会社製)
カラム:SuperAW4000およびSuperAW2500(昭和電工株式会社製)の2本を直列に接続
カラム温度:40℃
移動相溶媒:NMP(N−メチルピロリドン、LiBrを10mmol/dm
3になるように添加)
溶媒流量:0.3mL/min
標準物質:TSK標準ポリスチレン(東ソー株式会社製)
以下、標準ポリスチレンで換算した数平均分子量をMnと表記し、標準ポリスチレンで換算した重量平均分子量をMwと表記する。
【0099】
(高分子電解質膜の厚さの測定)
Peacock社製デジタル厚み計(PDN−20)を用いて、高分子電解質膜の9か所の厚みを測定し、その平均値を厚さとした。
【0100】
(イオン交換容量の測定)
測定サンプルとして、酸処理後の膜を10〜20mg切り出し、80℃で減圧乾燥し、乾燥重量(W
dry)を測定した。この膜を、飽和NaCl水溶液(30mL)に室温で24時間浸漬させることで、イオン基をH
+型からNa
+型へ変換した。その後得られた溶液に含まれるHClを、電位差自動滴定装置AT−510(京都電子工業株式会社製)を用いて0.01M NaOH水溶液により定量し、以下の式を用いてイオン交換容量IEC値を算出した。同一の膜について2サンプル作成し、2回の測定の平均値を滴定による算出IEC値とした。
【数1】
【0101】
(膨潤率の測定)
約2cm×3cmにカットした高分子電解質膜のサンプルを準備し、これを純水に室温で6時間浸漬した。浸漬直後のサンプル、およびそれを100℃で2時間真空乾燥を行って絶乾状態としたサンプルの平面方向、垂直方向の寸法変化、および重量を測定し、変化率を計算した。平面方向については、4辺の寸法変化を測定し、その平均値を結果とした。垂直方向(膜厚方向)については、面内の3点の寸法変化を測定し、その平均値を結果とした。
【0102】
(乾湿サイクル耐性の評価)
約6.5cm×6.5cmにカットした高分子電解質膜のサンプルを準備し、これの両面にシリコンパッキンおよびガス拡散層(SGLカーボン社製)を載せて試料を作製した。この試料を市販の日本自動車研究所(JARI)標準燃料電池セルに組み込み、8本のねじを使用して4N・mの締め付け圧で固定した。このセルに窒素ガスで0.2MPaの圧力をかけ、15分間圧力が低下しないことにより漏れがないことを確認した。特性評価では、セルの片側に水素、反対側にアルゴンを30ml/minの流量で流した。それぞれの気体は80℃で乾燥状態(0%RH)および湿潤状態(100%RH)を2分間ずつ保持しながら交換し、乾湿サイクル試験を行った。3サイクル毎にガスクロマトグラフにより高分子電解質膜を通してアルゴン側に透過した水素量を定量した。破膜により水素透過係数の急激な上昇が始まるまでのサイクル数を結果とした。
【0103】
(使用したガラス不織布)
表1に示す特性を有するガラス不織布を調製し、使用した。
【0104】
【表1】
【0105】
(製造例1)
温度計および攪拌子を備え付けた500mLの3つ口フラスコに、4,4−ジクロロベンゾフェノン(75g,300mmol)、30%発煙硫酸(400g,1.5mol)を加えた。130℃に加熱し、6時間攪拌を続けた。室温まで冷却した後、反応液を氷水に少しずつ加えた。NaOH水溶液を加えて中和した後、析出した白色固体を濾過により回収した。減圧下、105℃で乾燥することにより、下式に示すスルホン酸基含有モノマーを112g得た。
【化12】
【0106】
(製造例2)
還流管とDeanStark管を取り付けた500mLの4つ口フラスコに、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン(31.6g,110mmol)、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン(21.4g,100mmol)、炭酸カリウム(20.7g,150mmol)、ジメチルアセトアミド(200mL)、およびトルエン(50mL)を加えた。混合物を170℃に加熱し、生成した水を除去しながら35時間、攪拌を続けた。4,4’−ジクロロジフェニルスルホン(0.5g)を追加し、さらに5時間攪拌した。混合物を、濾紙を用いて濾過し、過剰の炭酸カリウムを除去した後、濾液を500mLのメタノールに注いで、生成物を再沈殿させた。生成物を減圧下、70℃で4時間乾燥させた後、500mLの純水で、60℃で2回洗浄、さらに500mLのメタノールで60℃で1回洗浄し、減圧下、70℃で一晩乾燥させ、下式の疎水部オリゴマーを41.5g得た。GPCによる分子量はMn=5,400、Mw=13,900であった。
【化13】
【0107】
(製造例3)
メカニカルスターラー、還流管、DeanStark管を取り付けた1Lの4つ口フラスコに、製造例1で得られたスルホン酸基含有モノマー(24g,52.7mmol)、製造例2で得られた疎水部オリゴマー(16g)、ジメチルスルホキシド(480mL)、およびトルエン(120mL)を窒素雰囲気化に加え、170℃に3時間加熱して、共沸脱水した。170℃でトルエンを留去した後、80℃まで冷却し、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(20g)を添加し、そのままの温度で2時間攪拌した。反応液を700mLのメタノールに注いで再沈殿させた後、固形分を6N塩酸(600mL)で2回洗浄し、さらに純水で、洗浄液のpHが7になるまで繰り返し洗浄した。固形分を減圧下、105℃で一晩乾燥し、下式の高分子電解質(33.2g)を得た。当該高分子電解質を、粉砕機を用いて微粉とした後、塩化メチレンおよびメタノールで洗浄し、ジメチルスルホキシドに溶解して、固形分濃度が約12%の高分子電解質溶液を得た。得られた高分子電解質は、比較例1に示すように、単独で製膜し、その分子量をGPCで測定したところ、Mn=85,100、Mw=177,000であった。また、イオン交換容量は、2.06meq./gであった。
【化14】
【0108】
(
比較例3)
ガラス板上に、製造例3で調製した高分子電解質溶液をバーコーターにて塗布した。塗布膜の上に、表1のガラス不織布A(11cm×10cm)を、泡が混入しないように静かに置いた後、再度、製造例3の高分子電解質溶液をバーコーターにて塗布した。得られた複合膜を、ガラス基板に塗布したまま、ホットプレートを用いて120℃で12時間乾燥した。膜をガラス板から取り外し、6N塩酸、続いて蒸留水で洗浄し、表面の水をふき取り、60℃で30分乾燥することにより、高分子電解質膜Aを得た。高分子電解質膜Aの厚さ、イオン交換容量、膨潤率を、上述の方法により測定した。結果を表2にまとめた。
【0109】
(実施例2
、6、7
および比較例4〜6)
ガラス不織布B〜Gを用いる以外は、
比較例3と同様にして、高分子電解質膜B〜Gをそれぞれ得た。高分子電解質膜の厚さ、イオン交換容量、膨潤率、および乾湿サイクル耐性を、上述の方法により測定した。結果を表2にまとめた。また、高分子電解質膜Fの乾湿サイクル耐性試験の結果を
図1に示す。
【0110】
(比較例1)
製造例3の高分子電解質溶液を用い、ガラス不織布を使用せずに、電解質膜を作製した。厚さ、イオン交換容量、膨潤率、および乾湿サイクル耐性を、上述の方法により測定した。結果を表2にまとめた。また、乾湿サイクル耐性試験の結果を、高分子電解質膜Fと比較して
図1に示した。
【0111】
(比較例2)
ガラス不織布Hを用いる以外は
比較例3と同様にして、高分子電解質膜Hを得た。高分子電解質膜の厚さ、イオン交換容量、膨潤率、および乾湿サイクル耐性を、上述の方法により測定した。結果を表2にまとめた。
【0112】
【表2】
【0113】
各実施例においては、ガラス繊維
の平均径が1μm以下のものと、平均径が1μmを超え10μm未満のものとを混合したものであり、かつ
エポキシ系化合物バインダーで処理されているガラス不織布を使用している。比較例1は、ガラス不織布を用いない非補強膜である。比較例2では、ガラス繊維の平均径は1μm以下のものを使用しているが、バインダーによる表面処理がされていないガラス不織布を使用している。各実施例の高分子電解質膜は
、比較例
1〜6に比べ、改良された耐膨潤性、および乾湿サイクル耐性を有することがわかる。